完全自己満で書いた自分用の余談です。お気に入りのキャラを全員出して本編中の伏線全部畳んで最後に未成年飲酒キメてあの2人の儀式で締める。1話1万字×6話程度の番外編です。
〇ライブ後のCRYCHIC
3000人分の熱気も、ライブ後の余韻もそろそろ引いてきた頃。夕陽もすっかり落ちて、照明もない野音会場は濃紺に沈んでいた。
後片づけも終わって、これから打ち上げ場所に移動しなければならない。なのに私たちは、まだ野音のステージに立っていた。さきちゃんがステージと客席側の境目、舞台ツラに腰掛けたまま黄昏ているから。
4人で彼女に近寄る。
そよ「さきちゃん。浸りたい気持ちは分かるけど、そろそろ行かないと待たせちゃうよ?」
祥子「……なんだか夢みたいというか。離れ難くて……」
立希「めっちゃ分かるけどさ、たぶん寝るまでその余韻引かないって。一晩中ここにいるわけにもいかないでしょ?」
祥子「みんなとは、少し違いますわ。だって……もう二度とみんなとライブできないと、覚悟したときだってあったんですもの」
立希「……おい」
たきちゃんが低い声で咎める。ライブ後の余韻を壊す台詞だからか、それともまだバンドから離れようだなんて考え自体が気に食わなかったか。
彼女に振り返ったさきちゃんは、困ったように微笑む。
祥子「怒らないでくださいまし。本当に、
仕方ないので、3人でたきちゃんが暴れないよう抱き抑え込む。「暑いんだけど……」という文句はお互い様なので無視。
祥子「あのとき、私はみんなを豊川家に巻き込まないよう身を退くつもりでした。でも、離れたかった理由は少し違うんです」
立希「どういう意味?」
祥子「私は、みんな
たきちゃんの身体から力みが霧散する。私も相槌が打てなかった。冷静に考えると、そうなってもおかしくはない。
さきちゃんは私たちから客席側へと顔を向ける。
祥子「私にとって、初めて出来た純粋な友達で、大好きなみんなで。そのみんなから離れていかれたら。もう、前のように生きていける自信はありません。耐えられないのです。いつそうなるか分からない不安にさえ。だから……」
だから、自分から離れようとした。結果は一緒でも、きっと主観じゃ全然違うと思う。だからって思い切りがよすぎる。心臓を守るために自分で首を斬るみたいなものだよ。
そんな彼女を10年近く見てきた幼馴染が補足する。
睦「……昔から祥に近づく同年代は、豊川家にすり寄ったり利用しようとする子ばっかりで。豊川っていう名字が前提の付き合いは祥も弁えていたから、カラオケ行ったり買い食いしたりする純粋な友達なんて、作れるわけなかった。そんなの、大財閥の令嬢には夢過ぎる」
両親が有名芸能人の子がいうと、説得力は金塊みたいに重かった。そりゃ、世間知らずにもなる、よね。私は喉の中でもつれる想いを言葉にできず、いつになく弱々しいさきちゃんを見つめることしかできない。
二つ結びされた水色の髪が力なく垂れる。下向きにこぼされる言葉も、誰もいない野音会場ではよく聴こえた。
祥子「立希の
私たちはもうたきちゃんを押さえていなかった。それどころじゃなかった。一般家庭が束になっても届かないほどの資産家に生まれるというのがどういう運命なのか。その重みに潰されないよう足を踏ん張らせないと、もう彼女の隣に並び立てない気がした。
さきちゃんが顔を上げ、客席の向こう、エントランスの方を見据える。私たちがこれから辿る道筋。
祥子「みんなはこの命より……いいえ、この命ぐらい大切な存在ですわ。だからこそ、もう2度と私の家なんて無関係なことに巻き込みたくないと、思ってしまうのですよ。もし、また同じことがあれば。私は……やはり、私は……」
