ワイ『ダンボールは万の事に使いけり』 ミヤコ『流石です師匠』   作:\コメット/

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09 バカ言ってないで、働け。

 

 

「孤独と孤高の違いを、センくんはどう解釈していますか?」

 

二年前、とある喫茶店にて、少年に対面する少女は彼にそう問うた。

 

「それは、今現在我々が二人でいることと関係があるんですか?会長」

 

「もうっ、質問に質問で返さないっ」

 

そして、ぜーんぜん関係ないですよ。

言ったのち、いちごカステラとバナナカステラをにへにへとした笑みを浮かべながら頬張る少女の肩書きは、この学園都市キヴォトスにおいて頂点に位置するもの。

 

連邦生徒会長

 

全ての学園を統括し、法を取り決め、定め、齢10代でありながら一つの国を運営する現代の異能。

超人とは、まさに彼女のことを言うのだろう。

そんな少女がセンの上司であり、リンが右腕であるならば彼は左腕として会長を支える立場にあたる。

 

「仕事、サボってよかったんですか?七神先輩がカンカンになっている姿が目に浮かぶ」

 

「このいちごとバナナのカステラはお店の期間限定メニューで、しかも今月中に終わっちゃうんですよ!今日時間を作らないと後悔すると思ったので...でも、安心してください。今日明日中に終わらせなくてはいけない書類には全て目を通して、判も押したので」

 

「デリバリーで頼めばいいものを」

 

「ここのお店、対応してないんです。雰囲気も嫌いではないし...どうです?いいところでしょう?」

 

「ええ。レトロなアンティーク調、大人びた空間、読書するには最適な場所だと俺も思います」

 

センくん、スイーツを食べに行きますよ!と昼休憩の終わりに生徒会長に連れられ、二人はトリニティ領内の喫茶店へとやってきた。

季節毎に植え替えを行い、四季折々の景色を見せてくれる花畑を向けた先にあるその店は、景観は年季が入っていながらも店主の人の良さ、淹れるコーヒーや紅茶の美味しさ、そして何より店主が腕によりをかけて作るスイーツが絶品で、新規から常連まで、毎日客足が絶えないという。

それでいて店内の雰囲気を崩さないのも、今センが啜るコーヒーが美味しいのも、マスターの手腕だ。

 

「で、先ほどの質問についてですが」

 

「孤高と孤独の違い、ですね」

 

顎に手を当て一考し、口を開く。

 

「会長と不知火先輩でしょうか」

 

「ぶっちゃけちゃいましたねぇ...」

 

後者がこの場にいないから言えたこと。

いや、センならばたとえカヤがいたとしても躊躇わず言うだろうが。

更に煽りを重ねてチェスか将棋に話を持っていき、圧勝を手向けて夕飯を奢らせるまでがセットだ。いい鴨である。

 

「他と違う思想視点を持ち、且つカリスマがあるかどうか。単純ですが俺はそう考えます。その点で言えば会長、あなたは皆の理想のリーダーです。無論、俺も含めて」

 

「むふふ、褒めても何も出ませんよ〜。一口いります?」

 

「では、いただきます」

 

差し出されたフォークに刺さるカステラをパクついた瞬間、近くの席に座っていたトリニティ生徒から黄色い悲鳴が小さく上がる。

だが、そんなことを気にする二人ではない。

なぜなら彼らには間接キスなどに動揺する弱メンタルの反対、レッドウィンターの革命運動がD.Uにまで飛び出してきた時ですら冷静に事の鎮圧に動いていた強メンタルが備わっているのだから。

 

「美味いですね」

 

「でしょう?今度、みんなも誘ってまた来たいなぁ」

 

「最近事件事故が絶えませんから、こうした暇ができるのは暫く後になりそうだ」

 

「なら、今日来れたのはやはり幸運でした」

 

「違いない」

 

昨今、連邦生徒会はキヴォトスで起こる連日の事故やら事件に頭を悩ませている。

生徒会長が作る制度に陰りが、ということでは断じてない。

彼女の手腕に間違いは無く、多くの生徒に受け入れられているのは確かだ。ただ、その一部で反発せずにはいられない勢力が一定数いるのが実のところで、日々対応に追われている。

 

「全ての生徒が幸せに学園生活を送れるようにする。言葉にするのは簡単ですが、実現するのがこうも難しいとは。生徒会長に就任した時は、思いもよりませんでした」

 

