ワイ『ダンボールは万の事に使いけり』 ミヤコ『流石です師匠』   作:\コメット/

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二年前のとある日常風景。

セン「先輩、お決まりですか?」

カヤ「あまり急かさないでください...!こ、これでしょうか...?」

会長「カヤちゃん、大丈夫です!いかなるピンチでも自分を信じ、攻める心を忘れなければ光明は必ず見えてきます!」

セン「会長の言う通りです。ここは強気にいきましょう。でなければ、勝てるものも勝てません」

カヤ「お、お二人とも...そうですね。ピンチの時こそ、強気に...では、えいっ!」

セン&会長「ロン」

セン「立直、一盃口、清一色、ドラ5、赤ドラ。数え役満」

会長「四暗刻単騎、ダブル役満っ」

カヤ「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

リン「仕事してください」

会長「終わりましたー!」

セン「同じく」

カヤ「今増えました...」

リン「カヤ、訴えたら勝てると思いますよこれ」

※分担して30分で終わらせて皆でご飯食べ行った。


17話での裏話。

セン「吸ってー吐いてー」

アオイ「ん?」

ナギサ「ん?」



18 やはり、ダンボールは最強である。

 

 

その日のD.Uの夜は、一段と冷えた。

気温は一桁、吹きつける風、寒さを凌ぐ道具が無い現状、

 

(...今日は、少し冷えるな)

 

いつもは浅く羽織るコートの前を閉じ、錠前サオリは人気のない路地裏にて夜の寒さを耐え忍んでいた。

 

(アツコ達は、どうしているかな)

 

ベアトリーチェに引導を突きつけ、打倒。その後、他のアリウススクワッドのメンバーとは距離を置き、自分探しのために各地を転々としている彼女だが、こうして何も無い時に思いを馳せるのはいつも家族のこと。

アツコの怪我は良くなっただろうか。

ヒヨリはお腹を出して寝ていないだろうか。

ミサキは自傷行為をしていないだろうか。花粉に悩まされていないだろうか。暗い閉所で泣いていないだろうか。好き嫌いせず栄養を摂っているだろうか。包帯の巻き方を忘れたなどと言い出して年頃のムーブを発症していないだろうか。

幼い頃から姉のポジションに収まっていたサオリには、そういう心配性な気質が少なからずある。

三人なら大丈夫と半ば自分に言い聞かせるように黙って離れたことが正解だったのかは、まだわからない。

 

(...わからないが、それでも私たちは進み続けなければ)

 

止まっていては何も始まらない。

進まなければ、答えがその先にあるのかすらわからなくなる。

例え全てが虚しいものだとしても、今のサオリにとってそれは立ち止まる理由にはならないのだ。

しかし、

 

(それはそれとして、今日は寒い...)

 

思わず身体が震えてしまうほど、本日の気温は低かった。

凍死、とまではいかないが、このままでは風邪をひいてしまう。安定した住処のないサオリにとって、ただの路地裏で体調を崩すことは最悪死を意味する。

アリウス自治区での過酷な環境で多少は鍛えられているとはいえ、寒いものは寒いしケースによってはそれでご臨終だ。

 

「寒いのは、嫌いだ...」

 

嫌なことを思い出すから。

訓練と称した虐待、体罰、罵り、冷気が古傷に触れるたび、閃光のように脳裏に過ぎる。

反対に、温かいのは好きだ。

週に数回のシャワー、温かいお湯で、年下のアツコ達の髪を洗ってやり、みんなで湯船に浸かった。

あの温もりが、恋しい。

 

「お困りのようだな」

 

「...っ!?」

 

何奴。

突如として沸いた男の声に、サオリはその場から瞬時に飛んで警戒体制を取る。

声がしたのはすぐそばにあったダンボール箱から。

モゾモゾと箱の側面が開かれ、ヌッと少年の顔が現れた。

 

「まぁ落ち着け。そう警戒するな」

 

「普通ダンボールから突然現れれば警戒くらいすると思うが」

 

「人はダンボールで寝るものだろう。何を不思議がる」

 

「そ、そういうものなのか?」

 

「ああ。かの偉人、長谷川泰三は一年通してこれを活用し、生活していたという」

 

「すごいな...その長谷川某という人は」

 

