もしも【ダンジョン飯】の主人公たちが『きさらぎ駅』へ迷い込んだら…?

迷宮の奥へ進むため、トロッコに乗り込んだライオス・マルシル・チルチャック・センシ・イヅツミの五人。
…ところが、着いた先は見知らぬ無人駅だった。
困惑する一行を襲う怪異の数々。
はたしてライオスたちは無事迷宮へ帰還できるのか?

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第1話

 

 

ーーーだだっ広い草原。

向こうを見れば山々が青く霞み、なだらかに見える。

その間を風が吹き過ぎ、波のように草をなびかせ、緑色の光をきらめかせている。

 

草原を2つに割るように細い一本の線が地平線まで伸びている。

線路だ。

こんもりとした緑に覆われた土手に赤錆びた線路が延々と伸びている。

どこか懐かしいような、幻想的な…

 

そして、草原の海の中にポツンと無人駅。

線路の瘤のようなホームがひとつだけ。

片側に牧場の囲いのような木製のホーム柵。

今どきトタン屋根の駅舎。もちろん改札口などない。

 

向こうの山にトンネルが口を開けている。

真っ暗な奥から微かに金属の軋む音が響き…次第に大きくなってゆく。

 

ガタタン、ゴトトン…

 

現れたのは奇妙な乗り物だ。

電車に似ているが、リベットで外板を固定し、潜水艇のような丸い窓が付いている。

その『電車』は無人駅のホームへゆっくりと滑り込み、停まった。

 

***

 

『電車』の中で眠っている五人の人間。

一人は金属鎧を身にまとった大柄な男。

一人はずんぐりした体格に胸まで垂れる大髭を生やし、角のついた兜を被った男。

一人は細長い耳と金髪の少女。両手で奇妙な杖を抱えている。

一人は体中に獣毛を生やした猫耳の少女。

最後の一人は子供くらいの体格の男。

 

その、子供のような男が目をこする。

「んん…着いたのか?」

丸窓の外を覗くと、ポカン…と口を開ける。

 

サワサワと風に揺れる草原が見える。

 

「こりゃどういうこった…おいライオス、起きろ」

乱暴に足で前の席の大柄な男の頭を蹴る。

「んん…ボンレスハム…ステーキ…バーベキュー…」

「ファリンの献立夢見てんじゃねーよ!また変な所に出ちまったぞ」

「んん…(トロンとした目を開け、頭を掻く)今いいところだったんだけどなあ…」

「窓見ろ窓」

「(見る)…えっ(固まる)」

「…どぅしたの、チル」

寝ぼけまなこで長耳少女が起き上がる。

「ふぁ〜あ…着いたのか?」

猫耳娘が伸びをする。

「ねえライオス、考えたんだけど、ファリンのキメラの竜の部分を食べるって決めたけど、まだ切り離し方をさ、…って聞いてる?」

「寝ぼけてんのか?」

「チル、どうしたの」

「いや…窓(指差す)」

「窓がどうし…」

「え」

四人、窓の外を見て固まってしまう。

と、一番最後に兜の男が目覚め、

「…む、着いたか。どれ、まずは茶でも淹れるか。ライオスかマルシル、火を入れて…どうした」

マルシルと呼ばれた長耳少女が窓を指差し、

「セ、センシ…あ、あれ、あれも迷宮…かな?」

「うむ?…なんと!」

センシと呼ばれた兜男も覗き、驚く。

「迷宮って広い場所もあったよね?黄金郷に戻ったのかな?」

「いや。迷宮で草原など見たこともない。それに、あの絵の中の世界は、確かに広かったが、暮らしている場所はごくわずかだった。あのように広々とした世界ではなかったはず」

「なんだ?ごちゃごちゃ言ってる暇があったら外出て確かめたらいいだろ」

「イヅツミ、危ないから!」

しかしイヅツミこと猫耳娘はマルシルの忠告を無視してドアを開けてしまう。

ゴゥ…車内に風が吹き込む。

 

***

 

ホームに降り立ち呆然とする五人。

 

チルチャック「…なんでだだっ広い所に出ちまうんだ。ここが終点なのか、センシ?」

センシ「いや…そんな覚えはない。このトロッコは鉱道に続いていた。迷宮から出るはずがない」

ライオス「そうだな。それに乗った時は下へ降りていた。平らな線路は敷かれていなかった」

イヅツミ「(トロッコを指差し)『箱』の形が変わってるぞ」

マルシル「あ、ほんとだ。最初は斜めの形してたよね?傾斜した道を降りるから」

センシ「この場所は見たこともない。知らぬ土地だ」

ライオス「看板があるぞ。え〜と…読めない。マルシル、読めるか?」

マルシル「ええ…?こんな文字初めて。ん〜、でも、どっかで見たような…」

チルチャック「そこらへんハッキリしてくれ。まあ、どうせ狂乱の魔術師の仕業なんだろうけど」

マルシル「変だよ。ダンジョンの通路を変えるといっても、もともとあった材料を使って壁を再配置するんだから。狂乱の魔術師だって、こんな場所を作れるわけない」

ライオス「じゃあ、迷宮とは無関係な所へ出た、ってことか」

センシ「ふ〜む…面妖な…」

イヅツミ「…『きさらぎ』」

ライオス「え?」

イヅツミ「(看板を指差して)ここは『きさらぎ』ってとこらしい」

チルチャック「って、読めるのか?」

マルシル「イヅツミすご〜ぃ。私も知らない言葉が読めるなんて(頭撫で撫で)」

イヅツミ「(払う)だああ!この文字は東の国のものだ!『平仮名』っていうのに似てる」

ライオス「ヒラガナ?」

チルチャック「なるほどな。そいつが東の国のものなら、俺たちは東の国へ出ちまった、ってことか?トンネルで海の下を潜って」

マルシル「そんなバカな」

ライオス「そうだとしても島から何百キロも離れてる。そんなに長く走った記憶はない」

チルチャック「グーグー寝てただろ。誰かさんのイビキがすごくて」

 

<回想>鼻から提灯を出しながら爆睡するライオス。

 

マルシル「にしたって理屈に合わない。迷宮に続いているなら、もうとっくの昔に誰かが利用したはずでしょ?それに、迷宮からここまで通す意味がないじゃない」

センシ「となると、やはりここは迷宮の中、ということになる」

 

ふ〜む…と考え込む五人。

 

ライオス「イヅツミ。『キサラギ』っていうのは東ではどういう意味なんだ」

イヅツミ「如月は月の名前だ。一年を十二ヶ月に分けて、ここで言う2月にあたる」

マルシル「その下の文字は?」

イヅツミ「右は『かたす』で左は『やみ』。『やみ』はたぶん暗闇のことだ。『かたす』は…よくわからん」

チルチャック「なんだ」

イヅツミ「無理やり解釈すると、『かた』は片方のことで、『す』は川の中洲か何かだと思う。つまり『片側の洲』ってこと」

マルシル「んん…それ地名って必然性が…」

イヅツミ「どうせ意味なんてない。ようはそういう名前ってだけだ」

センシ「まあ、なんにせよ、一番の問題は…食糧だな」

 

グゥ〜…と誰かの腹が鳴る。

 

マルシル「(赤くなり)い、今の私じゃないから!」

チルチャック「わかってる。こいつの腹だ(と親指でライオスを指す)」

ライオス「トロッコの中でもけっこう食べた気がするんだが…」

イヅツミ「私もなんか食いたい」

センシ「補給しなければならんな」

 

一同、草っ原を眺める。

ザァッ…と風が過ぎてゆく。

 

チルチャック「(ため息)…ま、妙なとこへ出ちまったのは置いて、その辺を漁ってみるしかねえか(と、ホームから降りようとする)」

マルシル「!」

 

マルシル、慌ててチルチャックの首巻きに杖を引っ掛けて止める。

 

チルチャック「ぐぇ!なにすんだよ!?」

イヅツミ「(飛び降りようと身構えて)なんで止める?」

マルシル「待って!なにか…魔力の気配がする」

センシ「魔法か?(嫌そう)」

ライオス「魔物はいそうにないけどなあ(手をかざして眺める)」

マルシル「だからって安全とは限らない。なにか匂うの」

チルチャック「異臭なら俺の鼻でも感じないぞ。そういや、イヅツミは鼻が効きそうだよなあ?」

イヅツミ「犬か!?(目をつむって匂いを嗅ぐ)フンフン…魔物の匂いならないぞ」

センシ「気のせいではないのか。このところ神経をすり減らす事が多かった」

ライオス「迷宮に比べれば安全そうだけど」

マルシル「あのねえ、その迷宮からこんな所へ出ること自体が変でしょ。だから用心するに越したことはないの。絶対なにかある」

 

ライオス、また草原を眺める。ジ〜ッ…と見ていると、所々の見え方が一瞬歪む。

 

ライオス「気のせいかもしれないが…蜃気楼みたいなのがあるような気がする」

イヅツミ「陽炎なんじゃないか」

チルチャック「…いや、それにしてはおかしい。陽炎は地平線に出来るだろ。こっちは草むらの何ヶ所かが揺らいでる。風とは別方向に」

マルシル「ちょっと待って。探ってみる」

 

マルシル、術語をつぶやきながら杖の石突でホームの床に魔法陣を描く。

マルシル「アプトゥム…センプリ…ィエアガ…ソト」

 

魔法陣の真ん中を石突で軽く叩くと、フワッ…と淡い光の輪が広がってゆく。それがホームから草むらまで伸び、かなりの範囲を覆う。

すると、魔法で覆われた所から怪しげな色があちこちで光る。

 

ライオス「不可視の魔物か!?」

チルチャック「違うな。草むらの動きを見ろ。あっちは風になびいているのに、あの光は全然動いてない。あそこで待ち伏せしているなら、隠れている奴に沿って草が揺れるはずだ。けど、光は影響を受けてないし、草も動きを遮られていない」

センシ「無色透明の物体か」

チルチャック「どうすんだマルシル?あれが魔物だっていうのか」

マルシル「ん〜〜〜…正体は分かんないけど、なにかをぶつければ…」

イヅツミ「こうか?(と石ころを投げる)」

 

イヅツミの投げた石ころが正確に一番近くの光に当たる。

バシッ!!!ーーーー

光と石が弾けて消える。

 

ライオス「うわっ!?」

チルチャック「トラップかよ!?」

マルシル「うかつに歩けないね…あの光消さないと」

イヅツミ「じゃあ石をぶつければいい」

 

次々に石を拾っては投げるイヅツミ。

無造作なわりに全部当たる。

 

バシッ!ーーーーー

ピカッ!ーーーーー

プヨン♬ーーーーー

 

センシ「む!?(目が光る)イヅツミ、あのアレを持ってきてくれ」

イヅツミ「アレってどれだよ」

センシ「一番最後に石を当てたところだ」

イヅツミ「…めんどくさいな」

 

文句を言いつつも、ヒラッとホームから飛び降りて駆け出す。

 

マルシル「あ!イヅツミ、危ない」

イヅツミ「(草むらから)なんにもねーよ。センシ、これか?(と手の中でグニョグニョする何かを掲げてみせる)」

センシ「そうだ」

 

ホームへ戻ったイヅツミからグニョグニョを受け取るセンシ。それは半透明のゼリーのような物体だ。

センシ(ふむ…この手触り、柔らかさ、匂い…)「エビの剥き身に似ている」

マルシル「ええっ?」

チルチャック「いや…どう見ても違うだろ」

センシ「これなら油で揚げられるかもしれん。イヅツミ、もっと持ってきなさい。わしは料理の支度をする」

 

イヅツミ「なんで私だけ!?おい、おまえらも手伝え!マルシル!」

マルシル「なに?」

イヅツミ「もっと魔法を使え。あのプヨプヨしたもんを集めるから」

マルシル「わ、わかった」

マルシルが魔法を唱え、光った所へイヅツミとライオスとチルチャックが石をぶつける。ピカピカと輝く中で、何回かプヨン♬が起きる。

 

センシはホームに上がり、草むらとは反対側へ降りてみる。

いくらか錆びついた剥き出しのパイプの蛇口。下にはコンクリで作った小さな排水受け。

捻ってみると水が出る。

センシ「泉に似ていると思ったら、やはりか。水の心配はいらなくなった」

 

せっせと集めているライオスたち。

ライオス「そういえば、ダンジョンのトラップに『グリッチ』っていうのがあったと聞いた気がする」

チルチャック「ああ、あれか。分類不能のその他大勢ってやつだな。

トラップは毒や槍や爆弾が定番だが、そのどれでもない妙な罠だ。踏んだ奴の体を変えたり、一部を消したり、ただクシャミを起こすだけってのもある。

トラップはだいたい致死性のが多いが、中には一時的に作用するだけの罠ともいえない罠ってのがある」

ライオス「ふうん。チェンジリングに似ているな。それかシェイプシフターに。…あった!」

チルチャック「あれは魔物が捕食するためのものだろ。立派なトラップだ。グリッチが意味不明なのは、特に目的のないトラップだからだ。罠を発動させたところで、魔物が獲物を食うわけでもない。宝を守る防御装置でもない。そういうのが、たまたま通り掛かった冒険者にちょっかい出して困らせる。いわばバグのようなもんだ」

ライオス「バグ?」

チルチャック「ダンジョンの設計図に載っていない偶然にできた欠陥ってことさ」

ライオス「ふむ…ま、それはそれとして、こいつが食えるかってことが肝心だな!(ウキウキ)」

チルチャック「結局食欲かよ!」

 

集まったグリッチを布で敷いたホームに並べる。時々ウニョッ、クネッ、と蠢く。

マルシル「(手で口を覆って)なんか虫っぽいんだけど…」

チルチャック「石をぶつけたらこうなるって、どういう原理なんだ?」

イヅツミ「(早くも端っこを齧り)…噛みにくい」

マルシル「あああ、生で食べちゃダメだって」

ライオス「そ。寄生虫がいるかもしれんからな」

チルチャック「約1名が経験ずみだ」

センシ「まだ一つだけコカトリスの卵が残っていた。これで調理してみよう」

 

材料を並べ、ホームに描いた魔法陣IHコンロでアダマンの鍋に湯を沸かす。

センシ「グリッチを一口サイズに切り分け、適当に切れ目を入れる」

包丁でプリプリの体に切れ目を入れる。

センシ「鍋で沸かした湯にダシ・醤油・みりん・削り節を入れて煮立て、布で濾して煮汁を作る」

鍋からボウルに濾した汁を注ぐ。

センシ「煮汁が出来たら、グリッチにまんべんなく小麦粉をまぶし、別のボウルに水で溶いた小麦粉を混ぜ合わせ、衣の生地にする」

ササッと手際よく。

センシ「空になった鍋に油を入れて熱し、衣を絡めたグリッチを静かに入れる。浮いてきたグリッチへさらに衣をスプーンで垂らして厚みをつける」

パチパチ爆ぜる油の中でほんのり色づいてきたグリッチ。

センシ「その間に大根を下ろし、レモンに醤油とみりんで作った汁でひたす。

…完成じゃ!」

 

【グリッチの天ぷら】<タンパク質4/脂質2/炭水化物2/ビタミン・ミネラル少々>

 

ということで、さっそく会食。

ライオス「…お。プリプリの歯応えに衣のサックリ感があって旨い!」

イヅツミ「エビっていうよりタコに似てないか?」

マルシル「あ〜、口の中でプチって切れるの良い。美味しい♬下ろしに漬けると辛味と酸っぱさが混じって油のしつこさが和らぐぅ」

チルチャック「マジで何物って感じだったが、意外にイケるな」

旺盛な食欲を見せる一同。

 

ライオス「食べながら聞いてくれ。どうやら食糧の問題は心配しなくて済みそうだが、これからのことだ。イヅツミの話では、ここは東の国の一部らしい。とはいえ、その国に来たわけじゃない。なんだか分からないが、下降していたトロッコが別の線路に繋がって、目的地とは違う場所へ出たようだ」

イヅツミ「言っとくが、文字が似ているってだけだからな。私はこんな所見たことないぞ。ただ…」

マルシル「ただ、なに?」

イヅツミ「…『神隠し』って知ってるか?」

マルシル「神隠し?」

ライオス「神様が隠れるのか」

イヅツミ「違う。そういう神話もあるが、神隠しっていうのは、ある日突然理由も分からずに人が消えてしまうことだ。だから神がさらっていったんだろうって」

センシ「神が人間をかどわかすのか」

チルチャック「いや、理由が分からないってことだ。たぶんそうなんじゃないかって無理やり理屈をつけて多少の安心感を得るんだろ」

イヅツミ「そして…その消えた人間が行き着く先は『異界』、と呼ばれている」

ライオス・マルシル・チルチャック「「「イカイ?」」」

イヅツミ「この世とは異なる世界。人には知ることも理解することもできない…」

チルチャック「(周りを見渡し)それがここだって?まっさか」

マルシル「…でも、気配がするんだよね、ここへ来てからずっと…」

ライオス「誰かに見られてる?」

マルシル「ううん。魔法って、掛けられたものから魔力を微かに発するでしょ。痕跡っていうか。ちゃんと術を習った者なら嗅ぎ取れる。でも…ここの魔力って、なんか違うっていうか…私の知ってる体系とは違う」

