ゆるキャン△女子たちと、ちょっとエッチな日常   作:白黒パーカー

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各務原なでしこと一緒に

 

「コウくーん! おまたせー」

 

 放課後。

 玄関でぼんやりと、先に帰っていく他の生徒たちを見送っていたところ。後ろから、俺の名前を呼ぶ声と、ぱたぱたと軽やかな足音が響いた。

 

 ようやく来たな。そう思って、振り返ろうとしたら、後ろから急に抱きつかれた。

 背中に柔らかい感触が二つ、むにゅんと押し付けられて、顔が熱くなる。

 

「なでしこ、くっつくな! 勘違いされる」

「えへへ、ごめんごめん。お姉ちゃんにするノリでやっちゃった」

 

 見れば、満面の笑みを浮かべるピンク髪の少女、各務原なでしこが白い息を吐きながら、頭をかいていた。

 こいつ、天然すぎる。

 

「……用事は終わったのか?」

「大丈夫! もう、いくらでも一緒に帰れるよ!」

「はいはい。じゃあ、帰るか」

「うん!」

 

 元気よく返事をした各務原が歩き始めるのを見て、ため息を吐き、その隣に並ぶように俺も続いた。まるで腐れ縁の幼なじみみたいだ。

 

 こう見えて彼女、最近、引っ越してきたばかりのお隣さんである。互いの両親が意気投合、クラスが同じこともあり、一緒に登下校するくらいには仲良くなった。

 これで付き合ってたら最高なんだけどなぁ。

 

 それはそれとして、各務原の高校生活が上手くいっているようで安心した。

 

 この時期に引っ越しだなんて、高校生にとってよろしくないタイミングである。友人関係はリセットだし、なんなら自分だけ孤立しているというマイナス状態からのスタートだ。

 俺が同じ立場なら絶望的すぎて、引きこもる自信がある。

 

 そう考えると、各務原のコミュ力は高いと言える。

 とはいえ、俺にも距離感がバグっているのはやめてほしい。心臓に悪すぎる。いや、本当に。

 

 各務原も志摩同様、顔がかわいいし。 

 隣を歩く各務原は俺よりも身長が低い。俺の視線に気づいて、不思議そうに小首をかしげて、上目遣いをする様は庇護欲をくすぐる。

 

「最近、キャンプは行ってるのか?」

「うん! この前もソロキャンに行ってきたよ」

「へー、成長したな」

「うへへ」

 

 ほめると、だらしなく頬を緩める。お餅みたいにモチモチしている。

 

「そんなこと、あるのかなー?」

「自信もっていいぞ。寒い時期のソロキャンは楽しいだけじゃないからな。しっかりと準備して、気を付けている証拠だ」

「うへ、うへへー」

 

 緩みすぎてこのまま溶けてしまいそうだ。かわいい。

 

 実際、冬のキャンプは危険や注意することがいっぱいだ。

 俺が初めて、ソロキャンをしたときは、準備するだけでも大変だったからなー。それも含めて楽しいと言えるなら、十分だろう。

 

「先輩キャンパーとして、とてもうれしいぞ」

「そういえば、コウくんは最近キャンプしてないの?」

「最近は、してないな。どっちかっていうと原付で遠いところに行くことのほうが多いし」

 

 キャンプは高校生の趣味にしては金がかかる。いくら稼いでも足りなくなるし。志摩しかり、野クルのメンツもそうだが、よくあそこまでキャンプができるな。マジ、感心する。

 ……俺もバイト数増やして、金貯めないとな。

 

 すると、各務原が急にしおらしくモゾモゾし始めた。

 

「じゃあ、今度一緒にキャンプ……行く?」

「二人でか?」

「ダメ、かな?」

 

 各務原は、先ほどと違い少し様子を窺うように聞いてきた。

 行ってもいいよ、と言いたいところだが。……少し困ったな。

 

 仲良くなった友人とキャンプに行きたい気持ちはわかるが、付き合ってもいない高校生の男女が二人きりで、寒い時期に朝まで誰もいないキャンプをするのは、あまり褒められたことではないと思う。不健全、とまではいかなくても、やろうとしていることはそれに近い。

 

 なにより、後で各務原のお姉さんに知られた時がめっちゃくちゃ怖い。あの人、基本無言だし。各務原に辛辣な割にシスコンだからな。絶対詰められる。

 

 自分の命のため、各務原には悪いが断ろう。

 

「あんまり男女二人で行くのは、良くな——」

「あっ! 忘れてたッ‼︎」

 

 俺の話を遮るように突然、大きな声を出した。

 ぐいん、と体が引っ張られる。俺の手を握ったかと思えば、突然、どこかに走り出した。  

 え、なにごと?

