LYRICAL BLADE StrikerS ~BLADE FOREVER~   作:黒乃ツバサ

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第一話 新たな運命

 果てしなく広い真っ白な空間の中――

「……ハッ⁉」

 いつの間にか眠っていた意識を覚まし、突如として目の前の白い空間を目にした剣崎は自身の今に至るまでの事を思い出しながら振り返った。

「(確か俺は……始と戦って、自分がジョーカーとなってバトルファイトの決着を止めて……海へと飛び込んだんだ……)」

 世界の終わりを防ぎ、友である始を救うために人間であることを辞めた剣崎は、自らの運命と戦うため始と別れ、そのまま誰も知らないどこか遠くへと行くことを考えて海へと飛び込んだのだった。

 仲間に別れを告げずに去った事には後悔していたが、それぞれが平穏な日々へと戻り、始には人間の中での生をかみ締めてもらう事を望んだ彼にとって最善の選択を選んだと思った。……のだが、気がついた時には何もない空間にいてこれには戸惑いを隠せずにはいられなかった。

 ――その時だった。

「……!」

 アンデッド化によって普通では感じられなかった気配に気づいた剣崎は自分以外の『何か』の存在を感知し、その気配が背後から来ていることを知りその場から振り返った。

 そこには、捻じれた金属の塊のようなものが存在し、それは先程まで剣崎と始の前に現れて戦いを強いてきた、統制者の声を伝えるモノリスだった。

「(なんでコレが! ……ん?)」

 瞬時、剣崎は身構えたがそこで何かに気づいた。

 二人の前に現れた時のモノリスは真っ黒なものであって、剣崎の目の前にあるモノリスはそれとは逆に()()()なものだった。一瞬と白い空間のせいだと思ったのだが、金属であるものの輝くような白さであってあまりの印象の違いに剣崎は警戒を緩めてしまう。

『剣崎……一真……』

 突然とモノリスから声が発せられ、剣崎は後ろへと下がって今一度身構え、発せられた声の主を探るように話しかけた。

「だ、誰なんだ、アンタは……⁉」

 剣崎はあらゆる予想を浮かべながらある特定の存在の事を浮かび、その予想は声の主からの答えによって的中した。

『私ハ、オ前タチガ言ウ、統制者ト呼バレルモノ……』

「……ッ!」

 その瞬間、答えを聞いた剣崎は怒りを露わにした。

 攻撃こそされなかったが、自分たちの世界にバトルファイトの復活を促せ、始を苦しめてきた張本人を前に剣崎は自身の腹の内から込めた怒りをぶつけるように言った。

「アンタは……アンタはなんで始をあそこまで苦しめたんだ!」

『……』

「アイツの本当の願いを聞き入れずに……そんな奴が、俺に何の用だ!」

 怒りをぶつける剣崎を前に統制者は聞き取るように黙り、そして彼に思いもよらぬ返答を告げた。

『……ソレニツイテハ、マズ謝ラナケレバナラナイ』

「……は?」

 あまりの衝撃の発言に剣崎は開いた口が塞がらない状態に固まり、再び思考を再開して統制者に話し掛けた。

「なら……ならなんで! アイツの……始の願いを聞いてやらなかったんだ! 謝るぐらいなら……!」

『ジョーカー……奴ノ願イヲ聞キ入レラレナカッタノハ、私自身ガ封印サレテイタカラダ……』

「封印……されてた? どういうことだ?」

 統制者からの意外な回答を聞いて剣崎は困惑したが、統制者は自身と剣崎の世界に起こった出来事の真実を伝えるように語り始めた。

 統制者曰く、本来剣崎たちの世界を管理するのが目の前にいる『本当の統制者』自身なのだが、どういうわけか別の世界にも存在していた、破壊だけを望む統制者によって油断して封印され、そのまま傍観することしかできない状態にされたのだった。

 そして、剣崎たちが知る黒いモノリスでの統制者によってバトルファイトが行われ、その後は動植物が繁栄されて人類が誕生する結果となって終了したが、一万年後に大半のアンデッドが解放されたことでバトルファイトが再開され、『万能の力』を欲する天王寺という面白い人物を見つけて利用し、剣崎たちのバトルを引っ掻き回しながら最後にはジョーカーが勝ち残る結末を描き、人類が滅んでいく光景を嘲笑うように楽しもうとしていた。

