ワイ『ダンボールは万の事に使いけり』 ミヤコ『流石です師匠』 作:\コメット/
一度消しました。申し訳ない。
本作品投稿主は、コードギアスの大ファンです(今更
タグは入りきらなかったので、何とかします!合理的に!!
「こちらゼロ。V1、カイザーの動きの詳細を頼む」
『了解...なんだか声がくぐもってるけど、大丈夫?』
「問題無い、風神が通りかかっただけだ。それで、どうなんだ?」
口内に残る鉄の味と頰の腫れに耐えながら、センは会議中もRABBIT小隊と連携しながらカイザーの監視に回っていたヴェリタスのハレ───コードネームV1から情報を聞き出す。
周囲にあるカメラのハッキングをしての相手の動向の確認は、天才ハッカーの彼女にとって容易い。
『隠れてサンクトゥムタワーを囲っている兵隊の数は100、シャーレに50、離れたところに装備の質が他と違うのが20。シャーレの方はもう突入を開始してて、ゼロに言われた通りシステムをいじって隔壁の閉鎖をして奥には進ませてないけど、被害を気にせず爆弾を使われたらすぐに突破されちゃう。その場合は用意してくれてたドローンで迎撃するよ』
「頼む。短期決戦のためか数は少ないな。エンジェル24の店員は無事か?」
『レジ下にある避難用のスペースで待機してるみたい。生体反応が一つある』
「わかった。カイザーの通信網を開いてくれ」
『了解』
『ザザッ───ジジッ───タワー突入まで10分を切った。シャーレのクラフトチェンバーにはまだ辿り着けないのか?』
『も、申し訳ありません。侵入者対策の防衛機能が作動したらしく...現在、ハッキング班がシステムを解析していますが、隔壁開放には時間がかかるものかと。これでは火薬を使った方が...』
『馬鹿者!目標が破損する恐れがある!いいか、なんとしてでもハッキングでこじ開けろ!』
「やはりよからぬことを企んでいたかカイザーめ、空井の勘は正しかったな...向こうが破壊を試みようとしていないのは嬉しい誤算だ」
情報のアドバンテージは作戦において欠かせない。
今のやりとりでタワーへの突入までの時間、シャーレへ既に侵入していること、爆弾を使用せずハッキングで隔壁の解錠を試みていること、目的がクラフトチェンバーということ、これらの事実が明らかとなった。
「V1、相手のハッキングの技量はどうだ?」
センが聞いたのは即ち、ハレの組んだシステムが突破されることはあるのか、という質問なのだが、とうの彼女は自信満々に宣言する。
『よくて二流止まり。100関門あるうちの初手で躓いてるし、要求する数値は1分でランダムに変わって、10分も経てば自動でリセットされるようになってる。システムを突破してのシャーレ制圧は100%不可能。私が保証するよ』
「心強いな。なら、物理的な突破への警戒を頼む。...しかしクラフトチェンバーが狙いとなると、目的はサンクトゥムタワーの行政制御権の奪取と見ていいだろう。何が原因でそのような血迷った行動を...捕縛した後に聞き出すか」
『シャーレの地下に、そんなものがあるの?』
「以前会長が仰っていた。動かせるのは例外を除けばあの人だけらしい。今はどうやったかは知らないが、先生がチェンバーを起動して連邦生徒会に権限を委託したのだと」
『これ、私が聞いて良いやつなのかな』
「できれば胸の内に留めておいてくれ」
『あはは...他言無用なんだ、了解。現場の方はどう?』
「間も無く準備完了だ」
言って、センはドタバタと走り回る連邦生徒会役員達の方へ振り向く。
「弾薬はありったけ用意してください!グレネードと閃光弾、煙幕弾はこっちに!」
「自信ない子は自己申告!直ぐに補給班に回って!」
「余ってたアサルトライフル持ってきました!調整はそのまま取り掛かるので、自分好みのチューニングは配った後各自で!」
「誰か警備ドローンの知識持ってる人いる!?倉庫に眠ってたやつがあるんだけど!」
「ミレニアム出身で一年の子が見れるって!そっち送る!」
「下フロアのカーテン閉めてきた!簡易的なバリケード作りたいから四人ちょうだい!」
「先輩、アタフタしてる暇あるならこれそっちに運んどいて!事態は急を要しますよ!」
役員、主に高等部二年生を中心に、形だけではあるが舞台が整えられていく。
センの立てた作戦をアオイが読み解き、簡略化してアユムと共に指示を飛ばす。たったそれだけで、心が通じ合っているかのような連携を彼女らは見せた。
