ワイ『ダンボールは万の事に使いけり』 ミヤコ『流石です師匠』   作:\コメット/

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お待たせしました!


そしてお詫びを!本作、ミユをRABBIT3と呼んでいましたが間違いでした!訂正させてください!正しくはRABBIT4です!失礼しましたぁ!




07 満を持して、彼はギフトを発動する。

 

 

釈放され三日が経った。

 

「これで...はい、作業完了ですね」

 

「やーっと終わったー!もう超疲れたー」

 

温泉開発部の無茶苦茶な工事により、RABBIT小隊にとっての拠点、センにとっての敷地である子ウサギ公園は見渡す限りの穴だらけ状態に。

その整地作業を五人で手分けし、今し方それは終わりを迎えた。

 

「思った以上に時間がかかったな...流石の私もクタクタだ」

 

「なんだか、来た時よりも綺麗になった気がするね...」

 

掘り返された穴を埋めるだけなら、一日あれば終わっただろう。

だが、RABBIT小隊はただ平らにするだけでなく、芝生の移植や施設の修理、元々手の届いてなかった箇所の清掃に至るまで徹底的に行ったのである。

工事用ドローンの力を借りたとはいえ、広範囲の領域をわずか数日で元通り以上に仕上げた手腕は、さすがエリート生と褒めるべきか。

 

「機材もなんとか直ったし、配線も接続完了、バリケードも新調、装備も大半が生きてる。どうにかデモを続けられる状態には持ってこれたね」

 

「いつヴァルキューレの奴らが入ってくるか分からないからな。あとでトラップも仕掛けておくか」

 

「そ、狙撃ポイントの確認行ってくる...」

 

「その前に昼食にしましょう。師匠が伝手で手に入れた食材でちょっとした物を作ると言っていましたので」

 

「ヘッドって料理できたんだ」

 

「細かい作業をそつなくこなしてたあたり、手先は器用みたいだぞ」

 

「なんだろ、ノビルにマヨネーズでもかけるとか?」

 

「鍋を用意していたので、それはあり得ないかと」

 

「衛生管理とか不安だけどなぁ...やっぱり保存食開けない?」

 

「センのことだ。今までは私達の警戒が空回っていただけで、今回もそうだろう。あまり疑ってかかるのも向こうに悪い」

 

「なになに、なんかやけにヘッドの肩持つじゃん。急にどしたん?」

 

「べ、別に何もないが。強いて言えば、私はあいつを認めてる。今更疑いの目で見るのは違うと思って」

 

「私も...センさんは悪い人じゃないと思う...」

 

「変な奴ではあるけどね」

 

「それは...」

 

「否定できない...かも」

 

『見ろ、これがおまえ達の寝床だ。ふっ、皆まで言うな。たかがダンボール、そう言いたいのだろう?案ずるな。敷布団用に三枚敷いてあ...なに?寝袋がある?そんな我儘言う子はうちの子じゃありません。捨ててきなさい。もしくは俺にください』

 

と、信者のくせして楽ができると分かれば平然と信仰物を捨てるような男である。変人以外の何者でもない。

一日目は長谷川某を熱く語っていたミヤコとダンボールに興味を示していたミユが挑戦していたが、二日目はしれっと寝袋に包まっていた。

なんならセンもあやかっていた。

そして、幸い爆弾で吹き飛んだテントも破損はしていなかったため、ダンボールハウスで寝ることも無かった。

 

「ええ、いいですよあそこは...はい、はい...いえ、お気遣いなく。ありがとうございます。それでは失礼します」

 

四人が簡易キッチンとしているテントに到着すると、鍋をオタマで混ぜ混ぜしているエプロン姿のセンを発見。

何やらRABBIT小隊が貸したデバイスで誰かと通話中でもあった様子。

 

「師匠、RABBIT小隊四名、整地作業を完遂しました」

 

「ご苦労。ちょうど飯が出来上がったところだ、会心の出来だぞ」

 

「お心遣い、感謝します。電話の方は、お邪魔ではなかったでしょうか?」

 

「問題ない。今済んだ」

 

「すごく...いい匂い...」

 

「何を作ったんだ?」

 

「水炊きだ」

 

「衛生管理の話してたらこれだよ...」

 

水炊きとは、味付けのしていない水に食材を入れ、そのまま煮込む鍋料理である。

主役はなんと言っても、鶏肉だ。

そう、鶏肉だ。

管理と調理を怠れば食中毒待ったなしの、あの鶏肉だ。

 

