ワイ『ダンボールは万の事に使いけり』 ミヤコ『流石です師匠』 作:\コメット/
ついに、あの人登場。
世界の終わり。
学園都市キヴォトスに住む全ての住民にそれを予感させる、頭上の空模様。
赤い。見慣れていた青空は侵食され、かつての色を思い出せないほどに赤黒く染まっている。
空の変化に次いで、現れたのは偽物のサンクトゥムタワー。
各自治区に突き刺さったそれらからは、無数の怪物が出現し人々を襲い始めた。
このままキヴォトスは正体不明の生命体に侵略され、崩壊してしまうのか。
誰もがそう思い始めたその時、待ったをかける者達がいた。
「ダンボオオオォォォォォォルッッッッ!!!!!」
舞うのは住民の血飛沫ではなく、千切っては投げられるエネミー群。
某師匠もビックリな奇声、もとい咆哮を上げながらガードを捨てて突っ込むヴァルキューレ二年生組は、右手に愛銃、左手に厚紙の二刀流で敵を爆散させていく。
「ハッハァッ!!こんなもんか色彩サンよォ!長所は気色悪いデザインだけってかァ!?」
「それ短所だろ。───しかし、やはり
「弱い、弱い、弱い、あぁこいつは...ダメだ、弱い。
「仕方ない。奇怪な見た目をしていても行動パターンからして、敵はAIだろ?そういう動きだ」
「
「身体がよォ、
おまえら本当に警察か?
そう疑いたくなるのも仕方がないほどに、彼女らの口調と戦い方は荒々しい。
しかし案ずること勿れ。
普段は仕事を真面目にこなし、市民から愛される地方や郊外の交番のお巡りさんだ。
朗らかな笑顔で横断歩道の誘導や近隣のパトロール、事件があった時の急行や安全講習など、余念がないほどに優秀なお巡りさんである。
今繰り広げられている光景は、日々の鬱憤を発散するための仕方ない行為なのだ。
「嗚呼、
「懐かしいよなァ、性懲りも無く湧いて出るクソ共を此の手で蹂躙した日々...!無敵だったワタシらに刃向かう
「しかも
「最高だァ...やっぱりアンタは最高だよ
二年生内で高城センを崇める者たちからの敬称である。
「おまえら、覚えてるか?
「忘れるわけがねえ!
「ヘルメット団本部に
「正義は我らにあり!我らに
「続けェェェ!!!」
「「「「オラアアアアッッ!!!」」」」
ジャックナイフを舌舐めずりしそうな少女たちの進行は、色彩が生み出すエネミーの侵攻をほぼ無傷で押し返す。
無数と思われた敵は、目に見えてその数を順調に減らしていった。
「す、すごい...先輩方、すごいです!獅子奮迅とはこのことですね!中務キリノ、偉大な先輩方のように立派な警察官になれるよう、これからも精進します!」
「しなくていい」
目をキラキラ輝かせて二年生たちの戦闘を見守る生活安全局と、カンナ。
戦闘に加わろうとするキリノの首根っこを掴んで制止する公安局長の顔色は、疲れもあるが懐かしさも込み上げてか喜色も見受けられる。
「うわぁ〜...ウチの本部って二年生が明確に少なくてなんでかなって思ってたけど、他に異動になってたのか〜」
若干引き気味に、合歓垣フブキは自身の感想を述べる。
この有様を見れば、それも頷けた。
「あいつらは高城を頭に据え、正義を体現してきた。その頭が無くなり、一度は反乱を起こしたものの上に鎮圧され、その牙を取り上げられたんだ」
カンナの元にも、納得いかないと不満を呈してきた生徒もいた。
それだけセンは慕われていたし、ヴァルキューレという組織の根幹を担うべき生徒だった。
ヴァルキューレの生徒会長に、と首のすげ替えを図る熱狂的な信者までいた程に。
「今まで溜まってた分を全部吐き出すくらい、恐ろしい進撃だね〜...局長、ああいう人たちも御してきてたんだ」
「まぁな...。やり過ぎることがよくあったアイツらを説教したのも、一度や二度じゃない。普段は温厚で大人しい、手のかからない奴らなのだが...」
こと悪人を裁くに至っては、性格を豹変させ核弾頭の如く突進を繰り返す。
これもセンの
いい迷惑である。
「カンナ局長。D.U内の敵性体、全て撃滅しました」
数年前の日常を思い出してため息の量を増やしていたカンナの元へ、戦闘を終了させてテンションを元に戻したヴァルキューレ二年生が近づく。
