ワイ『ダンボールは万の事に使いけり』 ミヤコ『流石です師匠』   作:\コメット/

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さぁ、BGMの準備を!




16 こうして、全ては彼に従う。

 

 

高城センの帰還。

それは、混沌と停滞を嫌い解散寸前だった会議の状況を一変させるには充分だった。

 

「セン、くん...?」

 

未だ実感の湧かない、死んでいたとさえ思っていた少年の突然の来訪。

アオイの中で様々な感情が溢れ、名前を呼ぶと同時にそれが徐々に目の前の光景が事実であると理解させられる。

 

「...わーお、本当に」

 

安堵よりも驚愕が勝るモモカは、目を見開いて少年が本物かとマジマジと観察。

 

「うぅ、センくん...よかった...!」

 

両目を手で押さえて嗚咽と涙を堪えるアユム。

『今からそちらへ向かう。ロビーで俺の入場を容認して欲しい』と名無しのメールが来た時は新手の迷惑メールかと思ったが、口調に似た文面と俺という一人称は知り合い間で一人しか使う者がいない。

まさか、と机を蹴る勢いで立ち上がり、アオイの隣をすり抜けてアユムがロビーに向かい、センとの再会を果たした。

 

「生きていた...?」

 

信じられないと、首を横に振るリン。

主語が抜けているのでおまえが殺そうとしたんか?と疑われるやもしれないが、そうではない。

単純に、彼女は放心していたのだ。

センの登場に、普段の鉄仮面を外して、心の底から。

 

「そうです、行政官。地獄の底から舞い戻ってきました」

 

軽口を叩く余裕を見せる彼は、本当に高城センなのだろう。

 

「お待たせして申し訳ない。あとはお任せを───七神先輩」

 

「...っ!」

 

安心させるよう微笑む少年を見て、漸くリンは彼が本物だと理解し、これまでの苦労と疲労もあってか感極まってしまった。

 

「...連邦生徒会内でお知り合いの方、でしょうか。見たところ感動的な再会のようで邪魔はしたくありませんが、些か冗談が過ぎるかと」

 

発言したのは三大マンモス校の一つ、トリニティ総合学園ティーパーティー所属、桐藤ナギサ。

 

「そこはシャーレの先生が座るべきところで」

 

「連邦捜査部S.C.H.A.L.E代表◯◯先生は、カイザーPMCに拉致されているため、ここには来れない」

 

「───は?」

 

衝撃が室内に奔り、驚きが伝播する。

 

「よって、代行としてこの会議は私が執り仕切る!」

 

「な、何言ってんの!?あり得ないじゃんね!」

 

「なんなのですこの人は!?七神リンさん、説明を要求します!」

 

「ふむ...?」

 

バンと机が叩かれ、動揺を隠せずに立ち上がるティーパーティーのミカ、ナギサの両名。

残るセイアはというと、センの行動を見定めるかのように瞳を細めた。

 

「...彼は、次期連邦生徒会長です」

 

「なぁ...!?」

 

三度、呆気に取られる各学園の代表たち。

その中でも数名は『そうか、どうりで』『...漸くのご登場というわけか、キキッ』『まさかそこまで上り詰めていたなんて、あの頃とは違うということですか』と彼のことを知っているらしく、各々の感想を口にする。

 

「連邦生徒会長が中等部二年生の頃に見出した、彼女に次ぎ、彼女を継ぐ才能を持つのが、この高城センという少年です」

 

センの着る制服は、飾りではない。

自身が卒業した後を見越して、そして、センがきっと帰ってくることを信じて、会長自身が彼のために用意していたバトンのような物。

 

「既に先生は、私の指揮する部隊が捜索を開始している。心配には及ばない」

 

「...その言葉を信じられるほど、我々はあなたを信用していません。そもそも、そのような肩書きがありながらなぜ今、このタイミングで戻ってきたのですか?あまりにも出来過ぎています」

 

これは、リンやアオイを含めた連邦生徒会のメンバーも気になっていることであった。

 

「先ほど言ったでしょう、私はシャーレの代行だと。有事の際は頼むと代表者である先生から言われていましたので、こうして出向いたまでです。彼とは個人的な友人でしてね」

 

「それを証明する証拠を提示していただきましょうか」

 

