ワイ『ダンボールは万の事に使いけり』 ミヤコ『流石です師匠』   作:\コメット/

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前回のあらすじ

アオイ「作戦開始前に乳繰り合いなんて、相変わらずねセンくん」

セン「アオイか...」

アオイ「また新しい女の子を引っ掛けたようだけど、何度でも間に入ってあげる」

キキョウ「久しぶりの共同戦線よ、戦友」



21 だから、少女は彼の隣を行く。

 

 

 

各地で猛威を奮っていた、センを信奉するヴァルキューレ二年生組。

作戦成功、敵生命体撃滅の報告がひっきりなしに上がる中、唯一彼女らを派遣していなかった自治区がある。

 

「ユカリ、取りこぼしは無いね?」

 

「はいっ!正真正銘、身共達のぶい、ですの!」

 

百鬼夜行連合学院。

赤く染まる空の下、額の汗を拭った不破レンゲ。後輩である勘解由小路ユカリや他の隊員と共に、残る敵の掃討を終えたところだった。

 

「修行部や忍術研究部、陰陽部も終わったみたいだ。少しはゆっくりできる─── それにしても、すごかったなぁキキョウのやつ」

 

街中に散らばる怪物の残骸を見て、幼馴染の獅子奮迅とも呼べる活躍を思い出した。

 

『百花繚乱作戦参謀、桐生キキョウの名の下に命ずる。各位、武器を持て、危機に備えよ。繰り返す───』

 

始まりは、百花繚乱部員に届いた一斉送信の通知。

委員長であるアヤメ、副委員長のナグサが不在の中、停滞を余儀なくされていた自治区の治安維持部隊、百花繚乱。

その時を動かしたのは、作戦参謀である桐生キキョウであった。

 

『連邦生徒会から通達があった。数時間後、色彩という未知の敵がキヴォトス全土に侵攻してくるみたい。私達はその対処、自治区防衛の任を承った』

 

『ふおお〜っ!!正に、身共達百花繚乱の出番ということですね!?テンションぶち上がりですの!』

 

いつになく目を輝かせ、ですのですのと喜びをわちゃわちゃした動きで表現するユカリはさておき、レンゲはキキョウに待ったをかけた。

 

『会長不在の連邦生徒会の通達、信じていいのか?』

 

『勿論。あの人が言うんだから、間違いない』

 

あの人って誰のことだ?と尋ねる前に、黒い少女が白い頬に熱を灯しているのを見て、察した。

 

『ま、まさか...!』

 

『そう。彼、生きてるって。さっき直接電話があって、これは彼からの指令』

 

高城セン。

キキョウやレンゲが中等部二年生時、つまりまだ百花繚乱紛争調停委員会に属していない頃に知り合った、連邦生徒会の麒麟児。

二人は、当時の彼の実力を知る数少ない存在だ。

定期的な出張視察の際のゴタゴタで知り合って以降、祭り事の邪魔をしようとしていたチンピラや魑魅一座を三人で成敗し、たまに来訪しては互いに夢を語らい、戦略や戦術の知識を深め合う仲にまで進展した。

レンゲにとっては良き友人、キキョウにとっては...青春という日常を彩る甘酸っぱい刺激となったらしい。

 

『二年前、失脚してお前の家に血塗れで転がり込んだと思ったら、手当てした後いつのまにか消えて...そうか、生きてたんだな、セン』

 

『ほんっと人騒がせ。直接会ったら文句の一つでも言ってやりたいくらい』

 

愛銃を握る力を強める幼馴染を見て、少年生存に安堵しかけていた心が、周囲の空気の急速な冷却により縮こまるのをレンゲは感じた。

 

『ま、まあなんだ。あいつの言うことなら信じられるよ。そうと決まれば早速動かないとな!』

 

『住民の避難、防衛線の構築や作戦の確認、やることはごまんとありますの!』

 

『避難はユカリ主導でお願い。レンゲは戦線を敷いといて、これはその指示書』

 

『相変わらず手筈が早い。キキョウはどうするんだ?』

 

『私は私で、やることがある。作戦の再確認もだけど...それ以上に必要なこと、あるでしょう?』

 

問われ、一考。しかしそれは一瞬。

 