 

「お、おま、いきなりどうしたんだよ⁉︎」

「期間限定が出たんだよ! 行かなくちゃっ!」

「いや、意味わかんないから!」

 

 俺の声を無視して、ノンストップで走り続ける各務原。無理に手を離すと危なくて離せない。息が荒くなってしまう。

 

 なんで俺の手を掴んだのか理由を知りたいのだが、呼吸が追い付かないせいでしゃべれない。各務原と違って、俺、キャンプやってるけど、アウトドア派じゃありえないくらいに、体力ないんだからな! 

 

 冬とはいえ、ずっと走り続けるせいで汗が止まらない。そのせいで俺か各務原かわからないけど、どちらかの、もしくは二人の手汗が混ざりあって、繋いだ手がヌルヌルしている。

 握ったり、握りしめられたり。汗のせいで感触がもう……。

 

 その事実が、色々とヤバい。

 いけないことをしているみたいで、心臓が違う意味でバクバクする。こいつ、気にならないの? 各務原はいまこの状況をどう感じているのか。そう思い、彼女の顔を見れば……、

 

「期間限定! お菓子! 買わないとっ!」

 

 全然、気にしてない。むしろ食い物のことしか考えていなかった……。

 

 

 

「むふー……美味しい」

 

 コンビニから出てきてすぐに、買ったばかりのお菓子をぽりぽり食べる各務原はとても幸せそうな表情を浮かべていた。

 俺のドギマギはなんだったのか……。

 

「……本当、美味しそうに食べるな」

「だって、美味しいんだもんー」

「へー。で、何買ったんだ?」

 

 モグモグする彼女の手元にあるパッケージを見る。そこには〇ッキーの黒蜜きなこ味と書かれていた。なんともまぁ、甘そうなお菓子だ。

 その視線に気づいたのか、各務原はお菓子をさっと背中に隠した。

 

 なんでだよ。

 

「あげないよ!」

「いらないよ」

 

 お前みたいにそこまで食い意地張ってねーよ。

 思わず、即答してしまった。 

 

「んー……」

「どうしたんだよ」

 

 今度は、ジト目になって俺とお菓子を交互に見比べて、唸り始めた。情緒が忙しないな、こいつ。

 俺のことは全く、信用していないみたいで、ものすごく悩んでいる。

 

 とはいえ、そこまで弁明するつもりもないし。というか、それをする気力も体力も今はない。

 しばらく沈黙する各務原を無視して、スマホを触っていると、ちょいちょいと肩をつつかれた。

 

「あーん」

「……はい?」

 

 魔法の杖みたいにお菓子を俺に向けている。なに、ハリー・ポッターになりたいの?

 それをじっと見てから、各務原に視線を向けると満面の笑みを浮かべた。

 

「食べさせてあげる!」

「いや、いらないって……」

 

 さっきまであげないって威嚇していたのに。先ほどまでとの様子の変わりように困惑する。

 

「遠慮しないで、いっぱいあるから!」

「全然遠慮してないから。さっきまであげないって言ってたじゃん」

「やっぱりあげることにしたの!」

 

 なでしこワールド全開の提案に頭が痛くなった。もういいや。もらえるなら、遠慮なくもらおう。

 

「じゃあ、もらうから。それ頂戴」

「ええ! だ、ダメかも!」

「どうして⁉」

 

 なんで? 