一般的な世間との接触が少なかった少女、錠前サオリ。

アツコ達と別れて最初に挑んだ仕事で騙された過去がある彼女は、今日も今日とて相手の口車に乗せられた。

長谷川某がただの上澄みホームレスであり、夏を魔物と考え未成年から金銭を受け取っている男と教えられる人物は、残念ながらこの場にいない。

 

「とりあえず銃を収めてくれ。怪しい者ではない」

 

「あ、ああ」

 

どこからどう見ても怪しいだろうとは思ったものの、自信満々且つベアトリーチェのような邪気を纏っていないことから、危険はないと判断。

愛銃を下ろし、話を聞くことにする。

 

「どうやら起こしてしまったみたいだな。すまない」

 

「気にするな」

 

「キミも、行く当てがないのか?」

 

「いや、最近生活が安定してきたんだが、初心に帰るためにこうして一人で出歩くようにしている」

 

「殊勝な心がけだ」

 

「それほどでもない。キミもいるか?」

 

言って、少年はどこから取り出したのか人一人が収まるサイズのダンボールをサオリに手渡した。

 

「困っていたのは、今日寝る場所だろう。これさえあれば野宿というのも悪くない」

 

「長谷川某のようにか」

 

「ああ」

 

「わかった。やってみよう」

 

そうして、流されるがままモゾモゾと中に入り、センと同じスタイルで寝転ぶ。

温みは、入ったばかりかそこまで感じない。

そこそこの厚みではアスファルトの硬さを軽減することはできず、咄嗟の事態が起こった際に身動きが取れない。

ツーアウトってところか?と早々にダンボールの性能に疑問を抱き始めたサオリだったが、いくらか楽な体勢を取り終えたところで空を見上げた。

 

「おぉ...」

 

路地裏から細長く見える夜空には、星々が瞬いている。

都心部に近い場所でも1、2等星ならここまでくっきり見えるものなのかと、余裕のない日々を過ごしていた彼女にとっては初めての発見であった。

 

「こうして見上げる星空も、中々悪くないだろう?」

 

「ああ。思えば、ゆっくりと空を見上げるなんて時間はなかった。これに気づけただけでも収穫だ」

 

アツコ達にも、見せてやりたい。もしかすると、自分と同じようにどこかで同じ空を見上げているかもしれない。

流石にダンボールには入ってないよサッちゃん。廃墟で眠るアツコは寝言を呟き、ミサキとヒヨリを困惑させた。

 

「キミとダンボールに感謝したい。私に足りないものがなんなのか分かった。切羽詰まった時こそ間を取る、余裕を生む、そうすればこうして視界も開けるんだな」

 

「学びの一助になったようで何よりだ。しかし、ダンボールの凄さはこれだけではない」

 

「なに?」

 

「ダンボールはな、家になるんだ」

 

「ば、バカな!?これが、家に...!?」

 

「驚くこと勿れ。見ろ、俺のマイホームを」

 

取り出したデバイスに映る、とても簡素な一軒家。

マイクラの豆腐ハウスが贅沢に思えてしまう造形だが、現在家無しのサオリには輝いて見えた。

 

「おぉ...充分に生活が成り立つ(サオリ比)安定感のある母屋だ。ここまで立派なものを、一人で作れるものなのか?」

 

「ああ。造形の知識がない者でも、ダンボールはその寛大な抱擁力で受け入れてくれる。そして、外敵となる夏の暑さ、冬の寒さ、人々の視線を、ダンボールは遮ってくれる」

 

「完璧ではないか...ダンボール、これほどまでにすごいのか...」

 

気のせいか、今自身を包んでいるダンボールに温かみを感じるようになってきた。

本当に気のせいである。

 

「これほどの強度だ。もしや、家具などにも代用できるのではないか?」

 

「ククッ、キミは優秀だな。その通り、ダンボールはお茶の間を賑わす机にも、小道具を飾る棚にも、そして本来の使い道である収納入れにもなる。変幻自在に姿を変え、我々の生活に彩りを与えてくれるんだ」

 

「完璧を通り越して、もはや神の作った万能具ではないか」

 

「違うな、間違っているぞ。神が作ったのではない。ダンボール自体が神なのだ」

 

「なん...だと...?」

 