『...戦力増強だな』

 

百鬼夜行は広い。全ての領域をカバーするには、百花繚乱だけでは足りない。

戦闘に参加できる部活動の生徒や、生徒会組織である陰陽部との連携を密にし、対応にあたらなければこの危機を乗り切ることは不可能だろう。

首領が不在という不安要素もあり、参謀の提案は至極真っ当なものだった。

 

『私の方からニヤ部長に話をつけてくる。センの名前を出せば、嫌な顔しながらも従いはするだろうし』

 

『あの人センのこと苦手だもんな...』

 

『あとは、そう。もう一つ強力な動ける駒が欲しいね』

 

『他校に要請するか?』

 

『ううん、必要ない』

 

言って、スマホを取り出すキキョウ。

 

ナグサ先輩(あの厨二病)呼び出すから』

 

三日月型に笑みを作る彼女の口。黒い瞳は、笑っていなかった。

 

 

 

「こ、怖い...キキョウ怖い...」

 

「な、ナグサ先輩!お気を確かにしてくださいナグサ先輩!」

 

あれだけ返す、私には相応しくないと放棄を望んでいた百蓮を拠り所とし、体育座りでメソメソ泣く御稜ナグサを慰めるユカリ。

 

『なに職務放棄してるの?本当に反吐が出る。一時間以内に本部まで来なかったらどうなるかわかってるよね、ナグサ先輩』

 

コナイトコロス、コナイトコロス、コナイトコロスコナイトコロスコナイトコロスコナイトコロスコナイトコロスコナイトコロスコナイトコロスコナイトコロス

 

レンゲが戦線構築のための指揮に動いてから彼女の元に帰ってくるまで、通話越しの呪詛は続いていたらしい。

思い人から信頼されて任された戦場、必ずや成功報告を届けると息巻いていたキキョウの圧に、さしものナグサも負けた。

久方ぶりに邂逅を果たした喜びも束の間、急激にやつれて頬を痩けさせ死んだ目をしているナグサを見て、ユカリに大至急焼き鳥を買わせに行ったのはファインプレーだった。

 

『どさくさに紛れて逃げたら承知しないから』

 

「うう...」

 

人を人とも思っていない目つきを思い出し、ナグサは再度泣いた。

 

(こんな状態でも敵は返り討ちにするんだから、すごいよなぁ)

 

キキョウに怒られたくない一心で百蓮の銃弾を叩き込む姿は、不在となる前となんら遜色ない動きだった。

久方ぶりの共闘に心躍ったのか、背中を守るユカリも楽しげ。過去の関係が蘇ったようでレンゲ自身も気分が高揚した。

 

(アタシが討伐数二番手ぐらい、か。ナグサ先輩が次点、ユカリも結構頑張ってたけど、今日のキキョウには敵いそうにないな)

 

本分は作戦参謀だろうに、味方の数が足りないからと自らも前線を張ったキキョウ。

仲間に的確な指示を出しながら敵を術中に嵌め、ライフルで無力化していく様は爽快を通り越して若干引いた。

建物を使い錐揉み回転ジャンプ、相手の直上で脳天を撃ち抜き、一人レベルの違う戦闘を見せつけ、粗方片付いたのを尻目にシャーレへと飛んでいった幼馴染。流石に乾いた笑いが溢れた。

 

「よっし、何はともあれだ!全員、連邦生徒会からの命令があるまで休息と待機!まだまだ忙しくなるぞ!」

 

『了解!!』

 

こっちはアタシに任せて、そっちも上手くやりなよ。

似合わない微笑を浮かべてD.Uへ走り去った幼馴染を、レンゲは声には出さずに激励した。

 

 

 

********************

 

 

 

二年前のことである。その日は彼にとって久しぶりの休暇、且つその慰安場所に百鬼夜行を選んでくれたことを喜ばしく思いつつ、キキョウはセンを自身の部屋に迎え入れた。

口では億劫を装いながらも、無意識な喉鳴りは隠せなかったのが不覚だったことを覚えている。

互いに溜まった本があったので、淹れたお茶と菓子を黙々と食し、ページを捲る。

襖を開ければ侘び寂びのある庭園が一望できる彼女の部屋は、静かな趣味に没頭するには最適だった。

縁側に腰掛け、誰の邪魔も入らず文字の羅列を瞳に、脳に刻み───時折、隣で同じように書物を読む彼の横顔を見る。

 

