ワイ『ダンボールは万の事に使いけり』 ミヤコ『流石です師匠』   作:\コメット/

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RABIIT小隊SS増えろうおおおおお

誤字報告と誤解釈への指摘、感謝です。




02 つまり、戦力の逐次投入は愚策である。

 

 

『こちらキャンプRABBIT、各位応答してー』

 

「こちらRABBIT1、現在時刻は1000。RABBIT2と共に所定配置につきました」

 

『ら、RABBIT4、狙撃ポイントに到着』

 

あっという間に、その日はやってきた。

SRT特殊学園の存亡を賭けた、RABBIT小隊によるデモ活動。

 

『各位、GPS反応確認。計器類共に異常無し』

 

「了解。これより指揮系統を、ヘッドRABBITへ譲渡します」

 

『ヘッドRABBIT、了解した』

 

「...どうしてこうなった」

 

本来RABBIT小隊は四人。隊長のミヤコ、ポイントマンのサキ、スナイパーのミユ、そしてオペレーターのモエ。

そこに一人、部外者が加わるという思わぬ事態に、RABBIT2は頭を抱えた。

 

『RABBIT2、文句があるなら作戦決行前に聞いておくが?』

 

「大有りだバカ」

 

通信の向こうで足を組み踏ん反り返っているであろう高城センの姿を想像しながら、素直に罵倒するサキ。

 

「私たちはSRTだぞ?経験が少ないことに自覚はあるが、それでもおまえよりも思考は戦いに秀でている。ただのホームレスが作戦指揮を取るなんて愚策も愚策だ。RABBIT1、正気か?」

 

「私は常に正気です。それと、ヘッドRABBITへの無礼はこれ以上控えるように」

 

「...本当にどうしたんだ、RABBIT1。こんなものは博打にもならない。後がない私たちに、失敗は許されないんだぞ」

 

あの日、少年と出会した日の夜のこと。

三人が就寝してから何を吹き込まれたのかは知らないが、翌朝になるとそこにはセンとダンボールを猛リスペクトする小隊長の姿があった。

師匠師匠と、学園では上官にも見せなかった懐き具合。洗脳されたのでは、と疑うほどの変わりように他三人は呆然とした。

それだけならまだ、まだ良かった。

デモ決行日となった今日、あろうことか指揮をセンに委ねると判断したのだ。

 

「今ならまだ間に合う、おまえが指揮を取れ。前言った通り、形式は無くとも今の隊長はおまえなんだ。納得いかない命令じゃない限り、私も動く。だから」

 

「───では、私からあなたへお願いです。RABBIT2」

 

ヘッドセットのウサ耳を揺らし、キリッとした表情を浮かべるミヤコがサキを見る。

 

「信じてください。あの人を」

 

「...っ!?」

 

「RABBIT4、及びキャンプRABBIT、聞こえているでしょうか?あなた方にも私から頼みます。SRTを取り戻すには、ヘッドRABBITの力が必ず必要です。これは賭けではありません。成すべくして成る事実へと繋がる行動なのです」

 

不審も分かる。疑いの念も分かる。

だが、今は信じて欲しい。

確かに、センはクズでケチで変なところでプライドを発揮する恥ずべきホームレスだ。生き恥の擬人化とは、まさしく彼のことを言うのだろう。

しかし、彼には力があり、ミヤコを納得させるだけの実力もあった。

 

出会った日の夜、それを知った。故に少女は少年を師事したのだ。

 

『...私は、それが学園の存続に繋がるなら従います...』

 

「RABBIT4!?」

 

『いいじゃんいいじゃん。最初の方だけ任せてみようよ。ダメだったら切り替えればいいしさ』

 

「キャンプRABBITまで...!」

 

『RABBIT2、おまえが俺に抱く不審も不安も、理解している。それを踏まえて、どうか信じてもらえないだろうか。失敗したなら、俺を直ぐに見捨てろ。戦犯として敵に突き出しても構わない』

 

