魔族を紐解く者   作:エルフ大好き


原作:葬送のフリーレン
タグ:オリ主
魔族を研究してるエルフの話

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魔族を紐解く者

緑豊かな森と静寂の中に佇むエルフの里。そこでは、厳格な教えと調和、そして魔法を重んじるエルフたちが長い歴史の中で築き上げた秩序が存在していた。エルフは自然と共に生き、知恵と優雅さを持って日々を過ごしていたが、その里には一人、他とは異なるエルフがいた。彼の名はリース。幼い頃から周囲に馴染めない好奇心旺盛な異端児であり、エルフの里を窮屈に感じていた。

 

16歳を迎えるとリースは自ら外の世界へ、エルフの里を飛び出し広大な世界を旅し始めた。各地を巡る中で、彼は世に忌み嫌われる存在――魔族と出会う。

 

魔族は感情を持たず、ただ己の力を追い求める生物であり、人間やエルフを食らう存在とされていた。恐れと嫌悪が混じった視線を向けられる彼らを、リースは不思議な感覚で見つめた。「本当に彼らは恐怖の存在なのだろうか?感情を持たないというのはどういうことだろう?」彼の好奇心は抑えられず、魔族に強く興味を抱いた。

 

旅の途中、リースはある村で奇妙な噂を耳にする。それは「人を喰らう魔族」が現れ、村人たちを襲っているというものだった。魔族は恐ろしい存在であり、感情を持たず、ただ力を求めて人々を傷つける。それがこの世界での一般的な認識だった。リースもその話を聞いて初めは恐怖を感じたが、同時に興味が湧き上がってきた。感情を持たない存在とはどういうものなのか?なぜ彼らは人を喰らい、破壊を繰り返すのか?

 

「魔族って、そんなに単純な存在なのか?」

 

リースは自分に問いかけた。旅をして多くの種族や人々に触れてきた彼にとって、「ただの悪」として片付けられる存在には、何か引っかかるものがあった。悪意の根源や行動の理由には必ず背景があると信じていた。ならば、魔族にも何か理由があるはずだ。そう思い始めたリースは、魔族についてもっと深く知る必要があると感じた。

 

次第に彼はエルフと魔族の根本的な違いに疑問を抱くようになる。感情がある存在とない存在、それは本当に決定的な違いなのだろうか?その問いはリースをますます深みに引き込んでいった。

 

*

 

ある日、リースは荒れ果てた廃墟の中で一体の魔族と遭遇する。そこには小さな影がうずくまっていた。それは幼く、まだ力を持たない魔族だった。通常なら、エルフであるリースはそんな存在に恐れや嫌悪を抱くべきだったが、好奇心が恐怖を凌駕し、リースはその魔族に近づいていく。対話など不可能とされていた魔族だが、彼は感情の欠如について何かを学ぼうと試みた。

 

「お前は一体、何を求めている?」

リースの問いに、魔族は静かに見つめ返すだけだった。魔族には感情がないとされていたが、その瞳には計算めいた底なしの冷たさがあった。

 

「私はお前と話したい。対話することでお互いの違いを理解できるかもしれない。」

その言葉に魔族は僅かに反応し、弱々しく口を開いた。

 

「対話…?お前が私に何を望むかなど、どうでもいい。だが、もし対話が必要なら、応じてやろう。」

その声には嘲笑が含まれていた。リースはその皮肉を感じながらも、何かを学び取ろうと会話を続けた。

 

だが、この小さな魔族は既に別の目的を持っていた。彼にとって対話とは相手を欺くための手段であり、リースの問いかけすら、自らの利益のために利用できるものだと理解していた。リースはそのことに気づいていなかった。彼にとって、対話の試み自体が重要であり、その成否に執着はなかったのだ。

 

根気よくリースは魔族との対話を試み続けた。その結果、彼は一つの結論に至った。魔族には感情はないが、意志はあり、対話は可能である。しかし、その対話が成立するのは、魔族にとっても自分を欺く手段として有用だからに過ぎなかった。リースは相手を理解しようとしたが、一方で魔族もまたリースを観察し、学び取っていた。「対話とは、相手を欺くための武器にもなり得る」と。魔族はそれを今まで当然のように行ってきたが、この度で完全に理解した。彼にとってリースとの出会いは、自身の狡猾さを強化する一助となった。

 

