CRYCHIC交響曲   作:りょーへい

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間奏曲3番 交流パート③

 

〇1stコーラスパート 睦×結

 

 繭森結さん。

 首の後ろで2つに結んだ、長い黒髪。気の強そうな吊り目。笑う機能ないんじゃないかってくらいの、クールな真顔。

 あー、すっごいたきちゃんだなー。

 

立希「……何こっち見てんの?」

そよ「そうやって睨んでると、余計にあの子……繭森さんぽいよ?」

立希「だー! うるさいうるさい! 私は私! 外見が誰に似てようと知らない!」

 

 どうも自覚はあったらしい。まぁこっちの方がまだ表情豊かだから、まだマシだと思うけど。外見についてはね。

 さてさて、中身の方はどうかな。リードを担当する繭森さんに、むつみちゃんがコーラスする練習が一段落ついて話を始めた。

 

結「そんな感じ。1stはリードに字ハモする機会一番多いから、コーラスに調和するだけじゃなくてリードとも息合わせて。リズム担当のベースにも注意しながら」

睦「……つまり、全部意識する」

結「そう、全部」

睦「……要求レベル高い」

結「私、音楽のことで妥協できないの」

 

 ザ・ストイック。それを相手にも要求する遠慮なさ。それを全く悪びれないし当たり前とすら思う、我の強さ。

 ここまで尖ってないとはいえ。まぁ似てる似てる。

 

立希「だからこっち見んな!」

そよ「私さっきから何も言い出してないのになー。たきちゃんこそ図星なんじゃなーい?」

立希「クソッ、未来の鏡見てるみたいで背中かゆくなってくる! 一歩間違えればあぁなりそうで……でも間違ってないと思うことすらなんかモヤモヤして……わけがわからん!」

玲音「頭グシャグシャしてすんごい苦しんでるけど、大丈夫?」

そよ「ただの同族嫌悪だと思うのでお構いなく~♪」

クマ「そんな軽く流して大丈夫なのかな……」

 

 心配そうな近衛先輩と熊井さんを制して放っておく。これから先たきちゃんがどうなるかも見ものだし、人が自分自身と出逢って苦しむ姿は貴重だから、見ててなんだか面白い♪

 

(……同族嫌悪……)

 

 やっぱり様子見てフォローしてあげよう。

 とりあえずたきちゃんはそっとして、視線を移す。たきちゃん似の繭森さんに、むつみちゃんが話しかけてるところだった。

 

睦「……繭森さんは、歌上手い」

結「当然。私はいずれ、母親と同じ声楽のプロになるから」

睦「……正統派なボーカリストとして、上手過ぎるくらい」

結「……何が言いたいの」

睦「……プロ目指してるのに、どうしてアカペラ部やってるの?」

結「それは……」

睦「……そこまで音楽にストイックで上昇志向強くて。……何より、才能があるのに。アカペラで上を目指すバンドならともかく、学校の部活やってるのが、ちぐはぐで違和感」

 

 プロ(一流)を目指せる圧倒的な才能も、おそらくコネもある。なのにどうして寄り道みたいなことしてるのか。

 触れづらいことにツッコんでいくむつみちゃん。私はむしろ、そんな彼女に強い違和感を抱く。

 むつみちゃんは基本的に無表情の子。だから表情からあんまり読めないこともあるんだけど。私たちと関わるようになって2年弱で、その無表情も結構色づいてきた。

 でも今は、初めて会った頃くらいに無色過ぎる。繭森さんに向けている瞳が、心なしか揺れてるように見えることしか、読み取れない。

 そんな、どこか調子のおかしい彼女に対して。繭森さんはふっ、と表情を和らげた。

 

結「なつかし……」

睦「……え?」

結「前まで、私もそう思ってた。部活程度の音楽させようとする母親が理解できなかった。意味があると思えなかったから。でも、あった」

睦「……」

結「私はアカペラで将来食べていこうとか考えてるわけじゃないし、いつかこの連中とも離れて全然違う道をいくと思う。それでも、私はテトテを、このアカペラ部をやめない」

睦「……なんで、って聞くのは野暮みたいだね」

結「なら言わんでいいでしょ」

 

 最後にニコリと、いやニンマリと笑ったむつみちゃんを見届けて。私はふぅ、と肩を楽にした。よく分からないけど納得か安心か、気持ちの置き場を見つけた感じ、かなぁ?