センシ「別の種類の魔法か」

マルシル「う〜ん。そこんとこがはっきりしなくて…もし私たちが降りて行ったトンネルに転移魔法が仕掛けられていて、そこから飛んだっていうなら分かる。転移魔法は出発点と終着点の両方に仕掛けないといけないから、到着した所を調べれば術式とか、そういうのが見つかるはずなの。でも、ここにはそれがない…」

チルチャック「そうすると、また別の可能性が出てきたわけか。迷宮でも東の国でもない、未知の領域っていう」

 

ライオス、立ち上がって周囲をグルリと見渡す。一見無害そうな風景。

ライオス「ここがどこであれ、俺たちの目的は変わらない。ファリンを元に戻すため有翼の獅子を解放し、シスルを倒す。そのためには元来た場所へ戻らないと」

チルチャック「どうやってだよ。イヅツミの話じゃ、どこへも繋がってない世界へ来ちまったんだろ。戻れるかどうかも分からないぜ」

ライオス「方法は2つ。

一つは、あのトロッコに乗って線路を走る。この場合、イヅツミの言うように『やみ』か『かたす』の2方向のどちらかを選べばいい。

もしそれがダメな時は、トロッコをここに置いて別の道を探る。

イヅツミ、その神隠しだが、帰ってきた人はいるのか?」

イヅツミ「少しだがいる。あくまでも又聞きだが、何百キロも遠くの山へ飛ばされ、そこで目が覚めたとかな」

チルチャック「瞬間移動のトラップか」

イヅツミ「あるいは、神社の境内に入って、社殿の奥から脱出したという話もある。本当かどうか知らんけど」

センシ「ジンジャーとは」

マルシル「東の国の神殿のこと。だよね?」

イヅツミ「そう」

チルチャック「そいつはどこに行けばあるんだ?」

イヅツミ「たいていは…」

と、草原とは反対のなだらかな遠くの山々を指差す。

イヅツミ「山の奥だ」

チルチャック「げっ。あんな遠いのかよ…!?どうすんだライオス、もしその話が違ってたら、山へ行ってる間にあのトロッコが消えてるかもしれないぜ」

ライオス「なら、センシに留守番を頼むとか」

マルシル「別行動は危ないよ。団体で行かなきゃ」

イヅツミ「なんなら私が待ってようか?あそこまで歩いていくのはかったるい」

ライオス「ふ〜む。…いや、マルシルの言うとおりだ。どんな不測の事態が起きるか分からない。ここは離れずに行動する方が安全だ」

センシ「では、どちらを採る。トロッコか、山か」

ライオス「消去法でいこう。まず、トロッコに乗って来た方へ戻る。つまり、『かたす』の方だ」

チルチャック「そこがダメだったら」

ライオス「今度は反対の『やみ』へ向かう。どちらも手掛かりなしなら、山を選ぶ」

マルシル「こんなことしてる場合じゃないのに〜」

センシ「食糧が底を尽きかけている。もう少しグリッチを採取してから動くべきじゃ」

ライオス「よし、腹ごしらえもしたことだし、さっそく動こう。まずは食材の確保だ!」

チルチャック「…あいつ妙に張り切ってんな」

マルシル「新しい魔物食が楽しみなんだよ、きっと…」

 

***

 

再びマルシルが魔法陣を別の場所で展開。

ライオスとイヅツミとチルチャックが石を投げてグリッチ選別。

センシはせっせと野草摘み。

 

センシ「わりと見つかった。オオバコ、ヨモギ、ツクシ、タンポポ、ハコベ、ゼンマイ。これだけあればよかろう」

マルシル「そんなのも採ってるの?ダンジョンで?」

センシ「陽当たりの良い場所ならよく生える」

ライオス「(綱の中でウニョウニョ怪しげに蠢くグリッチを掲げて)グリッチも獲れたし、まあなんとかなる」

マルシル「…それ、そのまま持ってくわけ?(ジト目)」

センシ「一度塩漬けにしてみるか。ザルに挟んでおけば自然に干せるだろう」

マルシル「完全に携帯食だね…」

センシ「食糧は確保した。次はトロッコだ」

 

トロッコの中を調べる一同。

チルチャック「そもそもどういう原理で動いてるんだ、これ?」

センシ、鉄板を外して中のメカを確認。

歯車がギッシリ詰まっている。

ライオスも覗き込みながら、

ライオス「俺たちが乗ったら自動で動き出したんだよな」

センシ「一定の重量が掛かれば作動するのじゃろう。ここに手動への切り替えレバーがある」

ガチャッと引く。

マルシル「で、それから?」

センシ、今度は前部の小型の円筒の蓋を開ける。中は空洞で、下に鉄格子の仕切り。

センシ「このボイラーを焚いて水蒸気で動かす」

チルチャック「蒸気機関!?めっずらしいな!」

ライオス「ええと…?」

チルチャック「風呂釜を焚くのと同じだ。湯が沸いたら水蒸気が出るだろ?その水圧でギアを動かすんだ」

マルシル「へええ〜、凝ってる。本でチラッと読んだ気がするけど、本当にあるんだ…」

センシ「水と燃料が要る。燃やす物が欲しい」

ライオス「燃やすって、草とか?」

チルチャック「(呆れ)焚き火じゃねーんだから。その程度じゃ意味ないって」

センシ「本当なら石炭がいいのだが」

マルシル「石炭って、鉱山で掘るやつでしょ?」

センシ「なければ、木を切って燃やそう。この釜に入る程度の薪と、焚き木用に乾いた小枝を集めればいい」

ライオス「じゃあ、水汲みはマルシルとイヅツミで。俺たちは木を切ってくる」

イヅツミ「え〜?また集めるのかよ」

チルチャック「文句を言う暇があったらチャッチャと動く」

イヅツミ「けっ。人使いの荒い」

チルチャック「そうは言うけどな。こんな得体の知れない場所で夜明かししたいか?何が襲ってくるかわかんねーぞ。俺たち全員、ここがどういう所か経験したことないんだからな」

ライオス「そういうこと。そんなに時間は掛からないはずだ」

マルシル「じゃあ行こうか」

イヅツミ「(耳を伏せ)う〜〜〜…」

 

センシが斧を振るって木を切り倒し、ライオスが剣で枝を落とし、適当な長さの丸太にする。それをさらにセンシが薪割りで分解してゆく。

チルチャックは小枝を抱えて行ったり来たり。

一方のマルシルたちは水道からバケツに水を汲んで、トロッコの車体の下にある水タンクへ注水。かったるそうなイヅツミ。

 

トロッコの床に薪の山が積まれる。

センシ、何本か放り込み、焚き木と紙切れをその上に置いて火打ち石で着火。

センシ「(蓋を閉め)圧力が上がるのにしばらく時間が掛かる。操縦装置を調べよう」

 

隣の運転台に乗る。

センシ「これが圧力計、速度計、水面計、ブレーキレバー、前進/後進切替レバー、加減弁ハンドル…こんなところか」

ライオス「(ワクワク)どうやって運転するんだ?」

センシ「この圧力計を見て、一定の蒸気圧が高まったら、ブレーキを解放し、行きたい方向へレバーを入れ、ハンドルを引いて弁を解放する。そうすれば動き出す。速度と圧力に注意しつつ走行。停めたい時は逆の手順で行う。ざっとそんなところだ。

 昔ヌールに教えてもらったことがあるが、今頃役に立つとは…」

マルシル「ヌールって、センシの仲間だった人だよね…」

ライオス「センシがいて助かった。おかげでこれが動かせる」

センシ「上手くいくかどうかわからんが、さて…」

 

センシ、慎重にレバーを動かす。

ガコン、と揺れて、ポォ〜〜〜!と小さな煙突から汽笛。

ゆっくりと車輪が回り出す。

チルチャック「お、動いた!」

マルシル「すご〜い」

イヅツミ「で、どっちに行くって?」

ライオス「君が言ったように『かたす』の方だ。まずはそれを試す」

 

コトトン、コトトン、コトトン…

軽快に走るトロッコ。

窓を開けて風を顔に受けるマルシル。

マルシル「気持ちぃい〜〜〜♬」

チルチャック「ガキかよ…」

ライオス「うおお!速い!カッコいい!!」

チルチャック「訂正。それ以上がいた」

イヅツミ「あいつ変わった物ならなんでも飛びつくな」

やがて眺めるのにも飽きてうたた寝するライオスたち。

センシは黙々と運転。

 

センシ「トンネルが見えてきた」

 

一同、運転席に集まって、前方の窓を見る。

マルシル「あそこから出たんでしょ?迷宮へ帰れるかな」

ライオス「さあ…ちゃんと続いているなら」

チルチャック「悪い予感しかしないんだが…」

そういう間にもトンネルの闇が迫ってくる。

ライオス「気をつけろ。何が待っているかわからない」

マルシル「魔法用意しとく」

センシ「誰か明かりを点けてくれ。そこに探照灯がある」

車体の両脇にあるカンテラに火を灯す。後ろの反射板が光を前方へ放つ。

ライオス「行くぞっ…!」

 

シュッシュッシュッシュッ…!

 

トロッコがトンネルに入る。

車内灯が自動的に灯り、周囲が闇に包まれる。探照灯の光に石造りの煤けた側面が通り過ぎてゆく。前方は真っ暗で微かにカーブする線路が延々と続く。

チルチャック「長えな…」

早くもゴロリと座席に寝転ぶイヅツミ。

チルチャック「緊張感なさ過ぎだろ」

イヅツミ「飽きた。着いたら起こせ」

マルシル「(チルチャックを見て)あのね…」

チルチャック「…明るい話にしろよ」

マルシル「来た時は斜面を降りてきたんだよね」

チルチャック「ああ」

マルシル「じゃ、どこかで登らないといけないと思うんだけど…」

ライオス「…水平だな」

チルチャック「言わずもがなだ」

なおも線路は続く。

ライオス「…センシにお茶でも淹れてもらうか?俺が交代して…」

チルチャック「お前運転したいだけだろ」

マルシル「あ!出口…」

指差す先にほんの微かな光。

ライオス「戻れるのか!?」

チルチャック「…いや待て。光が明る過ぎる。あの駅みたいな場所はもっと薄暗かったはず…」

 

プァン…!

パッと視界が開ける。

だだっ広い草原となだらかな山並み。

そして、小さな無人駅のホームが…

 

トロッコ、ホームで停まる。

呆然と車内から看板を見つめるライオスたち。

ライオス「…『きさらぎ』だ」

チルチャック「〜〜〜〜なんだよ、振り出しかよっ!ちっくしょう!!」

マルシル「え?でも、え?『かたす』に向かって走ったのに、『かたす』の方向から来るわけ?」

センシ「面妖じゃ…」

イヅツミ「ふぁ〜〜〜あ…もう着いたのか」

チルチャック「(怒)ああ。懐かしい場所へな」

イヅツミ「ああ?なんだよ、また同じ場所じゃんか!お前ら何やってんだ」

チルチャック「俺らのせいかよ!?グースカ気持ちよく眠りやがって」

イヅツミ「わたしはカラクリ専門じゃない。そっちの責任だろ」

マルシル「そんなこと言い争ったってしょうがないでしょ」

ライオス「トロッコは真っ直ぐ線路に沿って走ったんだ。で…」

イヅツミ「…元に戻ったって?」

ライオス「原理はわからんが」

イヅツミ「はぁ〜〜〜〜…。で、どうすんだ」

ライオス「始めに言ったように、今度は『やみ』を目指す」

イヅツミ「はあ!?また走んのか?お前も懲りない奴だな」

ライオス「いいかイヅツミ、君が言ったようにここが異界なら、通常の理屈が通らない場所だ。でも、そこから帰還した者もいる。だから、やれる事があるなら、片っ端から試せばいい。その中でヒットしたものが迷宮へ続く道だ」

イヅツミ「…よくそんな前向きでいられるな」

チルチャック「そこだけは同感」

マルシル「今度は逆走するわけね」

センシ「操縦装置は前と後ろの2つある。いざという時、どちらの方向へも走らせられるようにしているんじゃ。だから後ろの装置を使えばいい」

ライオス「ってことで、今度の操縦は俺がやる。燃料は足りてるかな」

センシ「薪はまだあるが水を消耗した。補給せねばなるまい」

ライオス「それは俺がやる。君たちはセンシの淹れた茶でも飲んでくつろいでくれ」

ウキウキしながらバケツを持って降りる。

チルチャック「…ったく、珍しい物があれば飛びつく…」

マルシル「この際ライオスみたいに余計な事は考えず行動する方がいいかもね」

チルチャック「ま、そうだ。不安に押し潰されて精神を消耗しちゃ、いざという時動けねえ」

センシ「わしがタンポポのコーヒーを馳走しよう」

マルシル「え、タンポポの花がコーヒーに?」

センシ「(道具を取り出しながら)使うのは根っこの方じゃ。乾燥させたタンポポの根を砕いて粉にし、それを煎って茶にする。砂糖とミルクをたっぷり入れ、クッキーの残りを添えれば…アフタヌーンティーの完成じゃ!」

 

【タンポポコーヒー】<エネルギー0/タンパク質0/脂質0/炭水化物0/ナトリウム1>

 

センシ「カフェインがない分刺激に乏しいが、子供でも飲みやすい」

チルチャック「いやだから俺を見るなって(汗)」

マルシル「コーヒーっていうより苦味の薄い紅茶って感じ」

チルチャック「変な所へ出て、まともな物を飲むっていうのも妙だな」

イヅツミ「(クッキーをボリボリ齧る)…で?懲りずにまたやるのか」

マルシル「う〜〜〜ん…さっきの調子だと、また同じ事が起こるような気が…」

チルチャック「確率的に高いぜ」

ライオス、水汲みが終わって入ってくる。

ライオス「だとしてもだ。正しいスイッチが分からない時は、片っ端から押すしかない。だろ?」

マルシル「まあそうだけど」

チルチャック「爆発しなきゃいいがな」

 

ライオス「じゃあ、今度俺ね。センシ、教えてくれ」

センシ「承知した」

ライオスが操縦席の前に立ち、センシが色々アドバイスする。

ライオス「水圧は…十分だ。で、このブレーキを解放して…」

センシ「慌てるな。いきなり開くと圧力が掛かり過ぎて機関が壊れてしまう。少しずつやるのがコツだ」

ライオス「少しずつ、と…(レバーを押す)」

ガタン、とトロッコが反対方向へゆっくりと走り出す。

 

イヅツミ「マルシル、ここ座れ(と隣の席を叩く)」

マルシル「(座る)なに?」

イヅツミがマルシルの太股に頭を乗せて寝そべる。

チルチャック「抱き枕かよ」

マルシル「抱きっ…!?(赤)」

イヅツミ「高さがちょうどいいだけだ」

すぐに眠り出す。

チルチャック「こいつ、緊張感が続かないな」

マルシル「ははは…」

 

トロッコの正面窓から外を眺めるライオスとセンシ。

ライオス「雲行きが怪しくなってきた」

徐々に空が暗くなってゆく。

センシ「む?(目を細め)いや…夜になろうとしている」

ライオス「え?」

行先の線路の頭上が、だんだん暗闇が広がり、薄い雲の向こうに星がまたたき始める。

ライオス「…今、昼間だよな?」

センシ「正確な時刻は分からんが、あの駅に最初に着いた時、太陽はまだ昇り切っていなかった。トンネルを抜けてまた戻ってきた時も、正午から少し傾いただけじゃ」

ライオス「休憩時間はせいぜい30分。午後の2時以降にはならないはず…」

チルチャック「(来る)なあ、暗いぜ。雨になるんじゃないか?」

ライオス、黙って外を指差す。

チルチャック「…なっ!?もう夜かよ」

センシ「少なくとも日没前のはずじゃ」

チルチャック「時間まで狂ってるのか…」

ライオス「センシ。前方にトンネルは見えるか?」

ドワーフの暗視能力で目を凝らすセンシ。

センシ「見えぬな。山が近づいてくる気配もない」

チルチャック「おいおいおいおい…ヤバいんじゃねーの?」

 

その声に応えるように、前方遥か向こうにポツリと光。

 

ライオス「…あれ?ひょっとして向こうからトロッコが来る?」

チルチャック「正面衝突はごめんだぜ」

センシ「速度を落とせ」

 

トロッコ、ゆっくりスピードを落とす。

そして、ピーーッピーーッ!と盛んに汽笛を鳴らす。

 

船を漕いでいたマルシル、うたた寝から目覚める。膝では丸まって眠っているイヅツミ。

マルシル「…んあ?」

ライオス「聞こえたかな」

マルシル「ねえ、着いたの?…え、もう夜?」

センシ「(目を凝らして)…いや。近づいてくる」

 

徐々に向こうの光が大きくなってゆく。紫色で、どことなく揺れている。

 

チルチャック「様子がおかしいぜ」

 

さらに近づいてくる。なんだか物の輪郭がおかしい。何十にも重なって蠢いている。

 

マルシル「(運転席へ来る)なっ…!?あ、あれ、トロッコじゃない!」

 

それは幾つもの巨大な顔が重なった亡霊列車だった!