その後、リースはその魔族と再び会うことはなかった。彼は旅を続け、さまざまな土地で新たな知識を得ながら、魔族との対話が無駄ではなかったと確信していた。しかしその間に小さな魔族は成長し、力を蓄え、他の人間やエルフ、さらには自らの同胞である魔族たちをも欺く存在へと変わっていった。

 

彼はその欺瞞によって勢力を拡大し、いつしか「魔王」と呼ばれる存在にまで昇り詰めた。リースとの邂逅が、彼を新たな高みに押し上げるための一歩となっていた。

 

*

 

年月が過ぎ、リースの耳にも「魔王」の存在が広がっていった。その名を聞くたびに、彼はかつての小さな魔族との出会いを思い出さずにはいられなかった。あの時、対話を試みたことが、結果としてこの存在を生み出したのではないか。リースの胸には罪悪感と後悔が募った。

 

だが同時に、彼は理解していた。対話が意味を持たない相手であっても、その試み自体が新たな可能性を生み出すことがあるのだと。たとえその結果が予期しないものであったとしても。

 

そしてリースは決意した。自分が蒔いた種によって生まれたこの魔王と向き合う時が、いずれ来るのだと。彼は再び旅立ち、今度はその対決に備えて力を蓄えることを始めた。

 

---

 

 

 

エルフの里はかつて、自然と調和し繁栄を誇っていた。しかし、時の流れと共にその数は徐々に減少し、リースの故郷も例外ではなかった。エルフたちは長命であるがゆえに繁殖力が低く、また外部の脅威に晒されやすい。その結果、エルフの里は少しずつ、だが確実に衰退していった。

 

旅の途中、リースは別のエルフの里が魔族によって襲撃されたことを知り、大きな衝撃を受ける。エルフの数が減り続ける中で、一つの里が壊滅したことは、エルフ全体の未来が危ういことを示していた。

 

さらに驚くべきことがあった。たった一人、生き残ったエルフがいるという。そのエルフは人間に弟子入りし、その庇護のもとに生活しているという。

 

「人間に庇護されている…だと?」リースはその事実に複雑な感情を抱いた。エルフは長い間他者、特に人間に頼ることは稀であった。しかし、この時代においてその考えは命取りになることもある。リースは旅で得た知識と経験を振り返り、エルフの里を守るためには古い概念を捨て去る必要があると感じた。

 

故郷に戻ったリースは、直ちに結界の強化に取り組む。かつてはエルフの魔法によって護られていた結界も、今では維持が困難になっていた。彼は世界を旅し、様々な土地で学んだ知識をもとに、魔法だけに頼らない防衛システムを構築することを決意する。

 

「もはや、我々の魔力だけでは守り切れない。」リースは物理的な罠を巧妙に配置し、森に侵入してくる敵を確実に仕留めるための仕組みを作り上げた。鋭い矢が飛び出す機構や、地面に潜む落とし穴、さらには毒を仕込んだ針など、古い里の穏やかな風景は一変し、厳しい防御要塞へと変貌を遂げていった。

 

それでも、リースは常に心のどこかで悩んでいた。これだけの防御策を施しても、未来が保証されるわけではない。エルフの数は減少し続け、かつてのように自然と共生する時代はもう戻らないのではないか。自分がやっていることは、ただ時を引き延ばしているだけなのかもしれない。

 

 

結界を完成させた後、リースは生き残ったエルフに会いに行くことを決意する。そのエルフの名はフリーレン。彼女は人間のもとで修行を積み、強くなっているという噂が広がっていた。エルフとして、リースはこの事実に強く興味を抱いた。エルフが人間に弟子入りするなど、想像もできないことだったからだ。

 

リースがフリーレンを探し出し、彼女に出会った時、すぐにその力と決意を感じ取った。彼女は静かに立っていたが、その瞳には確固たる意志が宿っていた。フリーレンは魔族との戦いを生き延びた経験を持ち、師匠の元で自らを鍛え上げていた。

 

「あなたがリース?」フリーレンの言葉には抑揚が少なく、感情があまりないように感じた。リースは彼女をじっと見つめ、旅で得た知識と経験を持つ自分が、彼女のような存在に何を伝えられるのかを考えた。

 

「そうだ。そして君が、唯一の生き残り、フリーレンか。」リースは感慨深げに呟いた。彼女は自分よりずっと強く、魔法について研鑽を重ねていると感じた。彼女の力を目の当たりにし、エルフとしての未来にわずかな希望を見出すが、それと同時に自分たちの時代が終わりを迎えつつあることを痛感した。

