〇夏祭りの食べ物といえば?
たきちゃんの浴衣を直そうと人気のないところに行ったら、アツアツでズギューンなカップルとコンタクトしてしまった直後。
祥子「と、とりあえず何か食べませんか?」
そよ「そ、そうだね! 何かで口直ししたいよね!」
燈「く、口……」
睦「……燈、そんな顔真っ赤にして思い出してたら、また倒れる」
立希「燈は食べたいのあるっ!? 何食べたいか思い浮かべて!」
どうもぎくしゃくする私たち。
場所も弁えずイケナイことしてるあの人たちが悪いのに。どうしてこっちが調子崩さなければいけないのか。羞恥の次は憤りが湧いて来たけど、ひとまずともりちゃんを落ち着かせることに専念しなきゃ。
燈「じゃ、じゃあ……金平糖……」
立希「金平糖……売ってる屋台あるかな……」
そよ「思えば縁日とか夏祭りって、和菓子そこまで扱われないよね~」
祥子「では何が一般的なんですの?」
睦「……かき氷」
立希「いや焼きそばじゃない? 絶対あるでしょ」
そよ「ならわたあめだってそれっぽいよ? こういうとき以外じゃ見ないよ?」
祥子「人によって分かれるんですのね」
燈「あっ……思い出した。りんご飴食べたかったんだ」
立希「よし、すぐ探そう」
都合の良いことに。すぐ近くに会ったりんご飴も屋台。そこでは他の果物も扱っていたので、各々違う味のものを買った。
いちごそよ「ともりちゃんはなんでりんご飴食べたかったの?」
りんご燈「甘くて……固いから、ちょっと、金平糖っぽいなって」
みかん睦「……金平糖みたいなせんべい食感じゃないと思うけど……」
ぶどう立希「いいでしょ別に。りんご飴も金平糖も同じ甘くて固いお菓子なんだから。ほぼ一緒だよ」
パイン祥子「どういう擁護ですの? それにしても、果物を薄い飴で包んでるんですのね。見た目も可愛らしくて、美味しいですわ!」
そんな話をしながら食べ歩く私たち。そういえばりんご飴も夏祭り定番だったな。せっかくだし、今日はこういうときぐらいしか見ないものを食べたいな。
なんて私が言って、さきちゃんが「いいですわね!」と楽し気に乗ってきて。ワイワイ盛り上がってるうちに、すっかりいつもの私たちを取り戻していたのだった。
〇アクロバティック・シャテキ
祥子「そうでしたわ! あのお店に行ってみたかったんです!」
立希「あぁ、射的な」
そよ「銃で撃と落とした景品が貰えるんだよ」
祥子「ほ、本当に銃を撃つんですのね……。初めて触るのですが、大丈夫でしょうか……」
睦「……祥。実銃じゃないし、弾もコルク性だから」
燈「ほ、本物だったら景品壊れちゃうね……」
景品どころかお祭りどころじゃなくなるよ。少しは常識を身に着けてきたはずだけど、1人にするにはまだまだ危なっかしいお嬢様だった。
そんなことは置いといて。さきちゃんは料金を払い、銃と弾を受け取って射的を始める。
たきちゃんからコルク弾の詰め方から大きいやつはまず無理だから小さいの狙いな、というアドバイスまで貰うさきちゃん。
最初は教え通り小さいお菓子等を撃ち落してキャッキャしてたのだけど……。
残り1発になって、顔色も雲行きも怪しくなってきた。
祥子「本当に大きなものは落とせないのでしょうか……。落とせない物を景品にするなんて意地悪、普通しないのでは?」
店員「……」
立希「例えばあの、一番大きいぬいぐるみは見るからに人気そうでしょ? ああいうので客を釣ってるんだよ。客次第では無気になって何回も遊ぶから、余計に儲かるって寸法」
店員「…………」
睦「……立希。店員さんの営業スマイルがだいぶ苦しくなってきたから、その辺にしてあげて」
よくたきちゃんも店員さんの目の前でぶっちゃけられるよ。知らない人だし、オブラートに包むの面倒くさかったのかな?
