ワイ『ダンボールは万の事に使いけり』 ミヤコ『流石です師匠』   作:\コメット/

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確かに袖の余る服と黒縁メガネってヨン様だよな...勘違いもわかりみ。

すみません、私の書き方が悪かったです。

先生、先生なんです...!

便利屋先生を参考にしたんです...!




03 これより、常勝無敗を打ち破る。

 

 

「誰だ?あいつ」

 

補給のために戻ってきたサキ、ミユ。少し遅れてミヤコも到着し、モエとセンも含めた五人は新たにやってきた刺客へと目を向ける。

どこか飄々としたその青年は、一見取るに足らない存在にも見えたが、肩書きがそうさせない。

 

「連邦生徒会お抱えの機関、シャーレの先生だ」

 

「あれが、エデン条約騒乱を治めたという...」

 

十字と円を重ねてヘイローを頂くエンブレムが、制服の胸元で輝いている。

独立連邦捜査部S.C.H.A.L.E、キヴォトス中のありとあらゆる生徒のお悩み相談と事件解決を担っており、彼の織りなす指揮手腕は僅か数人の生徒を一つの精鋭部隊にまで仕立て上げてしまうのだとか。

 

「見たところ大したこと無さそうだが」

 

「そう思うのも仕方ない。彼は前線に出るのではなく、後衛で指示を飛ばす指揮者だからな。こと戦術においては、キヴォトスで彼の右に出る者はそういないだろう」

 

「師匠よりも、ですか?」

 

「───さて、どうかな」

 

強がりである。

シャーレの彼は、主人公だ。物語のハッピーエンドを司る、絶対の存在。

ただの舞台装置である自分では役者不足だと、センは思っていた。

 

(だが、カードはこちらの方が上。いくら指揮者が俺より有能でも、扱う手札がノーマルならばやりようはある)

 

先を読め。

先生の出方を、やり方を、術を、予測しろ。

こちらにはジャックからスペードまでの強カードが揃っているのだ。

 

「キャンプRABBIT、彼に関わるデータを集めろ。10分やる」

 

「5分で充分だってーの」

 

「頼む。三人は外で警戒に───」

 

モエの作った猶予の5分、これは大きい。相手の戦術を見極めるには数秒でも欲しいのが実情だ。

そのための時間を稼ぎたいと思い、ミヤコ達を外へ出し警戒にあてさせようとしたところ、彼はある物に気づいた。

 

「あれは...」

 

それは、大型のレンズの付いたドローンだった。

 

「ん?ああ、クロノスの中継用ドローンだな。こちらの動きを知られるとマズいんだろう?MANPADSでも食らわせるか?」

 

「───いいや、丁度いい」

 

企みを思い付いた目、笑み。

 

「キャンプRABBIT、あれはキヴォトス全域に生放送しているのか?」

 

「待ってな.........あー、っぽいね。ほら」

 

「わ、私達が映ってる...」

 

「RABBIT1、ここでアレをやる。若干前倒しだが、ギャラリーは多い方がいいからな。アドリブも効かせて、長引かせろ」

 

「了解です」

 

「RABBIT4はポイントα、RABBIT2はここで別命あるまで待機だ」

 

「アレってなんだ?」

 

「さぁ?合体か優勝でもするんじゃないの?」

 

残念ながら某ドリルロボットでも、言わない方が勝つ猛虎軍団でもない。

 

「我に秘策あり」

 

モエから送られてくるデータを一覧する彼の目はそう物語っていた。

 

 

 

********************

 

 

 

「この子達が、RABBIT小隊か...」

 

クロノスの中継ドローンに映る、ウサ耳を模したヘッドセットやヘルメットを被る少女達。

チラリと見えたブレーンと思われる少年の指示にテキパキ動く様を拝見し、流石に訓練されているなと改めて脅威を再認識する。

 

「...あいつは」

 

「どうしたの?カンナ」

 

「あぁ...いえ。昔いた後輩と顔つきが似ていると言いますか、だとするとこの手腕も納得だと思いまして」

 

「この、男の子のことかな」

 

「はい」

 

白い肌、黒い髪に、切れ長の目、瞳の色はアメジスト。

座っているにも関わらず、そのスラリと長い足により高身長を隠さない。

ヘイローを持たない一般人、とても希少で、同時に異質な美少年。

カメラが外れ姿が見えなくなるが、一瞬ではあるものの彼という存在は先生の目に焼きついた。

 