ダンボールの生みの親である井上貞治郎もびっくりな発言に、あらゆる戦局での判断に長けたサオリですらも驚きを隠せない。

 

「キヴォトスの外にある島国では、千差万物に神が宿るという考えがあるらしい。森羅万象、自然のあらゆるものに神がいるという教えだそうだ」

 

「それが本当なら、ダンボール自身が神というのはあながち間違いでもないのか...」

 

間違いではないが常軌は逸している。

 

「そして、神は全能だ。生活を豊かにするだけでなく、当然戦闘面でも真価を発揮する」

 

「察するに、隠密からの不意打ちか?トラップ設置のカモフラージュにも使えるだろうが...」

 

「やはりキミは優秀だな、洞察力は俺の一番弟子に並ぶ。しかし、まだ視野が狭い。このダンボールには、まだまだポテンシャルが有る」

 

分かるかな。

少年の問いに、サオリは一考。

 

「───そうか。私は箱状に組み立てられた物を活かすことしか考えていなかった。用途が多種多様なように、ダンボールの姿形を変えれば...」

 

「新たな武器になる」

 

「すごいな。触ってみて気付いたことだが、何層にも重なったこの構造であれば弾丸を防ぐのも容易だ。身を守る盾に、カモフラージュとなるカカシを工作することもできる」

 

「応用力が高いな。俺が見込んだだけのことはある」

 

「ふふ、悪い気はしないな...もっと教えてくれ。ダンボールのことを、ダンボールに眠る可能性を」

 

「いいだろう」

 

二人のダンボール談義ならぬ講義は日が昇るまで続いた。

そして、

 

 

 

「ダンボールは、万のことに使いけり」

 

「流石だ、師匠」

 

 

 

ここに、ミヤコに続いて新たなる信者が誕生した。

 

 

 

********************

 

 

 

閃光。

 

普段から腑抜けた鍛錬しかしてこなかったカイザーの兵士の目では追えないほどのスピードで、少女───錠前サオリは戦場を掻き回す。

正に光のように、視界に入っては即座に外れ、死角から行動不能へ追いやる一撃を叩き込む。

 

「なんだ、こいつは!?」

 

仲間に当たらぬよう、銃を乱射。

だが当たらない。

狙いが絞れない照準を恐れるほど、サオリは臆病ではなかった。

そして、数発自身を捉える攻撃があろうと、

 

ギャリッ!

 

弾く。

カイザーがなんだと叫んだのには、突然現れた正体不明の傭兵に対しての困惑のほかにもう一つ理由がある。

先ほど銃弾を弾いた得物、

 

「なんなんだ、それは!?」

 

「にわかめ、ダンボールだ」

 

手の平サイズである厚紙を巧みに使い、被弾を0に抑えられていることだ。

 

「あ、足が滑って...!」

 

「ダンボールだ。撹乱する際に地面に仕込んでおいた」

 

「ぐおあ!?」

 

「ダンボールだ。フリスビーの要領で放った」

 

「このぉ!...な、なんで弾が出ないんだ!?」

 

「ダンボールだ。隙を突いて砲身に詰めておいた」

 

態々ダンボールを利用することではなかろうに。

常人ではそう考えるだろうが、この場にセンと一番弟子がいればそんな戯言には首を横に振り、これだからにわかはと嘲笑を手向ける。

ダンボールは、万能具なのだ。韻まで踏める語呂の良さもあるが故に、いかなる事柄に転用してもなんら不思議ではないのである。

ないのである。

 

「戯れもここまでにしよう」

 

右手にアサルトライフル、左手にハンドガンを携え、集団に向けて突進。混乱から抜け出せない敵が次々と、彼女の放つ凶弾により地へと伏す。

 

「たかが一人とダンボールに...!」

 

「私はその『たかが』だろうが、ダンボールを侮辱したことについては訂正してもらおう」

 

「がはぁ!?」

 

冷静に戦闘を進めていたサオリにしては怒気のはらんだ声音。

繰り出された蹴りにも、手加減は感じられない。

それもそのはず、敵は彼女の地雷を踏んだのだ。

サオリにとっての地雷は四つ。結構あるねとはアツコ談。

一つ目は家族に悪意が向くこと。

二つ目は恩人である先生に危害が及ぶこと。

三つ目は恩師であるセンを侮辱されること。

そして四つ目は、ダンボールを馬鹿にされること。

今回の件で、三つ目を除く項目が達成されているので、彼女の怒りは最もだ。

嫌なディシジョン・スタートである。

 