『ダガ、オ前トイウ、モウ一体ノジョーカーガ生マレタコトデ、シナリオガ崩レタトイウコトダ……』

 ジョーカー二体の確認、それこそ破壊を望む統制者にとっての計算外であり、剣崎が去ったことでバトルファイトの決着が就かず、人類が滅ぶ結末が永久に見られなくなった。

 それによって統制者は剣崎たちの世界から去って別の世界へと破滅を導くために移動し、封印されていた本来の統制者は自由を得て剣崎を白い空間へと招き、白いモノリスを通じて現れたのだった。

「……それが本当だったとしても、別世界の統制者(そいつ)の言うとおり、残ったのは俺と始だけだ。今更出てきたって、その事実は変わらないんだ!」

『……確カニソノ通リダ。ダガ、オ前タチハ忘レテイルデハナイカ』

「忘れてるって、何がだ……?」

『アンデッドガ二体以上残ッテイルノナラバ、リモートノ能力ガ使エタハズダ』

「なっ……⁉」

 それを聞いた瞬間、剣崎の心には驚愕と同時に捨てたはずの希望が生まれた。

 決戦の直後でリモートを使ってたらみんなと離れることはなかったはずとも考え、解放するアンデッドで自身の戦う本当の理由を教えてくれた恩人であるクラブのカテゴリーキング、嶋昇(しま のぼる)の事を思い浮かんだ。

 しかし、統制者はそんな彼の心を読んでいるのだろうか、彼に更なる驚愕をもたらす発言をした。

『残念ダガ……オ前ニハ、ヤッテモラウ事ガアル』

「やってもらう事……?」

『オ前ニハ、別ノ世界ヘト消エタ統制者……奴ノ野望ヲ止メテモラウ』

 統制者からの突然の頼みを聞いて剣崎は驚いた。

「どういうことだよ⁉ なんで俺が……アンタ統制者なんだろ! 自分でやろうと思わないのか!」

『今ノ私ニハ奴ヲ止メル程ノ(ちから)ハ無イ。ソレニ奴ニカカレバ、バトルファイトノ結末ガドウナルノカ、オ前ナラ分カルダロウ?』

「……ッ!」

 その言葉を聞いて剣崎は黙った。

 始が封印したヒューマンアンデッドからバトルファイトの事をすべて聞いたため理解しており、その結末も理解したからこそ自身の選択で()()()()()()を選んだのだった。

『サラニ悪ク言ウガ、奴ハ次ノ世界デノバトルファイトデ、早期決着ヲ望ンデイルト思ワレル』

「早期決着……?」

『ソウダ。ナゼナラ解放シタアンデッドハ、オ前ノ馴染ミアルスペードスートノアンデッドノミダ。ナラバソコヘ行クノハ、オ前シカイナイノダ』

 統制者から早く語られる事はまるで自身に深く考えさせないようにしている、そう思えてしまう剣崎だったが統制者は待たす事はしなかった。

『剣崎一真……仮面ライダーデアルオ前ニ、アノ世界ヲ託ス。奴ノ野望ヲ止メテクレ』

 そう言って白いモノリスとともに統制者の気配もその場からゆっくりと消え去り、剣崎だけが白い空間にポツンと残されたのだった。

「はぁ……さっぱり訳が分かんないよ。第一、世界を託すなんて言われても別世界なんてどうやって行けばいいんだよー!」

 剣崎には別世界の行き方など知らない。

 今の彼はジョーカーであるが、それがこの事態を好転させるわけでもない。ましてや第一、アンデッドにそんな能力を持った者はいないし、いるという事も聞いたことも無いのであった。

 そんな事を考えてたら、ふと彼の周りが暑くなったような気がしていた。

「なんだ……? 何も無いはずなのに、なんだか……暑い?」

 気のせいかと思いきや、次第にそれは『暑い』どころか『熱い』の方へと変わっていってるように感じ、そして……

 

 

                              

 

 

「熱い……って、アツゥ⁉」

 襲ってきた突然の熱さで剣崎は()()()()()