「あなたは手を差し伸べる努力を怠らない。悪いのは、その手を払い除ける愚か者共だ」

 

超人である会長に、ミスは無い。

そうセンは信じているし、それは事実だ。

ただ、当の会長は納得がいっていない様子。

 

「いいえ。我々は拾い上げなければならないのです。全ての可能性を、心を───奇跡を。それらが終着する場所を、私の代で」

 

「しかし、それには限界がある。孤高とはつまり、常に先頭を歩き民を導く存在です。俺はサポートを惜しみませんが、いずれお身体に障りますよ」

 

「え〜?センくん、心配してくれるんですか〜?」

 

「勿論。あなたがいなくなったら、誰が不知火先輩の手綱を握るんですか」

 

近所で番犬を務める可愛い小さなチワワにちょっかいを出し、吠えられても返り討ちにする。

カヤとセンの関係を言い表すならば、こうだ。

 

「カヤちゃんとも分かり合えたら、この状況も変わるでしょうか」

 

「能力は俺も認めるところですが、いかんせん独りよがりが過ぎる。あれでもっと周りを頼り、尚且つ無理のない要求が他者にできれば彼女も会長に数センチは近づけるでしょうに」

 

「私から言っても恐らく聞いてくれませんし、センくんから今度言ってみてはどうです?」

 

「俺の言うことなんて聞きませんよ、あの人。そこが先輩のいいところでもあるんですけどね。少しは他人の忠告を受け入れる器もあれば、もっと良い」

 

「それは、自己紹介ですか?」

 

「なにを───」

 

会長の咄嗟の行動に、センは硬直する。

席を立ち、いつの間に伸ばした柔らかいその右手で、彼の頬をソッと、優しく撫でる。

 

「顔色、少し悪いです。取り繕えているみたいですけど、バレバレですよ」

 

「...やはり、会長には敵いませんね」

 

やれやれと肩をすくめ、気持ち彼女の手の平に体重を預けた。常に余裕を崩さないセンですらそうさせるだけの魔力が、神秘が、彼女にはあった。

 

「ヴァルキューレも兼任してのお仕事、私も含め連邦生徒会はすごく助かっています。けど、それでセンくんに倒れられては私としても立場がありません。帰ったら、明日まで仮眠室での休憩を命じます」

 

「了解しました。残りの仕事は...」

 

「私にお任せを。今日の分の仕事は何故か、既に終わっているので」

 

「...さては、俺に休息を摂らせるために図りましたね?」

 

「むふ〜、どうでしょぉ〜?」

 

そのニヤけ面は正解と見做していいだろう。

 

「確かに、今回センくんを連れ出したのはそれを命じるためですけど...同時に、二人で話したいと思ったんです」

 

「質問の件、ですか?」

 

「それもありますが、本題をまだ話していません」

 

座り直し、再度二人は顔を、目を、視線を合わせる。

 

「年内...近いうちでしょうか。転換点とも言える事件が起こります」

 

「起こります、と。確信ですか」

 

「はい。それが何かは分かりませんが、私たちにとってとても良からぬことだと思います」

 

「トリニティの予言の大天使ではあるまいし」

 

「セイアさんのは明晰夢、はっきりと意識を持った状態で過去から現在、未来に至るまで正確に観測できます。私のは、単なる直感です。動物的本能、というものでしょうか」

 

兎に角、嫌な予感が拭えないのです。

晴れ渡る青空のような微笑みに陰りが訪れ、目線が下がり自身の二の腕をキュッと握る生徒会長。

 

「私とセンくんのどちらかが機能不全に陥る...かもしれない。そうなる前に、こうして話の場を設けたかったんです」

 

「あなたに限ってそれは無いでしょう。となると、問題と原因は俺にあるのか...?」

 

「いえ、必ずセンくんに不幸が訪れるとは限りません。ただ、警戒だけはしておいてください」

 

「了解です、肝に銘じておきます」

 

「頼みますね。───よし、良かったぁ話せて」

 

「意外と重要な話で、少し驚きましたよ」

 

「えへへ、ごめんなさい」

 

「いえ謝らなくても。この事を、七神先輩と共有は?」

 

「まだです。センくんが初めてで...尤も、このままリンちゃん達には話さないつもりですけど」

 

「他のメンバーは兎も角、七神先輩にもですか?」

 