 

彼らの出会いがエルフたちの運命にどのような影響を及ぼすのかは、まだ誰にもわからなかった。しかし、リースは彼女との対話の中で新たな道を模索し始めるのだった。

 

*

 

リースは、16歳のとき、好奇心に駆られてエルフの里を飛び出した。16歳は見た目は青年だがエルフとしてはもはや赤子同然であった。エルフは一般的に魔力操作に長けているが、リースはそれを不得手としていた。魔法では失敗を繰り返し、周囲からは「エルフらしくない」とからかわれることもあったが、彼の探究心はそんな評価には動じなかった。

 

「魔法だけが力じゃない。世界は広いんだ。もっと学びたい。」

 

リースはそう言い残し、里を後にした。彼は世界中を旅し、様々な知識や技術を身につけていった。しかし、旅の途中で彼が魔法に頼らないことが災いする場面も多々あった。ある日、リースは山中で魔物に襲われた。彼が得意でない魔法を試みようとしたが、肝心なときに魔法が暴走し、まったくうまくいかなかった。そこで彼は即座に方針を変更し、物理的な方法で対処することにした。

 

「よし、魔法はだめだ。ならばこれだ!」

リースは周囲の木々を利用し、ロープを使って即席のトラップを作り上げた。見事に魔物を絡め取り、そのまま崖から投げ落とすことに成功した。魔法を使わず、経験と工夫で乗り切った彼の姿は、まるで歩く知恵袋を見ているかのようだった。

 

「何でも魔法に頼る必要はないさ。必要なのは知恵と工夫だ。」

リースは誇らしげに呟いたが、そんな彼の姿は、魔法が得意な他のエルフたちからすれば異端に見えた。しかし、リースにとっては魔法の力に頼ることよりも、世界中で得た知識や技術で解決することが何よりの満足だった。

 

また、リースが旅の途中で立ち寄った町で、突然の魔物襲来が発生したこともあった。町の魔法使いたちは魔力を駆使して防衛に当たっていたが、魔物の数が多く、徐々に押され始めていた。リースも何とか力になろうとしたが、魔法が苦手な彼には難しい局面だった。

 

「よし、ここは得意分野で勝負だ。」

 

リースは町の外壁を利用して簡易のバリケードを作り、さらに木材を使って町全体を囲むトラップを設置した。魔物が突進してくる度に、その罠が次々と発動し、魔物たちを阻んでいく。

 

「これでどうだ!」

 

物理的な対策が功を奏し、町は守られた。リースの大胆な行動と知恵は、魔力が尽きかけた魔法使いたちを助けることになったが、彼のやり方は周囲の人々には驚きとして映った。

 

「リースって、エルフなのに本当に不思議な人ね。」

 

なんて村人たちに言われることもまあまああった。彼は魔法が得意ではないものの、必要に応じてそれを補うためにあらゆる手段を講じる能力に長けていた。それはエルフとしての姿とは異なるかもしれないが、リースの旅とその解決方法は、確実に彼自身の個性を築いていた。

 

また、リースの魔族研究は、エルフらしい恐ろしく気の長いアプローチで進められていた。彼の生活は、魔族に関する書物や文献を集めることから始まった。旅を通して世界中から集めた情報や、直接の観察、古代の遺跡で見つけた碑文、時には人間の魔法使いとの議論など、あらゆる手段を使って魔族の本質を解き明かそうとした。

 

彼の研究室は、森の外れにあり、古びた石造りの建物で、所狭しと書物や巻物が並べられている。魔族の標本や、実験用の道具が無造作に置かれている部屋には、魔法の痕跡が残る古い文献と、自作のノートが散らばっていた。だが、散らかっているように見えても、リースにとっては全てが整然としている。何をどこに置いたかは全て把握しているのだ。

 

リースの研究はとにかく時間をかける。長い年月をかけて一つ一つの仮説を検証し、失敗してはそれを楽しむかのように修正していった。彼の研究の一つには、魔族の魔法とエルフの魔法の相違点を解明するというものがあった。魔族が人間やエルフの魔法とは根本的に異なる法則で動いていることを理解したリースは、その違いを突き詰めようとした。

 

