斉木久遠の要Ψ   作:弁慶の泣き所

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第6XΨ会の日まであと…

 

 

____12年前

 

 

 

「「はっぴばーすでーとぅーゆー、はっぴばーすでーとぅーゆー」」

 

薄暗い部屋で3本のろうそくが刺さったケーキを囲むある5人家族。歌っているのはそのうちの大人2人だけ。

 

「「はっぴばーすでーでぃあおんちゃーーん!はっぴばーすでーとぅーゆー!!」」

 

大人2人は満面の笑みでパチパチ手を叩きながらはしゃいでいる。その横ではムスッとしている男の子と真顔でケーキをじっと見る男の子。

 

そして目を輝かせてロウソクの炎をみつめる小さな女の子。

 

「おんちゃんお誕生日おめでとう!!ほら、このロウソクにふーって息をかけるのよ」

 

母親が女の子、久遠にそう話しかける。しかし久遠は母親に話しかけられても目線をロウソクから離さずじーっと炎を見つめていた。どうやら初めて目にする火に夢中なようだ。

 

「あれ、ロウソク気に入っちゃったか?普段火なんて見ないもんなぁ」

 

「確かに火って近くで見るとなんだか見とれちゃうわよね」

 

「僕だっていつもママに見とれちゃうよ♡」

 

「もー、パパったらぁ♡」

 

久遠が炎に魅入っているそばで両親はイチャイチャとし始め、一瞬久遠から目を離してしまった。

 

その瞬間、久遠は急に右手を赤い炎へと近づけたのだ。久遠はただ、その不思議に光るものに触れてみたかった。

 

久遠の指が火に触れる直前、念動力で久遠の体がピタッと止まるのと、空助がフッとロウソクの火を消したのはほとんど同時だった。

 

「うわ!危なっ!はぁ、良かったぁ。ありがとう空助、楠雄」

 

「別に、たまたま気づいたから止めただけだし」

 

少し遅れて気づいた父親が胸をなで下ろし息子達にお礼を言うと、兄はツンデレのような発言をし、弟はこくりと頷き無言で頷いた。

 

「おんちゃ、けーきたべたい…」

 

当の本人は危なかったことなど全く理解せず目の前のケーキを食べたがる。それはずっとケーキを見つめて楽しみにしていた次男の心と一致したようで、楠雄も久遠の言葉にこくこくと頷いた。

 

「じゃあケーキ切り分けましょ!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

僕の名前は斉木空助。超能力者の弟がいること以外は至って普通の凡人だ。

 

幼少の頃のいちばん古い記憶、それは敗北感だった。わずか3歳で自転車に乗りもうすぐ補助輪も外せるという時、僕の弟はわずか1歳でバイクを乗りこなした。弟は天才で僕は普通の凡人。3歳のその日、僕は悟った。

 

しかし兄が弟に負けるなどあってはならないことなんだ。僕は楠雄に対抗心を燃やし日々楠雄に勝つために努力した。僕は弟に勝るために何でも頑張った。しかし弟はいつも上をいった。

 

そんな僕にはもう1人妹がいる。3つ下の妹、久遠。

 

正直僕は久遠が母親のお腹にいる時、それが産まれてくるのが怖かった。真の天才である楠雄の次に産まれるのは一体どんな化け物なんだと考えては震えたものだ。

 

ただでさえ弟に勝てないのに妹にも勝てなかったらどうしよう。そんな不安を抱いていた。

 

しかし産まれてきたのは予想外に平凡で普通な女の子だった。しかし、、当時の僕は赤ん坊の久遠が本当に理解できなくてまるで宇宙人のように思っていたと思う。

 

初めて久遠に会った時のことは鮮明に覚えている。まるで猿みたいで、目も開いてなくて、小さくてこれが本当に妹なのかと疑った。

 

久遠が一緒に住むようになってから両親はてんやわんや。僕も楠雄もそれはもう手のかからない赤子だったのもあってある意味初めての育児と言っても過言では無かった。

 

そして成長の早い僕と楠雄は必然的に久遠の世話を頼まれることが多々あった。僕は当時、謎の生き物である久遠に興味津々だったため、結構久遠の面倒を見ていたと思う。

 

そしてなんだかんだ楠雄も結構久遠を見守っていた気がする。

 

 

 

久遠はそれはもう手のかかる子だった。夜泣きはうるさいし、すぐに泣くし、オムツ替えるのは臭いし、目を離したらすぐに危ないことをしている。

 

毎日毎日、久遠の世話をしては僕と楠雄との成長の速度の違いに驚いていた。

 

でもその亀の歩みのようにゆっくりなスピードで着実に成長していったのだ。

 

 

 

久遠が初めて立った時は心臓がドキドキしてなんだか驚くほど嬉しかったのを覚えている。

 