「ああ、よくやった。他はどうだ?」
「主要自治区でも、作戦成功の報告が上がっています」
「他でも先輩方が動いていたのですか?」
「ああ。これもヤツの...高城の戦略の一つだ」
キヴォトス全域で狂ったダンボール教徒が出没していたのか。
キリノは感嘆の声を上げ、フブキは引き攣った笑いを浮かべた。
「か、会敵してまだ一時間しか経ってないのに...」
「戦術、戦略に到っては先生以上なんじゃ...?」
「仮にも、元会長候補だ。ヤツのやり方を見てきた私としては、別段驚くことでもない」
まさかダンボールをこの短時間で布教するとは、さしもの元バディも思ってもみなかったが。
遠い目で通常モードに移行し次の戦闘に備える後輩達を見つつ、カンナはセンへの通信を開いた。
「高城、こちらD.U防衛戦。敵の殲滅に成功した」
********************
「了解。各位、主要自治区の組織と合流し待機、交代で休憩を挟み、次の戦闘に備えろ」
D.Uを一望できるシャーレビルの廊下にて、センはキヴォトスに散っている戦力全てに指示を与え、デバイスを閉じた。
銃撃や爆撃で騒々しかった街は一旦の落ち着きを取り戻し、今か今かと色彩の出方を待っている状態。
一先ずは息を入れていいだろう、とセンは張り詰めていた緊張を解き、近くにあったベンチに腰掛けた。
(直ぐに会議が始まる。それまで少しは休めるか)
周辺で炎や煙の上がる変わり果てた街並みを眺めながら、これまでの数時間についてを振り返る。
ヴァルキューレ二年生が色彩の軍勢と会敵後、セン達の乗ったヘリはシャーレの屋上に着陸。
そこで待ち受けていたのは、禍々しい黒煙を頭蓋の部分から垂れ流す得体の知れない男性、先生は彼を黒服と呼んでいた。
暫く話す、と戦場に関してはセンに任せ、大人二人は会談に臨んだ。
(先生とは親しい...いや、向こうが一方的に気にかけているようだったが)
弟子入りしたサオリが言うには、黒服の属する組織であるゲマトリアはアリウスのテロ行為を助長させ、それを実行する傭兵へと洗脳した張本人らしい。
首謀者は別にいるらしく、黒い男は装備や物資の提供などといった支援でしか関わりが無いとも語っていたが、見た目通り気味が悪く、いつ背中を刺してきてもおかしくない相手。故に警戒は怠らない方がいいだろう。
(会長なら、作戦と並行して奴らのことも調べ上げるのだろうが、俺にはそこまで回す頭は無い)
今は目の前のことで手一杯で、他の要因により気力の底上げも望めそうになく、一日中奔走していたのもあってか疲れも溜まっている。
「はぁ...」
様々な理由を孕んだ、ため息を吐く。
「まぁ、だいぶお疲れですね」
そんな彼の隣に、白い少女が収まった。
「───?」
ミヤコではない。薄いグレー味のある彼女の髪色とは違い、今傍らにいる者の髪はそれよりも白が強い。
誰だ?と横目で見れば、見知った人物が慈愛のある微笑みでセンの顔色を伺っていた。
「...生塩ノア」
「はい。そういうあなたは高城セン、ですね」
花に例えるなら、鈴蘭だろうか。
崖の一端でも気高く、凛として咲く花のような少女は、センのかつての競争相手。
尤も、彼からの一方的なライバル意識ではあるが。
「こうして面と向かって会うのは、5年8ヶ月と10日ぶりになります。お元気でしたか?」
「ぼちぼちだよ。そして、持ち前の記憶力は健在のようだ...正しくはその3時間36分45秒以来だが」
「負けず嫌いも相変わらずです」
「久しく会う旧友、それもキミとの会話に最適な返答だと思ったのだが、気を悪くしたか?」
「いいえ。あなたらしさを再確認できて、こちらとしては嬉しいですよ」
「そうか。───今更ながら、急遽の対応と此度の招集に応じてくれたこと、感謝する」
「礼には及びません。私たちの仲ですから」
「そう言って貰えると有り難い」
対策会議において、アドリブを効かせた他校の足止め、C&Cとの連携やヴェリタスとの関係周知、そして今回のシャーレへの推薦招集。
センが呼びたいと言った三人の生徒のうちの一人がノアであり、彼女の卓越した記憶力を作戦に活かしたいという考えだ。