「この肉と野菜は今朝貰ってきたやつだ、安心しろ。充分加熱もしてある」

 

「なぁんだ、なら平気か」

 

「月雪、空井、悪いが少し手伝ってくれ。皆の分を注ぎ分ける。注いだ器をそれぞれの机に置いて欲しい」

 

「承りました」

 

「わかった」

 

具からたっぷり旨味を引き出したスープと共に、野菜や肉が器へと注がれる。

まともな食事はヴァルキューレで摂った朝飯以来だったためか、匂いに唆られて恥ずかしくも腹の虫が鳴り止まない四人。

 

「ポン酢(おまけして貰った)をつけて食べるといい。シメのご飯(おまけ以下略)もあるから、あまりがっつくなよ」

 

そう言って先ずはミヤコに手渡そうとするセン。

 

「はい、受け取りました」

 

「ああ...ん?」

 

ホクホクの器を細心の注意を払って受け取ってもらう、それまではいい。

問題なのは、距離。

 

「...遠くないか?」

 

賞状を手渡される動作を誇張したかのような構えに、怪訝な表情のセン。

 

「いえ、そんなことはないかと」

 

「そうか...」

 

若干食い気味の返答ではあるが、月雪が言うならそうなのだろうと結論付け、お次はサキへ。

これまた間隔が空いている。

 

「...やはり遠くないか?」

 

「こんなものだろ」

 

「いやいや、流石に露骨が過ぎるぞ」

 

「あ、ちょっ、待て!こっちに来るなっ!」

 

ズカズカと近寄るセンに対して、サキは後退。

何故か距離を縮めたくないらしく、それを不思議に思っていると、彼なりに理由を推測し出した。

 

「───なるほど、そういうことか」

 

「は?」

 

「毒物への警戒、これも訓練の一環と思っているんだな?常時ですらこの警戒心、流石だRABBIT2、RABBIT1。打ち解けたとはいえ会って数日の相手との食事、しかも自身ではなく他人の作った飯だ。疑ってかかるのも分かる。だがそう構えずとも良い。おまえ達が不安がる要素はこの鍋にはどこにも...」

 

「ち、違うんです師匠」

 

「ん?」

 

「理由は、私たちにあって...」

 

何やらモジモジし出す二人は、もうこの際だと全部話すことにした。

 

「その...この三日間、我々は肉体労働に勤しみました。土や埃で体を汚し、汗を流して、です」

 

「無論知っている。なにせ俺もその輪に加わっていたわけだからな」

 

「で、だ。それなのに私達は満足に体を洗えていない。言うなれば...」

 

「なんだ、体臭を気にしていたのか」

 

「言い方ぁ!デリカシー!!」

 

この公園に風呂などという贅沢施設は存在しない。

水場といえばトイレの水道、各所に設置してある蛇口、そして広場の噴水ぐらいだ。

 

「まさかそんな些細なことを気にしていたとは。長期にわたる作戦に従事する折、風呂に入れないなど常識だろう」

 

「私らSRTであると同時に女子でもあるからさ、その辺は結構気にするぜ?」

 

「汗でベトベトで気持ち悪いんだよ。早く風呂に入りたいが、ここにお湯が出る場所は無くて...」

 

「銭湯に行こうにも、口座を止められているのでお金の引き落としができず...」

 

「キャッシュレス派はこれだから...今後は有事のために万札を懐に忍ばせておけ」

 

「そういうおまえは持ってるのか」

 

「ふっ、敢えて聞くか。知っての通り俺は無職、収支は皆無であり、退学が受理されたのちに口座も止められた」

 

「何しでかしたら口座まで止められるんだよ...」

 

「無論手持ちもない」

 

「知ってた」

 

少なくとも、ミヤコ達が行ったデモ活動に匹敵かそれ以上のことをやらかしているのは確かだ。

この件については不知火カヤが絡んでいるので、機会があれば是非とも追及したいところだ。

 

「師匠は清潔さを保っていますが、なにかなさっているのですか?」

 

「夜に噴水で沐浴をしている」

 

「聞くんじゃなかった」

 

「ハッ!水拭きもせずに寝袋に包まる誰かさんには言われたくないがなァ!」

 

「女子に対して言っていいことと悪いことがあるだろうが!?ミユ、おまえも黙ってないで何か言ってや...」

 