(...呆れるくらい、綺麗な横顔)

 

なんてことないこの時間が、キキョウは好きだった。

空気が、息遣いが、香りが...彼のことが。

自分にとってかけがえのない、大切なものなのだと、理解させられる。

 

高城センという少年を構成するのは、純然たる正しさ。弱きに手を差し伸べ、強きを認め、愚者を許さない。

彼との出会いは、その人間性を象徴していたと言える。視察のために百鬼夜行へと訪れた際、チンピラに絡まれて泣いていた女の子を助けようと、力量差なんてお構いなしに間に割って入っていた。

勝ち目なんて無いのに、危ないのは自分なのに、何故そんなことができるのか。

その真意を聞くべく二人をチンピラから助け、キキョウはセンに馬鹿やった自覚はあるかと問うた。

 

『勿論。だが、俺以外に動こうとする奴がいなかった。治安維持の百花繚乱も来る気配が無い。なら、俺が一歩踏み出すしかないだろう。踏み出して...キミのような子が後を追ってくれるのを願った。結果、この子はチンピラからのウザ絡みから解放され、俺も怪我を負うことはなかった』

 

万々歳だろう?とふざける一方で、自身の無謀さも理解していたようで、感謝と同時に謝罪をキキョウに伝えた。

 

(律儀で、誠実で、正当性を重んじる。それがあんた)

 

以来、何かと交流を重ねるようになり、彼の内面を知っていく。

高城センという少年を身近で見て、感じて、触れて...知って行ったその果てに、彼と会う前の鏡と向き合う時間は増えた。

 

(あんたの信じる正しさ。それを追求する姿勢、それ故に振りまかれる優しさ...全てが)

 

多分、彼という存在も含めて、自分は好きなのだと思う。

朧げにそう感じていた彼女は、前触れもなく立ち上がり、少年と背中合わせになるよう腰を下ろし、背を預けた。

 

『...ん?どうした』

 

『別に。寄り掛かろうにも壁は硬いから、丁度いい背もたれがあると思って』

 

『座椅子でも持ってくるか?』

 

『いい、このままで。即席としては...悪くないから』

 

『そうか』

 

なら自分も、と前へと傾けていた体勢を後ろへ。

互いに背中を預け合う楽な姿勢になって、鼓動を重ねた。

ゆっくりで一定の心音が、彼。少しテンポの早いのが、自分。

こちらの緊張を嘲笑うかの落ち着き具合には、内心ムッとする。

でも、そのムカムカを吹っ飛ばすほどに、彼の体温と心音は温かくて、心地よい。

 

『...ねえ、セン』

 

『なんだ』

 

『もう少しで、私たちって高等部でしょう?』

 

『ああ、俺はさしてやることは変わらないが、キミは遂に百花繚乱に入部だ。こうして会う頻度も、少なくなるだろうな』

 

『そのことなんだけど...春から、こっちに編入とか、どうかな』

 

『すまない、それは無理だ』

 

即答。

ダメで元々の頼みではあったが、もっと考える素振りくらい見せてもいいのに。

まぁ、彼のことだ。誤魔化しの言葉は返ってこちらを傷付けると思ったのだろう。これは、彼なりの優しさだ。

 

『キミとの学園生活は、とても魅力的だと思う。しかし、俺は俺で叶えたい夢があるんだ。それがここでは成し得ない』

 

『前に言ってた、銃社会の撤廃ってやつ?』

 

『それもある。しかし、銃撤廃はあくまで長期的な計画であって、俺が連邦生徒会任期の間に実現することはない。それとは別に、もっと根本的なことを変えたいんだ』

 

『聞いてもいい?』

 

『笑わないか?』

 

『人の夢笑うほど、あんたは私が性格悪いように見えてるの?』

 

『...そうだな、失礼した。キミほど聡明で、他人を思いやる心を持った子はそういない』

 

『...世辞は、いいから』

 

