CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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【8月イベント】歓騒満腹な花火大会
1番 1人の花火鑑賞、みんなと花火大会


 

 

 ※ ※ ※

 

 花火大会。火薬が詰まった玉を夜空に打ち上げ、色のついた爆発を起こす催し。金属と火による炎色反応は雅で煌びやかだから、夏の風物詩として鉄板となっている。

 そんな花火大会には、尋常じゃない数の人が集まるらしい。だから人混みはゴミで溢れる川みたいに流れが悪いし、慣れない着物にも苦労させられるから、大変疲れるイベントなのだとか。

 なぜこうも曖昧な言い方になるかというと、私はそんな苦痛もなく花火を見れてしまえたから。自分の家が都心の高層マンション最上階だから、リビングからちょっと歩いてバルコニーに出るだけで、私専用の穴場を独占できちゃう。

 そう、いつも独占だった。1人で、無感動に、遠い空に浮かぶ模様を見てるだけ。仕事で忙しいお母さんが一緒に見れるわけがない。家に呼ぶ友達もいなかった。だから、静かで、気楽で、つまらない時間。流行っている動画を見たけど、何が面白いのか分からないような虚無感。

 

 でも、花火大会に行ったクラスメイトたちは「凄かったね!」と楽し気に話していた。ドラマとかで花火を見上げるシーンでも、決まって良い表情をしている。だから私は、しんどい思いしてでも真っ当に花火を楽しむ人たちが羨ましかった。いつか私も、仲の良い友達と近くから花火を見上げたいと、夜空に打ち上がる炎色反応を見る度に思った。

 

 そんな憧れからの願いは、想像を遥かに超えた衝撃を受けながら叶うことになる。

 

 知らなかった。会場近くから見上げる花火は、遠くから見渡すそれとは、受ける刺激が全然違うなんて。

 初めて知った。大切な友達と見上げる花火は、1人で遠巻きに見ていたものとは全く別物なんだって。

 全身で花火という爆発を感じながら。私はその光景を心に焼き付ける。

 これからも、まだ知らない感動を分かち合っていくだろう大切な仲間達を、傍に感じながら。

 風に乗って微かに香る焦げ臭い匂いさえ、一生覚えていられるように。

 

 ※ ※ ※

 

 8月の夕方。太陽もだいぶ傾いた時間帯なのに、未だにモワッとした熱気がこもっている頃。

 私たちCRYCHICは、池袋駅に集合した。今日は花火大会、もちろん全員浴衣姿である。

 寂しい在宅花火鑑賞ではまず縁の無い装いがみんなとできて、早速花火大会の実感が湧いてくる。意気揚々とスマホを取り出し、みんなの珍しい出で立ちをカシャリと撮った。

 

そよ「みんな浴衣似合ってるねー。ともりちゃんとたきちゃんは、レンタルしたお店で着付けしてもらったんだっけ?」

燈「う、うん。家で上手に着れる自信、なかったから……」

 

 おずおずと答えたともりちゃんは、淡い青の浴衣に黄色の帯をしていた。浴衣の星を思わせる幾何学模様は彼女の不思議な雰囲気と調和してるし、帯の青白い紫陽花の花飾りがさりげない可憐さ引き立てている。灰色の髪には珍しく付けている白いカチューシャが映えていて、彼女を完璧に活かすオシャレ具合に感心してしまった。

 

そよ「ともりちゃんセンスあるね。そんなに似合ってる浴衣選ぶなんて」

燈「えっと、これは……」

立希「私が選んだ。だから似合ってて当然」

 

 キリッとした真顔で偉そうに主張するたきちゃんは、紺地の白と紫な百合柄浴衣に銀灰の帯を合わせていた。大人っぽい凛々しさを醸し出しながら、後ろ髪をお団子にしてまとめてるたきちゃんは、普段にない可愛さもあって女の子として魅力に富んでいる。

 でもまぁ、彼女に「髪お団子にしてて可愛いね♪」なんて言っても絶対喜ばないだろうな。と思ってたら、あえて言ってあげる構いたがりな子が1人。

 

睦「……立希。その髪型自分でやったの? いつもと違った感じで可愛いね」

立希「は? これは店員が勝手にやったんだよ。……ていうか可愛いって言葉、私に似合わないし。どーせ使うなら、まだ睦の方がマシでしょ」

睦「……マシ?」

 

