CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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8番 あの夏に過ごした眩い夜を、いつまでも覚えてますように

 

 

 睦の、精一杯の勇気を振り絞った告白で生まれた静寂の中。

 最初に口を開いたのは立希だった。

 

立希「そういえば、ここにいる全員祥子が集めたんだったな。私なんて会ったこともないのに、姉繋がりで呼ばれてさ。こいつらも結局私をあの人の妹として見てんだなって、最初は面白くなかったよ」

 

 立希は星空を見ながら嫌味がましく話す。

 

祥子「わ、私は、そんなつもりじゃ——」

 

立希「でも、バンド練習していって。燈がすげぇやつなんだって気づいて。祥子もいい曲作りあげながら、私じゃ思いつかないアレンジでより良くしてさ。この個性派揃いのメンバーをお人よしのそよがいつも気遣って世話して、おかげでバンドとしてまとまって。ホントにおかんかっての」

 

そよ「た、たきちゃん……?」

 

 そよの抗議を無視して続ける立希。

 

立希「睦。私だって最初からここをバンドとして気に入ってたわけじゃない。で、睦は()()楽しいって思えない、ってだけでしょ?」

 

睦「……まだ……」

 

立希「別に、バンドやる理由なんて人それぞれだし、みんな同じ気持ちじゃないとダメなんて、逆に私はイヤだよ」

 

睦「……みんな楽しいって、よかったって思ってる中、1人だけ違っても?」

 

立希「ハッ、ノリ悪いヤツって笑ってやるよ」

 

睦「…………」

 

そよ「たきちゃん、いくらなんでも乱暴でしょ? ……でも。私だって、そんなむつみちゃんでも、一緒にいたいな。ううん、きっと言いづらかったのに教えてくれたむつみちゃんだからこそ、一緒にバンドしたい。CRYCHICのギターは、むつみちゃん以外じゃもう嫌だな」

 

睦「……そよは、こういうこと言う人、嫌いかと思った……」

 

そよ「……嫌いっていうか……どう接していいか、分からなくなりそうかも。でもね、それ以上にむつみちゃんのこと好きだから。むつみちゃんが楽しめないのは残念だけど、むつみちゃんがそのこと自体に辛く思わないなら、私も気にならないよ」

 

睦「……」

 

そよ(相手にどう思われるかを分かった上で、それでも思ってること言えるむつみちゃん、すごいな。正直ちょっと悔しいような……)

 

 そよは睦がここまで言える人間とは思ってなかった。

 どちらかと言えば流されがちで、そこは自分と通じるものがあって、密かに親しみを抱いていた。

 だがそれが自分の勝手な片思いだったんだ、と認識を改める。

 自分が睦の立場なら、いくら燈の流れがあっても言い出せなかっただろうから。

 

祥子「睦、ごめんなさい。バンドに招き入れたのは私でしたのに、貴女の気持ちを考慮できなくて。幼馴染失格ですわね」

 

睦「……そんなことは——」

 

祥子「それでも私は、バンドするなら睦と一緒がいいですし、一緒にいたいんです。貴女のギターを誰よりも認めて、求めてるのはこの私ですのよ? 貴女がCRYCHICにいて、一緒に演奏してくれるなら。今はまだ楽しいと思えないことぐらい、どうってことありませんわ!」

 

睦「……祥……」

 

祥子「でもやはり睦が楽しいと思えないのは、バンド仲間として悔しいですわね。そのうちなんとか考えてみますから、そのときは睦もできたら協力して頂戴? そのときはきっとCRYCHICの演奏も、より良いものになりますわ。いえ、して見せますとも!」

 

睦「……わかった」

 

そよ「貪欲だね~さきちゃん」

 

立希「まぁ、それでこそ祥子でしょ」

 

燈「うん……祥ちゃんは、どこまでも先へ連れて行ってくれる……」

 

 5人はまた空を見上げながらそれぞれしゃべる。

 と、燈が話してる途中で急に声を張り上げた。

 

燈「流れ星!」

 