「口ではなんとでも言えるからね。もしかしたらあなたが先生を誘拐した黒幕かもしれないし」

 

意味もなく反発しているわけではない。

ナギサとミカの言う事も、一理あった。

これ以上ないタイミングでの会議への参入。自然と連邦生徒会の舵取りを担うことに成功した彼を信じていいものか、それをトリニティは判断しかねている。

シスターフッドの歌住サクラコ、救護騎士団の蒼森ミネも口を挟みはしないが、概ね同じ意見らしい。

 

「...キキッ」

 

「マコト議長?」

 

「まぁ待ておまえたち...今はただ待て、静観だ」

 

含み笑いを溢すマコトに気付いて何を、と不思議がる万魔殿の生徒。それに対してゲヘナ生徒会長である彼女はクイッと、面白いものが見れるぞと顎で少年を差す。

役員であるイロハ、サツキ、チアキも─── イブキはコンタクトが気になって床をチラチラ見ている───他の学園の生徒とは違った面持ちで、彼を見つめる。

 

「では、先ずはこのお方の話から」

 

手持ちのデバイスを操作し、背後のモニターを起動。

 

『非常対策会議に集った各学園代表者達よ、このような形での参加をどうか許して欲しい』

 

スピーカーから聞こえてきたのは、センに促される嫋やか且つ落ち着きと妖艶な質感を持った声の主。

黒で満たされた画面が、その正体を露わにする。

玉座に座する、黒い少女。

両サイドの髪をお団子にまとめたツインテール、風格を感じるコートを羽織り、際どいスリットの入ったチーパオを着る、とある学園の代表。

 

「せ、山海経の...!?」

 

「門主...竜華キサキ様...?」

 

ミレニアムのセミナーやトリニティのティーパーティー、ゲヘナの万魔殿のような生徒会機関の玄龍門、その長である彼女の知名度は、閉鎖的な環境の学園を飛び越えて有名中の有名だ。

そんなキサキとセンが関わりを持っている。どういうことか、と新たに入った情報に目が回りそうになるナギサ。

 

『妾は山海経高級中学校、玄龍門門主、竜華キサキじゃ。此度は妾の体調が優れなかったため、参入を見送らせてもらった。先ずは、キヴォトスの窮地でありながら力になれぬことへの謝罪を』

 

すまなかった、と小さい体躯ながら計り知れない責任と重圧を背負う少女は頭を下げる。

彼女のプレッシャーに気圧されてか、室内にいる多くの面々までも顔を伏せる始末。それ程に、竜華キサキという少女は偉大だ。

 

『今日この場を借りて謝罪の機会を設けさせて貰ったのとは別にもう一つ...此奴、高城センのことについて話したい』

 

「彼について...?」

 

『先ほどから此奴が話す言葉に、嘘は無い。其方らの疑問が尤もなのは百も承知。じゃが、今回ばかりは妾の顔に免じてこの男、高城センを信じてみてはくれぬだろうか。此奴とは旧知の仲、誰よりもキヴォトスを憂いていることを妾はよく知っておる』

 

長いまつ毛、そこから覗く灰色の大きな瞳が、室内の全員を射抜く。

 

『人を、友を、国を救う術を持ち合わせているのが、高城センという男じゃ。仮に此奴を信用出来ぬなら、送り出した妾を信じよ。この男が起こす一挙手一投足、全てが山海経の意向と思うがよい』

 

竜華キサキは、愚かではない。

その聡明さはキヴォトスにおいて広く知れ渡っており、それ故の称号...山海経の生徒会長という座に君臨している。

そんな彼女がここまで推す、高城センという男。

 

(得体が知れません...不気味で、何を考えているのか...)