「所見だけど、油断できる相手では無さそうだね」

 

「実際その通りです。私の後輩で、中等部の頃は敏腕の戦術家として名を馳せていました。ある時から消息を絶っていたのですが、まさかこんなところで燻っているとは...」

 

「彼、そんなにすごいんだ」

 

「ええ。相手に先生、あなたがいるという認識でかかった方がいいかと」

 

「私はそこまで大した人間ではないけど」

 

「ご冗談を。お噂は予々耳にしています」

 

数多くの生徒達の要望に応え、救済を施している大人の鑑。

少数の生徒で空崎ヒナ不在のゲヘナ風紀委員会を返り討ち、その後はカイザーPMCの陰謀を打破。

ミレニアムのビッグシスターの思惑を打ち砕くだけでなく、エデン条約調印式の襲撃事件においては深傷を負いながらも解決に導いたという。

まさしく、軍師という言葉は彼に対して使われるのだろう。

 

「さて、状況はどんな感じかな?」

 

「そうですね...兵力はもう殆どありません。士気も底をついており、当初は数で押す作戦だったのですが向こうに的確に対処されてしまい、消耗すらさせられず...おまけに残りの人員も」

 

「お待たせしました!生活安全局のキリノです!」

 

「ありゃりゃ、なにこの雰囲気。もう私たちの出る幕じゃなくない?」

 

「...この通り、戦力にならない生活安全局のみです」

 

充てになる戦力が到着すると同時に、ため息を吐くカンナ。

なんのことだろう、と首を傾げる中務キリノと、帰ってドーナツ食べたいと欠伸をする合歓垣フブキの二人は、D.Uの市民を守る組織、生活安全局に在籍している。

治安維持部隊、と聞けば聞こえはいいが、戦闘に適さない少女達を寄せ集めた劣等者集団というのが実態だ。

このような案件に首を突っ込ませるほどの戦力には値しない。

 

「先生!お疲れ様です、奇遇ですね!もしかして、我々の手伝いに来てくださったのですか?」

 

であれば勝利は確実!急ぎ突入しましょう!と意気込むキリノの首根っこを、カンナは冷静に掴み、取り押さえた。

 

「馬鹿者、勝手に動くな。おまえたちが行って何になる。碌な装備も無く、技術も無い...故に生活安全局にいるのではないか?」

 

「み、身の程は弁えています!ですが、この騒ぎに不安がる市民の方々を放ってはおけず...」

 

「...その意気は買ってやる。しかし、気合いだけでは...」

 

キリノなりに考えあっての行動を称賛しつつも、結果が見えている戦に態々放り込むことはできない。

冷静に諭すカンナだったが、あることに気づく。

 

「...先生」

 

「うん。彼女達、何かやるらしいね」

 

クロノスが映し出す映像に、現場は目を向ける。

 

 

 

『キヴォトスの皆さん、こんにちは。私はSRT特殊学園RABBIT小隊所属、一年生の月雪ミヤコといいます』

 

 

 

それは、丁寧なお辞儀と自己紹介から始まった。

ウサ耳を模したヘッドセット、精鋭部隊を思わせる各種装備、長い銀髪をポニーテールにした、一年生と名乗った通りまだまだ初々しさが残る少女。

それでも、その立ち姿は中継を見る人々の目を確かに射止め、疑問を抱かせた。本当に彼女が、ヴァルキューレを相手取りデモを行う反乱分子なのかと。

 

『現在、私達RABBIT小隊は、学び舎であるSRTの閉校撤回を求め、D.Uのとある公園でデモ活動を行っています。そして、この行動を良しとしない連邦生徒会、ヴァルキューレの警備局、公安局の部隊を、先ほど無力化しました』

 

先生の隣にいるカンナが、自身の不甲斐無さを憎み奥歯を噛み締める。

 

『先ずは、この戦闘による騒音等でご迷惑をおかけした市民の皆様に謝罪を...申し訳ありません』

 

深々と、初手の挨拶以上にミヤコは頭を下げた。

数秒の後姿勢を元に戻し、言葉を続ける。

 

『ですが、どうかご理解を。私達は皆様に...キヴォトスに住む全ての人々に危害を加えるつもりは、一切ありません。公正に正義を成したい、その一心なのです』

 

