ワイ『ダンボールは万の事に使いけり』 ミヤコ『流石です師匠』   作:\コメット/

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この辺でミユが笛を吹いてる→

セン「SRT特殊学園、RABBIT小隊隊則、一つ」

この辺でミヤコが太鼓叩いてる→

セン「消費期限切れ食品による食あたりは、自己責任だ」

モエ「当たり前じゃん」

サキ「そんなもん食うな」




08 いつの時代も、大人は汚いものである。

 

 

衛生問題を解決したRABBIT小隊。

温泉開発部の強襲も想定しながらの日々がしばらく続いたが、これといった異常もないまま時間は経過していく。

 

「ですので、このタイミングで私とサキが...」

 

「ふむ。ならそこで風倉のドローンと合わせて...」

 

厳しい戦闘、環境に耐え抜くため、SRTでは実技と勉学の両方の研鑽を求められる。

エリート集団と呼ばれる彼女達だが、その根底を成り立たせるのは学習によって培われた知識と自信という基盤だ。

まずは教範や訓練をこなして基本を学び、実践し成功体験を収めることでSRT生徒としての信念、誇りを磨き上げる。

これらをやり遂げてようやく一人前と呼ばれるが、ミヤコ達は学んだ知識は中途半端、実戦に関しては先日のデモ活動のみという、エリートにはまだまだ程遠いひよっ子、子兎だ。

そんな彼女らを導くために、センは持ち前のスキルをフル活用し戦術を教授していた。

 

「攻撃の層を厚くするのですね」

 

「ああ。代わりに防御が薄くなるが、予め他のドローンを待機させておけばその欠点も補える」

 

「オペレーターとの連携も必須ですね...他には、何かありますか?」

 

「ミユ嬢を攻撃ではなくアシストで活かす、というのはどうだ。わざと狙撃手のいる位置を相手に教え、囮に使う手がある。たしかミユ嬢は隠密訓練で満点をもらっていたな」

 

「は、はい...元々の影の薄さも...あるでしょうけど...」

 

「持ち味は上手く扱うことで強力な武器になる。そして、その末に気配をコントロールできれば御の字だ」

 

「私に...できるでしょうか...」

 

「あまり自分を卑下することはない。きっとキミならできる。ゆっくり、着実に、自信も技術もつけていけばいい」

 

「了解です...」

 

「尤も、臆病なのは狙撃手にとって一番の取り柄だ。それによって何か気づくこともあるだろう。その直感は捨てるなよ」

 

「個人個人に合った戦術の作成...なるほど。勉強になります、師匠」

 

「基本に則り、時節型破りに...か。言うは易しだが、いざ実践すると急に頭が真っ白になるのをどうにかしたいな、私は」

 

「なら、事前にあらゆる可能性を想定しておけ。イレギュラーを丸々作戦の範疇に収めてしまえばいい。失敗を想定しない指揮官などいない。将棋はやったことがあるな?」

 

「ルールだけなら、まぁ」

 

「あらゆる盤上遊戯にいえることだが、あれにはいくつもの型がある。プロ棋士にもなれば数百数千という盤面を脳にインプットしているらしい」

 

「はえ〜、やっぱりその道で金貰ってる人って次元違うわ〜」

 

「彼らはその場その場で型を思いついて駒を打っているわけではない。脳裏に刻んだ知識から瞬時に適切な型を選択し、引っ張り出しているんだ」

 

「...そうか。それなら戦闘に置き換えて考えることもできるな」

 

「つ、つまり...起こるかもしれない全ての事象を暗記しろって...ことですか...?」

 

「そんなん無理でしょ」

 

「普通ならな。だが、空井ならできる」

 

イレギュラーに弱く、型破りな動きを苦手としているならば、それら全てを型として記憶しておけばいい。

筆記試験は常に満点。記憶力もさることながら、日々の研鑽を怠らないサキであれば、通常では不可能なところを可能にできる。

 

「うん、やってみる。今度問題でも出してくれ」

 

「いいだろう。記述式で50問は覚悟しておけ」

 

「臨むところだ」

 

