CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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4番 アカペラ指導会開幕、お嬢様たちの攻防

 

 そよside

 

 1月2日

 

 なんと、昨日の今日でアカペラ練習が実行されることになった。普通3が日って親戚の付き合いとかあるものだと思ってたのに、よくみんな予定空いてたな。朝の10時頃集合して、練習場所に11人が勢揃いしてるところを見ながらしみじみ思う私だった。

 

愛莉「手鞠沢高校アカペラ部の部室へようこそ~。1年生4人とは自己紹介できた?」

祥子「はい、案内の最中にさせて頂きましたわ。この度は招待頂き、誠にありがとうございます」

 

 案内された教室で代表同士が挨拶する間、私は辺りを見回す。ステージ代わりみたいな分厚いマットやホワイトボードは分かるのだけど、ソファや食器棚、花瓶や観葉植物まで置いてあるのが生活感あってなんだか不思議だった。まるでここで暮らせるんじゃないかと思うくらいの過剰な充実さも少し気になるけど。

 それ以上に、集合場所に着いてからずっと気になっていたことがある。

 

睦(……そもそも3が日って、学校開いてるものだっけ?)

立希(先生たちも休日だとすると、どうやって開けたんだ?)

 

 集合場所の校門は何故か開いていて、それについて特に説明もなく中へ連れられたのが、とてつもない違和感を抱かせる。こそこそ話す2人も同じ疑問を持ってくれていたのは常識的な意味で安心するけど。

 

そよ(……今は触れずにいよう。なんとなく、闇感じる)

 

 私の囁きに、引きつった顔の2人が古城先輩をチラ見したあと頷く。ニコニコ笑顔ばかりなあの人の底知れなさが伝わって何より。

 内緒話が終わったころ、古城先輩の隣にカッコいい女性が並ぶ。

 

玲音「それじゃあ、自己紹介できてないの私だけだね。部長の愛莉と同じく2年生の、近衛玲音(れい)です。よろしく。あ、全員分の飲み物用意してあるから、よかったら飲んでね」

祥子「ありがとうございますわ。では改めて私達も挨拶を……」

 

 その近衛先輩がもう既に疲れた顔で自分の腕を揉んでいることにも、触れない方がいい気がする。

 にこやかに自己紹介しながら、地雷原の多いグループなことに、始まる前から神経がくたびれそうだった。

 

 

愛莉「さて。練習を始める前に、曲の説明するね。教える曲はガーネット、昨日もライブした曲でーす」

睦「……聞き覚えがあったので、帰ってから調べました。昔やってた有名なアニメ映画の、エンディングテーマですよね?」

そよ「『時をかける少女』だよね。私は映画も曲も、記憶が曖昧かな」

燈「見たこと、ない……」

立希「主人公がタイムリープすることしか知らない」

祥子「タイトル通りなSF物ですか。面白そうですわね!」

愛莉「はーい、説明続けますよー」

 

 脱線しがちな私たちを優しく修正してくださるのは流石年上の先輩だった。というか立場的に申し訳ありません……。

 そこからはまずパートを分けることになった。私たちは5人なので、アカペラ部の構成から初心者には難しいボイパを抜いたものになった。

 我らがボーカルたるともりちゃんが勿論リード。コーラスを務めるのは1stがむつみちゃん、2ndがさきちゃん、そして3rdが私。数字の若い順に、高い音を担当する。最後に低音のベースがたきちゃん。基本、声の高さ低さを基準にして割り振った。

 そしてついに、実際に練習する流れになった。いきなり5人で歌うのではなく、まず各パートごとに別れて、それぞれ担当の人に教えてもらう形式。

 この形式の目的はどうも、1年生のためらしい。4月から先輩となる彼女たちにとって、指導のデモンストレーションとなるように。これだけ聞くと後輩想いの部長らしい考えだけど。

 