そこで、大きなぬいぐるみをじーっと見ていたともりちゃんが呟く。
燈「本当に落とせないのかな?」
そよ「あの大きなぬいぐるみ?」
燈「いつだったかは覚えてないけど、絶対に落せない景品を置いて問題になったって話、聞いたような……」
そよ「確かに。昔より色々厳しくなったらしいし、詐欺として訴えられないように対策しててもおかしくないね」
ともりちゃんに何気なく相槌うったつもりだった。でも他意のない私のセリフに、店員の営業スマイルは一番ひびが入った。
睦「……祥。あの大きいぬいいぐるみ、やっぱり落とせるかも」
祥子「店員さんのお顔を見るに、そうみたいですわね」
立希「いや止めときなって。どっちにしたって、あと一発じゃどうせ無理だし」
祥子「だからこそ挑戦しがいがあるではありませんか!」
意気良く声を張り上げるさきちゃんは、銃口を大きなぬいぐるみに向けて、若干彷徨わせる。どのポイントに当てるのが一番落とせそうか測ってるんだろう。
「あの辺りですわね……」と1人ごちたさきちゃんは、両手で銃を抱える。……数歩後ろに下がりながら。
射的で誰もやらない奇行に、私は唐突に危機感を煽られる。それはたきちゃんも一緒だったらしい。
立希「待て待て待て! なんで下がったの! なにするつもり!?」
祥子「一発で確実に落とそうと思ったら、ピンポイントに当たらなくてもカバーできるだけの威力が必要ですわ」
そよ「威力って……まさかそれを自分で賄おうしてるの!? ダッシュかジャンプなんてするつもりないよね!?」
店員「お、お客さん! 分かってると思うけど、台に足置いたり踏み越えるのは禁止だよ!?」
そこらの客とは規格違いな人種だと察した店主が、営業スマイルをかなぐり捨てて忠告してくる。
でも私たちからしたらナイス助太刀。これでさきちゃんも諦めてくれるだろう。そのルールがあるなら、助走はほぼ意味なくなるからね。
祥子「あら、そうでしたの? それならそうと、立希は最初から教えといてくださいな」
立希「悪かったよ。そこまで奇想天外なアクションかましてくるとは1ミリも想像できなかったからな」
そよ「まぁ知っちゃったからには、ルールを守って常識的に遊ぼうねー」
なんて毒づいたり窘めたりしながら安堵する私たちが甘かったのか。
祥子「ならそのルールに乗っ取って、勢いをつけるだけですわ……!」
常識に囚われず光明を見出す彼女がおかしいのか。
立希「ちょっ!?」
そよ「待っ——」
止める間もなく、さきちゃんは疾走し始めた。浴衣を着て下駄を履いてるとは思えないほどの加速力で、あっと言う間にさきちゃんは高く跳んだ。出店のてっぺんに届きそうなくらい、高く。
さきちゃんは空中でぬいぐるみの眉間辺りに標準を合わせる。そして、台より向こうにいかないギリギリのところで発砲した。
ずっと後で聞いた話だけど。ゲームとかで、ダッシュしたりスライディングしながら銃を撃つ技は、確かに普通より威力が高いらしい。でも、リアルだと人間1人で生み出せる運動エネルギー程度では威力はほとんど変わらないのだとか。(ちなみに、もちろんむつみちゃんから聞いた話だ。)
だから。あの大きなぬいぐるみが落ちたのは、助走ではなく当たり所が良かっただけという話だったのだ。もちろん、そんな真相なんて露ほども考えてないさきちゃんはムフーっと超得意顔。対して私とたきちゃんは、恥と気疲れで顔を上げられない。
祥子「ふふん! どうです、豊川家の娘に無理なんてございませんのよ?」
立希「……よく分かった。嫌ってほど思い知ったから」
そよ「とりあえず、出店の屋根に掴まってないで降りてきて。もう……このじゃじゃ馬お嬢様は……」
ダッシュして台の前で跳んださきちゃんは、慣性で台の向こうに突っ込むはずだった。それがダメなら、着地しなければいい、と考えたらしい。
つまり。射的屋台の前で助走つけてジャンプした女の子は、空中でぶっ放した後屋根に手をかけてぶらさがった。
……という画が、周囲の人たちにぱっちり注目されていたのだ。それはそれは奇異な目で。