 

センシ「ブレーキ!」

ライオスがレバーを思い切り戻す。

キィーーーーッ!!!トロッコが急制動で停まる。大揺れの車内。

ライオス・マルシル・センシ・チルチャック「「「「うわわわわ」」」」

イヅツミが席から転げ落ちる。が、体をクルンと丸めて通路へ器用に着地。

イヅツミ「なんだッ!?」

 

実態の分からない亡霊列車が迫ってくる。

 

チルチャック「戻せ戻せ!」

センシ「バックじゃ、ライオス!」

ライオス「くっ!」

 

切り替えレバーを引き、圧力レバーを引くも、急に停まった車輪はなかなか動かない。ごくゆっくり逆回転し始める。

焦ったいほどノロノロと後退してゆくトロッコ。

一方、亡霊列車は少しも速度を落とさない。かえってスピードを上げてくる。

 

マルシル「あれ、亡霊?レイス?ゴースト?ウィルオーウィスプ?うぅ〜ん、なんだろ…」

チルチャック「暇かよ!おいイヅツミ、アレの正体が分かるか!?」

イヅツミ「知るかあんなもん!なんでも分かるわけないだろ」

チルチャック「ちっくしょう!ぶつかるぞ!!」

センシ「聖水を準備すべきか」

チルチャック「材料がねえだろ!」

ライオス「来るぞ!みんな、備えろ!」

 

ゴォオオオオオオ…!!!

耳障りな咆哮を幾つもの口で上げながら亡霊列車が正面から激突する。が、妙に弾力のある車体がトロッコをヌルッと包み、そのまま飲み込むように覆い被さってくる。

窓ガラスを破らず、ヌルヌルッと侵入してくる多数の頭。

チルチャック「うぎゃーーーっ!」

 

ーーーーボウッッッッッ!!!

 

突然すぐそばで火球が炸裂し、紫の半透明な頭を4、5体まとめて吹っ飛ばす。

マルシルの炎系魔法が至近距離で炸裂したのだ。

チルチャック「うわチッ、わチッ!」

イヅツミ「燃やす気か!?」

パチパチと床が焦げる。

センシ「マルシル!トロッコが燃えてしまうぞ!」

マルシル「ええ?」

ライオス「ダメだ、引き剥がせない(必死でレバーを操作する)」

 

必死で防戦するライオスたち。

イヅツミ、クナイで切り裂くが、すぐに亡霊は元の形に戻ってしまう。

イヅツミ「手応えがない!」

逃げる一方のチルチャック。

チルチャック「どうしろってんだよ!」

マルシル「ならこれで!!(杖の頭を青く光らせ)凍らせるまで!」

ガッと叩いた亡霊が凍りついて床へゴトンと落ちる。すかさずセンシが斧で砕く。

センシ「いけるぞ!」

マルシル「武器を凍らせる!冷たいけど耐えて」

マルシルの魔法でセンシの斧・イヅツミのクナイ・チルチャックのナイフが青く光る。

チルチャック「冷てっ」

イヅツミ「凍傷になる前に倒すぞ!」

 

運転席で亡霊に沢山絡まれているライオス。

ライオス「うっ…意識が…乗っ取られ……」

まだレバーを離さないものの、視界がグニャッと歪んでくる。

ライオス(これは…俺の…指……?)

クラゲの脚のようにクネクネと曲がってゆく5本の指。

ライオス(なんだ…夢でも見てる…のか)

しかし、目を凝らすと、現実に指が軟体化しつつある。

ライオス「うわわわわわぁあぁ」

マルシル「ていっ!」

バシィ!!

ライオスに取り憑いていた亡霊が霧氷のごとく飛び散る。

ライオス「ゲホッ、ゲェッ、」

マルシル「大丈夫?…ゆ、指が!」

ライオス「ち、力が入らない…」

 

ミシミシミシィ…!!

嫌な軋みが全方向から響いてくる。

トロッコに覆い被さった亡霊たちが締めつけているのだ。バリ、バリ、バリィン!今度は窓ガラスが次々と割れる。

 

チルチャック「押し潰す気か!?」

マルシル「みんな床に伏せて!ライオスも!一かバチかやってみる!」

杖を掲げると、天井に大急ぎで魔法陣を描いてゆく。

マルシル「エラドエプス、モニファカレ、エト、カハンガ…」

センシ「何をする気じゃ」

チルチャック「天井ごと吹っ飛ばすんだよ!ライオス、もういい!」

ライオス「いやしかし、もうちょっとで…」

無理やり床へ引きずり倒すチルチャック。

チルチャック「そういうのは命があってからにしろ!」

イヅツミ「ったくもう!(伏せる)」

 

ーーーーバッガァアアアアンンン!!!

耳をつん裂く大音響とともにトロッコの天井が巨大な炎で消失し、巻き込まれた亡霊たちが燃えながら消し炭になって空へ散ってゆく。

車体の上半分が無くなったトロッコ、にわかにスピードが落ちて、ノロノロ運転に切り替わる。

 

ライオス「…運転席がない!?」

 

メチャメチャに壊れた操縦装置。

フシューーーッ!と破れた蒸気タンクから湯気が盛大に漏れて、とうとうエンジンが停まる。

惰性で這うようにきさらぎ駅のホームへ滑り込んだトロッコ、車台だけを残してバラバラに解体されてしまう。

完全に停車するトロッコ。

 

呆然とするマルシルたちを眺め、ライオスがゴホンと咳をする。

ライオス「…まあその…なんだ…これで迷いはなくなったよな!」

マルシル・チルチャック・センシ・イヅツミ「「「「言ってる場合か!!!!」」」」

 

***

 

壊れたトロッコから荷物を持ち出してホームに集合する五人。

ライオス、自分の手を見つめる。

ライオス「(指を動かしながら)…戻ってる。さっきのは幻覚か…?」

マルシル「違うと思う。きっとあのまま接触していたら変異してたんじゃないかな。時間が短かったから完全に染まらなかったけど」

ライオス「とんでもない魔物だ」

イヅツミ「んで?どうするんだ?」

チルチャック「あれが壊れちまったら鉄道はもう使えねえ」

ライオス「君が言っていたようにジンジャを目指したいと思う」

イヅツミ「どこにあるのかも分からないんだぞ。当てずっぽうに歩いて、どこにも辿り着かなかったら?野垂れ死にしたいのか」

ライオス「いや。それには一つ考えがある」

と、ホームから続く道を指す。

 

ライオス「少なくとも道はある。そこを辿れば村か町に行けるはずだ。そもそも駅というのは人を乗せて走るトロッコが停まる場所だ。馬車駅と変わらない。なら乗客が降りてゆく先に何かがある」

チルチャック「ここが常識の通用する場所じゃないってのを除けばな」

ライオス「線路に沿って脱出しようとしたら不可解な現象が起こって阻止された。俺たちの行動に反応した証拠だ。どんな理屈か分からないが、必ず出口がある。この世界へ迷い込ませた者がいるなら、俺たちの意図に合わせて何らかの行動に出るはず。そこを抑えて元の世界に帰らせる」

マルシル「雲を掴むような話だけど、このままここに居ても事態が悪くなるだけだしね」

ライオス「イヅツミは山の中にジンジャがあると言っていたが、案外遠くない(と山を指す)。2日もあれば着くだろう。迷宮の中を彷徨っていたことを思えば、むしろ楽に行けるかも」

チルチャック「その前向きさだけは買ってやるか…」

センシ「山へ行くなら狩りができるかもしれぬ。食材を集めながら進めばよかろう」

ライオス「ようし、出発だ。ファリンを助けに行くぞ」

マルシル「まずは私たちが救助されなくちゃね…」

 

***

 

ホームから降りてきさらぎ駅を後にする一行。

灰色の舗装道路を歩く。

周りはありふれた現代日本の田舎道だ。低い山の連なりと、道の周囲は林に囲まれている。

チルチャックを先頭に一列になって歩く一行。

 

マルシル「…この道、ずいぶん平らだね」

チルチャック「土の道でも石畳でもない。まるでセメントを延ばしたみたいだ」

イヅツミ「硬くて歩きにくい(チャッチャッと爪音を立てる)」

 

左右を見渡すライオス。

右に水田、左に畑。細い用水路を挟んだ畦道だ。

 

ライオス「あれは麦畑だ。こっちは…なんだ?」

イヅツミ「田んぼだろ」

ライオス「田んぼ?」

イヅツミ「知らないのか。稲を育てる水田。米を収穫する畑だ」

センシ「水栽培か。こんなに広いのは初めて見る」

ライオス「獲れるかな」

イヅツミ「秋にならないとダメだ。まだ穂が実ってない」

チルチャック「それ以前に人のもんに手を出すな」

ライオス「畑があるってことは人がいるんだ。話を聞きたい。できれば食糧の調達も」

イヅツミ「ならあっちの道へ行けば人家があるかもな」

と、分かれ道の右を指差す。小さな林に挟まれた道。左は急な坂道になっている。

チルチャック「左は山道に続くらしいぜ」

ライオス「じゃあ、まず右へ」

マルシル「ちょっと待って」

 

三叉路の中央に立つマルシル。

錆びついたガードレールとオレンジ色のポールが立っている。

ポールの上には、これもまた錆びた標識が幾つかと、曲がり道を映す薄汚れた凸面鏡が付いている。

現代日本ならありふれた光景だが、むろんマルシルたちは知らない。

 

チルチャック「道標か。何か書いてあるぞ。読めるか?」

 

イヅツミ、近づいて標識の文字を読もうとする。ミミズがのたくったような汚い字。活字ではない。

 

イヅツミ「…読めない」

チルチャック「東の国の文字なんだろう?」

イヅツミ「平仮名に似てるが、こんな字は見たこともない。違う国のじゃないのか」

ライオス「読めればどこへ続くか分かるんだがなあ」

マルシル「気に入らない…なんだか気持ち悪い。見てよ」

と、真下を指す標識を杖で示す。

そして、空へ向かって斜めに傾いている物や、折れ曲がっている物も。

マルシル「読めるか読めないか以前に不自然でしょ。三叉路なのに道に向いてないじゃない」

センシ「意味があるようで無いのか…」

イヅツミ「引き返すか?今なら日没前に駅へ帰れるぞ」

チルチャック「それじゃ意味がねえ」

マルシル「なんだかここ…すごい違和感ある。…ねえ、気づいてる?さっきから物音が一切しないこと…普通は何か聞こえるはずだよね?」

 

辺りを見回す一行。

異様なほど静まり返っている。

汚れた凸面鏡に歪んだ風景が映る。

田んぼの水面はさざ波さえ立てない。

 

チルチャック「…確かにな。言われてみるまでは意識しなかったが、風の音も、鳥の声も、葉ずれも虫の音すら聴こえない。ダンジョンならどんなに静かでも何かの音や微風が吹き抜けてるが…」

センシ「異常な事が起こり過ぎて気づかなんだ…」

ライオス「とはいっても、戻ったとして線路があんなじゃ行く道がない。このまま進もう。ただし、周囲を警戒しながら」

 

それぞれ左右や後ろも気にしながら歩いてゆく。

林の途切れ目に家がチラリチラリと見えてくる。

 

チルチャック「人家だ」

マルシル「村?」

チルチャック「かもな」

ライオス「行こう」

 

近づくと、数軒の家が道沿いに建っている。典型的な日本の民家。ただし現代のものだが。

そこも静まり返っている。

 

センシ「東洋の建物か。変わっている」

マルシル「イヅツミの国もこんななの?」

イヅツミ「…似てはいるが別物だな。あんなに大きなガラス窓は見たことない。それにドアは西洋風だ。屋根瓦は同じらしいが。他にも見知らぬ物が色々付いてる」

ライオス「スレート葺きか。あんな屋根もあるのか」

 

チルチャック、小さな望遠鏡をバッグから取り出して向こうを眺める。

チルチャック「…人影はない。カーテンは開いてるが、誰かがいる気配はなさそうだ」

マルシル「行ってみる?」

ライオス「う〜ん…」(静か過ぎる…静寂で耳が痛いほどだ…こういう雰囲気は好きじゃない)「やめとこう。人がいないのでは話も聞けない。無駄な時間を過ごしたくない。人のいる所まで行こう」

センシ「君子危うきに近寄らずか」

 

家々を素通りして歩き出す一行…その時、イヅツミのうなじがゾワッ!と逆立つ。

 

イヅツミ「…?」

 

振り向くと、いつの間にか人家の陰から複数の人間がこちらを見ている。現代の日本人の服装をしている。

能面のように表情がない。

 

イヅツミ「(本能的にカッと毛を逆立て)誰かいる!」

ライオス「!?」

 

他の者も振り向く。

やはり住人たちはこちらをジーーーッと見ている。

 

チルチャック「…さっきは居なかったのに」

センシ「面妖な…」

 

マルシル、ふと前を振り返ると、少し先に男が一人立っている。

 

マルシル「…あ、あの…」

男「ビふばちゃズテビキ」

マルシル「え?」

男「ぽびぞとぞうュぬャばず」

マルシル「ええ?」

男「サキちめぷ」

マルシル「イ、イヅツミ。この人なんて言ってるの?」

イヅツミ「あ?」

男「ゴぽづぎへるなワぱけュ」

マルシル「東の言葉って難しくてわかんない…」

イヅツミ「こいつはイカれてるだけだ。意味なんてないぞ」

マルシル「じゃあ…?」

 

その時、住人たちがユラッと走り出し、こちらへ向かってくる。両腕をブラブラさせ、わらわらと追ってくる。その数、十数人。無表情で駆けてくる。見た目より速い。

 

チルチャック「どうするよおい!?」

ライオス「逃げるぞ!マルシル、イヅツミ、こっちだ!」

別の小道へ駆け込む。

 

マルシル「あ、待って!」

男「れべゴヘナザれ!!」

表情のない顔で迫ってくる男。

イヅツミ、容赦なく蹴りを入れる。後ろへコロコロとすっ飛んだ男、すぐに立ち上がると追いかけてくる。

マルシル「うわ、追ってきた!」

イヅツミ「しつこい!(クナイを取り出し投げようとする)」

マルシル「ダメ、人間だよ丸腰の!」

イヅツミ「じゃあどうすりゃいい!あいつ追いつくぞ!」

イヅツミの言うとおり、異様な速さで迫ってくる無表情男。

マルシル「(走りながら)えっと、えっと…オイル!」

杖の先を地面に滑らすと、油が湧いて男の足を滑らせる。そしてオイルまみれの男に火がつき、燃え上がる。

男「(悶え)かぴれんろワヮバ!!」

マルシル「ええーーーっ!?」

イヅツミ「燃えてるぞ!私に言っといてなんだ」

マルシル「違っ…!足止めしようとしただけ!火なんて点けてないし」

 

男「あびばばルル!」

悶えながら起き上がり、なおも走ってくる。

 

イヅツミ「っていうか足止めにすらなってないじゃんか!」

マルシル「あの人たち人間じゃない!」

チルチャック「今さらか!気づけ!」

 

こけつまろびつ必死で走る一行。後ろの住人たちは妙に体をくねらせながら徐々に距離を縮めてゆく。その表情のない顔、顔、顔…。

住人「帰れええ」

「おかぁぁえええりぃぃぃぃ」

「寄ってけぇぇぇええええ」

ライオスたち、顔をひきつらせながら十字路へ差し掛かる。

 

マルシル「どっち!?」

ライオス「え、えっと…」

チルチャック「迷ってる暇か!右だ!俺は右に行く!」

イヅツミ「違う、左だ!そっちはケモノ道だ!」

チルチャック「分かんのかよ!?」

イヅツミ「お前、匂いで分かんないのか!?鈍感だな」

チルチャック「悪かったな、俺がコボルドじゃなくて!」

イヅツミ「私は犬じゃない!」

マルシル「仲間割れしてる場合じゃ…!」

センシ「ところで、」

 

と、センシが冷静に後ろを指差す。

十字路の手前でなぜかピタリと止まっている住人たち。

 

センシ「追ってはこなんだのか?」

ライオス「…あれ?」

住人「「「(ユラユラ)お〜〜〜〜ぉぉ〜〜〜おぉ〜〜〜〜」」」

マルシル「…なにやってんの、あの人たち?」

チルチャック「知るか」

イヅツミ「(牙を剥いて)うぅぅ…!来たら引き裂いてやる」

 

ライオス、辺りを見回す。

十字路の角の空き地に小さな石の塔がある。

いくつかの自然石を無造作に重ねたものだ。

他に何かないか、また見回すが、それ以外見当たらない。

 

ライオス「これのせいなのか…?」

イヅツミ「おい、なに呑気に突っ立ってる」

ライオス「いや…これ、なんだ?」

 