起きるかどうかも分からないことでやめたりはしない。でも、万が一それが起きたらと考えずにはいられない。
膨れ上がって止まらない不安が再びさきちゃんを覆い尽くしてる。どうしたらもうそんなこと考えずに済む? どうしたらさきちゃんがずっと笑っていられる? ……おもいつかない。呑気に生きてきた一般市民が慌てて頭を回して、大財閥令嬢の世界に届くわけない。
それでも何か言わなきゃと言葉を探す私の横で、颯爽と風が通り過ぎた。
立希「祥子」
まっすぐさきちゃんに歩み寄るたきちゃんは、彼女の隣に腰掛ける。そちらへ向くさきちゃん。たきちゃんは顔を反動つけるみたいに後ろへ引き——
立希「フンッ!」
祥子「痛ッ!?」
ゴン! と鈍い音を立てて、頭と頭がぶつかった。何か励ましたり慰めたり、対話するものだと油断していた私は、慌ててむつみちゃんと一緒に乱暴者へ急行する。
そよ「なんで頭突きするのたきちゃん!」
睦「……話聞いてなかった? 祥は立希みたいなド庶民と生きる世界が違うの。SPいたら袋叩きにされてるよ?」
立希「う、うるさい、ド庶民いうな。私は怒ったらフツーに怒る。庶民も貴族も関係ない」
さきちゃんと同じく額を押させるたきちゃんは涙声だった。そうなるのは目に見えてるんだからしなきゃいいのに。
そんな2人の額を、ともりちゃんは心配そうな顔でさすってあげていた。黒髪の方はそんな気遣わなくていいと思うけど、それがともりちゃんか。
祥子「お、怒らないでと言ったじゃありませんか! なんて乱暴なんですの!」
立希「私だって痛いんだからお相子でしょ、この石頭め……」
祥子「言う事欠いてなんて言い草ですの!」
立希「おまけに頭でっかち」
祥子「頭の大きさを言ってるのか、考えてばかりのことを言われているのか分かりませんわ!」
今度は頭を押さえて狼狽えるさきちゃん。大丈夫、さきちゃんは顔大きいルックスしてないから。今そんなこと気にしないで、話がこんがらがる。
立希「実際いつまでも余計なことぐちゃぐちゃ考えてばっかじゃん。1人で」
祥子「いま話したではありませんか~……」それはそう。
立希「それでも殴る。ムカついたから」
睦「……理不尽」
そよ「殴っただけじゃたきちゃんの方は頭足らずだよー?」
立希「頭突いて終わりなわけないでしょ。——祥子」
祥子「な、なんですの?」
両方の頭を撫でていたともりちゃんの手を、たきちゃんは優しく取って外す。
迷うように瞳を左右に彷徨わせたあと、意を決したように咳払いして、さきちゃんに真っすぐ向き合った。
立希「私も、豊川になる」
祥子「……………は、はぁ?」
燈「えっと……立希ちゃん、祥ちゃんと結婚、するの?」
立希「な、なんでそうなんの!?」
そよ、睦「いや普通にそう受け取れるから」
祥子「な、なんですってぇ!? 貴女、私のことを、そんなに……お、落ち着きなさい、今は愛に性別など関係ない時代ですが、それにしたって今年でまだ16……できますわね」
睦「……祥。最近じゃ、女性の婚姻開始年齢も18からになったんだよ」
そよ「そもそも日本じゃ同性婚認められてないからね。残念だったね、たきちゃん」
立希「だから……そんなわけないでしょ」
そりゃ分かってるけど。こんなシリアス場面でそんなトンチキ発言飛ばすたきちゃんが悪いんでしょ。
ということでテイク2。今度はまだ分からないでもない言い方だった。
立希「あれだよ、あれ……義兄弟!」
睦「……盃?」
立希「酒交わすどころか口約束だけど。私も豊川の一員になれば、もうこいつに巻き込まれるもクソもないでしょ」
そよ「……はぁ~」
立希「なに、文句あんのそよ?」
