21:大ニュース
「ドラゴンさん。新聞が届きましたよ」
“革命家”ドラゴンは報告に来た少女、コアラの声に振り返った。
仲間たちからの報告はすでに聞いている。だが状況は激しく混乱しており、何が正しくて何が間違いか、情報が錯綜して世界中が動揺していた。
新聞に載せられている情報が正しいわけではない。しかし思考のきっかけにはなる。
冷静に現状を知るべくドラゴンはコアラから受け取った新聞を広げた。
「金獅子の完全勝利か……思い切った見出しをつけたな」
「世界政府はもみ消しをしなかったんでしょうか?」
「いや、モルガンズの独断という線がある。何よりも己のポリシーを優先する男だ。政府に逆らうことがあっても不思議じゃない」
「どの道、全てを隠すことなんてできませんしね……」
「そうだな。かつてない規模だ。この戦争は歴史に残る」
冷静に新聞を読むドラゴンに対して、コアラは落ち着かない様子だった。
落ち着く暇もなく目まぐるしく状況が変わる日々。
いくら明日の出来事が予想できない
「これから、どうなるんでしょうか……」
「それは誰にも読めない。だが時代は間違いなく変わるだろう。四皇も政府も海軍も、このまま現状維持というわけにはいかないな」
ぐっと言葉を飲み込んだコアラは少し考えた後、迷った挙句に結局はドラゴンへ言う。
「ドラゴンさん。その、言いにくいですけど……あのことは……」
「心配するなコアラ。おれは――」
「うわああああああああああああああっ⁉」
突然階下にある別の部屋から声が聞こえた。
その声が誰のものか、考えるよりも早く察した二人は異常を感じ取り、慌てて駆け出す。
「サボ君⁉」
「どうした! 何があった!」
下の階にある部屋へ飛び込むと、金髪の青年、サボが頭を抱えて倒れてもがいていた。激しく錯乱しているようで絶叫が止まらない。
仲間たちも動揺しながら彼に声をかけているのだが聞こえている様子さえ見られなかった。
サボはそのまま限界を迎え、気絶する。
なぜ彼が絶叫して気を失ったのか、理由を知る者は誰一人としていなかった。
世界を震撼させた“マリンフォード頂上戦争”の後。
まさに時代を分ける一戦。たった数時間で終結したが、歴史上類を見ない大事件である。
当然の如く世界中でその話題が持ち切りだった。
シャボンディ諸島にて。
「シキの一人勝ちか……世界が荒れるな」
「死んだとは思ってなかったけど上手くやったものね。大出世じゃない」
新聞を読むシルバーズ・レイリーの呟きにシャクヤクが笑顔で応える。
予想だにしない展開になったがどちらもあまり驚いていない。“金獅子”のシキが出てきたならそうなるだろうという信頼にも似た自信があったからだ。
一方で今後の世界の行く末は彼らにもわからない。シキという海賊をよく知っていても今や世の中の人間と大して変わらない立場。
ここまでの惨事になると予想できていた者はいるだろうか。
世界が未曽有の混乱に襲われているのも仕方ないことであった。
「モンキーちゃんたち、これからどうするのかしら」
「んん? ふっふっふ……そうだな」
「彼らの航路は彼らが決めるから口出ししなかったけど、やっぱり早すぎたのよ。彼らが航海し始めてまだ一年も経ってないそうじゃない」
「レイさんたちだって何十年もこの海を駆け回ってようやく最後の島に辿り着いたじゃない。目的がはっきりしてるから先を急いでしまったのね」
「ルフィのあの性格だ。己の欲求に素直に従ったのだろう」
「しばらくこっち側でゆっくりしてくれたらいいわね。また会いたいわ」
「ああ……だがあいつの性格上、じっとしているのは難しいだろうな」
レイリーが新聞を閉じて傍らに置いた。
少し思案する様子を見せて、シャクヤクは笑みを浮かべながら煙草の煙を吐く。
「くまが彼らを逃がしたのには理由があるはず。このまま新世界に入って死ぬことなど望んでいないだろう」
「助けてあげるの?」
「ふふふ。ちょうど暇なのでな」
「よろしく言っておいて。私、彼のファンやめるつもりないから」
レイリーはにこりと微笑み、力強く頷いた。
ウォーターセブンにて。
「空飛ぶ海賊“金獅子”のシキが完全復活。ンマー、世界中にとっての危機になっちまったわけだ。おれたちも他人事じゃねぇなぁ」
「ガレーラは世界に知られた造船所。金獅子がこの町を支配下に置こうとしても不思議じゃねぇ」