どこからその自信がくるのか。

どうして、そう易々と自身の命運を天秤に掛けれるのか。

教範に載っていないことばかりで、サキには理解できない。なぜなら彼女は生粋のマニュアル人間だから。

 

「.........ああもうっ、わかったよ五月蝿いなぁ!信じればいいんだろう!?」

 

だから、今は理解を放棄する。

後についてきた結果に全てを委ねようと、サキは腹を括った。

 

「さっさと指示を飛ばせ、ヘッドRABBIT!」

 

『───ふっ、いいだろう』

 

傲岸不遜。

その態度を裏付けする実力を、彼は今ここで発揮する。

 

『RABBIT1、号令は任せる』

 

「了解。これより、オペレーション『リゲイン』を───我々の明日を取り戻す、抵抗を開始します」

 

賽は、投げられた。

 

 

 

********************

 

 

 

『私達は連邦生徒会に抗議します。我らが母校、SRT特殊学園の閉鎖。これを断固として拒否し、閉校の取り消しを求めます。交渉の席が用意されるまで、私達は抵抗を辞めません。繰り返します...』

 

ヴァルキューレ警備局から連邦生徒会本部へと届いた、一つの映像。

隊の象徴であるウサ耳のヘッドセットと、相応の武装をした銀髪の少女が何やら叫んでいる様子だ。

 

SRT特殊学園

 

Special Response Team

 

文字通り特殊な任務を与えられる組織に属していた彼女達。

その居場所を奪えば、このような抵抗が起こると事前に想像はできていた。

すぐさま配備されていた部隊が送られ、事態の鎮圧を計ったのだが...。

 

「せんぱ...行政官、よろしいでしょうか。緊急の案件でして」

 

調停室長、岩櫃アユムが行政官である七神リンのいる部屋の戸を叩く。

 

「なんですか」

 

「えっと、SRT特殊学園の撤去についてなのですが......一部の生徒たちが反発し、公園を占拠してデモを始めたとかで......」

 

「それでしたら、事前に配備していた部隊がいたでしょう。彼らを向かわせてください」

 

「その部隊なのですが、その...先ほど、壊滅したとの報告が」

 

「...壊滅?」

 

子供の駄々に付き合っている暇など無い、と軽く遇らう筈が、まさかの返答に目を丸くするリン。

すぐさま表情を取り繕い、指示を出す。

 

「でしたら、ヴァルキューレの警備局へ連絡を」

 

「りょ、了解しました...!」

 

事前情報では、一年生の四人が抗議の旗を振りかざしているという。

人数差はあれど、やはりSRTの生徒。舐めすぎたか。

 

(しかし、いくらなんでも警備局を相手取ることは不可能でしょう)

 

そうたかを括り、リンは滞納した仕事を絶賛片付中のシャーレの先生のサポートへと戻った。

 

それが、誤った判断と知らず。

 

 

 

********************

 

 

 

聳える壁、弾丸を通さず、人すら通さない固き壁。

それらが子ウサギ公園の四方八方に展開され、連邦生徒会の手による者たちの侵入を阻む。

 

「じゅ、銃弾が効かない!?馬鹿な!」

 

「こんな鉄の壁、どうやって用意し...ぐわぁ!?」

 

あまりの鉄壁に驚愕する彼女達を、RABBIT小隊は自前の銃とドローンを使い、最小限の弾数で無力化していく。

 

『にわかめ。鉄ではない、ダンボールだ』

 

中枢を守るべく取り囲む壁の正体は、何層にも重ねられ防御壁の役割を果たす単なる厚紙。

センが長い月日をかけてストックし続けていた物を、この度防衛のために解放したのだ。

効果はご覧の通り。未だに敵の侵入を一人たりとも許していない。

 

「こちらRABBIT1、制圧完了しました」

 

「RABBIT2、同じく敵勢力の制圧、完了した」

 

『結構。おまえ達、ようやく身体が温まってきたころか?』

 

「まだまだ緩過ぎます」

 