そりゃ何か言いたくもなるよ。何て言えばさきちゃんの不安がなくなるか必死に考えてた私が馬鹿みたいだもん。でもそう言うと何だか悔しいから、馬鹿なのはたきちゃんの方にしようっと。
そよ「いや? いつ何時も不器用極まりないなぁって。平坂組員のノリが伝染ってるんじゃない?」
立希「あんな馬鹿じゃない。それにしょうがないでしょ。今回みたいなことがある度にやめる~なんて言われたり、クヨクヨ悩まれたらやってられない」
そよ「ま、それもそうだね。あと、たきちゃんだけ
睦「……私は元から豊川ファミリーみたいなものだから」
燈「ふふっ。じゃあ、私たちは豊川組だね」
そよ「やくざの方向やめよ? 普通に義理の娘でいいの」
四代目や錬次さん、平坂組のせいで。ウチのピュア担当がピュアなまま裏社会に馴染んでしまった。
なんて嘆きはしまっておこう。今大事なのは、もうさきちゃんを1人で悩ませないこと。家族なら、無関係と遠ざけられる謂れも、阻まれる垣根もない。
もしかしたら。大昔にそんなしきたりを作ったやくざも、そうやって誰かを助けたかったのかもしれない。
私はたきちゃんの隣に座った。さきちゃんの隣にむつみちゃんが、そしてともりちゃんが座っていく。
祥子「…………みんな」
立希「お前の大好きな両親もおじいさんも、どうせ文句言わない。私達は孫娘同然だからね。だから……もう諦めろ、祥子」
戸惑いの表情で私たちを見回すさきちゃんに、たきちゃん自身が観念したような声色で諭す。
立希「私達はどうせ、お前っていう運命から逃げられないんだよ」
さきちゃんは顔を硬直させて、少し苦味が滲んでいく。それくらい酷な重荷にはなりたくなかったんだろう。私たちと離れることになったとしても。豊川祥子という完璧令嬢は、そういう優しさを持つ子だから。
でも、たきちゃんの言う通りだよ。こんなことになりたくなかったら、出逢う前に遡って全部無かったことにでもしないと。
祥子「ふふっ、無茶苦茶ですわ。私の家にあやかろうとする者は大勢いましたが。……家の宿命だけを自ら背負い込もうとする大馬鹿者は、貴女だけでしたわ。立希」
立希「大げさにいうな、ただのごっこ遊びなんだから。これ以上お前が面倒くさいこと言わないようにって……」
祥子「立希」
さきちゃんはお返しの頭突きをする。コツンと、優しく。
祥子「ありがとう。貴女に逢えて、本当に良かった。貴女が椎名真希の妹でよかった。貴女がドラムをやっていてくれてよかった。貴女が……私の友達になってくれて……何があっても離れないよう縛ってくれて……私は……」
立希「……はいはい」
言葉にならない想いを小さく遮って、たきちゃんはその頭を胸に抱く。もらい泣きしそうだったし、泣いてもよかったのかもしれない。でも、今安易に泣くのはなんだか違うと思った。
だって。
グゥ~。間抜けな音が、さきちゃん辺りから響いた。
立希「……祥子。お腹減ってるんだったら気取ってないでとっとと打ち上げ向かえばよかったでしょ」
祥子「き、気取ってませんわよ! 今、今お腹が減ったんですの! おかげさまで!」
そよ「はいはい、それじゃあ今度こそ行こっか」
燈「はなまる、だよね。ニートのみんなも、いるのかな」
睦「……騒がしくなりそう」
あの愉快な場所に、フェケテリコと私たちとニートが集結するのだから、そりゃ騒がしくもなる。やっぱり今センチになり過ぎると、きっと落差が酷いよね。堪えてよかった。
祥子「さぁ、行きますわよCRYCHIC! 今日の大成功を、ラーメンと絶品アイスで盛大にお祝い致しましょう!」
立希「連続ライブの、それも野音ライブの打ち上げがラーメンっていうのもなぁ」
睦「……中華かもしれない」
そよ「どっちでもいいけど、アイスは楽しみ♪」