久遠はよく泣くけどそれ以上によく笑う子で、よたよたしながら笑顔で僕の方へ歩いてくる姿を見ると胸が高鳴った。

 

離乳食になっていつもアーンしてあげていたのに自分でやりたがって、零しながらも自分で食べ始めた時は嬉しさと寂しさの交じった初めての複雑な感情を抱いた。

 

久遠が初めて口にした言葉は、ママでもパパでもましてや楠雄でもない、、、僕だった。

 

拙い口調で「くーく!」と呼ばれた時はなんだか涙が出そうになったのだ。いや、実際に「あひゅ〜」と泣いてしまった気がする。

 

 

3歳の頃は、とにかく僕と楠雄の真似をしたがった。僕の真似をして語尾に「し」をつけて話しているのは可愛かったが、僕と楠雄が勝負していると入りたがっては邪魔をして、当時はイラッとした。でも久遠に応援されるとなんだかやる気がみなぎった。

 

4歳の頃には、ある程度話せるようになって、分からないことは何でも僕たちに聞いた。何かを教えると目を輝かせて楽しそうに話を聞いてくる。だからついからかって久遠で遊んじゃったりもした。冷蔵庫の卵を久遠にプレゼントして温めたら鳥が産まれると教えた時は、いつも以上に目を輝かせて一日中卵を温めては「いつうまれるの?」と聞いてくる。初めはすごく面白かったけど、時間が経つにつれどうネタばらししようかと悩んだ。そんな時久遠はいつものドジで転んでしまい、大事に大事にしていた卵を割ってしまった。僕は正直ラッキーと思ったが、久遠はそれはもう大号泣。いつもならすぐに泣き止むのにその時は本当にずっと泣いていて、初めてあんなに罪悪感をもったのだ。

 

5歳の久遠はおままごとが大好きで、楠雄と僕はよく付き合わされていた。いつも久遠がお母さん役で僕はお父さん。楠雄とぬいぐるみが子供で、正直めちゃくちゃにつまらなくて時間の無駄に感じていたが、なんだかんだ付き合っていたと思う。楠雄が超能力でぬいぐるみを動かすと凄く嬉しそうにして、楠雄もどことなく自慢げな表情を浮かべていた。

 

 

 

僕が久遠に危機感を覚え始めたのは久遠が6歳くらいの頃。

 

公園で少し目を離した隙に怪しい大人について行っていたのが初めかもしれない。ふと、周りを見渡すと久遠がいなくて心臓の底からヒヤッとした。

 

幸いすぐに見つかったものの、久遠は1人では生きていけないのだと改めて認識した瞬間だった。

 

朝、寝ぼけて服を正確に着れないのも、忘れ物が激しいのも、変なところで転ぶのも、何でも信じてしまうのも、幼い子特有のものだと思っていたけれど、久遠は成長してもそのままだった。

 

それなりに大きくなっても僕には意味不明な思考回路と行動をする久遠に、僕は内心呆れていた。意味がわからないし関わるのも疲れる。

 

だけど、僕は何故かいつも、つい久遠に構ってしまうのだ。

 

 

 

14歳の時、何度挑んでも負けて、負けて、負け続けて、どうやっても楠雄に勝てないことに自暴自棄になり、高校を飛び級。

 

逃げるようにイギリスのケンブリッジ大学に留学した。

 

正直久遠と離れるのは寂しいし何より心配だったが、両親もいるしあの楠雄がいるのだ。きっと大丈夫。

 

日本を出る直前、空港で大泣きしながら僕にしがみつく久遠をたまに思い出しては少しホームシックになったりもした。

 

「ぐーぐんっ!!行かないでぇ、いっぢゃやだぁぁぁ」

 

まるで永遠の別れのように悲しいという感情を全面に出して泣く久遠に、両親も貰い泣きしていた。

 

イギリスに言ってからも久遠とは定期的に連絡をとっている。電話をすると楽しそうに最近あった出来事やどうでもいい事を延々と話すのを聞くのは、度々息抜きにもなった。

 

あれから4年、久遠はどんな風に成長してるだろうか。いや、久遠の様子は防犯カメラでもよく見るし、ママからも写真が送られるし、ある程度は知っているが。

 

 

 

そろそろ会いたいなぁ。

 

 

 




最初の誕生日ケーキの時に空助がムスッとしているのは、直前に楠雄と何かしらの勝負をして、負けて不貞腐れてるのかもしれない。

久遠の初めての言葉が「くーく」(くー君)だったのは、空助がずっと久遠に言い聞かせていたからだったりするかもしれない。

空助は照橋信(六神通)みたいなやばい兄弟愛じゃなくて、一般的な家族愛としてのシスコンです。

久遠の性格があれなので少し過保護気味な気がしなくもないけれど、普通に妹として久遠を可愛がってます。

空助は楠雄に対しても結構ブラコンだし家族の事が大好きだと思うので、妹もなんだかんだ可愛がるはず。
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