「色彩との戦いでは、必ずキミの力が必要になる。アテにして...なんだ?」
少年よりも薄い色をしたアメジストの瞳が、覗き込んでくる。
「そこまで変わってもいない、と思いましたが...やっぱり、顔付きが年相応になってますね。背も伸びて、声も低く、雰囲気も全然違います。会議室に姿を現したあなたを見て一瞬、本当にセンくんなのかと疑ったくらいです」
「5年も経てば男児は一変するものだよ」
「そうでしょうか?根本的なところは変わっていないと思いますけど」
例えば、と前置きして子供を叱る母親のような表情になったノア。
「隠れて無理をするところ、とか」
めっ。
センの額に、ノアの白い指が突かれた。
「まだ序盤も序盤だ。指揮系統を任されている俺が、下に弱っているところを見せるわけにはいかない」
振り払うのではなく、自身の手で優しく包み込むように少女の手を握り、額から退けようとするが、その接触を利用してノアは指を絡めて握り返す。
「けれど、無理や無茶を共有する相手は必要です」
「なんだ?キミがそうしてくれるのか?」
「ええ。そしてそれには膝枕が効果覿面とも」
センの言葉に若干被せ気味に言ってのけて、黒タイツを纏う自身の太ももをポンと叩き、さぁどうぞと少年を受け入れる体制を取った。
「...」
なぜ急に膝枕?疲れに付け込まれて流されてないか?と自問自答を繰り返すが、目の前の少女がむふーっと妙に自信満々で、事実疲労が溜まっているのもあってか、お互いを満足させるべくセンは吸い込まれるように彼女の太ももに頭を乗せた。
「寝心地はどうですか?」
(...会長より、少し)
太いし柔らかい、と口に出すのはいくらノンデリなセンでもダメだと察せた。悪くない、とだけ返しておく。
「あ、あまり上は見ないでいただけると」
双丘から覗くノアの顔半分は困り顔なので、ならば目を瞑ろうと視界を黒に。
「髪、綺麗なストレートですね。サラサラ」
「毎日温泉に浸かってるからな」
「家の近くに温泉宿でも?」
「いや、自宅に」
「自宅!?」
「セミナーの仕事が落ち着いたら、一度来るといい。その時はもてなそう」
「は、はい...ふふ、楽しみにしていますよ」
無自覚に、湿度高めなカルバノグ二人の元へ大王烏賊を投入する所業に出る高城センは、やはりクソボケなのだろう。
異性を泊まりに誘うことも、ノアにそういった感情が無ければ昨今はセクハラとして扱われる。下手したら警察沙汰───元はそのエースだったのもマズイ───だが、センはクソボケ故か意図しない間合い管理が上手かった。
地雷原をタップダンスさながらな足捌きで回避し、相手からの矢印を増大させてから放置する。某鬼殺隊士がこの場にいたなら、俺がカスならアンタは(無自覚な)クズだと罵っていたことだろう。
「キミとはこうして、ゆっくり話すこともなかったな」
「そうですね。塾の時はお互い勉強に集中していましたし、話すことといえばわからない問題についてのみで」
「それも、俺からが大半だった。若気の至りだが、迷惑じゃなかったか?頻繁に質問をしに行って、キミも億劫だっただろう」
「そんなことないですよ。私自身の復習にもなりましたし、色々と発見もあったので実に有意義な時間でした」
「ならいいのだが」
「私からも一つ、聞いていいですか?」
「ああ」
「先ほどのため息、作戦での疲れはあるでしょうけど、それ以外に要因がありますよね?」
「───」
「その顔は図星...って、もう、ダメですよ。目は開けないでください」
「すまない、驚いたんだ。よくわかるものだな」
「あなたが何かしら抱えている時の表情は、記憶していましたから。私でよければ相談に乗りますよ」
あまり言いたくないものだが、ホワホワしている少女には有無を言わせない圧力があった。
「...キミにならいいか」
生塩ノアという少女には、会長の次に自身の弱味について知られている。
ここは素直に曝け出しても、その多くの弱味リストに一つが追加されるだけ。こうして膝枕もされている現状、見栄を張るのもおかしな話だ。
「俺の夢の話だ。キヴォトスに根付く銃社会を撤廃する、という子供の絵空事...今回のことで、実現は不可能だと結論付いた」