手放しの賞賛、照れ隠しに二又の尾で彼の頬をペシペシ叩いてから、センが構想する夢について続きを促す。

では、と前置き。咳払いで喉の調子を整えてから、彼は初めて、胸の内に抱える企てを暴露した。

 

『俺はな、キキョウ。正直者が馬鹿を見ない、努力が正当に報われる...そんな社会を実現したいんだよ』

 

いくつもの学園が連なり都市を形成した国、キヴォトス。

神秘的、近未来的な街や文化で栄えるこの地を言い表すならば、センは自由の国と答えるだろう。

これは良い意味と悪い意味、両方の意図が含まれる。

何者にも縛られない発想、未知への探究心、伝統を重んじながらも解釈を広げる姿勢と、キヴォトスに住まう人間にはそれらの思想や欲求が強い傾向にある。その果てに文明の発展と進化があり、この地は栄えてきた。

その一方で、自らの怠慢を他人のせいにし、難癖をつけては邪魔をし、暴力に訴える者も数多くいるのが実情。

 

『自由で発展を遂げてきたこの国にとって、今や自由は枷となりつつある。俺はそこにメスを入れたい。ある程度の環境整備をして、理不尽に虐げられる人の数を少しでも減らしたいんだ』

 

そして、その手段は悪人の淘汰───ではない。

 

『最近増加傾向にある不良達も、なんとか救済をと思っている。彼彼女らをそうさせたのは周りの環境だ。キッカケさえ与えれば、ブラックマーケットに入り浸らずとも普通の学校に通って、他と変わらない日常を過ごせる筈だ』

 

『銃のことといい、あんたらしくておめでたい理想論だね』

 

『そう思うか?』

 

『だって、それって言い換えればキヴォトスに住む全ての人の救済でしょう?何百何千っていう学校と会社があって、色んな生徒や大人がいる。大半が幸福と思っていても、反対意見ってのは絶対に出る、永遠に。到底不可能よ、そんなこと』

 

『...』

 

『理想だけで、世界は変えられない。仮にそういう社会が実現したとしても、競争から漏れた人間が不幸になる連鎖は無くならない。誰かが幸せになれば、必ず誰かが不幸になる』

 

『俺もそれはわかっている。どの分野にも勝者がいて、敗者がいる。しかし、何のチャンスも与えられず、戦う前から負けているなんてことがありふれている今の社会は間違ってる』

 

『元からチャンスを与えられてたのに、それを無碍にして堕ちてった奴は?あんたが掲げる善政を利用しようとする悪い大人達は、どうするわけ?センが人の幸福を望むように、人の不幸を願う救えない不穏分子だっている。そいつらとは一生分かり合えない』

 

彼のことだ。自分が言わなくても、この程度のことは理解している。その上で、彼は世界を変えたいと本気で願っている。

冷静で氷のように見える少年が抱えるのは、見た目とは相反する炎。

彼はきっと、善人が蹴落とされ、悪人と呼ばれる人種がそのまま終わってしまうのが許せないのだ。

否定の言葉は並べた。

今も、実現するのは不可能だと思う。

 

(...けれど)

 

チラリと、背後の彼の横顔を覗き見た。

鋭利で、内包する瞳の奥の輝きを、見た。

 

(...私の甘さも大概だね)

 

彼なら、もしかすると思える。

彼のためなら自分も、とも思える。

 

彼の隣を歩いて、彼の夢の実現のために生きるのも悪くない。

 

『だから』

 

だから自分は、桐生キキョウは、この少年の理想論に騙されてみることにする。

彼の肩に手を当て、耳元へ顔を近づけ、彼女は言った。

 

『だから、私があなたにとっての不穏分子を排除してあげる』

 

百花繚乱は各部活間の紛争調停だけじゃなく、治安維持も務めてるから、そのついでになるけど。

そう付け足して、振り返った少年に薄い笑みを向けた。

面食らったような彼の顔、それが珍しくて、少ししてやったりな気持ちになる。

 

『理解できないものによって、なにかを理解することができるのか』

 

視線を外して、センは庭園ではない、もっと遠くのものを見つめて言う。

 

『...七つの古則の一つ?』

 