言われて他の面々も振り返る。

住人たちは見えない壁があるように、十字路の手前で蠢いている。

 

センシ「ケルンか?」

マルシル「それなに?」

センシ「ドワーフの印だ。壁に刻む物がない時は、こうして石を積んで目印にする」

チルチャック「そういや山に住む連中もそんなのをこしらえるな」

イヅツミ「(十字路を見回して)ふ〜ん…たぶん首塚だな」

ライオス「クビヅカ?」

イヅツミ「ここに人間の首が埋まってる。たぶん」

マルシル「うえ!?」

チルチャック「えらく物騒な目印だな」

イヅツミ「道のそばに埋めると結界になる。特に分かれ道は魔物や悪霊が集まりやすい。敵の首をぶら下げて歩き、ああやって埋めることで霊力が宿るんだと。村の境界の印にもなる」

ライオス「珍しい風習だな」

イヅツミ「人間の首は霊の力がこもりやすい。もちろん殺された怨みがあるけど、それも敵対者への脅しになる。そうやって守ってるんだ」

マルシル「東の国って野蛮…」

イヅツミ「言伝えでは、だ。私だって本当かどうか知らない」

センシ「だが、効き目はあるようだの」

 

住人たち「「「ぅ〜〜〜…うぅ〜〜〜…う〜〜〜〜…」」」

 

ライオス「…どっちにしろ退路は断たれたようだ」

イヅツミ「あ〜もう、だから嫌だったんだ。ここへ来てから嫌な予感しかしない」

チルチャック「励ましてくれてありがとな」

イヅツミ「どこがだ!」

チルチャック「嫌味くらい察しろよ」

マルシル「となると、選ぶのは前・右・左になるけど」

 

あらためて十字路を見渡す。

後ろは住人たちが壁を作っている。

右は進むとすぐ剥き出しの土の道になっていて、カーブしながら林の中へ消えてゆく。

左も林だが、背の低い樹々や竹林の上から民家の屋根が見え隠れしている。

前は林が途切れ、両側に田んぼが広がっている。その先に山が見える。

 

ライオス「人家は避けよう。また同じ目に遭ったら逃げ道がない。同じく、右の道も行き先がわからない。前ならある程度は視界が開けているし、山まで通っているらしい」

マルシル「賛成。また走りたくないし」

イヅツミ「田んぼなら奇襲しにくいだろうな」

チルチャック「俺はわりとどうでもいい。どっちへ転んでも悪い事しかねえ気がする」

センシ「決まりじゃな」

一行、前へ歩き出す。

 

***

 

広々とした田んぼの続く風景。

真っ直ぐ山まで続く道をテクテク歩いてゆく一行。

一見平穏で静かな光景…しかし、やはり鳥や虫の鳴き声はなく、妙な静寂がまとわりついてくる。

 

イヅツミ「…ふぁ〜〜〜ぁ」

チルチャック「緊張感ないぞ」

マルシル「(田んぼの水面を見ながら)…ねえ、あそこから水棲のモンスターが出たりしないかな?」

チルチャック「いや、底が浅いだろ。どんなモンスターだよ。お前は心配し過ぎだ」

ライオス「ウンディーネならありえるかもしれないな」

センシ「心配じゃ…」

チルチャック「センシまで」

センシ「山は見た目より遠い所にあるものだ。このままでは食糧の補給が難しくなる」

チルチャック「そっちか」

センシ「あのように青草のままでは食用にならん。かといって動物のたぐいも見えん。強いて言うなら…」

 

と、センシの視線を受けたカエル、ポチャンと水の中に隠れる。

 

マルシル「あれ獲るの?すばしっこそうだよ。第一小さいじゃん」

センシ「大量に捕獲せねばな」

チルチャック「泥だらけになりながらか。楽しそう」

イヅツミ「私はパス」

 

その時、フゥ…ッと風が吹く。

まだ成長途中の稲が青い絨毯のようにソヨソヨと靡く。

チルチャックが風が吹く方を向くと、田んぼの中に誰かが立っている。

白い服を着た人間のようだが、陽炎のように輪郭がはっきりしない。

 

チルチャック「…人だ」

マルシル「え?」

イヅツミ「ん?」

センシ「?」

 

チルチャック、無意識のうちに望遠鏡を取り出し、そっちを覗く。

 

拡大される白いモノ。

白い服を着た人間のようだが、その体は奇妙に歪み、捻れ、いっときも静止していない。頭の部分が180°反転したり、両足が前を向いたまま背中が見えたりする。顔は男のような女のような、ぼんやりとした輪郭が見えるだけ。それが音もなくくねくねと揺れながら、その周りもいびつに変化し、稲がバラバラの方向へ靡き、水面に幾つもの波紋が現れる。

「それ」は誘うように螺旋状に曲がりくねって、チルチャックの視界まで歪んで…

 

チルチャック「…くねくね……」

マルシル「ん?」

チルチャック「くねくねくねくねくくくねねねねニニにみいぃられるなななな…」

イヅツミ「なんだ?」

センシ「何を言っとる」

マルシル「ちょっと!何見てるの(と、チルチャックから望遠鏡を奪って、自分が見る)………

……あ、あれ…は……」

マルシル、望遠鏡から目を離して、コキッ、コキッ、とこちらを向く。

イヅツミ「わっ!?」

センシ「どうしたマルシル!(とマルシルから望遠鏡を取る)」

 

ライオス(さて…異世界へ来たはいいものの、いまいち面白味が足りない。せめて魔物の一つや二つあれば刺激になるんだが、さっきのアレは人間もどきだしなあ。イメージ的に違うんだよな)

イヅツミ「おーい!ライオス!」

ライオス「やっぱりモンスターらしいモンスターが……え?」

イヅツミ「なに先に行ってんだ!みんながおかしくなったぞ」

 

呼ばれて戻ってくるライオス。

確かにチルチャック、マルシル、センシの表情がおかしい。目が明後日の方を向いている。

チルチャック「くねくねくね…」

マルシル「あれ…それ…どれ……」

センシ「ぁぶぶぶぶ…」

イヅツミ「望遠鏡を覗いたら三人が三人ともおかしくなっちまった」

ライオス「何を見たんだ?」

イヅツミ「ん(と、田んぼの向こうのくねくねを指す)」

ライオス「(目を細め)…よく見えないな。精神系の魔物にやられたのか?」

ライオス、センシのだらんと垂れた腕から望遠鏡をもぎ取る。

イヅツミ「言っとくが、覗いたらお前も狂っちまうかもしれないぞ」

ライオス「…気をつける」

 

望遠鏡を覗くライオス。

視界の中にやはり白い何かがくねくねしている。

ライオス(…あれは精霊か?実態がないな。それにやたらと動き回って…)

イヅツミ「おい、ライオスッ!!」

ライオス「わっ(望遠鏡を取り落としそうになる)」

イヅツミ「しっかりしろ!お前までやられちまったらおしまいだぞ」

ライオス「あ、ああ。すまない。…あの魔物、どこかで…」

イヅツミ「魔物なのか、アレ?」

ライオス「待ってくれ。今、ものすごく考えてる。…」

ライオス(実態がない…形が変わるし不定形…こちらの精神を冒す…)

ライオス「…ナイトメアだ!」

イヅツミ「なんだそれ」

ライオス「悪夢を見せて取り殺す魔物だ。一度マルシルがやられて、俺が彼女の夢の中に入ったことがある」

イヅツミ「え〜と…それって…あ!あのシジミ貝みたいなやつか」

ライオス「そう、それ!同じかどうかは分からんが、性質は似ている。相手の精神を狂わせて生命力を吸い上げるっていう」

イヅツミ「じゃあ、あいつらはそれにやられたのか」

チルチャック・マルシル・ライオス「「「かゅ……ぅま……」」」

イヅツミ「…なんか手遅れみたいだぞ」

ライオス「本体を叩けば元通りになる。だからあの『くねくねしているやつ』を倒す」

イヅツミ「殺るのか(とクナイを取り出す)」

ライオス「いや。これは精神系の魔物だ。物理攻撃は無効だろう」

イヅツミ「じゃあどうすりゃいい」

ライオス「毒をもって毒を制す。…いいかイヅツミ、『くねくね』は変な形を見せて相手の精神を乗っ取るんだ。だったら、俺たちはそれ以上のパフォーマンスを見せればいい!」

イヅツミ「なにするんだ」

ライオス「よく見ておけ。……くぅ〜〜〜ねくねくね!くぅ〜〜〜ねくねくねっ!!」

突如体を捩らせながら変態的な踊りを始める。

ライオス「くねっ、くねっ、くねねねねねぇぇ〜〜〜〜!!!」

その形相といい、軟体動物のような動きといい、とても人間とは思えない。

イヅツミ「うわぁ…(ドン引き)」

ライオス「ボサッとするなイヅツミ、みんなの命が掛かってるんだぞ!くねねねぇ〜〜〜〜、くぅぅぅねぇえええええ〜〜〜〜!!正気を捨てろっ!恥ずかしがるなっ!奴に勝つにはこっちがくぅねぇ〜〜〜〜っ!!!するしかないッ!!!」

イヅツミ「ぅう…く、くねぇ〜〜〜〜」

ライオス「気合いが足りないくねねぇぇぇぇ!!!」

イヅツミ「うにゃにゃにゃ!ぅにゃ!ごろにゃんごろろろろ!」

ライオス「そうだその調子!くくくっねねねねぇぇぇぇ〜〜〜ねぇ〜〜〜〜くっくっくっ!!!」

イヅツミ「うにゃにゃゃゃぁぁあぁああああ!!!!」

 

二人の凄まじい変態ぶりに、さしもの『くねくね』も色褪せて見える。

いつの間にか正気に戻っているチルチャックたち、呆然とライオスとイヅツミを見ている。

 

マルシル「…なにやってんの?」

ライオス「くぅねくねくねくねくくくくねねねねっっっつ」

イヅツミ「ごろごろろろろにゃぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜っっっ」

チルチャック「マルシル、こいつら正気に戻せるか?」

マルシル「いや…手遅れかも」

 

ーーーーーボチャンッ。

 

センシ「ーーーむ!?食材の匂い!」

チルチャック「分かんのかよ!?」

 

センシ、『くねくね』がいた方へ走ってゆく。

 

一方のライオスたちはさすがに体力が尽き、地面にへばっている。

ライオス「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…え〜と…次は……」

イヅツミ「はぁ、はぁ、つ、疲れた…」

マルシル「(杖の先でライオスの頭をツンツンし)おーい、大丈夫か〜」

イヅツミ「…元に戻ったみたいだぞ」

ライオス「の、ようだな…」

センシ「大漁、大漁!(戻ってくる)」

 

センシが抱えているのは巨大な巻貝。触手がはみ出てくねくねしている。

センシ「泥の中に隠れておった」

ライオス「その触角で操っていたのか」

マルシル「あの…聞くまでもないけど食べるの?」

ライオス「むろん!せっかくの食材だ」

センシ「悪さをしないよう早めに調理しよう」

 

センシ、大きめの石ころを集め、道端へ円形に敷いて即席のコンロを作る。拾ってきた焚き木を並べて火を点けると、アダマンの大鍋に水筒の水を入れ、煮立たせる。

センシ「茹でる前に下拵えしておく。まず貝柱を切り、中身を取り出す。取れたら苦味のあるワタを切り離し、一口サイズにブツ切りする。

湯が煮立ったら酒少々と塩を加え、香りをつけるため採れた野草を少し入れておく。こうすればアクがなくなり食べやすくなる」

茹でた中身をザルに空ける。

センシ「バターを溶かして、すり下ろしたニンニクを加え、よく混ぜて、中身を炒める。小麦粉を上からまぶし、塩・胡椒をさらに加え、最後にレモン汁を掛けて味を整えたら…完成じゃ!!」

 

【くねくねのムニエル】<エネルギー5/タンパク質4/脂質2/炭水化物1/ミネラル1/鉄分1>

 

炉を囲んで食事する一行。

マルシル「…これ美味しい。肉がプツンと切れる感じで弾力があって」

ライオス「うん!バターのコッテリさとレモンの酸味が合わさってバランスが取れている」

チルチャック「意外にボリュームあるな」

イヅツミ「シジミ汁を飲んだことはあるが、こんなに大きな肉は食ったことがないぞ」

マルシル「それに…魔力補給にいいかも。精神系だからかな、久しぶりに魔力が復活した感じ」

ライオス「そういや、こっちに来てから魔力は使いっぱなしだったんだ?」

マルシル「迷宮にいる時は魔物たちを食べて補給してたでしょ。魔物は魔法物質で出来ているようなものだから、食べるだけで補充できたんだけど、こっちの世界は『普通』の食べ物ばかりで効率悪いんだよね」

チルチャック「ってことは、またこんなのを捕獲すればいいってことか」

マルシル「いや〜、さすがにそれは…」

ライオス「『くねくね』に魅入られていた時はどんな感じだったんだ?」

マルシル「それがはっきりしないんだ。なんか自分の見ているものが何か『分かりそう』って感覚があったのは覚えてるんだけど…」

チルチャック「俺もなんだか自分が自分じゃないような気がしたってのは覚えてるが…」

センシ「なにか…引きずられてゆくような感じだったな」

マルシル「そう、それ!手招きされているような」

ライオス「ふーむ。どうやらこの世界は俺たちをあの手この手で同化させようとしているのかもしれないな」

イヅツミ「同化ってなんだ」

ライオス「俺たちはこの世界の異分子、ウィルスみたいなものかもしれないってことだ。こちらの世界の原理は狂っているようだが、それは俺たちの側から見てで、向こうからすれば俺たちの方が異様な存在だと思わないか」

センシ「余所者ということじゃな」

マルシル「じゃあ、さっきの人間たちも、コレも、それなりの方法で同じ仲間にしようとしたってこと?」

ライオス「どうも変なんだ。迷宮の魔物はそれなりに食物連鎖がしっかり取れていたし、そのヒエラルキーの中で世界は安定していた。

ところがここは、その食物連鎖とは違う理屈で構成されているらしい…まあ、そういう仮説を立てたわけだ」

センシ「まず獣がおらん。鳥も虫も動物も。生き物がなくては循環せんだろう。食い食われるのがワシらの世界の宿命じゃ」

マルシル「物理的な法則を無視しているのは迷宮もだけど、あれには魔力という原理が働いていて、結局その法則で動いているんだよね。でも、ここはそういうのじゃないし…」

チルチャック「解せねえな。なんでそんな辺鄙な所にお呼ばれしたんだ?」

イヅツミ「異界に呼ばれる条件はよく分からない。でも、強いて言うなら、トンネルという『異世界』に入ったことで、迷い込んだかもしれない。私の育った里では、トンネルもまた異界の入り口で、神隠しに遭う話がよくあるんだ。誰かに手招きされたとか、呼ばれたとか。

山の神には、生け贄というか、時々人をさらって自分の世界に連れ込んでしまうことがあるらしい。私たちもそのたぐいだったんじゃないのか?」

ライオス「誰が何の目的で呼んだにしろ、もし誤算があったとすれば、それは俺たちが迷宮の探索者だということだ(と剣の柄を軽く叩く)」

 

***

 

畦道を歩いている一行。

山は前よりずっと大きく見えている。

 

マルシル「だいぶ近づいたね」

ライオス「この調子なら日没までに山裾へ辿り着きそうだ。キャンプを張る場所を探さないと」

センシ「水場も確保せねば」

 

さらに歩くと小川が流れる橋を渡り、徐々に山の中へ入ってゆく。道は舗装から砂利道に変わり、自動車のタイヤの跡が微かに残っている。

道は樹々に覆われ、先が見通せなくなってくる。

 

マルシル「…なんか…魔物がいないっていうのも…」

ライオス「それはそれで調子が狂うな…」

チルチャック「今まで散々おかしなのに出くわしただろ…」

 

フッとキツネが一行の前を横切り、薮に消える。

 

マルシル「あ!獣!」

ライオス「魔物か!?」

イヅツミ「ただのキツネだ」

マルシル「なんだぁ〜ビックリしたぁ」

チルチャック「何が出てくるか分かんねーから余計緊張するぜ。…あれ?センシは?」

 

センシ「お〜い、みんな」

 

声の方を振り向くと、センシが脇道の先へ行っている。

ライオス「センシ?」

そちらの方へ行くと、少し開けた空き地がある。

キャンプ場だ。

狭い駐車場もある。

センシ「道の先が明るいのでもしやと思ったが、やはり広場だった」

マルシル「へ〜、なんかきちんとしてる」

チルチャック「この世界って妙に用意がいいよな」

イヅツミ「妙ちきりんな住人がいるにしてはな」

ライオス「今夜はここに泊まるか」

マルシル「食糧は足りてる?」

センシ、背負っていた綱籠を下ろし、蓋を開ける。

センシ「…うむ。上出来とは言いかねるが、まあまあ乾燥している。夕飯はグリッチの干物と野草の付け合わせになる」

ライオス「これだけか…少し不安だ」

マルシル「くねくねは食べちゃったしね…」

イヅツミ「もう原っぱはないぞ」

センシ「(見回し)先程の水道はないのか。汲みに行くか」

センシ、大きな革の水筒を持って広場下の小川へ歩いてゆく。

チルチャック「山ん中で狩りかよ。めんどくせえ」

と言いつつ、広場の端で草を結んでいる。

マルシル「なにしてるの」

チルチャック「一応罠を張っとく。マヌケなウサギくらい引っ掛かるかもしれねえ。自分で嵌まるなよ。

…鳴子もつけておくか」

チルチャック、枝をしならせ、先端を紐で結んで簡単な警報装置を作る。紐をキャンプ場の周囲に巡らせておく。

チルチャック「こっから中に入れば一応安全だ。用を足す時はそこの草むらにしろ。穴を掘っておいた。終わったら土で塞げよ。匂いで気取られたくない」

 