七神リンといえば、生徒会長の右腕的存在だ。

お堅いところはあるが実力はセンも認めており、訳を話せば力になってくれると思ったのだが、彼女の考えは違うようだ。

 

「センくんと同じで、リンちゃんもかなり疲れていまして。あまり考えさせて心労をかけては身体が保たないかと」

 

「ふっ、その代わりに俺ですか」

 

「あ、そういう意味ではなくてですね...!」

 

「いいですよ。親友のことです、心配もするでしょう」

 

「えっと、そうでもなく...」

 

「ん?」

 

一つ咳払いをし、彼女は言う。

 

「センくん、あなたは限りなく私に並び得る存在です。もしかすると、もう追い越しているかも」

 

「それはないかと「話は最後まで聞いて」...はい」

 

「...ですから、いずれ来たる危機もきっと乗り越えられると、私は信じています」

 

慈愛のような、エールを贈るような、任せてごめんねというような、そんな表情で、少女は少年を見つめる。

 

「この状況で話を共有できるのは、あなただけです。頼ってしまって、ごめんなさい」

 

「会長の無理は今に始まった事ではありません。そう暗い顔をしないでください」

 

「む、それフォローしてます?」

 

「ええ」

 

「本当かな〜」

 

「本当ですよ」

 

ジッと視線を合わせ、数秒。

堪らず吹き出すのは、同時だった。

 

「クスクス...では、よろしくお願いします」

 

「はい、お任せを。また落ち着いたら、今度またゆっくりお茶でもしましょう。生徒会の皆も一緒に」

 

「いいですね。その提案、大賛成です!」

 

「場所はまたここ...いや、今度俺の家ができるんです。新築で、それなりにリビングが広くて。そこでこの前やった焼肉の時みたいなパーティをしましょう」

 

「分かりました!費用は私が持ちますので、来たるその催しを目指して、頑張りましょう!」

 

「はい」

 

「楽しみにしていますね、センくん!」

 

これは記憶だ。

二年前、ある事件が起こる前日の、あの人との記憶。

 

そのパーティが行われることは、無かった。

 

家が爆発して無くなったからではない。

 

彼は───俺は───高城センは、敗れたのだ。

 

会長の期待に応えられず、悪意に、敗北したのだ。

 

 

 

********************

 

 

 

温泉により衛生問題解決、コンビニとの交渉により食料問題も解決。

次なる課題を挙げるならば、その食糧をどう保存するかだ。

期限間近や期限切れの食品とはいえ、適した処置を行えば2、3日は保つ。

ようは冷蔵庫等の家電を、RABBIT小隊は欲していた。

 

「お、セン。よう来たよう来た!これ食べていけ」

 

「高城さん、ウチのも見とってくれよ!」

 

「セーン!あそぼあそぼー!」

 

「おいおい、いっぺんに来ると流石の俺も対応できん。一人ずつだ」

 

キャンプにモエを待機させ、懇意にしている子ウサギ商店街にやってきたセン達。

エリアに入って早々、彼の周りには人集りができており、手厚い歓迎を受ける。

 

「すごい人気だな...」

 

「はい、壮観です」

 

「大人の人から、私たちより小さい子供まで...みんなセンさんに笑いかけてるね...」

 

試食を持ってくる者、バシバシと彼の背中を叩いて来訪を喜ぶ者、持ち運びのできる将棋盤を持ってズボンを引っ張る者。

彼らの表情を見れば、センがどれだけこの商店街で好かれているかが分かった。

 

「もぐ...ふむ、良いと思う。ただ、学生向けに作るのであればもう少し味が濃くても良いな」

 

「ほー、そうか!なら学生さん向けとで分けてみるか!」

 

「ああ。こっちは...うん、良いスープだ。以前言った通り、煮込み時間を変更したんだな?」

 

「そうそう!お陰でコクも出て、結構評判いいんだよ!」

 

「センー、これ開けて!センがパック開けるとレアカード出やすいんだ!」

 

「どれ...ほら、当たりか?」

 

「うわすっげえ!一番レアなシークレットレアだよ、友達に自慢してやろ!やっぱセンって引きが神がかってるよなぁ!」

 

一人一人に対して丁寧に対応、反応は誰もが納得のいく様である。

 

「ほんで、今日はどうして来たんだ?」

 

「そろそろ、俺も冷蔵庫が欲しくなってな。廃品でいいから譲って欲しい」

 

