汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
ニーナにとって、王位とは縁のないものであった。
自分よりも上の王位継承者が複数おり、そもそも国王である父から遠ざけられていた事も何となく理解はしていたから。
そしてそれは国王に意見した事で決定的になった。
彼女の知るアカネイアとは豊かな国であり、日々の生活を送るに何の不自由もない。
だが、そうではなかった事をアドリア伯領に来て知る事となる。
ニーナに軍事的な知識はない。そしてそれを素直に認められる。
だからこそ、マケドニア征伐の話が出た時にこう思った。
⋯マケドニアとは何処にある国なのか?
と
オレルアン、アリティア、グラ、グルニア。
大陸の主要国家である此等の国については、彼女の周りに居た者達に聞けば明確な答えが返ってきた。
しかし、マケドニアについては誰もが明確な答えを出す事は出来ず、曖昧な事ばかり。
ニーナの周りに控えていた者達は主君の疑問を払拭すべく、騎士団の者にその問いを向けた。
にも関わらず、分からなかった。
傭兵としてマケドニアの竜騎士を使っていたが、彼等の飛んでいく先まで気にする者は無く、ある程度の方角が分かる程度のもの。
更にマケドニアに食糧支援していた頃は、マケドニアの竜騎士が先導していた為、明確な指標があった訳でもないとの事。
それでも騎士団が強く勧め、国王が認めたのだから少なくとも公算はあったのだろう。
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元々アカネイア王は若い時には勇猛な人物であったらしいが、最近は寵姫に構うばかりで国の事は見なくなった。
それでもアカネイアという国が正常に機能しているのならば、問題ない。
だが、王は自身のお気に入りを推薦した人物を騎士団の長たる将軍に据えた。
騎士でこそあったが、将軍に据えた人物は目立った武勲や集団を纏める能力があった訳でもない。
国王の命と言う事で押し通したが、当然騎士団の者達は王の判断に不満を抱いた。
ニーナに知る由もない話だが、この事が『マケドニアの王女や天馬騎士を貢ごう』とする動きに繋がったと言える。
何せ国王のお気に入りを推挙すれば、己の栄達は約束された様なもの。
それで
将軍となった者は必死に騎士団を纏め上げようとし、そんな中でマケドニアとの繋がりが一方的に絶たれる。
騎士団の内部でも武功を挙げる機会を求める声がそれなりにあった事もあり、将軍となった男は『マケドニア征伐』を上奏。
国王も諸々の考えからこれを是とし、マケドニア征伐の為にアカネイアは動き出そうとした。
将軍からの提案を受けたアカネイア王。
彼の中でこの時からひとつの考えがあった。
マケドニア征伐と言う比類なき大功を挙げた将軍ともなれば、いずれ出来るであろう寵姫との子の後ろ盾としてこれ以上ない者になるのではないか?と
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アカネイア騎士団においては治安維持が功績を挙げる機会と見做されない。
これはアカネイア中興の祖カルタス時代において、再建されたアカネイア騎士団。そこに所属する者の中に『ドルーアへの抵抗運動』を経験した者が少なからず居た為である。
言わば、カルタスにとって仲間とも言える存在であり、オードウィンが去った後に彼等はアカネイア騎士団の中核を占める様になった。
彼等にとって、『国を護るのは当たり前』の事であり、その為にこそ騎士団がある。
であれば、治安維持など『やって当たり前』の事と見做していた。
勿論、功績として認めない訳では無かったが、取り分け賛美されるものではない。
盗賊や山賊を倒したとて、再建の途上にあったアカネイアにおいてはありふれたもの。
「国を守る為に騎士となったのであろう?