彼の描く学園都市の創造、その告白に目を見開いたノアは、次いで『なぜですか?』と問うた。
「突如現れた脅威に対処するには、どうしても銃火器が必要になってくるんだよ。それも一機関が独占して運用する限定的なものではなく、日常で持ち歩いてもらうくらい普及されてなければ、今回のように被害を最小限に抑えることはできなかった」
連邦生徒会が管理し、有事の際に貸し与えるというのはその間に挟まる手続きや輸送のこともあり手間だ。
これだけ大きい規模の学園都市存亡の危機がそう何度も来ることは無いだろうが、国を運営するからにはあらゆる災厄への対策は当然のこと。
たとえ、どれほど起こる確率が少ないとしても。
「絶えない軽犯罪といつの日にか来る厄災、今後の心労を考えれば苦言を呈したいが選ぶなら前者だ。現に、今のこの無法じみたキヴォトスの当たり前があったからこそ、問題なく色彩と渡り合えているわけだからな」
「結果が全てではない、とは言えません。私も管理職ですので、あなたの悩みは理解できますよ。どうしても過程ではなく、重要視されるのは最後どうなったのか、ですので」
「ここだけの話、キヴォトスに住まう人々の思想が結果重視、というのもあるだろうがな。沸点が低いのもある」
「聞かなかったことにしておきますね」
「そうしてくれると助かる」
ははは。
ふふふ。
シャーレの通路にて行われる、二人の談笑。
「(なんですかアレどういうことですかアレ誰ですかアレェ!?)」
その様子を影から覗いて呪詛を強める兎が一名。
「(昔の女何人いるんだアイツ...!)」
身を隠している壁にめり込むほど指の力を強める兎がもう一名。
「(...は?)」
二人とは別角度から覗いて思考停止に陥る青い加湿器が一名いた。
因みに昔の女(?)は会長、ノア、アオイ以外にまだいる。
「せ、センくん...!」
この少女、小鈎ハレもその一人。
「(しまっ、先を越されました!)」
「(また出てきたぞ昔の女)」
「(...は?)」
「───ハレ?」
なんで驚いてるん、呼んだのおまえやろがい。
ノアと同じく招集をかけた張本人が首を傾げていればそうツッコまれるのも仕方はないが、同時にセンが疑問符を浮かべるのもやむを得なかった。
通信を介さない再会は二年ぶり。
しかも普段のラフな格好と反して、今日はミレニアムの制服をキッチリと着こなしその上から白衣を身に纏う外行き、もとい公共の場におけるセンとの対面専用スタイルでの登場だ。
彼女にしては珍しく白い髪をヘアアイロンで整え、ナチュラルメイクを施しているあたり本気度が伺えた。
「わ、わた、わた、わた...!」
私を欲しいなんて言っておいてノアとイチャつくなんて、と言おうと頑張っているが、テンパリすぎてただワタワタしているだけの人になっている。
茹蛸になりつつあるヴェリタスの天才ホワイトハッカーの来訪を、センはノアの膝枕から飛び起きて迎えた。
「通話越しでは何度も話していたが、面と向かって会うとキミの成長ぶりをより感じられるな。久しぶりだ、ハレ」
「う、うん...っ」
「俺が来ても頑なにラフスタイルを崩さなかったキミが、年頃の子と同じようにお洒落をして外に出てくるなんてな...エナドリ以外の食事は摂っているか?」
「それは頷けるか怪しいところ...って、この場で昔の話はしないで!ノアもいるから!」
「悪い悪い」
「こほん...それで、どう...かな」
後ろ手でモジモジ、引いてきた赤みを取り戻しながら、上目遣いでハレはセンに感想を求める。
「どう、とは───いや、失礼。キミのような魅力的な女性に対する配慮が欠けていた。とても似合っているよ、ハレ」
「...うんっ!えへへ...」
センは、無自覚に現金な行動を取る姑息なクソボケである。
この対応によりハレの心中は幸福で満たされ、燻っていた嫉妬心は鎮火された。
「むーっ」
そして、新たな火種が生み出される。
過去と秘密の共有、膝枕で自身を拠り所にしようと画策していたノアから、今度は火の手が上がった。
「センくんったら、私の膝で休んでおいて直ぐに別の女の子のところに行くなんて...悲しくて泣いてしまいそうです」
