お久しぶり。書けたよ。
タンジアギルドに、とあるハンター達がクエストから帰ってきた。二男二女で構成されたそのパーティーは、それぞれが亜種モンスターの武具を纏う実力者達だ。
「お、見ろよ
「トライ・ランダーズ……ああ、あのロアルドロスに遊ばれて負けたって言う?」
「ハハッ! 言ってやるなよ」
しかし、そのハンター達は数少ないG級ハンターにもかかわらず、何故か一部のハンター達から軽く見られていた。
その理由は、かつて受けたクエストでチーム全員がロアルドロスに良いように遊ばれ、挙げ句ほとんど成果を得られずに全滅したことが原因だった。
「……ただのロアルドロスじゃねーし……後の大水獣だし……」
紫水獣装備のハンマー使いであるローズが、聞き慣れてしまった揶揄の言葉に小さく反論する。
「ローズ……何も知らない奴らの言葉なんか気にするな。言わせておけ」
白海竜装備の大剣使いであるルースが、チームリーダーらしくローズを宥める。
「そうだよ。……それに、遊ばれてたのは事実だし──痛っ!?」
蒼火竜装備の片手剣使いであるリオが、沈んだ空気を払おうと茶化し。
「悪いのはお前だからな、リオ」
そんなリオの肩を強く叩き、桜火竜装備のヘビィボウガン使いであるレイナが空気を引き締める。
チームがロアルドロスに敗北して以降、立場を変えて何度も繰り返して来たやり取りだった。
大水獣や、そもそもモンスターの脅威を知る者はトライ・ランダーズに理解を示していたし、当然ギルドも対処した。
だがそれをギルドマスターに特別扱いされていると考えた口さがない者はよく思わなかったようで、未だに戯言を吐き続けている。
「よく帰ってきたのぅ、トライ・ランダーズ。早速で悪いが、お主らに良いものを持ってきたぞ」
そんなトライ・ランダーズを、リベンジのチケットを手に持ったギルドマスターが呼ぶ。
「ただいま、ギルドマスター。良いものとはなんです?」
「ふふふ、これじゃよこれ。【特別狩猟許可書】じゃ」
「【特別狩猟許可書】?」
チームリーダーであるルースがその書類を受け取る。見ると、それは大水獣の
「大水獣ッ! ……ん、
ルースの持つ依頼書を覗き込む三人も驚いたようで、どういうことかとギルドマスターを四対八つの視線が突き刺さる。
それを軽く受け流しながら、ギルドマスターはビール──ではなく、胃に優しい温い水を啜りながら、沈痛の面持ちで答えた。
「……お前さん達の様なハンターに言うのも申し訳ないんじゃが、ハンターズギルドは……孤島の王を捕獲・討伐ともに困難と考え、クエストを撃退のみと定めたんじゃ……」
「……そこまで、ですか……」
「………これは、お前さん達G級ハンターに対する侮辱と思われるかも知れん。じゃが、事はそう単純な話ではなくなってしまったんじゃ」
「ギルドがこんな特別な扱いをする程の何が……?」
「一部を除いて、今のハンター達では……幾ら束になっても孤島の王を討つことはできんと、そうハンターズギルドは判断したんじゃ」
ギルドマスターの言葉に、やはりトライ・ランダーズの四人や、話を盗み聞きしていた他のハンター達すら不穏な雰囲気を漂わせ始めた。
快活とした雰囲気が自慢のタンジアの港に、暗雲が掛かったような錯覚さえする空気の中、それを振り払うかの様に、ルースはハッキリとギルドマスターに宣言する。
「ギルドマスター、
「「「………」」」
諦めにも聞こえるルースの言葉に、仲間達は俯き拳を握る。
遠巻きで聞いていたハンター達も、舌打ちをしたり嘲笑を零したりしていた。
「ですが、それは今の話です。かつて討伐が困難とされていたモンスター達も、先人が調査を重ね、手段を模索してくれたお陰で、後人の俺達も安全に狩りが出来るようになりました。それが今、俺達に番が回って来ただけです」
堂々と言い切られたルースの言葉に、仲間達の顔に光が戻る。
それだけじゃない。さっきまで同じ様に俯いていたり、舌打ちや嘲笑で悪態を晒していた一部のハンター達すら思うところがあったのか、なにやら考えに
「……そうじゃな。本来、ハンターとは自然を知り、観察し、対策する者じゃ。よく言ってくれたのぅ、ルースよ」
陰鬱な雰囲気を払拭するかの様に、タンジアギルドに清々しい海風が吹いた。
「【特別狩猟許可書】……伝えた方が良いかも」
そして、そんな友に降りかかる危険? にいても立ってもいられず、モガのハンターが急いで孤島へと帰還しようとしたその時だった。
「おう、モガのハンターよ。ちょうど良い所に」
ルース達との話を終えたギルドマスターが、船着き場へと向かおうとするモガのハンターを呼び止めた。
「……なんですか、ギルドマスター?」
「なに、お前さんに指名依頼が来とってのぅ」