そんな衆人環視に気付いてないのか、屋根から降りてるさきちゃんの代わりに店員さんに両手を出す子が1人。
燈「えっと……ルールは守ったから、祥ちゃんにぬいぐるみ、渡してあげて、ください……」
非常識なやり方とはいえ、一応景品を落としたさきちゃんを純粋に想っての行動だろうか。お優しいことだけど、こっちからしたらよく言い出せるなと感心すら覚えるくらい。言い換えると厚かましいくらいだった。
店員「…………大人しく渡すから。来年はもう来ないでくれ」
祥子「そんな! どうしてですの!?」
立希「どうしても何もあるか!」
そよ「いいからここから離れるよ! むつみちゃんも、いつまでも動画撮ってないで! 置いてくよ!」
睦「……やれやれ。祥が絡むと、絶対面白おかしくなるね」
いつの間にか一人だけ私たちと無関係みたいに安全圏から動画撮ってたむつみちゃんが、呑気なことをほざく。面倒見る側じゃないからそんなこと言えるんだよ。
「せっかく大物撃ち落としましたのに……」としょんぼり顔なさきちゃんには、後日みっちり叱ろう。今日はせっかくの楽しいイベントなので、水をささないように気を遣ってあげた私だった。
〇氷菓
そよ「たきちゃん。口直しに何か食べたいね」
立希「そうだな。口直しというか、気分転換したい」
睦「……そんなときに。かき氷」
燈「睦ちゃん、かき氷そんなに食べたいんだね」
祥子「しかしかき氷なんて、まさに夏の食べ物としてふさわしいですわ! 是非食べましょう!」
気分転換したい元凶が勝手に決めてしまったけど、かき氷で頭をガツーンと冷やすのも悪くない。どこか物申したそうなたきちゃんと苦笑いな私はもやもやを共有しながら、大人しくついていってあげた。
ここでも全員違う味のシロップをかけた。降り積もった雪のような氷が、海のような深い青で染まっていく。受け取ったかき氷を先の細いスプーンですくった。頭を突き刺す冷たさに悶えながら、舌に広がるさっぱりとした甘さを楽しんだ。
そよ「う~ん、冷たい♪」
立希「良い笑顔過ぎでしょ。かき氷好きなの?」
そよ「特別好きってわけじゃないけど。暑い時期に冷たい食べ物で涼むだけでも幸せじゃない。それに甘くておいしいし」
燈「それに、そよちゃんのブルーハワイ味は、見た目も涼しそうでいいよね」
睦「……燈はまた赤いね。いちご?」
燈「うん。りんご味があったら、そっち選びたかったな」
祥子「林檎好きですわね~燈は」
立希「そういえば、いちご味は基本あるけどりんごのかき氷見ないな。なんか違和感」
祥子「立希はカルピス味ですか。杏仁豆腐に近いからですか?」
立希「ある中からなんとなく選んだけど、言われてみるとそうかも。祥子は……何それ? 茶色と黒が混じってるけど」
祥子「黒蜜きなこ味ですわ」
そよ「えっ何それ? そんなのあったっけ?」
祥子「出店に大きく書いてあった看板の中にはありませんでしたが。テーブルのメニュー表の隅にありましたので、選んでみました。香ばしくてまろやかな甘みがイケますわ!」
睦「……流石祥、目敏い。私も良く見ておけばよかった」
立希「とか言ってる睦はメロンシロップだけじゃなくてアイスまで乗ってるじゃん」
そよ「露店のかき氷屋でアイス乗せられるなんて知らなかったなー。そういうのちゃんとした喫茶店とかでしか見ないのに」
睦「……前の人が乗せてたから、あるんだ、って」
燈「でも睦ちゃん。冷た過ぎて、頭痛くならない?」
睦「……アイス上乗せしたの、後悔してきた」
そよ「全然減ってないからそうだと思ったよ」
睦「……そよ、食べる? 幸せそうに食べてたし、物足りないでしょ」
そよ「いや自分ので十分だよ。アイスオンかき氷なんて、今は見てるだけで頭痛くなるから」
祥子「私、食べてみたいですわ! 冷たさの限界に挑みます!」
立希「どういう理由だよ」
睦「……それなら私、黒蜜きなこ味一口だけ食べてみたい」
立希「あ、それ私も食べる」
そよ「一口だけなら私も~♪」
燈「なら、私も……」
祥子「私の分がなくなってしまいますわよ!」
かき氷屋台の近くでこんなやりとりしつつ食べていた私たちは、その後お互いのかき氷を交換し合ったのだった。