 

ナギサは、少年を測りきれずにいた。

どちらかといえば保守的な思想を持つ彼女にとって、キサキが全ベッドしたセンにナギサ自身が賭けるという行為はギャンブルに等しい。

 

『此度の非常事態に関する山海経からの処置として、我々は高城センの全面的な擁護に回ろう。戦力としては一人だが、内包する力は一騎当千、天下無双と妾が確約する。全ては、キヴォトスの平和のために───これでよいか?セン』

 

「はい。お力添え感謝します、門主様」

 

『妾とお主の仲じゃ、そう固く呼ばずともよい。ほとぼりが冷めたら、もう一度こちらを訪れよ。ココナ教官を含め、お主の来訪を心待ちにしておるぞ』

 

「そのご厚意、無碍にはしません。必ずや顔を見せに行きます、門主...いえ、竜華先輩」

 

『よい...ではな』

 

キサキとの通信は、そこで終わった。

 

 

 

********************

 

 

 

「ふぅ...少し、無理をし過ぎたか」

 

ベッドで横たわる少女、竜華キサキに映像で発揮していた風格は消え失せていた。

 

「上手くやっておるかのぅ...彼奴は」

 

ココナを通じてアポイントメントを取り、面会を無理矢理捩じ込んできた無法者。

型破りで、けれど炎のような正義と信に足る実力の持ち主である高城センを、特例でキサキは迎え入れた。

 

『いきなり誰かと思えば、其方とは...。二年ぶりじゃな、息災だったか?セン』

 

『お恥ずかしながら、立場を退きまして。あなたとの契約を反故にしてしまったことを、今更ながら謝りたく思います』

 

『気にするでない。妾もこのような有様では、例の政策を押し通すことは不可能であっただろうしな...其方抜きに強行も考えたが、ちと煩い派閥がいてな。許せ』

 

『滅相もございません。あなたが親身になって俺の話を聞いてくださり、政策を煮詰め、協力してくださったこと、今でも感謝こそすれど...自らの力不足を呪うばかりです、竜華先輩。いや、今は門主様か』

 

『そう突き放すな、ここには妾と其方の二人だけじゃ。誰も呼び名を咎める者は居らんよ』

 

『では...竜華先輩、本日は折行ってお願い事があり、こうして参りました』

 

『よい、申してみよ』

 

『連邦生徒会からの通達文書には、目を通されましたでしょうか』

 

『キヴォトスの存続に関わる異常事態、それについての非常対策会議の招集命令じゃな?返答はまだしておらぬが、生憎今日はハズレもハズレの日、こうして其方と話しているのがやっとよ』

 

『その無理を承知で一つ』

 

『なんじゃ?』

 

『これから俺は、連邦生徒会に介入して指揮権を得ようと思っています。ですが、今の俺には肩書きも後ろ盾も何も無い。そこで、先輩の言葉を後押しに使わせて欲しいのです』

 

『ふむ...確かに、妾が其方の後ろ盾となればある程度の力にはなろう。しかし、それは微々たるものじゃ。あのトリニティやゲヘナを動かすのはいくら其方でも...』

 

『それについては、問題ありません。仕込みと策は講じます。上手くいけば全権を取れる』

 

『流石の自信、二年前と変わらぬ。無論実力も...と、此方は思いたいが、どうなんじゃ?』

 

『万事、抜かりなく』

 

『───うむ、了解した。これより山海経は、其方の発する言の葉の補強になろう。以前と同様の...いや、以前を超える手腕を見せてみよ』

 

『ありがとうございます。必ずや、ご期待に応えて見せましょう』

 

「クスクス...青さが消えておった。この二年で一体、彼奴に何があったのやら」

 

センと関わった者は、口々に彼を炎と表す。

内包する熱、曝け出した際に見せる気迫、燃えるような正義感が、そうさせている。

ただ、数年前の彼を見てキサキはこうも思った。

 

まだ未熟、青さがあると。

 

加減を知らない高火力、随所ではなく全方面でそれを発揮していた彼の姿は、もう無い。

赤くも、青くも、白くもなる。

彼は、千変万化の紅と化したのだ。

 

「連邦生徒会長、見ておるか...?もうすぐあの男───高城センがお主に並ぶぞ」

 

初対面と成長した姿を思い比べ、キサキは楽しげに笑う。

 

成長の一因に、ダンボールが関わっていることは知らずに。

 

 

 

********************

 

 

 

「ミレニアムサイエンススクールは、高城セン代行を支持します」

 

映像が終わって一拍を置いたのち、口を開いたのはセミナーの書記、生塩ノアだった。

 

「の、ノア?」

 

「これはこれは。有難い」

 

「先生捜索のため、ヴェリタスがその一助になるかと思います。そちらの部隊と連携を取りたいのですが、構いませんか?」

 

