祥子が懐中電灯を持って先導し、5人は林の中を歩いていく。
道中、バササッ、ガサガサという音に燈と立希が縮こまりながらそよにしがみつく。
5分ほど歩くと、林を抜けて開けた広場に出た。
祥子はその広場の中央あたりにあるウッドデッキを指差す。
祥子「着きましたわ。あそこに座りましょう」
燈「こ、こわかった……」
立希「夜の林舐めてた……。街灯みたいな光ないからめちゃくちゃ暗いし。なんかガサガサ音するし……明日の朝とかでもよかったんじゃないの?」
そよ「2人とも、ここはそんなに暗くないし落ち着こ? でもさきちゃんも、どうしてここに連れてきたの?」
睦「…………」
話しながら横並びで座る5人。(端から祥子、睦、燈、立希、そよ)
祥子は仰向けに寝転びながら答えた。
祥子「上ですわ」
倒れたまま空へ腕を伸ばして指さす祥子。4人は言われるがまま上を向いた。
そこには星々が空一面を埋め尽くしていて、地元の都会じゃまずお目にかかれない輝きに満ちていた。
燈「うわぁ……!」
そよ「すごい! 星がこんな綺麗に見えるなんて……!」
立希「……凄い。本当にこんな夜空があるんだ……」
睦「……うん……」
祥子「喜んでもらえたようで、良かったですわ。私のお気に入りの景色を、みんなと共有することができて……」
立希「明日には帰るから、見るなら確かに今しかなかったな。これ見逃すのは流石にもったいない」
燈「……私、星が好きで……よくプラネタリウムに行ったり、するんだ……」
そよ「へぇ、そうだったんだ。でもなんとなく納得かな?」
燈「そ、そっか。えへへ……」
祥子(昔この星空を一緒に見たあの子を思い出しますわね。気が合いそうですわ)
5人とも仰向けになり、しばらく黙って星空を眺めていた。
最初に静寂を破ったのは、燈だった。
燈「……こうして、みんなと星を見てると。歌詞、思いつきそう、かも……」
立希「マジ? 新曲の歌詞!?」
そよ「こんな素敵な星空見てともりちゃんが書く歌詞だもん。春日影に次ぐ、新たな名曲の誕生の予感だね~♪」
立希「は? 燈の書いた歌詞なら全部名曲だから。……でも、この星を見て作るなら、なおさら期待しちゃうな」
燈「た、立希ちゃん、ハードルあげないでよ……」
祥子「大丈夫ですわよ、燈なら。いつものように、思った通りに書いてくださいませ? それで十分、いいものができますわ」
燈「祥ちゃん……ありがとう。書けたら、見せるね」
睦「……」
睦も何か言おうと口を開きかけるが、バンド練直後のやり取りを思い出して、結局何も言えずに黙った。
立希「てか祥子。次のライブどーすんの?」
祥子「もちろん考えてますわ。新曲を作るなら、それが出来上がって練習も十分詰めた頃にライブができるといいのですけど」
そよ「私もこれから開催されるライブイベント、調べてみるね。だいたい1、2か月後ぐらいが目安かな?」
祥子「そんなところですわね。宜しく頼みますわ、そよ」
燈「わ、私も、頑張って書かなくちゃ……」
立希「燈、気負ったら逆効果だから。祥子が言った通りいつも通り書いてよ」
そよ「でも楽しみだね、次のライブ! 前のライブも凄かったな~♪」
立希「あぁ、燈の歌が最高だった!」
祥子「燈だけではありませんわ。みんなの演奏もよかったから、あれだけのライブができたんですもの。最高に楽しかったですわ!」
睦(……『楽しかった』……)
そよ「うん! 今日の練習も、特にラストの合わせはバッチリだったし、次もきっといいライブになるよ!」
睦(…………バッチリ?…………)
そよ「むつみちゃんも、楽しみだよね? 次のライブ!」
睦だけ会話に混ざれてないことにそよが気づいて話を振る。みんなも睦の返事を待った。
睦「…………」
だがしばらく待っても睦から何も反応がない。
そよ「むつみちゃん? どうかしたの? もしかしてまだバーベキューの辛さ残ってる?」
そよが体を起こし睦の方を見る。睦は首を振るだけだった。
祥子(なんとなく予感、いえ想定してましたが。やはり睦……)
立希「睦、どうかした? バンド練終わったときも変だったけど……」
立希(……って考えなしに踏み込んだらマズいか。……でもこいつ、口数少ないやつだし。放っといたら絶対黙って抱えて、1人で悩んで……クソッ、嫌われようが知ったことか!)
立希「お前、もしかしてバンド——」
睦「……ッ!」
燈「わ、私ッ!!」
立希の声を遮るように、燈にしては大きな声が勢いよく響きわたる。
辺りは虫の鳴き声しかないような静けさだから、余計に大きく聞こえて4人はただただビックリした。
燈も思ったより大声になったことを恥ずかしがってボリュームを下げつつ、話し続ける。
燈「……私……前のライブのこと、あんまり覚えてない……」
そよ「う、うん。ライブ終わったときもそう言ってたね」
燈「あのときは夢中で歌って、歌い終わってたら歓声がすごくて……自分の呼吸がやけにうるさくて……ドキドキしてた。なんか、夢でも、見てるみたいで……。これが本当のことなのか、わかんなかった……あんなこと、想像もしたことなかったから……」
祥子「……燈には、そう映ってたんですのね……」
燈「だ、だから……私、楽しいって、思えなかった。ただあの瞬間に精一杯で、そんなこと思う余裕もなかった。今日の、練習だって……最後までみんなの足引っ張んないように、置いていかれないように……って。ただ必死だった……」
立希「……ッ! 燈の歌はッ——」
そよ(たきちゃん!)
立希がたまらず口を挟みかけ、隣のそよが小声で制した。
燈「今も正直……歌うのって、好きってほどじゃ、ない……。でも! それでもCRYCHICのボーカルでいたい! 好きじゃなくても、楽しいって思えなくても! CRYCHICのみんなと、一緒にいたい……! みんなと一緒に、進んでいきたい……!」
睦「…………」
星空を見上げながら、燈の必死の言葉を聞く睦。
嘘も打算もない、純粋な心の訴えに。
睦の、怖れで強張っていた心は少しずつほぐれていく。
睦(楽しくなくても、一緒にいたい……)
睦は体を起こした。
いつもの無表情だが、意を決したような必死さが滲んでいた。
睦「私……バンドが楽しいなんて、一度も思ったことがない」
ついに言ってしまった。
友達が少ない睦でも、これを言えばどう思われるかぐらい何度も想像していた。
それでも続ける。燈に応えるために。
睦「でも……CRYCHICにいたい。祥と、そよと、立希と、燈と……一緒にいたい。祥から誘われたから入ったバンドだけど……抜けたくない。楽しいと思えなくても、一緒に続けたい……」
祥子「睦……」
気遣わしげな祥子も含めて、誰も言葉をかけれない。
睦は言いたいことを言えたので黙った。
睦(……でも、やっぱり不安。みんなに嫌われたら、どうしよう……)
今まで、特にこの2日間で親しくなった関係が壊れる恐怖に、睦は俯きただ待つことしかできなかった。