そこまで評価する程のものか?」
ドルーアと言う暴威からアカネイアを守り抜いた彼等。
だからこそ、その精神は高潔であり、大きな責任を感じていた。
再建されたアカネイア騎士団。
その黄金期とも言える時代の制度は今も残り、その一方で高潔な精神は失われた。
結果、治安維持に対しての意識の低さというものが出来上がり、騎士達は武功を挙げる機会に飢える。
という合体事故とも言える状況に今の騎士団は陥っている。
一部の者はこれを危惧していたが、『正論が常に受け入れられる訳では無い』
その辺の匙加減が上手かったのは、先代将軍であったが
彼は騎士であり過ぎた。
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アカネイア王の寵愛を一身に受ける寵姫。彼女を推挙した人物が将軍となれた訳だが、これは例外中の例外。
先々代の将軍とて、領地を得る事は叶わずその勢威も一代限りのものとなった。
アカネイアには貴族や騎士に褒美として与える土地が枯渇しつつあり、故にこそマケドニア征伐やカダイン誅伐によりアカネイアの外に領地を求めようとしている。
先代の将軍は領地を持つ事に必死になっている貴族。彼等の執念を甘く見ていたのである。
アカネイアを守り、支えるのが騎士の存在意義。
騎士の我欲の為にアカネイアを窮地に追いやるなどあってはならない。
そう思い、動いていた先代将軍。彼と領地に拘泥する者達では余りにも考え方が違い過ぎた。
そしてそれに気が付くには、余りにも時間が足りなさ過ぎた。
アカネイアという巨大な組織の捻れは酷くなりつつある。
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アカネイア国王の死。
それは王国と共生関係にある教会総本山にとって悼むべき事であった。
「⋯この際、最高司祭の選定に今少し時間をかける事で我々の影響力を更に増やすべきではなかろうか?」
「⋯⋯それもアリかも知れぬ。
何せ新王となるであろうニーナ様は我等教会の教えをそこまで受けておらぬ。」
そんな事は決してなく、彼等はこれを奇貨として更なる王国への影響力拡大を目論んでいた。
例え王国内で次期国王が決まろうと、戴冠式を行なうには『
寧ろ、アカネイア最高司祭の地位を
彼等は本気でそう考えていた。
実際、アカネイアによる大陸秩序が百年程続いたのは紛れもなく教会の尽力あっての事。
大衆には説法で
有力者の子女には歴史教育という形で
アカネイアの正統性と、アカネイアこそが人の世を開いた。
そう言い続け、それは最早覆しようの無い確固たる事実として定着している。
神たる者に人の世を治めんと託された国
それがアカネイア。
故にメリクル、グラディウス、パルティアは神器なのだ。
だからこそ、教会の意思たる総本山はアカネイアに求めるのだ。
我等の功に見合った扱いを
と
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ラングは日に日に酷くなる頭痛に苛立ちながら、それでも理性的に物事を片付けようとしていた。
つい先程、ニーナからラングは直々に「私を支えてくれませんか?」との言葉を賜る栄誉を得た。
だが、ラングからすれば全くもってやる気のない話だ。
その場にて即答は避けたものの、時間稼ぎにしかなるまい。
そもそもこんな小悪党程度が国を動かす重鎮になるなど、想像したくもない。
己はせいぜい領主止まりである事をラングは一番理解している。
向上心を持つ事は美徳だが、過ぎた欲は人を滅ぼすのだ。
「しかも、いつの間にかニーナ様をお支えする派閥の筆頭と見られているとは。」
心底不本意である。
確かにニーナ様がパレスから放逐されると聞き、自領に招いたのは事実だが
それはあくまで『王位継承権を持たぬ』からそうしただけで
王位継承権があったならば、静観しただろう。
今のアカネイアなど宰相の地位を用意すると言われても、関わりたくない。
王家の権威は失墜し、騎士団は纏まりに欠け、総本山の連中は碌でもない事を企む。
救いなのは、アカネイアの実情を理解しているであろう文官達が生きている事くらい。
それとて、マトモな国なれば当たり前の事だと言うに。
ラングから見ても、この様な状況で将軍の言うところのカダイン誅伐やマケドニア征伐。これらが行える体力は無い位は分かる。
だが、ラングは将軍をその地位に据えた者達がそれを許さない事も良く分かる。
成り上がる絶好の好機なのだから。
しかし
「滅びるかも分からぬ国の貴族より、安定した国の貴族の方が良い。
そのくらいの事も分からんのか。」
もう呆れる他にない。
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ラングがマケドニア征伐に反対だったのは、単純に『労力に対して得られる結果が釣り合わない』と考えていたからだ。
マケドニアに兵を出し、マケドニアを制圧する?
マケドニアの傭兵、竜騎士を見て何故その様な寝言を宣えると言うのか。
悪路も森も、砦や城すら関係なく彼等は動ける。
空を駆ける彼等に対して出来る事は余りにも少ない。
弓による狙撃?
当たると思えぬ。
仮に数を揃えれば或いはどうにか出来るやも知れぬが、その場合外れた矢は全て地に落ちるのだ。
最悪、それによる被害もあり得よう。
魔道士の魔法による攻撃。
有効ではあろうが、魔道士の数自体が少ない。
相手が反撃を選んだ場合、軽装な魔道士では不利になろう。
と言うより
「渡海する為の船が無い時点で話は終わっているだろうに。」
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ラングを始めとした領地を持つ貴族がマケドニア征伐やカダイン誅伐に反対している理由がある。
彼等は自領を守る為に自身で兵力を用意し、それを運用している。
だからこそ、結果の分からない不必要な出兵は悪戯にアカネイアの国力を浪費するものと見えるのだ。
領地を持つ封土貴族は兵力を動かす事による様々な事も考えねばならない。
賊退治ひとつとっても、どの様な編成、兵力で
何処から攻め、賊を倒し切るか?