「そして、私一人に躍起になるのも関心しないな」

 

「なに...ぴぎゅ!?」

 

彼方からのライフル弾が、サオリと対峙する兵士の頭を撃ち弾く。

その発砲を皮切りに、周囲を爆発が支配した。

 

「くふふ、真打ち登場ってね!ハルカちゃん、カヨコっち、死角の敵はアルちゃんが狩ってくれるから、こっちは存分に暴れるよ〜!」

 

「りょ、了解!」

 

「了解」

 

便利屋68、参戦。

テンポの良いアルの狙撃が作り出す場の空気に身を任せ、地上部隊のムツキ、ハルカ、カヨコの三人は爆破で弱った敵を的確に戦闘不能へと追い込む。

 

「流石だな」

 

「そっちもねっ。アルちゃん、そっちから見た感じどう?」

 

『カイザーはもう統率が取れてないわね。指揮官は他と違う装備をした部下数人でサンクトゥムタワーの内部へ侵入していったわ。ゼロ、こっちはもう直ぐ片付くけれど』

 

『了解した。おまえ達に勝てないと見るや否や、標的を俺の首に切り替えたのだろう。終わりは近いな。A1、B1は戦闘を続行。相手の継戦能力が無くなるまでその力を奮え』

 

『わかったわ』

 

「了解」

 

『A1、先ほどの戦い見事だった。僅か数週間で俺の考案したダンボール殺法をモノにするとは』

 

「これもひとえに、ゼロの指導のおかげだ。仕事や生活のことのみならず、教育まで施されては私も腕を振るう甲斐があるというもの」

 

人はこれを教育ではなく、洗脳と呼ぶ。

 

『B1のチームワークも流石だ。今後とも贔屓にさせてもらおう』

 

『ふ、ふふん。アドバイザーには多大な恩があるから、どんどん頼ってほしいわ!』

 

「ねえねえ、それならさっきサオリっちがやってたダンボール殺法?ってやつ今度教えて〜!なんだかすごい面白そうだし!」

 

『利用者が増えるのはこちらとしてもウェルカムだ。時間はこの事態が収まった後に作ろう』

 

そうして通信は切られた。

 

「...ムツキ、あまり変なことに首を突っ込まないように」

 

「え〜?なんだか面白そうだったし、話だけでも〜」

 

「面白いのベクトルが狂人寄りだから...」

 

身内にダンボール狂信者がいるなんて、考えただけでもゾッとする。

苦労人ポジションである自分はさぞ胃痛に悩まされることだろうと、未来を見据えてムツキの好奇心の抑制にあたった。

 

「ハルカちゃんも聞きたいよねっ」

 

「は、はい...この前事務所にセンさんがいらした際、ダンボールコンポストなるものを教えてもらいまして...それで作った肥料を使って以降、雑草の育ちが非常に良くて...良ければ他の方法も教えていただきたいです...」

 

「既に侵食が始まってる...」

 

課長は頭を抱えた。

依頼主である高城センという少年、悪い人ではないのだがいかんせん常人と発想がかけ離れているというか、願わくばカヨコにとってはあまり近づきたくないというのが正直なところ。

ただ、社長の腕を見込んで懇意にしていること、こちらの仕事を正当に評価してくれるのは、今までいなかった顧客なため逃すのは今後の経営の損失に関わる。

 

「...はあ。今度、話だけでも聞きに行こうか」

 

ため息は吐くものの、恩を無碍にするのは気が引ける。染まらない範疇で交流を重ねていこうと、便利屋68課長、鬼方カヨコは展望を見つめた。

 

 

 

********************

 

 

 

「ジェネラル、シャーレの部隊も全滅したとの報告が...」

 

どうしてこうなった。

サンクトゥムタワーの階段を駆け上がる最中、己の行いを振り返り、どこで何を間違ったのかを自答するジェネラルの耳に入るのは、どれもこれも悲報であった。

地上で指揮をしていた部隊は便利屋とダンボールを扱う変な奴により壊滅、先んじて中へ送り込んだ部隊からの連絡は途絶え、今し方シャーレの方でも作戦は失敗に終わったとの通達が入った。