***

 

小川へ降りてくるセンシ。

水は冷たく澄んでいる。

水筒の口を川面に浸す。

ふと目を上げると、対岸に小さな石板が建っている。

センシ(む?…祠か。何か刻んであるが…読めん。もしやここの主(ヌシ)か)

センシ「訳あって水をお借りする」

サアッ…とどこからか風が吹き、水面にさざ波が立つ。

水筒を満たしたセンシ、肩に担いで持ってゆく。

 

***

 

ライオスたち、荷物からポンチョを取り出し組み合わせて広い布地にし、太い枝を組んで即席のテントを2つ作る。雨対策の溝を掘り、準備を整える。

 

ライオス「じゃあ飯にするか」

センシ、ボウルに水を満たし、干したグリッチを入れる。

センシ「グリッチの干物を水で戻し、しばらく置く。その間に野草を適当な長さに切り、鍋を火に掛ける」

石で作った手作りのコンロに薪で火を点け、アダマンの大鍋で湯を沸かす。

センシ「本当は一晩漬けたいところだが、時間がないので柔らかくなった時点でグリッチを引き上げ、固くなった表面を裂いて中身を取り出す」

包丁できれいに切れ目を入れ、手早くササミのような肉を取り出す。

センシ「沸騰した湯で茹で、アクがなくなるまでよく取る。それから塩と酒少々を入れ、野草と一緒に茹でる。野草がしなったら火を止め、完成じゃ」

 

【グリッチの吸い物】<タンパク質4/脂質0/炭水化物0/ビタミン・ミネラル少々>

 

お椀に取ってさっそく食すライオス。

ライオス「旨い。天ぷらの時と違ってさっぱりした風味になってる。同じ食材でもこれだけ違うんだな」

マルシル「薄味なのがしつこさがなくていいね」

イヅツミ「肉が足りない。もうないのか」

センシ「すまんな。持ち合わせはこれだけだ。明日は狩りをせねばならんだろう」

チルチャック「鳥かウサギとか小動物を狙うしかないな。弓も俺のじゃ役に立たないし」

センシ「川があるから釣りという手もある」

ライオス「釣りか。いっぺん挑戦してみたかった」

イヅツミ「あんなのどこが面白いんだ?退屈なだけだぞ」

ライオス「(聞いてない)枝を適当な形にして、糸を結んで、釣り針は何がいいかな…」

センシ「(器用に小枝を削って尖らせる)これを使えばよかろう。釣り餌は土を掘ってミミズを獲るか、その辺の虫を捕まえればいい」

ライオス「おお、これこれ!」

マルシル「食のことになればセンシは何でもできるね」

 

ライオス「ーーーってことで山まで来たわけだが、明日は山中へ入ることにする。そこにジンジャがあれば、迷宮へ帰る方法が見つかるかもしれない。イヅツミ、ここは東の国に似ているから、道案内は君に頼みたい」

イヅツミ「マジか?私だってこんな所初めてだぞ」

ライオス「君は耳が良くて鼻が効くし、危険に敏感だ。それに土地勘もある。その嗅覚を買いたい」

イヅツミ「変な所に出ても文句言うなよ」

チルチャック「ここの全部が変なんだから今さらだ」

マルシル「それじゃ明日も早いし寝ようか」

センシ「火は絶やさんでおいた方がいい」

ライオス「火番を決めよう。それぞれ2時間ずつ担当するってことで」

チルチャック「マルシルから先にしろ。後は男組でやる」

イヅツミ「私は寝るぞ」

ライオス「なんなら女性ふたりで」

マルシル「いいよ。そんなに疲れてないし。イヅツミは寝てなさい」

イヅツミ「じゃあ遠慮しない」

チルチャック「女には甘いんだから…」

 

***

 

夜になり、皆が眠りにつく。

ライオス・チルチャック・センシは男用、イヅツミはマルシルと共同の女用テントへ。

 

一人残ったマルシル、焚き火を前に魔導書を読みながら座っている。

杖を脇に抱え、石突で地面に落書き。

辺りは黒で塗り潰したような暗闇。一点の光もない。

焚き火の火明りで周囲数メートルが見えるだけ。

頭上では無言で星明かりが瞬き、そのおかげでかろうじて広場の周りの森の輪郭がわかる。

マルシル(静か過ぎる…迷宮も暗かったけど、こんなに完全な闇は初めて。息が苦しくなりそう…)

かたわらに積んでいた薪の山から小枝を2、3本火へ放り込む。わずかに勢いづく炎。

 

 …カラン …カラン …カラン ……

 

マルシル「…?」

魔導書から顔を上げる。

 

     …カラン …カラン …… …

 

マルシル(風…ないよね?)

 

周りを見回しても真っ暗。

 

         … カララ… …カン … …

 

マルシル「誰?」

応えるものはない。

その時、

 

ボウッ、

 

…と焚き火が揺れる。

 

「おまえさん、何をしてる」

 

すぐ前で声がする。

 

ハッと振り返ると、焚き火の向こう側に誰かがいる。

その誰かは、光の方向に反して、黒い影をこちらへ投げ掛けている。

それだけで姿がはっきり見えない。なにか、もわもわした、黒いものがいるのはわかる。

 

マルシル「…あんた誰」

「(独り言のように)火は危ないぞ」

マルシル「どうして」

「火事になるからなあ」

マルシル「焚き火で?あり得ない」

「そうでもない。捨てた煙草の吸い殻で山火事になった話を知ってるかい。土に見えても落ち葉や枯れ草があるんだ。火事になったら丸焼けだね」

 

***

 

ライオス、外のボソボソ言う声に目を開ける。

ライオス「…?」

 

『いっそ消しちゃどうだい。火は危ないよ』

『消した方が危ないから』

『どうしてだい』

『嫌なものが近寄ってくるから。獣とか』

『でも火の方が危ない』

 

ライオス(誰と話してるんだ…?)

寝ぼけまなこを擦りつつ、起き上がる。

テントをめくってみると…

 

***

 

マルシルが誰かと話している。

だが、見ている先は闇だ。何かがうねうねと蠢いているような気がするが、はっきりと見えない。

それなのに影が火明りへ伸び、2本の足が向かいで座っているように曲がっている。

 

マルシル「あんたしつこいね。消さないったら消さない」

「じゃあ俺が消してやろうか?」

マルシル「やめて」

「火を消して眠ればいい。寝ずの番はつらいぞ。眠たいだろう」

マルシル「そんな…こと…ないから」

「眠ったら俺が消そう」

マルシル「ちょっと!勝手にやらないでよ…」

 

***

 

ライオス「マルシッ…!」

叫ぼうとして口を手で塞がれる。

チルチャックだ。

チルチャック「(囁く)しっ。…今声を掛けるな」

ライオス「しかし…」

チルチャック「今マルシルがあいつと戦ってる。下手に手を出すとマルシルが危ない。様子を見る」

センシ「何者じゃ…」

 

***

 

マルシル、だんだん瞼が重くなってくる。

「つらいだろう。我慢は体に毒だ。寝たら火は消してやる」

マルシル「いらないったら…しつこいな……」

「どうせ寝るのに火なんか燃やしててもしょうがない。俺の忠告を聞いておけ」

マルシル「じゃあ……私からも忠告……」

「…ん?」

マルシル「消すと、あんたも…危ないよ……たぶんね …」

「ほうら…目が閉じるだろう……」

 

***

 

ライオス「…カンテラの用意は(剣の柄に手を掛ける)」

センシ「…もう出来ておる」

チルチャック「まずい…寝ちまう」

 

***

 

マルシル「火…… 消すな…… 」

「寝たのか?」

マルシル「……………」

「寝たか?」

マルシル「(うなだれ)んん…………」

「寝たようだなあ」

 

フッ、

と火が消える。

 

***

 

ライオス「(立ち上がって)マルシ…!!」

 

***

 

バッーーーーーーーーーーーーー!!!!

 

突然閃光が走り、周囲が真っ白になる。

 

「ぎぃいいいいやぁあああああああああ」

 

鮮烈な光に照らされ、人間のような黒い影が浮かび上がっている。

それはのたうち、身を捩らせ、苦しそうに曲がっている。その曲がり具合はどう見ても人間ではない。

 

マルシル「…だから言ったでしょ。火が消えたら危ないって。あんたが苦手なのは火じゃなくて光なんでしょ。

万が一寝落ちした時のために用意した威嚇用の魔法陣の中に入るから…」

と、地面に描いていた魔法陣を杖で指す。

それは焚き火の周囲に円を描いていた。

マルシル「寝たら絶対襲うと思ったんだよね」

言いながら落ち着いた様子で、杖で再び焚き火に着火する。

 

カラカラカラカラ…!!!

激しく鳴子が騒ぐ。

 

「おおおおおぉぉ」

黒い影が苦し紛れにマルシルへ手を伸ばす。

ライオス「待てっ」

とっさに間へ割って入ろうとした時、

 

ーーーーーザクッ!

 

クナイが影に突き刺さっていた。

「ぐえぇぇ!」

イヅツミ「うるさいッ!寝てる最中にブツブツ言うな!!眠れないだろッ!」

 

影、地面を這いながら闇の中へ溶けるように消える。

途端に鳴子がピタッと止まる。

 

ライオス「マルシル、大丈夫か!?」

マルシル「ああ、うん、平気。…だけどマジ疲れる(げっそり)」

センシ「今のはいったい…影しか見えなんだ」

マルシル「私もわからない。けど、声がするからある程度実体のある魔物という気がする」

センシ「火を落とさないで正解だったな。朝の食事の支度に便利だと思ったのだが」

チルチャック「なにしろ何が棲んでるかわかんねーしな」

ライオス「少なくとも火が苦手なのは朗報だ」

イヅツミ「(眠そうな顔で)う〜〜〜…なんなんだ。私が寝るたびに騒ぎを起こしてないか?」

チルチャック「狙ってるわけじゃないって」

 

イヅツミの耳がピクン、と尖る。

イヅツミ「!?」

鋭い目で闇を見回す。

イヅツミ「(歯を剥いて)…何かいるぞ」

ライオス「え?」

イヅツミ「周りを囲まれてる」

 

サワサワ… サワサワ… サワサワ…サワサワ…

 

聞き取れないほど小さな音。

センシ「…何か喋っておる」

マルシル「人…じゃないよね」

チルチャック「だろうな。さっきのが人だとしたら、なんでも人だ」

ライオス「来るのか?」

イヅツミ「……いや。中へは入ってこれないようだ。火がある限り」

センシ「どうするライオス。打って出るのか」

ライオス「それは危険過ぎる。こちらへ来れないのなら、わざわざ出向く必要もないだろう。火番を二人にして備えよう。マルシル、君は寝ていてくれ。あとは俺とセンシでやる」

チルチャック「イヅツミは俺とその後で組め」

イヅツミ「はあ!?なんで私が」

チルチャック「マルシルだからたまたま無事だったものの、この後はどうなるかわからない。お前の鋭い感覚が必要だ。嫌とは言わせないぞ」

イヅツミ「うぅ〜〜〜…」

ライオス「マルシルが頑張ってくれたから、俺たちで明け方まで見張る。チルチャックとイヅツミはその後でいい」

マルシル「魔法陣掛け直しておくね。もう懲りてると思うけど」

 

***

 

コッケコッコー♬

 

なぜか鶏の声。

朝日が昇ると、嘘のように明るく普通の森になっている。いく筋もの光が広場に注がれている。

 

炉を囲んで朝食を摂っている一行。みんな目の下に隈が出ている。

タンポポのコーヒーを飲みながら、

マルシル「…なんか疲れた」

チルチャック「…奴らの気配で眠れなかったぜ」

ライオス「…音も立てないくせに圧が凄かったな」

イヅツミ「(平気)襲ってこなけりゃどうってことない。お前ら気にし過ぎ」

チルチャック「いや、しろよ」

センシ「昨日で食材が尽きてしまった。非常用にビスケットを焼いて取っておいたが、これしかない」

マルシル「(ボリボリ)美味しいけどこれだけじゃ…」

チルチャック「(ボリボリ)その備蓄も少ないんだろ」

センシ「(ボリボリ)うむ。一日は持たんな」

イヅツミ「(ボリボリ)肉が食いたい。魚でもいい」

ライオス「なら今日は食糧集めといこう。俺は昨日言ったように川で釣りをしてみる。みんなはめいめい自由に集めていい」

センシ「使い方は分かっておるな?」

ライオス「ああ。ミミズももう捕まえてある(と小袋から取り出す)」

マルシル「見せなくていいから」

チルチャック「それじゃライオスが楽しんでる最中、俺たちは山で狩りだ」

 

***

 

釣り竿を担いで小川へ出るライオス。

キラキラ光る川面がまぶしい。

対岸には昨日センシが見た小さな苔むした祠がある。

ライオス「なんか釣れそうな気がしてきた。やるか」

水際の岩に座ってさっそく釣り糸を垂れる。

 

どこからか鳥の声。

そよ風にサワサワと揺れる樹。

水のせせらぎ。

 

ライオス(平和だなあ。ずっと迷宮にこもっていたから、こんな世界があるなんて忘れてた)

ーーーピクン。

ライオス「…お?」

ーーーーピクン、ピクン。

ライオス「おお?」

慎重に手繰り寄せると…ピチピチの青魚が釣れる。

ライオス「おおーーーっ!」

嬉々として網籠に魚を入れる。

 

ほどなくして籠いっぱいになる魚。

 

ライオス「釣りって楽しいなあ。初めてでこんなに釣れるとは」

「楽しいか」

ライオス「ああ、楽しい。どうやって料理するか楽しみだ。…ん?」

 

顔を上げると、対岸の祠のかたわらに誰かが立っている。

少年だ。

髪を総髪にし、着物を着た少年がライオスを見つめている。帯に短刀を差している。

顔は美しく、どこか気品がある。

 

ライオス(…山で子供?いつの間に…)

ライオス「君、ここの人かい?」

少年「お主、この世の者ではないな」

ライオス「えっ?」

少年「どこから来た。変わった服を着ている」

ライオス「ああ、これかい?これは甲冑だ」

少年「鉄の鎧か。珍しい」

ライオス「なんというか、説明するのが難しいんだが、迷ってしまってね。帰り道を探しているんだ」

少年「ふうん。帰るのか」

ライオス「この世界も悪くなさそうだが、元の場所へ戻らないといけない」

少年「なぜだ。ここで暮らさぬのか」

ライオス「妹を救わなきゃならないんだ。だから必ず戻る」

少年「そうか。妹か。大事なのか」

ライオス「俺の命と引き換えにでも助け出す」

 

少年はライオスを値踏みするようにジッと見ている。

 

ライオス「…あ、そうだ。(網籠を持ち上げ、活きのいい魚を取り出す)沢山獲れた。少しあげよう」

1匹放る。

少年、それを受け取り、魚をジッと見る。

ライオス「もっと欲しいかい?」

少年は首を振る。

少年「…龍神様が仰るので見に来たが、お主ら、礼儀は知っておるようじゃ」

ライオス「龍神様?誰だい、それは」

少年「わしの主(あるじ)じゃ。(山の奥を指差し)よいか。ここから先に神社がある。そこのヌシに頼め」

ライオス「そこへ行けば帰れるのかい?」

少年「ただし、途中で妖(あやかし)が出よる。余所者じゃが居座っての。龍神様もお心を痛めておられるが、相手が強過ぎるで。お主、腕は立つのか」

ライオス「(腰の剣を叩いて)一応兵士をやっている」

少年「うむ。もし危ない時はマヨイガを頼るがよい」

ライオス「マヨイガ?」

少年「魚は確かに受け取った。この川を辿れば神社に着く」

ライオス「川に沿って登ればいいんだな。…あれ?」

指差す方を確かめ、振り返ると少年は消えている。

対岸は広い河原なので、一瞬で去ったとしか思えない。

ライオス「誰だ…?」

 

***

 

一方、森の中を散策しているマルシルたち四人。

薄暗い中、草の少ない所を探っているマルシルとセンシ。

センシ「(キノコを探り当て)む。…食用だの(ナイフで切り取って腰の袋に入れる)」

マルシル「(樹の実をもぎながら)これ食べられるかな?」

 

チルチャックは器用に木の上に登り、鳥の巣を見つける。

チルチャック「悪く思うなよ」

1、2個残して卵を獲る。

スルスルと木を降りる。

 

チルチャック「獲れたか」

センシ「キノコを見つけた。僅かだが飯の足しになる」

マルシル「私は木の実」

チルチャック「俺は卵を見つけた」

イヅツミもスルスルと降りてきて、

イヅツミ「私も卵しかなかった」

マルシル「みんなで食べるには量が少ないね…」

イヅツミ「私は肉が欲しい」

センシ「同感じゃ。タンパク質は必要不可欠な栄養源」

イヅツミ「ウサギもいない。ケチな森だ」

マルシル「私、狩りなんてやったことない…」

チルチャック「まあそうだろうな。お偉いエルフ様は本ばかり読んでるんだろ」

マルシル「そうだよ。魔術の勉強に忙しくて野山を駆け回る暇なんてなかったの。悪い?」

 

ーーーーザザッ。

 

イヅツミ「ん?」

視界の隅に何かを捉える。

 

ーーーーザザザッ。

 

イヅツミ「何かいるぞ!」

マルシル「(杖を構え)魔物!?」

 

ーーーーーザザッ。ザザッ。

 

チルチャック「すばしっこいな」

センシ「ウサギではない。動きが早過ぎる」

 

ーーーーザンッ!

