着いて早々次々と巻き起こる騒動から切り替えるように、私たちは屋台回りを楽しんだ。
そうこうしてる内に、打ち上げ花火の時間が近づいてきた。そろそろ会場に移動することも考えなきゃいけない。
と、いうところで。むつみちゃんがある提案をあげた。
睦「……穴場を探そう」
祥子「穴場、とは何です、睦?」
立希「普通は満員電車みたいに人が密集した状況で打ち上げ花火見るもんだけど。探せば人がいなくて花火が良く見える、隠れスポットみたいな場所があるんだって。そういうのが穴場」
燈「そっか。そんないい場所があるなら、そこで見たいね」
そよ「うーん、それはごもっともなんだけど……」
そんな都合の良い場所、中々見つからないから穴場、つまり隠れスポットなわけで。
言うは易し。むつみちゃんはどう探すつもりで言い出したんだろう。
そよ「もしかして、事前に調べてきたの?」
睦「……調べてない。今思いついた」
立希「ガクッ。それで今スマホ取り出してググってたんだ……。そんなんで本当に見つかんの?」
祥子「まだ時間はあるんですから、いいのではないですか? 時間までに見つかればよし、見つかりそうになければ諦めて会場に移動しましょう」
そよ「確かにそうかも。今から30分探してもまだ余裕あるしね」
燈「人のいない良い場所を探す……なんだか、秘境探検みたいだね」
祥子「秘境探検! なんて素晴らしい響きでしょうか! 俄然楽しみになって来ましたわ!」
メラメラ燃えるような暑苦しさに、隣のともりちゃんと私は思わず引いてしまった。こんな猛暑の時期にこれ以上暑い思いは勘弁して欲しい。
祥子「睦! まだ見つかりませんの!?」
睦「……落ち着いて、熱血幼馴染。今出たから」
立希「どれどれ……あぁ、いくつか候補あるんだ」
じっとしてられないとばかりに急かすさきちゃんを宥めながら、むつみちゃんはスマホの操作を止めた。隣にいたたきちゃんが顔を寄せて覗き込む。普段揶揄ったり怒ったりといつもじゃれてばかりなのに、自然と密着するくらい2人の間に距離感はないのだ。
睦「……ここから近場の4か所。30分で回れると思う」
そんな仲良しコンビの傍に集まり、私たちも見せてもらう。確かに、出店通りを避ければ一通り見て回れる範囲に集まっていた。
秘境探検とは思わないけど。周りを気にせずゆったり花火を見れる、私たちだけの場所と思うと気乗りしてきた。穴場を見つけて盛り上がった、なんて話もよく聞く。より花火大会らしい思い出になりそうと思ったら、わくわくさえしてきた。
そよ(……わくわく? ちょっとさきちゃんの冒険好きなところがうってない? 私大丈夫?)
燈「そよちゃん。難しい顔してるけど、どうかした?」
そよ「ううん、気にしないで。ちゃんと私を保ってるはずだから、たぶん大丈夫……」
祥子「何の話か分かりませんが。善は急げ、早速穴場探しと参りましょう!」
4人「おぉー!」
かくして、場当たり的に花火の穴場探しが始まったのだった。
スポット① 公園
睦「……会場から程近くて、周りに高い建造物がないから見晴らしも良い」
立希「って、ネットには書いてたんだ」
そよ「高い建造物はないけど、公園の木が画像より育ってて会場方向の空が見えないね」
祥子「空が見えなければ、花火も見えないのではなくて?」
ご尤もな指摘に、早速没になった。むつみちゃんが項垂れる。
睦「……くそぅ。ここには座るところもあるから楽に眺めれるって期待してたのに」
燈「えっと……他に良いところあるかもだから、次行こう、睦ちゃん?」
ともりちゃんの温かい励ましで気を取り直したむつみちゃんは、スマホを片手に次の候補地へと先導し始めた。
スポット② 展望台
背の高い建物を、地上から見上げる私たち。
睦「……打ち上げ花火。下から見るか、横から見るか」
立希「あぁ、そんな映画あったね。見てないけど」
祥子「確かに、展望台からなら横から見えますわね」
そよ「そうだね。花火の時間までに、上階まで昇れたらね」
