ワイ『ダンボールは万の事に使いけり』 ミヤコ『流石です師匠』   作:\コメット/

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皆様の意見、拝見しています。




04 勝利への秘策は、最後まで残しておくものだ。

 

 

RABBIT小隊がαと呼ぶポイントは、子ウサギ公園の敷地内において元々は建造物の少なかった広場のことを指す。

人気のあった頃は子供達が走り回って遊んでいた芝生の中央には、そこそこの高さの見張り台と、それを守るようにダンボールの隔壁が展開されている。

どちらもRABBIT小隊が設置したもので、高台はミユの数ある狙撃ポイントの一つだ。

そんな、もはや公園と呼ぶには物騒が過ぎる魔改造された場所に、ミヤコはいた。

 

「───」

 

まるで、挑戦者を待ち構える道場主が如く。

 

「見つけました!」

 

センの命令通りに万全の状態で待機していた彼女の元に、二つの影が近づく。

一人はヴァルキューレ生活安全局、もう一人は連邦生徒会の制服、どちらも白いその服を着用している。

正面から、ミヤコは彼彼女と対峙した。

 

「先生の言った通り、ここでしたか...!そのまま動かないでください!市民の皆さんが使う公園の占拠、そして凡ゆる武装を用いて市民の平和を脅かす行為、見過ごせません!申し訳ありませんが、拘束させていただきます!」

 

「...」

 

「本官の指示に従い、手を挙げて投降を!」

 

銃口を向けられている切羽詰まった状況でも、RABBIT1は敵の分析をやめない。

 

(モエの話では、敵の数は10人。1人はミユが拘束し、目の前にいるのは2人。残り7人は...サキと、モエのドローンが相手をしている人数と一致しますね)

 

ドローンでの監視は今も継続している。

追加戦力は無いとのことなので、あとは目の前の敵を無力化すれば丸く収まる。

 

(シャーレは連邦生徒会直轄の組織。彼の身柄を確保したあと、上と通じてもらえれば交渉の席を用意することができる。これは、願っても無い大チャンスです)

 

降伏はしない。する必要がない。

ミヤコは投稿の意思を示す両手を挙げる行為をせず、愛銃を生活安全局の少女───キリノへと向けた。

 

「あくまでも、抵抗するのですね」

 

「はい。ヴァルキューレや市民の皆さんへの謝罪は、ことが済んだのちに誠心誠意行います」

 

続いて、こちらからも要求ですと今度はミヤコが二人へ勧告する。

 

「願わくば、投降を。シャーレの先生、あなたが連邦生徒会との橋渡しとなり交渉の席を用意してくだされば、ここで無駄に争うこともありません」

 

「悪いけど、それはできない」

 

「...そうですか」

 

であれば仕方ありません。

数瞬の沈黙、次いで互いの銃器が金属音を奏でた。

 

「中務キリノ、発砲します!」

 

「戦闘開始、対応します」

 

 

 

「待った」

 

 

 

激戦必死の銃撃戦が始まろうとした直後、一人の男の声が場に響いた。

キリノ側にいる先生、ではない。ミヤコの立つダンボールバリケードの後ろから、ゆっくりと彼は現れた。

 

「RABBIT1、少し彼と話をしたい。時間を貰うぞ」

 

「ししょ...ヘッドRABBIT、了解です。ですが、警戒は継続させて頂きます」

 

「構わない」

 

銃口は対面する二人に向けたまま、ミヤコは少し横に位置をずらす。

 

「初めまして、先生。そちらは生活安全局の...中務キリノ、だったかな」

 

「ほ、本官をご存知なのですか!?」

 

「データを閲覧したのもあるが、D.U地区でキミの評判は少なからず聞いている。精神性は正しく、警察という肩書きに相応しいとな」

 

「えへへ...ハッ!ゆ、油断を誘おうとしてもそうは行きません!」

 

「社交辞令だ。少しは肩の力を抜いて欲しい...さて、先ずは自己紹介からだな」

 

ミヤコと比べて軽装備、いやほぼ丸腰の少年は、シャーレの先生とキリノに対し優雅なお辞儀を披露する。

 

「俺はこの度、RABBIT小隊で頭脳を任されている者です。呼称は適当に、ヘッドRABBITとでも」

 

