そよ「もういいじゃない? それじゃ、電気つけるよ~」
パチンッ。部屋に明かりがついて、全員眩しそうに目をかばう。
そして闇の待ち時間が終わったことに、安堵の溜息が5つ漏れた。
立希「なんで言い出しっぺ組のお嬢様方までビビってんの?」
祥子「ビビ、ビビってなんかいませんわ! ちょっと雰囲気に呑まれてただけでしてよ!?」
睦「……人はそれをビビってると言う」
そよ「むつみちゃんも溜息ついてたでしょ?」
燈「ねぇみんな。誰から……とる?」
一斉に1人の女の子へ視線が集まる。
睦「……私? ホワイ?」
祥子「貴女が私に教えてくださったのでしょう? 先陣を切るべきですわ」
立希「右に同じ」
そよ「むつみちゃんのせいでしょ♪」
睦「……そよはどれだけそのセリフ言いたいの?」
燈「む、睦ちゃん! 頑張って!」
睦「……鍋食べるだけなのに、なんでがんばんなきゃ……」
などと文句垂れつつ、睦は意を決して箸で鍋をさらう。
固い感触の具材をつかみ、小皿によそう。
睦「……これ……ステーキ?」
祥子「あぁ、私が選んだものですわね。店で一番高いお肉のステーキを、カットしてもらいましたのよ?」
立希「ぷぷっ、よりによって脂っこいのが苦手な睦に当たるなんてな」
そよ「笑っちゃ可哀そうだよ~たきちゃ~ん♪ ……ふふっ」
睦「……ぐぬぬ……立希そよめ……」
パクッ。睦はステーキにかじりつく。
いつも無表情な睦の顔が、どんどん歪んでいく。
燈「む、むつみちゃん……?」
立希「お、おい。キムチ鍋にステーキとはいえ、ギリ食える範囲でしょ?」
そよ「なんでそんな禍々しい顔するの……そんなに変な味なの?」
祥子「えっえっ? 普通のお肉で味は特についてないものを買ったんですが……」
睦「……黙秘権を行使する」
4人「えっ」
睦「……食べたら分かる。みんなにはドキドキしながら食べて欲しい」
立希「この性悪お嬢!」
そよ「悪戯好き小悪魔! いじわる天使!」
燈「そよちゃんの罵倒は、なんだか可愛らしいね」
睦(……悪魔なのか、天使なのか。まぁ突っ込まないでおこう)
祥子「で、でもそう言われるとなんだかワクワクしますわ。もしかしたら奇跡的においしいのかもしれませんし……」
3人「あの顔でそれはない」
睦「……祥は逆張りのケがある」
祥子「とにかく、次は私ですわ!」
睦「……ストップ。箸じゃなくて、おたまですくおう」
祥子「? いいですけど……」
祥子はおたまで鍋をすくう。
なにかプルンとした柔らかいものを小皿にいれた。
祥子「なんでしょうか、この白いプリンのようなものは……(モグモグ……)誰ですの、杏仁豆腐なんて入れたおバカさんは!」
立希「あ、それ私」
そよ「たきちゃん!? なんてもの入れてるの! そんなの入れたらキムチスープに甘いのが混じって大変なことになるでしょ!」
睦「……あの甘いやつの正体は、これ?(にしては何か違和感……)」
立希「い、いや杏仁豆腐だったら上手いからどうなってもみんな食べれるかなって……」
燈「それ、杏仁豆腐が好きな立希ちゃんだけ、だと思う……」
立希「ぐうぅ!? 燈にすごい引かれてるぅ……」
そよ「自業自得だよ」
祥子「……ですが、これは……甘いだけでなく、なんか酸味があるというか、野菜くさいような……」
そよ「……へ、へ~」
立希「よし、次そよな」
そよ「べ、別に私変なもの入れてないよ!?」
燈「そ、そよちゃん……どうぞ……」おたま渡す
そよ「ま、まぁいつかは食べるんだし……」
そよはおそるおそるすくい、小皿にとる。
そよ「これは……きゅうり? むつみちゃんか……」
睦「……鍋の定番物からは外したけど、まだ普通に食べれるやつのはず。……杏仁豆腐と比べれば」
立希「くそっ、これ私が一番ナシなやつ選んだ流れじゃん……こん中で一番非常識なんて、悔しいぃ!」
燈「目を(><)にさせる立希ちゃん、珍しい。本気で悔しいんだね……」
