CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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☆(さよならピアノソナタと神様のメモ帳を知ってる方向けの)前書き☆

・この章は神様のメモ帳(とさよならピアノソナタ)とクロスオーバーしています。ただし、都合により原作9巻が無かった世界線のお話です。原作8巻終了時点が3月なので、それから4か月ほど経ってるけど探偵団が健在な設定です。
・原作4巻ではフェケテリコというバンド名を名言していませんが、アニメとさよならピアノソナタの内容から確定で間違いありません。なので、『クロウタドリではなく、黒つぐみをモチーフにしている、響子と千晶だけが正メンバーのフェケテリコ』という設定で、4巻にあった連続ライブを翌年も開催することになっています。それに巻き込まれるお話ですね。フェケテリコのメジャー進出は響子が20歳時、だと認識してるので、そこまで酷い食い違いにはなってない、と願っています。
 ちなみに、少なくとも千晶と橘花は番外編に登場させます。直巳が登場しないことだけは確定しています。理由は面倒くさいから。
・原作は探偵ものですが、この話にはミステリーや推理要素はありません。
・本編のみで約10万字、約4000字×25話編成の予定になります。


野音ライブと配信準備と愉快なニート達 ~天使の救い、神様のメモ帳~
イントロダクション ライブオファーを運ぶ黒つぐみ


 ✿         ✿         ✿

 

 ——そんな私の心を 見透かしたみたいに

 意地の悪い神様は、プレゼントを持ってきた。

 きっと一生、忘れることなんでできそうにない

 私にとっての、運命の出会い

 

 『雨にそよいで晴れを請う』より

 

 ✿          ✿         ✿

 

 そよside

 

 7月8日

 

 フェケテリコという、インディーズ時代から大人気な女子大生ガールズバンドがある。どれくらい凄いかというと、去年都内で行った5夜連続ライブのチケットば、予約開始早々完売するくらいだった。

 それから1年近く経って。ついにメジャー進出を果たした、まさに飛ぶ鳥を翼で叩き落す勢いなバンドのリーダー、神楽坂響子さんが。

 ただの学生バンドである私たちCRYCHICの楽屋に訪れたところから、色んな意味でとんでもない夏が始まった。

 

 「今年も連続ライブをするんだ。丁度1か月後に、今度は配信付きでね。よければきみたちも出ない?」

 

 長い黒髪を尾羽みたいに束ねた響子さん(気安過ぎるけど本人の希望で名前呼び)は、凛々しい目つきと艶やかな笑みで私たちを見つめてくる。何も難しいことは言われてないはずなのに、私は何を言われてるのか理解できなかった。

 

立希「な、なんで私達……あ、あぁ! 裏方スタッフとして、ってことです、かね?」

睦「……もしくはバックバンド? いや、そんなのフェケテリコの邪魔するだけ……」

 

 2人は実力派としてのし上がった響子さんの登場に一番色めきだっていた。だからこそ私と同じで、素人がプロの集まりに迷い込んだような愛想笑いをしている。

 でもフェケテリコの活躍も、メジャーバンドに臆することも、両方知らないさきちゃんと。無知で無垢なともりちゃんによって、私たちは置いてけぼりにされる。

 

祥子「ライブで(わたくし)たちの曲を演奏する以外の意がありまして?」

響子「まさにその通りだね。あとステージは野音で考えてるんだけど、きみたちもそろそろ夏休みだろう?」

燈「確か、2週間くらいで……」

響子「できれば現地で配信準備を手伝ってもらいたいんだ。ウチは夏フェスの準備で手が回らなくてね」

そよ「いやいやいやいやいや! ちょっと、ちょっと待ってください!」

 

 私は両手を突き出して、どんどん進んで行く話をせき止める。その腕に、両隣のたきちゃんむつみちゃんがしがみついてブンブン頷く。「いきなりで混乱させてしまったかな?」なんて蠱惑的に微笑む響子さんの声すら耳に遠い。

 えーっと? めちゃくちゃ売れてるメジャーバンドのライブに、私たちが出演する? しかもステージは野音って、キャパも格も今日のRingと比べ物にならないんですけど? 他にも何かある気がするけど整理が追いつかなかった。

 左右からものすごい圧の視線を感じる。無難に対応しろ、という訴えに応えるため、私は咳払いして一番大きな謎から訊ねる。

 

そよ「とても光栄なお話ですけど……ひとまず、どうして私たちにお声をかけられたか教えて頂けますか?」

響子「そうだね。まず何と言っても、きみたちの可愛さに心臓を射止められてしまったからさ」

そよ「あ、あははっ、ありがとうございます。それで本題の方は……」

響子「いや、お世辞じゃないんだ」

 

 ここに来て捕食者のような眼になった響子さんが、どこか危うく感じる。

 

響子「そろそろ年上のご令嬢にも飽きてきた私は、きみたちの五者五様な可憐さに一目惚れしてね。この箱には気紛れで足を踏み入れたんだが、まさに運命としか言いようのない出逢いで……おっと、今はツッコミ役の同士相原が不在だ。本音はこの辺で自重しよう」

そよ「じょ、冗談とかじゃないんですね~」スッと本題に入ってくれませんかね。

響子「きみたちが疑問に思っているのは、なぜ大した数字も実績もない学生バンドにオファーしてきたか、だろう?」急に核心突かれても困りますって!