「ああ。それに、これくらいの戦力を相手取るなら別に指示はなくとも...」

 

『違うな、間違っているぞRABBIT2』

 

「何がだ」

 

『確かに、おまえ達のスペックなら奴らを圧倒するのは容易い。だが、それには武装を使い過ぎる。もしものイレギュラーが起こった時、対応するための銃弾が無ければ流石のおまえ達も無力だ』

 

「...確かにな」

 

『俺が欲しいのは手札を全て見せ死力を尽くした完封勝利ではない。余力と弾数を抑えた貫禄あるノーヒットノーランだ』

 

完全試合はいらない。いざという時には四球を出すことも考慮しなければならないからだ。そして、四死球は想定の範囲内に収めればいいだけの話。

 

『ヘッドRABBIT、敵本部の方で動きー。増員が来たよ。ヴァルキューレの警備局かなありゃ』

 

『他には』

 

『無し。周辺の索敵ドローンで見たけど、そんだけ』

 

『戦力の逐次投入とは、馬鹿め。最も愚かな手を打ったな』

 

連邦生徒会側はこちらを質ではなく数で判断し、戦力を送ってくることは予想していた。

それに反して大量に、警備局だけではなく公安局まで引っ張り出され、数で押されたらまだ分からなかったが、心配は杞憂に終わったようだ。

 

『相変わらずだな行政官。そうやって物事を最小限に抑えようとするから、手痛い返しを食らうことになる。RABBIT4、ポイントαからcへ移動しろ』

 

『了解...!』

 

『RABBIT1、RABBIT2は前線を押し上げろ。合流して敵を迎え撃ち、RABBIT4のいるポイントcまで誘導しろ』

 

「「了解」」

 

『キャンプRABBIT、迎撃用ドローンを出せ。数は5基でいい』

 

『オッケー』

 

今の流れはこちらにある。

有能な指揮官が向こうにいない以上、暫く作戦は突撃一辺倒になる筈。こちらの反撃は効いているだろうが、数は未だ敵の方が上。油断も慢心も透けて見える。

そこを突く。

受ける必要はない。攻めて攻めて攻めまくり、出鼻を挫いて押し通る。

 

『RABBIT1、RABBIT2、30m前方に敵影。数は7。見える?』

 

「サーマルカメラで捕捉した。迎撃するぞ」

 

「こちらも確認。対応します」

 

木々で隠れて目視では見えないが、熱源で対象を判別するサーマルカメラがあれば障害物を貫通して相手を探知できる。

向こうからすれば視線も射線も通らないが、こちらからはほぼ丸見えだ。

 

(いくぞ)

 

(はい)

 

ハンドシグナルで連携を取り、一斉に発砲。

 

「いだっ!?」

 

「なっ、どこから撃って...ぐぅ!?」

 

「今だ、キャンプRABBIT!」

 

『りょーかい!』

 

常に先手を取れ。

頭上からはドローンでの追撃。天と地で連携を行い、確実に相手を仕留める。

 

『(簡単にやっているが、流石SRTの生徒。一つ一つの動作に無駄が少ない)』

 

指示を即座に理解し、ダイレクトに実行に移す。

ロス無く熟す少女達の手腕に、センは惚れ惚れした。

 

「RABBIT4、狙撃を!」

 

タンッ!

 

「ぐあぁ!?」

 

『う、撃てそうなので撃っちゃいました』

 

「上出来だ。このまま制圧する!」

 

『RABBIT1、RABBIT2、敵増援を確認。こっちの騒ぎに気づいて戦力を集中させてきたよ』

 

『単純な奴らめ。打ち方やめ、二手に別れて後退。RABBIT1はポイントj、RABBIT2はポイントoへそれぞれ誘き寄せろ』

 

「「了解」」

 

『RABBIT4、見える範囲でいい。狙撃で数を減らせ。敵が確認できなくなったらポイントbへ移動しろ』

 

『了解...っ』

 

『へぇ』

 