 と、全く同じタイミングで溜息が横で吐かれた。なんとなくたきちゃんと顔を合わせるけど、お互い苦笑だけ交わしてそれ以上は触れなかった。

 2年近くバンドして特別な仲になってきたのに。それでも踏みこめない一線があるのを、私も、たきちゃんですら勘付いていた。

 

 なんていう空気を読まずにか、読んだ上でか。宮崎さんが一際陽気に絡んでいった。

 

閏「ウェーイ、オムスビ! 大人しそうなムッツン、イビってNAイだろうNAー?」

結「練習中に絡むな!」

 

 アメリカンだったり、よく分からない語尾だったり。絡み方にバリエーションある子だなぁ。月ノ森じゃまず見ない子なのは間違いない。

 

睦「……繭森さんは、大丈夫」

閏「お、ムッツンと仲良くなってんだ。ウータンもだけど、意外とやるじゃんおむすび」

結「大きなお世話。ていうか、私ら仲良くなった?」

睦「……ウチにね。繭森さんみたいな子がいるから。愛着湧くぐらい馴染む」

 

 むつみちゃんは本当に愛おしそうに繭森さんを見て、そんな彼女に繭森さんが引いていた。

 そうして話題に巻き込まれると思ったのか、遠距離ツッコミする子がこちらにいる。

 

立希「おい睦! わざわざ私のこと引き合いに出さなくていいでしょ、練習に集中しろ!」

結「あんな遠くからわざわざ絡むとか……。まさか私がアレに似てるなんて言わないでしょうね」

立希「聞こえてんぞ! 何がアレ呼ばわりだ、そっちの方がよっぽどアレでしょ!」

結「は? 私のどこがアレっていうつもり?」

立希「はい自覚なしー。この時点で私の方がマシだからー」

結「ムカツク……何であいつ、一方的に喧嘩ふっかけて勝手に勝ったつもりでいんの? 売られた喧嘩は買う主義なんだけど」

立希「だから私はお前じゃないんだから、そんな荒っぽいことしないんだよ。そういうとこだぞ」

結「はぁ!? さっきからその問題児扱いは何なの!?」

閏「いや……割と間違ってないやん?」

睦「ぷぷぷ……立希が分身して自分自身と喧嘩してる……急いで動画に残さなきゃ……」

閏「はっ、確かに! なんでこんな面白シーン撮ろうとしてないんだ私! 配信者失格か!?」

立希、結「人の喧嘩をネットにあげようとすなー--!」

 

 全く同時に同じ熱量の絶叫ツッコミが部室に響いて、大半は笑いを堪えるのに必死だった。もう練習なんて雰囲気じゃない。

 同じく肩と顔を震わす勢の1人なのに、さきちゃんが珍しく窘めにかかる。

 

祥子「た、立希も睦も……お、教えを乞うてる立場で、し、失礼ですわよ……ふっふふっ……」

 

 遊ぶときとかは一番アレなくせに、音楽になると切り替えるさきちゃん。しかも外ではお嬢様らしく礼節も重んじるから、リーダーとして気を張ろうとしてるんだろう。いつもCRYCHICじゃこういうの、たきちゃんの役だったからね。

 

愛莉「あははははっ、いいよいいよー。丁度1時間くらい練習したし、このまま休憩にしよっかー。それにしても、ホント面白い……ウルルちゃん、私にも後でデータちょうだーい?」

結「だから撮らせないって言ってんでしょ!」

 

 こうして、愉快な雰囲気で談笑に向かって行くCRYCHICとアカペラ部なのでした。

 ……年上にもタメ口なところは、確かにたきちゃんより問題児っぽそうな感じはした。

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