ワイ『ダンボールは万の事に使いけり』 ミヤコ『流石です師匠』   作:\コメット/

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あ、ここやな。
ってところで流してみてください。


13 そして、例のBGMが流れ出す。

 

 

相対するRABBIT小隊とヴァルキューレ公安局。

ひたすらにデカルトという侵入者を罵っていた空気はどこへやら。

睨み合う指揮官二人、指令を今か今かと待ち侘びるカルバノグと天使達の間には、緊張感が漂い始める。

 

「なんだ先輩じゃないですか、ちょうどよかった。二人で話がしたかったんですよ」

 

ように見えたが。

 

緊迫した、戦場へと一変する一秒前の場面で、なんとセンは砕けた口調で武器も持たずにカンナへと近づく。

 

「お、おいセン!」

 

「そう構えるな、RABBIT2」

 

歩みを止めようとするサキを、声で制する。

 

「あれなんてどうでしょう。ほら、ミレニアム郊外の廃ビルに立て篭もった悪徳ハッカー集団をヴェリタスとの共同作戦で制圧した話。他にも、暴虐の限りを尽くす制御不能ロボットをエンジニア部の協力を取り付けて試作レールガンで破壊した話、デスゲーム染みた催しに潜入して内部から崩壊させた、なんて事もありましたね」

 

『何それめっちゃ聞きたいんだけど』

 

「キャンプRABBIT、私も気になりますが今は自重しましょう」

 

これらはカンナと一対一になりたいがための口実だ。どれも事実ではあるが。

彼の提案に狂犬は思考するフリをこなしたのち、首肯。

 

「いいだろう。総員、その場で待機。向こうのリーダーと話をつけてくる」

 

「「「了解!」」」

 

「こちらへどうぞ」

 

「ああ」

 

「ヘッドRABBIT、我々は...」

 

「良い機会だ。ヴァルキューレ公安局と交流でも深めておけ」

 

「わかりました」

 

隊員達を残し、二人は誰の目も耳も届かない場所へと移動する。

 

センとカンナ、以前はヴァルキューレ公安局のエースとして活動、君臨していた二人。

役割を果たすことのできない警察機関という評価をたったの一組みのバディで覆していた過去が、彼らにはある。

今や道は違え、一人はホームレス。もう一人は上にとって都合のいい駒に成り下がってしまったわけだが、彼らの仲に亀裂が入った訳ではない。

 

「さて...先輩も大変ですね、まったく。余程追い詰められていると見える」

 

ミヤコ達からだいぶ遠ざかったところで足を止め、開口一番センはため息混じりの同情の言葉を送った。

目を見開いて驚くカンナだが、それはほんの一瞬。

 

「やはり、お見通しか...流石だな」

 

身体の固さを抜き、二人の間には二年前の空気が戻ってくる。

 

「あなたの焦りも相当ですが、そちらの上司も急いているようだ。不知火先輩はお元気で?」

 

「ああ。今朝もどこから仕入れたかわからない豆でモーニングコーヒーをキメていたよ」

 

「あの人に必要なのはカフェインではなくビタミンB群や亜鉛、でしょうに」

 

不知火カヤという人物は、何事も急ぎ過ぎる傾向がある。

原因は複数挙げられるが、一つは尊大な自信の裏側にある不安によるもの。臆病なくせして他者にマウントを取りたがるので、早急に実績と成功という名の飾りを欲する。

そんな不安感を和らげてくれるのがビタミンB群等の入った豆類、シジミや海苔に含まれる亜鉛だ。

 

「今度、枝豆とシジミの味噌汁でも飲ませてやってください。あの忙しなさも少しはマシになるでしょう」

 

「連邦生徒会司厨部のアンケートに記入しておくよ」

 

「頼みます。いやしかし、少々驚きました。先日別れた時のあなたの顔からして、もうしばらく悩むと思っていましたが...なんですか?俺の顔に何かついていますか?」

 

「変わらないな、おまえは」

 

呆れと羨望を半々に、カンナは微笑を浮かべる。

 

「俺自身は、ね。変わったのは環境です。こちらとしても、先輩も根は相変わらずのようで安心しました。別れ際にあんなことを言っていたので、これでも一応心配はしていたんですよ」

 

「一応か」

 

「ええ。あなたは俺が気にかけるほど弱い人間では無い。時間はかかっても、こうして俺の元を訪ねてくると思っていました。それが想定よりも早かった。喜ばしいことです」

 