燈「うん。大勢でライブの打ち上げなんて、初めてだから。なんだか楽しそう」
楽しいで済んだらいいなぁ。でも、何だかワクっとする私も心の片隅にいるわけで。
きっとライブの大成功に浮かれているからだと思うことにして、みんなと野音ステージを後にした。
〇三代目夫妻
それは、野音のエントランスを抜け出ようとしたときのことだった。
出入口付近に男女が立っていた。男性は40歳ぐらいだろうか、中年でスラッとした感じ。その人に腕を絡ませる女性はたぶん20代半ばくらいなのだけど、髪もメイクも派手で、かなり短いミニスカートだしその色合いもけばけばしい。言っちゃ悪いけれど、お水系の人って感じ。なら男性の方はお客さん、かな? こういう状況、確かドラマでは同伴とか言ってたような……。
なんて、勝手に関係性を勘ぐりながら男女を見ていたら、男性の方と目が合ってしまった。しかも何故か、気さくに話しかけてくる。
「おぉ、きみらがCRYCHICか! 見とったでぇ、ごっつ盛り上げとったやないか」
「めっちゃエェライブやったでぇ! あ、遠くからでも分かったけど近くで見ると可愛ぇ子たちやなぁ。マブいわぁ」
「マブいは死後やで理佳子」
理佳子「ホンマ!? 玄ちゃんどないしよ、オバさんなのバレてまう~!」
絡まれた、と言っていいんだろうけど。私たちを放って勝手に盛り上がってるから、反応返しづらいなぁ。愛想笑いだけ返して通り過ぎようかと思っていたら、玄ちゃんさんの表情が渋くなった。
玄ちゃん「けど嬢ちゃんたち、暗なってきたのに自分らだけでほっつき歩い取ったら危ないやろ」
理佳子「ホンマやで、特に今の大ロリコン時代にこーんなめんこい子たちが5人も揃ってたら秒でハイエースもんや、もちょっと気ぃつけんと」
そよ「え、えっと……ありがとう、ございます?」
燈「はいえーすって、何?」
睦「……拉致に使われる車の多くがハイエースっていう車種なの。つまり、攫われるってこと」
立希「ま、まぁライブ終わった後だからって、確かに気抜き過ぎかもだけど……」
祥子「ちょ、ちょっと! さっきの今で怖いこと言わないでくださいまし!」
玄ちゃん「怖いもなんもないで。
理佳子「そやでー。前はツキでなんとかなったようなもんやろ?」
そよ「そ、それは確かに……え」
余りに話が自然と噛み合ってるから、気付くのがワンテンポ遅れた。まるで私たちの事件を知ってるみたいな違和感のない会話。
でも、それを疑問にして訊ねることはできなかった。
「ミツケダァ!」
喚き声がこちらに飛んできた。憶えのある狂気感に反射で振り向くと、4,5人ぐらいの男たちが走り寄って来ている。
「あれから組員もほとんどパクられたんだ!」
「組潰された落とし前はお前らにつけさせる!」
柄の悪い服装、手には凶器、中には目の焦点がおかしな人。間違いない、敵やくざの、生き残り……!
地獄を乗り越えた経験値か、私たちは恐怖で凍り付くことなく即座に動けた。
そよ「逃げるよ!」
立希「アンタたちも走って!」
祥子「薬物服用しているやくざです、とにかく捕まらないことだけ——」
理佳子「あぁ、大丈夫や。むしろここでちょっと待っとき」
燈「何言って——」
睦「……え」
走り出していたむつみちゃんが、顔だけ振り向いた後立ち止まった。「睦、何して——」と、たきちゃんも声を飛ばして、止まる。
私はその後に振り返ったから、最後しか見えなかった。いや、それもほとんど見えていなかった。
玄ちゃんさんにナイフで切りかかった男が、直角に吹き飛ばされて道脇の植え込みに突っ込んでいた。何か迎撃行動があったはずなのに、腕が何かが動いたような気がする、程度しか見切れなかった。錬次さんや四代目のよりも速い。いや、巧い?