祥子「ど、どこですの!? 願い事……3回で唱えるんでしたよね!?」

 

燈「あ、あの辺で一瞬キランって! ……もう見えないけど……」

 

そよ「え~っと……CRYCHICの次のライブも成功しますように……」

 

立希「いやもう遅いでしょ」

 

睦「……プッ、くふふふ…」

 

 1人で突然笑い出した睦に、4人はきょとんとする。

 

祥子「ど、どうして睦は笑うんですの?」

 

睦「だって……燈が、祥のこと、流れ星って……ふふっ」

 

4人「え?」

 

 一瞬何のことか分からず、さっきまでの燈の話を思い出してみる4人。

 

『さきちゃんは、どこまでも先に連れて行ってくれる……』『流れ星!』

 

 そう言われてみると、微妙に繋がりを感じる文になっていた。

 しかもなんとなく感じるものがあって、燈と立希、そよの3人も笑い出した。

 

燈「ほ、ホントだ…。ふふふっ、祥ちゃん、流れ星みたい……!」

 

祥子「へっ!? わ、私が流れ星!? どーゆーことですの!?」

 

立希「いや、なんとなく分かる。会ったこともないのに急にバンドに誘うところとか。こっちからしたら唐突すぎて流れ星が落ちてきたようなもんだよ」

 

そよ「私も似たようなものだったかな? 今までほとんど喋ったことなかったのに、誘われるままについていったらいきなりバンド名やバンドの方向性とか一気に説明されてそのままスタジオ行って。考えたり迷う間も無くて、気がついたら始まってたもん。とにかくついてくしかなかったよ〜」

 

祥子「そ、それで流れ星って……よく分かりませんし恥ずかしいですわ……!」

 

 流れ星扱いされ笑われる祥子は顔を両手で覆う。

 

燈「祥ちゃん、ありがとう」

 

祥子「こ、今度はなんですの!? 人を流れ星扱いしておいて急にお礼だなんて!」

 

燈「私を、私たちを。ここまで連れてきてくれて」

祥子「…………」

 

 この島に連れてきたことを言ってる訳じゃないことに、なんとなく察して言葉に詰まる祥子。

 

燈「祥ちゃんが誘ってくれたから、みんなに会えた。祥ちゃんが心の叫びだって認めてくれたから、1歩だけ人間に、近づけた。カラオケでみんなと仲良くなって、CRYCHICのボーカルになったから。昔から掻き出してきた言葉に意味を見出して、新しく綴ったものに『春日陰』って、名前をつけれた。祥ちゃんに出会えなかったら、今も私は独りぼっちのままだった。あのライブも、この星空も。みんなとの思い出が、何1つ無かった」

 

 口にはしなかったが、立希も、そよも。

 燈の後半の言葉に密かに同意していた。

 

燈「これからも、ついていくよ。祥ちゃんに、みんなに。きっと、もっと眩しい光まで、連れていってくれそうだから。想像もできないぐらい、もっと凄い光景に…」

 

祥子「————」

 

そよ(ともりちゃん節、炸裂だね)

 

立希(ホント、燈ってやつは……)

 

祥子「……しょーがないですわねぇ~⤴」

 

 祥子がおもむろに立ち上がり、星空を見上げたまま妙に上ずった声を出した。

 

祥子「そこまで言うのでしたら、流れ星にでもなんでもなって差し上げますわ、この私が! さ、見るものはもう見たから戻りますわよ! あまり夜更かしをするものではありませんからね!」

 

 そして懐中電灯の灯りをつけて、唐突に別荘への帰りを促しながら歩き始める。

 

燈「ま、まって祥ちゃん! 懐中電灯持ってるの祥ちゃんだけなんだから、置いてっちゃやだよ…!」

 

祥子「なら遅れずにさっさとついてきてくださる? グズグズしてると真っ暗の中、虫や動物たちと一晩過ごすことになりましてよ?」

 

 祥子がズンズンと歩き、燈が慌ててその背中を追いかける。

 残った3人はヒソヒソ話し始めた。

 