「否応なく背中を押された結果だ...私は、おまえが思うほど強くは無い。現に、リベートなどという違法行為に手を染めてしまったのだからな。もっと良い案があったかもしれないのに、警察が犯罪を犯すなど、あってはならないことだ」

 

「仕方ない、これに尽きます。上に歯向かえばヴァルキューレ全体への圧力は増し、ただでさえ余裕のない在校生達の首を絞めることになる。彼女らを扇動しての反乱という選択肢もあったでしょうが、リスクが大きい。冒険をするほどの士気も、力も、盤面をひっくり返すには足りない」

 

二年前の戦力状況なら或いは、と考えられたが失った過去の栄光を振り返っても、得られるのは現状への憂いのみ。

間違った道を進み続けた末に、今のヴァルキューレ警察学校がある。

 

「従わなければ制裁が下る。プランに遅れは許されない。故に、行動には移しながらも最低限の結果だけを上に提示し、俺のいる子ウサギ公園にきた。こうして、俺と話すために」

 

「...その通りだ。言葉に起こされると我ながら不甲斐ないが、頼む。この件が公に出れば、暫くはカイザーも大人しくなるはずだ」

 

「依頼は違法リベートの証拠の奪取ですね?自らが口火になるとは、狂犬のあなたらしい」

 

「世辞はよせ。元はと言えば、昔の自分の行いに対しての報いが返ってきたと思っているよ...私の行動は常に監視されている。自らタレコミをしようとも考えたが、証拠であるリベートの記録は金庫の中だ。私が近づこうものなら、あの人はすぐに勘付く」

 

「了解です、我々RABBIT小隊にお任せください」

 

未だ未熟とはいえ、彼女らはセンが鍛えた優秀なカルバノグだ。内部事情を把握している彼が指揮をすれば、スムーズに作戦は完遂されるだろう。

 

「それと、あまり自分を卑下しないことです。二年前のあなたの選択を、俺は恨んでなどいないのだから」

 

「...だが、その結果おまえが連邦生徒会とヴァルキューレを去ることに繋がったのは確かだ。やはり、私はおまえを信じるべきだったんだよ、高城。捏造された証拠なんて無視して、相棒である男の行動に意味を見出し、築き上げた信用と信頼に身を委ねていれば、こんなことには...」

 

「けれど、それは俺を思ってのことだった。道を踏み外し、暗がりに足を踏み入れようとしていた俺を止めるために。たとえ嘘の情報に踊らされた結果であっても、尾刃カンナの相棒である高城センを繋ぎ止めようとした上での間違いだった」

 

それでいい。

それで、センは満足だった。

 

「今後は事あるごとに、俺に謝らないよう努めてください。いい加減、昔みたいに話しましょう。あの屋台で、二人で」

 

他愛ない会話や、適応した環境について、上司への愚痴や年を重ねた末に抱えることになった悩み。

全部、自分が受け止める。吐口になり、童心へと還らせる。

そのための交流の再開を、彼は提案した。

 

「───暫くは後処理に追われるが、それまで待てるか?」

 

込み上げるものを押さえつけ、カンナは唇を震わせながらもなんとか先輩としての威信を保ち、センを見た。

 

「勿論です。尤も、その時は奢って貰いますがね」

 

「...ククッ、わかったよ」

 

どこか憑き物の取れた様な表情で、彼女はセンから差し出された右手を握り返すのだった。

かつての自分達を、夢想して。

 

「室長はどうする?」

 

「証拠が足りないので、暫く泳がせます。───ケリをつけるのは、もう少し先です」

 

その方が最後は面白くなるので。

 

 

 

********************

 

 

 

「皆さん、このキヴォトスには所謂万能具なるものが存在することをご存知でしょうか」

 

銀髪の少女の声に、周囲は首を傾げる。

知らない、という見解でいいだろう。それを嘆くことも、罵ることも彼女はしない。

何故ならば語る彼女ですら、その存在に気づいたのはつい最近のことなのだから。

 

「無知は罪、知は空虚。とある哲学者が唱えた言葉です。今日皆さんは、自らが万能具のことに関して無知であることを知りました。これは記念すべき成長への第一歩と言えるでしょう。ですので、次はそれが何なのか、どのようにして扱われるのか、知識として頭に刻んでいただきます」

 

ごくり、と銀髪の少女を見つめる集団の中から息を呑む音が聞こえる。

 

「これは私が師として崇める人の受け売りです。それは冬の寒さや雨風を遮る家となり、毎日の安眠を届けるベッドになり、生活を支える家具にもなり...銃弾を防ぐ鉄壁にもなります」

 