 

 もの凄い緩急に頭がクラッとした。せっかくの美人が台無しな戯言を忘却し、メンタルと姿勢を立て直す。

 

響子「その辺りが欲しいなら、そもそも余所と共演する必要がない。どちらも自分たちで出せるからね。求めるとすれば、今の私たちにないもの。それをさっきのライブから感じたんだ」

祥子「どのようなものでしょうか?」

 

 自然体のさきちゃんと違って、私たち3人は固唾を飲んでいた。私たちのどこがメジャーバンドに認められたのか、気になり過ぎる。

 そんな力みは見え見えだったみたいで、響子さんが笑って答える。

 

響子「言葉にすると逆に見失ってしまうものがある。今まで通りきみたちらしく()ってくれれば、それで十分だよ」

祥子「なるほど。私達が変に意識し過ぎないためのご配慮、痛み入りますわ」

 

 響子さんが訪れる直前まで「なっつやっすみっ! なっつやっすみっといえば、プー・ウー・ル♪」なんてリズミカルにミュージカルしていたさきちゃんが、まるで聡明なご令嬢みたいに受け答えをしてくれる。

 でも結局、どこがお眼鏡にかなったのか分からなかったな。なのにライブ出て盛り上げます! となるだろうか。たかだか数百の箱でファンを微増させてるバンドが、何を根拠に? フェケテリコの本格ハードロックで耳の肥えた何千というファンから、雹みたいな視線を浴びせられて氷漬けにされるイメージしかできない。青い顔しているむつみちゃんとたきちゃんも同じだろう。

 そんなプレッシャーに襲われて、私はとりあえず持ち帰る、と逃げの返答をしかけた。

 その前に、綺麗な声が明るく弾ける。

 

祥子「私、いつか日比谷野外音楽堂()()演奏したいと思っていたんですの! しかもうってつけな夏に叶えられるなんて、想像しただけで燃えてきますわね!」

 

 あぁ、この子は本当に、いつだって前向きにエネルギッシュで。言い方を変えれば向こう見ずなんだから。

 両隣から肘打ちされる間でもなかった。私は、響子さんへズイッと1歩踏み出したさきちゃんの肩をおさえる。

 

そよ「さ、さきちゃん待って。いきなりな話だし、一度話し合ってからでも……」

祥子「何を悠長なこと言ってますの、本番までもう1か月しかありませんのよ? 迷ってる間に時間切れの可能性もあるのでは?」

響子「それは否定できないね」

 

 苦笑いの響子さんにそう同意されて、やっぱり出演したくなったけど時既に遅し、というやるせない展開をつい想像してしまう。出演という択を覆い隠す怖気が消え、今度は2択を前に右往左往する私。

 その迷いが晴れたのは、我らがリーダーの、規格外なセリフだった。

 

祥子「それにっ! 武道館と比べたら、たった5分の1ですのよ? 何を怖気づく必要がありまして!?」

 

 私たちは開いた口が塞がらなくなってしまう。

 武道館というワードで思い出すのは、結成してから間もない頃の、電車に乗っているときの会話。

 あのときの夢を、さきちゃんは本気で目指してるわけじゃない。それさえ成し得る私たちの可能性を信じてるんだ。そんな彼女の笑顔には、昔バンドへ誘ってくれたときと同じ輝きが溢れていて。

 既視感を覚える。運命が変わりそうな、キラキラした予感。気づけば私の頬は緩んでいた。

 きっと今度も喜び合える。そんな未来を信じられた。

 

祥子「まぁ? 立希が怖くてどうしても出たくないと言うなら、仕方ありませんが?」

立希「ムカツク煽りしなくても馬鹿妄言でふっきれたよ、おかげさまでね。睦」

睦「……分かってる。私は昔からずっと、祥に引っ張ってもらう役だった。もう大丈夫」

そよ「ともりちゃんも、大丈夫?」

燈「? みんなでライブする、って話、だよね? 今日と同じ、じゃないの?」

立希、睦、そよ「う~~~ん……」

 