「なら、下の名前で呼んで良いかな。高城センくん」

 

「...先輩にでも聞いたかな?どうぞ好きなように」

 

「ありがとう」

 

微笑み礼を言う青年。

一見無害そうな形をしている彼だが、一言交わすだけで脅威を再確認。

簡単には会話の流れを渡さない手際は、流石と言ったところか。

 

「まさかブレーンである君が直接出てくるとは、思わなかったよ」

 

「敵であるあなたがこうして前線に出ているのです。であれば、それに倣うのが礼儀というものでしょう」

 

「それはご丁寧に。ついでに聞くけれど、センくんの目的は何かな」

 

「想像にお任せする...と、本来の俺なら言うでしょうが、こちらからの質問にもいくつか答えて頂きたい。私だけ答えないのは、筋が通らないですから。なので、その問いに答えましょう」

 

簡単なことです、と彼の右手はミヤコを指差した。

 

「俺は彼女の掲げる理念に共感した。よって、目的は同じくSRT閉校の阻止です」

 

「なるほど」

 

「彼女達学び舎の損失は、いずれあなたの属する連邦生徒会にも後々響いてくることでしょう。先生、聡く賢いあなたならそれぐらい分かると思いますが」

 

「そうだね。ここでRABBIT小隊を取り押さえる以外に、もっと良い道があるのかもしれない。ただ、困っている生徒からの頼みなのでね。悪いけど、カンナやキリノ達のことを優先させてもらうよ」

 

「悲しいですね、勝ち続けることは」

 

「...?」

 

「先生、あなたは優秀だ。その手腕で、幾多の生徒の悩みを解決してきたのでしょう。負け知らず、常勝軍師、連戦連勝、それが側から見たあなただ」

 

「常勝だなんて、私は失敗ばかりだよ。今朝もここにくる前に生徒から叱られたばかりでね、帰ったら仕事を片付けなくてはいけない」

 

「いいや、それは単なるミスであって負けではない。こうして外に出てきているのが、その失態が些細なことである証拠だ。大方、口煩い行政官に自分ですれば良い修正でも頼まれたのでは?」

 

「ははは...痛いところをついてくるね」

 

「それでは質問です。そんな勝ち続けるあなたに待ち受けるものはなにか、ご存知かな?」

 

「なんだろう、ご教授願おうか」

 

「答えは勝ちの終わり───敗北だよ。先生、今日があなたのその日になる」

 

カチッ

 

少年のポケットの中に収まっているデバイスに指が触れ、直後地形が変化する。

 

「なぁ!?」

 

驚きながらも先生を庇う動作を取るキリノの周囲では、あれだけガチガチに固められていたバリケードが一部を残して下へと埋まる。

短時間でここまでの仕掛けを施した技術者には脱帽の一言だ。

 

「人は誰でも、希望を目指し歩いている」

 

気づけば、センとミヤコは視界から消えており、声だけが組み替えられた戦場に響く。

 

「勝つということは、それを踏み躙ってしまう。だから俺は、こいつらの希望を淘汰させやしない。絶対にだ」

 

たとえそれが、ヴァルキューレ側を貶める結果になったとしても。

 

「しかし先生、このままやり合ったところであなたの敗北は確定している。それでは面白くない」

 

「わ、私たちは負けません!先生がいるのなら尚更!」

 

「何が言いたいのかな、センくん」

 

「少しばかりのハンデ...いいや、あなた方の勝利条件を僅かながら緩めると言っているのです。どうでしょう?あなた方と我々の戦い、その勝ち負けを

こちらの一名(・・・・・・)とキリノ氏との一騎討ちにより決めるというのは。無論、互いに指示は禁じません」

 

先生側としてもこれは願ってもない申し出だが、それでは提案したセン達にメリットがない。

彼が言っているのは即ち、ここまで彼彼女がヴァルキューレと連邦生徒会に対して積み上げてきた白星を全て捨てるのと同義だ。

たったの一戦に、全ての結果を委ねる。もはやギャンブルとして成立しているかも怪しい。

 

それは、あくまで相手が先生で無ければの話だ。

 

「先生、あなたは勝ちすぎた。力を示し過ぎた。有名になり過ぎた。あなたの陥落は、瞬く間も無くキヴォトス中に知れ渡ることでしょう」

 

「強気だね。余程勝つ自信があるみたいだ」

 

「条件は全てクリアされた。あとは、あなたに黒星を叩きつけるだけです」

 

一騎討ち、了承してもらえますね?

