汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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アカネイアでの出来事


狂騒

アカネイア王より裁可を受けた将軍は速やかにマケドニア征伐に向けた準備に取り掛かる。

 

とは言え、アカネイア王としてはマケドニアにさしたる興味はなく、将軍が言うのならば勝算はあるのだろう。と軽く考えていたのだが。

 

 

国王からの許可という名分を手にした将軍は早急に渡海する為の軍船の建造を推し進めようとした。

 

文官から

 

「いきなり大量に造ってそれが欠陥品ならばどう責任を取られるつもりか?

先ずは試験的に一隻造り、その上で問題点の洗い出しをすべきではないか?」

 

と指摘を受ける。

 

 

将軍は不快に思ったが

 

「仮にそれで損失が出た場合、マケドニア征伐を主導している騎士団や将軍に責任を取ってもらう。

当然の事と思うが。」

と言われてしまい強行するのを躊躇った。

 

つまり己の進退を賭けねばならぬ事態になりつつある。その事に将軍は内心動揺してしまう。

結果、試験艦の建造を先ず行ない手直しをしつつ、最終的にはマケドニアへの渡海用の船を揃える。

 

という方針を彼等は定めた。

 

 

しかし

 

 

「申し訳ないがそんな話は受けられねぇよ。」

 

船大工に話を持ち掛けたのだが、誰一人として話を聞いた後頷かなかった。

 

「それは王の命であってもか?」

 

「国王の命だぁ?

尚更受けられねぇよ。そんなやり方で上手くいくと思われたんなら、俺達の命はねぇからな。」

 

その後押し問答をしたものの、結局船大工の協力を取り付ける事は叶わなかった。

 

 

将軍達は

 

「であるならば、協力する者達を集めれば良い。」

 

として、自分達の人脈を使い職人を集める事とした。

 

 

 

 

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船大工は海を知らぬ者がどれだけ過大(無茶)な注文を付けてくるのか。その面倒くさ(恐ろし)さを良く知っている。

ましてや、王命となればその失敗の責任を負わねばならなくなる事を確信していた。故に断った。

 

 

「あの手の奴等は御託は並べやがるが、いざ問題が起きたとしても逃げやがる。

んな連中と心中出来る程に俺達の命もうちの連中の命も安かねぇよ。」

 

彼等にも家族や守るべきものがいる。

それを脅かされる可能性があるのならば、協力など出来よう筈もないのだ。

 

 

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「大丈夫かよ、これ。」

 

「知るかよ。言われた通りに俺達はやるだけさ。」

 

人夫として集められ、作業に駆り出されている男達は仕事をこなしながらも不満を口にした。

 

国王の裁可が下り、アカネイアの港町にて職人や人夫が集められ、船の建造が始まった。当然だが、マケドニア征伐は騎士団や軍務関係者にとっては喫緊の課題であり、試験艦となるこの船の建造にあまり時間をかけたくない。と言うのが将軍達の本音であり、その為職人の手足となる人夫も多く呼び集めている。

 

 

が、船大工ではない職人達が集まったところで作業がスムーズに進む筈もなく、しかも騎士団からの無茶な要求も満たさねばならない。

 

 

「なるべく多くの者を積み、マケドニアに速く着きたい。」

 

最初はその程度の注文だった。

まぁ船大工(その道のプロ)達にそんな事を言えば

 

「んな無茶な事が出来るかよ。」

 

と一蹴される話だったのだが、舟は造った事があっても船を造る事はない者達にその事は理解出来ない。

 

 

川を渡る舟程度ならば彼等も造った経験がある。

が、海を渡る船に求められるものと川を渡す舟では大きな違いが存在した。

 

 

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短時間で目的を果たせる舟ならば、そこまで気にする事はないが数日間留まらねばならない船となると居住性や搭載量。更に帆や船室の適切な配置などの差異は非常に大きなものとなる。

 

何よりも

 

 

「おい!木材が足らないぞ!」

 

「直ぐに持ってこれる訳ねぇだろうが!