あの日の衝撃を、少女は今でも忘れられない。

取るに足らぬ厚紙として扱っていた物が、羞恥により乱射された某ポイントマンの銃撃を完璧に防いで見せた光景。

その後に聞いた師の話も相まって、彼女は沼にどっぷり浸かることとなった。

 

「素晴らしいとは思いませんか。今までの無知を恥じる程に、私はそれの虜になりました。魅せられる...魅了されるとは、正しくこのことを言うのだと」

 

数十人を相手に演説をする少女の顔は、真剣だ。

裏には狂気が混在していることを知っているのは、小隊メンバーのみである。

 

「変幻自在、千変万化、臨機応変に姿形を変え、未熟であった私達に勝利をもたらした万能具」

 

「い、一体それはなんなんだ...?」

 

ザワザワと、集団...カンナを先頭に公園へ攻め入ってきたヴァルキューレ公安局の生徒各位は頭上に疑問符を浮かべる。

その様を見て気分爽快と微笑を浮かべる銀髪の少女、RABBIT小隊所属、小隊長月雪ミヤコ。

 

「我々の生活において古くから使われている物...そうっ!」

 

ミヤコは今まで背後に隠していた、というか背景になっていて公安局員にとっての選択肢の一つにすら入らなかったソレを持ち、高々と頭上に掲げた。

 

「ダンボールです!!」

 

アシスタントのミユが声高に「ぱ、パッパラパー...ッ!」と頑張ってSEを叫ぶ中披露される、茶色い厚紙。

どちらかといえばおまえの頭がパッパラパーだと、公安局の面々は内心でツッコミを入れた。

訪れる静寂、浮かぶ困惑の表情、誰が収拾つけるんだよこの状況と視線を泳がせるギャラリー。

ミユは赤面した。奇人扱いは嫌なので、舞台から降りた。

サキは天を仰いだ。真上から突き刺さる日差しがやけに鋭く感じた。

モエは腹を抱えて笑った。バシバシと地面を叩き、ゲラ笑いをかました。

 

「おや、どうやら反応が芳しくありませんね」

 

さては性能を疑っています?と園児でもできる名推理で真実に辿り着いたミヤコは、これだからにわかはと肩を竦める。

仕草までアレと似てきている。もう手に負えない。

 

「先日この公園で行われた皆さんとの戦いにおいて、バリケードや落とし穴として役立っていたことをお忘れのようで、私は残念でなりません」

 

「いやまぁそうなんだけど...実際に言われてみるとやっぱり信じられないっていうか...」

 

先生が駆けつけるまでワンサイドゲームにされていたこともあり、一定の理解は済んでいる彼女ら。だが、こんな厚紙にしてやられたという受け入れ難い事実に、警察としてのプライドと脳が拒む。

なぜなら紙が銃弾を弾くなどあり得ないのだから。

全裸でトリニティ総合学園内を深夜徘徊する輩が出没するくらいにはあり得ない。

 

「仕方ありません。サキ、アレを」

 

「アレってなんだよ」

 

「はぁ...」

 

「おいため息やめろ!何も打ち合わせしてないのに私が合わせられるわけないだろうが!」

 

「モエ」

 

「はいはいりょーかい」

 

「何でおまえはわかるんだよ...」

 

サキの隣でノーパソを弄り始めたモエ。

同時に、地面から一枚のダンボールとその周囲を囲うようにありとあらゆる銃火器が姿を現す。

 

「FIRE」

 

小隊長の号令の元、弾丸の雨が一斉に厚紙に殺到。

無数の着弾音、火薬の衝突により巻き起こる爆煙、いくら何でも過剰すぎる攻撃力にヴァルキューレ、サキ、ミユは引き気味。

モエは久々に高火力を叩き込めてご満悦。

 

「それまで」

 

ピシャリとしたミヤコの声がマシンガンの嵐の中でも凛として響き、それに従ってモエは集中砲火を止めさせる。

煙が晴れ、現れるのは蜂の巣となった見るも無惨な廃材。

誰もがそう思ったが、しかし、

 

「な...っ!?」

 

そこに鎮座しているのは、弾痕はあるもののほぼ原型を保っているダンボールであった。

 

「見ていただけたでしょうか。そして、理解していただけたでしょうか。私の豪語するダンボールの性能を、その能力を」

 

「なんてことだ...これを実戦で配備すれば、暴徒の鎮圧も容易になるのでは?」

 

「一応、先日の会議で案自体は出ていたんだよな。何をバカなと一蹴されてはいたけど、実際にこの目で見てみれば提案されるのも納得だ」

 