アビドスが、ゲヘナが、トリニティが、ミレニアムが、レッドウィンターが、山海経が、百鬼夜行が、数多の学園に住まう生徒達が、どこにも属さず各地を転々とする生徒達が、銀色の少女の一挙手一投足に注目している。

 

『私達SRTは、命令権を持つ連邦生徒会長の失踪により、今は閉校の危機に瀕しています。ヴァルキューレ警察学校との併合という形で、事態は収集されるはずでしたが、そこで我々は異を唱えました』

 

それは、なぜか。

 

『ヴァルキューレが掲げる正義は、SRTの正義とは違います。彼女達なりの信念があることは、勿論理解しているつもりです。しかし、それは本当の正義ではありません』

 

少女の胸に、プロテクターの上からギュッと、両手が握られる。

 

『正義とは何か、私はこう考えます。正義とは、理に適った正しい道理のこと。相手間との利害関係、その場の状況で改変されるようなものでは、断じて無い、不変のものです。SRT特殊学園は、真っ直ぐで屈強な一つの正義を常に追求する組織でした』

 

おまえの抱えているものを、吐き出してこい。

センの言うアレとは、人々の集う場でのミヤコのスピーチ。

キミの白く正しい正義を証明してこいと、彼は命じたのだ。

 

『正義の組織ならば、こうしてヴァルキューレと相対しているのはおかしい。そう捉えられても仕方ありません。私達もこれが正規の、正しい行いだという認識は持っていません...しかし、必要な行動だということをわかって欲しいのです。RABBIT小隊の隊員数は、僅か五人。対してヴァルキューレがここまで投じた戦力は、百人はくだらないでしょう。そしてどうなったのか...結果は見ての通り。無傷で我々が勝利しました』

 

この意味がわかるでしょうか。

語りかけるミヤコ、その答えに耳を傾ける民衆。

 

『我々SRT特殊学園の強さと、ヴァルキューレ警察学校の脆弱性が、ここに露見したという訳です』

 

手厳しいっすねー。

公安局副局長は、自身のデスクでニヤニヤとその配信を見ている。

 

『しかし、それは仕方ないことなのです。我々SRTには、連邦生徒会長による他自治区への強制介入権というものがあり、武力への制限が殆どありません。一方のヴァルキューレは、各自地区に駐屯することでそこでの行動を認められていますが、活動権はその地での法則に大きく左右されます。此度の作戦でも、私たちは使える爆弾の類を彼女達は使うことができませんでした』

 

市民に騒音で迷惑がかかる、だけではない。

余程のことでもない限り、高火力な武装を使うことが禁止されているのだ。たった四人に弾薬も節約され制圧されてしまった現状を鑑みれば余程のことだったのだろうが、これに関しては規則が悪い。

センとRABBIT小隊は、そこを突いたのだ。

 

『いいですか、我々SRT特殊学園と、ヴァルキューレ警察学校は違うのです。それぞれの掲げる正義だけではありません。事件に対しての動ける範囲、武力介入を行える優位性、扱える武装の豊富さ、個々の生徒の実力。言い換えれば、ヴァルキューレが解決できない事件を解決するために、SRT特殊学園が存在しているのです』

 

二校の違いを、少女は淡々と明示していく。

 

『そのSRTが無くなっては、キヴォトスはどうなるでしょうか。ただでさえ悪い治安は、更に悪化の一途を辿るかもしれません。法則の抑止により、助けられる人々の命を見捨てることになるかもしれません───それが、私には耐えられない』

 

真摯な願いを、想いを、少女は届ける。

 

『ですので、市民の皆様にはどうか、この抗議活動を容認して欲しいのです。そして願わくば、支持して頂きたい。私達SRTが存在することによって、キヴォトスの平和の一旦の助力になり得るのです。これはヴァルキューレの皆様へのお願いでもあります』

 

「...なに?」

 

『SRTにとって、ヴァルキューレは敵ではありません。もちろん、連邦生徒会も』

 

その敵ではない、は文字通りの意味なのか。

それとも、相手にならない方の意味なのか。

はたまた、どちらの意味も含んでいるのか。

 

『私の敵は常に、自分勝手な道理を振り翳し市民に仇なす、悪しき者達です。この観点からすれば、打倒すべき相手はヴァルキューレも私達と同じと考えています。であれば、ここで互いに争っている暇などありません』

 