ちなみに、物資を運べと命じられていたのはどこかの室長である。
普段なら憤慨ものだろうが、いかんせん今は連邦生徒会長失踪以来の苦境。しのごの文句は言っていられない。
「急にやる気を出すとはな。常にその動きをしておけまったく...」
二年生、つまりセンの同級生なわけだが、彼女らはセンの背中を見てきた者達である。
アオイ同様、彼が失踪したことでやり甲斐ややる気が失せていたわけだが、彼の帰還により士気は向上。切羽詰まってはいるものの、微かに笑みを浮かべて作業に取り掛かっている。
「あなたが帰ってきてくれたから、みんな嬉しいのよ...斯くいう私も、ね」
呆れるセンを、アオイは嗜める。
「にしては、手荒い再会だったな」
「あ、あれはあなたが...」
「冗談だ、これでも罪悪感はある。先行させた部隊の配置は?」
「...んんっ、ええ。全員到達済みよ。リン先輩から連絡もあったわ」
「了解した。各位、応答せよ」
『こちらL1、配置についたわ』
『こちらA1、配置についた』
『こちらM1、いつでもおっけ〜』
『こちらB1、敵部隊を捕捉する位置に陣取ったけど...こ、これ本当に大丈夫なのかしらアドバイザー!?』
「心配するな。奴ら、短期決着のためか目立つ戦車やゴリアテを持ってきていない。B1の部隊が持つ武装なら充分対処可能だ」
『それならいいけど...』
「俺はそちらの腕を疑わないが、反面期待はする。事態が収束した後は出来高も考えよう」
『え〜それほんと!?センくん太っ腹ぁ!』
コードネームもクソもない浅黄ムツキの陽気な声に頼んだぞと返したあと、他部隊への確認を終え、通信相手をハレへ。
「こちらゼロ、準備が整った。状況は変わりないか?」
『こちらV1。敵、間も無く突入の構え』
「了解」
「...勝てるのかしら」
果敢に指示を飛ばしていたものの、実のところ勝機を見出せないアオイはセンの後ろで弱音を吐いた。
「なんだ、弱気だな」
「だって、こっちはデスクワークで腕の鈍った生徒しかいないのよ?いくらそこにあなたと、あなたが懇意にしている傭兵とヴェリタスのハッカーが加わったところで...」
「そんなもの、ハンデにもならないさ。寧ろ、飛車角を切らなくていいのかと相手に尋ねたいくらいだよ」
この場合の飛車角は便利屋68とハレのことである。
「それに、各学園の代表に一度俺の実力を見てもらう必要がある。いまだに懐疑的な連中は少なからずいるだろうからな」
「あの会議で、嫌というほど痛感しているでしょうきっと」
「周りの取り巻きはどう思っているかわからん。信用を得るためにも、先ずは目の前の勝利を、それも圧勝を手向けなくては」
「無理はしない?」
「愚問だな。でなければこんな大口も叩けん」
「必ず勝てる?」
「ああ。俺が指揮するんだ、当然だ」
「...もう、どこにも行ったりしない?」
ソッと、震える手が少年の左肩に乗せられた。
「アオイ?」
「本当に、帰ってきたのよね...」
「何回聞けば気が済むんだ。この通り、おまえの目の前にいるのは高城セン本人だよ」
「...何度でも、聞くわよ」
それぐらい寂しかったのだから。
背後から腕を回し、抱擁。少年の後頭部に自身の額を当て、少し痩せながらも大きくなった背中を暫しの間堪能する。
センは抵抗せずに───こういう時どうすれば良いかわからなかったため───アオイが離れるまで待つ。
(...ああ)
センくんだ。
新品同然の服の匂いが邪魔をするが、写真を撮った時に感じた温もりと同じ、柔らかで優しい温かみを彼からは感じ取れた。
「...ん」
「ん?」
「...ごめんなさい、もう大丈夫」
細やかな我儘をしてから、名残惜しくも離れる。
「何故謝る?」
「作戦前なのに、こんなこと...」
「...はぁ、おまえがその調子だとこちらの調子も狂うのだが」
「...」
「...わかった、約束する。もう黙ってどこにも行ったりはしない。だから泣くな」
「...そうしてちょうだい」
いつのまにか滲んでいた涙を拭い、聞きたい言葉を貰えて心が軽くなったアオイは彼の一歩後ろへ。
もう、この背中を見失わないように。
「号令を、センくん」
「ああ。総員、これより作戦行動に移る!」
還ってきた超人の下、サンクトゥムタワー防衛戦が始まる。
********************
シャーレからの吉報を待てず、タワーへの潜入を強行したカイザーたち。
彼らを待ち構えていたのは、
ドンッ!!!