 先程まで白い空間にいたとされていた剣崎は右手に感じた、焼けるような熱さで悶えながら起き上がり、その直後に目にした光景に驚愕した。

「これは……まさか……」

 視線の先には、彼が幼き頃に体験した自身が忌み嫌う熱さ、両親を奪った死を呼ぶモノとされる、火事が起こっている場所だった。

「なんなんだ……一体……」

 灼熱の炎に取り囲まれた状況で剣崎は呟いた。

 どうやって別の世界にいけるのかと考えようとした所で、気づいたら火事が起きてる場所にいて、驚いていた感情は一瞬として落ち着き周囲を見渡しながら調べ始めた。

「(見た所……空港の、ロビーか? 受付らしき所もあるようだし……)」

 普通の人間だったらパニックになっていただろうが剣崎は本能的に冷静になった。

 今の彼はアンデッドになっているため死ぬことはない。いや、できないが正しいだろう。

 あくまで死なないだけであって、怪我や苦しみは人と同じように感じるため無敵ではない。

 だからこそ、今まで戦ってきたアンデッド達や同じジョーカーである始を対面していれば、それが自分たちにとってどれほどの枷となっているのかが今の剣崎には分かるのだった。

「いくらアンデッドになってるとはいえ、さすがにこの状況……少し厳しいな」

 剣崎は脱出を最優先に通り抜けられる道を確認し、その場から炎が拡がっていない所を通りながら歩き始めた。

 

 

                              

 

 

 空港内のとある場所――

「お姉ちゃん……どこぉ……」

 剣崎がいた場所から少し離れた所、ここにも火災が広がっており、その中に一人の少女が泣きながら歩いていた。

 少女は、一緒に手を繋いでいた姉とともに父親に会いに来ていたのだが、空港内で警報が鳴り響いて人盛りが生まれ、それによって姉と離れ離れになってしまった。さらに、最悪な事で火災にも巻き込まれてしまい、少女は泣きながら姉を探すように呼び続けて歩いてたのだ。

 それから歩き続け、広間の中央にある石像まで着き、疲れによってその場に座り込んだ。

 ――ピシッ

 少女が座り込んだ直後で音が聞こえた。

 それは何かにヒビが入った音であって、少女の周りには火災によって壁から崩れた瓦礫などが見られた。

 その時、少女を覆うように影が掛かり、少女の視線は上へと向き、目の前の石像が倒れてくる光景が飛び込んできた。

 突然の事で呆けてしまい、助けを呼ぶ暇も余裕も無かった少女は思わず目を瞑ってしまった。

 石像が倒れてきて死ぬ、その恐怖が浮かんでもうダメだと思ったその時……

「……?」

 数秒経っても何も起こらなかった。

 倒れてくるはずの石像は来ず、代わりに何か気配を感じたのだった。

 不思議に思い、少女は恐る恐る目を開き、目の前にいる存在に呆然とした。

 そこには、刺々しい体をした青と黒の異形が石像を支え、少女を守ったのだった。

 

 

                              

 

 

「(無我夢中だったが、ホントにジョーカーの姿になった……)」

 出口を探してた道中、不思議な気配を感じた剣崎はそれを辿るように向かい、視線の先にて座り込んでいた少女を目撃し、その直後で少女へと倒れていく石像を見て駆けだした。

 自身の中にあるジョーカーの姿をイメージしながら変化して少女の前へと辿り着き、倒れてくる石像を両手で受け止めそのままゆっくりと下ろしたのだった。

「……」

 ジョーカーの姿をした剣崎を見て少女は目を見開いていた。

 剣崎としては助けた少女に声をかけようとしたが、今の自分が他人からすれば『化け物』として見られるため少女の心境としては恐怖が勝ってるだろうと考え、その場にて思い留まったのだ。

「(分かってた……そう、覚悟はできていた……)」

 剣崎の心は揺れ、苦悩を浮かべたがそれも一瞬にして消え去った。

 ジョーカーである剣崎へと少女が泣きながら抱きついてきて、これに対して剣崎はどうするべきか戸惑っていた。

「助けてくれて、ありがとう……」

 少女からの感謝の言葉に剣崎の心は落ち着いた。

 無意識に人間としての姿へと戻っていき、そんな剣崎を見て少女は驚いたがすぐに笑顔を向けた。

 先程まで怖い思いをしてた少女からの笑顔に、剣崎は溢れそうになる涙を堪えながら少女へと笑顔を返した。

 だが、少女の笑顔はまたすぐ曇ってしまい、それに気になった剣崎は今度こそ少女へと声を掛けたのだった。

「どうしたの? どこか怪我でもしたのか?」

 汚れてはいるが怪我している様子はしなかった少女は首を振り、剣崎へと顔を向けて涙を流しながら言った。

「お姉ちゃんが……お姉ちゃんが、いないの!」

 その言葉を聞いて剣崎は意識を集中してジョーカーとしての感覚を使い、()()()()()()()()()()の子どもを周囲へと広げながら探し、少し離れた先にてゆっくりと移動してるのを感知した。