だが、リースの魔力操作はエルフの中でも不得手であったため、思い通りに実験が進むことは少なかった。ある時、魔族の魔法を再現しようとして小さな爆発を引き起こし、書棚が倒れて部屋中が煙に包まれた。リースはその状況を見て、苦笑いを浮かべながら「まあ、これも一つの結果だな」とつぶやき、再び実験を続けた。失敗することすら、彼にとっては一つの楽しみであり、新たな学びだったのだ。

 

研究に没頭する日々の中でも、時折訪れる客人たちとの交流をリースは楽しんでいた。例えば、時折フリーレンが彼のもとを訪れ、魔族についての知識を交換することもあった。フリーレンは魔族と直接戦った経験が豊富であり、リースの研究に新たな視点をもたらしてくれた。彼女との会話はいつも淡々としていたが、リースは彼女が持つ実践的な知識に感謝していた。

 

また、エルフの古い友人や人間の学者たちも時々リースの元を訪れた。彼らとの会話は研究の息抜きとして楽しい時間となり、時には彼らとともに新しい実験を行うこともあった。茶を飲みながら過去の冒険談を語り合い、未来の可能性について語るその時間は、リースにとってかけがえのないものだった。

 

「研究は急ぐ必要なんてない。気が向いた時にやればいい」とリースはよく言った。彼の研究スタイルは、時の流れに身を任せるエルフの特性そのものだった。彼が解き明かそうとする魔族の秘密も、気が遠くなるほどの時間をかけて少しずつ明らかにされていく。

 

結局、リースにとって研究とは「結果を出すためのもの」ではなく、「過程を楽しむためのもの」であり、その日々は楽しく、そしてエルフらしい長い視点で続けられていったのだった。

 

リースは、長い旅の途中で幾度となく大陸魔法協会の創始者であり、生ける伝説と称されるエルフの大魔法使い、ゼーリエと茶会を開くことがあった。ゼーリエは1000歳以上のリースよりも遥かに年上で、かつて伝説の魔法使いと呼ばれたフランメの師匠でもある。リースはそのゼーリエよりも年下だが、彼女との関係は独特なものだった。

 

ゼーリエは、魔法は才のある者にしか教えるべきではないという厳格な考えを持っており、リースの魔法の才能が乏しいことから、彼について魔法使い的にはこれっぽっちも興味を抱いてなかった。しかし魔族を研究する、その一点においては興味を抱いいていた。それこそ、それなりの頻度で茶会を開くほどに。

リースとゼーリエの茶会は、古びた石造りの建物の一室で、静かに続いていた。ゼーリエはエルフの中でも屈指の魔法使いであり、長い年月を生きてきた彼女の知識は深く、時折その知恵はリースに新たな視点をもたらした。

 

「リース、最近は何を探求している?」とぜーリエは、リースの目をじっと見つめて尋ねた。彼女の目には興味と共に、少しの期待が宿っているようだった。

 

リースは一瞬考え込み、続いてにっこりと笑った。「最近、魔族と人間の関係について調べている。彼らがどのように生き、そして何を求めているのかを理解したいと思ってね。」

 

ゼーリエは微笑んで頷いた。「魔族は常に謎に包まれているが、理解不能というのが通説だ。お前が秘密を解明することができれば、きっと新たな発見があるだろうな」

 

彼女の言葉に、リースは力強く頷いた。「そうだね。彼らの文化や習慣、何より彼らが抱える苦悩や願望を理解することが重要だと思う。それが僕たちエルフにとっても、未来のために必要なことだと思うんだ。」

 

茶会はしばらく静かに進み、二人はそれぞれの考えを深める時間が流れた。やがてゼーリエが口を開いた。「リース、考えはかなり独特だけれど、時には魔法の力を忘れるな。エルフなのだから。」

 

リースは頷きつつも、少し考えた。「もちろん、魔法は特別だと思う。けれど、僕それに依存したくないんだ。物理的な方法や知恵で解決することも、同じくらい大切だと思う。」

 

ゼーリエはその言葉に少し驚きつつも、彼の意見に耳を傾けた。「お前の視点は多少弟子たちにも必要なのかもしれない。」

 

彼女の言葉に、リースは心の底から嬉しく感じた。長い間、彼は自分のエルフとしての立場に疑問を抱いていたが、ゼーリエの言葉は彼の心を軽くした。「ありがとう、ゼーリエ。あなたの言葉は私にとって大きな励みになる。」

 

茶会が終わる頃、ぜーリエは言った。「じゃあ、また」

リースは微笑み、明るい気持ちで応じた。「ああ。次回までにもっと知識を深めておくよ。」

 