「師匠は、戦術予報士と呼ばれるに至るまでどのような勉強方法を?」

 

「教範をフル暗記した。そこに自分なりの策を取って付ける手法をとっていたな」

 

「覚え方が脳筋過ぎる」

 

「要領悪くない?」

 

「まぁな。ただおまえたち、基本を侮るなよ。型を破ると書いて型破りな訳だが、それは行う側が型を知っているのが前提条件だ。基礎なくして応用はない」

 

『了解』

 

一糸乱れぬ返答に、センは気を良くする。

 

「まずは各々の持つ戦術を磨き上げろ。それはやがて戦略───目的の達成へと繋がる」

 

ミヤコは、チームを率いる小隊長として更なるグレードアップを。

サキは、あらゆるイレギュラーに対応するための知識を。

ミユは、持ち前の技術にメンタルを同調させるための成長を。

モエは.........モエは.........、

 

「風倉はまぁ、うん。なんだ。それとなく頑張れ」

 

「急にフワッとした回答じゃん」

 

「強いて言うなら実技に関してだろうが、キャンプで中継をこなすおまえにとって優先度は低い」

 

「私もあまり動きたくないかな〜」

 

「よって風倉、おまえはもっと腕を磨け。オペレーターとしての腕をな」

 

「うーい」

 

「あとは火力を適切な場面で炸裂させるよう、自分の気性をどうにかしろ。俺の命令無しでも」

 

「え〜?まぁ溜めて溜めて最後にぶっ放すのも気持ちいいけどサァ...」

 

口先を尖らせて不服そうな態度のモエ。

彼女のモチベーションを保たせるにはどうすればいいのかセンが思考していると、

 

「それではモエ、爆薬などの調合を任せていいでしょうか」

 

「んえ?」

 

「今後の作戦、強大な敵と相対する日が必ずきます。そんな時、モエの作る威力の高いオリジナルの兵装を扱えれば戦闘も楽になると思いまして」

 

どうでしょう、と首を傾げ提案するミヤコに対して、モエは一考。

だが、それは数秒もなかった。

 

「オッケ。私作るのも好きだし、その話乗った」

 

「ありがとうございます」

 

(ふむ)

 

早速成長を披露するミヤコ。

閉校前からできていた他の隊員に気を配るというスキルを、相手の利を叶えるべく話し合うことへ昇華させた。

これにはセンも感心の一言。

 

「話はまとまったな。それでは各員、今日はここま」

 

ビーッ!ビーッ!

 

ここまで。

そう発しようとした彼の声を、部外者の立ち入りを知らせるアラームが遮った。

 

「野良猫でもかかったか?」

 

「風倉」

 

「ちょお待ってよ...侵入者一人、サーマルカメラの熱反応からして、人だわこれ」

 

「も、もしかしてヴァルキューレ...温泉開発部...?」

 

「前者なら以前の教訓から学べばもっと数がいるだろう。後者もアラートより先に爆発音の方が早い筈だ」

 

「となると、一般人でしょうか」

 

「この一帯でデモを行っていると商店街の連中には周知したんだがな...公園入り口にも注意書きも設置してあるというのに」

 

子ウサギ公園は規模の大きさに反比例して、ミヤコ達が作戦本部として決める前から、なんならセンが居住する前から毎日の人気は閑散としていた。

日中でも見かける人物は殆ど居らず、それでもたまに利用するかと思われた近辺の住民に知らせはしたのだが、誰もが快く了承してくれたのである。

別に行くこともない公園だからなのか、はたまたデモ活動をテレビで見て応援する気になったのか、真相はわからない。

 

「知ってる上で入ってきたなら、我々にとって敵対者である可能性が高いです。すぐに迎撃しましょう」

 

「ああ。RABBIT3、モニターに出せるか?」

 

「ほいっと」

 

デバイスに映し出されたのは、アラートが鳴る原因となった公園に入ってすぐある広場であり、警戒のためにトラップ地帯となっている場所だ。

熱源は動いていないらしく、映像ドローンが侵入者の姿を捉えた。

一体どんな奴がと身構える五人だったが、何処かで見知った人物であることを悟る。

 