植え込みの方を見ると、複数の手足が見える。全員そちらに吹き飛ばした、のだろう。私たちが瞬時に逃げようと数歩走り出した合間に。ただの中年男性でないことだけはよく分かった。問題は、敵か味方か——
玄ちゃん「安心せぇ。わしは嬢ちゃんたちの敵やない。むしろある意味仲間っちゅーか、戦友っちゅーか……まぁ、成り行き次第じゃいつ敵同士になるか分からん業界やけど……」
私に目を合わせて話始めた謎の手練れ中年は、後半さきちゃんの方へ気まずそうに向けられる。私たちを襲う敵じゃないのは、当たり前か。流石にテンパって、助けた相手さえ疑ってしまっていた。
いつの間にか理佳子さんは玄ちゃんさんの元へ、飄々と歩み寄っていた。
理佳子「こいつらが例の残党?」
玄ちゃん「間違いないやろ。——ほら、コレ。胸ポケットに入っとった」
理佳子「コレがなぁ……」
玄ちゃんさんは手に握っていた袋を理佳子さんに見せている。中にピンク色の丸い錠剤。
玄ちゃん「エンジェル・フィックス、やったか。こんなもんこっちにまで回るほど拡げられたらいい迷惑や、あの未熟モンにはきっちり始末つけてもらわんとな」
理佳子「そんなこと言って~ん。ホントは今年のライブイベントも褒めてあげたいんやろ~?」
玄ちゃん「アホ。ワシが褒めるとしたらフェケテリコと、この嬢ちゃんたちだけや。——よく
袋を胸ポケットにしまいながら、こちらに愛嬌のある笑みを向ける玄ちゃんさん。色々ついていけない私たちには、素直に受け取れるほどの余裕はない。
祥子「貴方がたは、一体……?」
玄ちゃん「でもな、祥子ちゃん。理佳子が言った通りや。ご両親や定治さんに心配かけるようなことしたらあかん。あんなゴロツキに関わるのもこれっきりにしとき」
祥子「おじいさまのことまで……貴方、もしや……」
理佳子「はい、お説教お終い! これから打ち上げなんやろ? これ以上楽しい気分に水差すもんちゃうで、玄ちゃん」
玄ちゃん「それもそうやな。嬢ちゃんたち、駅まで送ったるからちょっと待っとき。こいつら回収させんのに、電話一本かけるわ」
立希「は、はぁ……」
それから電話が終わるまで、理佳子さんのマシンガントークに愛想笑いを盾にして付き合った。「ウチなぁ、こう見えても出産したばっかりやねん! 2人目! 女の子でな、名前はちーちゃんゆーてな、上の子と20離れてるけどいつか4人で家族麻雀するのがウチの夢でなぁ! あ、そうそうこう見えてもウチ43やねん、高齢出産やで、すごない?」『43!?』「え、5人とも年にそんな驚いてくれんの? やっぱりウチって相当若くて美人に見えるんやなぁ。前にこっち来た時もしょっちゅうナンパされてな、そしたら玄ちゃんが高校生の男の子ナンパしててな、浮気やと思ったらその子が——」「終わったし、行くで」
こうして、7人で霞が関へ再出発した。ウンザリした顔の玄ちゃんさんがため息を理佳子さんへぶつける。
玄ちゃん「理佳子、あんときの話はやめぇや。せっかくの打ち上げ気分も台無しなるて」
理佳子「え~~~!? アットホームで和気藹々なオモシロ話やーん」
玄ちゃん「そんなんよりまた案内してもらお。嬢ちゃんたち、ちょっと電車の乗り継ぎ教えて欲しいんやけどなぁ」
そよ「えぇっと、どこに行きたいんですか?」
玄ちゃん「水天宮や。前も教えてもらったんやけど、東京は慣れんで、憶えとれんわ」
睦「……私の出番」
立希「検索するくらい誰でもできるわ」
理佳子「おっ、そのスムーズなボケとツッコミは! やっぱり2人は漫才もするん!? ライブのMCでも思ってたけど息ぴったりやもんなぁ!」
立希「漫才しませんて」
睦「……なんでやねん」
立希「ボケてないしホントに漫才コンビでもないし私はいつもお前のボケに構ってやってるだけでしょ!」
そよ「って感じで、全部拾ってくれるので……」
祥子「CRYCHIC自慢のコンビですわ」