ヨヨヨ、と泣いてもないだろうに目元を隠し、指と指の隙間からセンの動きを観察。
「む、すまない。キミの言い分はもっともだ。謝罪を」
「欲しいのは謝罪ではありませんー」
今度はわざとっぽく口をツーンと尖らせ、彼が再度どう出るか薄目で見る。
「───いくらか気が楽になった。話し相手になってくれたこと、膝を貸してくれたこと、感謝する」
「はい、よくできました。ご褒美にまたお膝を貸しますよ」
「いや、もうい」
「センくん、そっち行っちゃ駄目」
断ろうとしたセンだったが、先んじてその先を遮ったのはハレ。
センの制服の袖を引っ張り、恐る恐るといった動作ではあるものの懐へ彼の腕を抱き寄せた。
「どうした、ハレ」
「作戦について色々と考えてきたから、その精査をして欲しいな。大体500通りくらい」
「流石だな。早急にとりかか」
「待ってください」
またも言葉を遮られ、空いた腕にノアが絡まる。
「それなら私も手伝いますよ。三人でやれば直ぐに終わります」
「...ノアはもう少しそこのベンチで休んでたら?最近ユウカに似て足パンパンになってきてるでしょ」
「なら、ハレちゃんも少し休みましょう。メイクで隠しきれない隈もあることですし」
「「...」」
「お、おい二人とも」
何やら重々しい空気と間で散る火花に苛まれ、センはどうしてこんな険悪なムードになったのか理由はわからないが仲裁に入ろうとした。
バキッ
彼の行動は、突如通路内で鳴り響いたひび割れ音により三度止められる。
「...へー、そう。作戦指揮官ともあろう人が、こんなところで油を売ってるだなんて」
扇喜アオイ、参戦。
音の正体は総決算でお馴染み、彼女の持つ万年筆が真っ二つに折れたものである。
「女の子を引っ掛ける癖は二年前から変わらないのね、センくん」
「ご、誤解だアオイ!二人はミレニアムから俺が召集した協力者で...」
「自分で自分の首を絞めるなんてあなたらしくない。図星を言い当てられてる証拠でしょう?」
「事実を言ったまでだ!俺は別に、この二人とは」
「私を求めてくれたから」
「秘密を共有する仲です〜」
「だそうよ」
「ハレ!?ノア!?」
「まさかヴェリタスの子とは身体の関係まであるなんて...セミナーさんの方はどういった秘密なのかしら」
「それを公言できないから、秘密なんですよ。でも、アオイさんが知らないあんなことやこんなことは...共有しているかもですね」
「そ、そんな肉欲に塗れてない...ただ、センくんに体(vの立ち絵)はプレゼントしたけど...」
「言い方ぁ!」
センの端折った物言いも大概だが、ノアは含みがあり過ぎるしハレの詳細省きは状況も相まって彼の数段上をいった。
「聞き捨てなりません」
ここにきて四人目、センの一番弟子である月雪ミヤコ、襲来。
ハイライトが消え虚となった瞳の奥には、黒い炎が揺らめいている。
「身体の付き合いなら私も経験があります。なにしろ、幾度となく
「...っ!?センくん、それは本当なの!?」
「説明してセンくん!」
「私からも説明を要求します!」
「ちぃ...っ!更に状況がややこしく...!」
何かこの場を脱する糸口を...と周囲を見渡す。
すると、いるじゃないか突破口。
「(空井、空井───ッ!助けてくれ空井───ッ!)」
壁の影に隠れていた我らがポイントマンを発見。
すぐさま瞬きでモールス信号を行い、助けを求める。
「(こ、こっちに振るな!自分でどうにかしろ!)」
「(俺とおまえの仲だろう!?どうにかしてくれこの圧倒的劣勢を!作戦が終わったらなんでも言うことを聞く!)」
「(〜〜〜っ!こ、今回だけだぞ!?)」
「(助かる!!)」
誰もが嫉妬渦巻く暴風雨の中に入るのを躊躇する中、餌をぶら下げられそれに食いついたサキ。
「み、みんな落ち着け!」
「サキ、邪魔をしないでください」
「部外者は引っ込んでおくことね」
「ぶ、部外者じゃない!私は...」
「なんでしょう」
「私は、こいつから率先して背中を流そうと言われるくらいには親しい間柄だ!」
「「「な...っ!?」」」
「空井!?」
何故に火に油を!?そもそもあれは未遂で終わっただろう!?