先ほどから沈黙を貫いていたミユへ視線を向けるサキ。

だが、彼女の姿を改めて見つめ、あることに気づく。

 

「...なんか、あまり汚れてなくないか?」

 

「ふぇ?そ、そんなこと...ないと思うけど...」

 

否定する彼女は、後ろめたいことがあるようでRABBIT2から目逸らし。

他三人が泥んこの汗まみれに比べて、ミユも少々汚れてはいるものの目立った汚さは無く、ミヤコ達よりも清潔さを保てているのだ。

髪はサラサラ、頰の張りなども雲泥の差である。

 

「ミユ、正直に言ってください。怒ったりしませんから」

 

「え...本当?」

 

「はい」

 

「じ、実はセンさんに沐浴の仕方を教えてもらって...昨日から身体は洗ってるんだ。髪は洗ってもらって...」

 

「厳罰です」

 

「ミヤコちゃん!?」

 

芸術的な手のひら返し。

しかし、彼女を責めるのはお門違いだ。

彼女はスナイパーであり、他の隊員より薄汚れた場所に潜伏する頻度が高いため、その分誰よりも埃をかぶってしまう。

それを見兼ねて、昨夜センは日課である沐浴にミユを誘ったのだ。

 

「病原菌による感染も有り得るからな。小隊のエースであるミユ嬢を万全の状態で待機させるのは間違っていないだろう?」

 

「なるほど...隊長である私がもっと気を遣うべきでした。流石です師匠。そしてすみません、ミユ」

 

「う、ううん。気にしないで...今日の夜、一緒に洗いっこしよう?」

 

「いいですね」

 

「残念ながら、それにはストップをかけさせてもらおう」

 

隊員同士の絆の深め合いに待ったをかける男、高城セン。

一定の層からすれば非難轟々の所業だが、彼には理由があった。

 

「小隊間の衛生問題、これは早期に解決するべき事案であり、その点については俺も懸念していた。だが、五人揃っての沐浴など、絵面も常識的にも不味い」

 

「先ず噴水で沐浴の時点で充分ヤバいぞ」

 

「俺は慣れているからいいが、四人には風邪を引くリスクもある。それだけは避けたい」

 

「何か策があるのか?」

 

「ある。そして、既に手立ては打ってある」

 

優雅に、キザったらしく、センは額に手を添え格好付けながら、

 

「先ずは食事を済ませよう。話はそれからだ」

 

そう、隊員を席に着けるのだった。

三人は最後のポーズいるか?と思ったが(ミヤコは羨望の眼差しで見ていた)指摘すればまた五月蝿くなると予見し、黙って水炊きを頬張る。

その黙りの意味合いは、触らぬ神になんとやらから、あまりの美味しさにより集中して食べ続けるものへと変わっていた。

 

 

 

********************

 

 

 

食事と片付けを終えて、五人は居住スペースに使っているテントの近くへ移動。

辺りを一望しながら、センは少女達に質問を投げた。

 

「おまえ達、聞くが風呂はどこにあるといい?」

 

「なんだ急に...やはりテントの近くだろうな。入浴中はどうしても無防備になってしまうから、できるだけ装備が近くにあった方がいい。ここなんて一番いいんじゃないか?」

 

「着替えを忘れちゃった時も...すぐに取りに行けるね...」

 

「了解した。RABBIT1、他三人を連れて俺から100m離れろ」

 

「理由をお聞かせ願いますか?」

 

「すぐに分かる。まぁ見ておけ」

 

「了解。三人とも、いきましょう」

 

言われた通り、ミヤコを筆頭に小走りでその場から離れるRABBIT小隊。

移動中、センの不可解な行動にメンバー内では疑問が絶えなかった。

 

「センのやつ、一体どうするつもりだ?」

 

「なんか考えがあってのことだろうけど、皆目見当つかないわー」

 

「ぎょ、業者さんに頼むとか...?」

 

「仮に人脈あっても無一文だし、それに私らを遠ざけた意味ないでしょそれだと」

 

「ミヤコ、おまえはどう思う?」

 

「私も、あの人の真意を掴むことはできません。ですが、並々ならぬ自信を感じます。私たちが予想だにしない事を、師匠は成そうとしているのかと」

 

信じて待ちましょう。

目測100mの地点に着いた四人は、疑念と尊敬というそれぞれの感情を込めながら彼方のセンを視線に収めた。

手を振って合図を送ると、少年もまた手を振り応答。次いで、ガシガシと地面を足蹴にしたのち、全力疾走でこちらへ突っ込んできた。

 