「ああ、是非」

 

「ちょ...っ、い、いいの...?会長の指示も仰がないで...」

 

「ここは柔軟に対応すべきです。それに、あの山海経の門主様がお認めになった方。充分信用に足りますよ」

 

「それは、そうだけど...」

 

焦るユウカに微笑みつつチラリと、ノアはセンに目配せ。

対して彼は片目を瞑ってそれに応じ、互いに視線を切る。

 

(これで、公の場においてのミレニアムとの連携という大義名分は得た)

 

センの登場のことといい、物事にはタイミングがある。

元々、ハレを通じてヴェリタスとは共同で先生の捜索にあたっていた。

それを最初に周知させてしまうのは悪手、裏でセンとミレニアムが通じていることを悟られかねない。

よって、信頼に足る証拠を一つ提示したところでノアに宣言を頼み、こうして盤面は構築された。

次のステップに移ろう、シャーレ代表代行はある人物に向けて姿勢を正す。

 

「テンポ良くいきましょう───お久しぶりです、羽沼議長」

 

その人物とは、ゲヘナ学園生徒会長、羽沼マコト。

彼女は名前を呼ばれて薄く笑いを浮かべると、帽子を被り直し腕を組む。

 

「キキッ...豪胆ぶりに拍車がかかったな。高城セン」

 

「挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません」

 

「そんなこと気にはしないさ。どこぞの学園のホストは、未だに貴様の出自と言葉を疑っているようだが」

 

「(...カッチーン、今ナギちゃんのこと馬鹿にしたよね)」

 

「(ミカさん椅子を持ち上げようとしないでください、今は抑えて!...マコト議長は、彼をご存知のようですね)」

 

「貴様に問いたいのはただ一つ。二年前の件と本件、どちらが危機か...どうなんだ?」

 

「断然、後者かと」

 

「フゥン?貴様にそこまで言わせるか」

 

「はい。本件は学園都市キヴォトス存続の危機です。よろしければ、是非ともゲヘナ学園の力をお借りしたい」

 

「...クククッ」

 

含み笑い、一笑ののち、マコトはイロハへ指示を飛ばす。

 

「イロハ、ゲヘナ風紀委員会に連絡を。空崎ヒナへ優先的に一報を送れ」

 

「は...はい、了解です」

 

「グズグズするな、早急にだ」

 

「...人が変わったみたいに。まぁ、それも納得ですけど」

 

「聞け諸君!我々ゲヘナ学園は、全面的に高城センの指揮下に入る!」

 

周囲を見渡し、マコトは宣言する。

普段の飄々とした雰囲気は鳴りを顰め、厳格で冷静沈着な、ゲヘナ生徒会長としての佇まいを曝け出した。

 

「ならば、おいら達レッドウィンター連邦学園もそれに同調しようじゃないか!トモエ、こちらも本部に連絡だ!」

 

「承りました、チェリノ会長」

 

「ありがとうございます、羽沼議長、連河書記長」

 

「キキッ。なに、貴様が動くのだ。それには相応の動きを我々も取らねばならんだろう」

 

「こちらも支援は惜しまないぞ、セン。以前来訪した際に話した案件、承諾はしなかったがその考えに共感を覚えたのも確かだ。その腕、存分に振るって見せよ!」

 

「必ずや、お二人のご期待に添える結果をご覧に入れましょう」

 

乱入直後の劣勢はどこへやら。

気づけば、主要学園三校がセンの指揮下に入ることをヨシとしていた。

 

(───凄まじい)

 

その一言である。

あれだけアウェイだった空間を既に我が物としている一つ下の後輩を見て、リンは二年前に抱いていたものと同じ畏怖の感情が込み上げる。

だが、この状況において彼は頼もしい以外の何者でもない。

 

(センくん...本当に、帰ってきてくれたのね...)

 

頼もしい背中が、白い制服が、あの人に───会長に重なる。

 

(アビドスも参加を表明していると聞いていたが、いないか。アユムによれば急遽の辞退ということだが...あの頭でっかちのピンク髪め、どこで道草を食っている...?)