 

「クソ...!向こうで一体何が...」

 

「それが、ヴァルキューレの公安局と生活安全局が押し入ってきたと...」

 

「ヴァルキューレだと!?馬鹿な、奴らは防衛室長の権限で介入を抑制されている筈...まさか我々が彼女を裏切るのを見越して...!?」

 

そこまで思案して、否と首を振る。

数刻前、不意打ちで無力化した不知火カヤの表情は動揺と困惑の色に染まっていた。そうなることを見越して行動を起こせるほど、アレは予測できない。

そもそも、カヤとの手を切ったのは状況が変わったからであって事前に練られていた計画という訳でもなかった。

自分も予期しなかった、何か別の力が働いている。その何かとは、

 

「奴か...!」

 

散々こちらを嘲笑ってきた、声の主。

降って湧いたイレギュラー、現在進行形で悩みの種であり人生においての怨敵ランキングトップへのノミネート間違いなしな、あの男。

 

(ダンボールと傭兵のせいでカイザーSOFの残りは半数、シャーレで許可した黒服のブツも失敗に終わったと見ていいだろう...)

 

旗色は絶望的、残された手段も直接首領の首を刈り取ることしかなくなった。

ここまで追い詰められれば普通は撤退を考えるだろうが、本案件はカイザーの今後を左右する大規模作戦。後退など、開始当初から選択肢より外されている。

尤も、ジェネラルは敗走などするつもりはない。

全てはカイザーの未来のため、そして声の主を叩きのめすため。

故に、こうして登りたくもない長い長い階段を駆け上がっているのだ。

 

(精々首を長くして待つがいい。貴様の傲岸不遜な余裕と笑み、この私自ら打ち崩してくれる...!)

 

ジェネラルは疑わない。

カイザーの勝利を。

ジェネラルは気づかない。

敵の抵抗の一切が途絶えたことを。

ジェネラルは分からない。

 

 

 

自身と敵との間に、埋めようの無い明確な格の違いがあることを。

 

 

 

辿り着いた、首領がいると思わしき部屋。

乱雑なドアの解放音、何段もの階段を駆け上がってきた男たちの荒い呼吸、それらに反応して、最奥の椅子に腰掛けていた人物は振り返らないまま歓迎の言葉をジェネラル達に贈った。

 

「ご苦労。随分と疲れているようだが、まさか階段で上がってきたのか?エレベーターという画期的な文明の力をご存知でない?」

 

歓迎と呼ぶには、棘が千本立っているが。

 

「ま、使用したなら吊るしてるコードをぶった斬ってフリーフォールに招待していたわけだが。敵陣で易々とエレベーターを使うような愚者でなかったことに先ずは拍手でもしてやろう」

 

パチパチパチ。

褒める気は更々ないだろう乾いた手拍子が三回、室内に響く。

疲労と怒りに震えるカイザー兵たちだが、部屋にいるのは椅子に座す男と、

 

「───」

 

秘書官のように、男の隣で敵へ睨みを効かせる行政官の二人だけなことに気づく。

まだ戦力は残っている筈、どこかに隠れているのか、と気配を探るがセンサーには引っかからない。

 

「...ククク、どうやらアテが外れたようだな」

 

「ん?」

 

「タワー内部の戦力をこちらの迎撃に回していたようだが、入れ違いが発生していたらしい。こうも容易に貴様の元へと辿り着けるとは思ってもみなかった」

 

「「───」」

 

あいつは何を言っているんだ?さぁ?目配せだけで会話をする二人に気づかず、ジェネラルは続けて捲し立てた。

 

「確かに我々は甚大な痛手を被った。しかし、優先されるべきは結果。どれだけの犠牲を払おうと、敵将の首を討ち取りさえすれば即逆転となる。貴様は、最後の最後に一手を見誤ったのだよ」

 

「自身の失態を棚に上げてよくもそんな戯言を吐かせるな。戦力の半数以上を失った時点で、貴様は指揮官として敗北している。短期決戦も成し得ず、おまけに兵士を無駄に消費しての大敗だ。キヴォトスの長い歴史を振り返っても、ここまで愚鈍で愚劣な指揮官はいなかっただろう。そう考えると、貴様は類を見ない稀有な事例だったワケだ」

