汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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尊き日々

「ゲレタさん、焼けたよー。」

 

「⋯ふむ、火加減をもう少し調整するか。

確かにこれも一種の鍛錬になるやも知れぬな。」

 

混迷の度を深めるアカネイアを余所にチキとゲレタ。そして偶然居合わせたガーネフ。彼等は最近マケドニアとドルーアで広まりつつある焼き魚を堪能していた。

 

 

 

竜人族専用、ざる

 

実に頭の痛くなりそうな名前の物体であるが、マケドニアとドルーア両国の食文化の変化に大きく寄与した偉大なるもの。

 

 

 

少し前には、火竜族と氷竜族のまとめ役が文字通り殴り合いして奪い合った劇物ではあったが、その働きは目を見張るものであった。

 

竜化して海面ギリギリを飛行。ざるにて大量の魚を獲り、海岸にて小さな魚は放流。しかる後に、両国各地の指定された拠点に配る形としている。

魚食に対する理解が浅い為、今のところは焼き魚以外の調理法は拡めるべきでない。

 

 

「食の多様性は国の豊かさに比例させるべきでしょう。

人間誰しも一度引き上げられた生活水準を下げられるのは耐え難いものがあります故に。」

 

ゲレタの発言にミシェイル、メディウス共に賛意を示し、両国の更なる発展に注力すべき。との考えを今一度確認している。

 

 

 

 

魚食はドルーアの竜人族達にも好意的に受け止められた。

難点としては、成果物が竜人族も人の姿の時にしか食べない為に魚の骨に苦慮している事であろうか。

とは言え

 

「独りで量を食べるよりも、皆で骨に悪戦苦闘しながら笑い合って食べた方がおいしい。」

らしい。

 

 

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「魔法をこの様な形で使うなれば、それこそ良き未来も拓けるだろうに。」

 

「元は戦う為の方法だったのでしょうね。

⋯仮に魔法が使えたとすれば、それはもう悪用したでしょうが。」

 

火を囲みながら、美味しそうに焼き魚を頬張るチキの側でゲレタとガーネフは雑談に興じていた。

 

ガーネフとしては嘗ての学び舎であるカダイン。その今後について多少なりとも思うところがある為、魔法の新たな可能性を求めている。

その様な中でゲレタの行なっている事は軽んずべきものではないとして、話をしていた。

 

 

 

アカネイアはマケドニアに対して敵意があるのだろうが、マケドニアからすればアカネイアなど取るに足らない存在である。

 

 

海の向こうで何を宣おうが知った事ではない。

ゲレタからすれば、アカネイアやグルニア。アリティアはそれこそ付け入る隙だらけであり、やり方次第では兵を使うまでもなく崩壊ないしは混乱させる事が出来るもの。

 

 

アカネイアはアドラ一世の、アカネイアの正統性を

グルニアはその在り方を

アリティアはファルシオンを巡る動きを

 

 

それぞれ毒として流せば、制御出来ない混乱に陥れる事が出来るだろうと見ている。

 

 

 

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が、それを今する必要をゲレタは感じない。

 

 

幸いにして、アカネイアを始めとした各国とは海で隔てられている。となれば、各国は海を渡らざるを得ず、それがマケドニアの哨戒網をかいくぐるのは不可能に近い。

 

更に大陸から近い半島北部の沿岸部には凶暴な獣や部族が追いやられている。

それを懐柔せねばドルーアに踏み入る事は叶わない。

 

 

「対等な立場を認めないアカネイア。

そのアカネイアに従う事を是とした大陸の各国。ならば、此方もそれ相応の対応をするまで。」

 

「足の引っ張り合いをしたいのならば思う存分やらせれば良い。その間に我等マケドニアとドルーアは未来を拓き、明日を掴む。

アカネイアの旧い考えに囚われて、魔法を『他者を傷付ける武器』とするか『生活を支える道具』とするか?

それは各々が考えれば良い話と考えますがね。」

 

「⋯うむむ。」

 

ゲレタの言葉にガーネフは唸る。

 

「誰かを笑顔にする。

⋯存外悪くないものではありませんか?ガーネフ殿。」 

 

ゲレタは美味しそうに笑顔で食べているチキを穏やかな目で見つめていた。

 

「確かにの。」

 

 

魔法の在り方を変える。

それがこの様な笑顔を見せられるならば、険しくともやるべき事なのかも知れない。

 

 

 

 

魔道の探求者と後世から讃えられる事となった男の道は、この時定まった。

 

 

 

 

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マケドニア竜騎士や天馬騎士。彼等に彼女達の主任務のひとつがマケドニア、ドルーア近海の哨戒である。

 

