星と石と、思い出と
燈side
バンド練習が終わった夜、5人はある場所へ向かっていた。
その目的地を知らないのは燈だけだった。
燈「今日の練習後空けといてって言われてたけど、どこに向かってるの?」
睦「……それはまだ内緒」
そよ「きっと、ともりちゃんが喜ぶところだよ~?」
祥子「えぇ! カフェでの誕生日祝いは終わりましたけど——」
立希「まだ現実での誕生日祝いは終わってないから。楽しみにしといて、燈」
祥子「って立希! 私のセリフ取らないでくださいまし!?」
いつものノリで騒ぐ4人に燈は分からないながらついていく。
でも、目的地の近くと思しき場所に着くと予想がついてきた。
そこは燈が何度も足を運んだ、馴染みの場所だった。
燈「も、もしかして……プラネタリウム?」
そよ「うん、正解!」
立希「燈、よく行くって言ってたでしょ?」
祥子「燈の誕生日にみんなで行こうって話してたんですの!」
睦「……せっかくだから、サプライズにした」
燈「……嬉しい。私のお気に入りの場所に、みんなと来れて。みんなからつれてきてくれて、すっごく嬉しい……!」
そよ「ふふっ、お楽しみのプラネタリウムはこれからなのに、何だかすっごく満足させちゃったね♪」
祥子「でもまだこの程度で満足してもらっても困りますわ! その後にもモガガ……」
立希「はーい祥子お嬢様、さっさと入って受付しましょうねー」
睦「……早くプラネタリウム、見に行こう」
立希と睦は祥子の口を塞ぎつつ建物の中に連れて行った。
よく分からず置いてけぼりな燈の手を、そよが取って優しく引っ張る。
そよ「ほらともりちゃん、私たちも行こう!」
燈「う、うん! 待ってそよちゃん!」
みんなに追いつこうと駆け足なそよについていくため、燈もはしゃぐように駆け出した。
館内に入場した5人は座席に腰掛ける。
燈はみんなにリクライニングシートの操作を教え、5人で仰向けになった。
そこでちょうど開始時刻になったらしい。
落ち着いたナレーションと共に、CG映像と星空が天井に映し出される。
燈は4人から小さく声が漏れるのを耳にした。
室内で寝転がりながら星空を見るというのは、やっぱり新鮮な映像体験なんだろう。
燈(よかった。みんなも凄いって思ってくれてるんだ……。でも、みんなと星を見てると去年の夏の夜空を思い出すな……)
映像じゃなく、生で見た満天の星空。
しかしどっちの方が凄い、と比べるなんて無粋な真似はしない。
あの日の思い出も、今日新しく加わる思い出も、どっち同じくらい大切にしたいから。
燈(みんなも、同じこと思っててくれたら、嬉しいな……)
見知った場所に見慣れた光景のはずなのに。
まるで初めて体験するような心境で、みんなと星の世界に浸った。
上映が終わって施設を出た5人。
祥子「凄かったですわ! 生の星空ほどじゃないと思っていた過去の私がお馬鹿さんでしたわ!」
睦「……祥の気持ちも分かる。でも生は生で、プラネタリウムはプラネタリウムで良さがあった」
立希「ていうか秋にも夏の大三角みたいなのがあるんだな。秋の四辺形、だっけ? 星の名前まで覚えてないけど、東京でも見れるかな?」
睦「(空を適当に指さしながら)……アレガ、デネブ、アルタイル、ベガ」
立希「それ絶対言いたいだけでしょ」
そよ「私はプラネタリウムがタイムマシンって話が面白かったな~♪」
祥子「それは私も興味深かったですわ! 確か、『星の運行は規則正しく予言される』みたいな話でしたわよね?」
燈「う、うん。天体はお互いの重力が引き合うことで動いてるんだけど、その力が永遠に不変だと信じられている、らしいよ」
そよ「『お互いが引き合っている、と信じる力が未来を決める』ってフレーズが気に入ったんだ~! なんだかロマンチックっていうか、運命的っていうか~♪」
立希「いつになく乙女なこと言うじゃん。てかそよって運命みたいな言葉に弱そう。将来そんなことばっかり言うクズ男に引っかかったりして」