その辺の材料でどうにかしたらどうだ!」

 

職人の数が多過ぎて、全体を見て判断する者。調整役がいなかったのである。

 

 

何せ各地から集められた職人は常に自分が優位な立場にある。彼等がへそを曲げれば生産や製造が出来なくなるのだ。

多少(・・)横暴だろうと、不愉快に思おうともそれを受け入れざるを得なかった。

 

そんな者達を集めたのだ。こうなるのは自明の理と言っても良い。

 

 

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彼等は将軍達が集めた者達。それはアカネイア貴族などの伝を使って集めている。

当然、彼等にも職人としてのこれまでの実績(誇りや意地)があり『自分のやり方を他人にとやかく言われたくない』のだ。

 

彼等とて今までこのやり方でやってきているのだ。であれば、それを態々変えようとしない。

勿論中には相手に合わせようとした者も居たのだが、何せその手の人物はとかく高圧的になりがち。

 

幾ら正論だとしても

協力すべきと考えていたとしても

 

相手が喧嘩腰になっていれば、自然と反発してしまうもの。

 

 

結果、造船現場は怒号が飛び交い、時に掴み合いすら起きる状況に陥っていた。

 

資材などの運搬役として集められた人夫達もそんな雰囲気に嫌気がさしており、現場の雰囲気は控え目に言って最悪なものとなっている始末。

 

 

本来それを止めねばならない筈の騎士団の者達はその剣幕にたじろぎ、職人達の機嫌を損ねれば船の建造が遅れ、結果としてマケドニア征伐の為の計画が破綻しかねない。そう思って、揉め事については当事者同士の解決を望んでいた。

 

何せ人夫はともかくとして、職人達は将軍やマケドニア征伐に賛意を示す貴族の領地から招いた者達。

職人達は自身の本来すべき事を後回しにして、この建造に携わっていたのである。

 

 

 

 

勿論、それにより被害を受けるであろう領民達に対する形ばかりの手当てはあっても、はっきり言ってしまえば不足していると言えたのだが。彼等がそれを気にする事はなかった。

 

 

試験艦の建造は確かに進んだ。

が、職人達は挙って目立つ場所を自身が作りたいと主張。結果、最も重要な船底部分や、軍馬を繋ぐ場所などについては蔑ろとされてしまう。

 

 

最終的にどうにか形にする事は出来たものの、進水式において艦底から浸水が発生。

計画は白紙。試験艦に搭乗していた人夫や職人。更にアカネイア騎士からも多数の死者を出す事となった。

 

 

結果、アカネイアによるマケドニア征伐は騎士団の予想を遥かに超えた準備期間を要する事となり、それはアカネイアの国威低下に拍車をかける。

 

 

 

 

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「陛下も大概にしてもらいたいのだが。」

 

 

船の建造が王命により始まった事で、材木の供出を求められた港付近を任されている貴族は心底忌々しそうに自室で呟く。 

 

「何の役にも立たない騎士団の面目などどうでも良かろうに。⋯⋯陛下にとっては執心する女を出してきた将軍の意見は聞かねばならぬのか。」

 

 

現在のところ、大陸一の規模を誇るアカネイア騎士団。だが、その規模に反して練度は控え目に言っても高いものとは言えない。⋯であるからこそ、傭兵として名高いアストリアを歩兵隊の隊長として抜擢し、アカネイア騎士団の精強さを内外に示さねばならなかった。

救いがあるとすれば、『大陸一の弓使い』と称されるジョルジュが率いる弓兵隊はアカネイア騎士団の名に恥じないだけの練度を誇っている事くらい。

 

騎士の受勲や、上級騎士たる聖騎士(パラディン)の任命すら今のアカネイアでは然程珍しいものではないのが実情。

その一点だけ見ても、今のアカネイアのおかしさは理解出来るというものだ。

騎士とは本来、実力のみではなくその精神も高い水準を求められるべきもの。故にこそ、騎士は羨望される対象と成り得る。

 

 

ところがアカネイア騎士団はその規模を年々拡大させている。しかし、その資質については大いに疑問の残る者が多く、国内の巡回すらもマトモにこなせない者すら少なくない。

⋯正確には、巡回を終わらせた。そう報告はするが、実際には巡回に赴く事なく適当な場所で時間を浪費しているだけ。

 