「あ、それならウチの使ってないやつ持っていきなよ。年季は入ってるけど、容量はデカいしまだまだ動くよ」

 

「助かる。月雪、風倉に車を用意させろ」

 

「りょ、了解しました」

 

もっと交渉に時間をかけるかと思いきや、あっさり冷蔵庫の確保に成功し、拍子抜けするミヤコ。

 

「お?」

 

そんな彼女の顔を見て、センにたまっていた人集りはゾロゾロとミヤコ達の前に移動する。

 

「あんた、もしかしてこの前テレビに出てた子?」

 

「は、はい。SRT特殊学園RABBIT小隊所属、小隊長の月雪ミヤコです。師匠...高城さんには、私達も大変お世話になっていまして...」

 

住民の圧、公園を占拠している後ろめたさもあってか若干後退りしながらも、ミヤコはハキハキと自分の紹介をこなす。

センから話はいっていると聞いてはいるが、あまりよくは思われていないだろう。彼女はそう思っていたのだが、

 

「そっかそっか!学園、また復興するといいな!」

 

「私ら、応援してるよ!」

 

「え、え」

 

想定とは違う反応に、困惑。

 

「あんたの演説、グッと胸に響いたよ。元々公園は俺らあまり使ってなかったからさ、納得のいくまで使い倒してやれ。その方が土地の神様も喜ぶだろうよ」

 

「はぇ〜、テレビで見た時は偉い別嬪さんだと思ったけど、生で見たらそれ以上だね。ちょっと一緒に写真撮ってくれない?」

 

「了解、です」

 

「そーんな堅くならず!笑って笑って!」

 

傍迷惑だ、有難迷惑だ。

心のどこかで、そう罵られることを恐れていた。

でも、その心配はどうやら杞憂のようで、子ウサギタウンに住まう彼らは快くミヤコ達を受け入れてくれた。

 

「───」

 

センと、ミヤコの視線が合う。

彼の目は『おまえの行動の結果だよ』と言っているように見えた。

 

(はい...はい...)

 

住民の温かさ、センのカリスマに触れて、目にジーンと熱いものが込み上げる。

涙は必死に堪えたが、それで再び表情が堅くなってしまい、住民のうちの一人から笑顔を所望された。

 

「あいつ、やっぱり引き摺ってたんだな」

 

「そのようだな」

 

サキがセンの隣に立つ。

ミユはというと子供達にわちゃわちゃされて、自動的に鬼ごっこが始まっていた。

 

「一部の人間はいい顔をしないだろうが、所詮は一部だ。ここに住む奴らに、おまえ達を悪く言う愚か者はいない」

 

「有り難い話だな。これで商店街からのバックアップも得たことになるだろ?全部計算のうちか?」

 

「まぁな。しかし、この結果に結びついたのはおまえ達の行動あってのことだ。俺は、ただ橋渡しをしたに過ぎん」

 

「そこは別に、謙遜しなくてもいいんじゃないか?いつもみたいにそれほどでもあるって言えば」

 

「事実を言っているだけだ」

 

「...はぁ、まったく」

 

「どうした?」

 

「別に。面倒くさい奴だと思っただけだよ」

 

「まさか空井に言われるとはな」

 

「おいどういう意味だそれは」

 

「はっはっは」

 

「笑って誤魔化すな!...って、ん?」

 

「お姉ちゃん、あそぼー」

 

技でもかけてやろうかと思った彼女を制止させたのは、ミユの鬼ごっこから抜けて来た一人の子供。

 

「ぼく、将棋できるよー。一緒にやろー?」

 

「そうか、ならそこのテーブルを借りよう。私も盤上遊戯には自信があるんだ」

 

「お姉ちゃん、すごい頭良いらしいね。センも言ってたー」

 

「ふ、ふーん。ちなみにどんなふうに言ってたんだ?」

 

他人に話したという自分の評価。子供相手とはいえ、気になるものは気になる。

 

「えっとね」

 

「うん」

 

「頭は良いけど、隙を突かれると弱い堅物兎って!」

 

「セン、逆十時と裸絞め、どっちがいい。選ばせてやる」

 

「待て、落ち着けRABBIT2。おまえは情報に踊らされている。本来のおまえは暴力を行使しない素晴らしい人格の持ち主の筈だ。俺にはわかあだだだだだだ!!??」

 