彼らの奇妙な友情は、時の流れを超えて続いていく。リースの旅と研究は、これからも彼自身の成長とともに、新たな道を切り開いていく。

 

 

*

 

 

 

 

フリーレンと勇者一行が魔王を倒すための旅を始めて間もない頃、リースは旅の途中で彼らに出会った。特に勇者ヒンメルにリースは興味を抱いた。彼の仲間思いの姿はすぐに目を引いた。ヒンメルは困っている人を助けずにはいられず、誰にでも優しく、ただ、特にフリーレンに対しては一際優しい眼差しを向けていた。

 

ある日、リースはヒンメルに声をかけた。「なぁ、ヒンメル。フリーレンのことが好きなのか?」

 

ヒンメルは顔を真っ赤にさせ驚いた様子だったが、すぐに笑顔を作りながら誤魔化した。「ま、まぁ、そうだが…。でも伝える気はない。彼女には伝えなくていいんだ。」

 

「何でだ?」リースは尋ねた。「彼女に伝えなきゃ、いつまでもそのままだろう?」

 

ヒンメルは少し考えてから答えた。「エルフと人間の寿命は違う。彼女には、もっと自由に生きてほしいんだ。僕の気持ちを知ったら、彼女はどう思うだろう?余計に孤独を感じるかもしれない。」

 

「それでも、お前の気持ちを知っていた方が、彼女は嬉しいと思うぞ。」リースは言った。「フリーレンも人間の感情をもっと知るべきだ。」

 

ヒンメルは静かに目を閉じ、リースの言葉を反芻しているようだった。「…でも、彼女がその気持ちを知ったら、僕のことをどう思うだろう。彼女には心配をかけたくないんだ。」

 

「心配をかけないために、愛情を隠すのか?」リースは眉をひそめた。「愛は大切なものだろう?隠す必要なんてない。」

 

ヒンメルはゆっくりと頷いた。「それは分かっている。でも、伝えることで彼女が苦しむなら、僕はそれを避けたいんだ。」

 

リースは彼の深い愛情を感じたためその時はこれ以上何も言わなかった。やがて勇者一行が魔王に迫る中、リースは再び彼らと鉢合わせた。ヒンメルとフリーレン、そして他の仲間たちは、魔王を倒すという大義のもと、幾多の困難を乗り越えていた。

 

しかし、リースは驚いたことに、ヒンメルがまだフリーレンに想いを伝えておらず、フリーレンもまったくその気持ちに気づいていないことに気づいた。

 

「おい、ヒンメル。お前、まさかまだ何も伝えてないのか?」リースは問い詰めた。

 

「いや、伝える必要がないんだ。フリーレンはそんなことに気づかない方が、きっといい。」ヒンメルは静かに答えた。

 

「でも、それじゃあフリーレンはずっとその気持ちに気づかないままなんだぞ。」リースは強い口調で言った。「彼女にとっても、それは大切なことになるはずだ。」

 

ヒンメルは考え込んだ。「…リース、君の言うことは分かる。でも、僕にはできないとと思う。彼女が孤独を感じないように、楽しい思い出をたくさん作ることが、今の僕にできることだ。」

 

「そう思うのか?」リースは驚いた様子で問い返した。「でも、お前の気持ちを伝えることも、彼女を孤独から守る一つの方法だと思うが。」

 

「僕の気持ちはフリーレンの笑顔のためにある。」ヒンメルは真剣な表情で言った。「彼女に負担をかけたくないんだ。」

 

リースは彼の決断に少し残念さを感じた。ヒンメルのフリーレンへの愛情は純粋で深いものであったが、その想いが伝えられることなく、フリーレンはヒンメルの恋心に気づかないまま、ただ仲間として共に歩んでいた。

 

「まぁ、お前がそれでいいなら、俺はそれ以上言わないさ。」リースは肩をすくめ、ヒンメルの選択を尊重した。「でも、いつか本当に伝えたくなったら、教えてくれ。」

 

「ありがとう、リース。」ヒンメルは微笑んだが、その笑顔にはどこか諦めがあった。「でも、今はこの旅に集中しよう。魔王との決戦が待っている。」

 

リースは頷き、勇者たちの旅は続いた。やがて、魔王との決戦を迎える時がやってくる。リースはヒンメルとフリーレンの関係がどのように変わるのか、心の中で少しだけ期待を寄せていた。