そよ「とりあえず、いただきます……(モグモグ)……辛みと甘みと脂身とすっぱさでキュウリが完全に殺されてる……」
祥子「普通に食べれるだけマシですわ。なんなら杏仁豆腐と交換いたしますか?」
そよ「ううん、あまりの混沌さに戸惑っただけだよ。それだけは御免だからね?」
祥子「うぅ……どうして私が一番のハズレを引いたんですの……」
そよ「でもこの甘味、杏仁豆腐だけかな? 何か、また違うベクトルの甘味と喧嘩してるんだけど……」
燈「そ、それじゃあ、そろそろ私すくうね?」
立希「……燈?」
睦「……おや?」
祥子「燈にしては不自然な積極性ですわね」
燈はアセアセしながらおたまをすくう。
燈「これ……トマトだ。ミニじゃなくて、切ってあるトマト?」
そよ「あ、それ私のだ。色がスープと似てるから、あんまり抵抗ないかなって♪」
立希「見た目はそうでもキムチにトマトは絶対合わないでしょ」
そよ「杏仁豆腐ちゃんに言われたくありませ~ん」
燈「(モグモグ)……うぅ、すごいたくさんの味がぶつかってる。トマトのグジュっとした感じが気持ち悪い……」
そよ「ト、トマトはそこがいいんじゃない? ほら、噛まなくていいから飲み込みやすいっていうか……」
睦「……そよ、諦めよう。好きじゃない人は絶対そう思えない」
立希「最後は私か。あとは燈のだし、本当ならそんなに嫌じゃないんだけど……」
祥子「まぁここまで来たら取る前に聞くのも無粋ですわ。漢になってきなさい、立希」
立希「私はこれでも女だ。……ええい、ままよ!」
勢いよくおたまをすくう立希。
そのまま小皿に入れたものだちを凝視する。
立希「何、この……色とりどりな固形物……」
燈「……金平糖」
立希「……こんぺいとう……」
燈「私の、好きな食べ物」
立希「……そ、そっか……なら燈にあげないと可哀そうだね……」
祥子「そんなこと許すわけないでしょう?」
そよ「たきちゃん、漢が廃るよ?」
立希「そのイジりやめろ! 睦もな!」
睦「……先回りされた。……では、パクッとどうぞ」
立希「……キムチスープにステーキと杏仁豆腐ときゅうりとトマトが混ざった中の、金平糖、か……」
燈「えへへ。きっと金平糖だから、おいしいよ?」無邪気な笑顔
立希「は、ははは……(そうは思えない……)」
パクッ。ガリッガリッガリッ……
立希「……んマッz——」
燈「どう……だった? やっぱり、嫌、だったかな……?」上目遣い
立希「——んんん、ンマイ! い、意外とイケるな~!」
燈「ほ、ホント!? よかった、なら残りもすくってあげるね!」
立希「ちょ、いや燈の好物なんだから遠慮しないでいいんだよ? ていうか燈も食べよ? 残り全部食べていいから!」
祥子「なんか押し付け合いが始まりましたわね……」
立希「って祥子、お前鍋にまだ杏仁豆腐残ってるじゃん、すくってやるから食べな!」
祥子「あ、貴女こそ金平糖と一緒に食べなさいな! どっちも甘いものどうし、合うでしょう? あぁ、睦はそよが言ってた通りお肉をつけるべきですし、ステーキ食べてくださいまし~♪」
睦「……断固拒否する。自分で買ってきたんだから自分で食べて。そよ、きゅうりのおかわり、要るよね?」
そよ「謹んで遠慮しま~す♪ あ、ともりちゃん、トマトすくってあげるね~。きっと甘いトマトもあるよ~♪」
燈「わ、私お腹いっぱいだから、そよちゃん自分で食べて、いいよ?」
押し付けに押し付け合った結果、自分で入れたものは自分で処理する、というオチで闇鍋は幕を引いた。
それ以降、しばらくCRYCHICはお互いの好物を見る度警戒するようになったとさ。
*後書き*
次回は高校生になってカフェやってる本編に戻ります。
すれ違った燈と祥子が仲直りして、カフェのステージで手を繋ぎ合う2人。
そんな姉妹を見ている、もう片方の姉妹の話です。