『ああ。キミが言うように、本当の意味で人と人とが分かり合うのは無理なのだと思う。そのまま別の道を歩んで、対立し、争いは無くならない。それがこの世界の真理だ』

 

『...』

 

『───だが、他者を理解しようとしないのはただの怠慢だ』

 

故に、彼は理想の世界の実現を諦めない。

他者に歩み寄り、他者を知り、他者と歩む。

その末に楽園があるのだと、彼は信じている。

 

『まぁ、先は長いし道行に障害は付き物だからな、キミがいてくれるのは心強い。喜んで頼らせてもらおう』

 

『精々上手く使うんだね。私も、何かあったらあなたを頼るから』

 

このやりとりから数ヶ月後、センは連邦生徒会とヴァルキューレを辞し、カイザーからの襲撃を受け、手負いで百鬼夜行へ。

処置を施して家に匿っている間、失意に沈んでいく彼に対してキキョウができるのは、ただ甲斐甲斐しく手当てを施すことのみ。

こちらから頼ってと言ったのに何もできない、そんな自分が歯痒くて、情けなくて。

だから、何の前触れもなく急に自らの元を去った時は自分自身に失望した。鏡に写る自分を責め、罵り、レンゲが様子を見に来るまで食事も摂らずに三日三晩泣き続けた。

携帯は音信不通、D.Uに戻ったという情報も無く、彼はもうこの世にいないのだと、生存を諦めていた。

 

諦めて、ようやく心の傷が小さくなり、百花繚乱の作戦参謀として軌道に乗り始めた頃に委員長と副委員長がこぞって失踪。活動自粛を余儀なくされ、彼と共に描いた理想は遠ざかるばかり。

百花繚乱崩壊の危機、自分はまた何もできずに、ただ全てが終わるのを待つしかないのか。

 

 

 

『キキョウ、俺だ。キミから俺に言いたいことは山ほどあるだろうが、その前に頼みがある』

 

 

 

そんな時に、彼の声が届いたのだ。

身体中を支配していた暗雲が、一気に晴れるのを感じた。

非通知から届いた、忘れるわけがないその声に、

 

『いいよ、聞いてあげる』

 

喉の機嫌の良さを押し殺し、努めて冷静に、キキョウは承諾した。

 

今度こそ。

 

今度こそ。

 

彼の役に立つんだ。

 

彼の信頼に、応えるんだ。

 

私が、センを守るんだ。

 

強固な想いを胸に、彼女はシャーレに馳せ参じた。

 

 

 

********************

 

 

 

そんな覚悟と、幼馴染の聞こえるはずのない激励のせいか、それとなくキキョウは良いポジションに収まっていた。

 

「セン、この案だけど...」

 

「ああ、それは...」

 

舞台は廊下から会議室へ。

話を途中で無理矢理切り上げ、少年の手を引きここへきた黒い少女は、すっぽりと彼の左隣の席に収まり、移動の際に彼から送られてきた作戦の確認を行なっている。

 

『むす...』

 

それをよく思わない、ミヤコ、サキ、アオイ、ハレ、ノアの五人。本日何度目かのむす...を炸裂させている。

あなたはこっちにいなさい、とユウカに引き剥がされたノアは先生の呼んだ生徒達のいる側の席へ。

記録係として自動的にハレが右隣に入り、センの後ろにミヤコ、アオイ、サキという構図が出来上がった。

 

「財務室長、あちらの席が空いてますが」

 

「立ったままでいいわ。そちらこそ座ったらどうかしら」

 

(流れで来てしまったが居心地悪いなここ...)

 

「なんか窓めっちゃ曇ってない?」

 

「あらあら〜」

 

離れた場所に座るモエとそれに同調して口元を隠して笑うハナコ。

それぞれの目の前に置いてある資料の端も、心なしかふやけているように思えた。

 

「ん、んんっ。全員揃ったようなので、これより対策会議を行います」

 

リンの咳払い。

ゲマトリアと言葉を交わしていたらしい先生も合流し、キヴォトスの明暗を分ける作戦会議が始まった。

出席者は以下の通り。◯は先生、*はセンによる招集者。

 

《連邦生徒会》

先生

高城セン

七神リン

扇喜アオイ

岩櫃アユム

由良木モモカ

 