 

小鳥遊ホシノ。

彼女がいればいかなる脅威の一角にも対策を打てるというのがセンの見解だが、いない者の話をしても仕方がない。

思考を切り替え、彼は残る一校へと視線を向けた。

シマエナガと対話をしているかのように物静かな、サンクトゥス分派の代表へ。

 

「百合園セイアさん」

 

「...私かい?」

 

「はい。見たところ、こちらが用意した資料に目を通しているトリニティの代表はあなた一人でしたので」

 

「「「「...っ」」」」

 

公然で指摘を受け、ナギサ、ミカ、ミネ、サクラコは赤面。

急いで形だけでもパラパラと書類をめくり始める四人を尻目に、センは続ける。

 

「状況を理解している方との話し合いが1番手っ取り早い。お尋ねしたいのは、あなた方の提示する内容のことです。連邦生徒会が探知したエネルギー体、その発生と今後起こる災厄と密接な関係があると話には聞いています。今回は、それを先生に伝達したいということでここを訪れたと」

 

「ああ、確かにキミの言う通りだ。私の見た予知夢...断片的ではあるが、それぞれがキヴォトスの終焉を物語っていた」

 

「それは確かですか?」

 

「少なくとも、キミのキャリアよりは信用に値すると言っておこう」

 

「これは手厳しい。しかし、あなたの噂は予々耳にしていました。その予言もほぼ正確に当たると。以前、あなたのことは傑物であり最も信をおける相手...会長がそう話されていました」

 

「連邦生徒会長が...そうか、失礼した。つい先ほどの軽口について、謝罪しよう」

 

「お気になさらず、こちらも礼儀を欠いた発言でした」

 

そう言って、センはナギサ達に頭を下げる。

 

「...っ」

 

「え、えぇ〜...?」

 

(彼、やり手だな)

 

こうも緩急自在に、言葉巧みにやられてはナギサとミカは太刀打ちできない。

ナギサは保守的、ミカは煽りに弱いという相性の悪さもある。ここはいくらか融通が効くセイアが彼との対話を続けた方がいいだろうが、今のホストはナギサだ。

セイアが出しゃばっては、ナギサの面子が立たなくなる。

 

「では、その予知夢についての詳細をお聞きかせ願います。今後の対策にもなり得るので」

 

「それについてだが、判断はナギサに任せたい。私はキミを信じたいが、こちらのトップは彼女だ。彼女の意向に沿わない発言は、したくない」

 

「なるほど、もっともな意見だ。では...桐藤ナギサさん」

 

「は、はい!」

 

「(ナギちゃんビビりすぎ...)」

 

「(黙っててくださいミカさん...!)」

 

「我々連邦生徒会は、トリニティ総合学園に協力を仰ぎたい。応じて頂けますか?」

 

直球で可否を問うセン。

 

(流れは完全にあちらのモノ...ここは意固地にならず、彼を信じるのが先決ではありますが...)

 

果たして、本当に信じていいのか。

桐藤ナギサは未だ、決めかねていた。

ここまで悩みに悩むのには相応の理由があるからなのだが、一つは信じていた友人に裏切られたことが挙げられる。正確には裏切られたように見せられたことか。

 

(...いえ、いいえ桐藤ナギサ!ヒフミさんとは腹を割って話したではありませんか!R2さんの言う通りに、謝り倒して笑い話にしたではありませんか!)

 

あの日スパチャしてお悩み相談をした自分を英断に思う。

おかげで阿慈谷ヒフミとの仲は更に深まったし、トラウマもいくらか改善された。

問題なのは、

 

「(ナギちゃん、頑張って!あんなのけちょんけちょんに言い負かしちゃえばいいんだから!やっちゃって!)」

 

裏切られた事例が二つあることである。

 

「(あなた、あなた───っ!あなたのせいでここまで疑り深くなったんですからねミカ───っ!!??)」

 

隣にいる聖園ミカ...彼女はナギサが一番信頼を置いていた親友であったが、エデン条約締結前にクーデターを企てていた裏切り者だと発覚し、セイアを殺してしまった勘違いと止められない勢いのままナギサまで潰してトリニティの全権を握ろうとしていた経緯がある。

その後はなんやかんやあって、和解もしてミカ自身も処分を受け入れて一件落着となったわけだが、少なからずナギサの中では友人に裏切られたという事実は紛れもなく心の傷だ。