元はルーメル率いる竜騎士団が担当していたものであったが、白騎士団団長ミネルバがルーメルと話し合いをし、変更された。

竜騎士と天馬騎士による哨戒。

 

これはアカネイア側が万が一侵攻してきた場合、投石の任を天馬騎士も果たせる様にすべき。とのミネルバやパオラ達の考えに沿うものだ。

 

 

更に言えば、大海原に出て帰還する為には騎士の方向感覚も大きな影響を与える。

投石して、そのまま留まるのは騎竜や天馬に余計な負担をかける事となろう。更に相手がパルティア(神弓)の遣い手であった場合、高度を取っていたとしても狙撃される可能性もある。

 

故に投石が終わり次第、各個に離脱するべき。

 

 

それがミシェイルとルーメル。ミネルバが話し合い、定めた基本方針。

 

 

「アカネイアは並び立つものを認めぬ。

であれば、話し合いの余地もない。⋯兵を傷付けてまで相手にする理由も存在せぬ。

名誉も誇りも等しく兵達の命に勝るものではない事を自覚せよ。」

 

 

ミシェイルはその席でこう語っている。

 

 

 

ルーメルは勿論、ミネルバも迷う事なくミシェイルの言葉に頷いた。

 

 

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マケドニアの変化は著しく、ミネルバはパオラ達であっても置いていかれぬ様にするのがやっと。

 

 

だが、国の

民の明るい表情を見るとミネルバ達はこの道が間違いではない事を理解出来る。

 

 

確かにアカネイアとの戦い方については思うところが無かったとは言わない。

 

事実、ミネルバはパオラを伴いゲレタの元へ赴き問うた。

 

 

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「ではどうなさると?

態々敵国に乗り込んで、アカネイアの王都パレスを制圧しますかな?

それとも、マケドニアかドルーアに相手が上陸するまで待てと?」

 

「⋯難しいのだろうな。その言い方だと。」

 

ゲレタの言葉でミネルバはある程度察したが、それでも詳しく話を聞くべきと考える。

 

己はマケドニアの王妹。ともすれば、マケドニアが進む道の意味やその思惑を知らずにいれる身ではないのだから。

 

「後者は手間がかかりますな。

敵を殲滅するのは容易い。それこそ彼等の足である軍船を破壊すれば容易に彼等の帰る手段は奪えましょう。

ですが、その場合殲滅した者達の遺骸の片付けなどに無駄な手間をかけねばなりますまい。言うまでもなく、アカネイアの者は全て殺し尽くさねばなりませぬ。

下手に懐に入れて、民を害されたでは意味がありませぬ故に。」

 

「それは、そうだな。」 

 

ミネルバもパオラも頷く。

 

「前者の場合、我等は無用な恨みを買いましょう。

マケドニアやドルーアにアカネイアを制圧し、それを維持出来るだけの余裕はありませぬ。

かと言って、アカネイアで苛政をひけば民は我等の敵となりましょう。マケドニアで苛政をしても同じ。

であれば、下手にアカネイアへ手出しせず攻められた時にも後処理のしないで良い場所で倒せば良い。

詰まらぬ事(・・・・・)で民の平穏を乱す必要はありませぬ。それはマケドニアやドルーアのみに限らぬのです。」

 

ゲレタは続ける。

 

「我等の敵はアカネイア大陸の強固な価値観。

それにより世を不要に乱さんとする者達のみ。であるならば、相手は此方に槍を向ける者達のみで良いのです。

アカネイアとていつまでも戦争を続ける事は出来ますまい。国王や騎士団、教会が如何に頑迷であろうとも限界というものは彼等が思うよりも遥かに早くやってくる。」

 

 

 

 

何せ今回アカネイアがマケドニア征伐を進めたとしても、他国がそれに同調するには根拠が余りにも弱い。

仮にマケドニアがアカネイアの使者を殺した。或いはアカネイアの領土を攻めた。などと言うならば、アリティアを始めとした国は動くだろう。

 

 

マケドニアからすれば、アカネイアからの食糧支援を停止しただけ。しかもその食糧はアカネイアが大陸各国から集めたもの。

となれば、アカネイア以外の大陸各国からすれば寧ろマケドニアへの食糧支援が無くなった事はアカネイアに出す食糧が減少する事に他ならず、歓迎すべき事。

 

教会がマケドニアでの影響力を失ったとしても、それは各国にとってどうでも良い話。

 

 

アカネイアはアリティアが無条件にアカネイアに従う。そう思っているらしいが、派兵と言うのは少なくない負担をアリティアに強いる事。

コーネリアス王とて、国を傾けてまでアカネイアに協力する。と言うには、余りにもアカネイアの腐敗が過ぎる。

 

 