燈「いつか、ライブで漫才しちゃうのかなぁ」
立希「なんでやねん!」
たきちゃんが手首のスナップを効かしてともりちゃんの天然ボケにツッコミ入れている間、むつみちゃんは路線乗り換え案内の画面をお2人に見せて説明する。そんなくだらないお話を道中にして、駅に着いたら私たちは別れた。
列車に乗っても、色々と強烈だった2人は私たちの頭にくどく残っていた。
燈「結局、誰だったんだろうね」
そよ「さきちゃんのおうちに詳しそうだったけど」
祥子「……昔、グループのパーティーに参加したとき、似たような人とご挨拶を交わしたような……」
立希「令嬢してんなぁ。てかいっつもそんなの出てんの?」
祥子「豊川家として特に大きな意味合いを持つときだけですわ。そんな会合に来られる方だとしたら……」
睦「……豊川と同じクラスの資産家か何か?」
立希「あぁ、おじいさんともなんか親し気って感じだったしな」
そよ「私たちもよくそんな人とピンポイントに出逢うよね。関西の人だろうに」
睦「……関西……大阪弁……大阪……」
燈「大阪……錬次さんが去年からいたとこで、確か、四代目がそこから逃げてきた、って……」
何か繋がりを見出してしまい、何となく沈黙する私たち。もやもや~っとテツさんの台詞を思い出す。『四代目はデカい商家の生まれで~……』
……。
そよ「ま、まぁ……アレだよね! 証拠もないのに決めつけはよくないよね!」
立希「これ以上めんどくさい関係に関わってもアレだしな」
睦「……打ち上げに切り替えよう」
祥子「そういたしましょうか。……何か引っかかるところがあったような気もしますが……」
立希「もうよくない? 流石にもう会わないって」
睦「……こんな東京砂漠で3回も錬次さんと出逢ってしまった以上、フラグになりかねない」
燈「錬次さん、かぁ。打ち上げに来たりしないかなぁ」
そよ「あの人スタッフでもなんでもないでしょ」
祥子「まぁ私達が噂をすれば現れる人というジンクスは出来上がってしまいましたが」
燈「ふふっ。じゃあ、会えるといいなぁ」
あんな暴力とニート要素でできた人によく懐けるなぁ。……あぁ、ニートの鑑みたいな子と友達だもんね。
そんなニートが発端となって、飲み会に来そうなニートを予想しつつ、私たちは渋谷駅を降りてラーメンはなまるに向かった。
なお、後日平坂組事務所を訪れた大財閥の会長様に、組長ではなくその弟分が相当詰問されたという裏話は、表の住人たる私たちの耳には当然入らなかった。ちなみに組長は体よく相手を押し付けて逃げおおせたらしい。弟分の、見た目からは信じ難い女性関係を撒き餌にして。大事な孫娘に手を出していないか、という詰めもあったとか、なかったとか。あ、知らない話だった。忘れよ忘れよ。
〇はなまる到着
彩夏「あ、CRYCHIC来た! お疲れ様、ライブすっごかったよー!」
そよ「ありがとうございます♪ 配信見てくださったんですね」
はなまるの店脇のスペースは、今日の打ち上げで貸し切りらしい。
お店に着いた私たちは、テーブルに座っていた彩夏さんに明るく元気な笑顔で迎えられる。その隣には——。
彩夏「アリスの部屋で、もう1人の子と一緒に3人で! ね、すごかったよね、アリス」
アリス「その後満を持して登場したフェケテリコに全部持って行かれたけれどね」
立希「そりゃしょうがないでしょ、私たちはあの人たちの前座なんだから」
引きこもりなアリスちゃんがいるかどうか微妙だったけど、予想はできたので、予想の範疇な台詞に苦笑いしながら私たちも同じテーブルにつく。
ともりちゃんがアリスちゃんの隣に座りながら、不安気に伺う。
燈「えっと、
アリス「……それでも、生半可な演奏じゃメジャーバンドの前座なんて務まらない。あれが、CRYCHICなんだね」
燈「……うん」
偏屈引きこもりの精一杯な譲歩は、何とか純朴不思議ガールに伝わったらしい。2人の微笑み合いを見守っていると、爽やかなマスクを被ったヒモが寄ってきた。