ミネと同じく肩書が団長だったなら、何やってんだミカと呼び捨てで叫び散らしたい思いまである。

 

(まずは、やってはいけない行動を精査しましょう)

 

隣からの熱烈ないらないナギちゃん頑張れ応援にロールケーキを突っ込んで黙らせ、ナギサは思案する。

恐ろしく早いケーキを取り出してからのぶち込み、センや他の実力者でなくては見逃していた。

 

(真っ向からの否定...これはナンセンスです)

 

明らかにセンムードなこの状況、ミカの言う通りに言い争ったり行いを否定するのは完全にタブーだ。

これには他の学校が黙っていない。事態の収束後、及びナギサが卒業してからも一生語られる間抜けなお笑い種になること間違いなしである。

 

(...あ、話を本校に持ち帰るというのはどうでしょうか!?そうすれば第三者の視点から俯瞰して事態を把握でき...)

 

妙案だと思い、瞬時にいやと首を振る。

 

(きっとこうなるに違いません...)

 

『一度、本校に戻り意見をまとめてから賛否を提出します。よろしいでしょうか』

 

『では、即時退出願おう』

 

『え』

 

『そして、今後はトリニティ総合学園を連邦生徒会が呼び出すことは無いと思っていただきたい』

 

『え』

 

『この状況で協調性が見せられないようでは、話にならない。仮にではあるがキヴォトスの窮地だというのに連携も取れないようでは、いても作戦遂行の邪魔になるだけだ』

 

『お引き取りください』『お引き取りください』『お引き取りください』『お引き取りください』『お引き取りください』『お引き取りください』『お引き取りください』『お引き取りください』『お引き取りください』『お引き取りください』『お引き取りください』『お引き取りください』

 

(わ、あぁ...)

 

「───?」

 

メンタルがなんか小さくて可愛いやつに近づきつつある彼女を見てどうしたんだろう、とナギサを心配するセン。

尤も、視線の種類は物珍しい、奇異な人物を見つめるモノではあるが。

 

(...消去法で、賛成ですね)

 

致し方ない。そうせざるを得ない。

仮に彼が何かしらの黒幕だったとしても、その時は悠然と対処すればいい。というか、しなくてはならない。

全てはトリニティ、キヴォトスの未来のため。もし不利益なことがあれば躊躇わず意見しなければ。

 

「...返答が遅くなり、申し訳ありません。我々トリニティ総合学園も、あなたの指揮下に入ります」

 

「もぐぐー!?(ちょっとナギちゃんいいのそれで!?)」

 

「ここで孤立するデメリットの方が大きいのですから、仕方ないでしょう。それに───あなたの行動には、常に私が目を光らせておきます。くれぐれも下手な真似はしないことをお約束ください」

 

「勿論です。そして、このような脅迫じみた頼みに了承をくださったことに感謝を」

 

「え、あぁいえ、そんな...」

 

「あなた方ティーパーティーとは唯一面識という面識がなかった。おまけに私のような怪しい者を、警戒しながらも受け入れてくださること、感謝こそすれど恨むようなことはありません」

 

あれ?思ったよりも好感触だ、とナギサは思いかけた直後、

 

「あなたに敬意を、桐藤ナギサさん。噂通り、やはりあなたは優秀だ」

 

根底からの賛辞。

豪速球より転じてのスローボール。厳しく接しているかと思われたところへの優しさ。センの芯へと来る美声と麗しいルックス、先生以外の男性と顔合わせをしないことで生じた免疫の無さもあり、

 

「ど...どうも...っ」

 

桐藤ナギサは、堕ちた。

 

(あ、堕ちた)モグモグ

 

(堕ちたね)

 

(まったく...変わらないわねセンくん...)