見据えるのはドローンのカメラ。しかし、ミヤコはその先にいる全ての人に向けて、言葉を送る。

 

『どうか、閉校の件についてはご再考を。叶わないのであれば、他の自治区の皆様。我々にご支持をください。それがひいてはSRTの、果てにはキヴォトス全土の平和へと繋がります。どうか、どうか.........』

 

ウサ耳を揺らし、頭を下げるミヤコ。

それがスピーチの終わりを意味していると分かったクロノスは、一度ドローンを撤退させる。

中継が終わり、現場には沈黙が訪れた。

 

(...やられた)

 

内心悪態を吐くカンナ。

先ほどのスピーチには、様々な意味合いが込められている。

彼女達の抱く想いを伝える、それだけではない。

これには各自地区への牽制も兼ねている。

ただの実績も何もない集団が言えば、知らぬ存ぜぬでRABBIT小隊は駆逐対象になっただろう。

だが、彼女達は示した。

力を。

強さを。

正義を。

 

(これでは、手を出した方が悪人じゃないか...!)

 

健全で真っ直ぐな正義を謳うミヤコ達を攻撃する、それはつまり平和を願う生徒への弾圧を意味する。

そして、その抑止力はシャーレにも多大なる影響があった。

独立連邦捜査部S.C.H.A.L.E、学園都市キヴォトスの特異点的存在であり、その介入力はSRTを超える。

連邦生徒会長の命令を挟まなければならない後者だが、前者は元より権限を与えられた機関であるため、物事へ顔を出す早さというのはキヴォトス1だろう。

ここに各校の生徒を集め、編成。事態の収拾にあたる。この、最後の、生徒を集めての編隊というのが、シャーレが最も誇る権限だ。

───そう。

各校生徒の招集が、先生の持ち味。

 

 

 

ミヤコのスピーチは、各自地区の生徒を招集できるというシャーレの権限を、封じたのだ。

 

 

 

「なるほど」

 

彼も気づいたようだ。

焦るカンナとは違い、落ち着いた様子ではあるが、ことの重さは理解しているらしい。

 

「キリノ、フブキ、準備はいいかな」

 

「───はい?」

 

この人は今し方の演説を本当に聞いていたのか?

 

「中務キリノ、いつでも準備万端です!」

 

「え〜結局行くの〜?折角サボれると思ったのに」

 

「お、お待ちください先生!正気ですか?いくらあなたでも、今の戦力で...彼女達の助力のみで、RABBIT小隊を打倒するなど不可能です!」

 

「そうだね」

 

「であれば...!」

 

「でも、やってみなければ分からない」

 

彼には何が見えているのか。

何を見据え、何を思ってそう言えるのか、カンナにはわからなかった。

 

「公安局で怪我をしていない数人を借りるよ。合図をしたら、あそこの監視ドローンを撃って」

 

「...本気なのですね」

 

「うん。失敗の責任は、私に被せて構わない。それが大人の役目だからね」

 

白いコートを翻し、青年は正義を語る少女を思い、

 

(ごめんね)

 

そう心の中で呟いてから、キリノとフブキ、公安局生徒と共に子ウサギ公園内部へと向かった。

 

 

 

********************

 

 

 

「こ、こんな感じでどうでしょうか」

 

「good jobだ、RABBIT1。対応策を考えるには十分過ぎる時間だった」

 

連邦生徒会が行う普段のくだらない会見よりも実に有意義で意味のある演説に、命じたセンも満点を付ける。

 

『ミヤコちゃん、すごかった...堂々としてて...』

 

「ありがとうございます。でも、一応コードネームで、RABBIT4」

 

『あ、そうだった...』

 

「このまま向こうも大人しくなってくれればいいんだけどねぇ」

 

「最善はそうだな...しかし、あの先生のことだ。どのような劣勢であっても、動いてくるだろう」

 

エデン条約騒乱を治めた彼ならば、必ず。

彼にとっての行動原理が生徒の救済であり、ヴァルキューレもそれに該当する。故に、先生が立ち塞がるのは最早必然だ。

 

「...ヘッドRABBIT」

 

「どうした」

 

他と比べ、妙に静かなサキ。彼女の呼び掛けに『?』を浮かべながらも、ノータイムでセンは聞き返した。

 

「なんというか、その...」

 

「なんだ、歯切れが悪い。おまえらしくもないぞ、マニュアル兎」

 