燈「ねぇ。展望台の入り口から続いてる長い行列、さっきから動かないよ?」
睦「……展望台周りでも会場から近いから、見れなくはないけど。他あたろう」
まぁ、打ち上げ花火を下から見上げるのなんてありふれてるから。高いところから違う眺めを楽しみたいって、考えることはみんな一緒らしい。
「……次こそ穴場でありますように」というむつみちゃんの切なる願いに賛同しながら次へ向かった。
スポット③ スーパー屋上
睦「……なんと。ここのスーパーは、花火のために屋上を解放してくれるらしい。神店」
立希「結構いいサービスじゃん。飲食したい客もいるだろうから、スーパーも儲かるだろうし」
そよ「スーパーの下から見た感じ、まだスペースに余裕ありそうだから、今度は辿り着けそうだね」
祥子「周囲に高い建造物もありません。今度こそイケますわ!」
燈「いい穴場なのに空いてるなんて、ラッキーだったね」
ともりちゃんの呟きに引っかかるべきだった。なぜこれだけ鑑賞客に都合の良い場所が、まだスペース空いてるのかを。
でもこのとき私たちは愚かにも、何の代償もなしに入れてもらえると思い込んでいたのだ。
5人「……えっ!?」
屋上への扉の番人店員「えっじゃありません。当店で1万円以上お買い上げ頂いたレシートと、全員分のポイントカードをご提示ください」
睦「……お金、とるんですか?」
そよ「コラむつみちゃん!」
むつみちゃんの失礼な物言いを慌てて咎めたけど、その顔は驚きの余りポロっと零したみたいにポカンとしていた。まぁ、そういうことなら分かるから流そう。
店員「少々人聞きが悪いですが。当店を御贔屓くださるお客様に対して、特別に屋上スペースを提供しております。ご了承ください」
立希「言われてみるとごもっともだわ」
祥子「タダで都合の良い場所は手に入らない、ということですわね」
睦「……………」
燈「む、むつみちゃんっ! 財布から1万円札出さないでっ! 流石に悪いよ……」
立希「手プルプルさせて、明らかに葛藤してるし。不満ならやめなって」
そよ「むつみちゃんが意地になる前に、もう退散しよっか」
祥子「そうしましょう。お騒がせしましたわ」
店員「いえ。またのご利用、お待ちしております」
店員の慇懃なお辞儀を背に、私たちはスーパーを後にしようとゾロゾロ歩き出す。
もう次で最後。この穴場探しが徒労で終わるのも悲しいから、今度こそ穴場に巡り合えますように。
睦「……ネットで炎上しないレベルのアンチレビューしてやる……」
立希「手加減するのに優しさを感じるけど、クズいのは変わらないからやめろ」
そよ「きっと次の方がいい穴場だから、気を取り直してね~」
どうもムカムカしてるらしいむつみちゃんを、私はヨシヨシして落ち着かせてあげた。
スポット④ 河川敷
結論から言うと。ここが、当たりだった。
睦「……会場から近くて、周囲に遮るものなし。長い河川敷だからスペースも確保できるし、定員もない。何より、無料……!」
立希「はいはい、さっきのは悔しかったな。早く忘れような」
そよ「まぁ、概ねむつみちゃんの言う通りだし、いいんじゃない? ここで見ようよ」
祥子「そうですわね! 周りに人はそこそこ居ますから、秘境っぽさに欠けるのは残念ですが……」
燈「祥ちゃん、よっぽど秘境って言葉が気に入ったんだね……」
約一名、ズレた落胆を覚えていたけど。めでたく穴場に辿り着いた私たちは、買い出し班と場所取り班に分かれて行動する。
やがて合流して飲み物片手に待っていると、時刻はそろそろ打ち上げ花火の開始時刻になろうとしていた。
なんだかんだ出店を楽しく周り、穴場まで見つけた。普通どころか、結構な花火大会になってるんじゃないだろうか。
いよいよその本命が目の前まで迫ってきて、ドキドキしてきた。家で一人っきりの鑑賞と、期待通り違うだろうか。
おあつらえ向きに暗くなってきた空を見てると気が逸って落ち着かないから、みんなとのお喋りして気を紛らす私だった。