ヒロ「いやホント、フェケテリコが喰われかけるくらい盛り上がってたよ。俺もすっかりファンになっちゃった。これからもライブ観にいきたいからさ、みんな連絡先——」
彩夏「もーヒロさん! ライブと個人の連絡先は関係ないでしょー!」
アリス「ヒロ。この子達に手を出すことはぼくに手を出すのと同義だと思いたまえ」
ヒロ「じょ、冗談だって。挨拶代わりのヒモジョーク」
睦「……初めて聴く言葉」
祥子「この方にしか使われないでしょうね」
せめてこの人から広まらないで欲しい。この世界の半分のために。
ヒロ「ちゃんとCRYCHICに用事もあったんだよ。平坂組員から動画でメッセージ預かってきたんだ」
燈「四代目、から?」
ヒロ「あいつはそんなガラじゃないだろ。手下たちだけだよ。ほら」
ヒロさんがテーブルにスマホを横向きにして置く。画面には黒Tシャツの男たちが20人くらい映っていた。みんな、手を後ろで組んだ姿勢で。
一番手前に電柱さんと、岩山みたいに横に大きな人が2人で並んでいた。組の幹部みたいな貫禄を感じる。
こうして、電柱さんと岩男さん(ヒロさんがそう教えて(?)くれた)のメッセージが始まった。
電柱『CRYCHICのみなさん! 平坂組っす!』
岩男『うっす! 組員全員揃ってます!』
立希「ねぇ、なんで敬語なの?」
ヒロ「すぐ分かるよ」
岩男『ライブ、マジ感動しました! すげぇ……すっげぇ良かったっす!』
『言葉にできねぇ……!』『言語化できねぇ馬鹿ですいやせぇん!』『フェケテリコも凄かったのに、全然演奏が記憶から抜けねぇっす!』『CD欲しいっす!』『それな! 壮さんや兄貴何とかしてくんねぇかな』
後ろの組員たちもヤイヤイ叫ぶ。この人達らしい、単純で有難い称賛だった。私たちはつい笑い合う。
電柱『あんな事件があったのに、負けずにすげぇライブぶちかましたCRYCHICさんに、俺たち惚れこみました! 姉御と呼ばせてください!』
おや? 風向きが馬鹿になりだしたよ?
『祥子の姉御!』『睦の姉御!』『そよの姉御!』『立希の姉御!』『俺たち、一生推させて頂きます!』『ライブにも全部特攻します!』『命がけで応援します!』『他の客全員ぶっとばすぐらい応援します!』
よし出禁にしよう。彼らにはネット越しで応援してもらう以外の形は許しておけない。
でも、お馬鹿な感じで終わりじゃなかった。最後に残された彼女へ、電柱さんが真面目な顔で語りかける。
電柱『そして……燈の姉御。俺らの親が、世話になりました。——本当に、ありがとう』
岩男『諦めてた、あり得ねぇ夢を見せてもらった。……平坂組員一同、一生恩に着ます!』
『ありがとうございやしたぁ!』
前にもした、両足を開いて屈む、20人の漢たちの礼。映像はそこで終わった。何ともまぁ……平坂組って感じの余韻だなぁ。
燈「えっと……私たち、あの人たちの、お姉さんになったの?」
そよ「なってないよー。一方的にごっこ遊びしてるだけだから気にしなくていいんだよー」
立希「あんなのが姉御姉御ほざきながらライブ押しかけてきたらもうファンなんてつかなくなるし」
睦「……残念だけど、ライブはご遠慮願おうか」
祥子「さりげなく四代目に相談しましょう」
ヒロ「あ、じゃあ組の事務所でたまにライブしてやったら? 催事場みたいなスペースもあるから多分できるよ?」
立希「チケット代1人1万で」
そよ「ふっかけるねー」
祥子「しかし私達、あの方々にもお金に換えられないご恩がありますわ」
睦「……仕方ない。初回はプライスレスにしよう」
燈「そのときは、四代目たちも呼びたいな」
あの人いないと組員抑えつけられないからね。保護者は必要かな。
バンドの色に合わない客相手とはいえ、出来る限りは平坂組員向けにしようと、さっきまでの悪態とは裏腹にあれこれ案を出す私たちだった。