「な、なんだろう...」

 

「走り方運動音痴のそれじゃん。ウケる」

 

「実技赤点スレスレで女子走りのおまえが言うか」

 

「ゼェ...ゼェ...久しぶりに、全力で、走ったな...」

 

「15.3秒、平均より遅いタイムです、師匠」

 

「く...っ、毎日の運動を検討するべきか...」

 

「検討じゃなくて実行をしろ」

 

「そんで、ヘッドは何してたん?私からしたら、ただ地面蹴ってるだけに見えたケド」

 

「ふぅ......ああ、その通りだ。俺は二、三回地を小突いた」

 

「...それだけ、ですか?」

 

「それだけだ」

 

言い切り、訪れる沈黙。

風が草木を揺らす音、小鳥の囀り、公園外の車の行き交う音がその空間を支配する。

 

「へくちっ」

 

ミユのくしゃみを皮切りに、その静寂は終わりを告げた。

 

「...なぁ、セン」

 

「なんだ」

 

「おまえは言ったな、衛生問題を解決すると」

 

「ああ、言った」

 

「それで、さっきやった地面を蹴る行為が問題解決に一石を投じることになると?」

 

「無論だ」

 

「...」

 

かつてないほど自信満々に言い切られ、再度言葉を失うサキ。

やはりコイツ、ただのおかしいホームレスなのでは?

なんだってこんなやつに自分は興味を持ってしまったのか?

全てを後悔し、ため息を吐こうとしたその時だった。

 

ドドドドドドドドッ

 

「ん?」

 

足元から、音がする。

表面ではなく、もっと下。地底を揺るがすような地響きが、子ウサギ公園内に鳴り響く。

 

「来たか」

 

センが目を向けるのは、先ほどまで彼自身がいた地点。

ミヤコ達も彼に倣い、そちらへ視線を向けた。

 

 

 

瞬間、激流が地を突き破り噴出した。

 

 

 

突如として一変した光景にポカーンとする一同の中でただ一人、平然を保っているのはやはりセン。

 

「さて、これより配管やら添削やら温度調節を施す作業に取り掛かる。RABBIT3、ドローンの準備を。RABBIT1、RABBIT2、RABBIT4はもうすぐ来る基材を運ぶのを手伝ってくれ」

 

「...えっと、師匠」

 

「なんだ?」

 

「これは、その...まさか...」

 

「ああ。そのまさかだ」

 

今なお天高く噴き出している水流。虹を作り、広場を水日出しに変貌させている水流。

 

『源泉があると思って来てみたが、本当に私のセンサーが反応しているじゃあないか!!』

 

あの妄言が真実だった事を、実感させる。

 

「温泉、ですね...」

 

センの言っていた基材が届くまでしばらく、彼女らは微動だにせず噴出した温泉を見上げるのだった。

 

 

 

********************

 

 

 

同刻、とある地下施設にて。

 

「武器弾薬を避難させろ、早急にだ!復旧班、まだ穴を塞ぐ目処は立たないのか!?」

 

「ダメです!水流の勢いが強過ぎて、我々では手に負えません!」

 

「ジェネラル!いたる所から熱湯が噴き出しています!このままだと、フロア全体が水没しかねません!」

 

「既に冠水して装備の救出が不可能なフロアも出ています!」

 

「兎に角穴を塞ぐんだ!少しの間でいい、水流の勢いが無くなるまで時間を稼げ!」

 

「例の弾頭がある部屋への浸水を確認...!」

 

「何としてでもそこだけは被害を抑えろ!防衛室長との契約上、命に変えても守れ、死守だ!」

 

「B2Fフロアでも熱湯の噴出を確認!」

 

「チィ...ッ、いきなりなんなのだ一体!?」

 

RABBIT小隊の知らぬところで、その組織は甚大な被害を被っていた。

 

 

 

********************

 

 

 

夕刻、子ウサギ公園。

 

「んな〜...極楽極楽〜...」

 

作業により汚れた身体を洗い流すべく、急ピッチで配管を通し、機材を設置し、露天風呂を仕上げたセン達。

周囲に仕切りを張り、いざ入浴。ひと足先にモエが浴槽へとダイブ。一番風呂を堪能し、悦に浸っていた。

 

「おい、モエ。ちゃんと身体は洗ったのか?」

 

「決まってるでしょ。流石にそこまで常識欠けてないしぃ...ふぁ〜...」

 

