CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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2番 ドタバタ騒ぎな出店周り(序曲)

 

 

 徐々に人通りが増えていく道を5人で歩いていると、軽やかな下駄の音に調子の良い祭囃子が混じり始める。

 やがて通路が人で埋め尽くされるほど賑わっている出店通りが見えてきた。数えきれない種類の露店、ワイワイ盛り上がっている喧噪、見かける服装がいつもと違って和装ばかり。まさに想像通りの夏祭りで、見てるだけで楽し気な気分になってくる。

 私ですらそう思うのだから、楽しいお祭り騒ぎ大好きなじゃじゃ馬お嬢様が落ち着いていられるはずがなかった。

 

祥子「凄い盛り上がりですわ! これが花火大会ですか……! こんなに多くの人たちが集まる催しなんですのね!」

 

 キョロキョロ辺りを見回すその目はキラッキラに輝いていらっしゃる。興奮した声色も相まって、私は早速嫌な予感に駆られた。

 

立希「まぁ結構大きな花火大会だし、こんなもんでしょ……って祥子、何勝手に1人で動き回ろうとしてんの!」

祥子「だってだって! 普段見ないような食べ物がたくさん……あっ、あれは!? たくさんの商品と銃が置いてあるあのお店は、一体……!?」

そよ「ストップ、ストップさきちゃん! あんな人だかりに1人で混ざったらはぐれちゃうしょ!」

 

 人でごった返してる雑踏に突貫しようとするわんぱく少女を、たきちゃんと両側から掴む。全く、これだから庶民の行事に馴染みのないお嬢様は……。

 もうこの小学生並みに落ち着きの無いお嬢様の手を握ってるべきかな。そこまで子どもじゃないって、信じたいけどなぁ。

 お願いだから、みんなで来てるってことを弁えて欲しい。

 

睦「……まったく。祥は高校生にもなって、お子様なんだから」

立希「ホントだよ——待て睦。いつの間にかお面つけてるお前は人の事言えないよね? しかもなんでそれ選んだんだよ。……はぁ、ツッコミ所が多すぎて、全部拾うのもめんどくさい……」

 

 むつみちゃんの横顔には、さっきまでなかった能面のお面がついていた。私は思わず額に手を当てる。暴走しそうなさきちゃんに気を取られてたら、別の問題児にやらかされていて、何だか子どもに手を焼かされるお母さんの気持ちが分かりそう。

 花火大会が疲れるものとは聞いてたけど、着いて早々はおかしくない? というかなんで能面のお面なの? むつみちゃんはそのはしゃぎっぷりで、よくさきちゃんのこと言えたね?

 

睦「……私は一人で突っ走ろうとした祥と違う。ちゃんと燈を連れた」

そよ「そういう問題じゃないよねー? 行く前に私たちにも声かけするのが団体行動の基本だよねー?」

燈「ご、ごめん……」

立希、そよ「燈(ちゃん)は悪くないから」

睦「……燈に甘い勢め……」

 

 いじけたように抗議の目をしてるけど。どうせむつみちゃんが、優しくて従順なともりちゃんを巻き込んだんでしょ? 訊かなくても、ともりちゃんが引っ張られてくシーンがありありと想像できるよ。

 しかし、こんな調子じゃいつはぐれてもおかしくない。私は確かに真っ当な花火大会の楽しみ方を望んでいたけど、要らない面倒事までは御免だった。

 私は『メッ』という顔で4人に言いつける。

 

そよ「いい? 単独行動禁止! 行きたいお店があるときは必ず言ってから行くこと! それができないなら、みんなでおてて繋いで歩くよ?」

立希「それだけは死んでもムリだから! 祥子、睦。分かった? 絶対守ってよ?」

祥子「あのですねぇ2人とも。私を何歳児だと思ってますの? そう念を押されなくても大丈夫ですわよ」

睦「……右に同じ。言って聞かない子ども扱いは、遺憾の意」

燈「1人にならないで、みんなに声かける……ちゃんと、守るね」

 

 一番心配なお嬢様ズは不服そうなのに、1人だけ素直に聞き入れてくれるのがすっごく癒しで心に沁みる。ともりちゃんの気遣うような微笑みは愛おし過ぎた。

 

そよ「もうともりちゃんさえ守れればいいかな。はぐれないように、やっぱり手繋いでようか?」

立希「あぁ、燈となら繋いでてもいいな。3人で固まって回るか」

燈「え、えっと……小さい子じゃないから、大丈夫、だよ?」

祥子「というかさりげなく私達を見捨てないでくださいまし!」

睦「……何なら手を繋ぐのもやぶさかじゃない」

立希「ってなんで私の手掴んでくんの! 本当に繋がないよ恥ずかしいな!」

 

 これ以上ギャーギャー騒いでても仕方ないので、今度こそ私たちはまとまって歩き始めた。

 19時開始の花火までは、事前に話してた通り出店を回る時間。

 けど、迷子対策まで必要なほど人が集まってるから、なかなか思うようには進まなかった。

 

祥子「大変な人混みですわね……数メートル進むのもままなりませんわ」

そよ「あはは……。まぁこれも花火大会に付き物って、諦めるしかないね」

 

 ただでさえ道いっぱいに人がいるのに、出店に並ぶ行列や向こうから逆行してくる人で、流れが非情に悪い。

 人と人の隙間を縫うように進むしか、先には進めなかった。

 