彼の問いに、先生は考える素振りも見せずに首肯した。

 

「では...キャンプRABBITっ!!」

 

『よし来た!』

 

号令。

呼応してモエの手が閃き、キーボードがカタカタと叩かれる。

 

『R2プログラム起動!飛翔滑走翼、スラッシュハーケン、稼働確認!』

 

何やら再び地面が揺れ始め、戦場に変化をもたらそうとしていた。

 

『駆動系問題無し、ドルイドシステム含め、全システムオールグリーン!』

 

カタタタッ、タンッ!

 

力強くエンターキーが弾かれ、

 

「来いッ!!」

 

地響きと共に、それは顕現した。

地面から登場したソレの全長は、4mあるだろうか。

黒く艶やかなフォルム、アクセントの金色の装甲、威圧感の他に凛々しくもある見た目に、先生は目を輝かせて感嘆の声を上げる。

全男子の夢、巨大ロボットの恐らくコックピットであろう箇所にセンは立ち、キリノと先生を見下ろしていた。

 

「紹介しよう。我が愛機、Sin気ろ「発砲します!」のおぁ!?」

 

堂々と機体の紹介をしようとした彼の横を、銃弾が通過していった。

 

「中務キリノ!貴様、大人しく説明も聞けないのか!?」

 

「はわわ、怒られてしまいました...で、ですが!本官はルール違反だと思うのです!」

 

「...ほう?」

 

ならば聞こうじゃないか。

機体に寄りかかり、踏ん反り返るセン。

 

「先ほどあなたは、自ら一騎討ちを所望しました!それなのに、ミヤコさんが出てきていないのはおかしいです!」

 

「なんだ、そんなことか。確かに俺は一騎討ちを要求した。だが、俺はRABBIT1を選出するとは一言も言っていない!」

 

あくまでも、RABBIT小隊から選出しての一名であって、ミヤコを戦闘に駆り出すとは口にしていないのだ。

 

「た、確かに...け、けど、こんなロボットを出してくるなんて、聞いていません!」

 

「言っていないからな」

 

誰が相手をするか、もちろんRABBIT小隊のメンバーから。

どうやって?それは言う必要が無い。

戦法や戦術を態々喋ってやるほどの慢心を、彼はしていないのだから。

 

「さぁ、どうする?諦めて降伏するか?こちらは変わらずやる気だが」

 

「こんな秘密兵器を用意していたとは...さすがです、師匠」

 

『おまえはそれでいいのか』

 

戦闘中ながらもこちらの状況を把握しているサキから、呆れ半分唖然半分のツッコミが飛ぶ。

銀色兎のことなのでてっきり頼られず拗ねていると思っていたが、反対に羨望の眼差しで拍手をしている。

 

「すごいなこのロボット...完成度高いな」

 

「うちのキャンプRABBITと一晩で仕上げました。どうですかこの立ち姿、中々にクるものがあるでしょう?」

 

「写真撮っていいかな」

 

「どうぞどうぞ」

 

「あわわ...」

 

何故か意気投合する指揮官二人の間で、キリノだけが慌てていた。

 

「ど、どうしましょう先生。いくらなんでもあの兵器を本官と先生の二人で相手するにはあまりにも...」

 

厳しすぎる。

最後まで言わなくとも、キリノが言わんとしていることを先生は分かっていた。

だが、彼の表情は相も変わらず飄々としており、そこに諦めの文字は見当たらない。

 

「キリノ、どんな相手にも弱点は存在するよ。過酷な戦いになるのは重々承知だけど、今はキリノに託したい。私と一緒に、戦ってくれないかな?」

 

信じる目、生徒に語りかける、そんな目が彼女を射抜く。

どんな劣勢も覆してきた青年の視線が、キリノ一人に浴びせられる。

 

「───わかりました、本官にお任せください。必ずや先生に、勝利をお届けします!」

 