「まったく...」

 

いつもはもう少しお小言をこぼすサキだが、この場でそれは無粋かと自重。

湯を被り、支給品のシャンプーを使って髪を洗い始めた。

久方ぶりのまともな入浴、悔しいが心躍る自分がいるのも確かで、早く風呂に浸かりたいと頭皮を擦るスピードを早める。

 

「そら、できたぞ」

 

隣では、洗いっこを終えたミヤコとミユがセンに髪を結ってもらっている。

 

「ありがとうございます、師匠」

 

「礼には及ばん。次はミユ嬢だな」

 

「お願いします...すごい...センさん、本当に手先が器用ですね...」

 

「膝下まで長髪の先輩がいてな。寝癖がひどい時に戯れで三つ編みをしてやったのだが、気に入ったようで以来頼まれるようになった。ワンパターンでは面白くないと、彼女の髪を使って結い方の研究をしたものだ」

 

『うえーんリンちゃあああん!センくんにベジータにされたあああ!』

 

『なぁ...っ!?』

 

『ま、嘘なんだけどね(カツラ外し)』

 

『(スッ)(ドッキリ大成功の看板を掲げるセン)』

 

『二人とも、今すぐそこに正座です』

 

遠き日の思い出。

 

長髪の特権かと、サキは何故か少々ヤキモキ。その感情を霧散させるべくザバーッとお湯をかぶった。

ちなみに、センも含め全員水着着用である。女子四人は指定のスクール水着、少年もヴァルキューレで使っていた海パンを履いている。

 

「で、どういうカラクリだ?」

 

「カラクリとは?」

 

「普通ありえないだろ、地面を叩いただけで温泉が湧くなんて」

 

「それもそうだな」

 

源泉があるのを見越しての行動だったのか、だとしても理解に苦しむ。

常識的に考えて、地面を小突いて温泉が噴き出せばキヴォトスは温泉開発部が描く桃源郷まっしぐらである。

 

「俺には、どうやらギフトがあるらしい」

 

「ギフト?」

 

「温泉の神に愛されているんだよ」

 

「...じゃあなにか?おまえが温泉を出してくれと念じればその通りになると?」

 

「ああ」

 

「頻繁に温泉開発部から被害を受ける理由がそれか」

 

「繋がりましたね」

 

幾度も幾度も家を爆破されたらしい彼。

そして、粉微塵に吹き飛んだ跡には必ず熱湯が天高く噴き出していたという。

ここまでいくと、もはや祝福ではなく呪いである。

神が態々ギフトを悪用し、センを不幸にしていると思えるくらいだ。

 

「念じなくとも、俺がその場にいるだけで地底で温泉が出来上がるみたいでな...そこに彼奴等が攻め込んできて、爆散というのが流れだ」

 

「昼に来られた業者の方は?妙に親しげでしたが」

 

「商店街で街工場を運営している連中だ。経営についてのアドバイスをするうちに仲良くなってな。惣菜パンも水炊きの具材も、全て商店街で営業する奴らからの貰い物だ」

 

ホームレスになってしばらく、飲まず食わずでフラフラと彷徨いていたセンに手を差し伸べてくれたのが、商店街...子ウサギタウンの住民だった。

都市開発の話も出て余裕も無いだろうに善意を向けてくれたことに感銘を受けた彼は、以来商店街の方へ時々顔を出しては話を聞き、仕事に口を出している。

住民にとって、センは無職に堕ちた職業コンサルタントらしい。

 

「改めて、おまえも大変だったんだな...」

 

「そう哀れまなくてもいい。地位を追われ、学校も辞め、家も無くした俺だが、最近になってこうなったのも運命かと受け入れている。存外悪くない」

 

「どうしてですか?」

 

「RABBIT小隊との縁、これ以外に何がある?」

 

ちょうど、ミユのお団子ヘアーが完成した。

 

「ありがとうございます...センさん...」

 

「礼は要らんよ。月雪、湯冷めするといかん。俺に構わず、ミユ嬢と湯に浸かっておけ」

 

「了解です。いきましょう、ミユ」

 

「うん...わかった」

 

「さて、空井」

 

「なんだ?」

 

「こっちに来い。背中を流そう」

 

「は、はぁ!?」

 

突然何を言い出すんだと顔を赤らめ声を荒げるサキに対し、言い出した当のセンは平然としている。

 