また被害が出れば、その補填も考えなければならぬ。
武器程度ならばさしたる問題にもならないが、人や騎馬が失われたとなれば頭を抱え悩まねばならなくなる。
ラングもマケドニア征伐について、当初は賛同するか悩みはした。
だが、贔屓にしている商人に話をすると
「馬を船で、ですか?
おすすめは出来ませんし、私はやらないでしょうね。」
との事だった。
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馬とは本来調教し、乗り手とある程度呼吸をあわせねば乗って駆ける事すら難しい生き物。
そして、環境の変化に強いと言う訳ではなく、水や餌が変わるだけで体調を崩す。
人ですら船酔いする事もあると言うのに、狭い船内に繋ぎ止め、自由に動けないと言うのは馬にとって相当ストレスの溜まる環境となろう。
加えて餌や水の用意。排泄物の処理など問題は山積。
確かに輸送力は向上するだろうが、貴重な馬を使い捨てるかの様に扱えるものではない。
それを聞き、ラングはマケドニア征伐が上手くいくと思えず
以降は反対の立場を取り続けている。
失敗しても、大した罰にならない騎士と違い
封土貴族は事によっては領地を没収される可能性がある。
最近はないが、亡くなった王の父の代にはそれなりに処罰が下され、所領を失った者もいた。
領地を取り上げられる
それは封土貴族からすれば、二度と領地を得られない事を意味する。
それはつまるところ、アカネイア貴族として拭い難い汚名を自分のみならず一族にも負わせる事だ。
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所領内において、封土貴族はある程度の権限を有する。
だがそれは、所領内で発生した揉め事等についても責任を持つ事が前提だ。
考えたくもないが、仮にアカネイアが滅んだとして
国土は取り戻せたとしても、喪った
となれば『反乱を起こされても問題のない地域』において、苛政を行い
それを国の復興に充てる。と言うのは、好ましからざる事なれどやらねばならぬ事でもある。
勿論、反乱されてもそれを制圧するだけの戦力がある事は前提だが。
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封土貴族は兵を動かす場合、その後始末も含めて考えねばならない。
だが、騎士団や領地を持たぬ貴族や総本山にはそれが分からぬ。
眼前の脅威を取り除いて終わりではない。
その後始末次第で、新たな脅威が生まれかねないのだ。
ラングとて、贅沢な生活はしたい。
だが、民から絞り過ぎれば最悪反乱を起こされる。或いは村や町を捨てる可能性とてあり得なくはない。
自領内で完結するのであれば、まだ良い。
が、アカネイア騎士共と違い、封土貴族の騎士や兵は民に近い。
それこそ反乱を鎮圧するどころか、反乱に与さないとも限らないのだ。
ラングはどちらかと言えば、日和見主義。
だからこそ、時流を読む為にあらゆる動きに敏感でなければならぬ。
権力者に阿り、それにより己の罪業を誤魔化す。或いは揉み消す事も出来ようが、それは権力者が変わればそれと共に没落しかねない。
さりとて、己の弱点を握られている以上、他所に鞍替えする事も難しくなる。
悪徳貴族とて、己の立場を守る以上は
周囲からの悪感情を無視出来る訳では無いのだから。
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そもそも、王国は何を考えているのか
ラングには理解し難い。
何せニーナに王位に就く事を説得している使者が、元ニーナの側仕えをしていた者なのだから。
ニーナに近侍していた者。
彼等は彼女が『アカネイア王族』であるからこそ、そこに己の利を見出し仕えていた。
だが、国王から遠ざけられ王族としての立場すら失った
故にパレスを離れる彼女に誰も従わなかった。
だが、ニーナが国王となるのであれば話は変わる。
何せ自分達が廷臣としてアカネイアに大きな影響を持つ事が出来るのだ。
だからこそ、
言うまでもなく、それに対して彼女が好意的になれる筈もない。
結果、アカネイアの王位は暫く空白となるのだった。
エリスルート完結記念の外伝
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いる
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いらない
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そろそろリンダルート書いて、どうぞ?
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そんなことよりチキを出せ
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その他