 

 

役割は果たさず、騎士という立場に満足する置物たち

 

 

それが多くのアカネイアの者が持つ騎士団への評価。

勿論、それ故に騎士団を纏める騎士団長や将軍は大功を挙げる機会を心より欲しており、今回の暴挙(・・)に及んだ。

 

少なくとも、この貴族はそう感じている。

 

 

 

「舟遊びするのには、過ぎた出費となるが。」

 

繰り返すが、マケドニア征伐が王命である。ならば、その準備について手抜かりなく行われなければならない。

 

が、将軍は船大工達が非協力的であると知るや否や自分達で職人を集めるという行動に出た。

 

 

船大工達が協力を拒否したのは、騎士団からの要求が定まっておらず安全性を確保するのが難しいからだった。

その上急いで船の数を揃えろとまで言われては船大工達は付き合いきれぬと判断した。

 

何せ騎士団の者達はマケドニア征伐が終わればそれまでだが、船大工達はその後もそれで食べていかねばならない。

その為に今まで築き上げてきた人夫達との信頼関係や船大工としての信頼をかける理由はなかった。

 

 

 

 

 

この貴族は港町を所領とする為、多少は船について知識がある。だからこそ、今回将軍や騎士団が集めた職人達ではマトモな船が造れないだろう事も理解していた。

 

かと言って、それを騎士団を忠告するつもりなど欠片もないが。

 

 

言って止まる筈もなし。であるならば、いっそ弁明のしようのない失態をさせ、増長する騎士団を止めねばならないのだから。

 

 

 

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彼にとって見れば、何の連絡もなく人夫を集めて船を造られる事は自領の安全を脅かし、貴重な資源である木を失う事。

 

何の益もない。

 

 

しかも、人夫はともかくとして、各地から集められた職人達。彼等は自分の立場の変化を理解しているとは到底思えず、町の酒場や宿屋でトラブルを起こしている。

 

まぁ上手くいかないが故の不満からであろうが、そんな事は他人に関係のない話。

事実、彼のもとに既に何度も(苦情)が来ており、騎士団の者達(役立たずども)を呼びつけては事態の一刻も早い解決を要求している。

 

 

職人達は自分の所へ戻れば、他に職人がいない。

故に横柄な態度であったとしても、許される立場にある。

⋯勿論、それが此処でも許されると思ったならば。

 

 

 

 

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雰囲気が悪い。

 

 

マケドニア征伐に向けて騎士団がいよいよ船を造る事を聞いた行商人のアンナ。彼女は何とか支度して、港町へと辿り着いた。

既に商人達は人夫や職人相手の商売を始めており、活況にみちている。

 

そう思ったのだが、港町に辿り着いた彼女が最初に抱いた感想がこれである。

 

 

 

確かに普段よりも多くの人数を今この町は抱えている。しかし、職人や一部の人夫が粗暴な振る舞いをした事もあり、町の者は彼等を腫れ物を扱うかの様に見る様になった。

 

酒場や宿屋を営む者は、食材の仕入れなどの都合から町の者との繋がりは深い。殊に悪い話となれば、愚痴という形で知り合いに流れ、あっという間に町の中を駆け巡った。

 

 

客としては扱うだろう。内心で厄介者と思っていたとしても。

 

 

その職人や人夫達と町の者達の微妙な緊張を嗅ぎ取り、自身の利とすべく動く者達が此処にはいた。不幸にも

 

 

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交易の要地である港町。本来ならば、多くの商人が集まり船を使った交易を進め、物資の集積地。或いは流通の拠点として発展する事が出来る場所。

 

ところが、このアカネイア屈指の港町ともあろうものが未だ然程に発展していない。それは領主である貴族の方針によるものだった。

 

 

「人を集め、物を動かす。大いに結構な事だ。

⋯だが、人や物が多く集まれば揉め事も増える。それを解決する為に人を出さねばならない身として、安易なやり方は認められない。」

 