《SRT特殊学園RABBIT小隊》

月雪ミヤコ

空井サキ

風倉モエ

霞沢ミユ

 

《ミレニアムサイエンススクール》

早瀬ユウカ◯

生塩ノア*

小鈎ハレ*

 

《ゲヘナ学園》

天雨アコ◯

鬼方カヨコ◯

 

《トリニティ総合学園》

浦和ハナコ◯

 

《アビドス高等学校》

奥空アヤネ◯

 

《百鬼夜行連合学院》

桐生キキョウ*

 

錚々たる顔ぶれ。

ここに、各校から通信で一部生徒が参加する。

 

「結論から申し上げますと、あれらの塔を二週間以内に破壊しなくてはなりません」

 

虚妄のサンクトゥム攻略戦

 

そう銘打って各地で展開される、キヴォトスの命運をかけた総力戦。

ミレニアムのエンジニア部、ヴェリタスがトリニティから得た情報を元に解析をした結果、各自治区に突き刺さった計6本の偽物のサンクトゥムタワーからは、人々を錯乱、狂気に陥らせる信号、光、怪電波を発しているのだという。

 

「うちの副部長の計算だと、約300時間後に臨界点に達して、光はキヴォトス全域を包み込む。そうなったらおしまい」

 

『削られた世界の破片が舞う中で、黒い光が天から舞い降り、世界が終焉へと傾いていく。キヴォトスの全ては崩壊し、塵一つ残らない虚無となる。これが私の予知夢の全容だ』

 

ハレの解説に、通信の向こうにいるセイアの補強が入る。

 

「それを防ぐために、塔を破壊する。まぁなんとも、シンプルな話ですね」

 

「二週間以内にね...骨が折れるわ」

 

「アビドス砂漠、D.U.近郊の遊園地、ミレニアム郊外の閉鎖地域、トリニティとゲヘナの境界付近、ミレニアム近郊の新しい都市、そしてD.U.の中心地点の六箇所」

 

「この中ですとD.U.のエネルギー体が一番大きいので、他五つを先に攻略、破壊してから臨むのがよいという結論に落ち着いたのですが、そう簡単に行きそうではなくて...センくん、説明をお願いします」

 

「ああ、ここからが本題だ。各塔の周囲には色彩が召喚したと思しき巨大エネミー...先生が過去に交戦した敵の複製体が守護者として虚妄のサンクトゥムを守っている」

 

デカグラマトンの預言者、エデン条約騒乱の際に顕現した祈る者、アミューズドールの怪異。

 

「い、一度にこれだけの敵を相手取らないといけないのか...!?」

 

「空井、そう身構えることでもない。こいつらは過去に先生と当番生徒が会敵し、打倒した敵、謂わば敗者の軍勢だ。色彩の手に堕ちたことで多少の変化は見受けられたが、キヴォトスの学園総出で対処すれば十分撃破可能だ」

 

「センくん、見受けられるというのは...?まるで、実際に彼らを見てきたかのような」

 

「俺の同期達が既に偵察を終えています、七神先輩。シャーレが持つ大決戦や総力戦のデータ、及び今回手に入った情報を元に、短期決戦用の部隊を編成。討伐にあたり、その後虚妄のサンクトゥムを破壊する。要約すればこの通りだ」

 

各自、作戦概要を送付するので参照してくれ。

 

「これだけのデータをこの短時間で揃えるなんて...さすが師匠の同期の方々」

 

「怪物掃討してからあまり時間経ってないと思うんだけど、そこから守護者へ転戦したの...?」

 

イカれた体力、伊達にキヴォトス各地の治安維持を担っていないということか。カヨコは戦慄した。

そして何より、会議の進行がスムーズだ。テンポの良さは今後行われる作戦への不安、悪い流れを霧散してくれる。

 

「ああ。そして今入った情報だが、何やら秘匿されていた第七のサンクトゥムがあったらしい」

 

「な...っ!?」

 

「大問題じゃない!すぐに編成の見直しを...」

 

「問題ない。守護者顕現前だったようで、現場に居合わせたミレニアムの飛鳥馬トキと共同で撃破、破壊も済ませたという」

 