「なっ!?」
地を震わすほどの、盛大な爆発だった。
警備とは名ばかりの無防備な正面玄関から入り、迅速に中を制圧する。
事前に打ち立てていたカイザーのプランが、初っ端から潰れることとなった。
「なんだ、何が起こった!?」
前線で指揮を飛ばすジェネラルは、何の前触れもなく部下達を吹き飛ばした爆煙を見て、冷静さを取り繕う暇もなく声を荒げる。
「奇襲です、敵の奇襲!」
「そんなものは態々報告せんでもわかっている!...なんなんだ、シャーレと同じ防衛システムか?それにしては破壊が人為的だが...事前に爆弾を仕込んでいた?何のために...まさか、こちらがサンクトゥムの制圧に動いていると知られて...!?」
『カイザーコーポレーションと思われる無礼者に告げる。繰り返す、カイザーコーポレーションと思われる無礼者に告げる』
思考の邪魔をする、スピーカーから発せられる声。
それも、
「男の声...?」
『ここを連邦生徒会と知っての狼藉、万死に値する。しかし我々は貴様らとは違い寛容だ。即刻愚かな包囲を解き、この場から大人しく立ち去るのであれば見逃してやろう。おっと、後日に多少の賠償金は覚悟しておけ』
無礼者、狼藉、愚か、という神経を逆撫でする単語に眉をピクピクさせるジェネラル。先ほどの困惑と普段の冷静さをかなぐり捨てて、こちらも部下へスピーカーの接続を急がせる。
その間も、男のカイザーへの侮辱の羅列は続いた。
『貴様らの意図は読めている。非常対策委員会が終わり、タワー内の警備が緩んだ隙を突いての侵入、電撃作戦。目的は行政権の奪取か?何を頼りに貴様らをそうさせたのかは知らんが、猿知恵にしては悪くない発想...なるほどなるほど、アビドス砂漠のオーパーツか』
「...ッ!?」
『確かに、これだけの規模を誇る戦艦があればキヴォトス全土の制圧は容易いだろう。起動できればの話だがな』
「おい、どうなってる!?何故奴が本船のことを!」
「もしかして、我々の中に内通者が...!?」
『どうやら起動のアテにサンクトゥムタワーを使いたいらしいが、できないことをするものではないぞ。こちらのシステムのハッキングに手間取っている現状、ソレの解析など夢のまた夢。オーパーツがなぜオーパーツと呼ばれているかを、まさか知らないとは言わないだろう?』
「...だからサンクトゥムタワーが必要なのだ。そして、連邦生徒会の戦力は把握済み、その強がりも今に消え失せる」
『ようやく返答がきたかと思えばそれか、見当違いも甚だしい。そもそも私が誰なのか分からない時点で、貴様の発言は矛盾に満ちていると知れ。監視カメラから間抜け面がよく見えるぞ』
「貴様ァ...!」
『図星を突かれて憤り、それを隠すこともできないとは、そちらの展開する部隊と雇用する会社の程度が知れるな。余程人材に難儀していると見える』
「私のみならずカイザーコーポレーションを侮辱するか...!」
『ほう?侮辱されている自覚があったことに驚きだ...いやこれは失敬。節操なしに蛸足を伸ばし、低レベルな事業を展開している自称大企業様のプライドが傷付いてしまったかな?』
「...ッ!!」
威厳を保つために、ジェネラルの口内では吐き出すまいとした怒号がグルグルと回り回っている。
所詮は子供の戯言、いちいち反応しては向こうの思う壺だと、彼は理解しているからだ。
ただ、少年───センの遠慮を知らない挑発は、隙を与えれば悉くそこを突いてくる。
『どうした?旗色が悪いとカイザーの将軍は会話すらままならなくなるのか?もしくはこちらの発言で気を悪くしてしまったか?だとしたら申し訳ない。そして、今直ぐ鏡を見てきたまえ。貴様らの象徴であるエンブレムに記されたタコは、茹でると真っ赤になることは流石に知っているだろう。今の貴様の顔色とそっくりだぞ』
既に、ジェネラルの怒りは頂点に達し、持っていたシーバーを握り潰していた。