飛び交うのは、肯定的な評価ばかり。

これには普段平常心なミヤコも内心でドヤる。

 

「さぁ、皆さん。これを機に是非、ダンボールを活用していきましょう!そしてこの威光を、キヴォトス全土に広げていきましょう!」

 

「「「おー!!」」」

 

「ご唱和下さい!ダンボール最強!ダンボール最強!」

 

「「「うおおおダンボール最強!ダンボール最強ォ!」」」

 

「...なんだこれは」

 

密談から戻ったカンナとセンを迎えたのは、狂気と歓喜に湧くヴァルキューレの面々と、それを扇動するミヤコ。

 

「あ、師匠。ヴァルキューレの皆さんとの交流を深めるという師匠からの任務、この通り達成しました」

 

「よくやった、流石はRABBIT1。プレゼンの腕にも磨きがかかっているな」

 

「過分な評価、痛み入ります。これも全て、日々の師匠の教えのおかげです」

 

唖然とする狂犬の横で、師妹はいつもの調子で互いを褒め称え合っている。こいつら一周回ってアホなのでは?というカンナの見解は正しい。

 

「局長!今度の作戦にダンボールを取り入れましょう!こいつは使えます!」

 

「チンピラやスケバン共に目にもの見せてやる時が、ついに来たんですね...!」

 

「あ、ああ...おまえ達がそれでいいなら、私も検討はしてみよう」

 

「ありがとうございます!」

 

日常の中に潜む当たり前に、人々は気づかないまま人生を終える。

イベントアイテムのボーナスは重複するし、ゲヘナの生徒会長は実はアホだし、キヴォトスのダンボールは硬い。

そういう気づきというのは、今後の道筋を発展、変化させるための重要な分岐点となり得る。

ヴァルキューレの生徒達にとっては今日がその日であり、ミヤコにとってはセンとの出会いがそうであった。

そうなってしまった。

 

「制圧に来たつもりが、宗教勧誘にしてやられるとは...」

 

「先輩もどうですか?一枚キメてみても」

 

「遠慮しておく。俯瞰して見ている者が一人は必要だろう」

 

「一度ハマればこれ無しでの戦闘は考えられなくなる魔性に気づくとは、先輩は二年前と変わらず慧眼のようだ」

 

「ただ断っただけでそんな褒めるか...?」

 

「尾刃局長、先ずは資材置き場にある物から始めてもいいんです。上等なバナナ箱では敷居が高く、入手も困難ですから」

 

スーパーに行けば普通にもらえるだろ、とは真面目にプレゼンをするミヤコには言えなかった。

そして、以前RABBIT小隊を思ってのことだったとは言え酷い言葉を浴びせてしまったのもあり、カンナは気不味そうに口を噤む。

そんな視線を逸らした公安局局長を見てもしやと勘付いたミヤコは、気遣いの言葉を手向けた。

 

「あの時のことは、どうかお気になさらず。リベートの件については話を聞かなければなりませんが...あなたの顔色を見れば、強行せざるを得なかった理由があると分かります」

 

スッと、グローブの外された右手がカンナへ差し出される。

 

「公安局での話、興味があります。今度時間が取れた時に、是非ともお聞かせください」

 

右手と、少女の顔を、狂犬は一瞥。

 

「...真っ直ぐで、羨ましいよ」

 

「え?」

 

「私にも、おまえのような理想を抱いて仕事に励んでいる時があった。だがそれは、時間が経つ毎に風化し、廃れ...この始末だ」

 

「...」

 

「おまえたちのような特権をヴァルキューレも持てれば、汚職に手を染めず、妥協もせずに、数年前の自分に向かって胸を張れたのだろうか...」

 

そこまで言って、否と、自身の考えを否定する。

 

「違うな。ああ、違う。私は自分の正義を貫くべきだったんだ」

 

羨ましいと、妬ましいと思う感情はあった。だが、思いはしてもそれで落魄れることなく、他者は他者、自分は自分と、己で体現できる正義を継続するのが、正解だった。

 

「気づくのが遅すぎたな...」

 

「今からでも、それは間に合うと思いますよ」

 

「同感です」

 

バディだった少年が、その隣に立つ銀色の少女が、カンナを見据える。

 

「...似た者同士だな、おまえ達は」

 

「「───?」」

 

「月雪ミヤコ」

 

「は、はい」

 

「いつになるかは分からないが、後日時間を作ろう。他のメンバーも呼ぶといい、私の奢りだ」

 

カンナの右手が、ミヤコの右手を握る。

 

「情けないが...どうか我々の暴走を止めてくれ」

 

「お任せください」

 