 そして少女へと視線を向け、笑顔を向けたまま告げた。

「君のお姉ちゃんは、俺が絶対助ける」

「……うん!」

 決意を告げる剣崎に少女も力強く答え、剣崎はジョーカーの姿となって少女を抱え、同じ気配をした少女の姉を探しにその場から走り出した。

 

 

                              

 

 

 その頃、同じ子どもである少女の姉は瓦礫や炎を避けながら歩いていた。

「スバルー! どこー!」

 空港内で起きた人盛りで妹と離れ離れになってしまい、それから探し始めてだいぶ時間が経過していた。それによって長時間の炎に囲まれた状態での体力の消耗もあって限界は近くなっていたが、それでも妹を探すために彼女は歩き続けた。

 階段まで着いて今度は上から探してみようと思い、そのまま登っていった途中で少女に突然の浮遊感が襲った。

 少女が登っていた階段が崩れ、いきなりの事態に対応できず少女は落下してしまう。

「だれか……助けてぇぇぇぇ!」

 落下する中で少女は叫び、地面へと近づこうとしていた。

 その瞬間、落下していたはずの少女の体が止まっているかのように気づき、誰かに抱えられているのを感じた。

「大丈夫か?」

「……えっ?」

 声を掛けてきた人物へと視線を向け、少女は言葉を失った。

 目の前には青いジョーカーへと変化した剣崎が自身を抱えていて、一瞬と言葉を失ったが『驚愕』があっても『恐怖』は無かった。むしろ『安心』という感情が一番に出てきて、少女はそれが不思議に思えていた。

「お姉ちゃーん!」

 自身の呼ぶ声がして少女は視線を向けた。

 視線の先にて、離れ離れになっていた妹の泣いているのか、笑顔なのか分からない表情で手を振っている姿が見え、剣崎は抱えていた少女をゆっくりと下ろした。

「貴方が、妹を……スバルを助けてくれたの?」

 少女からの問いに剣崎は頷いた。

 そんな彼を見て少女はジョーカーの姿である剣崎の右手を両手で強く握るようにして、顔を向けたままこう告げた。

「ありがとう……私と、妹を助けてくれて……」

 感謝を告げ、少女は近づいてくる妹と泣きながら抱き合い、剣崎は一安心して人間の姿へと戻った。

 だが、今も周囲は炎によって覆われており、所々で建物が崩れている様子が見られる。

「(そろそろこの辺も限界かもしれない。二人をここから助けないと)」

 周囲の状況を見てそう悟り、剣崎は涙を拭っている姉妹へと視線を向け、声を掛けようとした。

 その時、剣崎の耳が誰かの声を察知して声を掛けるのを止めた。

「(救助隊か? 助かるが、これは……)」

「誰かいませんかー!」

「いたら返事をしてー!」

 二人の女性の声が聞こえ、どちらもまだ幼さを感じさせるような少女の声であったため剣崎は若干戸惑った。だが同時に、修羅場を潜ってきた者だからこそ分かる気配がその二人から感じ取り、こっちへと近づいてくるのを理解して姉妹とともに待った。

 それから数秒後、三人の前に二人の声の主が現れ、その光景を見て剣崎は驚いた。

 現れた二人は、栗色の髪に白い独特の服を着た少女と、金色の髪にこれまた独特の黒い服を着た少女で、どちらも十代半ばというべき所だろうが、剣崎が驚いたのはそれだけではなかった。