何故ってリースにとって、ヒンメルとフリーレンの関係は人間とエルフの寿命の違いを象徴するものだったからだ。

 

*

 

リースが魔王城に足を踏み入れたのは、フリーレンたち勇者一行が魔王を倒すために魔王城にはいる寸前のことだった。彼は魔族についての研究を続けてきたが、魔族の最も中心的な存在である「魔王」に対して、ある種の執着を抱いていた。なぜ魔王は世界を脅かし、数多くの命を奪い続けてきたのか?その動機と存在意義を知りたいという強い好奇心が、リースを危険な行動へと駆り立てていた。

 

「魔王に会わなきゃ、答えは得られない。」リースは自分に言い聞かせた。彼は魔王城の結界を破る術を知っていた。世界を旅して得た知識や経験、そして無駄に思われるほどの時間が、彼に独自の解決法を与えていた。

 

魔王城に近づくと、普通の魔族であれば問答無用で襲いかかってくるが、リースは巧妙な物理的な罠を駆使し、何とか城の深部へと進んでいった。心の中で「ただ話をするだけだ」と繰り返しながら。

 

ついに、彼は魔王の前に辿り着いた。玉座に鎮座する魔王は、圧倒的な威圧感を放っていた。リースは一瞬緊張したが、すぐにそれを払いのけた。「戦うつもりはない。ただ話をするだけだ。」

 

「お前に話がしたい。」リースは正面から魔王に問いかけた。「どうしてこの世界を壊そうとするんだ?」

 

魔王はしばらくリースを見下ろしていた。その冷たく無感情な目は、まるでリースを通り越して何か別のものを見ているかのようだった。沈黙が続いたが、リースはその静けさに動じることなく、さらに言葉を紡いだ。

 

「お前には、何か別の目的があるのか?ただ破壊し、支配するためだけに生きているわけじゃないだろう?」

 

魔王はようやく口を開いた。低く、重い声が玉座の間に響いた。「目的など、存在しない。我々はただ、存在し、力を求め続ける。それがこの世の理だ。」

 

リースはその言葉を聞いて、さらに興味を掻き立てられた。「力を求めるだけが存在意義か?感情も、目的もない存在として、お前は満足しているのか?」

 

再び沈黙が続いた。魔王は深いため息をつくように言った。「感情、目的、そんなものは無意味だ。力こそがすべてを支配する。」

 

「力だけが全てだって?」リースは首を傾げた。「それなら、お前は本当に何を求めているんだ?他の存在はどうでもいいのか?」

 

「他の存在など、我々には関係ない。」魔王は冷たく言った。「ただ力を持ち、その力を使う。それが我々の本質だ。」

 

リースはその答えを聞きながら、心の中で少し失望を感じた。魔王ですら、その存在意義を超えた何かを追い求めてはいないのか。しかし、その単純さが逆に魔王の本質を際立たせていた。彼ら魔族は、感情や目的を持たない存在であり、その中に隠された真実があるように思えた。

 

「わかった。お前たちは本当にそういう存在なんだな。」リースは静かに言った。「だが、これで終わりだ。お前の時代はもうすぐ終わる。フリーレンたちがここに来て、お前を討つだろう。」

 

魔王は何も言わなかった。ただ静かにリースを見つめていた。彼には、その言葉に対して答える必要もないのだろう。

 

「一つだけ教えてくれ。」リースが言った。「もしお前が本当に力だけを求めているのなら、その力で何をしたいんだ?」

 

魔王は一瞬の沈黙の後、答えた。「それは…私が考える必要もない。私の存在は力そのもの。私が力を持つことが全てだ。」

 

リースはそれを聞いてからその場を後にした。魔王がリースに手を出すことはなかった。戦う意志がないリースを、魔王は単なる興味本位の存在として扱ったのかもしれない。あるいは、すでに自分の運命を受け入れていたのかもしれない。

 

城を出たリースは、遠くから魔王城を見上げた。そして、静かに呟いた。「結局、ただの力の象徴か。理解はできないと。でもいつか理解できる日が来るかもしれないな。」

 

その後、フリーレンたち勇者一行が魔王を討ち、魔族の時代は終わりを迎えた。リースは、自分が魔王と話をしたことを誰にも話さなかった。それは彼の心の中に残る、答えの出ない問いの一つとして、静かに記憶に刻まれたのだった。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