そよ「たきちゃん? 人がせっかくいい気分に浸ってるのに下らない妄言で邪魔しないでくれる?」圧のある笑顔
燈「だ、大丈夫! そんなことないように、私たちが、守るよ?」
そよ「ともりちゃん……! 好きっ!」燈に抱きつく
立希「ほらチョロそう(ムスッ)」
祥子「まぁそのときは燈の言った通り私達で注意しておけばいいですから」
睦「……ママにも弱点はある」
そよ「だからママじゃないし、そんな心配されるほどチョロくないって~!」
祥子「ふふっ、そよのお相手の心配はまた今度するとして。良い頃合いですから最後のイベントに移りますわよ」
燈「え……まだどこか行くの? もう結構遅い、けど……」
そよ「違うよ? まだ誕生日祝いで一番大事なことが残ってるでしょ?」
頭に疑問符を浮かべる燈の前で、立希、睦、そよが鞄からそれぞれラッピング袋を取り出した。
立希「燈。改めて、誕生日おめでとう。私達からのプレゼント、受け取って」
睦「……燈が気に入りそうなの、選んだつもり」
燈「そ、そうだった。みんなの誕生日なら忘れないのに、自分のだとプレゼントなんて意識しなかった……」
祥子「そ、そういうものでしょうか?」
睦「……私はそうはならない。プレゼント楽しみでしょうがない(キリッ)」
立希「キメ顔で堂々と主張するな」
そよ「私はともりちゃんの気持ち、少し分かるかも。誕生日ってお祝いされるまで実感ないから、プレゼントもらうって発想にあんまりならないかも」
祥子「……さて。私は手紙がプレゼントみたいなものだから、という謎理由で禁止されてますので。みんな渡してあげてください」
祥子はバンドの練習のとき、燈へ誕生日を祝う手紙を送っていた。
そんな祥子に『なら祥子は他にプレゼント用意しなくていいんじゃない?』と牽制した誰かがいたのだ。
そよ「さきちゃんへの嫉妬が隠しきれてないな〜、いったい誰がそんなこと言ったんだろうな〜♪」
睦「……どこの椎名さんが言い出したかは置いといて。まずは私から」
立希(……ツッコむな、私。燈に誕プレ渡すときがようやく来たんだ! さっさとトリまで進ませる!)
睦「(ちっ、スルーしてきた)……コホン、誕生日おめでとう。これ。開けてみて」
燈「(ありがと、睦ちゃん。(ガサゴゾ……)これ……ブレスレット?」
睦「……うん。燈は蠍座だったよね? 蠍座は冥王星が守護星とされていて、トパーズは冥王星の力を宿した星座石、ってネットで知ったから。その石で作られたブレスレット」
燈「じゃあ、この青い石はトパーズなんだ。トパーズって黄土色なイメージがあったな……」
睦「……ブルートパーズは比較的安価らしいから、燈ももらって気負いしないかなって思った。でもそれだけじゃなくて、意味がある」
燈「意味?」
睦「……色々あるけど、ブルートパーズは『持ち主に自信と博愛の気持ちをもたらし、自分の内面への気づきや、魅力を高める効果がある』、だって」
立希「へぇ、睦にしてはイキなチョイスするね」
睦「……私にしては、が余計。ともかく、燈にはもっと自信持って欲しかったから。だから……」
燈「……ありがとう。私のことたくさん考えてくれたのが伝わってきて、その気持ちがすごく嬉しい……!」
睦「……ちゃんとブレスレットにも喜んでよ」
睦の照れ隠しのような破顔に、燈もニッコリ笑った。
そして今度はそよが燈にラッピング袋を差し出してきた。
そよ「次は私! はいともりちゃん、誕生日おめでとう! 開けてみてね♪」
燈「そよちゃんも、ありがと(ガサゴソ……)これは……星形の、石? がいっぱいある……」
そよ「ただの石じゃないよ~。これはね、アロマストーンなんだ~♪」
燈「アロマストーン? いい匂いするのかな?(スンスン)」
そよ「このままじゃしないよ~。袋の中にいくつかアロマオイルを入れたから、家でそれかけてみてね!」
燈「そういえばそよちゃん、アロマ好き、だったよね? そよちゃんと同じもの好きになれそうで、楽しみだな……」
そよ「うん……うん! 私もそう思ってこれ選んだんだ~! 星型だし、一応石だからともりちゃんに気に入ってもらえるかな~って♪」