『さて最後通告だ。貴様らにノミ程の知恵が残っているなら立ち去りたまえ。それすらない愚かなる者なら───向かってくるがいい』
「総員、戦闘配置ッ!!!タワーを制圧し、この声の主を引き摺り出せェ!!!」
********************
「仕掛けてくるか、愚かな」
「当たり前よ」
あれだけ一方的に煽られていれば、プッツンの一つや二つする。
カイザーのジェネラルといえば、界隈では名の知れた知将だ。その異名を成り立たせているのは本人の一歩引いた視点から物事を俯瞰できる視野、潤沢で高性能な装備とテキパキ動く部下の存在にある。
ようするに、それなりの戦術を指揮してそれなりの連携を生み出せる、部隊の将軍くらいは任せられるだけの技量を緑が基調な彼は持っているわけだが、そこは百戦錬磨の戦術予報士。
必要以上の煽りで、敵の冷静な判断力を削いだというわけだ。
「L1、聞いていた通りだ。上がってくる敵を迎え撃て」
『了解』
作戦行動のため敬語を排除。一階か二階へ繋がる階段で待ち構えるL1───リンの率いる部隊へ指示を送る。
少しして下のフロアから銃撃音が鳴り始めた。それと同時に、ハレからの通信が入る。
『ゼロ、このまま敵の通信網は流しておく?』
「気遣い感謝する。だが不要だ。現在、この戦況はリアルタイムで学園代表者が視聴している。キミが組んだシステムでだ。V1」
『...うん』
「キミは俺が今持つ手札の中で最上級の強さを誇る。そんなキミを、無闇矢鱈に使っては腕を疑われかねない」
既にセンはシャーレの防衛、カイザーからの情報の引き抜き、作戦開始前の索敵のためにハレの力を使っている。
彼一人でも時間をかければ可能だが、やはり知識だけ持っているアマとその筋で生きているプロとは仕事の質も早さの違いも明白だ。
本来、センは事前に敵に関しての情報を過剰なまでに揃え、プランを数十通り作った上で作戦に臨む。今回はそうするだけの時間が無かったため、ハレに頼った。
小鈎ハレにその全能力を振るえと命じれば、120%この戦いには勝てる。
だが、それでは意味が無い。
今示さなければならないのはハレの力ではなく、センの力。
連邦生徒会長が見出したという戦術家としての技能を、大見得を切った相手である学園の代表者達に披露しなくてはならない。
「安心しろ。キミはシャーレに専念してくれ。万が一異常があった場合、連絡を頼む」
『うん、わかった。必要ないかもだけど、応援してる』
「そんなことはない。キミからの言葉は、励みになる」
『...うん』
一歩後ろからの眼光と湿気が強まったことを不可解に思いながら、ハレとの通信を切る。
「L1、状況は」
『計画通り、応戦しながら目標地点へ後退中』
「了解。M1、準備は」
『いつでも行けるよ〜』
「先行隊、交戦開始!」
「ふぅ...わかった」
頭に上った血をため息で押さえつける。
勢いと憤りに身を任せて部隊に突進を命じてしまったが、本来の目的を遂行するためにはそうせざるを得ない。
(遅いか早いかの違いだ)
必ずや、あの声の主を血祭りにあげてやる。
カイザーの未来を想いつつも、私怨に燃えるジェネラルは続々と兵をタワーへ送り込む。
「数と質ではこちらが有利だ、臆せず進め!」
各学園から代表として選抜される連邦生徒会。当然、代表であるからには頭脳だけでなく戦闘面でも評価された者がなる職種だが、彼女らは日々のデスワーク、もといデスクワークにより身体が鈍っている。
動きが鈍く、急遽の対処。それに比べてカイザーは凡ゆる事態を想定した訓練をこなし、精神面や身体的なアドバンテージを軒並み確保した精鋭の集まり。
負ける通りは無い。まだ幼い子供と違い、こちらは非情と冷徹さを兼ね備えた大人なのだから。
「ジェネラル、敵部隊が徐々に後退しているそうです」