「誰が...っ!...いや、その...悪かったよ」

 

「...?」

 

「...おまえを指揮者に据えるのを、愚行だと罵ったことだ。これだけの戦果を提示されては、流石の私も自分の愚かさを自覚する」

 

「相変わらず頭が固いな」

 

「おまえこそ、一々一言多い...」

 

「あの状況で、疑いの目を向けない方が愚行だろう。これは他のメンバーを罵ったわけではないぞ?RABBIT2、おまえは正常であり、優秀だ。まず初めに一歩引いて物事に当たるのは、誰にでもできることではない。それは生まれながらに...それとも、学園にいたからこそ培った技能なのか?」

 

であれば、尚更SRTを閉校させる訳にはいかない。

これほど将来的に有望な生徒を輩出する学校を潰す、それはキヴォトスにとっての不利益だ。

 

「元々の性格だよ、おそらく悪い寄りの」

 

「なら、良い短所だ。長所は短所になり得るし、その逆もまた然り。重要なのは、それとどう向き合っていくかだ。改善も時には必要だが...おまえのソレは、より洗練させていくべきもの。将来はきっと、下級生を導く素晴らしい上職になる。この俺が保証してやろう」

 

「まったく、どこまでも上から目線だな」

 

いい加減ツッコむのも疲れてきた。サキは肩をすくめる動作を取るが、その表情はどこか楽しげだ。

 

「お、ヘッドRABBIT。向こうさんこっちの見張りドローン壊したっぽい」

 

「動いたか」

 

そうでなくては面白くない。

無策での特攻、とは考え難い。何か考えがあってのことだろう。

 

「RABBIT小隊各位、持ち場につけ。常勝無敗の軍師に、目にもの見せてやろうではないか」

 

『了解』

 

モエ以外の三人が、指定されたポイントへと向かう。

 

「キャンプRABBIT、敵は追えているな?」

 

「もち。数は先生含めて10人。特段目立った陣形を組んでるわけでもないかな...あ、映像ドローン壊された」

 

「徹底しているな。ルートから察するに、向かったのはRABBIT4の持ち場か...」

 

先生側にはこちらの情報を全て網羅されていると考えていいだろう。公園の地理も、隊員の能力も、センの指揮者としての力も把握し、あらゆる可能性を考慮した作戦を使ってくるはずだ。

 

「地理情報から算出し、RABBIT4がいる位置を予測したか...確かに、先に狙うなら彼女だろう。事前に敵のデータが見れるなら、俺でも狙う。RABBIT4、聞こえるか?」

 

『は、はい。どう......まし...か?』

 

ノイズが入る。

恐らく敵のジャミングか、まったく手が早い。

ならばこちらと同じく、通信の向こうにいるミユには耳障りな音が含まれた声が聞こえているに違いない。

 

「RABBIT4、一度しか言わんぞ」

 

『は、...い!』

 

努めて大きめの声で、センは少女に告げる。

 

「おまえに任せる」

 

それだけ。

たったそれだけを口にし、センは通信を切りモニターへと向かう。

その様子を片手間に見ていたのは、モエ。

 

「え〜?そんなんじゃミユに通じないって。キヴォトス自己肯定感グランプリ開催したらダントツでワースト一位だよあの子」

 

「酷評だな...たしかに、キャンプRABBITの言い分も分かる。彼女は根暗で、ネガティブで、自身を過小評価しかしないメンタルクソ雑魚スナイパーだ」

 

「私そこまで言ってないが?」

 

本人のいない場所で散々な言われようである。

 

「だが、僅かでいい。ほんの少しの気の持ちようで、人は変われるんだ。良い方にも、悪い方にも」

 

「でも時期にもよるっしょ。今日じゃないかもしれないよ?」

 

「逆に、今日かもしれない」

 

「意外とギャンブル気質だなぁ、ヘッド」

 

「これは賭けではない。指導や教育の一環だ、キャンプRABBIT。分かったら集中しろ」

 

「りょーかいりょーかい」

 

その後は、キーボードをタップする音だけがテント内に響く。

各々が勝利のために、シャーレを打ち負かさんと努めるのだった。

 

 

 

********************

 

 

 

(む、無理...!)