「マジで何者なんだよ先輩たち...」

 

「師匠、決め手はやはり?」

 

「ああ、ダンボールだ」

 

「やはりダンボールは最強...!」

 

「もう私はツッコまないからな」

 

なんか目が血走ってるしガードを捨てて突っ込んでいくので怖かったです、とはトキ談。

 

「全自治区の住人の避難は既に終わっている。よって、各校の主力と呼べる生徒を前線に送り込むことが可能となった。戦術は主力を軸に考えるが、イレギュラーの発生は常に起こるものと仮定。本来であれば過剰とも呼べるだろうが、都市存亡の危機だ。油断はしない」

 

「裏で当該生徒への移動指示も伝えてあるから、あとは他の戦力の割り振りね」

 

《対ビナー》

トリニティ総合学園より、ティーパーティー

アビドス高等学校より、対策委員会

ゲヘナ学園より、便利屋68

 

《対シロ&クロ》

SRT特殊学園より、RABBIT小隊

 

《対ヒエロニムス》

アリウス分校より、アリウススクワッド

トリニティ総合学園より、シスターフッド

トリニティ総合学園より、救護騎士団

 

《対ケセド》

ゲヘナ学園より、風紀委員会

トリニティ総合学園より、正義実現委員会

レッドウィンターより、書記長率いる大隊各位

 

《対ホド》

ミレニアムより、セミナー、C&C、ゲーム開発部、ヴェリタス、エンジニア部

 

「わ、私たち単独で...色彩の相手を...?」

 

「今のおまえ達なら可能だと判断した。四人で対処できれば、他へ戦力が割ける。やれるな?」

 

「おまかせを。師匠のご期待に、必ずや応えて見せます」

 

「センくん、ホドとの戦いでは温泉開発部が役に立ってくれると思うんだ。彼女達も招集していいかな」

 

「.........................................................いいでしょう」

 

「ありがとう」

 

「(熟考だったね)」

 

「(お家...爆破されてるから...)」

 

「コホン...ここに招集された皆には、それぞれのバックアップ、俺や先生からの橋渡しに就いて欲しい」

 

デバイスを手に、センは該当生徒へ目を向ける。

 

「鬼方先輩、奥空さんは対ビナーに」

 

「了解」

 

「わかりました!」

 

「風倉は言わずもがな、対シロクロだ」

 

「ニシシ、任せとけって」

 

「ノアと早瀬ユウカさんには対ホドを任せる」

 

「了解です。ユウカちゃん、頑張りましょうね」

 

「ええ」

 

「対ケセドにはハレ、天雨行政官。頼むぞ」

 

「うん。失敗はちゃんと取り返すから」

 

「正義実現委員会とのコンタクトは、こちらで済ませておきます」

 

「了解した。ヒエロニムスは浦和ハナコさん、あなたにお願いします。俺の同期で現場指揮に向いている人間を一人つかせるので、上手く使ってください」

 

「わかりました...ふふっ、初対面だからでしょうか。同学年とはいえ、私やユウカさんのことは名前で呼んでくださらないのですね?」

 

「む、お気に召しませんでしたか、失礼しました。今後は名前呼びでも?」

 

「はい、是非に。私も下...好きですから♡」

 

ゾワッ

 

ハナコは気付いた。

この場にいる六人...ミヤコ、サキ、アオイ、ハレ、ノア、キキョウからの視線。妬み、嫉み、恨みといった負の感情、殺気にも似た威圧感が、自身を突き刺していることを。

 

「「「「「...」」」」」

 

「冗談です〜」

 

圧が霧散、ホッと一息。

このメンバーがいる中での下ネタ、特にセンに対してのものは死に繋がりかねないと、彼女は学んだ。

 

「話はまとまりましたね」

 

虚妄のサンクトゥムの臨界点、そのカウントダウンが始まる。

およそ二週間で破壊し切ることは可能なのか、それはやってみなければ分からない。

ただ、ここにいるメンバー全員に後ろ向きな気配は見受けられず、寧ろやってやろうという気概に満ちていた。

 

「それではこれより、虚妄のサンクトゥム攻略戦を開始する!」

 