混沌深まるこの場において、セン自身が動いたという過去の情報は有利に働いた。
「ぎ、銀髪三人を引っ掛けて度し難い性癖と思っていたら、守備範囲が広過ぎるわよセンくん!」
「私をあれだけ熱烈に口説いておいて...」
「少々お話が必要ですね」
「師匠、あの後まさか二人きりで...?」
「だから誤解だと...!空井、他に何かあっただろう!二の矢を放て!」
「え、えっと、そう。風呂の件はあれだ。あの時は私とミヤコ、センを含めて五人で入ってたんだ」
「内訳は?」
「師匠以外女子です」
「銃殺刑ね」
「何故火力増強を計った空井ィ!?」
互いを牽制し合っていた空気が、今や行く先々で異性を引っ掛けているセンに対してのバッシングに変わっていく。
(く...っ、なんだかわからないが、どこかで選択を誤ったらしい...こんな時先生がいてくれれば...!)
火事を伝染しないでセンくん。
何やらよからぬ矢印をキャッチして、先生は心の中でバツマークを作った。
そもそも彼がいたところで焼け石に水、二次被害が勃発するだけである。
「年貢の納め時よ。これまであなたの無自覚具合には散々困らされてきたわ。少しは反省しなさい」
「酷いよセンくん...私、男の子にあんなふうに口説かれたの初めてだったのに...」
「以前は純真で女遊びとは程遠い性格でしたのに、やはり人は変わるものですね」
「一番弟子として、師匠の行動に苦言を呈させていただきます」
「すまんセン」
「ま、待って欲しい!弁明の余地を...」
湿気強まる少女達に詰め寄られ、反論も受け入れてもらえない。
万事休すか、と点を仰ぎかけた直後モエからの通信が入った。
『おーいヘッドー、会議室にそこの五人とヘッド以外揃ってるけど、会議やんないの?』
「でかした風倉!ということで、だ。皆、この場は間をとろう。後からいくらでも話は聞くし詳細も話す。だから落ち着け」
ファインプレーに火事場力が働き、センにしては無駄のない動きでノアとハレの両脇拘束から脱出。
両手を前にしながら後退りを始め、他のメンバーが待つ会議室を目指そうとするが、ミヤコ達はそんな提案に聞く耳を持たない。
「安心してください。師匠が素直に答えてくだされば即済むことです。時間はとりません」
「観念なさい」
「逃がさない...」
「一体どれだけの女の子を引っ掛けているのかも、気になりますから」
「...もう私では力不足だな、うん。頑張れセン」
「場をかき乱すだけして距離を置くな!」
センは自身の運動音痴を理解していた。走ったところで即座に追いつかれ、尋問が始まることだろう。
ワンモーション、救援のために通信を開こうものならその隙を突かれての確保もされるだろう。
だがセンは諦めない。
自分に非がないことを認めさせ、遺恨を残さず作戦に従事してもらうべく、とれる最善策を模索する。
(今直ぐに温泉を...いや、ここが何階だと思っている?吹かしたところで届くはずもない。であればダンボールで...くっ、俺の技量では全員の猛攻を捌き切れないか)
「そちらから呼んでおいて放置なんて。本当に酷い人」
音もなく、気配もなく、その少女は現れた。
すんなりとセンの傍らに収まり、彼の足に二本の尾を絡めさせ、腰に手を回して自らへ少年を抱き寄せる。
「ま、そういう奔放さを許容してこそ、あなたの隣は務まるよね」
艶やかな黒髪だ。
病的とも思える白い肌と、垂れてはいるが鋭利さのある目つき、頭上で時折ピコリと動く猫耳が特徴の、百鬼夜行の制服を着こなす彼女は、センがノアとハレと同じく召集した三人目の生徒。
「感謝すること。あなたにとっては猫の手も借りたい状況で、この私が力になってあげるんだから」
百鬼夜行連合学院 百花繚乱紛争調停委員会 作戦参謀
桐生キキョウ
デンデン(龍が如く感
今回は修羅場というものに初挑戦してみました。前作が純愛ものだったので、新鮮で楽しいですね。この後も引っ掛けてる女の子は増えると思うので、ご期待ください。
ノアちゃが何故センくんを好いてるかというと、天才と持て囃された自分をライバル視し果敢に挑んできて、ある時影で悪口を言われていた───見ただけで記憶できるとかズルい───中で『彼女はただ物覚えが良いだけであって、才能に胡座をかくような人ではない』とピシャリと言っていたところを見て以降、隠れてクソデカ矢印を向けるようになりました。
次回はみんなで会議します。目指せ圧勝、打倒色彩。
感想、評価、お気に入り、ここすき、誤字報告、いつもありがとうございます。励みになります。
そして、大警察神というアイディアをくださった好きな曇らせ発表ドラゴンさんに多大なる感謝を。