 それはその通りなんだけど。そう簡単にはいかない重圧は、私たちとのライブ以外に疎いともりちゃんには分かってもらえないだろうな。

 だからこそ、怖い物知らずな作曲担当と相性が良い。

 

祥子「それでこそ我がCRYCHICが誇る作詞担当にしてフロントですわ、燈!」

響子「あぁ、やっぱりきみが詞を書いていたんだね」

燈「やっぱり?」

響子「きみたちのバンド名は、上品な……いや、洗練された叫び、といったところだろう?」

 

 私たちに目をつけてくれた人の所感は、CRYCHICがCRYCHICたる所以にかなり肉薄したものだった。

 

響子「つまり、想いのことだ。ボーカルがバンドの想いを代弁し、そんな彼女を楽器隊が支える。ライブからそんな連帯感を感じたよ。感情を込めることに特化した歌い方は、それ故だろう?」

燈「代弁……できてる、のかな」

祥子「勿論ですわ!」立希「燈の叫びが、私達の叫びだよ」睦「……最初からそうだった」そよ「だから信じて大丈夫♪」

響子「そんな音楽に、きっと大勢の心が洗われる。……きみたちくらいの頃を思い出した私のようにね」

 

 メジャーバンドマンとして、年上の女性としてずっと余裕に満ちていた笑みが、この一瞬だけ、陽の光に目が眩んだみたいな微笑へと翳る。これがさっき言ってた、フェケテリコにないものかな。

 

響子「いや、今のは余計だったね。誰が何を求めてるとか気にせず、きみたちの音楽を思う存分ぶつけて欲しい。その先に大歓声の三千世界あると、私は信じているよ」

祥子「必ずや応えてみせますわ。容姿云々ではなく、私達だけが奏でられる音楽で観客を沸かせると!」

立希「大きく出たな。……まぁ、それくらいじゃないとフェケテリコと野音に釣り合わないか」

睦「……更に配信付き。どれだけの人に見られるんだろう」

燈「そういえば。その配信の、準備? は、どうするの? 何するか、わからないけど……」

 

 そういえばその話もあった。とんでもない情報量に埋もれて気にする余裕もなかったけど、配信なんてやったこともない高校生の私たちが役に立てるのかな。

 

響子「ステージで演奏して、音響やカメラのチェックに付き合ってくれればいい。要はリハーサルさ」

睦「……なるほど。でしたら問題ないです」

祥子「えぇ。素晴らしい機会をくださったお礼のためにも、誠心誠意務めさせて頂きますわ」

響子「ありがとう。期待しているよ、CRYCHIC」

 

 響子さんはさきちゃんと連絡先を交換した後、楽屋から出ていく。黒髪を靡かせる後ろ姿がドアで遮られてから、とんでもないことになっちゃったな、としみじみ息をつく。

 でも、私たちは大舞台へ飛び立つ黒鳥の背中にもう乗ってしまった。大事な役割も預かってしまった。

 こうなってしまったからには、もう当たって砕けるだけ。私たちは誰からともなく円になる。景気付にいつものをやらないと収まりがつかないからね。

 私たち4人の視線を受けて、さきちゃんが熱く晴れやかな太陽の笑みを湛える。

 

祥子「今までにない大きなステージ。さらに全世界への配信付きで、その準備という大役を任されました」

睦「……しかも、めちゃくちゃ人気なメジャーバンドとの共演」

立希「言葉にして並べると半端じゃないな」

そよ「でも成功させたらすごいよ! せっかくだし、衣装も凝りたいよね♪」

燈「配信も、フェケテリコも。どれだけ凄いのか、よく分からない、けど。みんなと一緒なら、きっと私は、頑張れるから」

祥子「やりますわよ、CRYCHIC! 幾千万という観客と視聴者へ、私達の洗練された叫びを届けて魅せます。まずは配信準備を無事にやり遂げましょう!」

4人「おぉー!」

 

 楽屋に気合の入った掛け声が響く。

 かくして。色んな人たちと関わって翻弄された、野音ライブの配信準備に繋がるのだった。

 




※後書き※

高一の夏休みに、メジャーバンド『フェケテリコ』の野音ライブへ出演することになったCRYCHIC。
その配信準備作業を手伝うことになったのだけど、最中に色とりどりの無職(ニート)達と絡むことになる。さらにライブ準備の裏では、去年もあったらしいやくざ騒動が蠢いているらしく……。
大切な人の遺物に狂う復讐者。血よりも濃い繋がりで、血を流し合った無二の友達。見た目は子ども、真実は引きこもり探偵なニート少女。様々な想いで紡がれる至福と絶望の雛型が、巻き込まれながらも乗り越えたバンドによって、洗礼された心の叫びへ昇華する——!
情けなくておかしくて、ほんの少し救いのある、青春ニートティーンストーリーとのクロスオーバー。
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