流石に咎められるかと考えたモガのハンターだったが、呼び止められた理由は指名依頼がきたからだった。
「指名依頼……? 」
「おう。まあ、何時ものお使いじゃよ」
「……アイツにですか?」
「おう。よろしく頼むぞ」
「……分かりました。ちょうど暇ですし、直ぐ向かいます」
嫌な予感がしてハンターちゃんが内容を聞くと、案の定、大水獣へのお使いだった。
しかし、大水獣へ会いに行くつもりだったモガのハンターはちょうどよいとその旨を了承するのだった。
■
「キュオォーッ!?」
「ピィー!」「ピュイー!」「ウオオオッ!」
エピオスを練習相手に戦いの練習をするルドロス達。一匹は片目に傷があり、一匹は全身に細かな傷がある他より一回り大きな体を持ち、一匹は一際
三対一で、しかも相手は草食の海竜とは言え、ルドロスとのサイズ差は二倍ある。挙げ句、その巨体がパニックを起こして暴れているので、並大抵のモンスターなら手痛い反撃を受けるだろう。
だが、そのルドロス達は並大抵ではなかった。
鬣の大きなルドロスが水を吸い込み圧縮し、暴れるエピオスの顔目掛け、一瞬だけ水流ブレスを放つ。
ブレスが直撃して怯んだエピオスの隙を逃さず、大きな体を持つ傷だらけのルドロスが、エピオスを岩場へとタックルで押し飛ばす。
そして岩場へと体を打ち付けて弱ったエピオスの首を、片目に傷を持つルドロスが牙や鉤爪で切り裂いた。
海を赤く染め、ピクリともしなくなったエピオスを見つめるルドロス達。
やがて自分達だけで狩りを成功させた事に喜びが溢れたのか、三匹のルドロスは自分達を見守っていた巨大なロアルドロスの元へと泳いで行った。
「ピュイ!」「ピー!」「オウ!」
おう、ちゃんと見てたぞ息子達~。立派に──いや、
駆け寄って来た──海で
密漁団との戦いの後、息子であるルドロス達からやたらと“もっと強くなりたい!”と意志をぶつけられたので鍛えてやっていたが、こうも目に見えて強くなるのか。
はしゃぐルドロス達を落ち着かせ、エピオスを陸に上げるよう言う。
その意味が理解できないのか首を傾げるルドロス達に、狩り終えたエピオスを見るよう伝える。見ると、血の匂いに惹かれた魚達──小型の魚竜──がエピオスの死体に齧りついていた。
自分達の獲物が横取りされている事に気付いたルドロス達は、そのまま魚竜狩りを開始した。
必死になってエピオスを引き上げようとするルドロス達。このままじゃ日が暮れると、ルドロス達ごと陸に引き上げてやっていたら、エリア九番からアプトノスの鳴き声と荷車を引く音が聞こえてきた。
見ると、ハンターちゃんがアプトノス二匹で引く大きな竜車を連れて現れたのだ。
警戒するルドロス達を下がらせていると、ハンターちゃんは竜車を近くの岩に繋いで近付いてきた。
久し振りだなハンターちゃん。今日はどうした?
軽く吠えて挨拶し、目的を問う。するとハンターちゃんは「何時ものお使い」と言いながら荷台に積み上げられた木箱を指差し、続いてポーチから手紙を取り出した。
“それはなんだ?”と手紙を見ながら首を傾げる。
「この手紙? これはあの密猟者達と関わりのある公爵からの謝罪文だって。竜車の荷物はその詫びの品だとか」
そう言いながら、ハンターちゃんは何かに見せる様封蝋を剥がし、そして手紙を俺だけに見える様に広げ、顔を明後日の方向へとそらした。
「……一応密書だから。私は見ちゃダメなの。チャチャやカヤンバも見ちゃだめだからね?」
「わかってるっチャ!」
「ミート無しは嫌ンバ!」
“何してんだ?”とハンターちゃんの顔を見つめいたら、ため息とともに理由を教えてくれた。地中へと潜るチャチャやカヤンバ、ハンターちゃんの落ち着きの無い視線を見るに、好奇心と義務や恐れがせめぎ合っている様だ。
そんなせめぎ合いからハンターちゃんを解放してあげるため、その胸元で広げられている手紙を読む。
……ん、少し歪だが見覚えが……あ! ひらがなとカタカナ!
なんと公爵からの手紙には、ハンターちゃんに教えたひらがなとカタカナで文字が書かれており、所々に絵も交えた読める文章に成っていた。
モンハン世界特有の季節の挨拶を飛ばして読み解けば “身内のゴタゴタに巻き込んでごめんね”という詫びの言葉に“保存の効く食糧とか贈るね”という、荷物についての説明が書かれていた。
この手紙を書いた公爵の賢さに驚きつつ、貴族がこんなストレートな手紙を寄越すのかと訝しむ。
すると突然吹いた風に手紙が煽られ、光の加減が変わり、手紙に透かし文字が見えた。
「え、ちょっと何?」
ハンターちゃんを手で押して動かし、手紙を掲げさせて透かし文字を読みやすくする。
そして浮かび上がってきた公爵の真意に、俺は笑いを堪えられずにいた。
──ツイキ.ソウジのキョウリョクをカンシャする.