 さすがに同い年の女の子にあーんされるのは、きつい。しかも外でなんて誰が見ているかわからないから、なおさらだ。

 

「いや、さすがに……」

 

 どうにか断る理由を探し、各務原を見たら、暗い顔をしていることに気づいて、思考が止まった。うるんだ瞳がまっすぐに俺を見つめていた。

 

「うぅ……」

 

 やばい。このままだと泣きそう。

 

「……わ、わかったって! 食べる、食べるから……!」

「やったー! えへへ」

「はい?」

 

 え、ウソ泣き?

 一瞬でけろりと表情を戻した各務原に、もしかして騙されたのでは? なんて思ったが、一度すると言ってしまった以上、やめることもできずため息をつくしかなかった。

 

 当の本人はすでに準備万端のようで、目をキラキラさせている。

 

「それじゃあ、いくね! はい、あーん」

「あ、あーん……」

 

 口元に差し出されるお菓子を恐る恐る咥える。各務原が嬉しそうにその様子を見ていて。なんというか、すげぇ、恥ずかしい。

 ポリポリ食べ終えると、次のお菓子を手に持っていた。

 

「はい、あーん」

「…………」

 

 次から次へと差し出されるお菓子。なんか餌付けされているみたい。

 これは、いつまで続くんだろうか?

 幸い、周りに人がいないから助かっているけど。いつ人が来てもおかしくない状況に、さっきとは違う意味で手汗をかいてしまう。

 

 いい加減やめたい。もう、満足したろ?

 そう思い、次のお菓子をもらう前に口を開けたタイミングで——、

 

「そろそろ、いいんじゃない――」

「あ」

 

 間の悪いことに各務原は次のお菓子を差し出していて。俺は彼女の指ごとお菓子を咥えてしまった。

 

「…………」

「…………」

 

 沈黙が続く。

 どうやら、人はとっさのトラブルが起きてしまうと固まってしまうらしい。数秒、各務原の指を咥えたまま止まってしまい、彼女もビックリしたのか目をパチクリさせながら、動かなかった。

 

 口の中に黒蜂蜜味とは違う、ちょっとしょっぱい味が広がった気がして。さっき手を握って知っていたのに、彼女の指の柔らかさを改めて実感して数秒。

 現状を理解した瞬間、俺の背中がさーっと冷えた。

 

「ご、ごふぇん!」

 

 急いで指を離して、お菓子を口の中に入れたまま謝罪する。

 各務原はいまだ咥えられた指を見て、茫然としていた。

 

「…………」

 

 事故とはいえ、さすがにこれは俺が悪い。

 ずっと黙り込んで、怒っちゃったのか。不安に思いながら、様子を見ていると。

 

「……あむ」

 

 ――なんと各務原は指をぱくりと咥えてしまった。

 

「ちょ、各務原ッ⁉︎ 汚いから、ぺっ、しなさい! ぺっ! っていうか、なんで咥えたの⁉」

 俺の制止も意に介さず、いまだに指を咥えたままの各務原。実力行使で止めようと、動き出したのだが、彼女の表情を見て声が出ない。

 

「むふふ……」

 

 いつもの天真爛漫な笑みとは違う、熱を帯びた艶のある微笑み。目を細め、飴を転がすように指を咥えていた。コロコロと舌を動かしているのか、頬が膨らんだりして。

 しばらく数秒楽しんだ様子で、ゆっくりと口から指を離した。口から引き抜かれた指に伝う糸がつーっと地面に落ちた。

 思わず、のどを鳴らしてしまう。

 

「コウくん……」

「は、はぃ」

 

 ぱたぱたと、抱き合える距離まで近づいた各務原が、キスをする勢いで顔を近づけてきた。彼女の髪が俺の頬をさすり。かと思えば、耳元でこしょりと。

 

「……美味しかったよ」

 

 甘い囁き声が耳に触れ。背中に、ぞくぞくしたものが駆け抜けた。

 何に対してそれを言ったのか。頭が真っ白になって、俺には判別できない。

 

「じゃあ、バイバーイ。今度二人でキャンプ行こうねー!」

 

 いつもの雰囲気に戻った各務原は距離を戻して、大きく手を振って先に帰ってしまう。

 後に残ったのは、しばらく放心する俺だけだった。

 

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