リロード音の後、すぐさま発砲音が響いた。また一人、敵を無力化したのだろう。

押す時に押す、引く時に引く。

緩急の使い方が上手いと、モエは隣で皆に指示を送るセンに対し、心の中で感嘆の声を漏らした。

 

『キャンプRABBIT、敵本部の動きはどうなっている?』

 

『今のところ、目立った動きは無いねー。逐一警備局の生徒を送り込んできてるぐらい。戦力を四方に分散して...ってのも、確認できない』

 

『フッ、奴ら未だに数で優っているからと慢心しているらしい。その油断が命取りだと、骨の髄まで教えてやれ』

 

「「『了解!』」」

 

その後も五人は、どんどん敵を無力化していく。

誘き寄せた先で固定兵器の集中砲火を食らわせ、見晴らしのいい場所に出ればミユの射線が通る。精確無比な狙撃は的確に相手の攻めっ気を絶っていく。

流石にマズイと思ったところで、もう遅い。

こちらに一切の手傷を負わせることが出来ず、警備局の戦力は、制圧するつもりが逆に制圧されてしまった。

 

「敵勢力、撤退していきます。追撃は?」

 

『二人は一度補給を挟め。RABBIT4、今いる位置から撤退する警備局の姿が見えるな?RABBIT1とRABBIT2の補給が終わるまでドローンと共に警戒にあたれ。可能であれば撃て』

 

タァンッ!

 

『了解...です...私、役に立ててますか?』

 

『無論だ。おまえは小隊の要だ。そのまま励め』

 

『は、はい...!』

 

 

 

********************

 

 

 

連邦生徒会の配備部隊、ヴァルキューレ警備局とを続けて打破したミヤコは、補給のために作戦本部───公園中央のテントへ戻る。

実力差はあれど連戦は連戦。油断のできない状況から一度解放され、思考の猶予が生まれた。

 

(やはり師匠、あなたは素晴らしい)

 

最低限の消費で、最大の結果をもたらす手腕を体感して、改めてそう思った。

思い出されるは、出会った夜の出来事。ダンボール教の教祖こと、師匠との会話。

 

 

 

『月雪、この世に無駄な物はない。俺も最近になって気づいたことだが、森羅万象何事も必ず、存在する意味、役割が備わっている』

 

これもそうだ。

そう言って取り出された、ダンボール。

 

『先ほどおまえは、これを作戦に活かせないかと考えた。良い着眼点だ。実際それは正しい』

 

『はい。私達がやること、それは籠城戦です。そのためには壁...バリケードが必須になります。本来であれば土を詰めた袋を重ねて形成しますが、それには時間と労力がかかると思い、こちらのダンボールは丁度いいと踏みまして』

 

軽量且つ頑丈なこの厚紙を活かせば、より広範囲への防壁の展開が可能となる。

 

『ああ。しかし戦いは恐らく長引くだろう。通常のダンボールでは劣化、継戦能力に不安がある。よって、使うならこっちだ』

 

用意されたのは、蓋の中央が開いたダンボール箱。ただ、硬さは今まで触れてきた厚紙を軽く凌駕する。

 

『これは...?』

 

『バナナ箱だ。文字通り、バナナを入れるのに使う箱だが、通常のものより強度が高く、衝撃に強い。貯蓄はあるから好きなだけ使え』

 

『ありがとうございます』

 

『壁以外に、まだまだ用途はある。頭に叩き込み、実行しろ。おまえにはそれができる』

 

『はい』

 

最初はなんて頼りない人だろうと、疑いの目でかかっていた。

しかし、話を聞いているうちにそれは晴れ、気づけば夢中になって彼の声に耳を傾けていたミヤコ。

授業が終わる頃にはすっかり頭ダンボールに洗脳され、尊敬を込めて師匠と呼ぶまでに至る。

 

 

 

「あいつ、やるな」

 

それは、サキも同じだった。

 

「はい。師匠はすごいです」

 