 

指示を飛ばされ、通信を一方的に切られた直後ミユが思ったのは、ソレだった。

機材や通信網へのジャミングにより、彼女は一人隔離。分かっているのは敵がこちらへ進軍してきていること、以上。

 

『おまえに任せる』

 

「うぅ...無理...ですよ...」

 

ただ一言、声に出せば1秒で言い終わるくらいには短いヘッドRABBITからの命令。

それが、重く重く自己肯定感の低いミユにのしかかる。

先ほどまで公安局を相手に無双していた筈なのに、気づけば盤上を歪められ、一人寂しく敵を迎え撃つ羽目に。

 

「怖い...怖い...」

 

役に立てていたから忘れていた。

忘れていたからどうにか戦えていた。

自分がこうも簡単に自信を喪失してしまうほど、心が弱いことを。

今の沈んだ自分を見れば、恐らくサキはキツく罵るだろう。SRTのエリートとして、もっと自覚と誇りを持てと、厳しい言葉を投げかけてくる筈だ。

しかし、今この場にそんな口煩い彼女はいない。

その事実が、余計にミユの恐怖を駆り立てた。

 

「学校、帰りたい...あ、学校閉鎖されたんだった...私の帰れる場所は...」

 

もう、どこにもない。

無くなったならまた勝ち取ればいいと、そうポジティブに考えられればどれ程良かったか。

 

「こうなったらもう、今更ヴァルキューレに降伏しても居場所なんて...」

 

怖いと思えば思うほど、視野は狭まり選択の幅も減少する。

 

そして、それは致命的な隙へと繋がってしまう。

 

コロコロ...

 

「え?」

 

足元に転がってきた一つの球体。

 

バシュッ

 

「ひっ!?」

 

それから弾くような破裂音が鳴り響くと同時に、大量のスモークが周囲を満たす。

 

(て、敵?襲撃?ど、どうしよう...っ)

 

助けは呼べない。

通信の類はジャミングにより無効化され、大声を上げて小隊メンバーを呼ぼうものなら真っ先に敵に気づかれ、蜂の巣にされるだろう。

 

「お、いたいた。おーい、大丈夫?」

 

パニックで頭と心臓が破裂しそうになっていた最中、救済とも思える声がミユの耳に届く。

煙の向こうにいるため薄らとだが、

 

「サキちゃん?」

 

隊で最も規律を重んじる少女の姿に酷似していると、思った。

 

「そうそう!突然煙幕が焚かれたから何事かと思って、様子を見にきたって感じ」

 

「そ、そうなんだ...。でも、サキちゃんの持ち場って結構遠かったような...」

 

「リーダーに頼まれたんだよ、様子を見に行ってくれって。怪我はない?」

 

「うん...」

 

何か、変だ。

仲間と合流できた安堵は、次第に相手への警戒へと変わる。

 

(口調も、思えば声音も、サキちゃんとは似ても似つかない...)

 

スモークグレネードが炸裂した後に出てきたタイミングといい、あまりにも出来すぎている。

それに、あのヘッドRABBITが持ち場を離れさせてまでRABBIT2をここまで派遣させるだろうか。

 

───そもそも、

 

『おまえに任せる』

 

あの言葉が、頭の中で反響している。

ジャミングにより途切れ途切れだったが、いつもより大きな声で発してくれたセンの命令が、独り任された恐怖に打ちひしがれていた心の奥底から、浮上を始めた。

 

「...声は、どうしたの?」

 

「あー、ちょっと煙を吸っちゃって。ゴホッゴホッ」

 

「武装の扱いに長けてるサキちゃんでも...そういうことがあるんだ」

 

「そういうこと。ほら、とにかく大丈夫だからさ、ひとまず銃下ろそう?」

 

煙に紛れながら、手を広げてこちらへ近づいてくる人影。

それに対して、ミユは愛銃であるRABBIT-39式小銃をゆっくりと構えた。

 

「へ?」

 

隠密のために銃身に布が巻かれたスナイパーライフルを前に、素っ頓狂な声をあげてピタリと制止する───偽物のサキ。

 

「ど、どうしたのさ。敵じゃないって、私はRABBIT小隊の...」

 

「...まだ、怖いです」

 

「え?」

 

「独りでいること、学園が無くなること...誰からも忘れられてしまうこと。全部が、私にとっては怖くて、仕方ない」

 

心臓が高鳴る。

今すぐにでも、普段から自分を気にかけてくれるミヤコに助けを求めたい。悲鳴をあげ、一目散に逃げたいのが本音だ。

だけど、

 