立希「こんなの、歩いてるだけで疲れてくるよ。燈は大丈夫? ……燈?」

そよ「あれ? ……まさか……」

祥子「睦? 睦もいませんわ!」

 

 2人が近くに見当たらない。呼んでも返事が返ってこない。これはきっと、さっきみたいな独断行動じゃない。

 

そよ「人混みにはまってるか、流されちゃってるんだ!」

立希「本当にはぐれるし! しょうがないな~!」

祥子「後ろにいた2人が先にいるとは考えにくいですわ! 戻りましょう!」

 

 通行人を押しのけながら慌てて引き返す私たち3人。名前を呼びながら探してると、幸いにも見つけられた。

 

燈「み、みんな……人に囲まれて、進めない……」

睦「……人混みに、流されていく……」

 

 あっぷあっぷと手を挙げてアピールしてる2人を回収して、ひとまず5人で固まれるところに非難。

 それまでともりちゃんをさきちゃんが、むつみちゃんをたきちゃんが手を引いて守ってあげていた。

 

燈「ご、ごめんみんな……」

祥子「燈は控えめというか、遠慮しがちですからね。人混みから抜け出せないのは仕方ないところもありますわ」

睦「……ごめん。人混みに負けるほどか弱くていじらしい美少女で、ごめんなさい」

立希「睦は全然悪いと思ってないな? せめて手引いてあげた私にくらい感謝してもいいんじゃないの?」

睦「……こんなに可愛い私と、手繋げて嬉しかった?」

立希「今後はお前がはぐれても絶対探さないから」

睦「……嘘、冗談です、ごめんなさい、助けてくれてありがとうございます」

そよ「たきちゃんに見捨てられるのがよっぽど嫌なんだね~」

 

 呆れるやり取りもあったけど、とにかく本格的にはぐれなくて一安心。と、胸を撫でおろしかけたところで、私は新たな問題を発見してしまう。

 

そよ「たきちゃん、浴衣崩れてきてる!」

立希「マジ!? どこ?」

祥子「本当ですわ、立希からは見えづらい箇所ですが。どこか、人のいないところで直しましょうか」

 

 苦い顔してるたきちゃんは店員に着付けてもらったし、別に激しく動いてないのにこうなるんだから。やっぱり普段から気慣れてない浴衣は大変なんだと、改めて実感する。

 

燈「あっ……あの辺りとか、人見当たらないよ?」

睦「……ナイス燈。さっきのお詫びとお礼も兼ねて、私が直してあげる」

立希「これでチャラになるなんて思われても癪だけど。まぁ、礼はいっとく」

 

 こうして私たちは、たきちゃんを囲んだ状態でともりちゃんが教えてくれた場所を目指す。

 確かに、人気のなさそうな場所だった。道から外れた林の中だから、暗くて、目立たない。人気のなさそうな場所というよりは、人の目が届きにくそうな場所、というべきかな。

 ともかく女の子の着替えなんて人に見せられないことをするにはうってつけ。私たちは適切な場所に安堵しながら、一際太い樹の裏に回ろうとして……

 

 若い男女が熱烈に抱き合いながら、それはそれは深い接吻に耽ってるシーンと、遭遇してしまった。

 

5人「…………」

 

 一斉に息を押し殺して固まらざる得ない、恋愛未経験ばかりな私たち。見てはいけないと思いつつ、何故だか目が離せなかった。

 生々しいリップ音と共に、湿度の高い吐息が漏れている。ちょっと歩けば大勢の人達がいるというのに、その背徳感さえ愉しむように、男女は2人の世界に耽溺していた。

 ……なんて、マジマジ観察してる場合じゃなかった。こういうシーンに一番疎く想像もしたことなさそうな不思議少女が、ふらっと倒れていく。さきちゃんが慌てて支えながら、小声で狼狽え始めた。

 

祥子「と、燈っ!? わっ私だっていきなりこんなシーン、本や映画でしか知らないのですから、いっぱいいっぱいなんですのよ!? しっかりしてくださいまし!」

睦「……現実で初めて見た。これが、キス……」

立希「なんていうか……ヤバいな……」

そよ「わ、私たちも、いつか、あんなことするのかな……」

燈「う、う~ん……。子ども、できちゃう……」

立希「それは朦朧とした意識で見てる夢の話だよね!? まさか本当にキスしたら子どもできるなんて認識じゃないよね!?」

睦「……それはそれで、ピュアピュアな燈らしくて、あり」

立希「まぁ確かに……じゃなくて!」

そよ「たきちゃん声大きいって! 見つかっちゃうでしょ!」

祥子「あ、あの……み、みんな……」

 

 さきちゃんが恐る恐るな声色で、指さしてくる。私たちも、恐る恐るその方へ顔を向ける。

 さっきまでお互いしか見てなかったはずの男女が、ゴミを見るような目でこちらを見ていた。

 

女「見せもんじゃないんだけど」

燈以外「す、すいませんでした~!!!」

男「おい! 気絶してるみたいに倒れてる女も連れてけ!」

祥子「は、はいっ、ただいま~!」

 

 私たちは一目散にその場から離れた。 

 林の奥に向かって、ダッシュで男女が見えないところまで逃げる。

 それから、私とむつみちゃんでたきちゃんの浴衣を直し、その間にさきちゃんがともりちゃんの介抱をするのだった。

 

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