レーションでの栄養補給をこなしつつ、本部テントのある場所へ目を向けるRABBIT2に、同意の頷きをするRABBIT1。

 

「...認めるのは癪だが、効率の良いこのやり方には賞賛しかない。SRTから持ち寄った武装は、まだ9割も残っている...あいつ、一体何者だ?ただのホームレスが、ここまで戦術を理解しているなんてあり得ないぞ」

 

おまえは知っているんじゃないか?と小隊長へと視線を向ける。

あの日の夜、センの過去について何かしら聞いているのではと睨んだのだ。

 

「いえ、私が聞いたのはダンボールの素晴らしさと、森羅万象全てに意味を見出す教えのみです」

 

「もっと聞くことあっただろ。何してんだ」

 

「...言われてみれば」

 

「ミヤコおまえ、あいつと接するようになって阿呆になったんじゃないか...?」

 

気に入らない同僚でも、心配なものは心配だ。

それが自身を抑えてリーダーを張っている存在なら、尚更。

 

「師匠が何者か、それはわかりませんが信頼はできます。信用も、もちろん尊敬も。現に私たちは彼のおかげでヴァルキューレを圧倒しています。それも力を最大限に温存して。今は、目の前のことに集中しましょう」

 

「まぁ、そうだな」

 

『RABBIT1、RABBIT2。こちらヘッドRABBIT、聞こえるか?』

 

話が終わるのを見計らったように、彼からの通信が入る。

 

「はい、こちらRABBIT1。感度良好です」

 

「同じくRABBIT2、聞こえている」

 

『追加戦力、公安局のお出ましだ』

 

ヴァルキューレ警察学校の公安局。

対テロ業務に特化した生徒達であり、言うなればヴァルキューレのエリート生の集い。

連邦生徒会はようやく、事の重大さに気づいたらしい。

遅過ぎるが。

 

『やることは変わらん。多少動きを修正する必要はあるがな』

 

「なんだ、私達が公安局如きに遅れをとるとでも?」

 

『誰もそんな心配はしていない。おまえ達、余力は十分あるだろう?ここからはギアを一つ上げてみろ。腑抜けて腐った公安局に、目にもの見せてやれ。弾薬の制限もある程度解除する』

 

『え、マジ!?じゃあ滅茶苦茶に撃っていいよね!?』

 

『キャンプRABBIT、何も無駄撃ちをしろとは言っていない。俺は高火力で確実に敵を仕留めろと言っている。公安局を潰せば、連邦生徒会とヴァルキューレの面子は丸潰れだからな』

 

ことが運ぶスピードが早過ぎるのが原因か、あまり自覚は無い。だが、ここが正念場らしい。

 

『大盤振る舞いだ。兵装消費を7、いや6割まで許す』

 

「了解。敵の現在位置をお願いします」

 

弟子であるミヤコの元に、ホログラム型の位置データが転送される。

数回のやり取りののち、一度通信は切れた。

 

「行きましょう、サキ。プラン『フォール』です」

 

「あれか...了解」

 

これもセンの考案した作戦。

打ち合わせ、ミーティングの時のことを思い出し、二人は新たな敵兵の元へと向かう。

 

 

 

 

「...なんだ、懐かしい顔がいるじゃないか」

 

本部にて、センは到着した公安局の戦力に目を向ける。

その中に一人、見知った人物がいるのが見えた。

金色の狼、と例えれば伝わるだろうか。

切れ長の目つき、鋭い歯、ドローンの映像越しでもわかるほどの威圧感には、心当たりしかない。

 

「どしたんヘッド」

 

「いやなに、知り合いがいると思ったら気のせいだっただけだ」

 

「公安局とホームレスに接点なんてあるわけないし、そらそーだろうね」

 

「ナチュラルに失礼な奴だなおまえ」

 

「くひひ、また私らしいって言ってくれてもいいんだぜ?」

 

「もう煽てるのはお終いだ。それより、地形データを送ってくれ。最終確認だ」

 

「りょ」

 