「だけど...あの人が、任せてくれたから」

 

思えば、彼はミユとコミュニケーションを取る時、最大限の気を遣ってくれていた。

声を荒げず、小心者というのを理解した上で接し、過度な干渉はせず、否定をせず、何度も合槌を打って、ミユを知ろうとしてくれた。

暗いゴミ箱の中で腐っていくだけの自分を、見捨てずに拾い上げようとしてくれた。

 

だから恐怖に溺れようとも、せめて、その期待には、信頼には、応えたい。

 

(こんなゴミクズの私でも、誰かのために頑張りたい)

 

霞沢ミユは、一筋の光明を掴んだ。

 

「ファイア...!」

 

ダンッ!!

 

「ふぎゃあ!?」

 

煙幕を突き破り、豪砲が人影を捉えた。防御の動作をしなかった対象は地面に倒れ、目を回す。

 

「や、やっぱりサキちゃんじゃなかった...」

 

場を掻き回されては面倒と思い抜け目なく拘束しようとした時に、ようやく自分の判断は誤りでは無かったと気づいた。

監視のドローンに映っていた、生活安全局の生徒。

 

「もう少し口調を真似られてたら、騙されてたかも...」

 

衝撃により気絶している少女、合歓垣フブキは大根役者であったが、状況が状況だったため、テンパって術中にハマっていた未来がもしかするとあったかもしれない。

 

『こちらヘッドRABBIT。RABBIT4、聞こえるか』

 

拘束が終わったところで、通信が回復。

 

「は、はい!聞こえてます!」

 

『そちらからも良好だ。ジャミングを行っていた機器をRABBIT2が破壊したらしい。そちらに異常は無いか?』

 

「一名、生活安全局の生徒さんを無力化しました。これから警戒に当たりながら、二人の援護に向かいます」

 

『了解。RABBIT2が敵と交戦中だ。今からポイントを送る』

 

「わかりました」

 

『───おまえの有る無しで、この小隊の戦力は大きく変わる。任せて良かったよ』

 

「え、えぇ!?あ、あの...!」

 

突然の褒めに動揺を隠せず、追及の前にブツリと通信を切られた。

 

「任せて、良かった...」

 

他人から賛美を受けたのは、いつ以来だろう。

 

「え、えへへ...」

 

上がる口角を必死に抑えつつ、ミユは次なる戦線へと移動を開始した。

 

 

 

********************

 

 

 

「...ふむ」

 

キーボードから手を離し、顎に手を当て考える所作を取るセン。

こいつホームレスの癖に一つ一つが絵になるからウケるしウゼーなぁという隣からの視線など気にせず、彼は思考を張り巡らせる。

 

(向こうに四人のデータがある場合、先生は間違いなくそれを利用してくる。現に、動揺を誘ってミユ嬢を崩そうとしていたことから、一人一人の個人情報は網羅されていると考えていいだろう)

 

その不利を一人で跳ね除けたことを、センは内心拍手喝采でミユを讃える。

 

(先勝はこちら。もしミユ嬢を落とすことが出来ていれば、恐らくこの本部かRABBIT2辺りに伏兵を向かわせていたと考えていい)

 

だが、作戦は失敗に終わった。

 

(失敗を想定し作戦を考案するのが指揮官だ。先生の次なる手は...)

 

正直、ただでさえ今までより戦力も人数も少ない生活安全局と動けるだけの公安局の人員で一体何ができるのかというのが本音だ。

 

(しかし、形容できない得体の知れなさ...これがいつまで経っても晴れん)

 

故に、油断も慢心も不要。

徹底的に、先生に敗北を認めさせなくては。

 

「席を外す。ここは任せるぞ、キャンプRABBIT」

 

「はぁ?別いいけど、どこいくんだ?」

 

「ポイントαだ。RABBIT1、恐らくそこに先生がくる。十全の準備をして待機しろ、俺も行く」

 

『了解。ですが、ヘッドRABBITが態々出てくる意味は...』

 

「向こうは指揮官が前線に出ているんだ。俺も習うとする。それに...」

 

 

 

王が動かねば、兵は付いてこないだろう?

 

 

 

勝負が決する刻は、近い。

 

 




作戦終了後、ミユの呼び方はミユ嬢になる模様。それぐらい気に入ってます。

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