そもそも、大陸各国の軍備は陸地での戦闘を前提としている。これはドルーア帝国との戦いが実質アンリひとりの働きにより終わらせた事によるものだろう。

 

 

ドルーア帝国の脅威こそアカネイアやアリティア。アカネイアの後継者たるオレルアンやグルニア。アリティアから独立したグラも承知はしていよう。

が、如何せんアンリが独力でメディウスを打倒したが為にドルーアの脅威度を正確に理解しているとは思い難い。

 

 

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実のところ、マケドニア主導のアカネイア迎撃案。これについてメディウスやモーゼスからの理解は得られている。

が、その一方でドルーアの竜人族の多くから理解を得られていた訳では無い。

 

 

それこそ、ゲレタが説得に赴かねばならない程度にはドルーアの竜人族達は今の平和を護りたいと願っている。

 

故にゲレタは本来用意する予定のなかった次善の策として、マケドニアの竜騎士と天馬騎士による侵攻艦隊への投石と高高度からの槍の投擲。

それによる効果が不十分と判断すれば、竜化した竜人族による巨岩の投下計画を策定せねばならなかった程。

 

 

更に竜人族の力を借りて、もうひとつ策を講じる事で何とか彼等を説得している。

 

 

 

アカネイア建国以来、竜人族達は人族により迫害され、その存在自体を否定されてきた。

中にはその不当な扱いに反発した者もいたらしいが、寧ろそれがアカネイアや教会の主張の正しさを証明する事に利用されている。

 

 

今も生きている竜人族の多くは世の移り変わりを受け入れ、そして最早人との共存は果たせぬもの。そう諦めていた者達なのだ。

 

その心の内に怒りもあった。

だが、それ以上の虚しさがあり、疲れていた。

 

 

 

 

だからこそ、今のマケドニアは彼等にとってその長い事生きた命を擲ち、守るべきもの。

彼等にとって遺すべきナーガの娘たるチキもいる。

 

 

「此処は我等にとって理想郷であり、我等が生きてきた証ともなる場所なのだ、ゲレタ殿。

何も出来ぬと言うのは耐えられぬ。」

 

ゲレタが説得した時に言われた言葉だ。

 

 

 

長い迫害の中で、彼等は常に懊悩していたと言う。

 

 

ナーガが示した未来。

この大陸の担い手が人である事を受け入れ、それを受け入れぬ同胞と戦ってまで手に入れたそれが

 

本当に正しかったのか?と

 

 

 

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メディウスがドルーア帝国を建国し、アカネイアを滅ぼした時彼等の胸中は複雑だった。

 

 

その憎しみの果てにあるのは、人を根絶やしにせんとする世界。しかし、自分達は長く生きられようと未来へ繋ぐ事は出来ない。

 

だが、自分達の中にあるこの怒りや嘆き、苦しみは?

少なくない同胞が力の源(竜石)を奪われ殺された。

 

 

何が正しいのか、最早彼等にも分からなくなっていった。

 

 

だから、メディウスが封印され人がその生活圏を拡げる事を察した彼等は人の手の及ばぬ所へ逃れ、人との関わりを絶つ事を選ぶ。

 

 

長く生きている彼等とて、強い負の感情を持ち続ければ狂う。

理性なき獣に堕す。そんな事は認められなかった。

それは彼等の唯一残された誇りだったのだから。

 

 

 

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そんな彼等は今マケドニアの者達と協力し、笑い合い、支え合い生きている。

 

 

それがどれ程難しく、またこの世界で許されぬ事か。それは彼等竜人族が誰よりも理解していた。

 

 

 

この穏やかで、尊き日々を守る

 

彼等大陸から渡ってきた竜人族にとって、それは何よりも優先すべき事。

 

 

アカネイアなどどうでも良い。

滅ぼしたところで、自分達の生きる場所が増える訳ではないのだから。

 

 

 

ゲレタ(次代の光)の言う事は理解出来る。

かの者は我等が次代の申し子たる姫を導き、共に在るべき者。

 

 

ラーマンもナーガの遺産もさして重要ではない。

その意思を

 

その願いを現実と出来る者が居るのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬぅ、魚の骨が刺さったわ。」

 

「慌てて食べるからではないか。」

 

「では竜化して丸呑みするか?

そうすれば小骨程度気にせずともよかろうよ。」

 

「馬鹿を言うな。

皆とこうして食事を共にする事を知ったと言うのに、今更そんな寂しい食事など出来るものかよ。」

 

 

 

 




暫くはマケドニアとその他勢力を交互に書いていく予定。


長らく更新していなかったのに感想を貰えて嬉しく思います。
独自性の塊ですが、のんびりやっていこうと思っております。



宜しければまたお付き合いして頂けると嬉しく思います。

エリスルート完結記念の外伝

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