弱気だった少女の姿はどこへやら。

再度、キリノは巨大ロボへ向き直った。

 

「覚悟は決まりました!さぁ、どこからでもかかってきてください!」

 

「フッ、その意気や良し。RABBIT1、号令を頼む」

 

「了解です」

 

両者から見える位置に、ミヤコが出てきた。

互いの顔を伺い、どちらも準備はできたと判断し、

 

「それでは...始めてください!」

 

 

 

 

 

 

「やれ、RABBIT4」

 

 

 

 

 

 

開始して直ぐ、彼方からの凶弾がキリノの頭部を捉えた。

 

 

 

********************

 

 

 

「やり方が(こす)い」

 

開口一番、敵戦力を無力化したのちに合流したサキからセンに向けた言葉がそれだった。

言われた等の本人は満更でも無く、悪びれることもなく、やれやれと肩をすくめている。

 

「考え得る限り、アレが最善だった。労力を割いて勝率が下がる、無駄を省いて勝率が上がる、選ぶなら当然後者だ」

 

「にしてもだろう...撃たれたヴァルキューレの生徒には同情するな」

 

「きゅ〜...」

 

頭上で星を回すキリノを哀れむRABBIT2。

彼女と先生を含め拘束は済んでおり、結果的に決戦となった広場に集められている。

トドメを刺したミユは周囲の警戒をモエと行っており、この場にはいない。

 

「鮮やかな采配でした、師匠」

 

「そう褒めるな。それ程でもある」

 

「謙遜するのか鼻を高くするのかどっちかにしろ。ミヤコ、こんな終わり方でいいのか?」

 

「いいのか、とは?」

 

「その、おまえとしては、直接倒したかったんじゃないのか」

 

「シャーレの先生の脅威は充分把握しています。こちらにとっての不利益は、彼に調子付けられて逆転を許してしまうこと...仕留めるタイミングができたのなら、そこで決めるべきです」

 

使えるものならなんでも使う。

一見サキのような堅物に見えて、ミヤコはこういった型破りな作戦については肯定的だ。

発想も柔軟、有事の際に下す指示も理に適っている。

 

(...私には無いものをミヤコは持っている。隊長を任されたのも、悔しいが納得だな)

 

こうも言い切られては、認めざるを得ない。

今RABBIT小隊で隊長に相応しいのは、月雪ミヤコだと。

 

「それにしても鮮やかな狙撃だった。あそこまでピンポイントに当てられるとは、さすがRABBIT4」

 

「3、400mだろ?その距離なら、ミユにとっては無いに等しい」

 

「2000m離れていても、狙撃を成功させますからね」

 

「ポテンシャルだけで見れば、キヴォトスでも指折りか」

 

探知されない地点から高火力を叩き出す、それが狙撃。

言うは易しだが、実現には苦労を要するのもまた狙撃だ。

敵が動いてはならない、動く敵であれば予測しなければならない、空気抵抗は、天候は、自身のコンディションは、扱う弾の種類は...と、挙げればキリがない。

全ての条件がクリアされてようやく、狙撃は威力を発揮する。

 

「RABBIT4、彼女は伸びるぞ。育成には難儀するだろうが、二年もあれば最強の狙撃手になる」

 

「ミユが?確かに、技術は認めるところだが...」

 

「身内では気づかないこともある」

 

「誰が身内だ」

 

「自覚はあるんだろう?」

 

「...まぁな」

 

照れ隠しなのか、サキは表情を悟られないためにヘルメットを深く被り直す。

隊員間の仲はそこらのグループよりも悪い。けれど、日頃の訓練や生活で培ってきた友情は確かにあるようだ。でないと、この反応は返ってこない。

 

「しかし、こんなのいつ作ったんだ?」

 

話を逸らすべく、RABBIT2は未だ広場に佇む例のロボットを見上げた。

これほど大掛かりな機体、囮にせずとも指示を受ける生徒一人になら無理矢理ゴリ押せるだろうに、と。

 

「それについては私も気になりました。師匠、高性能なこの機体があれば、戦闘も直ぐに終わったのでは?」

 

「触ってみろ」

 

「え?ああ。───おい、これって」

 

「That's right」

 

「得意げに胸を張るな」

 

「なるほど、そういうことでしたか」

 