 

チルチャックの横顔を何かが通り過ぎる。

チルチャック「えっ?…あ、卵!」

手の中から卵が消えていた。

チルチャック「くそっ、せっかく獲ったのに!泥棒!」

マルシル「チルも泥棒したけどね」

センシ「狙いは食材か!」

イヅツミ「私のはやらんぞ!」

 

ーーーーザ!

 

イヅツミ「くっ!」

とっさに屈むも、頬をスパッと切られる。

マルシル「今の見た!?」

チルチャック「見えねえ!」

 

ーーーーーザザザザザザ

 

センシ「…大きいぞ。あの草の靡き方を見ろ」

マルシル「(杖を構え)今度は私たちが獲物かも…」

チルチャック、石ころを拾って、

チルチャック「そこか!」

草むらへ投げ込むと同時に、

 

ザンッ!ーーーーー

 

巨大な影がマルシルたちの中へ突っ込む。

バフッ!

空気の壁にぶつかり、一瞬動きが鈍る。何か短い丸太のような物体。しかしそれだけで、マルシルたちの間を素早く通り過ぎ、草むらへ消える。

 

ザザザザ…

 

センシは斧を、チルチャックは小さな弓を、イヅツミはクナイを抜いて構える。

草むらの何かはあちこち飛び回って隙をうかがっている。

マルシル「とっさに風のバリア掛けたけど、簡単に貫いた…!」

イヅツミ「蛇みたいだ」

チルチャック「ちいっ。何か対抗策は…ダメだ、当てる自信がねえ」

センシ「(ボソリと)あれが食材になればよいのだが…」

マルシル、ハッとしてセンシが背負ったアダマンの大鍋を見る。

マルシル「センシ、その鍋構えて!」

センシ「鍋を?」

マルシル「いいから早く」

センシ、斧から鍋に持ち替える。

マルシル「底が見えるように。少し冷たいけど我慢してね。フィリス…ファクラム…エニア…」

鍋に小さな魔法陣が浮かぶ。

チルチャック「なんでもいいから早くしろ!そろそろ来るぞ」

マルシル「出来た。チル、イヅツミ、草むらに向かって適当に撃って。ただし、センシが鍋を向けている方じゃなく」

イヅツミ「なんでだ?」

マルシル「いいから私の言うとおりにして。私も撃つから」

チルチャック「こうかよ」ヒュン、と矢を放つ。

ザ!とあっさりかわす何か。

イヅツミ「クナイが勿体ない」

足元の石を適当に拾って投げる。やっぱり当たらない。

バシュッ!バシュッ!

マルシルは杖の先を構えて空気弾を次々に撃ち込んでいる。

マルシル「当たらなくていい!相手を休ませないで!」

チルチャック「こうなりゃヤケクソだ!」

イヅツミ「当たれぇーーー!」

 

センシを除いて、四方八方に撃ちまくる。それを嘲笑うかのようにかわしまくる何か。

と、射撃の方向の隙間を見つけ、突然草むらから飛び出る。

ーーーーザァッ!

ガツゥン!と勢いよくセンシの構えた鍋にぶち当たる。途端に魔法が発動し、コチコチに凍ってしまう。…ドスン、と地面に落ちる何か。

 

マルシル「はぁ、はぁ…」

チルチャック「やったぞ!…なんだこれ?」

 

それは丸々と異様に太った蛇だった。

頭も大きく、それに比して胴が短い。

 

イヅツミ「ツチノコだ…」

センシ「ツチノコとは?」

イヅツミ「東の国で言い伝えられる謎の生き物だ。すごいな…本物は初めて見る」

チルチャック「こりゃ良い獲物だ。危うく俺たちが獲物になるところだったけど」

マルシル「素早過ぎて捕まえられないなら、逆に隙を作れば罠に飛び込むと思ったの」

センシ「お手柄だ、マルシル。生き返る前にしめてしまおう」

斧で頭部を切り落とす。

センシ「これは凍ったままにしておく。時間が経って解ける頃には食事の時間になっておるだろう」

マルシル「(鼻高々)どお?私も狩りが出来るでしょ」

チルチャック「わかったわかった。認めるよ」

 

***

 

再び広場に集まる一行。

 

ライオス「おーい。収穫はあったか」

センシ、凍ったツチノコをぶら下げてみせる。

ライオス「うおっ!?それ蛇?珍しいな…」

マルシル「ライオスは釣れた?」

ライオス「(自慢)大漁だ。それと、そこの小川で少年に会った」

マルシル「少年?」

イヅツミ「人がいたのか」

チルチャック「またアイツらみたいな非人間じゃないよな?」

ライオス「いや、どうやらこの山の住人らしい」

 

説明するライオス。

 

ライオス「…ってことで、貴重なアドバイスも貰った。希望が見えてきた」

イヅツミ「龍神様か…なるほど」

マルシル「イヅツミは知ってるの」

イヅツミ「それはドラゴンだ」

ライオス「ドラゴン?」

イヅツミ「ああ。山や川を守るヌシだ。特別な力を持っている」

ライオス「ヌシか…魔物にも知性があるってことか」

イヅツミ「迷宮のとは違う。あっちは動物だが、龍神様は神に近い。同列で考えないほうがいい」

チルチャック「神って、大袈裟だな」

イヅツミ「龍神様を怒らせないほうがいいぞ。二度と帰れなくなるからな。センシもライオスも礼儀を守ったから受け入れたんだ」

センシ「昨日の祠のことか」

マルシル「好き勝手にやったら機嫌を損ねるってことだね」

センシ「迷宮もそうだが、食物の摂り過ぎは生態系を破壊する。何事もほどほどにせぬとな。龍神も同じ気持ちなのだろう。人間に荒らされたくないのだ」

チルチャック「まあ、それはいいとして、問題はアヤカシって奴の方だな…」

イヅツミ「龍神様も追い払えないほどだから、かなり強いんだろ」

マルシル「どんな奴なの」

ライオス「それは教えてもらえなかった。ただ危なくなったら『マヨイガ』を頼れと」

マルシル「それなに?」

ライオス「さあ」

チルチャック「どれもこれも雲を掴むような話じゃねえか」

イヅツミ「マヨイガか…」

マルシル「イヅツミは知ってるの」

イヅツミ「運が良ければ逢えるだろ。進めばわかる」

ライオス「食材も確保したことだし、さっそく行こう。この分では先は長そうだ」

センシ「その前に獲った魚は塩漬けにして処理しておこう」

 

センシ、魚の腹を裂いてワタを取り出し、次々に捌く。

それから軽く塩をまぶして、網籠に収めておく。

 

センシ「用意はできた」

ライオス「行こう!」

 

***

 

意気揚々と歩き出す一行。

昨日と違い、森の中は小鳥のさえずりや葉ずれの音に満ち、清浄な空気に包まれている。

 

マルシル「わりかし良い感じになってきたと思わない?」

ライオス「雰囲気が違うよな。これならそれほど苦労せずにジンジャまで行けるかもしれない」

チルチャック「希望的観測ってやつだな」

 

少し開けた道を通り掛かる。傍に小さなお地蔵様。だが頭が欠けている。

その横を通り過ぎる一行。

 

マルシル「チルはなんでも悪い方に考えるね〜。その偏った思考変えた方がいいよー」

チルチャック「あいにく実例を嫌というほど見てきたんでな。油断して寝首を掻かれるよりましだ」

マルシル「ほらぁ、そういうとこ!」

イヅツミ「ほっとけよ。自分の好きなんだろう」

チルチャック「そーいうこと」

マルシル「もう〜」

 

先ほどのお地蔵様の横を通り過ぎる。

 

ライオス「ところで少年が言っていたアヤカシだが、どんなものだろうな。やはり魔物の一種なんだろうか」

イヅツミ「アヤカシって言っても広いぞ。鬼とか幽霊とか実体のあるものはまだましな方だ。姿が見えないとか、声だけ聞こえるとか、そんなのが多いからな」

チルチャック「昨夜のアレみたいなのか…」

マルシル「イヅツミは東の国の魔物に詳しいんだ。意外」

イヅツミ「あ?私が知ってたら悪いのか」

マルシル「そういうの興味ないと思って」

イヅツミ「シュローたちと『島』へ渡る前はずいぶん調べたんだ。この呪いを解くために。古文書とか読んでな。シュローの家は領主だから、自分の領地を守るために色々なことを知っておく必要がある。風土記といってその土地にまつわる事を網羅した書物を持ってる。

私があの家で厄介になっていた時、自分の体を元通りにするために、ひそかに調べた。治すには医術よりも呪術の方が効き目があると思って。その時アヤカシについても学んだ。

マイヅルっていう怖い女がいたろ。

あいつ、そういうのに滅法詳しくてさ。根掘り葉掘り聞いてよく叱られた。『半端者がそんな事に興味を持つな』って。嫌な奴だった」

 

先ほどのお地蔵様の横を通り過ぎる。

 

マルシル「でもマイヅルさんはあなたを育ててくれたんでしょ?」

イヅツミ「別に恩など着てない。それなりに働かされたしな。下女と変わらなかったぞ」

ライオス「まあそれは置いて、実際どうなんだ、アヤカシと魔物の違いは」

イヅツミ「そうだな…少なくとも迷宮の魔物は特徴がはっきり分かる。何を食べ、どんな姿をしていて、どういう生態をしているか。…ところが、さっきも言ったが、アヤカシはそもそも実体がない。あるやつもいるが、たいていはずっと曖昧な存在だ。理解しようとしても無理」

ライオス「ふむ。せめて姿形があれば対処のしようもあるんだが…」

 

先ほどのお地蔵様の横を通り過ぎる。

 

チルチャック「やめやめ。それじゃなんの意味もないぜ。正体が掴めないだの、実体がないだの、そんなのいくら考えたって予想がつくか。その場その場でなんとかやってくしかねえ」

ライオス「何も手の打ちようがないってことか」

イヅツミ「そうでもない。塩を撒いたり、お札を貼っておけば魔除けになる」

ライオス「お札?」

マルシル「呪文を書いた紙なんでしょ?」

イヅツミ「ああ。紙切れとはいってもバカにできないぞ」

 

先ほどのお地蔵様の横を通り過ぎる。

 

センシ「ところで…先ほどから同じ所を通っている気がするのは、わしだけかな?」

マルシル「えっ?」

 

立ち止まる一行。

センシ「あの石像に見覚えがある。わしの勘が正しければ、この前を何度も通り過ぎておるのだが」

マルシル「まさか。私たちずっと登っていたよね?進んでるんでしょ?」

ライオス「ん…どうだったかな。途中下りの道もあった気がするが…」

マルシル「寝ぼけてないで。さっきから真っ直ぐ歩いてたじゃない。同じ所を通るなら曲がってるはずでしょ」

チルチャック「いや…俺もこの像に見覚えがある。ってことは、あのトンネルみたいに、同じ場所へ通じてるのか…?」

 

いつの間にか静まり返っている森。

薄い霧が白布のように漂ってくる。

 

ライオス「…この雰囲気は好きじゃないな」

マルシル「なにか出るって…?」

周囲を警戒する一行。

ライオス「道はこの一本だ。注意しながら進むぞ」

 

歩くにつれ、徐々に霧が濃くなってゆく。

…そして、またも同じ地蔵を見つける。

 

チルチャック「(ため息)どうやら閉じ込められているようだぜ」

マルシル「(青くなる)じ、じゃあ、出られないってこと?」

ライオス「落ち着け。その石像に何度も会うということは、どこかにループする所があるはずだ。それを探そう」

イヅツミ「探すってどうやって」

ライオス「ここを起点に、どこか変わった様子はないか注意してみる。まずここからだ。マルシル、魔術でこういうのに心当たりはないか」

マルシル「転移魔法の一種だと思うけど、すごく高度な術だと思う。転移に気づかないほど自然だもの。だけど、言われてみれば元の道へ戻る『ドア』があるはず」

 

杖を掲げ、静かに詠唱。

 

マルシル「ドストリオス…セファリア…ナエ…」

探るようにソッとあちこちへ杖を振る。

ピイン…

わずかに空気が揺れる。

さらにその箇所へ杖を近づけ、ボソボソと詠唱。

ゆらっ、

とそこの空気が、歪んだレンズのように蠢く。ちょうどドアに似た形で。

マルシル「誰か私の腰持って。向こうへ行っちゃわないように」

イヅツミ「尻を抱えるのか」

マルシル「(赤面)違う!あっちへ行ったら、みんなとはぐれちゃうでしょ?だからしっかり抱えて」

センシ「ふむ、ならばカバンを支えていよう」

みんなでマルシルの背中に負ったカバンを掴まえる。

マルシル「いい?覗くよ」

首だけを曲げ、歪んだ空気ドアの向こうへ頭を入れる。すると顔が消えてしまう。

チルチャック「おい、大丈夫か!?」

マルシル<なんともないって>

 

***

 

ドアの向こうから顔を覗かせるマルシル。

はた目で見ると、突然空中から顔が浮かび上がるように見える。

 

マルシルが見たのは、あのキャンプ場の手前の道だ。

 

マルシル「わ!なにあれ、昨日泊まった場所だよ!」

 

***

 

ヌポッと顔を戻すマルシル。

 

ライオス「消えた顔が戻った!?」

センシ「面妖じゃ!」

マルシル「いや、私、妖怪じゃないし。

今見たけど、あの空き地の手前だった。私たち、ずうっとおんなじ道を歩いてただけなんだよ」

チルチャック「それって、骨折り損ってやつだよな、もしかしなくても…」

ライオス「この先に行けないと戻れないぞ。これを消せないか?」

マルシル「術式が分からないし、解除は無理。いったん山を降りて別の道を探すしかないね」

センシ「なんということじゃ…」

 

キッとなったイヅツミ、森の方を向く。

イヅツミ「おい!キツネっ!これはお前の仕業だろう!ふざけた真似をすると切り裂いてやるぞ!私には分かってるんだからなっ!!」

 

「クククク…」「ククク…」「ククッ…」

霧がさらに濃くなり、あちこちから涼やかな笑い声が聞こえてくる。

 

センシ「囲まれたか」

チルチャック「何も見えねーぞ」

ライオス「落ち着け。マルシルを囲んで円陣を組め。マルシル、なんとかできるか?」

マルシル「やってみる」

 

背中合わせになって四方に備えるライオス・センシ・チルチャック・イヅツミ。それぞれの武器を構える。

その中で魔法の詠唱を始めるマルシル。

 

チルチャック「(ショートソードを構えながら)…こっちに来るなよ〜」

ライオス「この霧がキツネのせいだっていうのか、イヅツミ?」

イヅツミ「匂いでわかる。それに、こういうイタズラを仕掛けるのはキツネかタヌキというのが相場だ」

センシ「獣が魔法を使えるのか」

イヅツミ「奴らはズル賢い。油断すると何をされるか…」

 

フウッ、と何かが通り過ぎる。

ハッと身構えるライオスだが、もうそれは霧の中に消えている。

「ククク…迷ったのか…?」

「わしらと遊ぼうぞ…」

「命までは取らぬ。持っている物全部置いてゆけ。特に魚はなあ」

ライオス「これは俺の獲物だ。絶対にやらん!」

「ーーーこれでもかい?」

ペタリ、と頬に白い手が触れる。

ライオス「く!」

反射的に剣を振るも、霧を切っただけ。

ライオス「かすりもしない…!」

今度はチルチャックのナップザックが引っ張られる。

チルチャック「やめろ!」

ザッと素早くショートソードを振り回すも空振り。

複数の手がセンシにまとわりつき、背負っている食材を掴む。

センシ「無体な!離せ!」

ライオス「マルシル!」

マルシル「えいっ」

 

ーーーーボウッ!