「(そら見たことか)第二、第三部隊も続けて派遣しろ。数で押し、捻り潰せ」
「はっ!そしてたった今入った朗報です!二階のフロアを制圧した模様!」
「その調子だ」
それから暫く、カイザーの攻勢は続く。
入ってくるのはフロアの制圧報告ばかりで、サンクトゥムタワーの掌握も時間の問題とジェネラルはほくそ笑む。
だが、普段の彼なら気づけたことを、センを叩き潰すという怒りに呑まれた現在の彼は気づけない。
生徒を無力化したという報告が、一切無いことに。
『ゼロ、七階まで制圧されたわ』
「了解。M1、行動開始」
『らぁじゃ〜!』
『ジェネラル、フロア全体の明かりが一斉に消されました』
「明かりが?」
『上階にて爆発音を探知!』
「気にするな、どれも子供騙しの揺動だ。暗視スコープを使って敵を追跡」
「そう、敵は陽動と考えているはずだ」
着々と、盤面はセンの想定通りに固められていく。
明るかった時と同じく淀みないスピードで階を駆け上がってくるカイザー兵、なるほど暗視スコープを使っているのだろう。
「M1の部隊はそのまま先行。L1の部隊はそのまま上階へ退避、敵を引きつけろ」
「呆気ないものだな。あれだけ煽っておきながら」
既に大勢は決したも同然。ここからは弱者を擦り潰すだけの死体蹴りだ。
『ジェネラル、敵は尻尾巻いて上に逃げています。銃撃も減ってるので、抵抗も時間の問題かと』
「よし、一気に攻め込め。やはり子供では知恵ある大人に勝つことは不可能、今日という日を、奴らに教訓として教えてやれ!」
「フロア内の敵は60、外に40か」
これで、カイザーがサンクトゥムタワーに割いた戦力は中と外とで粗方半々に別れたことになる。
「全部隊に逹す、これよりプランKを発動する」
『了解』
「さぁ、精々踊れよカイザーコーポレーション。俺の口角を上げるくらいには、滑稽なダンスを所望する」
条件は全てクリアされた。
そう判断し、センは反撃の合図となるボタンを力強く押した。
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違和感もなく、被害もなく、カイザーにとって最高の形で制圧作戦は進められている。
問題なのは違和感と被害が未だに無いことへの違和感に気づいていないことなのだが、猪突猛進を決め込んだジェネラルにはそのような進言や直感は届かない。
「終わったな」
既に、彼の脳内ではサンクトゥムタワーを掌握したことに対する報酬、賞賛、昇進という三つの単語が圧迫している。
敵の煽りで機嫌を損ねたとはいえ、終わって仕舞えば何のその。
劣勢続きでありながら妙に向こうが粘っているのは気になるが、全ては些事だ。最悪最上階まで追い詰めれば、流石に連邦生徒会も観念する。
勝負はついたと、景気づけに部下へ勝利の美酒でも持って来させようと思ったその時だった。
極光、窓を暗く閉ざす遮光カーテンすら貫通するほどの極大の光が、現在カイザーがサンクトゥムタワーに攻め入っているフロアから溢れ出した。
「なんだ?」
油断、慢心、生じた隙へと投じられた、相手の布石。
『ぐああああ!!??』
『目が!俺の目がぁ!?』
入ってくる通信は、味方部隊からの阿鼻叫喚。
「おい、どうした!?」
『見えな、見えない!見え...ぐは!?』
「第一から第六までの全部隊、応答しろ!繰り返す、突入した全部隊、何があった!?」
『報告しま...ぐう!?』
「おい!返事を」
『ザザッ───はいは〜い、先生もビックリな素直さでの進行進軍、ご苦労様〜』
連絡を入れようとしてきた部下を倒して奪ったシーバーを使ったのだろう、聞こえてきたのは気の抜けた少女の声。
「なんだ、何が起こっている!?貴様がやったのか!?」
『それくらい自分で考えたらいいじゃん。答え出す頃には全部終わってるだろうけど〜』