「む?」

 

「この人...」

 

白を基調とした制服は、連邦生徒会のもの。

キヴォトスではセンと同じく珍しいヘイローのない男性であり、黒縁メガネをかける好青年。

 

「先生...?」

 

独立連邦捜査部、シャーレ。その責任者である大人が、侵入者の正体であった。

 

 

 

********************

 

 

 

「いやぁ、いきなり来てしまってごめんね」

 

地雷やらブービートラップやらの魔境地帯で動けなくなっていた先生を救出。

センは歓迎ムード、ミユはオドオド、他三人はジト目で彼を本部となるテントへと案内した。

簡単に歓談の席を用意し、センと先生がテーブルを挟んで向かい合って座る。

 

「アポを取らずに来るとは、社会人としてマナーがなってないんじゃないか?」

 

「手厳しいね」

 

「どうぞ、粗茶ですが。賞味期限は切れてるので、味は多少落ちてます」

 

「その台詞で本当に粗茶な時ってあるんだ...ありがとう」

 

「つまらないものだけど、お菓子もあるよ。賞味期限切れてるやつ」

 

「あはは、いただくよ」

 

客人に対して冷めた態度を取るサキ、ミヤコ、モエだが、対する先生はというと苦笑を混じらせながらも有り難そうにお茶を飲み、ポリポリと柿ピーを齧っている。

 

「ご足労いただき感謝します、先生。今日はどういった用件でこちらへ?」

 

「うん。何か困ったことは無いかと思ってね。できることならシャーレで支援をしたいと考えていたんだけど...」

 

「それはそれは、お心遣い感謝します」

 

「お、おいセン。ダメだからな」

 

「向こうは私らの嫌いな大人、それも連邦生徒会直轄の組織。対立してる相手からの施しなんて、受けれる訳ないし」

 

「二人の言う通りです。そもそも、今は不自由なく生活を送れています」

 

「みたいだね」

 

パッと見れば、先生としてもミヤコ達が苦労しているようには見えなかった。

シワなく起立したテント群、デモ活動時よりも強固になったバリケード、整備されたドローン、そして温泉。

 

「...温泉?」

 

「色々ありまして」

 

「そ、そうなんだ。どことなく、公園全体も綺麗になってるね。改修と同時に清掃もしたのかな」

 

「はい、こいつらが頑張ってくれました。現場の指示では月雪がいい動きを」

 

「師匠のお言葉があってこそです」

 

むふーっと互いを褒め合うダンボール師妹。

最近になってセンの思想思考をトレースし始めているミヤコだが、あまり似ない方がいいところまで───ダンボールへの絶大な信頼等───似てきているため、どこかのタイミングで正気に戻さねばならないとサキは思う。

 

「洗濯もしっかりしてるみたいで...」

 

「あ、あまり見ないでください。あの中には私たちの下着もあるので」

 

「ごめんごめん」

 

女子特有の恥じらいはまだ忘れていないようで安心し、先生がモエに変態だーと罵られている裏でホッと胸を撫で下ろした。

 

(どうやら、おかしくなるのはセンとダンボールの時だけみたいだな)

 

重症ではあるが、重篤ではない。

元に戻る可能性は充分ある。

 

(まぁ、私も人に言えた義理ではないが...)

 

チラリと、堅物兎は厚紙に興奮を覚える少年の横顔を見た。

喋り出せば残念さが前面どころか全体に現れる彼は、黙っていればそれなりを通り越してかなりのイケメンだ。

瞳には切れ味と例えるほどの力強さが備わり、野宿のせいか余分な贅肉が削ぎ落とされた線の細い体からは、ある種の美さえ感じられる。

ここに傲岸不遜な態度、ダンボール狂い、変なところで発揮するプライドが追加され、高城センという少年は形成される。

 

(ほんと、なんだってこんな奴を私は...)