洗練された動きでなす術もなく地面に倒されたセンは、右手を取られサキの逆十字を食らう。

 

「ギブ、ギブアップだ審判!俺は二回地面をタップしたぞ!?」

 

「これって有効?」

 

「普通に一本じゃね?」

 

「どうやら審判団は判定に悩んでいるみたいだ。審議がわからないため、このまま技を続行するぞ」

 

「選手の命がかかっているんだぞ!?頼む審判!試合を止めろォ!」

 

「あはは、セン痛そー」

 

「センって将来絶対に尻に敷かれるタイプだよねー」

 

この場に彼の味方などいない。

無邪気な笑顔に見つめられ、センは徐々に顔を青色へと変色させていく。

 

トゥルルルルル、トゥルルルルル

 

サキの絞技の力を緩ませたのは、彼女のデバイスにかかって来た着信だった。

 

「はい、もしもし」

 

状態そのままに、サキは電話をとった。

 

『くくく、あなたがRABBIT小隊の方ですね?私はデカルト。真の幸せを追求する求道者『所有せずとも確かな幸せを探す集い』所確幸の』

 

ブツッ

 

サキは電話を切った。

 

「どうした?」

 

「いや、なんか先生の番号で変な奴から着信がきて」

 

「先生からか」

 

んっ、と技をかけられたままスマホを受け取り、確かに今し方のコールは先生のものだと確認する。

 

プルルルル、プルルルル

 

次いで、鳴ったのは住民との写真を撮り終えたミヤコのスマホ。

 

「もしもし、先生。なんのようですか?我々は今忙しくて...」

 

『あなたが、RABBIT小隊の隊長ですか。部下の不手際にはこの際目を瞑りましょう。どうやらいたずら電話と間違われているみたいですが、我々はこの電話の持ち主である先生を捕らえました。こちらの要求に応じなければ、今から彼に残酷な処置を』

 

「お好きにどうぞ」

 

ブツッ

 

ミヤコは電話を切った。

両手を広げ首を傾げる小隊長と同じく、他メンバーも同じように頭に『?』を浮かべる。

 

デデデデデデンッ、デデデッ、デデデデデデンッ、デデデッ♪

 

今度は、センのデバイスにかかってきた。

 

「はい、もしもし」

 

『ごめんセンくん。捕まっちゃった』

 

「何やってるんですか先生」

 

絞技から解放され、スピーカーモードにし隊員達と会話を共有する。

 

「(風倉に、逆探知)」

 

「(了解、です)」

 

ハンドシグナルでミヤコにそう伝え、センは先生との会話に臨む。

 

「あまりお一人で出歩かないように、先生は有名人なのですから。武器を持っていないと分かれば良からぬ輩が接触してくると予測できるでしょう。当番の生徒を付けておけば...」

 

『せ、説教は後で聞くから』

 

「では、これからそちらに向かいます。救助に際して、何か見返りが欲しいのですが」

 

『なら、今度また食事を奢るよ』

 

「もう一声」

 

『え、えーっと、ならその帰りにコンビニでスイーツでも』

 

「もう一声。そういえば、最近寒くなりましたね。温かいご飯が恋しいですが、いかんせん野宿でありつくことはできず...」

 

『わ、わかった。じゃあ、中古だけど電子レンジを...』

 

ブツッ

 

センは電話を切った。

 

「聞き届けましょう、その願い...よし、言質をとったぞ」

 

「鬼かおまえは」

 

「流石です、師匠」

 

「節穴かおまえは」

 

『はいはーい、逆探知成功。場所送るね』

 

「よくやった、キャンプRABBIT。では諸君、今後の温かな夕飯のために、一つ人助けと行こうか」

 

「セン、どこいくのー?」

 

「危ない?」

 

「少しな。だが案ずるな。俺には優秀な部下が四人もいる」

 

そうだろう?

問えば、瞬時に出撃準備を整えた三人と、遠くからモエの乗った車が走って来ているのが見えた。

 

「ヘッドRABBIT。RABBIT1以下三名、準備整いました」

 

「結構。これより、オペレーション『レスキュー』を開始する。日々の食事のため、気張れよおまえ達」

 

『了解』

 

 

 

********************

 

 

 

「あなたも切られてるじゃないですか!?」

 

どうしてくれるのです!?