そんじゃあね、と二言煽りを入れるだけ入れてシーバーをポイ捨てしたらしい少女は、傍に何人かいるらしい他の生徒達と共にフロアの敵を撃破していく。
「く...ッ、誰でもいい、報告しろ!そこで何が起こっているんだ!?」
『ぐぅ...ほ、報告、します』
「どうしたんだ一体!?」
『暗闇で、奴ら...閃光弾を...』
「...閃光弾?」
そこで漸く、ジェネラルはハッとする。
フロアの明かりを消したのは子供騙しの悪あがきなどでは無い。
外の光を閉ざす遮光カーテンが満遍なく窓を覆っていたのも、全ては閃光弾による目潰しの効果を十全に発揮するため。
しかし、こうも部隊の連携が乱れるほどに脅威なものなのかと自身に問えば、否と即返答できる。
「───まさか、暗視スコープ?」
暗闇で作戦を遂行するためにカイザーPMC一人一人に用意されている、暗所を見通すためのゴーグル。
いきなりの光に弱い、というのは映画やドラマでよく見るが、近年の暗視スコープはそういったことへの対策が進んでいる。
たとえ戦場を暗闇と化しスコープを作動させたところで、そう上手くいくようなものでは無い。
ジェネラルの考えは、そうだった。
「ところが、だ。効くんだよおまえ達には」
以前、モエから聞いたこと。
SRTの生徒でありながらブラックマーケットで欲しい武器武装を調達する彼女は、市場に流れてくるそれらについて詳しい。
『高額で取引されるだけあって、それなりの物が揃うんだけどカイザー製はねぇ、銃の威力は申し分ないけど、他はダメダメ。前なんてほら、これ。暗視スコープ。暗所では見えるけど懐中電灯ぐらいの明かりを当てられたら直ぐダメになる粗悪品だったんだ。安かったから買ったのにさァ』
節操無しに規模を拡大し、低レベルな事業を展開しているツケがここで出たというわけだ。
ぶつくさ文句を言うモエを当時はハイハイと流したが、その時に得た知識のおかげで、こうして作戦を立てることができている。
これが終わったらパソコンでも新調してやるか、とRABBIT3への報酬を思案しつつ、センは転じた攻め手を更に加速させた。
「L1、M1、M2、敵を各個撃破せよ」
『『『了解』』』
今まで後退するだけだったリンの部隊、カイザー視点からすれば揺動と思っていた爆発で床を爆破し降下後、敵の背中を取っていたモモカとアユムの部隊が一斉に襲いかかる。
毎日のデスワークにより、彼女らにとってこのタワー内は勝手知ったる庭だ。たとえブランクがあろうと、それを感じさせない機敏な動きを随所で見せて敵の数を減らしていく。
「さぁ、このままではタワーの部隊は全滅だぞ?どう動く、カイザーの」
「突入部隊損耗率38%、このままでは...!」
「チィ...ッ!」
朗報から一転、上がってくる報告は味方の断末魔と下降していく自陣の戦力状況。
部下の言う通り、何かしらのアクションを起こさなければジリ貧で終わってしまう。
「シャーレ制圧部隊、そちらのシステムはまだ開かんのか!?」
『申し訳ありません!現在、ハッキング班の力を結集して事にあたっていますが、突破は厳しいかと...!』
「...やむを得ないか」
できれば使いたくなかったが、背に腹はかえられない。
優先すべきは面子よりも成果なのは、カイザーに勤める者として嫌というほどジェネラルは理解している。
「黒服の置き土産を使え」
『よ、よろしいのですか?』
「他に方法はない。やれ」
『は、はい!』
シャーレの方は、これでいい。
「カイザーSOFをお呼びしろ」
「了解!」
Special Operation Forces。
カイザーの特殊部隊員、その実力は一人一人が一般兵の部隊一つを軽く上回ると言われている。
本作戦に投入された数は二十人。プレジデントから念の為にと配置を勧められ、どうせ遊ばせるだけになると踏んでいた彼らだったが、ここにきて出動の出番が舞い降りた。
(全ては、貴様のせいだ...!)