 

 

********************

 

 

 

後日、学園都市キヴォトスにクロノスの速報が飛び交った。

ヴァルキューレとカイザーインダストリー、二者による違法なリベートの証拠が、各地に拡散されたのである。

汚職が公になったことで、子ウサギタウンの再開発はカイザーが手を引いたことで中止に。

この一件についての捜査本部も連邦生徒会が設置したことで、事態は終息に向かっている。

 

「それにしても、アッサリ終わったよねぇ。潜入作戦」

 

先生からの差し入れであるいなり寿司を皆で囲って食べながら、モエは直近にあったヴァルキューレ警察学校潜入作戦、違法リベートの証拠を確保するために行われたクローバー作戦について振り返る。

 

「物事に速やかに当たり、対処、気づかれない内にその場を去る。まさしくSRT特殊学園の生徒として相応しい課程と結果だったな」

 

「そうだけど、なんか拍子抜けだったじゃん。てっきりミユあたりがやらかすと思ってたけど何事もなく終わったし」

 

「ひ、ひどい...」

 

「あまりミユを虐めないように。日頃の鍛錬の成果もあるでしょうが、一番の要因は師匠がいたこと。これに尽きます」

 

「まさか書類の場所を把握していたなんてな...」

 

「在学時、重要書類の入った金庫に最も立ち入ったのは俺だ。保管方法が変わっていなければ、事前に目星を付けて見つけるなど容易い」

 

「流石です、師匠。ヴァルキューレの警戒がおざなりだったとはいえ、10分と掛からずに目的を遂行することができました。侵入の際に用いたダンボールによる隠密作戦が効いたのでしょう。かの英雄、ソリッド・スネークを彷彿とさせる見事な動きでした」

 

「本当に誰だよソリッド・スネーク」

 

「にわかめ」

 

「にわかですね」

 

「いいのかなぁ...いいのか...」

 

「何を悩んでいる、おまえらしくないぞ風倉。一先ず食え。このいなり寿司、イケるぞ」

 

「思い出すな、私たちの先輩がよく作ってくれたんだ。味もそっくりだし、本当にニコ先輩が作ってくれたんじゃないか?」

 

「流石にそれはないと思いますが...ありがとうございます、先生。態々差し入れを持ってきてくださるなんて」

 

「喜んでくれて私も嬉しいよ」

 

現在の騒動にRABBIT小隊が関わっていることは、先生に説明済みである。

ついでにvで声真似した件も周知してある。

事後報告なので多少面食らっていたが───主に声真似の方で───成功の賛美よりもセン達に怪我はなかったかを先に確認していた。

改めて、この人物は教育者の鑑だと実感する。

 

「あ、あのぉ...」

 

モサモサといなりを食していたミユが、控えめに手を上げて発言を所望する。

 

「どうした、ミユ嬢」

 

「その...私たちが潜入したのって、一昨日の事ですよね...?なのに、いくらなんでも情報の拡散と連邦生徒会の動きが早過ぎると思うのですが...」

 

「良い視点だ。俺の分をやろう」

 

「え、えへへ...」

 

「ただの考え過ぎじゃないのか?」

 

「ところがそうでもない。こちらが匿名で連邦生徒会とクロノスにリークしたのは資料を回収した次の日、つまり昨日だ。特ダネやホットなニュースに敏感な後者なら納得のいく早さだが、前者は現在頭目を欠いた法的機関、迅速な対応は望めない。にも関わらず、今回の件に限っては一日と経たずに捜査本部を設置し、事態の終息に動いている。まるで後ろめたい事実を隠したいかのように」

 

「つまり...違法リベートの黒幕が、連邦生徒会にいると?」

 

「ヴァルキューレに全責任を擦りつけて雲隠れする気だろうな。早期の対処を世間にアピールする事で自らの潔白を証明すると共に、残された証拠の抹消もできる。正に一石二鳥だ」

 

「まさか!腐っても一国を運営する機関が...と思ったけど、ヴァルキューレがあの様だからあり得ない話でもないか...」

 

「先生の方で調べることは可能ですか?」

 

「うーん、難しいかも。連邦生徒会と独立してるとはいえ...いや、独立している機関だからこそ、シャーレを警戒しているだろうから」

 

縛る者も、止める者も存在しない、SRTを超える介入権を持つ独立連邦捜査部S.C.H.A.L.E。

数多の事件や生徒からの依頼を解決してきた実績を持つ彼を警戒していないということはまず無い。

 

「私たちで、何かできないでしょうか」

 