魔王を討ち果たしてから数年が経ち、世界は徐々に平穏を取り戻していたものの、魔王の残党がいまだ各地に点在していた。ヒンメルはそのため、度々人々を助けるために旅に出ており、ある日、リースと再び出会った。

 

「おお、ヒンメルじゃないか。久しぶりだな、相変わらず顔はキマってるな。」リースは冗談混じりにヒンメルに声をかけた。

 

「リース、また旅かい?」ヒンメルは微笑みながら答えたが、その目には疲れが見え隠れしていた。「僕はまだ魔族の残党が気になってね。少しでも世界が安全になるようにと思って、動いているんだ。」

 

リースは肩をすくめた。「お前は本当に真面目だな、そこがまたお前らしいが。でもなぁ、そんなに頑張ってるとまたフリーレンに会えないんじゃないか?」

 

その言葉にヒンメルは一瞬表情を変えたが、すぐに苦笑した。「フリーレンか…。まぁ、会いたくないわけじゃないけど、彼女も忙しいしさ。別に急ぐ必要もないだろう?」

 

「急ぐ必要はないかもしれないけど、いつまでもそのままでいいのか?」リースは真剣な顔で尋ねた。「お前はエルフと違って、限りがあるんだ。早いうちに会っておけ。お前がいなくなった後で、彼女がどれだけお前を思うか…考えたことがあるか?」

 

ヒンメルはその言葉に目を伏せ、少し黙り込んだ。リースはさらに続ける。「俺は何度かあの後もフリーレンに会ったが、彼女、お前のことをよく話してたぞ。お前がどれだけバカ正直に人助けしてたかとかさ。あんな風に誰かを思うのは、エルフにしては珍しいことだ。ずるいよなぁ、お前ばかりが彼女の心に残ってるなんて。」

 

「そんなこと言われてもね、リース。」ヒンメルは苦笑いしながら呟いた。「僕がフリーレンに何かを伝えるのは、きっと彼女に負担になるだけだよ。彼女は自分の道を進むべきだし、僕がその道に干渉するのは違うと思うんだ。」

 

「干渉って…お前なぁ、ただ会うだけでもいいじゃないか。お前の存在が、彼女にとってどれだけ大事か、気づかせてやれよ。」リースは強調した。

 

ヒンメルは少し考え込んだ後、首を横に振った。「僕は、今のままでいいんだ。彼女にはもっと多くのことを学んでほしいし、僕がいなくても彼女は強く生きていける。」

 

リースはその言葉に呆れたように息をついた。「…本当にお前は頑固だな。お前が何も言わなきゃ、フリーレンは一生気づかないかもしれないぞ?それでもいいってのか?」

 

ヒンメルは微笑みながら「それでいいんだ」と静かに答えた。「僕たちはもう十分に共に旅をして、たくさんの思い出を作った。それで十分だよ。」

 

リースはしばらくヒンメルを見つめたが、最後には諦めたように肩をすくめた。「…まぁ、お前がそれでいいなら、それ以上俺が口出しすることじゃないな。でもさ、後悔するなよ?特に、死ぬ前にな。」

 

「わかってるよ。」ヒンメルは静かに笑った。「僕は、今のままが一番いいんだ。フリーレンには、彼女自身の旅を続けてほしい。」

 

「でも、お前の思いも伝えたいんじゃないのか?」リースが再び問いかけると、ヒンメルは一瞬考え込んだ。

 

「確かに、伝えたいことはある。でも、彼女がそれを受け入れる準備ができていなければ意味がないと思う。」ヒンメルはゆっくりと答えた。「そのために、今は待つ時期なんだ。」

 

リースはもう何も言わず、ただ小さく頷くだけだった。彼は友の決意を尊重するしかなかった。しかし、心の奥底では、ヒンメルが自らの気持ちを伝えられずにいることに対するもどかしさを感じていた。

 

「いつか、ちゃんと話せる日が来るといいな。」リースが最後に言うと、ヒンメルは静かに微笑んだ。「その日を楽しみにしているよ。」

 

そして再びそれぞれの旅へと進んでいくのだった。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

フリーレンは、勇者とその仲間たちと共に魔王を打ち破った。その旅は辛いことも多かったが、人間たちと過ごす時間は新鮮で楽しいものだった。だが、魔王を倒した後もフリーレンの旅は終わらなかった。彼女は長命種であり、時の流れは穏やかに、マイペースに進んでいた。