「高所作業に配管工事、おまえが一番動いていただろう。指揮官としての労いだ。有り難く受け取れ」

 

「し、仕事ぶりを評価してくれるのは有り難いが、その提案はダメだろう!?」

 

「なぜだ?」

 

「なぜって...っ」

 

水着を着ているとはいえ、サキは女子でセンは男子。

善意で言っているのだとしても、超えてはいけないラインがある。

しかも、背中を流すとなれば水着を脱いで肌を露出させなくてはならない。

 

「デリカシー、とか...そういうのが、あるんだよ...」

 

「───ふむ、そうか。同期に指摘されてから気をつけてはいるのだが...配慮に欠けたな、難しいものだ」

 

『(ギシッ)...はぁ』

 

『昼食が57kcal超過だったな。サラダを食べてビタミンを摂取するのはいいが、ドレッシングのかけすぎは本末転倒だしどうかといだだだだ』

 

『そろそろ耳を千切ろうかしら』

 

『わかった、わかったから離せ。シャレにならん』

 

遠き日の思い出。

 

「悪かった、今のは忘れてくれ」

 

「あぁ、ちょっ、待てっ」

 

「ん?」

 

「...一回だけ、一回だけなら、いいぞ」

 

「いや、でも先ほどダメだと」

 

「き、気が変わった!労ってくれるんだ、その好意を無下にするのも忍びないし、背中は汚れを落としにくいからな!」

 

「別に無理はしなくとも」

 

「無理とかじゃない!」

 

「そ、そうか」

 

気圧されつつ、センは『ならこっちへ来い』と手招き。

深く息を吸って、吐いてを数回繰り返し、意を決して歩を進めるサキ。少年の前に座り、肩紐に指をかけ、いざ背中を任せようとした、

 

 

 

ドゥン......ッ

 

 

 

その時だった。

街の方から、直近によく聞いた爆発音が鳴り響いた。

 

「...なぁんか身に覚えのある音だったねぇ」

 

「ま、まさか...」

 

爆撃は、徐々に子ウサギ公園へと近づいてきている。

この場にあるのは、温泉。かの頭目には独自のセンサーが備わっており、源泉ではなく温泉そのものが外界に姿を現せば、感知するのはもはや必然。

 

「またアイツらか...!」

 

アイツら、皆まで言わずともサキ以外のメンバーはそれだけで理解した。

キヴォトスの災厄、ゲヘナが生んだ核弾頭、唯我独尊縦横無尽、温泉開発部の行進である。

 

「RABBIT小隊各位、すぐに戦闘配置へ。迎え撃ちましょう」

 

「そ、装備っ!準備しないと...!」

 

「向こうさんから来てくれるなんて、上等じゃん」

 

「デモの借りを返す時だな。なんとしてでも一泡吹かせて「総員座れ。奴らのことは放って構わん」やる.........なんて?」

 

戦意剥き出しに立ち上がる四人を制したのは、温泉開発部に最も恨みがあるだろうまさかのセン。

思わぬ襲撃を受けたあの日、彼は温泉開発部部長である鬼怒川カスミの姿を見た瞬間発狂。その後は虫の息になるまでメンタルを削られまくった。

自身のトラウマであることを再認識し、名前と気配を察するだけでも毒な存在が今まさに接近中だというのに、彼はあろうことか湯舟に浸かりだした。

 

「お、おい冗談だろう?まさか、諦めるのか?」

 

「師匠、指示をください。早急に対策を練らなければ」

 

「順々に説明しよう」

 

「そんな暇は...」

 

「まぁ落ち着け。今回の奴らの襲撃、俺にとっては想定通りだ。寧ろ、この機を狙っていたと言っても過言ではない」

 

戦術予報士の口元が、怪しく綻ぶ。

 

「狙っていた、とは?」

 

「少々痛い目を見てもらおうと思ったんだよ。こちらとしても、何度も煮湯を飲まされるのには飽き飽きしていたからな」

 

「飲まされてたのは温泉だけどな」

 

「では、師匠。我々はどのように動けば...」

 

「今さっき言っただろう。ただここに座って、温泉に身を委ねていればいい」

 

「言っている意味が分からない...それだと易々と進行を許すことになるぞ」

 

「確かにな。俺が何もしていなければの話だが」

 

「つ、つまり?」

 

「ああ。策は既に弄してある」

 