激昂する『所有せずとも確かな幸せを探す集い』略して所確幸のリーダー、デカルト。

今時と比べて風変わりな、ヒッピーのような格好をする彼らは、飢えに飢えていた。

その理由は、普段宛にしていた廃棄弁当がRABBIT小隊に根こそぎ奪われているためだ。

 

「その現状をどうにかするためにあなたを拉致し、交渉を有利に進めようとしたのに...!」

 

「さっきから思うんだけど、どうして所有せずをモットーにしてるのに弁当にこだわるの?」

 

「そんなの簡単です!誰しも食欲には抗えないものなのですよ!」

 

「えぇ...?」

 

その欲を抑えるための思想だろうに、支離滅裂な思考発言だなぁ、とは口には出さない。

下手に刺激すれば何をしでかすかわかったものではないからだ。

 

「(ごめんアロナ、危なくなったらお願いね)」

 

『お任せください!このシッテムの箱メインOSであるスーパーアロナちゃんにかかれば、銃弾を弾くなんてお茶の子さいさいです!』

 

自慢げに無い胸を張る相棒を心強く感じる先生。

ただ、その警戒と心配は不要だったようだ。

 

「ぐぬ...仕方ありません。こうなれば、もっと別の策を」

 

ドンッッッ!!!

 

所確幸アジト内に、爆撃音が木霊した。

 

「な、なんだ!」

 

ドパパパッ!

 

「ぐわ!?」

 

爆煙に乗じてサーマルカメラを使用し、動揺する敵を確実に無力化していく少女達。

先陣を切り場を掻き回すポイントマン、そのサポートに徹して時に攻撃参加もこなす小隊長、取りこぼしを余さず無力化するスナイパー、ドローンを操り隊員に情報を共有することを忘れないオペレーター。

それぞれが己の役目を理解し、一糸の乱れなく戦場を突き進む。

そんな彼女達に指示を出すのは、

 

「RABBIT1、あと五秒で一時の方向の煙が若干晴れる。閃光ドローンで再度目眩しを」

 

「了解です」

 

「RABBIT4、動きの止まった敵を仕留めろ」

 

「はい...!」

 

「RABBIT2はドローンと入れ替わるように後退。奴ら、何やら装備が強力だ。キャンプRABBITと連携して対処しろ」

 

「了解」

 

一人の、ヘイローを持たない少年。

さながらシャーレの先生の如く、彼にしては珍しく前線で指示を飛ばしている。

 

「こ、この...!あなたが指揮官ですか!」

 

デカルトも攻撃に参加。

しかし、状況を覆すのには些か無理がある。

先手を取られ、隙を突かれ、おかげで集いのメンバーは総崩れ。

唯一残された手立てといえば、指揮官を討ち取ることだが。

 

「食らえ!」

 

とあるルートで秘密裏に手に入れたデカルトのサブマシンガンが、セン目掛けて火を吹く。

全弾命中、したかと思えばそこには無傷の少年が堂々と立っていた。

 

「な、馬鹿な!確実に当たった筈!?」

 

「馬鹿め。俺が手ぶらで戦場に態々来ると思っていたのか?だとしたら、にわか以外の何者でもないな!」

 

バッと彼が広げるのは、一枚の厚紙。

それは、盾と呼ぶには余りにも頼り甲斐が無さすぎた。

大きく、軽く、薄く、そして大雑把過ぎるダンボールだった。

 

「だ、ダンボール!?」

 

「ほう?貴様程度の知能でもこの嗜好品は知っていたか」

 

先生にシッテムの箱があるように、センにはこの厚紙がある。

時にベッドに、時にテーブルに、そして時にはこのように身を守る盾にまで。

あらゆる事象へと適応する万能具、それがダンボールなのだ。

 

「まさか...あなたは!?」

 

「こちらRABBIT1、リーダーと思わしき人物を発見。対応します」

 

「しまっ」

 

急接近する白い影に、デカルトは気づくのが遅れた。

自身の失態を叱責する言葉すら最後まで言わせてもらえず、体術を使ってミヤコにノックアウトされてしまう。

 

「げぶほ!?」

 

「クリア」

 

『こちらキャンプRABBIT、そいつで敵さん全員沈黙したよ』

 

「了解した。戦闘終了、ご苦労だったな、おまえ達」

 

「師匠も、お疲れ様でした。鮮やかな防御術、今度ご教授願いたいです」

 