となれば、今回の件のように自分たちが動くべきだという結論に至ったミヤコではあったが、

 

「今は待て、暫くは泳がせて様子を見るとしよう」

 

それは、センに止められる。

 

「その口ぶりからするに、ヘッドはもう大体の犯人の目星はついてるんだ」

 

「命令すればいつでもやれるぞ、私たちは。何も悠長に待たなくても」

 

「そう急くことでもない...が、このまま雲隠れするのを大人しく待っているのも癪ではある」

 

「では...」

 

「そこで、妙案を思いついた」

 

そろそろだろう、とセンはデバイスをいじり、クロノスの速報を画面に映し出す。

 

 

 

********************

 

 

 

数分前

 

「どうやら、事態は丸く収まりそうですね」

 

室内に漂うのは、各地から取り寄せた豆をブレンドしたコーヒーの香り。

声の主である彼女は、事前に温めておいたカップにソレを注ぐと、匂いを楽しんだのちに口を付ける。

 

「ふふふ、中々の味わい。焙煎を工夫した甲斐があるというものです」

 

話に出ていた連邦生徒会の負の部分、リベート事件の黒幕に当たる人物、防衛室長の不知火カヤは、午前の仕事を終えてのブレイクタイムに勤しんでした。

 

「報道が出て直ぐにこちらが動いたのもあって、世間の注目は変わらずヴァルキューレとカイザーに傾いている。ただでさえ私の介入した証拠が抹消されている現状を鑑みれば、疑いの矢印が別に向くのは必然」

 

都市開発の計画が頓挫したのは痛手だが、カヤはいざという時に物事を切り捨てる冷静さを持ち合わせている。

一つに執着した結果、未来で大損をするのは御免だ。ここは多少の損をしてでも自身の、防衛室の潔白を民衆に示す必要があった。

 

「とはいえ、暫くは私も動けそうにありませんね」

 

足であったヴァルキューレと協力関係にあるカイザーインダストリーは違法リベートの追求により後処理に追われる。その間、カヤ個人で何かしらのアクションを起こすのは愚策もいいところ。

攻め急ぐという欠点を抱える彼女だが、弁えるべきは弁えている。

 

「相変わらず、私は人に恵まれません」

 

どの口が、理由を1〜100まで掻い摘んで説明しましょうか、だから会長に負けるんですよ、薄っぺらいのは胸部装甲だけにしてください、と突っ込む憎き後輩は、残念ながらいない。

 

「それは、前にも聞いた」

 

やれやれと首を横に振るカヤの仕草を遮ったのは、黒い少女。

RABBIT小隊と似た装備を着用する四人のうちの一人だ。

 

「ああ、あなた方のことではないのでご安心を」

 

「別に気にしていない。それで、資料を盗んだ奴の目星はついているのか?」

 

「消去法ではありますが、心当たりが一つ。私の後輩でしょう」

 

「以前言っていた、二年前に失踪した奴のことか」

 

「はい。その原因は私にありますがね」

 

「証拠を残さない手際といい、余程戦場に慣れていると見える」

 

「いえいえ、彼に武力はありません。あるのは知力...連邦生徒会長にも匹敵する頭脳です」

 

「では、実行役がいると?」

 

「もう、ユキノちゃん。良い加減認めてあげたらいいのに」

 

質問を繰り返すユキノという四人のリーダー格に対し、頬を膨らませる桃色の髪と大きな耳が特徴的な少女。

 

「ミヤコちゃん達だよ。室長の後輩くんと仲良くしてるみたいだし、それしか考えられないって」

 

「...しかし」

 

「おや、そちらでも見当が付いていたのですか。流石に身内ともなれば、その辺りも敏感になりますか」

 

RABBIT小隊と似た装備、そしてカヤの言う身内という例え。これが意味するのは、四人も元SRT特殊学園所属の生徒ということ。

それも、数々の功績を上げてきた上澄みも上澄みの部隊、FOX小隊である。

あの七囚人、狐坂ワカモを捕縛した実績もあると言えば、実力の証明になるだろう。

 

「...私が知るRABBIT小隊は、SRTを名乗るには全てが未熟だった。杜撰な警備とはいえ、敵に察知されずに目標を確保しそのまま帰投など、彼女らにしては鮮やかすぎる」

 

「室長の後輩くん、高城くんだったかな。その人の協力もあるだろうけど、何よりミヤコちゃん達自身が成長してるんだよ、きっと」

 

「だとしても、学園が廃校になってたったの数ヶ月だ。こうも成長するものなのか?」

 