「……? もういいのね」
そんな内容にゲラゲラ笑っていると、俺が手紙を読み終えたことを察したハンターちゃんは怪訝な表情をし、連続肉焼きセットを取り出して、手紙を着火剤に肉を焼き始めた。
“機密関係が確りしてるね”なんて考えながら、滴る肉の脂によって更に燃える手紙を眺めていると、ハンターちゃんが理由を話してくれた。
貴族からの秘密の手紙は、証拠を残さないように読み終えたら即座に跡形も無く消すそうだ。最初の封蝋や、手紙を見ない様に顔を逸らしていたのもそのためだとか。
「手紙の処分方法も指定されたの」
そう言って、ハンターちゃんはチャチャとカヤンバを呼び、焼き終えた肉を渡した。
……成る程、燃やす方法も自然だし、長く燃やせて且つ滴り落ちる肉汁で燃えカスが汚れるので、手紙の回収や再生も不可能だろう。……俺に手紙を掲げる不自然ささえなければ。
「……うん、もういいかな」
手紙の燃え具合いを確認したハンターちゃんは、空に浮かぶ観測気球に向かって手を振った。
「あの観測気球は私しか見てないの。だから合図を送れば──ほら」
ハンターちゃんの言葉に従い観測気球を見れば、レンズの反射光で何やら合図を送って来ていた。そして、しばらくすると鳥が飛び立ち、タンジアの港へと飛び去った。
「ふう……これで面倒なのはおしまい。……食べる?」
肩の荷が下りた様子のハンターちゃんは、そう言ってこんがり肉を差し出してきた。
「さて、この木箱はどう下ろそうか。……え、持てるの? ……滑車要らずね」
こんがり肉もたべおわったので、腹ごなしに荷下ろしを手伝っている。木箱に結ばれたロープを咥え、前脚の力を利用して持ち上げると、ハンターちゃんは感心と呆れの混じった顔で呟いた。
「……そのまま聞いて。あなたに伝えたい事があるの」
木箱を受け取ろうと近付いたその時、ハンターちゃんが千切れたロープを変える作業をするフリをして、こっそりと喋り始めた。
ハンターちゃん曰く、ハンターズギルドが俺を危険視したため、取り敢えずで許可制の撃退クエストが発行されたとか。
内容を聞くと、単純に何時もの狩猟方式で俺を撃退するのがメインターゲットだとか。“なんで撃退なんだ?”と、物陰でハンターちゃんに教わったモンハン世界の公用語を鏡文字で書く。
ハンターちゃんは、荷物をチェックするフリをしながらどう読むのか悩んでいたが、アンダーラインを引いたら即座に理解し、教えてくれた。
「 ……理由は簡単、あなたに勝てるハンターが
ハンターちゃんの言葉に僅かな引っ掛かりを覚えるが、とりあえず納得する。
……いや、やっぱ納得できないわ。俺からしたら、降りかかる火の粉を払っていただけなのに、何でそれをギルドが危険視するんだ? 別に進んで人を害そうだなんて考えてないし、そんな行動をした覚えは無いのに。
「……? 鏡文字? 何でロアルドロスが?」
疑問を聞こうとしたが、ハンターちゃんは俺が鏡文字を書けたことに困惑している様子だった。おもろ。
こうして、俺は荷下ろしを手伝ってくれたチャチャやカヤンバ、棺を運ぶアレの様に木箱を運んでくれたルドロス達と一緒に、保存食を一箱開けて小パーティーをした。
そしてその後、“空荷で返すのも勿体ないなと”空いた竜車の荷台に食べ終えたモンスター──ドボルベルクやブラキディオスやイビルジョーなど──の残骸や端材を御土産として持たせ、もののついでに伝言を託すと、ハンターちゃんは呆れながら頷いて帰っていった。
ハンターちゃんを見送りながら考える。G級ハンターが来る。本来なら──昔の俺なら、そう言われただけでパニックを起こしていた筈だ。
だが今の俺は、何故か強者の到来にワクワクしていた。
■
月明かりを眺めながら、ワインを飲む男──ポートガーディアン家当主。ガング=
そんな彼の執務室に、慌てた様子のノックが響く。
「……どうした」
『夜分に失礼します。ハンターズギルドより
「入れ」
『失礼します』
この時間、そして家令の慌てた様子の足音にノック音。そして伝えられた言葉に緊急の用件と察したガング公爵は、家令へ入室の許可を出した。
そうして執務室へ入って来た家令は、一つの封筒をガング公爵へと差し出した。
その封筒にはハンターズギルドの紋章と、その隣にロアルドロスの
封蝋を剥がして手紙を読めば、中身は至ってシンプルな内容だった。
──ツギはナイ.
モガの村のハンターによって代筆された短い文章。
しかし、ガング公爵にはそれだけで十分伝わった様子。
「クククッ……良いなぁ知恵あるモンスター……欲しいな~……」
とは言え、現在のガング公爵にそんな事している暇は無い。だが、暇ができたその時は──
「直接会って、話してみたいな」