白き衣、連邦生徒会長の証を羽織る少年は、高らかに宣言した。

 

 

 

********************

 

 

 

「それで、私に何か言うことがあるでしょう?」

 

それぞれが持ち場につき、戦闘の準備を進める裏で、キキョウはセンに接触した。

逃げないように彼の袖を掴み、睨みを効かせながら。

もっとも、彼としても何か話さねば、伝えなければという想いはあったらしく、キキョウの配置はセンの補佐。

どさくさに逃げようという魂胆が無いのは、良いことだ。

 

「...その、すまなかった」

 

「何に対して?」

 

「...キミの元を無断で去り、その後連絡の一つもよこさず、二年ぶりに電話をかけたかと思えば開口一番手伝えと言ったことだ」

 

「満点解答。自覚もあるようで何より」

 

「いだだっ」

 

手の甲を抓るのは、キキョウにとっての憂さ晴らし。軽い悲鳴が上がるも、もっと反省しなさいと指の力を強める。

 

「今度同じようなことしたら、これ以上に痛めつけるから」

 

「わかった、わかったから」

 

「誰に誓う?」

 

「連邦生徒会ちょ...嘘、嘘だ、違う間違えた。先生...でもない痛い痛い、キミに、キミに誓う。桐生キキョウに誓って、今後一切あのような行動は取らないと誓う」

 

「よろしい」

 

「うおっ」

 

痛みが無くなったと思いきや、懐にキキョウが飛びつく。

心臓のある左胸に耳を当て、あの日背中越しに感じていた心音を確かめる。

 

「...本当に、心配したんだから」

 

「...悪かった」

 

「でも、私を頼ったのは正解。二年前の会話、覚えていたなんて」

 

私だけだと思ってた。

少女の言葉に、少年はいいやと答える。

 

「あそこまで自分の内を曝け出したのも珍しい。よく覚えているよ。キミに叱責を受けたのも、キミを頼ると言ったのも」

 

「...ん、ならもう全部許す」

 

最後にスーッとセンの匂いを鼻に刻んで、ゆっくりと離れた。

 

「あの時私はあなたの側にいなかったけど、今は違う。必ず、私があなたを守るから」

 

「───ああ」

 

あの日と変わらない、彼女らしい綺麗な微笑みを懐かしみつつ、センは頷いた。

 

大決戦が、始まる───。

 




高城セン:たとえ終わりがないとしても、愚かな望みだとわかっていても、彼は今の世界が許せなかった。二年前に炎は一度消えたが、それは再び蘇りつつある。

桐生キキョウ:連邦生徒会長に次ぐ、センの理解者。休日や出張で顔を出す彼を家に泊め、手料理を振る舞ったりしていた。連邦生徒会とのコラボ企画と際して、レンゲも含めた三人でラーメン屋台を出してお祭りを盛り上げたこともある。その時に客として来た現ヴァルキューレの二年生に味と顔、加えて戦術勘を認知され、キキョウ姐さんと親しまれる。百花繚乱に入る前から魑魅一座やチンピラを三人でしばき倒していたので、アヤメがスカウトに来た。

不破レンゲ:珍しく恋愛感情の無い、センの親友。百花繚乱に入ったら忙しくて青春どころじゃなくなるかも、といった彼女の不安に対して、センは確かにと同調。以降、休暇に百鬼夜行を訪れては三人で様々な部活事にチャレンジしたり、屋台を出したりして思い出に彩りを与えていた。なので、原作ほど青春にコンプレックスは抱いておらず、メンタルブレイクしたキキョウを支えるなど、親友としての役割を全うした。

勘解由小路ユカリ:センと接点は無いものの、二人から噂は予々聞いている。会ったら会ったで気は合うし、後輩力全開で甘える。キキョウは反吐を吐く。

御稜ナグサ:センから厨二病だと思われている。キキョウ怖過ぎてぴえん状態。

今後のシュロたそ:泣いていい。



はっきり言っておきます。
桐生キキョウは強い。

感想、評価、お気に入り、ここすき、誤字報告、いつもありがとうございます。励みになります。

次回、遂に色彩との本格的な戦闘が開始されます。選出メンバーの殺意の高さに咽び泣いて、どうぞ。
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