「フッ、構わないがこの動きをマスターするのはさしものおまえでも至難の業だぞ?」

 

「覚悟の上です」

 

「せんでいい」

 

まったく、とため息を吐きながらサキ、続いてミユも合流。

 

「いやー、実に迅速。優秀だ...」

 

「先生、お怪我は?」

 

「大丈夫。ありがとう、助けてくれて」

 

捕縛を解き、センは先生に手を貸し立ち上がらせる。

 

「電話の件は後ほど、頼みますよ」

 

「うん、任せて(またユウカに怒られるかな...)」

 

なんですかこの出費は!焼肉代!?それにしては多すぎです!今月は無駄な買い物は控えるように!カイテンジャーのプラモデルも購入禁止です!と先日ミレニアムセミナー所属の生徒に言われたのを思い出し、トホホと溢さずにはいられない。

 

「ああ...私のアジトが...集めた装飾品も、ボロボロに...」

 

「コイツが首魁でいいのか?」

 

「うん、そうみたい」

 

「あ、あなたたち...弁当の件といい、よくもやってくれましたね...!」

 

「喧嘩を売る相手を間違えたな。そもそも、先生を誘拐したおまえたちが悪い」

 

それで、弁当の件ってなんだ?というサキの質問に、先生はかくかくしかじかとかいつまんで説明する。

 

「エンジェル24の廃棄弁当を...私たちの前からあてにしていた...ということですか...?」

 

「生憎と、私達は無断で廃品回収場所から拝借していたあなた方と違って、正規の手続きと契約を踏んでいます。文句を言われる筋合いはありません」

 

「せ、正論を弱者に並べて恥ずかしくないのか!」

 

「いえ、別に」

 

「く...っ、欲望に塗りつぶされた者達はこれだから。我々のように無所有の心得を持たない故に、自分が過ちを犯していると気づかない!」

 

「今のあなたがそれに該当すると思いますが」

 

「なにおう!?」

 

「よせ、月雪。この手の輩には何を言っても変わらんよ」

 

「...了解です。私としたことが、お見苦しい姿を見せました。申し訳ありません」

 

「顔を上げろ。おまえは間違っていない」

 

センは手で制し、行いに不手際が無かったことを強調させる。

そして、デカルトの前に立った。

 

「...やはり、そうでしたか。あなたは子ウサギ公園の...」

 

「俺は貴様を知らんが、そうだ。どうやら一方的に俺を知っているようだな」

 

「ええ、ええ。勝手ではありますが、私はあなたを同類と見ていました。清貧な生活を追い求め、かの地へと至った求道者...それなのに、この仕打ちは如何なものかと!」

 

「前提が間違っているぞ。俺は別になりたくてホームレスになったわけではない。ならざるを得ない状況にまで追い込まれていただけであって、そんな崖っぷちの生活を送っていた俺を見ておまえ達が勘違いをしただけだ」

 

「し、しかしあなたの在り方は正しく無を体現していました!無所有という矜持を会得したあなたに、我々は感銘を受け...」

 

「それで、ファッションのように自らも無所有を謳っていたと」

 

「はい...」

 

「...なるほど。よーくわかった、おまえ達がなんなのか」

 

一才の興味を抱かない彼の瞳は、濁っていた。ちょうどいいサンドバッグを見つけたという風に、久々に玩具を買ってもらった子供がどのように遊ぶか画策するかのように純粋さも含めて、陰りと晴れの相反する感情を抱き、彼は口を開く。

 

「月雪、質問だ」

 

「はい、なんでしょうか」

 

「ヴィーガンの主食は、なんだと思う?」

 

「えっと、たしか菜食主義の方々の事ですよね」

 

「そうだ」

 

「ベジタリアンとは違うのか?」

 

「卵製品や乳製品を食べることがあるのが、ベジタリアン。それすら食べないのがヴィーガンと一般的には定義されています」

 

「...なら、答えは決まりきってるだろ」

 

「はい。アンサーはズバリ、野菜です」

 

「残念ながら不正解だ」

 

「...え?」

 

自信満々の回答だったにも関わらずペケの烙印を押され、思わず間抜けな声が漏れてしまうミヤコ。

 

「確かに、本来のヴィーガンであれば月雪の答えで合っている。だが、現代のヴィーガンは違うんだよ」

 

「な、なら...何を食べてるんですか...?」

 

「肉だ」

 

「...今なんて言った?」

 