激しい風が巻き起こり、霧を渦巻かせる。慌てて退いてゆく何か。

そして再び霧が閉じ、いっそう濃くなる。

 

マルシル「狙いをどこへつけたら…」

ライオス「みんな、そこにいるのか?」

チルチャック「何も見えねえ」

センシ「囲まれた!」

ライオス「背中をもっと密着させろ。離れるな」

おしくらまんじゅうのように、マルシルが四人に挟まれる。

マルシル「ぐぇ!ちょ、ちょっと、息が…」

 

そ〜っと伸びてきた手。

イヅツミ「!」

目にも止まらぬ速さでクナイが走る。

ザクッ!

「ぎゃあっ」

手が引っ込み、地面に血痕を残す。

と、霧の中から赤い二対の眼がポツポツと現れ、ライオスたちを睨みつける。

「よくも傷を負わせたな…!」

「許せぬ」

「そうだ喰ってやろう」

「喰え、喰え」

多数の赤い眼がライオスたちを包囲する。

 

センシ「イヅツミ。あやつらは確かにキツネなのか。魔物ではないのか」

イヅツミ「間違いない。さっきから言ってるだろ」

センシ「マルシル、もう一度風を起こしてくれ。わしが合図したら」

チルチャック「策があるなら早くしてくれよ!」

マルシル「わかった。唱えるから少し待って」

「があっ!」

いきなり、霧の中から鋭い爪を持った白い手がライオスに襲い掛かる。

スパッと頬を切られるライオス。

ライオス「このっ」

やたらに剣を振り回すが、やはり当たらない。

ーーーヒュン!

チルチャック「ひっ」

気配に気づいてとっさに屈むと、頭上をカギ爪が走ってゆく。

イヅツミは勘を働かせてクナイを振るうが当たらず、向こうも無闇に手を伸ばせない。

センシは大鍋を盾に防戦一。ガリガリと爪を立てられる。

センシ「マルシル、まだか」

マルシル「いつでもいいよ!」

センシ「(腰のポシェットから何かを掴み)今じゃ!」

再びブワッと風が舞う。

 

「きゃんっ」「けほんけほん」

突然あちこちから悲鳴が上がる。

 

ライオス「ぶぇーーーっくしょ!」

盛大にくしゃみする。

イヅツミ「んが!」

チルチャック「げっほ、げほ」

マルシル「セン…はっくしょい!シ、なにやったの?」

センシ「胡椒じゃ。キツネというから鼻に効くと思ってな。マルシルの風で撒いてみた」

 

霧が少しずつ晴れてゆく。

と、中からキツネたちが盛んにくしゃみをしている。

「し、滲みるぅ〜〜〜」

「目が、目がぁ」

 

 

マルシル「っくしょぃ!…確かに効いたね」

ライオス「ぶわっくしょぃ!」

チルチャック「(目をショボショボ)撒き過ぎだってーの!」

イヅツミ「わくしょ!っくしょん!」

 

「なんてヒドい…人間は恐ろしい」

「覚えておじゃれ!」

キツネたち、鼻水を垂らしながら這々の体で逃げてゆく。

 

センシ「貴重な食材を奪われてはたまらぬからの」

マルシル「(空間を撫でて)…あ!結界が消えた」

ライオス「それは良かっ…べくしょぃ!」

センシ「まずは水を飲んで顔を洗わぬとな」

 

***

 

小川に出て顔と手を洗う一行。

 

***

 

森の中の道を進む一行。樹幹の向こうに山の頂きが見え隠れしている。

 

ライオス「だいぶ進んだな。この辺で昼飯にするか」

センシ「ツチノコが解凍できたようだ。さっそく調理しよう」

石のコンロを作って火を入れ、大鍋で湯を沸かす。

センシ「ツチノコを捌く間、ヨモギの葉少々を茹でて出汁を作る。

ツチノコは蛇を捌くのと同じ要領で処理する。まず皮を丁寧に剥き、内臓を取り出して、肉を背骨から剥がす。内臓は使わぬので土に埋めておく。骨は出汁に入れ、エキスを煮出しておく。

その間に醤油・油・タマネギ・砂糖・ニンニクを混ぜ合わせたタレを作る。

処理した肉を出汁に入れて軽く煮る。これで肉の臭みが取れる。

煮たら取り出し、食べやすい大きさに切って串を通し、タレを塗って、焚き火の上で炙る。

塩漬け魚もワタを抜いた後、串を通して焚き火の周りに刺し、これも炙る」

イヅツミ「ふんふんふん…(鼻をひくつかせる)」

チルチャック「うまそうな煙」

マルシル「あ〜匂い嗅いだらお腹空いてきたぁ」

センシ「採れた卵で溶き卵を作り、塩・ヨモギと一緒に湯で溶かしてスープにすれば…完成ぢゃ!」

 

【ツチノコの蒲焼き】【焼き魚】【卵スープ】【木の実】<タンパク質5/脂肪4/塩分1/炭水化物1/糖分3/ビタミン少々>

 

マルシル「うっわ、コッテリしてるぅ〜」

チルチャック「ツチノコは脂身がたっぷりだ」

ライオス「うん、さすが俺の獲った魚。サクサクして歯応えがある。脂もチツノコの濃厚なのと違って甘い」

イヅツミは夢中になって食べている。

センシ「ツチノコはみんな食べてしまったから、夕飯は魚料理になる」

マルシル「なにがいいかな〜、フライかな〜、ソテーかな〜、シチューかな〜」

ライオス「なんならまた釣ってきてもいいぞ」

チルチャック「お前ら余裕だな」

 

 

***

 

再び出発する一行。

途中、崖に沿った道から峰が見える。

 

マルシル「あそこを目指すの?」

ライオス「教えてもらった方角だと、そうだな。山頂まで行かなくとも途中で出くわすだろう」

イヅツミ「じゃあ、もうすぐだ」

チルチャック「意外に近かったな」

センシ「いや。油断は禁物じゃ。まだ一日二日掛かるやもしれぬ。念のため食糧の確保も考えておかんと」

ライオス「そうだな。楽観するのはジンジャを見つけてからだろう。慌てず急がず行こう」

マルシル「念のため防御魔法掛けとくね」

全員に魔法を施すマルシル。

 

歩き出す一行。

 

***

 

イヅツミ「(鼻をひくつかせ)…?」

振り返るが、後ろには何もない。

マルシル「どうしたの」

イヅツミ「気のせいか…?」

 

さらに歩く。

 

イヅツミは顔をしかめ、耳を蠢かす。

イヅツミ「…おい、何か気づかないか?」

ライオス「え?」

チルチャック「気づくって何に」

イヅツミ「なんか変な感じがする…気に食わない」

センシ「またキツネか」

イヅツミ「いや…もっとこう何か…」

と、横から美しい女が口を開く。

女「妖しい感じ?」

イヅツミ「そう、それ。もっとひねくれてて邪(よこしま)な」

マルシル「魔物?」

イヅツミ「どっちかっていうと悪霊に近い」

また後ろを振り向くが、何もない。

女「そうかしら」

マルシル「悪霊っていうとレイスみたいな?」

女「それはなあに?」

マルシル「幽鬼だよ。アンデッドの一種で、実体はないけど強力な魔力を持ってる。かなり危険」

女「ふうん。ところであなたたち、どっちが美味しいの?」

マルシル「は?」

イヅツミ「あ?」

 

立ち止まるマルシル・イヅツミ・女。

互いに見つめ合う。

イヅツミ「…お前、誰だ?」

女「うふふ…」

マルシル「あの〜、どちらさ…ま…」

よく見ると、女の顔が宙に浮かんでいる。首が上の方から伸びてきているので見上げると…

 

蜘蛛のような巨体が頭上にいる。

恐ろしく長い6本の手が山肌や樹を掴み、豊満な胴体を支えている。そこからこれまた数メートルもの首が垂れ、マルシルたちに顔を向けていた。

 

マルシル「あ、あ…」

イヅツミ「…土蜘蛛だ!ーーーライオスッ!」

 

先に行っていたライオス・チルチャック・センシが振り返る。

ライオス「?…えっ!?」

チルチャック「なんだありゃ!?」

センシ「!」

 

イヅツミ「逃げろーーーっ!」

ブウン!と頭上から降ってくる長い腕を交わしながら、マルシルの手を取って走り出す。

マルシル「なにあれーっ」

イヅツミ「黙って走れ!」

 

ライオス「(剣を抜きながら)…あの少年が言っていたアヤカシか!」

チルチャック「ヤバいぜ。一本道だ。逃げ場がねえ」

ライオス「俺とセンシが殿(しんがり)を務める。チルチャックはマルシルたちと逃げろ」

センシ、斧を構える。

ライオス「マルシル、早く!」

 

土蜘蛛は長い腕を使って木伝いで悠々と追ってくる。そして長い両腕を振り回し、マルシルたちを捕まえようとする。その度にイヅツミが紙一重で交わしてゆく。首筋の髪が風で揺れる。

土蜘蛛「ほぅら、ほぅら、捕まえちゃうわよ…♬」

イヅツミ「モタモタするな!奴に喰われるぞ」

マルシル「(必死)そ、そんなこと言ったって…息が……」

 

ライオス「マルシル!イヅツミ!」

駆け寄るライオスとセンシ。

 

ビュッ!と白い糸が降って、マルシルの顔を綱のように覆う。

マルシル「もがーーーっ」

イヅツミ「くぉの!」

クナイを走らせるも、糸に触れたとたん絡みついて離れなくなる。

次にイヅツミの腕も糸に絡まれる。

イヅツミ「くっ」

 

ボゥ!

マルシルが盲打ちに放ったファイアーボールが当たり、糸を燃やして切り離す。

ライオス「大丈夫か」

イヅツミ「大丈夫じゃない!こんなバケモノとやり合えるか!」

ライオス「ここは食い止める。先に逃げろ」

センシ、隣に並んで大鍋を盾に斧を構える。

イヅツミ「ほら、置いてくぞ」

マルシル「(必死で顔についた糸を剥がしながら)ま、待って…!」

イヅツミ「ああもう、ドン臭い!」

再び手を取って前に引っ張ってゆく。

マルシルとイヅツミが去ると、行手を塞ぐライオスとセンシ。

ライオス「糸に気をつけろ」

センシ「どう倒す」

ライオス「伸ばしてきた腕を狙うしかない。下がりつつ糸を躱して隙を伺う」

センシ「承知」

 

土蜘蛛「お前たちも喰ってやるぅぅぅう」

覆い被さるように襲ってくる。

 

ビュッ!ビュッ!

飛んでくる糸を避け、迫りくる土蜘蛛を迎え撃つライオスとセンシ。

ブウンと伸びる手に切りつけるも、速すぎて空振り。

と、盾にしていた大鍋へ糸が絡み、強力に引っ張られる。慌てたセンシ、斧を放り出して大鍋にしがみつく。

センシ「こ、これだけはああ」

ライオス「センシ!」

剣を振り上げて糸を断ち切ろうとした時、横から巨大な団扇のような張り手を喰らう。吹っ飛ばされて山肌にぶつかる。

ライオス「がはっ」

 

その間に鍋ごと宙へ釣り上げられるセンシ。

土蜘蛛は6本が全部腕になっていて、そのうちの三つ目の指先から糸が放たれていた。

顔の前までセンシを持ち上げる。

ニタァ…と笑う土蜘蛛。

センシは両手でぶら下がっているので、何もできない。

土蜘蛛「まずそうだのう。まあ、よく肥えておるのでよいわ」

センシ「むむ…!(大汗)」

カッと大口を開ける土蜘蛛。びっしりと生えた牙が光る。

 

ーーーバウッ!!!

 

顔の前で爆発!

土蜘蛛「ぎにゃああっ」

マルシル「やっと糸が取れた」

燃える糸が切り離され、センシが落下、尻餅をつく。

センシ「ぐむ!」

コロコロと転がり、尻をさすりながら立ち上がる。

マルシル「センシ、大丈夫!?」

駆け寄ってくるマルシルたち。

センシ「感謝する、マルシル」

チルチャック「起きろ、ライオス!」

ライオス「いてて…」

チルチャック「そうそう逃してくれなさそうだぜ。ここは踏ん張るしかねえ」

全員が構える。

 

それを余裕で見下ろしている土蜘蛛。

土蜘蛛「ほほほ…我に逆ろうてか。無益なことを」

チルチャック「そう簡単に喰われてたまるかよ!…みんな、いいか。奴は木の上にいる。腕は狙えねえ。糸は正確で速い」

マルシル「じゃあどうするの」

チルチャック「俺たちが囮になって逃げまくっているうちに、マルシルが火の魔法であいつを燃やす。策はそれしかない」

ライオス「よし、それじゃ、散るぞ。…掛かれっ!!」

チルチャック・センシ・イヅツミ「「「うりゃーーーーっ!!!」」」

四方に散らばったみんな、糸を躱しながら、それぞれの方法で土蜘蛛を攻める。

ライオスは糸を切り払い、センシが土蜘蛛が掴んでいる木の幹を斧で切ろうとし、チルチャックが小さな弓で射る。

イヅツミが素早く木を登ると、枝から枝へ跳んで、土蜘蛛に迫る。

ボッ!とマルシルの火球が飛んでくるも、土蜘蛛は器用に交わす。

マルシル「避けられた!?」

イヅツミ「このお!」

跳躍してクナイで土蜘蛛の顔を突こうとするも、

 

ーーーバァン!

 

イヅツミ「ぎゃん!」

横合から張り手に吹っ飛ばされる。

土蜘蛛「甘いわ!」

飛ばされたイヅツミ、枝を折りながら真っ逆さまに落ちてゆく。

と、メラッ!木の幹を握っていた土蜘蛛の手が炎で燃え盛る。マルシルの魔法だ。

土蜘蛛「ぐわ!」

マルシル「これなら避けられないでしょ!」

ライオス、落ちてくるイヅツミを辛うじて受け止める。スライディングの要領でイヅツミの尻が腹に当たる。

ライオス「ぐっ!意外に重い」

イヅツミ「失礼だな!」

 

土蜘蛛、木の上から飛び降りる。ズシン!と揺れる地面。

土蜘蛛「よくも我に火傷を負わせたなぁ〜〜〜〜!!」

憤怒の形相で睨みつける。顔立ちが美しいだけに怖い。

地面に這いつくばる格好は蜘蛛そのものだ。

6本の腕をカサカサと動かしながら素早く迫ってくる。

チルチャック「てっ!」

矢を放つも、山肌へ身軽に跳んであっさり避ける。

そして3番目4番目の手で糸を放つ。

ライオスたち、避けるだけで精一杯。

土蜘蛛「チョロチョロと鬱陶しいわ!早よう捕まれ」

 

マルシル「センシ、また鍋を持って!」

センシ「しかし!」

マルシル「私に考えがある」

言われてセンシは大鍋をまた盾として構える。すぐに糸が2、3本飛んできてくっつく。ズズズ…鍋ごと引きずられてゆくセンシ。

マルシル、素早く何か唱えると、杖の先で糸に触れる。そこからトロトロと油が伝ってゆく。

ライオス「センシを止めろ!」

と言いつつ、センシの背中に飛びつく。その後ろにイヅツミがライオスの背中を、イヅツミの背中をチルチャックが掴み、みんなで綱引き。…が、土蜘蛛の怪力で全員引きずられる。

土蜘蛛「他愛もない…大漁じゃ♪」

センシ・ライオス・イヅツミ・チルチャック「「「「ぐぬぬぬぬ〜〜〜!!!!」」」」

 

マルシル「ーーー今だ!火の精霊よ、燃やせ!!」

 

ボボボボ!!!!杖の先から火球が飛び、オイルで濡れた糸に着火する。そのまま糸を伝って炎が走り、手を焼き焦がす。

土蜘蛛「熱ぅぅううういィィ!!」

ライオス「たあっ!」

センシを放して、前へ飛び込みざま剣を走らせる。ザクッと手応えがあり、踏ん張っていた後ろの腕から鮮血が飛び散る。

土蜘蛛「ぎゃああっ」

ピョンと思い切り後ろへ跳ぶ土蜘蛛。6本のうち3本の腕を負傷し、バランスを崩しながら木の上に逃れる。

土蜘蛛「おのれ…おのれ…おのれぇぇ!生きながら皮を剥いで嬲り殺してやるわ!」

樹冠を伝いながら迫ってくる。

 

ライオス「速度が落ちてる。今が逃げ時だ!」

一斉に走り出す一行。

その後を土蜘蛛がヨタヨタと追い掛ける。が、わずかにライオスたちより速い。

チルチャック「くっそ!あれでも堪えねえのかよ」

必死に走っていると、行手に家の門が見えてくる。門は開いている。

イヅツミ「!あそこだ!」

門を走り抜け、屋敷の中へ飛び込む。続いて走り込むみんな。

イヅツミは素早く門を閉め、太い棒で閂を掛ける。

ガリガリと扉を引っ掻く音が向こうからする。

土蜘蛛「ここかぁ〜?逃げても逃さぬぞぉ〜。諦めて我に喰われろぉ〜」

脅かすも、中へ入ってこない。

固唾を飲むライオスたち。

 