 

「なんとでも言うがいい。この状況をよく見ろ、王手だ。連邦生徒会の敗北だ。少数でよく粘ったと言っておこう。しかし、所詮は子供。詰めを怠った自分自身を一生悔いるのだな」

 

「王手と言うには早計だろう。それは無防備となった敵将に銃を構えた時点で言ってもらおうか」

 

「では、御所望通り構えさせてもら「時に」...ん?」

 

「なぜ、こちらの抵抗が急に止んだのか不思議に思わないのか?」

 

「話を長引かせるつもりは」

 

「なぜ簡単にここまで来れたのか、なぜ道中なんの障害もなかったのか、なぜ───俺の指揮する部隊が、タワーに入る貴様らを見逃したのか」

 

「...は?」

 

「少し考えればわかることだ。貴様らは追い詰めたのではない」

 

ただ、俺に誘導されていたんだ。

 

椅子が180°回転し、男の顔が明らかになる。

黒髪に、切長な目つきの、白い制服をピンと着こなした、高身長であろうその少年。

 

「...まさか」

 

そう、そのまさかだ。

不適な笑みで応える少年の顔に、ジェネラルは見覚えがあった。

 

「きさ、ま...二年前の!?」

 

忘れもしない、自らがジェネラルとなるキッカケとなった一件にて、事の終盤に至るまで抵抗と妨害をやめなかった、連邦生徒会メンバーの一人。

 

「馬鹿な!貴様はあの時に仕留めた筈!?」

 

「標的の安否確認は確実に行うのが常識だろう。貴様はそれを怠った。その失態が、今日の敗北につながっている」

 

「あり得ない...あの傷で、逃走を許しはしたが存命とは...!」

 

「運良く百鬼夜行の顔馴染みの元まで行き着いた。多いに反吐は吐かれたがな」

 

生徒会を辞し、ヴァルキューレも退学し、家は次々に爆破され精神状態が参っていた際にあったカイザーの襲撃。そこから逃げ延び、百鬼夜行へと一時的に身を隠した。

手当てを受けた後に礼も言わず姿を消したことについて、会議に参加する前に各方面へ行った電話の中で協力者から小言を溢された。

電話越しでも分かるくらいゴロゴロと唸ってもいた。恐らく怒っている。とてつもなく怒っている。今度直接会って、再度感謝と謝罪をしなければ。

 

「...ク、ククク。貴様の生存には驚いたが、それだけだ。こちらの勝利に変わりはない!」

 

「この期に及んでまだ敗北を認められないとは、愚かな」

 

「その言葉そっくりそのままお返ししよう!丸腰で挑発とはなッ!」

 

「丸腰?いいや武器ならあるぞ。俺と最近出会った奴なら、知っている武器がな」

 

二桁に上る銃口が向けられる。

対して、センはモーションを起こさない。

 

「射ェ!」

 

防御指示は、彼らが部屋に入ってきた際に済ませてある。

発砲の直前、センとアオイを守る薄壁が展開され、殺到する弾丸達をいとも容易く防いでみせた。

弾切れを起こすまで弾は吐き出されるが、その間鉄壁...いや、ダンボールゆえに紙壁と言うべきか。ソレは一発の貫通も許すことなく、全てを受け止め、ジェネラル達の顔色を驚愕へと変貌させる。

 

「ば、馬鹿な...なんなんだそれは!?」

 

「にわかめ、ここに来るまで俺の弟子が披露していただろう。ダンボールだ」

 

「先ほどからいい加減にしろ!ダンボールにこんな芸当が出来るわけないだろうが!!」

 

それは本当にそう。

内心でジェネラルに同調して頷くアオイ。

 

「目の前の事実を正当に感受しろ。貴様に足りない一つがそれだ」

 

「いや、だっておかしいだろう!?ただの薄っぺらい紙切れが銃弾を防ぐだなんてどうかしている!」

 

うんうん。

事実を陳列するジェネラルに、再度首肯するアオイ。

こんな有様を受け入れろだなんて味方サイドの自分ですら拒否したいのだから、敵である彼らの困惑は計り知れない。

 

「ダンボールはキヴォトスにて最強...覚えておけ」

 