 

現状は失態、長い年月を要すれば黒歴史として人生の汚点になるかもしれない。

未来で笑い飛ばせればいいが、今は断じて笑えない。

なにせ、生まれて初めて抱いた感情の矢印の先にいるのは、こんな変人なのだ。

そもそも、これが本当にそういった劣情...好意や恋に定義される何かなのかも、サキは計れずにいる。

 

(一時の気の迷い、ということも考えられるよな)

 

無職でホームレスな前評判を覆す戦術を肌身で感じて、心揺さぶる演説を聞いて、個人の特徴を把握しそれに合った対策や技術習得の方法を導き出す慧眼に触れた。

たったそれだけだ。

男子との交流がこれまで少なかったのも可能性の一つかもしれない。

ただ、これらがサキに対して多大なる影響を与えたのは確かだ。

 

(流されず、見極めよう)

 

小隊長に正直に自分の気持ちを伝えたこと、彼を無意識に擁護してしまったこと、背中を洗おうと言われて羞恥心以外のナニカも昂ったこと。

もはやそれが答えだろ、という事実には目を逸らし、サキは思考を切り替える。

 

「風倉の言う通り、我々はこうして席を交えているとはいえ敵対関係です。ご厚意は有り難いですが、支援を受け入れては我々としての立場がない」

 

何卒、ご理解ください。

座りながらも深々と頭を下げるセンに、そんなそんな顔を上げてと必死に止める先生。

 

「なら、私からの頼み事を聞いてくれないかな」

 

「と、言いますと?」

 

「食料は足りているかい?」

 

「...足りてはいますが、そうですね。味と栄養が偏っている、というのが正直な話です」

 

衛生問題を解決して次に課題となるのが、食事関連だ。

期限切れ間近の惣菜パン、残り少ないSRTの保存食、缶詰といったラインナップが、普段セン達が摂取している食品。

腹を満たせてはいるものの、いかんせん緑が少ない。懇意にしている商店街で余り物の野菜を貰えることはあるが、それも毎日ではない。

絶賛成長期である10代の少年少女達。その食生活を疎かにしていいのだろうか。答えは否である。

 

「相談なんだけど、シャーレのオフィスにエンジェル24...コンビニエンスストアがあって、そこで出る期限間近の食品を引き取って欲しいんだ。あそこに立ち入るお客さんはシャーレに出入りする私と当番の生徒ぐらいで、毎日大量の廃棄物が出てしまうとアルバイトの生徒から相談を受けていてね」

 

「わ、私たちを利用する気か!?それに、支援には応じないとさっきから...」

 

「───なるほど」

 

「師匠?」

 

「あくまでこれは支援ではなく、我々への依頼。そう捉えてしまえばいいと先生は仰りたいのですね」

 

「うん、その通り。どう?引き受けてくれるかな」

 

呉越同舟。

先生は生徒の悩みの解消を、セン達は食料問題の改善を。

お互いの利益は、一致している。

 

「わかりました。こちらとしても有り難い申し入れです」

 

「よかった。私の方からソラ...店員さんには連絡を入れておくよ。連絡先も教えるから、受取の時刻は相談して決めて」

 

「助かります」

 

「い、いいのかな...」

 

「ようは屁理屈だよね。側から見れば協力しているようにしか見えない気がするケド」

 

「こういうのは話し合いと交渉を行なった事実が大事なんだよ。月雪、いいな?」

 

「はい。この際です、使えるものはなんでも使っていきましょう。期限間近の物を食べるのは、今に始まったことではないですし」

 

「施しが複雑ではあるけどな...」

 

「先生。俺はあまり、あなたとは仲を拗らせたくありません。今後もややこしい形にはなりますが、良好な関係を築けていければ」

 

「私もそのつもりだよ」

 

それぞれ立ち上がり、右手で固い握手を交わす。

 

「そうだ。今日の夕飯、一緒にどうかな。コンビニへの案内ついでに、何か奢るよ」

 

「流石にそれは...ダメじゃないか?」

 

「ですね。先生といるところを連邦生徒会の生徒に見られても面倒です。我々の立場が脅かされる可能性があります。それに」

 

「───?」

 

先生を一瞥するミヤコの目は、冷たい。

 