愛莉「ウタちゃんが余計なこと……じゃなくて、カバー曲ならいいなんて言い出してくれたおかげで、こういう機会を得られました。どうもありがと~ウタちゃん」

嬉歌「ひえー! 部長まだ怒ってるー! アレンジャーの部長を差し置いて勝手なこと言ってごめんなさいー!」

結「まぁ指導の練習っていう目的も、部長兼アレンジャーとしての怒りも、ごもっとも」

閏「ウータンにしては頑張ったんだけど、失言しちゃったなー。ドンマイうーたん!」

クマ「わ、私は間に入っただけでも、十分凄いと思うから……。一緒に頑張ろう、うたちゃん」

玲音「クマちゃんは私と一緒にだから。安心してね」

 

 なんだかんだ6人で仲良さそうだった。古城先輩のチクチク嫌味もそこまで気にしてなさそう。そんな仲良し関係(?)が、綺麗なハーモニーを作る秘訣、なのかもしれない。分かんないけど。

 ともかく、いよいよ人生初のアカペラだ。初めてのことにどうしたって緊張しそうになるのを、不安そうなともりちゃんと顔を見合わせて共有していると。

 

祥子「後で合わせるのが楽しみですわね! お互い張り切って練習しましょう♪」

 

 なんてさきちゃんが楽しげに言うものだから、私たちは顔から力が抜けて破顔する。はっちゃけお嬢様の言う事にも一理あると思ったから。せっかくの機会なのだから、良い未来に向けて前向きに臨まないとね。

 

立希「そんなこと言う祥子ができてなかったら、思いっきりバカにしてやろ」

睦「……いいね。後で合わせるの、余計楽しみ」

祥子「キ~~~! この年一番張り切ってる私がそんな無様をさらすわけないでしょう! 侮らないでくださる!?」

立希「あーもう、他所の学校で地団駄踏むな恥ずかしい!」

睦「……それに、今年始まってまだ2日」

燈「そうだよね、みんなでいつもみたいに合わせられるよう、私も頑張ろう」

そよ「この騒ぎを見て落ち着けるともりちゃんなら、きっと大丈夫だよ♪」

 

 こんな調子の私たちが、アカペラ部に引かれてないことを祈りながら、各々別れて練習に入った。

 

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 各パートごとに別れて練習し、一度挟んだ全体休憩中にとある動画を見たりして。まぁ色々と濃い時間ではあったのだけど。ここでは割愛する。

 その後再開した練習中に、私はある意味一番気掛かりだったパートを、少し離れたところから盗み見ていた。

 

〇2ndパート 祥子×愛莉

 

 両グループのリーダーにして、こうなった原因にして、一番わだかまりがあるペア。

 でもさきちゃんは音楽になると真剣なところを発揮して、古城先輩の教えに集中して取り組み、順調に練習は進んでるみたいだった。

 まぁ。練習中は大丈夫そうなんだけど。小休止になると、見ていてヒヤヒヤする。

 

愛莉「豊川さん、思ってたよりも素直に話を聞いてくれるんだね。意外にいい子そうで、ちょっぴり見直したかもー」

祥子「どう見られてたか少し気になりますが……それよりも! 昨日のオリジナル曲について教えて欲しいですわ!」

愛莉「……」

 

 微笑んだまま黙る古城先輩に、私はまた昨日の再来を予感してしまう。というかさきちゃんも、もうちょっと言葉選んで!

 

祥子「あっ、曲の話を聞きたかっただけですのよ!? 使いたいとか、そういう類ではありませんので……!」

愛莉「…………なーんだー。ビックリしたー♪」

 

 目だけ笑ってないように感じたのは、遠目からの盗み見で良く観察できなかったせいだと思おう。

 ここからは、私の担当をしてくださる近衛先輩から指導を受けつつも、密かに耳を傾けて捉えた会話である。

 

祥子「あの、改めてですが。昨日は不躾なことを申してしまい、すみませんでした。私も作曲する立場なのでオリジナル曲がそんなに軽いものでないと、身をもって分かってるはずでしたのに……」

