〇一人だけ仲間外れで暇してたボイパ、襲来
そよ「2パートでも合わせると結構楽しいねー」
立希「もう1パートでも加わったらつられそうかも。慣れるまではムズい」
そよ「でも最低限ピッチもリズムも合わせられたよ?」
立希「その辺はリズム隊としていつも合わせてる経験値に助けられた気がする。てゆーか、やっぱりドラムみたいにボイパできたら一番よかったわ」
休憩時間に感想を言い合う私たち。リズムを指で刻むたきちゃんは、やっぱりパーカッション魂が染みついてるみたいだった。
そこに、明るい金髪のデコだし少女が割り込んできた。
閏「なになに、タッキー本当はボイパやりたかったん? 私教えたげよっか?」
立希「うわっ、急になに……てかタッキーって……」
そよ「たきちゃんのことじゃない?」
立希「だからタッキーやめろ! 私はジャニーズのお偉いさんじゃないんだよ」
ちなみにたきちゃんは前にもこのあだ名で呼ばれたことがある。あのときは冗談だったけど、今は本当に定着させられそうなのが面白い。
なんて余裕ぶってる場合じゃなかった。
閏「うーん、やっぱりタッキーはおむすび似だなー。そよっちも揶揄ってて楽しいっしょ?」
そよ「そ、そよっち……。宮崎さんは変わったあだ名つけるんだね」
閏「名前でいいよ! うるうって言いづらいからウルルって呼んで!」
そよ「あはは、宮崎さんは気さくだねー」
立希「気さく過ぎて馴れ馴れし過ぎ。距離感保って、宮崎さん」
閏「おぉう、頑なに名字呼びだなー」
オーバーにも体をのけぞらせて苦笑いな宮崎閏さん。デコだし金髪な外見通り、陽気で騒がしい人だった。
でもどうやらそれだけじゃないことを、見てて感じてくる。彼女はクルッと向きを変えて話し相手を変えた。
閏「クマちゃん、大丈夫だった?」
クマ「うん。宮崎さん相手に練習したおかげかも。ありがとう」
閏「いーってことよ! 私たちの仲じゃん?」
熊井さんに肩組んで朗らかに笑う宮崎さん。熊井さんも、今まで一番自然体な微笑みしてる。さりげなく気遣って話しかけてたところも含めて、何も考えてないわけでなく全部意識しておちゃらけてるのかもしれない。
閏「レイさーん。私だけ教える相手いなくてヒマっすよー」
玲音「そうだね。それじゃあとでウルルにボイパしてもらいながら2人に合わせてもらおうかな」
閏「りょーかいっす! あ、その前に他パートの様子見に行っていーっすか? 特にウータンとかおむすびとか心配なんで……」
玲音「確かに。こじれてたら助けてあげて?」
閏「まかされましたー!」
なんて話の後、ピューと飛んで行った宮崎さん。嵐みたいな人だったな。おバカでお笑い属性なさきちゃんみたい。まぁ遠目から見れる分には退屈しないことは確かかな。
そんな宮崎さんは、まずともりちゃんたちがいるところに向かって行った。私もあの2人が空気的に上手くいってるか心配だったので、休憩ついでに遠くから見守ることにした。
〇リードボーカルパート 燈×嬉歌
ともりちゃんは人見知りで内気だし。昨日の事件で真っ先に仲介した小牧嬉歌さんも、胡乱な言い回しに覇気のない声と表情で、人付き合いが上手そうには見えなかった。
そんな2人だったけど、意外にも明るい笑顔で歌い合っていた。どうもともりちゃんに合わせて小牧さんがコーラスしてるみたい。
嬉歌「うん、そんな感じで周りの歌声に合わせた方が、いい演奏になるよ」
燈「今までバンドじゃ人に合わせて歌うことなかったから、難しいけど。やってみるね、嬉歌ちゃん」
嬉歌「トモリちゃんは歌上手だから、きっとできるよ」
なんと。もう下の名前で呼び合う仲に。同じく見守っていたたきちゃんと驚き顔を見合わせる。
玲音「もしかして燈もネガティブ系?」
立希「は? なんですか急に」
クマ「れ、レイレイ先輩は馬鹿にして言ってるんじゃなくて。私とウタちゃんは、ネガティブ仲間なの」
そよ「あ~……。もしかして、ともりちゃんも同じだから打ち解けたんじゃないか、ってことですか」
玲音「勘違いさせてゴメンね。ウタも元々人見知りで臆病だからさ」
なるほど、とたきちゃんとハモる。初めはお互いモジモジし合って、そうしてる間に同じ人種って察して意気投合した、ってことかな?