「師匠はああ言っていましたが、私はまだあなたのことが嫌いです。そうホイホイついて行く気にはなれません」

 

相も変わらず、手厳しい態度。

コイツ本当に師匠師匠と言ってるやつと同一人物なのかと、サキは二重人格説を疑った。

ツンケンした態度のミヤコに対して余裕を持った笑顔を崩さない先生についても、ある種の得体の知れなさ、底知れなさを感じる。

 

「親睦を深める、という点については俺も賛成です。ただ、それよりも公の場であなたといることで生じる我々へのデメリットの方が大きい。その辺りの線引きは、しっかりとしていきたい」

 

「なら、相応のメリットを提示すれば乗ってくれるという解釈でいいと見た」

 

「───ほう?」

 

姿勢を変えるセン。

引かれていた顎は少し上向き、指と指を絡め膝の上にあった両手は腕組みの形になり、長い足は目上という立場である先生に向けて組まれる。

尊大な態度に様変わりしたのだ。

 

「ならば先生、俺はそれを見極めるとしましょう。キヴォトスの外から来た大人であるあなたが、どのような交渉材料を持って我々と食卓を共にするのか」

 

「お手柔らかに...と言いたいところだけど、生憎負けるビジョンは思い浮かばないかな。これを機にセンくんも知っておくことを推奨するよ」

 

大人は汚い、ということをね。

 

 

 

 

 

 

「ここに、焼肉食べ放題の無料券があります」

 

「どうぞよろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

スパァンッ!

 

まさかの即答&土下座をかますセンに、堪らずサキは彼の頭を引っ叩いた。

 

「な、なにをするRABBIT2!?」

 

「それはこっちのセリフだ!あれだけ格好付けといて秒で陥落なんて、恥ずかしいとは思わないのか!?」

 

「ハッ、おまえこそ考えが及んでいないな!焼肉だぞ!?俺が何年まともな肉を食えずにいると思っている!?見ろ、この痩せ細った体を!布越しでもわかるほどに貧相なこのガリガリさを!」

 

「肉はこの前水炊きで食べただろうが!」

 

「鍋で熱した肉と炭火で焼いた肉を一緒にするとは言語道断、一緒にするなど烏滸がましい!カフェオレとココアぐらい違うわ!」

 

「いうてあんまり変わらなくない?」

 

「確かに...」

 

「そもそも俺は焼肉では鶏派ではない、牛肉派だ!」

 

「いや知らんがそんなこと!?」

 

「師匠、サキ、落ち着いてください」

 

「む...」

 

「み、ミヤコ」

 

「お肉を食べる機会に恵まれなかった師匠、今後のために先生といるところを公の場で見せたくないサキ。優先は確かに後者ですが、師匠の気持ちも分からなくはありません。なので、ここはお互いが納得いくまで話し合いましょう。私たちには争いではなく、言葉で解決するという道が存在することを今一度」

 

ぐぅ〜〜〜っ

 

突如鳴り響いた腹の虫。

音の主は、先ほどから最もらしいことを並べるミヤコから。

静寂、気まずい空気が場を満たしたが、彼女は何事もなかったかのように『ですから、私が何を言いたいのかというと』と仕切り直し、

 

「いきましょう、焼肉」

 

「うおい小隊長!?」

 

これまでの発言を彼方に放り投げ、そう宣った。

 

「今私たちに話し合えって言ってたよな!?一瞬で矛盾するとはどういうことだ!?」

 

「大人の提案に乗るのは癪ですが、師匠が言うのであれば私はそれに従うまでです。本当に、誠に、癪ですし屈辱ですが。ジュルリ」

 

「ならその涎を拭いてから言え!従ってるのはセンにじゃなくて自分の空腹にだろうが!?」

 

「失礼ですね...そもそも、無償での焼肉。これは十分メリットになり得ます」

 

「やはりRABIIT1、おまえの大局を見据える目に狂いはないようだ」

 

「過分なお言葉、痛み入ります」

 