立希「なるほど。プレゼントしつつあわよくば自分と同じ趣味に引きずり込むなんて。やっぱりそよは腹黒いところがあるな……」
そよ「何も腹黒くないし、どうしてそう目くじらたてるかな~」
立希「まぁいいや。そろそろ真打ち登場といこう」
睦、そよ「自分で言うんだ……」
立希「(ガン無視)燈、誕生日おめでとう。さぁ開けて!(ズイッ)」
燈「う、うん。ありがと……(がさごそ)これ、キーホルダー?」
立希「うん。石の中、よく見てみて」
燈「……あっ、これ星座かな……この並びだと……」
立希「そう、蠍座。中に燈の星座が見えるキーホルダー。何かにつけてもいいし、燈の部屋に飾っても、どっちでもいいから」
燈「ありがとう、立希ちゃん。自分の星座が見える石なんて落ちてないから、すごく貴重だね……!」
立希「そ、そりゃそうだよ……その辺に転がってるのと同等のプレゼントなんて選ばないって。……あの、燈? 燈の好きな星座と石の組み合わせだけど、喜んで……もらえた?(モジモジ)」
立希(私的にはかなり自信あったんだけど……)
燈「うん! 睦ちゃんやそよちゃんも私の好きなものに寄せて選んでくれたし、みんなの気持ちがとっても嬉しい! 立希ちゃんのも、家で大切に飾るね!」
立希「う、うん。喜んでもらえたなら、よかったよ……」
立希(チッ。2人のプレゼントとテーマが似てた分、私のプレゼントのインパクト弱いか……。1週間前から考えに考え探した、とっておきのプレゼントだったのにぃ~!)
そよ「なんか……自分でハードル上げた割に……」苦笑い
睦「……パッとしませんなぁ」ニマニマ
立希「う、うるさいうるさい! 誕生日プレゼントは勝負じゃないの! 気持ちなの!」
祥子「貴女自身で招いた展開でしょうに……ま、こんなところですわね」
燈「みんな……本当にありがとう。みんなと一緒にプラネタリウム見れただけでも十分だったのに。素敵なプレゼントもらって……なんか、言葉にできないな。えへへ……」
立希「ま、まぁそう言ってもらえたなら、こっちも良かったかな」
睦「……それには同意」
そよ「うん! アロマストーン、使ったら感想聞かせてね♪」
祥子「……おっとぉ! 私の手紙も渡しておかないとですわね。はい、燈」
立希「わざわざラッピング袋に入れたの? しかもその大きさ、広げたまま? 紙、曲がるんじゃないの?」
祥子「クリアファイルに入れましたから大丈夫ですわ。とにかく、細かいところはいいでしょう?」
燈「うん。祥ちゃんも、ありがとう」
そよ「それじゃ、そろそろ帰ろっか!」
立希「流石に遅い時間だしな」
睦「……うん。美少女しかいないし、気をつけて帰らないと」
立希「どうしてそういうこと自分で言えちゃうんだよ……」
祥子「じ、実際危ない時間帯ですし、車を呼びますわ」
こうして、燈の誕生日祝いは幕を閉じた。
燈は帰ってからもらったプレゼントを整理する。
最後に祥子からもらった袋を開けてみると、手紙と一緒にノートが入っていた。
表紙にスイートピーの写真が載っている、燈には馴染みの学習ノート。
どこでも売ってあるようなただのノートでも、燈にとっては大きな意味があった。
燈「これ……初めて祥ちゃんに会ったとき見せた詩のノートと、全く同じ種類……」
そしてノートにメモが貼られてることに気付く。
『燈へ。私だけプレゼント無しなんて納得できませんから、内緒で渡させて頂きましたわ。まぁこのくらい安価な物なら、立希もみんなもそこまで文句はないでしょう。私達を音楽に導いた最初のノート、覚えてまして? あの日の思い出を、私と同じくらい大切にしてくださると嬉しいですわ』
燈「……忘れるわけないよ。祥ちゃんが、私の叫びをあんなに眩しく歌ってくれた大切な日のこと。一生、離さない」
燈はノートをラッピング袋に戻して大事に保管する。
同じ思い出を、大切な人と同じくらい大切に想い合ってる証として。
いつまでも綺麗に保っていたいから。