「だから、肉だ。ヴィーガンは肉を食って生活している」

 

「待て待て待て。話が見えてこないし言ってることの訳がわからないぞ」

 

「ヴィーガンとは、謂わば完全菜食主義を貫く人々を指す。その在り方に感化されて志の低いままに偏った食生活を始めた連中が、現在社会で表面化されているファッションヴィーガン達だ」

 

「表面化された...」

 

「いいか、本当のヴィーガンは自らがそうだと積極的に公言はしない。彼らはわかっているんだよ。自分達が一般とは違う食生活の上で生きているのだと。そこに違いはあっても、強要はしない。だが、社会問題となっているファッションヴィーガン達は別だ」

 

彼らは自分がヴィーガンであると宣言、公言し、他のノーマルな食事をこなす人々に自分達の食生活を強制してくる。

態々ハンバーガー店の前で待ち伏せ罵詈雑言を投げつけたり、スーパーの生肉に消毒液をぶっ放したり、挙句の果てには食肉工場でデモを行ったりと、人様の迷惑になるような事ばかりを行う。

 

「そうして世間に反抗した事で自己満足し、彼らは飯を食べる」

 

「その飯が...」

 

「ああ、肉だ」

 

今日も反ヴィーガン勢力と戦ったー!自分へのご褒美にお肉食べます!命に感謝!なんていう投稿をSNSで晒し大炎上へと至った者がいた。

他人に菜食を強要しといて自らは肉を食べる。とんだイカれ具合である。

 

「今の話に置き換えるなら、おまえ達はこうだ。自分は無を愛する所確幸です。我々が欲から解放されるために日々頑張っているのだから他の皆も我々に倣って無所有を教示するべきです。でも弁当は食べます。他者に強要はするし人は拉致します。どうだ?俺は何か間違っていることを言っているか?」

 

「う、うるさいうるさい!!贅沢するのは人間の本質だろう!?」

 

「その通りだ。だが、それを無所有を宗とするおまえが言っていいのか?言える立場なのか?」

 

「ぐう...!この、穀潰し!社会の膿!それだけの力を持っていながら何故真っ当に働かない!?」

 

「おまえには、そう見えているんだな。なら、いつまでも喚いていればいい。俺を含め、RABBIT小隊は不条理を変えるべく戦っている。いずれ世界は変わる。その中心にいるのはコイツらだ」

 

圧倒的自信。

どれだけの罵倒を投げられても、意に介さない強靭な心。

高城センには、それがある。

 

(だからこそ、私はあなたについていきたいと思ったのです)

 

出会った日の夜、ダンボールについての全てを学んだ。

同時に、彼の中の本質を見た。

そして思った。この人になら、自分の運命さえ任せられると。

ミヤコは今も、それを信じて疑わない。

 

「ぐ...ぐぅ...!」

 

怒涛の正論ラッシュを前に遂に何も言えなくなってしまったデカルト。

 

「ふむ、満足だ。言いたいことは言えた」

 

センは実に清々しい笑みと共に踵を返し、

 

「バカ言ってないで、働け」

 

それだけを残し、デカルトに背を向けて歩き始めた。

 

「(おまえも無職だろ、のツッコミ待ちだったりするのか...?)」

 

「(うるさいですよ、サキ)」

 

「(でも、あいつにしては荒れてただろ)」

 

「(...たしかに)」

 

比較的、言わせておけのスタンスと思えるセン。

だが、今回彼は論破を選んだ。

 

「師匠、もしかして怒っていますか?」

 

その理由を、知りたくなった。

 

「...そう見えたか?」

 

「はい」

 

「そうか。...そうか」

 

彼は自身についてくる三人の少女、加えてキャンプにいるもう一人を思い浮かべる。

 

「そうだな。俺は怒っていたのかもしれない。あいつらとおまえ達を一緒くたにさせたくなかった...それだけだよ」

 

そうして、彼の右手がミヤコの頭を撫でた。

ポンポンと、恥ずかしいところを見せたなと自身を恥じながら、彼は苦笑を浮かべる。

 

 




ちょっと八つ当たりをしたセンくんでした。
こうまでしても、デカルトは変わりません。そこも彼のいいところではあるんですけども。

そして、書きたかったエモエモな冒頭。書きたかった二人の関係。
連邦生徒会長の表現が解釈違いだったら、ごめんなさい!

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