カタカタカタ、とキーボードが素早く叩かれ、少年のデスクに公園のデータが表示される。

 

「さて、どちらの正義に軍配が上がるか」

 

勝負といこう、尾刃先輩。

 

尤も、勝ちは決まったようなものだがなと、難しい顔をする狂犬の姿を見て彼は口角を上げた。

 

 

 

********************

 

 

 

ヴァルキューレ警察学校公安局局長、尾刃カンナが現場に到着した頃には、既に戦地は混沌としていた。

状況を確認すると、公園に入ることができずに各個撃破され、全滅させられたという。

 

「くそっ、相手戦力は片手で足りるほどではなかったのか...なんだってここまで被害が...」

 

思わぬ面倒毎に、尋問のスペシャリスト『狂犬』として恐れられる彼女も頭を抱えたいのが現状だ。

 

「アルファ分隊、SRTの生徒と交戦開始!ベータ分隊、チャーリー分隊は手薄な箇所からの潜入を開始しました!迎撃用ドローンが複数存在するそうです!」

 

「...了解した。ベータ、チャーリー分隊はそのまま前線を押し上げ、敵司令部へと迎え。アルファ分隊は確実に相手を撃破しろ。どれだけ相手が強かろうと、一角さえ崩せば戦況は変わる」

 

 

 

 

 

 

「敵、戦力を分散してきた。二十人規模の分隊三つ、正面と左右から行進開始」

 

「漸くそれらしい戦術を使ってきたな。配備していたドローンを起動。RABBIT1は正面を、RABBIT2は右翼、RABBIT4は左翼から来る敵にそれぞれ対応しろ。数合わせにドローンを向かわせる、上手く使え」

 

『『『了解』』』

 

 

 

 

 

 

「ベータ、チャーリー分隊もRABBIT小隊生徒と交戦開始!こちらの動きに合わせて、配置を変えてきました!」

 

「対応が早い...厄介な指揮官がいるな」

 

小隊長の月雪ミヤコ、オペレーターの風倉モエの判断か。だとしたら早急な指示に舌を巻くところだが、どうも何か引っかかる。

 

(実戦経験の少ない奴らにしては、動きが早過ぎる...?)

 

無論、どちらもSRT特殊学園の生徒。練度はこちらの比では無いにしろ、それにしては対応が俊敏だ。

しかし、戦力を分散させるとは。それに合わせてドローンを使っているとはいえ、舐められたものだとカンナは舌打ちを噛み殺す。

 

「分隊各位、相手するのは一人ずつだ!数と火力で押し込め!」

 

「局長、バリケードが固すぎて突破が困難との報告が...!」

 

「くっ、手榴弾を使えれば...!」

 

 

 

 

 

 

「使えないだろうな、爆弾の類は」

 

「なして?」

 

「お堅いヴァルキューレ公安局様は、対テロ業務に特化した部隊。戦闘力は警備局の比ではない。とはいえ、彼女らの敵はテロやデモを企てる者達だけではないんだ」

 

わかるか?という質問に、モエは即答する。

 

「あー市民の目、ね」

 

「That's right.手榴弾にプラスチック爆弾、これらは威力も高く優秀だ。堅い相手を崩すならば、積極的に使うべき代物だろう。だが、市民からの視線に常に晒されてきている公安局の面々は、それらを使うことはできない」

 

理由は単純、うるさいから。

 

市民の安全を守ることは、市民の安寧と生活を守ることに直結する。

守護する立場の公安局が、騒音で人々に迷惑をかけることなどあってはならない。でないと苦情が来るし、警察学校に対しての信用問題にもなる。

そんなもの突っぱねればいいだけの話だとセンは思うが、イメージを重視する今のヴァルキューレの特性上、それはできないと見ていい。

そして、こんな小規模なデモに対して人員は詰め込めても、火力は注ぎ込めない。

 

(尾刃先輩、過去のあなたなら躊躇なく使っていたはずだが...やはり飼い慣らされてしまっては、狂犬の名も堕ちたものだな)

 

その目と歯は飾りか?