途端、炸裂したのは温泉開発部の爆弾とはまた違った音。

連続する轟砲、機関銃だろうか。

しばらくしてその銃撃音も消え、先ほどの騒々しさが嘘のようにD.Uの街は静まり返った。

 

「どうやら、上手くいったらしい」

 

「自らの手を要さず敵を退けるなんて...流石です、師匠」

 

「フッ、あまり褒めるな」

 

「満更でもないくせによく言う...どんなトリックを使ったんだ」

 

「簡単なことだ。意図的に虎の尾を踏ませたんだよ」

 

奴らにとって天敵である、それはもうおっかない虎にな。

恐怖のあまり散り散りに逃げ惑うカスミ達を見れないのは残念だが、想像するだけでもメンタルは潤う。

 

「フハハハハハハ!」

 

センは高らかに笑い、子ウサギ公園にその声を響かせるのだった。

 

 

 

********************

 

 

 

数分前。

 

「ハーッハッハッハ!進め進めぇ!やはり私のセンサーに狂いは無かった!あの公園には温泉がある!私の直感がそう囁き、いや怒鳴り散らしているぞぅ!」

 

『おー!!』

 

部長鬼怒川カスミを筆頭に、D.Uの街に颯爽と現れ爆走する温泉開発部の面々。

戦闘を務めるリーダーの掘削機、彼女を慕う部員達の車が通った後は、激しい爆発が巻き起こった。

新しい温泉宿が出来上がる景気付けなのか、その威力は普段の比ではない。

 

「お〜、みんな気合い入ってるね〜♪」

 

カスミの傍ら、愛用の火炎放射器を抱える下倉メグが、楽しげに周囲を見渡す。

どこを見てもブイブイいわせる部員部員部員、温泉を掘り起こそうと目を血走らせる者達でいっぱいだ。

 

「先日は思わぬ邪魔が入ったからなぁ。その鬱憤が溜まっているのだろう」

 

良きかな良きかな。

そのハイテンションを我らが夢の実現のために活かしてもらおうと、カスミは士気を上げるべく愛銃を天に掲げて発砲。

それを合図にして口笛と雄叫びが、絶えず街の公道を支配する。

 

「にしても部長、やけにあの場所にこだわるねえ」

 

「不満かな?メグ」

 

「そんなことないってぇ。ただ、一度失敗したところって警戒も厚くなってる筈じゃん?部長の立てる作戦っていつも破茶滅茶だけど、ある程度の無理は承知の上での策っていうか、理に適ってるっていうか」

 

「ふむ。確かに、態々敵の警戒レベルを上げた場所に突っ込むのは愚策といえるだろう」

 

「でしょ〜?あと、色々齧ってる部長なら分かってると思うけど、この辺りって埋立地だよね?部長の直感を疑うわけじゃないけど、 なんでこんなところに温泉が湧くのかなって」

 

「良い!実に良い疑問質問だメグ!」

 

先日、敵方のバリケードを燃やし尽くすというMVPばりの活躍を見せた我らが切込隊長の挙げる疑問に、大層気を良くするカスミ。

 

「知っての通り、私も無闇矢鱈に地面を掘り起こしているわけではない。自分の直感に頼るのもしばしばだが、地質学を元に調べたデータの参照、近辺の下見も必ず行う」

 

「へぇ〜。じゃあ、その調査でこの地底に温泉があるってわかったんだ〜」

 

「いいや、逆だよメグ」

 

「うぇ?」

 

ここに(・・・)温泉は無かったんだよ(・・・・・・・・・・)

 

メグの言った通り、D.Uの大半は工業の発展のために港湾周辺を産業廃棄物や土砂などを積み上げることにより造成された埋立地だ。

そこに温泉、源泉が割って入る隙間など、あるわけがない。

 

「それなのに、だ。私ですら温泉を掘り当てる可能性を見出せない場所に、急に、源泉を指し示すアラートが高々と私の脳内に鳴り響いた」

 

「んー、つまり?」

 

「生成されたんだよ、温泉が。地中深く...埋立てた土砂の更に奥で」

 

そして、RABBIT小隊のデモ活動の時は微小だった反応は、現時点で極大のものへと変わっている。

カスミたちの掘削を待たずして、温泉が噴き出したのだ。

 

「是非ともこの謎を解明したい。何故に源泉が急に現れたのか、どのような原理でそれは起こったのか、私は気になって仕方ないのだよ!」

 

「ん?たしか何年か前に似たようなことがあったような」

 