「絶賛狂いまくりだし過分なのはその通りだよ!クソッ、モエ、ミユ、おまえ達も何か言ってや...待て、どうしてセンとミヤコの側に寄る?」

 

「私はどっちかと言えば食べたいし。だって焼肉だよ?我慢するのも馬鹿らしいでしょ」

 

「ごめんねサキちゃん...私も食べたいかな...」

 

「そんな...い、いやまだだ!たとえ一人になったとしても、私は決して流されないぞ!いつだって何かを変えるのは少数派なん」

 

ぐぅ〜〜〜っ

 

センの受け売りで宣言するサキの言葉を遮ったのは、彼女自身の腹の虫。

ミヤコよりも若干大きかったのは、怒りすぎてカロリーを消費したからだろうか。

再度訪れる沈黙。

取り繕っていた小隊長とは違い、ポイントマンは今し方偉そうに語っていたのも相まって、その顔を真っ赤に染める。

そして『...つまりだ』とハキハキした話し方の形を潜め、

 

「いくぞ、焼肉」

 

結局、折れたのだった。

 

 

 

********************

 

 

 

D.U、とあるお高めな焼肉店にて。

 

「あ、おいモエ!それは私が育てたカルビだぞ!」

 

「そっちこそ、さっき私が焼いてた塩タン取ってたじゃん。そのお返し〜」

 

「すみません、今出ている分焼き終わったら網の交換をお願いします。それと、シマチョウと豚カルビ、豚トロ、壺漬けを二つずつ、白ごはんを六つ」

 

「ミユ嬢、焼けたぞ。コチュジャンはいるか?」

 

「はい...ありがとうございます...。わぁ...すごく美味しいです...」

 

先生の奢り、且つ無料ということで遠慮なしに胃袋へ放り込んでいくRABBIT小隊。

サキとモエはバチバチに火花を散らし、ミヤコは網の交換と次なる肉を注文しつつわさび醤油で肉を食し、センは完璧な焼き具合でミユへとカルビを献上していた。

 

「み、みんなすごいね...」

 

実は無料券は一枚だけで、あとの全額は自腹で済ます魂胆だった先生は、想定よりも遥かに爆増する金額にまたユウカに怒られると苦笑い。

 

「先生、箸が止まってるんじゃないか?もっと食べないと私たちのような精鋭部隊にはなれないぞ」

 

「あはは...もう私はお腹いっぱいかな...」

 

「まだ数枚しか食べてないじゃないか。センを見ろ」

 

「白ご飯はまだか。焼肉といえば白いご飯だろうが...」

 

うおォン、はふはふ、もぐもぐと気持ちのいい食べっぷりを見せる彼の姿は、まさに人間火力発電所。

炭火の熱気によりできる汗と共に目から零れ落ちる雫もあるが、美味しさによるものか煙によるものかは定かではない。

 

「よっぽど食べたかったんだね...」

 

「ここまで幸せそうなコイツを見るのも初めてだな」

 

「く...っ、美味し過ぎます...ちょっと私先生みたいな大人好きかもしれません...!」

 

「おまえは揺らぐの早過ぎだろミヤコ」

 

これが焼肉の魔力か。

呆れるサキだが、モエの奇襲を祓うのも忘れていない。すぐさま手元近くのホルモンを回収し、タレをつけ、モグモグと咀嚼に勤しむ。

 

(こうして誰かと焼肉を食べるのも、二年ぶりか)

 

オーダーしたご飯が到着し、待機させていた肉と共に口へ運びながら、センは物思いに耽る。

たしか繁忙期を乗り越えた連邦生徒会の皆で一度、凶悪指名手配犯複数人を捕まえてカンナと二人で打ち上げをして一度、店は違うがお金を出し合って食べた思い出がある。

 

『大体、あの時私の案が通っていればあんなことには...』

 

『あ、食べないならそのカルビ貰いますね不知火先輩』

 

『ちょ、ちょっとぉ!?なに勝手に私の育てた子を取ってるんですか!?』

 

『由良木、おまえも遠慮するな。先輩の厚意に甘えておけ』

 

『ありがとうございますせんぱ〜い』

 