傲岸不遜に煽ってきた、あの声の主。
SOFの起用を渋っていたのはワケがあり、一つは『狐』が介入してきた際の隠し球、もう一つが多方面への借りをジェネラル個人が作ってしまうことにある。
切りたくなかったジョーカー、切り札。それを出さざるを得ない状況にまで追い詰められた。
全ては、あの男のせいで。
「ただで死ねると思うなよ...!」
シャーレ、そしてサンクトゥムタワーそれぞれに、ジェネラルはトラの子を投じたのだった。
絶賛顔を真っ赤にしている頭絶許なジェネラルとは違い、ハレは突如発生した違和感に瞬時に気がついた。
「なに、これ」
作戦開始からカイザーのハッキング班に対して無双状態だった自作のシステム。それが、第一関門から順々に壊されていく。
ホワイトハッカーである自身が矜持とする白、それを黒へと書き換えられていくような、不快感のこもったハッキングだ。
「この...!」
手元にあったエナドリを一気し、缶を放り本腰を入れてキーボードへ向かう。
対処、対抗、対応。彼女の知識で出来る限りの全てをその漆黒へ注ぎ込んだ。
しかし、
「侵食スピードが、早すぎる...!?」
ハッキングというより、システムを破壊するウイルスに近い。
ハレが解答者に出題する問いを無視し、無理矢理にでも鍵を開けられているような、そんな感覚。
これでもかという方法で迎え撃とうと、それがどうしたと意に介さないのか刻一刻とハレが築いた関門は破壊されつつあった。
未知なる敵に何の対応策も打てないまま半分の関門を破壊された辺りで、ハレはセンへと通信を繋いだ。
「ごめんゼロ、シャーレのシステムが...!」
『把握している。落ち着け、V1』
「でも...!」
全幅の信頼を持って託された持ち場。
憧れて、隣に立ちたくて、見上げる横顔が綺麗だった彼にかけられた期待。
それに応えられず、役目を果たせずに終わってしまう。
ダメだ、それだけは絶対にダメだ。
「せっかく、あなたの...」
隣に立てたと、思ったのに。
数時間前のあの言葉に、盛大に報いれると、思っていたのに。
「こんなところで...!」
終わりたくない。
加速するキーボードの音、湧き上がる様々な感情、その全てを無視して突き進むウイルス───ゲマトリア、黒服がカイザーに渡した置き土産。
ピ──────ッ
「あ...」
システムが、黒一色に染まった。
負けてはいけない戦いに、黒星を刻んでしまった。
作戦前に吐いた自信が馬鹿に思える。重枷になって、敗北を喫したハレにのしかかる。
「あぐ...うぅ...っ」
机に項垂れ、微かに嗚咽が漏れ出る。
悔しさに顔を歪ませ、頬を雫が伝った。
「ごめん...ごめんなさい、センくん...っ」
コードネームで呼ぶ事も忘れ、意気消沈のハレ。
『V1───ハレ』
暗がりに沈みかけている彼女。
彼にとっても特別な存在である少女にかけるべき言葉、それをセンは、知っている。
『先ずは、落ち着こう。深く息を吸うんだ。俺も一緒にやるから、それに合わせて』
ハレへ深呼吸のアクションを取らせようとするセンの慈愛に満ちた顔。わざわざライブカメラで映しての行動に、自然とハレは彼に倣って息を吸い始めていた。
「すぅ.........はぁ.........」
『もう一度、ゆっくりでいい。吸って───」
「すぅ...」
『吐いて』
「はぁ...」
『大丈夫か?』
「...うん」
泣き腫らした目元を隠せないのは恥ずかしいけれど、どうにか心を落ち着かせる事には成功した。
『キミは、これ以上ない働きをしてくれた。シャーレの防衛という俺の作戦の根幹を担う役割を、キッチリと果たしてくれた。俺の背中を、キミは守ってくれたんだ。そのことへの感謝を贈りたい』
ありがとう。
画面越しで、自分はヴェリタスの部室、向こうはサンクトゥムタワーにいるにも関わらず、本当にそばにいるかのような温もりを感じながら、ハレはコクリと頷いた。