「よくぞ気づいたメグ!そう、二年前、二年前だ!ここD.Uの各所で、今回の件と類似する事案が発生していたんだ!」

 

共通点はどれも住民の住まう建物の下。

数は5件。現在は温泉開発部の建てた温泉宿へと様変わりし、それぞれの距離の近さもあってか一帯は温泉街として賑わいを見せている。

 

「場所は公園、住居などは見当たらなかったが、それでもこの反応は間違いなく二年前のものだ。必ずや、我々の手で謎を解き明かしてやろうではないか!」

 

「おお〜!なんか燃えてきたね!」

 

「だろう!?」

 

「部長、私達も付いて行くっすよー!」

 

「うおぅ!」

 

「絶対に掘り当ててやりましょう!」

 

「おうともぉ!」

 

「へぇ、またそんなことを企んでいたのね」

 

「この鬼怒川カスミの生き様は、いつだって計算尽の毎日さ!ハーッハッハッハ!ハーッハッハ.........ん?」

 

他の部員達とは音も質も違う声。

低く、重く、生来の愛らしい子供味の残るまろやかさを極段に低くしたかのような、そんな声。

それが、カスミの真後ろから聞こえてきていた。

どこかで聞き覚えがある。悪い意味で、耳に残っている。

ギギギッと、彼女は錆びついたロボットのように首を後ろへ動かした。

 

 

 

そこには、ゲヘナ風紀委員長、空崎ヒナがいた。

 

 

 

「ひ、ひ、ひひひひひヒナ委員長!?」

 

存在を認知した途端、噴き出す汗と飛んでいく情緒。

 

「またこんなところで騒ぎを起こすだなんて。懲りないのね、あなたも」

 

「ななななななぜここに!?こんなタイミングよく現れるだなんて、聞いてないぞ!?」

 

「ええ。私もあなた達が来るなんて思いもしなかったわ」

 

見ればヒナは私服。それも、普段あまりオシャレに気を遣わない彼女にしては珍しい、着飾ったコーディネート。

まるで、誰かと出かけるために友人間で見繕ってもらったかのような、そんな装いだ。

 

空崎ヒナは、本日、シャーレの当番だった。

 

持ち前の仕事スキルをふんだんに使い、予定の3時間前に業務を終了。

余った時間をどうしようか、と考えていると、先生の方から『知人(・・)に紹介された喫茶店が気になっていて、どうだろう。これから二人で行かない?』というお誘いがかかり、二つ返事でヒナは了承。

すぐさま帰宅し、チナツとイオリにコーデを手伝ってもらいシャーレへとんぼ返り。要した時間は30分。

いざ、二人きりでD.Uの街へ。子ウサギ公園に向かう(・・・・・・・・・・・・)には必ず通らなければならない(・・・・・・・・・・・・・・)公道沿いにあるというパフェが美味しい喫茶店へと向かったまではよかった。

お店に到着し、木霊したのは爆発音。

高笑いをする竜尾の少女、炎を吹き上げる赤い悪魔、その取り巻き達が通ったあとには爆炎が残る。

その有り様を見て、動かない選択を取るヒナではない。

止めてくるわ、少し待っててちょうだい。彼女はそう先生に言い残し、こうして温泉開発部の前に降り立ったというわけだ。

 

「なにか申し開きはあるかしら」

 

「あ、あるとも。十二分にあるともさ!それはもう温泉開発部設立以来屈指の謎を解き明かそうと...」

 

「なにか申し開きはあるかしら」

 

「だ、だから謎を...」

 

「なにか申し開きはあるかしら」

 

「えっと...」

 

「なにか申し開きはあるかしら」

 

botかな?と突っ込む阿呆はいない。

そうしようものなら、絶賛青筋を浮かべて睨みを効かせている風紀委員長に風穴を開けられるからだ。

しかし、それは遅いか早いかの話。

既に、誅を受けることは確定している。

せっかくの二人きり、せっかくのデート。

この邪魔をした罪は重い。

申し開きを問いはした。だが、欲しいのはそんなものではない。

そういう事で済まされる次元では、もうないのだ。

既に、カスミ達は手遅れなのである。

 

「あなたたち、骨も残らないと思いなさい」

 

「ひ、ひえええええ!!」

 

「ほ、骨もぉ!?」

 

その後、温泉開発部はヒナ委員長により致命的な損害を受け、全員セナ管轄の救急医学部送りとなった。

 

 




ようやくいくつかの伏線を回収できました。よかった。

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