『で、す、か、らぁ!』

 

『会長、頬にタレが』

 

『うみゅうぅぅ、ありがとうリンちゃん』

 

『ど、どれから食べれば...』

 

『アユム、こっちが焼けたから置いとくわね』

 

『あ、ありがとうございます...!』

 

『アオイ、おまえの分も焼けたぞ。ほら、ほら』

 

『...はぁ、帰ったらカロリー計算しないと...』

 

後輩のモモカと共謀し、カヤをおもちゃにしたのもいい思い出だ。

 

『まさか他の部隊を先回りさせていたとは。おかげで一網打尽、ハサミ打ちにできた。相変わらず見事な戦術だ、高城』

 

『いえ、先輩の迅速な動きがあってこそできたことです。俺だけの力ではない』

 

『謙遜するな、おまえにはいつも助けられているんだ。感謝している』

 

『今日ぐらい、仕事の話は抜きにしましょう。何から飲みますか?先輩』

 

『では、烏龍茶を。あとは...ここの店のじゃがバターは、意外とイケるらしい』

 

『ほう?それは興味深い』

 

一つ違いの先輩後輩の間柄、カンナとは仕事終わりにちょくちょく一杯やっていた。普段はラーメン屋台やおでん屋台で、焼肉を食べに行ったのは互いに任務完遂の臨時収入があったためだ。

 

(どちらも遠き日の思い出だが、悪くない時間だったな...)

 

「師匠、どうなされましたか?」

 

迎に座るミヤコが、首を傾げてセンの表情を伺っている。

 

「いやなに、次は何を頼もうと思ってな。何かおすすめはあるか?」

 

「でしたら、野菜なんてどうでしょう。エリンギにかぼちゃ、特にニンジンがいいかと」

 

「え〜、店にまで来て野菜〜?やっぱ肉っしょ、肉」

 

「わ、私...ニンジン食べたいな...」

 

「魚介類なんかもあるぞ。エビを殻ごと焼くやつなんて、どうだ?」

 

「野菜にエビか...なら、それを頼むか。他の客に取られかねん」

 

「流石に大袈裟だ。エビが無くなるなんて、そんなことある訳ないだろう」

 

「それもそうか」

 

(あぁ...ごめんユウカ...先月のプラモデル代をゆうに超えるかも...)

 

一名が真っ白になりかけているが、その後も楽しい焼肉は続いた。

後日、エンジェル24のソラと実際に顔合わせをし、廃棄品受け取りの交渉も成功。

食事問題は、無事解決となった。

 

 

 

********************

 

 

 

「リーダー、子ウサギ公園にきた新入りの話、知ってますか?」

 

「ええ。縁というのは、風のように訪れ、風のように去るもの...彼女たちは、一体どのような風を運んでくるのでしょうか」

 

「共存を望むのですか?」

 

「それにつきましては、ありのままの状態を受け入れる『無所有』の心を持ってもらう必要があります。皆さんから見て、彼女たちはその思想を持っていると思えましたか?』

 

「いえ、無所有どころか欲まみれですよあいつら」

 

「その上、我々が頼りにしていた廃棄弁当を根こそぎ持っていくんですよ。もやし弁当からステーキ弁当まで、一つ残らず!」

 

「しかも、噂では園内に温泉まで作る好き勝手具合だとか...」

 

「それはそれは...は?ちょっとまってください。温泉?今温泉って言いましたかあなた」

 

「はい」

 

「ふ、ふふふ...どうやら私を完全にキレさせたようですね...。手遅れな程に、物欲に溺れているなら容赦はしません」

 

「リーダー、例の御仁との関係性はまだ取れておらず...」

 

「構いません。こうなれば大人しくしている時間も勿体無い。道徳を失った俗物たちに...『無所有の喜び』を教えるとしましょうか!」

 

D.U郊外にて、謎の影が怪しい動きを見せていた。

 

 




原作時点よりも先生とは仲良くなってますねこれは...。そして、何やら厄介な輩たちに目をつけられた様子。
今後の展開はどうなるのか、お楽しみに。

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