あまりの成長速度に、普段冷静な彼女の口調に微量の困惑が見て取れる。

成長の一助に茶色い厚紙が絡んでいることなど、ユキノは思いもしない。

 

「成長分って考えるのは早計かもよ。ブレーンに頼り切りで、個人での思考を放棄している可能性もあるし」

 

「う〜ん、私はそうは思わないけどなぁ」

 

小隊のポイントマンであるクルミ、スナイパーのオトギは、リーダーに同調する意見とミヤコ達は真っ当に成長しているという意見との二つに別れる。

 

「何にせよ、我々にはまだ遠く及ばない」

 

「ムキになって...素直に褒めたらいいのに」

 

副小隊長を務めるニコもオトギと同じく、RABBIT小隊を擁護する派だ。

 

「ユキノ小隊長の意見、私もそう思います。まだ一年生ですし、そこに彼が付いたところで我々の勝利に変わりはありません───なにせ」

 

私は、彼に一度勝利しているのだから。

 

それ故の失踪、それ故の没落、どれだけ取調べ室で無視をされようと、罵られようと、本人の目の前でキレなかったのはセンを出し抜いた過去があったからだ。

今やそれがカヤの根底を支える自信であり、驕りでもある。

 

「そうだ、そうですっ。私たちのクーデター計画に、RABBIT小隊も参加させるというのはどうでしょう?」

 

「戦力に数えられるくらいには練度も上がってるみたいだし、良いんじゃないかねぇ」

 

「一度お灸を据えてからじゃないと、従わないかもよ」

 

「可愛い後輩の手は汚したくなかったけど...それも仕方ないかな」

 

「...仮にもSRTに入った身、最初から覚悟はしているはず」

 

全ては学園の復活のため。

 

己の掲げる正義を成し遂げるため。

 

そして、

 

「シャーレ廃絶のた」

 

め。

そう、ユキノが最後まで言おうとした瞬間だった。

 

 

 

窓をぶち破り、轟音と共にドリル型ロケットが室長室に突き刺さった。

 

 

 

「...はい?」

 

何が起こったのか分からず目を点にして目前の光景を見つめる一同の脳を掻き乱すのは、一人の狂人の笑い声。

 

「ハーッハッハッハ!D.Uは魔境か!?魔境なのか!?まさかサンクトゥムタワー根本に私の温泉センサーが反応するとは思ってもみなかった!近くに来てみればその感触をビンビンに感じられる...素晴らしい!目下地中深く、間違いなく温泉は有る!!学園の運動場を滑走路にして、バビュンと飛んできたのは名案だったな!ハッハッハ!」

 

ここまで来る経緯を全部言ってくれた温泉開発部部長、鬼怒川カスミの登場は、一層の思考の停滞を引き起こすには十分過ぎた。

何せここは埋立地の真上に立つ高層タワー、温泉など沸くはずもないのだ。

だがしかし、それを可能にする者がキヴォトスには一名存在する。

 

温泉の神に愛された男、高城センだ。

 

数刻前、彼はこのタワーの根元に居た。

そう、居たのだ。

トントンと爪先で地面を叩き、温泉沸けーと適当に念じていたのだ。

結果生み出されるのは途方もなく地中からの温泉。その反応を察知して、学園都市きってのモンスターをカヤの部屋と後始末に追われるであろう行政官の胃を生贄にし、特殊召喚することに見事成功したのである。

 

「な、なな、ななななな何してくれてるんですかぁ!?」

 

お気に入りのコーヒーメーカー、オーダーメイドの執務用チェア等がぶっ飛ばされたカヤの元に、放棄させられていた思考と怒りが舞い戻る。

本当なら向かい合って話したくもない、キヴォトスの三割を魔境たらしめている凶悪犯に臆することなく怒号を浴びせられるのは、腐っても管理職ということなのだろう。

 

「む、これは失敬。ただこちらにも相応の理由があってだね...」

 

「どんな大層な理由があろうと、建物に重機ごと突っ込んでくるなんて頭おかしいんじゃないですか!?それも防衛室長の部屋に!?」

 

「崇高な目的のために、私は手段を選ばない!例えそれが、防衛室長の部屋を犠牲にすることになったとしても!私を止めることはできないねぇ!!」

 

「ダメですこの人会話が成立しない!?」

 

「皆のものォ!掘って掘って掘りまくれ!我らが理想郷は近いぞぅ!」

 

このまま直下掘りをされてはサンクトゥムタワーが倒壊する恐れもある。

流石にそこまではやらないだろうと思うだろうが、何をしでかすか分からないのが鬼怒川カスミだ。温泉を掘り出すためならば、たとえキヴォトスの象徴が無くなっても構わない、必要な犠牲と断じ、温泉が沸くまで掘り進めるのをやめない恐れの方が大きい。