市長のアイスバーグが新聞を見ながら呟くと、同室にいたパウリーが険しい表情で呟く。
“金獅子”の復活は
もはや安全な場所など世界のどこにもないと言えてしまう状況になってしまった。
金獅子は全世界の支配を目論む大海賊。
その足掛かりとして世界一の造船所があるウォーターセブンを狙ったとしてもおかしくない。
戦争の結果を知って、アイスバーグとパウリーは早くも警戒していた。
「お前たちがいるから心配しちゃいないが、少し前の政府とのいざこざがある。海軍や政府は頼れないから自衛しないとなぁ」
「平気ですよ。おれたち船大工に任せてください。フランキーの野郎の置き土産もある」
「面倒なやつだったが腕は確かだよ。今また世話になっちまうとは……」
「おれァこの島については心配してませんよ。それより気になるのはあいつらだ」
「アイスバーグさん……麦わらたちはどうなると思う?」
「んん~……」
パウリ―の問いかけに、アイスバーグは少し苦い顔をして思案した。
「ンマー、おれたちが何を思ったところでどうしようもない。次の情報を待つしかないだろう」
「まったく……エニエス・ロビーの襲撃を超える事件なんてあるわけねぇと思ったのに、こんなに早く超えてくるとは」
「あいつらに生きてまた会うためにも、まずはこの島を守ることを考えないとな。これからさらに忙しくなる」
「望むところですよ。おれたちだって黙ってるつもりはねぇ」
気になることは色々ある。
だが彼らは多くを語らずに覚悟を決め、来るべき危機に備え始めた。
ドラム島サクラ王国にて。
「ロジャーの息子か……構やしないじゃないか。親が誰だろうと一端に海賊やってんだから」
「Dr.くれは! 見てほしいのはそこではなく……!」
新聞を読んで笑顔になっているくれはに向けて、ドルトンが焦りを隠せない顔で訴えた。
彼女は驚いた様子もなく視線を投げかける。
「若さの秘訣かい?」
「いやっ⁉ 聞いていませんが⁉」
「うるさい男だね。ガタガタ騒ぐんじゃないよ。あたしらがここで何を言おうが考えようがこいつらは己でもの考えて行動するさね。それを今まで見てきたんじゃないのかい」
「しかし……! これほどのことは、今まで一度も……!」
「なぁに、こいつらだって覚悟はできてたさ。嘘か本当かは時間が解決する。また次の記事でも気長に待ってな」
くれははドルトンの胸に新聞を押し付けてから歩き出す。
「こっちはこっちで忙しいんだよ。この島の連中に医術を教えなきゃいけないからね。あんたも国王になったんならもっとどっしり構えてな」
ドルトンは複雑な顔をしており、しばらくその場を動けなかったものの、くれはがあまりにも自信満々に言うものだから少しずつ気持ちが落ち着いていった。
確かに自分たちがこの場でできることなど何もない。
今はただ続報を待つしかなさそうだった。
サンディ島アラバスタ王国にて。
「嘘よっ‼ こんなの誤報に決まってる‼」
「クエーッ⁉ クエーッ⁉」
新聞を読んだビビとカルーは激しく取り乱し、机に新聞を叩きつけた。
その姿を痛ましそうにイガラムが見つめて何も言えなくなっている。
「ビビ様……」
「世界経済新聞でしょ⁉ また自分たちの都合のいいように好き勝手書いたに決まってる! でないとこんなっ……こんなのあり得ない!」
「クエーッ! クエ~ッ‼」
「私は絶対に信じない……こんな記事……!」
「ルフィさんとキリさんが……死んだなんて……‼」
「クエ~……!」
ビビとカルーの目には涙が浮かんでいた。
新聞をくしゃくしゃにして嘆くが、この場でできることなど何もなく。
自らの無力に苦しむ二人の姿を、イガラムは悲痛な面持ちで見守ることしかできなかった。
マリンフォード頂上戦争。
ほんの数時間で終結した世界最大規模の戦争は、いくつもの大きな変化をもたらした。
“金獅子”のシキ完全復活。さらに頂上戦争において完全勝利。
大海賊“白ひげ”およびポートガス・D・エース生存。
マリンフォード及び海軍本部とインペルダウンの崩壊。囚人たちの多くが野に放たれた。
それにより“黒ひげ”を筆頭に、生き残った内の数人が海賊として大きく名を上げる。
死傷者多数。
数えきれないほどの海兵と海賊が死んだ。
その中には超新星と称された若き海賊、“麦わら”のルフィと“紙使い”キリの名があった。