月見でわちゃわちゃするのは難しかったので、完全に自己満回です。
原作の祥子と比べてはっちゃけ過ぎなところの辻褄合わせを、自分なりに深掘りしただけの話です。
1番 回復祝いの月見
そよside
※ ※ ※
ウチのバンドリーダーは、とにかく型破りな子である。
容姿端麗成績優秀な大財閥の令嬢というだけで女子高生の型に収まってないのに、しょっちゅうハイテンションになっては破天荒なじゃじゃ馬と様変わりして、お嬢様の型すら突き破る。振り回される私たちとしては、溜まったものじゃなかった。まったく、学校じゃおしとやかなお嬢様装ってるくせに。
愚痴はさておき、何が言いたいかというと。常にポジティブで明るくはしゃぐ太陽みたいな彼女に、暗い過去なんて想像できない、ということだった。負感情に見舞われることなく、いつだって天真爛漫なさきちゃんが、なんだかんだ好きだった。
でも。前々から、引っかかってることがあった。
人間になりたいうたや、春日影など。彼女がともりちゃんの、傷ついた心を剥き出しにした歌詞に、どうして涙するほど共感したのか。
何一つ不自由のない環境で育ち、誰よりも元気に人生を謳歌してるなら、そういった痛みに無縁そうなのに。
その理由を、朧月の脆い光で暗闇を淡く誤魔化すような夜に思い知った。
さきちゃんにも、悴むような冷たい春に囚われる頃があったんだって。
だからこそ。日没してる暇もないと、全力全開で燃え続けるんだって。
私はCRYCHICのみんなで楽しい時間を生きようと、全身全霊なさきちゃんが大好きだった。
彼女にどんな過去があろうと、それは変わらない。これからも、我らが頼れるリーダーについていくだけ。
だから。何があっても、その手を離さないで欲しい。
※ ※ ※
残暑も和らぎ始めたのか、日が暮れると外でも過ごしやすい気候の中で、満月が穏やかに輝く9月中旬。
月見をしようと話していた私たちCRYCHICは、豊川家に集まっていた。
お屋敷前に広がる庭園には白い西洋風の東屋があり、そこでさきちゃんのお母さんと一緒に6人でラウンドテーブルを囲んでいる。
今日のイベントにお母さん(私のじゃないけど、便宜上そう呼称する)まで招待したのは、長年の病から回復したとさきちゃんから聞いたからだった。ならそのお祝いも兼ねようと提案した私に、反対する子は当然いなかった。
そよ「さきちゃんのお母さん。ご回復、おめでとうございます。これ、本当に大したものじゃないんですけど……」
瑞穂「まぁ、お団子! 月見にピッタリでいいわね。ありがとう」
立希「キッチンカー製の団子ぐらい庶民的な味が逆に好まれるって、睦が言うから選んだんですけど……」
祥子「我が家ではあまり親しみがありませんもの。私と一緒でお母様も喜びますわ。丁度お茶も淹れたところですし、一緒に頂きましょう」
立派なお家の娘らしく優雅に微笑のさきちゃんは、なんだか妙に落ち着いてる。CRYCHICだといつも張り切ってテンションあげる彼女らしからぬ大人しさ。それに引っかかったのは、私だけじゃないらしい。
燈「祥ちゃん。今日、なんだか元気ないけど、大丈夫? 具合、悪い?」
祥子「そ、そんなことありませんわよ? いつも通りの私ですわ」
睦「……祥は家族の前ではハメを外さないように猫かぶってるから。家では大人しい」
祥子「むーつーみーっ!」
あっさり暴露され、顔真っ赤にしながら幼馴染の両頬を引っ張るさきちゃん。そっか、学校だけでなく家でも品位ある振る舞いを心がけてるんだ。偉いねさきちゃん、それをCRYCHICでもやってくれると、もっといいんだけど。
それはともかく。そんなに隠そうとするってことは、お母さんもその辺厳しいのかな。
けど実際は、おっとり優しそうな見た目通りの反応だった。
瑞穂「そうそう。今日は皆さんからCRYCHICでの祥子について聞けると思って、楽しみにしてたの。たくさん話してくれるかしら?」
祥子「い、いえお母様! 私が普段話してる通りですし、みんなから聞いても大して変わり映えしませんので……」
両手を合わせてにこやかに微笑むお母さんは、呑気に楽しむ気満々だった。娘のはしたない振る舞いを叱る感じでもないのに、それでもさきちゃんは苦しい愛想笑いしてまで誤魔化したいのかな。
何にしても、さきちゃんに不都合そうなのは間違いない。なら良い機会だと思った私は、たきちゃんと悪い笑みを交わして頷き合う。今まで散々振り回してくれたからね。
立希「前会ったときは花見まで話しましたから、5月の連休で遊んだときのことでも話しますよ。そよ、写真」
そよ「そうだなー……。泣きべそかきながらトルコアイス屋と格闘していたときなんて、どうでしょう?」
祥子「2人とも、あえてトップクラスの恥をお母様にバラすなんて、あくどいですわよ!」
瑞穂「あらあら。手がブレ過ぎて見えないくらい、アイスを奪い取ろうとしてるのかしら? とっても楽しそうね♪」
燈「祥ちゃんのお母さん。凄く嬉しそうに、笑いますね」
睦「……昔の祥はここまではしゃがなかったから。豊川家のメンツを意識するようになってからは、特に」
祥子「今まさに私のメンツが丸潰れですわー!」
涙目で嘆くさきちゃんをいじめながら、私たちは今年度の思い出を楽しく振り返った。笑い声に満ちる空間の中で、お母さんは幸せそうに笑っている。
そんな彼女に、私(と微妙な苦笑いしてるたきちゃんも)は拍子抜けだった。娘の恥ずかし過ぎる振る舞いを、少しは窘めると期待してたから。けど仲の良い親子関係を微笑ましく思い、素直にお喋りを楽しむことにする。
でも私は、少し引っかかりを覚えていた。お母さんは、むしろそういう娘を望んでるように慈しむ眼差しをしていから。家の格式を棚上げしてまで貴ぶのはどうしてなんだろう。
病的なまでに白い朧月を、眩しそうに見上げるその人は、何かを秘めてるように感じてならなかった。