 

ミカ、セイアは『やれやれ』と首を振り、リンは額に手を当てため息を吐く。

 

(い、いけません...私には先生が...それに彼は年下で...でも...っ)

 

「つきましては、シスターフッドと救護騎士団の手もお借りしたい。有事の際の補給については我々も支援しますので、どうぞよろしくお願いします」

 

「...お、オホン。ということですので、サクラコさん、ミネ団長。ティーパーティーホストとして命じます。いいですね?」

 

「わかりました。...よいのでしょうか」

 

「珍しくあなたと意見が合致しましたね」

 

徐々にメスの顔になりつつあるナギサを白い目で見つつ、並行してこの女の見張りも強固にしなければと意思疎通をしたトップ二人。

 

「それでは百合園セイアさん、話していただけますね?歌住サクラコさんも意見がありましたら、どうぞ仰ってください」

 

その後はトントン拍子に話がついた。

セイアの言うキヴォトスの終焉、サクラコがアリウス自治区で目撃した色彩という未知の到来の予感、これらを踏まえての対策、更にこれとは別にカイザーコーポレーションがよからぬことを企てているということで一芝居打つと画策。

 

「ここいらでカイザーには灸を据えておきましょう。二度とそういった企てを考えぬよう、骨の髄まで徹底的に分からせてやります」

 

「その件について、本当に我々の力は必要ないのですか?よろしければミカさんをお貸ししますが...」

 

「ナギちゃんって私を戦術兵器かポケモンか何かだと思ってる節あるよね?」

 

「レベルが高過ぎて言うことを聞かないあたりは後者と似ているね」

 

「あはは⭐︎セイアちゃんってばそんなに私のマジカルシャインを食らいたいんだ⭐︎」

 

メガトンパンチかインファイトの間違いだろう、とはさしものセイアも拳を握りしめたミカを見て口を閉ざし、両手をあげて降伏のポーズをとった。

 

「ここに兵力を割くわけにはいきません。皆さんにはキヴォトス全域をカバーしていただきたい。色彩という脅威の本領が真であれば、被害は想定を遥かに上回るでしょう。一般生徒や民間人の避難を最優先にお願いします。ヴァルキューレ警察学校に百鬼夜行、山海経や他の学園には私の方から連絡を入れておくので、その後の連携は通信で行いましょう」

 

「キキッ、了解した」

 

「うむ、任せておけ」

 

「では───皆さん、手筈通りに」

 

ゆっくりとセンは立ち上がり、

 

「これより、学園都市防衛戦線を敷く!」

 

高々と、宣言した。

 

 

 

********************

 

 

 

「さて...」

 

各校の代表生徒達がいなくなった会議室にて、センはリンをはじめとした連邦生徒会のメンバーと向き合った。

 

「色々と言いたいことはあるけど...まずは、お帰りなさい、センくん」

 

「ただいま戻りました。そして、お久しぶりです、七神先輩。皆も元気だったか?」

 

「よくもまぁそう軽い感じで言えるねー、先輩らしいっちゃらしいけど」

 

けど本当に先輩だよね?と一応確かめるべく服の裾を引っ張ったりするモモカ。

 

「おまえも相変わらずだな、モモカ。高等部一年になっても効率良くサボっているのか?」

 

「それが私の座右の銘?モットーみたいなものだし」

 

「なら、怠惰で貯蓄した分をこれから発散してもらうとするか」

 

「先輩にも言えることでしょ〜」

 

「ふっ、痛いところを」

 

「...センくん」

 

軽口を叩き合っている二人に割って入るのは、アオイ。

ツカツカと彼に近づき、視線を重ねる。

 

「アオイ」

 

「本当に...あなたなの?」

 

「確かめてみろ」

 

センはアオイの手をそっと掴み、自身の頬へと触れさせる。

手のひらを通じて跳ね返ってくる人肌の温もりは、正しく、少年がこの場に存在していることの証明だ。

 

「生きて...いたなんて...」

 

「俺がいつ死んだなんて言った」

 

「だって、だって...何も、連絡を寄越さないで、いきなり消えて...!」

 

「スマホは自暴自棄になった時に捨てた。それに、おまえが困らない程度の引き継ぎはしていた筈だが」

 

「そういうことじゃないわ!また、そうやって...!なんでも分かるくせに分からないように振る舞って...!」

 

「そうだな...すまない、心配をかけた。あの時の俺はもうどうなってもいいとさえ思っていたんだ。しかし自ら命を絶つ覚悟も無く、日々惰性を謳歌して時間を浪費する毎日を...」

 

「聞きたいのはそんなことじゃないの...!」

 

両目から雫が何度も伝い、溢れる感情をぶつける。

 

「バカ...!センくんのバカ...!」

 

「ああ、俺は大バカだ」

 

「あなたがいなくなって、私は...私は...!」

 

「ああ」

 

「どんな思いで!過ごしてきたか!」

 

パァン!パァン!