「でも、私は敵の突破を...」
『正直、それは予想外だった。キミが負けることなどあり得ないと。だがな、ハレ。キミは敗北しようと自身に課せられた俺からの頼みを放棄せず、最後の最後まで抗った。そのおかげで───間に合った』
「なに、が...?」
『本来であれば、キミとの挟撃で動いてもらおうと思っていた援軍だよ』
画面内のセンが、通信を入れる。
『A1、B1、敵の増援がくる。出撃だ。奮戦を期待する』
『A1、了解』
『B1、了解っ』
「増援って、センくんの知り合いの...?」
『正解だが、A1達ではない。彼女らには別の任務を任せてある』
「じゃあ、誰のこと?」
『不審な人物の不法侵入、そういった輩を捕まえるために動く組織に、連絡しておいた』
「それって...」
『高城、シャーレに到着した。あとは任せてもらおう』
『了解。お手並み拝見といきましょうか』
『達観した言葉を吐くな、相変わらず』
「だ、だれ?」
『ハレ、キミの最後の頑張りは、決して無駄なんかじゃない』
ロクな対処もできず、システムのハッキングを許してしまったかのように見えた。
だが、ほんの僅か。
ハレの必死の抵抗は、漆黒の侵攻を僅かにも遅らせる事に成功していたのだ。
そして、その奮闘は次への繋ぎとなる。
『呼んだのは誰か、答えていなかったな』
その組織は、キヴォトスでは役立たずと罵られてきた。
到着が遅く、現場に着いた頃には全てが終わっていると呆れられ、蔑まれてきた。
彼らが着くまでの時間を稼げばどうか。残念ながら、敵を捕縛、撃退するほどの武力を持ち合わせる人員は少ない。
だが、仮に。
彼らが現着するまで場を繋ぎ、その中に現状を打開する組織内でも有数のスペシャリストがいるとしたら。
『市民に寄り添いたいと願いつつも、強面で向いてないと判断された根はお人好しな、俺の元バディ』
───警察だよ。
********************
サンクトゥムタワー、カイザーPMC本隊後方。
「動きはあなたに合わせるわ」
アウトローのコートが揺れる。
凶悪な笑みを貼り付け、敵を見据える。
傍らのリーダーのために、牙を存分に振るおうと銃を抱く。
鋭い眼光が、敵を射抜く。
「ああ、頼む」
藍色がかった黒い髪が風に靡き、口元のマスクがギラリと光る。
独立連邦捜査部S.C.H.A.L.E、そのロビー。
「ぐあ!?」
「な、なんだ貴様らは!?」
ついに内部へと侵入しようとしていたカイザーの兵士の行手を阻む集団、その先頭に立つ金色の少女が相対する。
「近隣住民の通報により駆けつけた。コソコソと当番生徒でもない不審な輩が大勢シャーレに入っていくとな」
異名を異名垂らしめる風貌。
覗く犬歯、生かして返さんと訴えるような、その双眸。
「いくわよ!!」
コードネームB1───便利屋68。
「作戦行動を開始する」
コードネームA1───アリウススクワッド、錠前サオリ。
「ヴァルキューレ公安局だ!直ちに全員、武器を捨てて床に伏せろ!」
センの元バディ───ヴァルキューレ公安局局長、狂犬こと尾刃カンナ。
彼の紡いだ縁が、施しが、信頼が、キヴォトスの明日を守るべく、カイザーコーポレーションに立ち塞がる。
セン「だからASMRで他人を落ち着かせる術を磨いておく必要があったんですね(台無し)」
本編センくんはそんな打算じみた考えは一切持っていないのでご安心を。ご安心を。
ミヤコ「もう三話も出番無いのですが」
このままではタイトル詐欺になってしまう。
少々都合が良いようにも見えるが、好き勝手にやらせてもらうぜェ!
そして、前回センくんと仲の良い百花繚乱の生徒がいると小話で出したところ、反吐猫様の票数がバリ高でした。なぜだ。
そんな湿気てるかなセンくんの周り。ミヤコ、サキ、アオイ、どう思う?
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