 

「な、なんとしてでも止めなければ...!FOX小隊のみなさん!」

 

「悪いがカヤ、それはできない」

 

「えぇ!?な、なぜ?」

 

「ここで我々が表立って騒ぎを立てれば、防衛室と小隊の関係が世間に露見してしまう。そうなった場合、さまざまなアドバンテージの損失に繋がるだろう」

 

「そんなこと言ってる状況ですか!?下手したらタワーが倒壊するかもしれ...」

 

そうはならない。

そこまで計算を尽くした、センの嫌がらせである。

 

「な、なんだお前ら!?」

 

「どけどけェ!ここにある美食は我々のものだァ!」

 

地上から新しく喧騒が聞こえてくる。

割れた窓から下を覗くと、何やら温泉開発部の部員達と戦闘を始めている勢力がいた。

先頭に立ち他メンバーを扇動するのは、ヒッピーの格好をした社会不適合者、デカルト。

 

「とある伝手で培った確かな情報です!この地にビールが10杯以上進む究極のおつまみが眠っていると!他の奴らに食べられる前に、我々『所有せずとも確かな幸せを探す集い』である所確幸がいただきます!」

 

匿名の入れ知恵───無論センである───に踊らされ、D.Uの除け者まで参戦してきた。

 

「...なんだろあの、一言で存在を矛盾させてる人たちは」

 

「無茶苦茶なこと言ってるのに装備は強力そうなのが厄介だねぇ」

 

ニコ、オトギの感想である。

センの策略、それは二つの勢力をダブルブッキングさせ、その潰し合いにカヤを巻き込ませようという魂胆だ。

いい迷惑である。

 

「ほう?私の道を阻むとするか。であれば、押し通るほかないな!」

 

夢を目前に立ち塞がる敵目掛け、カスミの乗る掘削用ドリルカーが地上へと落下していく。

 

 

 

「そこを退けェ!こんなところに伝説の食材など、あるわけないだろう!?」

 

「何おう!?そっちこそ、アスファルトや埋立でできたこの地に温泉なんて、頭おかしいんじゃないか!?」

 

 

 

ぶつかり合う二大勢力。

組織としては温泉開発部の方が有利ではないか、というのがゲバ評だ。

だが、ここにもうひと勢力が加わればそれもわからない。

 

「美食と聞きまして」

 

「あべし!?」「げぶ!?」

 

二発の狙撃により、それぞれ行動不能になった温泉開発部と所確幸のメンバー。

その結果を引き起こした張本人が、瓦礫の上で二つの勢力を見下ろす。

長い銀髪、お淑やかなお嬢様然とした彼女自身の見た目とは裏腹に、凶悪なフォルムの黒い狙撃銃を駆る少女の名前は、黒舘ハルナ。

ゲヘナ二大テロリストの一つ、美食研究会を率いる頭目である。

 

「究極の美食という言葉を小耳に挟み、こうして馳せ参じました。争奪戦にどうやら間に合ったこと、重ねて美食家の道を志す私の気持ちがフウカさんに伝わり、快く車を貸していただけたことを嬉しく思います」

 

「んむーっ!んむーっ!?」

 

捕縛されたゲヘナ学園給食部のフウカの悲鳴も虚しく、ハルナら美食研究会の介入は戦場を更に激化させるものとなる。

 

「混沌ってあれのことを言うのね、きっと」

 

「カヤ、私たちは一先ずアジトに帰投する。あとは任せた」

 

「わ、私を一人にするつもりですか!?あんなのを放置して!?」

 

「理由は先ほど話した。では」

 

「〜〜〜っ!!こ、こらー!馬鹿なことはやめなさ(タァンッ!!)ヒィ!?流れ弾が...!か、カンナ!カンナー!カンナさーん!早急に、早急にサンクトゥムタワーまで来てくださいカンナさーん!!??」

 

カヤのこの様を想像して、クロノスの報道を目にしたセンは高笑いをかます。

 

その後、事はキヴォトス全域に伝播するテロリスト総力戦となった。

事態の収集にはカンナ率いるヴァルキューレ公安局があたり、リベートの件で下がっていたイメージを少しばかり回復させたのだとか。

 

 

 




投稿が遅れてしまい、申し訳ない!
駆け足になりますが、これにて1章カルバノグの兎編は終了です。
次回から最終編になります。
もう無茶苦茶してやろうと思いますので、ご期待ください。
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