「人が……飛んでる……⁉」

 人の身でありながらその二人の少女が飛んでいる姿に剣崎は驚いたが、今は優先すべき事があるため気持ちを抑えるようにして行動に移った。

「よ、よく分かんないけど、救助隊の人……だよな? そうだとしたら急いでこの子たちを!」

「分かりました! フェイトちゃん、そっちの子をお願い!」

「分かった!」

 剣崎の言葉を聞き、二人は着地して姉妹へと近づいて手を握り、優しく声を掛けながら安心させてゆっくりと抱えた。

「貴方も! ……って」

 栗色の少女が剣崎にも視線を向けて声を掛けた時、剣崎は四人に背を向けて歩き出していた。

「何してるんですか⁉」

「今、一緒に逃げなくちゃ死んじゃいますよ!」

 二人の少女が叫ぶが、剣崎は立ち止まって振り返り、優しい笑みを浮かべたまま言った。

「俺はいいんだ……。俺は死なないし、それに俺なんかよりも、その子たちの命が大事だから」

 いくら飛べようとも姉妹を抱えている二人の少女だけでは一人の成人男性を連れて脱出するのは難しい。何より助けた姉妹を救うのが先決だと思い剣崎はそう言ったが、そんな剣崎の笑みに二人は逆に『悲しみ』が浮かんでるように見えて放ってはおけれなかった。

 そんな食い下がろうとする二人の少女に剣崎は仕方なくジョーカーの姿を見せたのだった。

「えっ……⁉」

「あっ……」

 ジョーカーへと変化した剣崎に二人は息を呑んだ。

 助けようとした人が異形の姿へと変わり、先程言った言葉はコレを表す事なのかとも捉えたため変化した剣崎の姿を見て二人は言葉が出ずに黙ってしまった。

「こういう事だから、その子たちを頼む……」

 そう言って剣崎は再び四人へと背中を向けて歩き出そうとした。その時……

「「待って!」」

 姉妹の叫ぶ声に剣崎は思わず足を止めた。 

「さっきは私とお姉ちゃんを助けてくれて、ありがとう!」

「あ、あの! あなたの名前を、教えてくれませんか!」

 二人の声に剣崎は振り返りながら再び人間の姿へと戻り、今度は正真正銘の笑顔を姉妹に向けたままこう告げた。

「俺は……『仮面ライダー』だ!」

 本当の名ではないが、今はジョーカーである剣崎にとって、彼が誇りを持って名乗る正義の名前であった。

 そう言って剣崎は背を向けたまま明かりが差していない暗闇へと走っていき、そのまま四人の前から姿を消したのだった。

 

 

                              

 

 

 それから数分後――

 火災が起こった空港へと駆けつけた救急隊のサイレン音が聞こえる中で、剣崎は空港近くの誰もいない道路へと着いて仰向けになっていた。

「はぁ……やっぱりちょっと無理があったかな……」

 自力で脱出するまでの間、崩れてきた瓦礫によって身体中に傷を負い、その痛みによって剣崎の表情は苦痛で歪んでいた。脱出した後も誰にも気づかれないように注意を払いながら闇夜を走り続け、慣れない事での疲労もあって立ち上がる気力も無くなっていた。

 そんな彼が寝転がって休憩していた所、突如とバイクのエンジン音が聞こえ、剣崎は素早く起き上がって近くにあった木の影へと隠れた。

 そこから音がした方角へと確認した時、見覚えのあるバイクが少し離れている場所にて置かれていた。そのバイクには特徴的な部分があって、フロント部分には剣崎が変身していたブレイドと同じスペードのマークが描かれた物だった。

「あれって、俺のバイク……?」

 剣崎が数多のアンデッドとの戦いに共に駆け抜け、愛用し続けていたバイク、『ブルースペイダー』だった。

 人も乗っておらず、ただエンジンと明かりが点いたまま止まっており、剣崎は警戒しながらゆっくりと近づいた。

 相棒とも言えるバイクに近づいた後、ヘルメット以外で座席に何かが置かれているのを見つけて手に取った。

「これは……財布と、手紙……?」

 折り畳み式の財布には剣崎が今いる別世界の通貨らしきものが入っており、それと一緒にあった手紙は本当の統制者からのであってこう書かれていた。

『お前に欠かせない物を用意した。後は自力で探し、この世界を守ってくれ』

 統制者からの手紙を読んで剣崎は溜め息を吐いた。生活に欠かせないお金を用意してくれたのにはありがたいが、住む場所が用意されていない事には残念な気持ちがあった。

 けれど、共に走った相棒がいることには少し感謝して愛機を優しく撫でた。

「また一緒に走れるんだな……サンキュー」

 愛機に跨り、ヘルメットを着用した剣崎はエンジンを吹かせ、街の中へと走り去った。

 この大火災以降、彼が転移された異世界、『ミッドチルダ』にこんな都市伝説が生まれ、噂として人々へと流れていった。

 『仮面ライダー』と名乗る異形の存在が様々な事故や事件の現場に現れ、多くの人を助け、そして去っていく、と……。

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