 無表情のまま眉をひそめるむつみちゃんの浴衣は、優しいレモン色の地に、淡い緑と白い梅の花柄が散りばめられている。彼女の誕生月頃咲く花をあしらっているところに個性を感じるけど、一番目を引いたのは真緑一色なんて大味な帯。それを優しい黄色の浴衣に合わせて違和感なく着こなすのは、流石人に見られるのが仕事な元芸能人所以だろうか。

 その、テレビにも出れるほどの可愛さを持つむつみちゃんは、どうやら少し不機嫌らしい。少し目を細めながらたきちゃんに詰め寄る。

 

睦「……マシって何? 照れ隠しにしても酷い」

立希「照れてないしっ!」

祥子「嘘おっしゃい! ちょっと顔赤いじゃありませんか! そのくせ、私の可愛い幼馴染になんて言い草ですの!」

 

 頬を膨らませてプリプリ怒るさきちゃんの浴衣は、白地に涼やかな青の朝顔が咲き乱れている。深い藍色の帯には金色の飾り紐がゴージャスさを醸し出して、それはそれで令嬢としてのさきちゃんらしさはあるのだけど。

 いつも明るくエネルギッシュなさきちゃんは、夏が好きなんだと思う。だから、夏に咲く朝顔の浴衣を着たんじゃないかな。夏に関係ない花柄のむつみちゃんと違いが合ってちょっと面白いし、とことん夏に染まろうとするさきちゃんは本来のらしさが大いに出てて納得しかしなかった。

 そんな彼女は今、たきちゃんとギャーギャーと言い合っている。いくらさきちゃんは熱くなりがちと言っても、変な方向にヒートアップはよろしくない。私は宥めにかかった。

 

そよ「そこまでにしてあげようよ、さきちゃん。たきちゃんの捻くれたツンデレなんて今更でしょ?」

祥子「それもそうですわね」

立希(ツッコムな、私。これ以上追求されんのも面倒だし……)

祥子「それにしても、そよも素敵な浴衣を着てきましたわね」

燈「うん。向日葵が、そよちゃんによく似合ってて、可愛いね」

そよ「ありがと、2人とも♪」

 

 ニッコニコに返す私は、白地に鮮やかな向日葵をあしらった浴衣を着ていた。こげ茶色と白のコントラストな帯には銀花のアクセサリーがシックな味を出していて、そこまでセットで気に入っている。そもそも、私は華やかで太陽のエネルギーに満ちた向日葵が好きだった。なんとなく、太陽の昇る東側しか見なくなる、一途なところに惹かれていた。でもこれを言うと重いって揶揄われそうだから、ともりちゃん以外には言わないようにしよう。

 さて、私が一途に愛してるCRYCHICの浴衣姿をじっくり楽しんだところで。そろそろ次に参りましょうかね。花火大会のお楽しみは、浴衣や花火だけじゃないんだから。

 

そよ「そろそろ会場の方に行こうよ。出店、回りたいでしょ? さきちゃん」

祥子「出店! お噂をかねがね聞き及んでますわよ、食べ物や遊びを堪能できるお店ですわよね!」

立希「まぁ、出店なんて庶民感溢れるもの、いかにも祥子お嬢様が飛びつきそうだわな」

睦「……立希よりマシな可愛さの私も、興味がある。お面屋は必ず行きたい」

立希「まだ根に持ってるし。てかなんでお面屋?」

燈「私は……りんご飴、食べたい」

祥子「りんご、あめ? 燈、りんごあめとは何ですの? 林檎なのか飴なのか、気になりますわ!」

そよ「はいはい、行けば分かるよー」

祥子「ではCRYCHIC、出発! 気になる出店は、片っ端から制覇しますわよ!」

睦「……おー」燈「お、おぉー」そよ「本命は花火だけど、おぉー♪」立希「はいはい、付き合ってやるから。おー」

 

 さきちゃんの元気一杯な号令に、いつもの調子で付き合う4人。こうして、私たちの花火大会は始まった。

 




*後書き*

立希の誕生日をなぜだか8月30日だと思ってた。せっかく4人とも誕生日にお祝いイベントあげれたのに、立希だけ逃した……最悪。
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