腕を組み、公園外で指示を飛ばすカンナの姿を、ヘッドRABBITは憐れむように見つめる。

 

『こちらRABBIT2、相手戦力を予定通りの数まで減らした。これより誘導を開始する』

 

『ら、RABBIT4も誘導を開始します...』

 

「ヘッドRABBIT、了解。RABBIT1、首尾は?」

 

『上々以外の言葉、見つかりません』

 

「結構───ヴァルキューレ公安局、おまえ達が使えないのなら、代わりに我々が使ってやろう」

 

「盛大に?」

 

「ああ、ドカンとな。起爆は任せる」

 

「よしきた!」

 

「さて、余程の阿呆ならこの策に乗ってくるが」

 

 

 

 

 

 

「左右の敵、移動を開始!中央で合流する狙いかと!」

 

「ここで後退だと?」

 

戦力は拮抗している、とは言えない。

公安局側が押されているのが正直なところだろう。数をものともしない向こうの力量、流石はSRTと讃えるべきか。

そんな中、相手が選択したのは中央への守備固め。

 

「なにか裏があるな...。各隊、進行を停止!」

 

『そんな!?向こうは三人です!このまま押し切りましょう!』

 

「ダメだ!敵の思惑が分からない以上、深追いはやめろ!」

 

カンナの判断は正しい。

上層部からの圧力に屈しようと、彼女はセンが危惧する阿呆ではなかった。

だが、

 

『一人倒しさえすれば終わるんだ...!』

 

部下達は、どうやらその類だったらしい。

 

「...ッ!?何をやっている!止まれ!」

 

『きっと相手は弾切れなんです!ここで勝負を決めなければ!』

 

命令を無視し先陣を切った隊長に続いて、続々とヴァルキューレの生徒達は中央へと移動を開始する。

 

「と、止まってください、局長命令ですよ...っ!局長!」

 

「...くそっ」

 

 

 

 

 

 

「哀れだな、公安局。キャンプRABBIT、ドローン10基を自爆モードにして突っ込ませろ」

 

「了解っと!」

 

 

 

 

 

 

空から猛スピードで、連続するアラーム音を垂れ流しながらドローンが飛来する。

それらは公安局の生徒達のいる地面に落下すると同時に、轟音を立てて爆発した。

 

『うわああ!?』

 

『この...ッ!』

 

各所で計10回、爆煙が上がるのがカンナのいる場所からも確認できた。

 

「だから引けと言ったんだ...!」

 

回避できるミスのはずだった。

それなのに、今はこうして被害が拡大する一方。

 

『こちらアルファ分隊!敵三人の姿がどこにもありません!』

 

『これ、囮用のドローンじゃないか!まさか、今の自爆に乗じて...!?』

 

コケにしてくれる。

ギリリと、カンナは自身の犬歯を苦渋と共に噛み締めた。

そして、気づく。

 

(───今、部隊は全て一箇所に集められている)

 

躍起にさせるための自爆ドローン、突如消えた兎達のせいで、現場はパニック状態。

一先ず場を退くという選択肢が、自然と彼女達の頭からは消えていた。

局長であるカンナを除いて。

 

「マズイ、離れ───」

 

 

 

 

 

 

「これで、チェックだ」

 

「ファイアーッ!!」

 

 

 

 

 

ドゥンッッッ!!!

 

 

 

策士の確信、参謀の号令と共に、その爆発は起こった。

アルファからチャーリーまでの部隊は、公園外中央へと集められている。

センからすれば、一網打尽にしてくれと言っているようなもの。

 

「なぁっ!?」

 

直接ヴァルキューレを狙ったわけではない。

目的は、足場崩し。

突如爆発と同時に陥没した地面に足を取られ、空いた大穴の中で昏倒する公安局の生徒達。

 

「ぐ、うぅ...!?」

 

「なんで、いきなり地面が...!」

 