 

その間に、彼女の仲間たちは次々と年老いていった。最初に勇者ヒンメルが老衰で亡くなった。フリーレンは、彼の死に際して自分が何かを失ったことを痛感した。「私は…何をしていたんだろう」と、彼女は自らの過去を振り返る。

 

「もっと早くに人間の感情や生き方を理解しようとしていれば」と、後悔が胸を締め付けた。

 

フリーレンが人間を知ろうとする旅を続けている最中、ある街で聞き覚えのある名前を耳にした。「リース…」彼女はその名に立ち止まる。かつて出会ったエルフだった。彼は魔族を研究するエルフであり、その独特の好奇心から、フリーレンとは別の道を歩んできた。リースは千年もの間、魔族と人間の狭間を旅し続けていた

 

彼もまたフリーレン以上に旅を続け、何を見つけ、何を失ってきたのだろうか。再び彼と話をすることで、自分が知ろうとする「人間」と、彼が探求し続ける「魔族」について新たな視点を得られるのではないかと考えた。

フリーレンは、リースが今いるとされる場所へと向かった。

 

「リース、久しぶり。」彼女は静かに言った。

リースは彼女を見つめ、その瞳に宿る深い思索の影を感じ取った。「フリーレン、君も変わらないな。というか、数十年単位ならそれこそ久しぶりって訳でもないだろう。」彼は笑顔で返したが、フリーレンの表情にはかつてなかった深い感情があった。彼女は魔王を倒し、勇者を失い、これからも生き続けていく。その背後にある思いを、リースは興味を持って理解しようとした。

 

「最近はどんな旅をしているんだ?」リースが尋ねると、フリーレンは新たな目標を語り始めた。「人間をもっと知りたいと思っている。」

 

「人間の感情や生き方について、何か特別なことがあるのか?」リースは尋ね返した。

 

「そう。人の生き方には深い意味があると思うから。」フリーレンは答えた。「私はもっと彼らの心を理解したい。」

 

リースは頷きながら、彼女の変化した心を打たれた。「それなら、僕も手伝えるかもしれない。僕は千年かけて魔族を研究してきた。その成果を君に見せるよ。」人間と魔族の感情の違いについては、それぞれの特徴を理解する必要があったからだ。

 

「人と魔族の感情について、何か気づいたことはある?」フリーレンが興味津々に尋ねる。

 

「魔族には感情がないとされているが、僕はその中にも何かしらの意志があることを見つけた。」リースは真剣な表情で続ける。「彼らはただ生きるために力を求め、対話を欺瞞の道具として使うが、そこに微かに感じられる意志は無視できない。千年前に魔族に会ってからつくづくそれを感じるよ」

 

フリーレンはその言葉で魔族との戦いの日々を思い返した。「確かに、魔族の意思はあったね。対話もしたけど私には無意味だと感じたけどね。私も人間たちとの対話をもっと深めるべきだったと今は思っているから少しだけわからなくなりそう」彼女は思わず声を漏らした。

 

「私たちの道は異なるけれど、どこかで交差しているのかもしれないね。」リースは微笑んだ。

 

「リース、千年前に出会った魔族は、今どうしているの?」フリーレンが尋ねると、リースは少し考え込んだ後、静かに答えた。

 

「彼は…魔王となったらしい。君たちが打ち破ったあの魔王こそ、私がかつて会話を試みた魔族だったんだ。」

 

その言葉にフリーレンは驚いた。「自分が倒した魔王が、リースと関わっていたとは…」彼女は時を越えて交差するものを感じた。

「僕たちが出会ったことで、何かが変わるかもしれない。」リースは言った。

 

フリーレンは「私たちは、長い時間を生きてきた。これからも旅は続くだろうけれど、今度はもっと多くのことを知っていこうと思う。」

 

「もちろん。」リースは力強く答えた。「お互いの旅を通じて、互いに良いものになるだろう。」

 

彼らは再びそれぞれの旅をする。フリーレンは人間を知り、リースは魔族を研究する。その旅の中で、互いに新たな未来を切り開いていくのだ。

 

リースは、ヒンメルがフリーレンに想いを伝えなかったことについては触れずにいたが、心の中では少しの怒りを感じていた。「あの頑固者め…フリーレンはヒンメルの存在の大きさに、彼が死んでから気づくことになったじゃないか。」そう思いながら、彼の新たな旅に向けて一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 


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