『にっしし、よくできてるだろ?』

 

「共犯者はおまえか、モエ。」

 

デバイスから、本作戦の陰のMVPと言っていいキャンプRABBIT、風倉モエの声が聞こえてきた。

 

『ぜーんぶハリボテ。偽物。見かけ倒しの、ただのダンボール人形でーす』

 

「即興での口上、様になっていたぞキャンプRABBIT」

 

『やるなら楽しむべきっしょ。こんな面白いこと、真面目にやったら損だし馬鹿じゃん』

 

遠目から見れば、この威厳を放って艶やかなフォルムをひけらかす機体はさぞ脅威に映ったことだろう。それこそ、先生の言葉無しには戦意を喪失させるぐらいには。

だが、それだけだ。

目の前のロボットには、何の機能もついていない。ただの格好いいダンボールなのだ。

 

「これでおまえたちも理解しただろう?ダンボールには無限の可能性が秘められていると...万のことに使いけると」

 

「やはり、ダンボールは素晴らしい...家や家具だけで無く、陽動にも使えるだなんて。流石です、師匠」

 

「なぁセン。頼むからこれ以上うちの隊長のIQを奪わないでくれ」

 

「失礼な。寧ろ向上していると言えるだろ」

 

「降下だよ馬鹿」

 

この二人、ダンボールが絡むと狂信とも思える熱意を発揮してくる。バリケードでの大活躍があったにしろ、未だに厚紙に対してなんだかなぁの感情を持つサキは二人の盲信が恐怖でならない。

 

(そのうちテントを引っぺがしかねないな...)

 

これからはダンボールを拠点とします。

今のミヤコなら言いそうなことだ。何としてでも止めなければ。

 

「さて、俺は先生と少し話す。RABBIT1、RABBIT2はRABBIT4と警戒にあたれ」

 

「了解です」

 

「...了解」

 

一抹の不安はあれど、指揮は確かだ。

いざ想定したことが起こるようなら、止めればいいだけのこと。

サキはミヤコと共に、その場を離れて見張りへと向かった。

 

「お待たせしました、先生」

 

再度、センは敵指揮官であるシャーレの軍師と対面する。

見下ろす形は変わらず、先は機体の上と地の上、今回は直立と拘束という違いはあるが。

 

「先ずは、このような決着になってしまったことに謝罪を。本音を言えば、あなたとは同等の戦力で、且つ真っ向から競いたかった」

 

勝者の立場であるセン自ら、座り込む先生に視線を合わせ、頭を下げる。

その行為に首を横に振り、謝らないでほしいと青年は少年に顔を上げさせた。

 

「条件は全てクリアされた、か。私が一騎討ちを受けた時点で、君は勝ちを確信していたんだね」

 

「はい」

 

「一騎討ちは一騎討ち。ただ、そちらの隊長が務めるとは言っていない。かと言って、キミが相手取るとも言っていなかった。なるほど、あの戦いは、元々キリノとRABBIT小隊狙撃手との一騎討ちだったというわけか」

 

大掛かりな地形変化も、1on1、ロボット登場の前準備と誤認させ、ミユの射線を通すためのものだった。

 

「事が全て上手くいった結果です。あなたの仕向けた伏兵にRABBIT4が潰されていれば、この手は使えなかった。その場合は戦力をまとめての総力戦、もしくはRABBIT1とキリノ氏との1vs1で決まっていたはずです」

 

「君は、その方が良かったんじゃないかな」

 

「私欲を叶えるならば、そうです。ただ、俺はRABBIT4の成長を選んだ。その方が今後に活かせるからです。ただの勝利よりも、経験をさせた上での勝利の方が、彼女らの明日に繋がりますから」

 

「カンナが君を褒めていたよ。後輩だった頃は戦術家として名を馳せてたって」

 

「昔の話です。今はこの通り、しがないただのホームレスですよ」

 

「この後はどうするのかな」

 

「あなたの敗北が知られた今、次に攻め込んで来るとすれば恐らくゲヘナ風紀委員会でしょう。そうなればあの空崎ヒナを敵に回すことになる。それだけは避けたい」

 