何せ商売に使うものと言えば聞こえは良いが、そこまで余裕ある所はアカネイア全土を見渡しても数える程。

商人は利を求めて商いをする。となれば、多くのものを動かしたくなるものらしい。

 

商人は仕入れを増やすだけで済むだろう。

だが、仕入れを増やすという事は何処かで『必要以上に』物を買い込んでいるということ。

 

各地の領主も兼ねる貴族の場合、余りにも多くの物資を商人に買い込まれた場合、徴税に悪影響を及ぼしかねず、更に物資を売った側がその代金を持て余す事すら起こり得る。

 

 

故にアカネイアは海上交易について認めはするが、その規模を増やす事には慎重な姿勢を崩さない。

勿論、現アカネイア王の判断ではなく文官達の尽力の賜物であるが。

 

 

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行商人にとって、国や組織の都合などどうでも良い。

 

己の立身出世を強く願う行商人はその傾向が強く、領主の目の届きにくい辺境の農村などが強引な取引により潰れる事すらある。

 

店を持つ様になれば、その辺りの事情も理解せねば商人としてやっていけない。故に嫌でも自覚するのだが、彼等はそうではない。

 

ましてや、彼等を捕捉するのは難しく、時には威圧目的の為に傭兵を農村へ連れて行く場合もあった。

 

 

農村が減れば、自然と食料の供給能力がアカネイアという国家全体で低下。結果、他国に頼らねばならなくなる事も有り得た。

文官達としては、この様な悪質極まる行商人は現場を抑え、速やかに処置(・・)せねばならない。そう思っているのだが、騎士団はその重大さを理解しようとしない。

 

まぁ、騎士団ともなれば物資は金を出せば買えるものでしかなく、文官達の持つ危惧を実感する事は出来なかった訳だ。

 

 

 

「己の所領の事だけを考えてやれるならば、楽なのだがな。」

 

物流の拠点となれば、他の貴族から疎まれる可能性があり、また年々農村が減りつつある状況となれば、商人は嬉々として数少ない物を掻き集めようとする。

 

 

故に要地を預かる貴族は自領に店を構える商人を厚遇するしかない。店を構えるならば、動きは掴みやすく最悪の場合(・・・・・)対処がしやすいのだから。

 

 

 

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その様な事情から特にアカネイアでは行商人から『店持ち』の商人に成り上がる事は非常に難しい。結果として、上昇志向の強い行商人達は先の騒動の様な危ない橋を渡ってでも、上に行こうとする。

 

 

⋯まぁ、それが余計にアカネイアという国にとって好ましからざる事を引き起こしているのだが、彼等は聞く耳を持たない。

 

 

 

農業とは年に一度程度しか収穫が見込めず、その僅かな機会とて獣害や山賊の脅威に備えねば満足に出来ない。

その上、その収穫物も全てが自分のものとなる訳ではない。

 

宿屋とて、本来の用途(・・・・・)だけならば決して安定収入を得られる仕事とは言えず

 

職人はなろうとしても、先ず職人の仕事を教わる師匠に師事せねばならず、教える側としても技術を教えれば自身の立場を脅かす相手と成り得る。その為、多くの職人は自分の息子や親類縁者にその技法を伝えようとする。

 

 

女性であり、行商人でもあるアンナと違い、殆どの行商人と言うのは元農民や職人の修行に耐えかね、その道を自ら捨てた者達。

 

つまり

 

 

手っ取り早く、より多くの金を稼ぎたい。

 

といういっそ清々しくなる程の欲求を満たす為にその道を選んでいるのだ。

 

 

 

 

 

 

それは誰も咎めない。

 

 

そうありたいと願うのは自由なのだ。

 

 

 

 

 

だが、自由とは常に己の行動に責任が伴う。

行商をしていて、身を持ち崩す者が良く聞かれるとしても

 

それは選択の果てに過ぎず

 

 

 

 

全ての責は己で果たさせばならなくなった

 

 

 

 

それだけの事

 

 

 

 

 




かなり悩みましたが、もう少し書くことにしました。

エリスルート完結記念の外伝

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