立希「なぁ。今の祥子……」

 

そよ「うん、絶対泣きそうになってたよね~」

 

「……燈は気づいてなさそうだけど。相変わらず分かりやすい」

 

祥子「3人は何をコソコソ話してますの!? 置いていきますわよー!」

 

立希「ちっ、懐中電灯持ってんのあいつだけだから流石にこわ……いや、キツイか。行こう、2人とも」

 

そよ「そうだね~。行こっか」

 

睦「……うん」

 

 祥子たちが林に入るまえに追いつく3人。

 別荘に到着するといい時間だったので、そのまま就寝した。

 

 

 

 翌日。今日が合宿最終日だが、家に帰る時間も考慮して今日はもう練習も遊びもなし。

 朝ごはんを食べ、ある程度掃除をしたら帰る準備をする5人。

 船が来る時間が近づいたら荷物を持って別荘を経ち、行きで降りた海辺で待っていた。

 

睦「……みんな。昨晩はありがとう」

 

立希「……どうした急に? 感謝したがるお年頃?」

 

そよ「たきちゃんはいちいち茶化そうとしないの」

 

立希「お前がそれを言うのか……この2日だけでもどんだけ茶化されたか……」

 

燈「わ、私は、睦ちゃんの心が聞けて、嬉しかった……よ?」

 

睦(……せっかく勇気出してお礼言ったのに。微妙に締まらないバンドだな……)

 

祥子「燈の言う通り、昨日は友人としても、バンドグループとしてもいい夜になりましたわね」

 

立希「まぁ……確かに。それも流れ星子のおかげだけど」

 

祥子「今日の立希は妙に茶々がくどいですわね!」

 

燈(……でも立希ちゃん、なんかわざとらしいような……もしかして、照れ隠し?)

 

祥子「分かりましたわよ。流れ星でも何でもなってさしあげますから、これからもついてきてくださいまし?」

 

燈「う、うん……!」

 

そよ「頼りにしてるね、リーダー♪」

 

立希「そういえばそこはちゃんと明確にしてなかったけど、発起人でもある祥子しかいないか。……頼んだよ?」

 

祥子「えぇ! 睦も、安心して頂いて構いませんのよ? 貴女が居やすいバンドにしてみせますわ!」

 

睦「……嫌」

 

祥子「えぇ、そう言って頂けると思って……いや!?」

 

立希「普通この流れで拒否する?」

 

燈「え……えと……(オロオロ)」

 

そよ「む、むつみちゃん? 嫌って、どうして……?」

 

睦「私、変わりたい。私がみんなと音楽で通じ合えないのを、ただ受け入れてもらうままじゃ嫌。今はまだどうすればいいかも分からないけど、みんなと楽しいを分かち合えるようになりたい。みんなに手を引いて守られるんじゃなくて、私自身で、みんなの隣に並び立てる仲間になりたい」

 

立希「……そっか。なら待ってる」

 

そよ「うん♪ むつみちゃんのペースでいいから!」

 

燈「睦ちゃんのこと、信じてるから……いつまでも待てるよ?」

 

睦「……そんなに待たせない。だから、これからもよろしく、祥」

 

祥子(……いつの間に、こんなこと言うようになったんでしょう。……我ながら、このメンバーでCRYCHICを結成したことが誇らしいですわ)

 

祥子「えぇ! 私たちは運命共同体! 何があっても、お互いを信じましょう!」

 

4人「おー!」

 

 5人はそれぞれいい笑顔を向き合う。

 笑顔が苦手な睦も、本人は無自覚だったがとびきりのにっこり笑顔になっていたのだった。

 

 

 

 

 そして月日は流れ、CRYCHICでライブに出たときのこと。

 

 

燈「……次の曲、聞いてください。夏に私達5人で、満天の星空を見たときのことを歌にしました。……『夏雅夜祈(かがやき)』」




次の話からカフェCRYCHICの物語に戻ります。
高校入学直前の春休み中。祥子から「カフェやるわよ」と言われた直後からの話です。
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