学園都市キヴォトスにおいて、最強と呼ばれるゲヘナ学園の風紀委員長、空崎ヒナ。

単騎で自軍の風紀委員会半数以上の戦闘力、もしかするとそれですら過小評価かもしれない彼女は、センと戦術の意味合いで相性が悪い。

各自治区からの生徒の招集を封じたとはいえ、先生を負かしたのであれば脅威となるレベルは跳ね上がる。

故に、空崎ヒナがこちらへ出向くのは確定事項だ。

 

「風紀委員会だけならやりようはありましたが、委員長が出張るのであれば話は別だ。我々5人で相手するには分が悪い。彼女が来たら、素直に降伏しますよ。こちらの目的は済んでいるのでね」

 

「私を敗北に追いやること、かな」

 

「ええ。あなたの功績を知らない人はキヴォトスにもそうはいない。そのあなたから戦果を上げたんだ。SRTを取り巻く今回の事案も、RABBIT小隊にとっては好転すると...」

 

 

 

ドンッ!!!

 

 

 

「...は?」

 

爆発が起こった。

一方では無い、四方八方から、周囲を取り囲むように爆炎が吹き荒れる。

 

『ヘッドRABBIT!やばい!』

 

普段気怠げな口調のモエから、聞いたこともない焦りを含んだ語彙消失の報告が飛んできた。

 

「どうした、何があった!?」

 

『すべての入り口で爆発!煙の種類からして、どれもダイナマイトの類!それでバリケードが3割削られた!』

 

「爆発...ダイナマイト...?」

 

なぜ今になって、ヴァルキューレが爆弾を使ってくる?

 

「先生、まさか俺の油断を誘ってからの突入を...!?」

 

「...ごめん、わからない。私もこの爆発がなんなのか、把握していないんだ」

 

初めて、先生の表情が困惑に包まれたような気がする。

シャーレの先生は役者もいけるのかと軽口を叩けるほど状況は良くなく、はたまた彼の策略とも思えなかった。

 

(───敵は、ヴァルキューレではない?)

 

『こ、こちらRABBIT4...!スコープで敵を確認しました...火炎放射器を持った生徒さんを先頭に、どんどん進軍してきます...!』

 

「キャンプRABBIT、すべてのドローンを出せ!少しでいい、時間を稼げ!」

 

『了解...あーくそっ、ダメっぽい!配備されてたやつが爆発でダメになってる!ヘリを出して、空からの支援に移るか...うわぁ!?』

 

『キャンプRABBIT!?くっ、こちらRABBIT1!RABBIT2と共に戦闘を開始!ですが、火力が違いすぎます!バリケードも、燃やされて...!』

 

銃弾、衝撃にも強いダンボールバリケードにも弱点は存在する。

それは炎。硬く強固であろうとも、所詮は紙だ。火炎瓶や、敵の使う火炎放射器の前にはひとたまりもない。

 

(爆発、火炎放射...まさか)

 

トラウマが刺激される。

轟音、焦げ臭さ、硝煙の香り、家を失う度に訪れていたそれらの現象に、心当たりがあった。

ありまくりだった。

 

───高城センが最も忌み嫌う、常識の通じないテロリスト。

 

一際盛大な衝撃音が、子ウサギ公園を揺らした。

地面に突き刺さる大型の機械、あれは掘削機だ。巨大ドリルで地面を掘り進め、目的のものを探し当てるための、穴を掘ることに特化した機械。

そのコックピットの蓋が開けられ、一人の少女が顔を出した。

 

袖の余る白い白衣、健康的な白い肌を魅せる黒い短パン、垂れ下がるかのような茶黒く先端は赤みを帯びたツノ、乱雑に伸ばされた長髪。

 

その姿を、高城センは忘れもしない。

 

 

 

「はーっはっはっは!源泉があると思って来てみたが、私のセンサーがビンビンに反応しているぞぅ!さぁ部員達よ、掘って掘って掘り進め!我らが目指す桃源郷、我らが作るロマンの舞台、温泉は、すぐそこだァ!!」

 

「おのれ鬼怒川また貴様かあああァァァッッ!!!」

 

 

 

突如湧いたイレギュラー、常識の通じない戦術兵器、温泉開発部と鬼怒川カスミに、センの積み上げて来た戦略とRABBIT小隊は敗北した。

 

 

 

 

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