崩れた土の中には、爆弾の破片の他にダンボールが見受けられる。

恐らく、事前に準備していたのだろう。地面を掘り地形を変え、バレぬようカモフラージュのためにダンボールを敷き、その上から土を被せる。そしてここへ誘き寄せ、一気に殲滅するために最初から仕組まれていたのだ。

 

「あ、あのぉ...」

 

「...なん、だ?」

 

身動きの取れないヴァルキューレの面々を見下ろすように、大穴の上から見下ろす影。

RABBIT小隊RABBIT4、スナイパーの霞沢ミユだ。

彼女の手の中には、世にも恐ろしいものが大量に抱えられていた。

 

「う、恨まないで...くださいね...?」

 

 

 

それは、パンッパンに膨らんだ期限切れの缶詰だった。

 

 

 

「...よ、よせ、待って、やめろ!」

 

「えい......っ!」

 

「待っ...いやあああああ!!!???」

 

堕ちた衝撃により溢れ出す中身、瘴気、悪臭。

逃げる気力もない彼女達に、回避は到底不可能だった。

 

「フハハハハハハ!!ダンボール最強!」

 

ちょうど処分に困っていたんだよ、とはヘッドRABBIT談。

 

 

 

絶叫、断末魔、沈黙。

 

「ぜ、全部隊との通信、途絶しました...」

 

高く舞い上がった土煙を見て、呆然とヴァルキューレの作戦司令部は立ち尽くす。

 

「ご覧いただけてますでしょうか!?今し方、ヴァルキューレ公安局、全滅致しました!」

 

「警備局に続いて公安局まで...!ヴァルキューレ側に、何か手立ては残されているのでしょうか!?」

 

重苦しい空気を切り裂いて、クロノススクールのシノン、マイがトクダネを求め割って入ってくる。

二人が映すカメラには、現在のヴァルキューレの醜態がキヴォトス中に晒されてしまっていた。

 

「ええいっ、うるさい!あっちへ行ってろ!クロノスめ...相変わらずしゃあしゃあと...!」

 

ガルルッと威圧して追い払うカンナ。

しかし、認めたくないが彼女達の危惧する通りヴァルキューレにはもう打つ手がない。

人員はいるにはいるが、それも生活安全局という戦闘慣れしていない者達のみ。

 

(詰みか...ッ)

 

デモに屈する。

あってはならない状況に項垂れていたその時。

 

 

 

「こんにちは、お困りかな?」

 

 

 

ある青年の、声が響く。

 

 

 

********************

 

 

 

『こちらRABBIT1、プラン『フォール』の成功を確認。相手勢力の無力化、達成しました』

 

「よくやった。RABBIT2、RABBIT4は補給のために本部へ戻れ。RABBIT1、あとは予定通りだ」

 

『了解』

 

プラン『フォール』

敵を誘き寄せての落とし穴作戦は、無事に成功した。兵装の残りも7割と、節約もできている。

 

(大勢は決した)

 

連邦生徒会の配備部隊、ヴァルキューレ警備局、続いて公安局と、次から次に送り込まれる刺客を、完膚なきまでに叩きのめした。

 

(あとはイレギュラーさえなければ)

 

全てが上手くいっている。

このまま何事もなければこちらの勝利、チェックメイトだ。

 

「お?」

 

「どうした、キャンプRABBIT」

 

「公安局司令部の方で動き。なんだ?アレ。制服からするに生活安全局の生徒と...大人?」

 

「───ほう」

 

映像に映る、一人の青年。

黒縁メガネ、袖の余る連邦生徒会の制服を着込んだ、人畜無害そうに見える男。

見た目に反して、センの中では最大級の危険信号を発していた。

 

「RABBIT1、作戦変更。補給のために一度帰投しろ」

 

『了解。如何なされましたか?』

 

「いたんだよ。イレギュラーになり得る存在が」

 

ドローンのカメラ越しに、青年がこちらを見た。

そんな気がした。

 




ルルーシュ語録どころかやってることが殆どルルーシュなのは突っ込まないでください()

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