最強かは知らないが、こんな強烈にインパクトのある事象を目の当たりにしてしまえば、今後一生忘れることはできないだろう。

 

「...だが、防ぐだけでは我々をどうすることもできん!それに如何に強固とはいえ限界はある!このまま攻撃を続ければ、敗北するのは貴様だ!」

 

「違うな、間違っているぞ」

 

「なに!?」

 

「一体いつ、俺の方から攻撃しないと言った?」

 

展開していたダンボールが倒れ、センが背にしていた窓のカーテンが解放された。

それと同時に、SRTの紋章が刻印された戦闘用ヘリがけたたましい羽の音を響かせてタワーの外に登場。

 

「なあ!?」

 

「「やああああッッ!!」」

 

日差しと共に窓へと飛び込んでくる、二つの影。

窓ガラスを蹴破ると共に、影───ミヤコとサキの二人は自身のリーダーであるセンに銃を構える一団へと飛び蹴りをかます。

 

「のがあ!?」

 

「へぶ!?」

 

「ヘッドRABBITへの無礼は許しません!」

 

「無事か、セン!?」

 

「ああ、ジャストタイミングだ」

 

それぞれ一人を無力化したのと同時に、すぐさま次の攻撃へと転ずる短期決戦のスペシャリスト達。

予想だにしない部隊の介入により、カイザーの兵士たちの動きはチグハグで、冷静さが取り柄のジェネラルもこれには対応ができず、ジリ貧に戦力を消耗させるだけだ。

 

「こ、の...!」

 

「敵リーダー捕捉、RABBIT4!」

 

ダンッ!!

 

「がはぁ!?」

 

彼方からの狙撃。当然避けられるはずもなく、苦し紛れにハンドガンの照準を向けようとしていた右手が撃ち落とされる。

そうして出来た隙を見逃す、ミヤコではない。

痺れで満足に動かすことの困難な相手の右手と襟を掴み、

 

「やあ!」

 

「が...ッ」

 

背負い投げ。

勢いよく背中から打ち付けられたジェネラルは、小さく鳴いて沈黙。

その様を確認し、

 

「クリア!」

 

防衛戦の終幕と、敵勢力の打倒、そして連邦生徒会の勝利を告げる一言。

作戦の一部始終を見ていた学園代表者各位、カイザーの残存勢力、終わりを待っていた味方勢力、一番弟子の成長を直近に感じて笑みを浮かべるセンへと、高らかに宣した。

 

 




セン「ダンボールを使う」

アオイ「はい?」

ジェネラルが来るギリギリまでアオイは説得していたらしい。実際にダンボールの性能を目の当たりにして、宇宙猫になってたそうな。

そして皆さんの予想通り、百鬼夜行のお友達とは彼女です。

ご要望だった簡単な時系列を貼っておきます。

0歳:誕生
6〜11歳
・銃社会無くしたい。
12歳
・塾でノアと出会う。
13歳
・ヴァルキューレ入学、連邦生徒会入部
・カンナとバディに
・会長とのチェスで勝利(145戦目)
・アオイが好意を向けてくる
14歳
・事件解決に適任なハッカーを求め、ハレと出会う。
・百鬼夜行にてキキョウと出会い、互いの夢を語り合う友人に。
・キサキに接触。
15歳
・山海経でキサキと秘密裏に計画を練る。見習い時代のココナと出会う。
・アビドスに投資の話を持っていったらホシノに追い返された。
・雷帝問題解決、その際にゲヘナ上層部から認知され、おもしれー女のアルを気に入る。
・レッドウィンターや各学園に意見書を提出。

・会長&リンちゃ出張、センくんワンオペ。
・クッソ体調不良、徹夜三日目。
・当時の防衛室長とカイザーの癒着現場を目撃。
・単独で解決に挑み証拠を掴むもカヤに出し抜かれる。
・失態を恥じ、連邦生徒会を自主退部。ヴァルキューレを自主退学。
・帰宅と同時に家が爆発。
・カイザーに追われ、逃げ延びるも重傷を負う。
・百鬼夜行でキキョウに再会し、暫く身を隠す。
・黙ってキキョウの元をあとにする。
・目的もなく放浪。

16歳
・その日、彼は神に出会う。



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