 

「あ、アオイ?」

 

「寂しくって!苦しくって!」

 

バチン!バチン!

 

「アオイ、アオイさん?」

 

「どれだけ...っ!どれだけ...っ!!」

 

「あべ、あがっ」

 

「財務室ちょ...アオイさん!死んじゃう、センくん死んじゃいます!」

 

「アオイ先輩ストップストップ!セン先輩白目剥いてる!泡噴いちゃってる!」

 

猪木、猪木、猪木。

体の回転が♾️の字を描き、繰り出される平手が悉くセンの両頬を打ち抜き、快音を響かせる。

 

「全く、騒々しい」

 

けれど、嬉しくもある。

アユムとモモカの二人がかりで羽交締めにされたアオイと、いまだに胸ぐらを掴まれて口から魂が抜け出そうなセンを見て、リンは苦笑と共に二年前を懐かしむのだった。

 




アルちゃーん!

はーい!

どこいたのー!?

最終手段も最終手段で武力制圧のために外で会議室囲ってトリガー引けば打てるくらいで待機してたわ(白目)

セン『実際にそういうことになる確率は極めて低いので、ただ待機してもらっているだけで構わない。それと、その後の作戦行動への参加も頼む。報酬は弾む』

アル『やるわ!』

即快諾したものの、もしそんなことになったりしたらどうしようと汗ダラダラ膝ガクガクだった。
ムツキは笑った。


高城セン
元次期連邦生徒会長
元々の才能を会長に見込まれ、チェス144戦を矯正とチューニングに使い、145戦目で至らせた。会長『私が育てました。ぶい』
トリニティ以外と何かしらの伝手があり、今回ナギサが加わったためより人脈が盤石なものとなった。
キヴォトスカイチョーモウシンクソボケ

RABBIT小隊
出番は無いが会議の裏で出されるセンのオーダーに従って色々やってる。出番は無いが。

便利屋68
二年前(おそらく雷帝案件)おもしれー女とアルを気に入り、ミヤコ達と関係を持ってからは仕事の斡旋と契約内容の確認を手伝っている。一応指名手配犯なのでミヤコ達には内緒。

アビドス高等学校
二年前に現状改善のための投資について伺ったところ、ピンク髪に手酷く追い返された。ユメぱいの現在をセンは知らない。

ゲヘナ学園
二年前、雷帝の案件で大きく携わった。マコトは腕を高く買っており、ヒナも認知はしている。センはヒナの大ファン。理由は温泉にアリ。

山海経
二年前、銃社会の撤廃への足がかりとなる法案を最初に持ちかけた学校。当時一学生でありながらそれなりの権力と次期生徒会長と見込まれていたキサキと協力関係にあったものの、センの失踪に加えてキサキのカイによる体調悪化もあり白紙に。梅花園には度々気晴らしに立ち寄っていたようで、ココナともそこで知り合った。

トリニティ総合学園
唯一直接的な関わりはなかったものの、四年前にティーパーティーの一人(といっても一部員)を失脚させたことから上層部の方で名前は知られていた。ナギサやミカ、セイアが知らなかったのはセンがいなくなって二年が経ち、引き継ぎも従前に行われていなかったため。

百鬼夜行連合学院
生徒会長的立ち位置のニヤがセンを苦手としているため、関係はそこまで深くない。緊急の要請であれば応答するくらい。百花繚乱紛争調停委員会のとある部員と仲が良いらしいが...。

ミレニアムサイエンススクール
小学生の頃、覚醒前にノアに試験の点数で負けてから一方的にライバル視していた。その後もハレへの要件で伺う機会は何度もあったが、互いの間が悪く再会は叶わなかった模様。

レッドウィンター連邦学園
センの法案に賛同はしなかったものの、手腕と内容には高い評価を下していた。チェリノが彼を認知しているのはそのため。

アリウススクワッド
?????

ハイランダー鉄道学園
?????

ヴァルキューレ警察学校
母校。


情報量!情報量!いえあ!

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