愛莉「……まぁ、自分の子どもみたいに思っちゃうほどには、大事だよね」

祥子「えぇ、分かりますわ! ということは、あの曲は古城先輩が作曲を?」

愛莉「うん、まぁ。作曲も作詞も私」

祥子「そう、でしたの。やはり……」

愛莉「えっ?」

祥子「い、いえっ。今教えてくださってるカバー曲も古城先輩の編曲ですし、基本そういったことは全部先輩が手掛けてるのかなーっと、思いましてですね……」

愛莉「全部私しかできないからね。っていっても、まだそこまでオリジナル作ってるわけじゃないけど。披露したのは思い出話が初めてかな」

祥子「思い出話……昨日のオリジナル曲は、そういう名前ですのね。もしかして、古城先輩が初めて作った曲でしょうか?」

愛莉「後輩達から頼まれた成り行きでね。……ていうか、そんなに思い出話のこと聞きたかったの?」

祥子「えっ、えぇそれはもう! 思い出話のライブが記憶に焼き付いてまして! どういう背景で作られたのか、気になってまして……。あ、ファンとして! ファンとしてですわよ!?」

愛莉「わぁー、嬉しいけどおべっか使われてるみたいー」

祥子「ほ、本当にそう思っておりますのよ!? 次のライブも是非拝聴させて頂きたいです! あ、SNSなどは……」

愛莉「そういえばやってないなー。基本学校で活動してるだけだから、要らないかな。別に今以上の何かを求めてるわけじゃないし」

祥子「そう、ですか……」

愛莉「……ちょっとおしゃべりが過ぎたかな。そろそろ再開するよ?」

祥子「……はい。宜しくお願いします」

 

 さきちゃんは、昨日言ってた『気になること』の正体を追おうとさりげなく(?)踏み込もうとしていて。

 古城先輩は怪しみながらも、当たり障りないことをツラツラ口にしていた、感じかな。

 と、あくまで自然体を装って、さりげなく意識を向けていたつもりだったけど。

 

玲音「……そよって、結構器用だよねぇ」

そよ「えっ!? な、何のこと……いえ、すいませんでした。昨日みたいになったらフォローしなきゃ、と思ったもので……」

 

 あっさり見抜かれてしまい、とっさにそれっぽいことを言い訳した。嘘ではないけど、当然本当の目的は別にある。そこまで見通されたかはともかく、近衛先輩は私にそれ以上追及せず、目だけ古城先輩に向ける。

 

玲音「せっかく愛莉にあそこまで踏み込もうとしてくれる子がいるんだ。何か、良いきっかけになってくれるといいんだけど」

 

 近衛先輩の瞳には、複雑な色が混ざり合っていて、あまり読み取れなかった。

 今のは、さきちゃんに期待してる口ぶりだった。まるで古城先輩を託すみたいに。お二人は誰より近い距離にいる関係のはずなのに。

 あるいは。後戻りできない境界線で分たれていたら、他者に代わりを求めざる得ない事情も想像できる。でも、当たり前だけど、憶測の域を出なかった。

 

(……これ以上手がかりを得るのは、難しいかな)

 

 とにかく心配してることだけは確かなんだ。今はこの人の気掛かりと、さきちゃんの気掛かりが、どちらも解決する未来を祈ることしかできないかな。

 根拠はない。でもその2つは、ごちゃごちゃした世界の中でいくつもの要素を通して、繋がってる気がする。

 

そよ「……2人も練習に戻ったみたいですし。私も今度こそ集中します」

玲音「ん、分かった。それじゃ今度は、私が別パート歌うから合わせてみて」

そよ「はい」

 

 今確かにできるのは、目の前のアカペラに集中すること。何もできない私と近衛先輩の間で、この考えがリンクしたのを、重ねる歌声の中で感じた気がした。

 




*後書き*
愛莉が1生徒にあるまじき力を持ってるかのように書きましたが、実際のところ本当にここまでできるのかと言われると(たぶん)できないはずです。愛莉ならワンチャンできそう、という個人的なイメージでこの流れにしました。要は適当です。適当に流してください。
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