どうやらともりちゃんにとってはいい出会いだったみたい。さきちゃんのお裾分けが本当に果たされるとは。
彼女達が飲み物飲んで一息入れるタイミングを見計らって、宮崎さんが絡みにいった。
閏「お疲れウータン、ともりん! ウータンは意外に打ち解けてたやん?」
嬉歌「うん。トモリちゃんとは、波長が合うっぽくて」
燈「ともりん……」
閏「ともりんもあだ名嫌だった?」
燈「ううん。初めて呼ばれたから、驚いただけ……」
嬉歌「ウルルちゃんはすぐ変なあだ名つけるから、嫌だったら言ってね?」
閏「ウータンは守るものがあると強くなるんだよなー。いつもヨワヨワなのに」
嬉歌「あ、別にトモリちゃんを弱い物扱いしてるわけじゃなくて! でもよく考えたら私のような弱者に守られるだけで不快なのでは? ごめんなさい私そんな偉い存在でもないのに余計な出しゃばりして……」
表情を忙しなく変えてる小牧さん、1人でベラベラダラダラとめんどくさいムーブしてるなぁ。いや、昨日の仲介も似たような感じだったっけ。
ともりちゃんも変わってるけど。小牧さんも結構な変わり者らしい。
でも私には、他に1つ小牧さんについて強く印象に残ってることがあった。それはともりちゃんも同じだったらしい。
燈「嬉歌ちゃんって、全然違うね」
嬉歌「そもそも会ったばかりで私なんかに親し気にされること自体……え?」
この子、放っといたら一生自虐してそうだな。
燈「普段は、今みたいに怖がってるのに。歌ってると、キラキラしてる。別人みたいに」
そう。こんなに負け犬根性しみついた言動ばかりでみっともない感じなのに。昨日のライブでは、誰よりも目を惹きつけた。歌が特別上手いとかじゃない、容姿抜群なわけでもない。ただただ、誰よりも楽しそうに歌うのだ。
名前をこれほど体言した人もそうはいない。今と違って充実感に溢れ、羨むほどに嬉しそうで。そう、歌ってるときの小牧さんは、ウチのさきちゃんくらい無敵に見えたんだ。
歌ってるときだけどうしてそうなのか。100人中100人が予想できる答えを、小牧さんは明るい笑顔で言った。
嬉歌「歌うのが、好きなんだ」
燈「うん。すごく伝わってくる」
それで普通以下だったら小牧さんが分からなくなるよ。
嬉歌「トモリちゃんは? 素敵な歌声してるから、好きなのかなって思ったけど」
燈「私は……どう、かな。CRYCHIC入るまでは、好きじゃなかったけど。今は、楽しいかな」
嬉歌「そっか。トモリちゃんは、CRYCHICで歌うのが一番好きなんだね」
燈「うん」
迷いなく答えたともりちゃんは小牧さんとクスクス笑い合う。うーん、私たちが打ち解けるのに数日かかったことを考えると、なんだか悔しい気がしなくもない。
でも相性が良いことは間違いないから納得なんだよね。ちなみにともりちゃん大好きっ娘はどうかな?
チラっと隣を見ると、たきちゃんは真剣な顔して思案してるみたいだった。何か気になることでもあるらしい。
立希「あの、近衛先輩。これは悪口とかじゃないんですけど」
玲音「うん?」
立希「小牧さんって、決して歌が一番上手いわけじゃないですよね。上手さでいうなら、1stの繭森さん、だっけ? あの人の方が上手い」
昨日のオリジナル曲のライブで一部リードを担当していた繭森さんを思い出す。抜群の声量で響かせるハイトーンボイスの歌声は、分厚い雲すら突き破る美麗な閃光のようだった。
玲音「ムスブはお母さんが声楽のプロで、英才教育受けてる絶対音感持ちだから。しかもプロ志望」
そよ「まさにサラブレッドですね」
プロ志望、というワードには触れないで置いた。なんとなく、近衛先輩の表情がやつれたように見えたから。
気のせいかもしれないけど。『プロ志望を公言しながら強豪でもない部活でストイック貫いてる』という情報が、触れると 空気が軋む気配を漂わせてる。
立希「その繭森さんじゃなく小牧さんがリードボーカルしてるの、不思議と不自然じゃないんですよね。妙な存在感があってバンドとしてもバランスが良い、というか」
玲音「ウタの才能はムスブと比べて地味なんだけどね。あの子は周りの歌い方に凄く敏感なんだ。誰がどう考えて歌ってるかまで、歌いながらなんとなく直感してる」
そよ「そんなことって、できるものなんですか?」
玲音「私も驚いたよ。でも本人から言い当てられると、信じるしかなくてね。まぁそんなわけだから、調和が他の声楽より重要で難しいアカペラにおいては、ウタはフロントに向いてる」
立希「なるほど……でも歌声じゃなくて、歌い方、ですか……」
玲「私も気になって調べたり聞いたりしたんだけど。口の開き具合や呼吸とかに意図が現れるものなんだ。ウタはいつも周りの顔を見て歌ってる。だから、自然とそういった情報も汲み取ってるんだと思う」
言われてみれば確かに。口を大きく開けば歌は強くなるから、前に出たいということだし。息を抜くように薄くすると、目立たない響きになるから後ろに引きたい、と受け取れる。
理屈で言われると分かるけど、それを自分も歌いながら情報処理するなんて、私には想像上でもできない。見た目以上になかなか類まれな才能の持ち主みたいだった。……すんごい臆病でいちいちビクついてる姿見てたらそんな凄い人って思えないけど。
そんな小牧さんを、たきちゃんは観察するように注目していた。本当に普段あまり触れない音楽から見識を深めようと真剣なんだろう。どこで何をしてようと、真面目でストイックなのがたきちゃんだなぁ。
そこで私たちの会話はひと段落したところで、再びリード組に注目した。
閏「さてと。ウータン達は大丈夫って分かったから、もう1方の心配組も様子見にいくかねー」
嬉歌「ムスブちゃんによろしく。あ、伝えたら『それより自分のことに集中しろ』ってまた怒られちゃうからやっぱやめて」
燈「こ、怖い……。嬉歌ちゃんが怖がりなのって、その子が原因なんじゃ……」
どうももう一方の1年生も個性的らしい。私は最後の1年生、色んな意味でたきちゃんみたいな子のいる場所へ目を向けた。