…やがて、音がなくなり、表の気配が消える。サァ…と竹林が微風に鳴り、再び小鳥のさえずりが戻ってくる。

 

ライオス「行っ…たのか…?」

イヅツミ「…ああ。どうやら諦めたようだ」

チルチャック「(しゃがみ込む)はぁ〜〜…どうなるかと思ったぜ」

マルシル「でも、どうして塀を乗り越えてこなかったのかな?」

イヅツミ「ここが『マヨイガ』だからだ」

 

***

 

あらためて辺りを見回すライオスたち。

 

目の前に豪壮な日本家屋が建っている。

広い前庭の石畳を伝うと玄関があり、戸は開いている。

静謐な空気が漂う。

 

ライオス「あの少年が言っていたのは、家のことだったのか…」

 

玄関に入ると、そこも広い。

床板が鏡のようにピカピカに磨かれ、全体が建てたばかりのように真新しい。

イヅツミは遠慮なく上がる。

イヅツミ「靴はここで脱いでいけ」

ライオス「え?靴を?」

チルチャック「お前はそのままだろ」

イヅツミ「私は裸足だ。土足で家に入るな。失礼だろ」

マルシル「イヅツミに礼儀を教えられた…」

センシ「ここの流儀なら仕方あるまい(と上がり框に腰掛け、靴を脱ぐ)」

 

***

 

イヅツミを先頭に廊下を進む。

 

廊下はコの字型になっていて、広い中庭を囲っている。中庭には小さな池と築山がある。風情のある眺め。

 

ライオス「…誰もいないのか?」

マルシル「いいのかなあ、勝手に上がり込んで。…すみませーん、誰かいませんかー?」

チルチャック「(スカウトらしい目つきで見回し)…人の気配はなさそうだ。ブービートラップもない」

イヅツミ「そんなもんあるか」

チルチャック「お前、なんで知ってんだ」

イヅツミ「里の者なら誰でも知っている。こんな山奥に屋敷なんてあるはずないだろ。ここは山の神が旅人に用意してくれる家だ」

マルシル「避難所ってこと?」

イヅツミ「土蜘蛛だって入っては来れない。ここなら安心だ」

ライオス「…良い匂いがしてきた気がする」

センシ「…うむ。食事中だったか」

 

***

 

障子戸を開ければ、中は大広間。畳が敷かれ、五人分の食事が箱膳に用意されている。前には座布団。

食卓には炊き立ての大盛りご飯が湯気を上げ、味噌汁と漬物、刺身に大根おろし、醤油の小瓶、鰻の煮こごり。どれも作りたてだ。

 

イヅツミ「(座布団へあぐらを掻き)うまそうだな!」

マルシル「え、でも、これ、誰かのご飯でしょ?」

イヅツミ「遠慮するな。私らのために用意されたものだ(もう食べてる)」

マルシル「え〜…」

顔を見合わせるマルシルたち。

チルチャック「食い意地の張った奴は置いといて、一応確認すべきじゃないのか?」

マルシル「だね。イヅツミの言うのが本当だとしても居心地悪いし」

ライオス「手分けして住人を探そう」

 

***

 

ライオス「おーい」

 

チルチャック「誰かー」

 

マルシル「いませんかー?」

 

センシ「お頼み申す」

 

あちこち歩き回るが、誰もいない。

再集合するライオスたち。

ライオス「いた?」

マルシル「ううん」

チルチャック「どうやら本当に無人らしいぜ」

グゥ〜〜〜…とみんなの腹が鳴る。

マルシル「(赤面)…不本意だけど、ご飯をいただくしかないみたい」

センシ「そうだの。せっかくの料理を無碍にもできまい」

ライオス「埋め合わせは後でしよう」

 

***

 

ということで、嬉々として食卓につく面々。

 

【マヨイガの夕飯】<タンパク質3/脂質2/炭水化物5/ナトリウム2/ミネラル3>

 

センシ「(味噌汁を啜って)む…ダシがよく効いている。この白くて四角いものは?」

イヅツミ「豆腐だ。大豆を濾して作るんだと」

センシ「なるほど。麩(ふ)の物とネギ、油揚げをスープにくるめるのか。なかなかの出来。スープの素は?」

センシ「味噌だ。それも大豆を発酵させて作る」

センシ「ふうむ。東の国の料理は独特だの。他にない味わいがある」

ライオス「ライスもイケる。リゾットやオートミールなら食べたことがあるが、これ単体で食べたことはなかった」

イヅツミ「私の国では主食だ。パンとは違って」

チルチャック「辛い漬物と合わせて食うと絶品だな」

イヅツミ「そいつはキムチだ。白菜と唐辛子をメインに色々漬け合わせる。キムチはなんにでも合うぞ」

マルシル「このお魚美味しい!生なの?」

イヅツミ「刺身はそこの大根おろしに醤油をかけて混ぜろ」

マルシル「…ほんとだ、辛味と塩味ととろける魚肉が混ざってめちゃくちゃ美味しい!!(思わず手で口を塞ぐ)」

ライオス「ステーキのようなこってりしたボリュームはないが、爽やかで味わい深い。東の国の飯も好きになれそうだ」

 

夢中でご飯を掻き込み、お櫃からおかわりして、満腹になるまで食べる。

 

チルチャック「は〜、食った食った。魔物食も悪くないが、まともな食い物はやっぱ格別だな」

センシ「きちんと手を掛けられた料理はやはり味に深みがある。学ばせてもらった」

マルシル「ごちそうさまでした」

ライオス「腹が満たされた。これもマヨイガのおかげだな」

 

チルチャック「(顔をやや引き締め)…でもさ。これからどうする?あの化け物とは戦わなきゃならないんだろ」

ライオス「恐らくな…出会わずに済めばいいが、そう都合よくはないだろう。ここら辺に安全な野営地があるか…」

マルシル「(中庭の上にまたたく星空を眺めながら)もう夜だしね。今戦うのは無理」

イヅツミ「だったら、ここに泊まればいいだろ」

ライオス「え、いいのかい?ご馳走してもらったうえに、寝泊りして」

イヅツミ「もともとマヨイガは道に迷った旅人を助けるために現れるものだ。飯を食わせて放り出すつもりなら、門が開いたりしない。一晩くらい構わないだろ。それに、ここ以上に安全な場所はない。強力な結界があるからな」

センシ「ならば選択の余地はないの」

ライオス「ふむ…だったら、厄介になるか」

 

マルシル「ライオス。寝室があるけど」

ライオス「寝室?」

 

***

 

別の部屋に来てみると、床の間に人数分の布団が敷かれている。かたわらに着物がきちんと畳んで置いてある。

 

ライオス「東洋式のベッドか」

チルチャック「向こうは床へ直に敷くのか。なんだかキャンプと違わないな」

イヅツミ「もしかすると…」

 

***

 

広い露天風呂が湯気を立てている。

 

ライオス「おおーっ!?温泉まである」

チルチャック「これは入るっきゃねえな!」

 

寝室に置いてあったバスタオルを腰に巻き、さっそく入る一同。

マルシルとイヅツミは少し離れたところで体にバスタオルを巻いて入る。

チルチャックはちゃっかり見つけてきた日本酒の徳利とお猪口で、湯に浸かりながらほろ酔い気分。

 

チルチャック「んめぇ!いゃ〜透明感っていうの?甘さがあって飲みやすいなあ(頬を染め上機嫌)」

センシ「異世界へ来て酒をたしなむとは…(赤)」

ライオス「なんだか休暇に来たみたいだ(赤)」

 

マルシル「イヅツミって背骨の毛薄くない?お肌スベスベじゃん」

イヅツミ「な!?こら触るな、くすぐったいだろ!」

マルシル「元の肌は綺麗だったんだろうな〜。…あ、ごめん」

イヅツミ「いい。もう慣れた」

マルシル「け、毛深いイヅツミもけっこう好きだよ、私。猫みたいで」

イヅツミ「それ褒めてないぞ」

マルシル「なんでー?可愛いって言ってるのに」

イヅツミ「そういうお前こそなんだ。…エルフって肌が滑らかだな」

マルシル「あ、ち、ちょっと、どこ触ってるの?」

イヅツミ「うるさい。私だって裸見せただろ。全部確かめてやる」

マルシル「あ、だめ、そこ…ぁぁん♡」

 

ライオス「…なにやってんだ?」

チルチャック「聞こえないふり」

 

***

 

床の間でイヅツミから着付けを教えてもらい、浴衣姿になる一行。

マルシル「これ可愛い♪」

ライオス「着心地がいいな」

 

***

 

縁側で虫の音を聞きながら夜空を見上げる一行。

 

マルシル「…ファリンどうしてるかな。ちゃんと食べてるかな」

ライオス「キメラって食べる必要があるのか…?」

センシ「あれとて生物だ。霞を食うわけにはいかぬだろう。食料調達が気になる」

チルチャック「飼い主のシスルってやつ、どー見てもペットに餌をやるタイプに見えねえもんな…」

ライオス「イヅツミは懐かしいだろ?ここに居たくならないか」

イヅツミ「冗談。私が欲しいのは自由だ。ここじゃ生きる場所がない。迷宮から始めないとな」

マルシル「…ファリンに逢いたい…」

ライオス「そうだな…。

     そのためにも、しっかり食って、しっかり寝て、力を養わないと」

マルシル「ライオス変わらないね、どこでも」

チルチャック「そろそろ寝ようぜ。ここに居座るほどファリンを助ける可能性が低くなる。明日はジンジャに辿り着かねえと」

ライオス「そうだな。寝るか」

 

***

 

八畳間にライオス・センシ・チルチャックが、六畳間にマルシルとイヅツミが布団を並べる。

間の襖は半開きにしている。

それぞれの枕元に装備と武器が置いてある。

 

ーーー真夜中。

 

マルシル「う〜ん……蜘蛛……あれは…食べらんなぃ…」

 

ヒタヒタと小さな足音がして、子供の裸足が二組、マルシルの枕元に現れる。

そして女の子の声でひそひそ話を始める。

 

「寝てるようだ」

「寝ておるようじゃの」

「よそ者か」

「よそ者じゃ」

「土蜘蛛がたいそう怒っておった。こやつらに怪我を負わされて」

「よい気味じゃ。あやつは乱暴者だで、好かぬ」

「なれど、この者たちで土蜘蛛を退治できるかや」

「無理じゃろう」

「鈴がなくてはな」

「鈴がなくては」

「鈴があれば糸を封じるよってに」

「しかし、この者らは知らぬ」

「やれ難儀なことよ」

「やれ難儀じゃのう」

 

ヒタヒタと遠ざかる。

 

***

 

チュンチチュチュン……

爽やかな朝を迎える。

 

マルシル「ふぁ〜〜〜…」

大きく伸びをする。

まだ眠そう。

かたわらではイヅツミが熟睡。

 

チリン…

 

マルシル「…ん?」

 

起き上がると、目をこすりながら濡れ縁へ出る。

 

チリン… チリン…

 

庭の方から聞こえる。

マルシルは三和土に置いてある草履を履き、庭へ降りる。音の方へ歩いてゆくと、小さな茂みの枝に何かがぶら下がっている。

 

マルシル「…鈴だ」

手に取ると、大きめのイヤリングくらいの鈴。振ってみると、チリィ〜〜〜ン…と良い音を響かせる。

紐をほどいて首に回し、ネックレスにするマルシル。

 

ライオス「…マルシル?」

マルシル「あ、起きた?おはよう」

戻ってくるマルシルに、

ライオス「それ、何だい」

マルシル「庭で見つけたの」

ライオス「(鼻をひくつかせ)…良い匂いがする」

 

***

 

大広間へ行くと、すでに朝食の用意が出来ている。

 

チルチャック「おお。期待に違わねえな」

センシ「至れり尽くせりだの」

ライオス「高級な宿に泊まったみたいだ」

 

さっそく堪能する一行。

 

ライオス「今朝は焼き魚か。これも美味い。昨日俺たちが作ったワイルドなのと比べれば手が込んでる」

センシ「焼き方が丁寧じゃ。身がよくほぐれる」

チルチャック「シジミ貝の吸い物か。珍しい」

マルシル「ねえねえ、焼き海苔をご飯に巻くと美味しいよ」

センシ「生卵がある」

イヅツミ「醤油を垂らして飯に混ぜろ」

センシ「…おぉ!これはなんと」

ライオス「全体的にあまり調理に手間を掛けず、食材の良さを引き出してる感じがする」

マルシル「同感。なんでも加工すればいいってものじゃないんだね。新鮮」

 

満足する一行。

 

***

 

装備を身につける一行。

 

ライオス「さて。土蜘蛛との再戦だが、何かアイデアはないかな。無策で奴にぶつかるのは避けたい」

チルチャック「だな。とはいえ、向こうは森での遭遇戦に特化してる。平地ならややこちらが有利かもしれないが、上から攻められたんじゃ打つ手がないぞ」

センシ「こちらの攻撃は届かぬ」

イヅツミ「すばしっこいし、ネバネバまで吐きやがる。特にあの糸。あれをなんとかしないと」

ライオス「せめて地面へ引きずり下ろせれば、五分五分なんだが…」

マルシル「…あの。それなんだけど、もしかしたら糸はなんとかなるかもしれない」

ライオス「魔法で?」

マルシル「ううん」

 

ネックレスにしている鈴を見せる。

 

マルシル「これ、庭で見つけたんだけど、この鈴なら糸を吐かせられないって」

チルチャック「なんで知ってんだ」

マルシル「昨日の夜、誰かが話してるの聞いたの。『鈴があれば糸を封じられる』って…」

チルチャック「で、誰が?」

マルシル「んん…それがわかんないんだよね…夢で聞いたような…」

チルチャック「要領得ねえな」

センシ「やはり住んでいる者がいたのか」

ライオス「それなら一言挨拶したいものだが」

イヅツミ「それはたぶん座敷わらしだ」

ライオス「ザシキ…」

マルシル「ワラシ?」

イヅツミ「子供の精霊だそうだ。そいつが家にいると、その家は栄えるんだと。本当かどうかは知らんけど。

でも、気配を感じさせずに来たんなら、座敷わらしの可能性が高い」

ライオス「忠告してくれたってことか」

マルシル「この鈴、貰っていいのかな?」

イヅツミ「マヨイガの中で見つけた物は欲張らなければ持っていってもいい決まりだ」

ライオス「夢で耳にした物がすぐ見つかるとは、偶然にしては出来過ぎだな」

イヅツミ「その鈴も飯もタダでくれたわけじゃない。龍神様にとっては土蜘蛛が邪魔なんだ。私らに退治しろとさ」

センシ「ならば遠慮はいらん」

 

***

 

玄関へ行くと、上がり框に竹の皮でくるんだ握り飯が人数分置いてある。

 

センシ「昼飯まで用意するとは…」

ライオス「うん。世話になった。(ブーツを履いて、家の奥を振り返る)ありがとう。おかげで命拾いした。土蜘蛛は必ず退治するから安心して欲しい」

チルチャック「約1名が大見得切ってるが、まあ、期待に添えるよう努力する」

センシ「重ね重ね感謝する」

マルシル「ありがとう。おいしかった。温泉も!」

イヅツミ「じゃあな」

 

玄関を出ると、昨夜閉じたはずの門が開いている。

 

ライオス「さて…ここを出たら目的地に着くぞ。気合を入れ直せ」

チルチャック「できれば、すんなり戻りたいぜ」

マルシル「ファリン、待っててね…」

 

門をくぐる一行。

 

***

 

くぐったとたん、天候が一変し、どんよりとした曇り空になっている。

 

ライオス「これが本来の天気なんだよな…」

センシ「マヨイガは天国、こちらは地獄、か」

 

チルチャック、門の前で望遠鏡を取り出し、彼方を眺める。

 

***

 

望遠鏡の丸い視界。

広大な森の中をあちこち見ていると、山頂付近で何かがキラリと光る。

チルチャック「む…!?」

 

***

 

チルチャック「ライオス。見てみろ(望遠鏡を手渡す)」

ライオス「…?なんだあれは」

チルチャック「俺の見るところ、あれは家の屋根だ」

ライオス「………なるほど。雲間から注ぐ光を反射しているのか」

チルチャック「あくまで推測だが、ジンジャってやつがそこなら、半日掛からないぜ」

ライオス「土蜘蛛を倒せれば、だが」

チルチャック「ああ」

 

ライオス「チルチャックがジンジャの居処を見つけた、と思う」

マルシル「ほんと?」

チルチャック「問題はそこまでの道で確実に土蜘蛛が襲ってくるってことだ」

センシ「(木を見上げ)ならば上からじゃな」

ライオス「とはいえ、ここの道のように、片側が崖で片側が森という地形では襲いにくいと思う。道は狭いし、一方は手掛かりのない崖だ。仮に崖へ取り付いたとしても、こちらの格好の的になってしまう。それは向こうも避けたいはずだ」

チルチャック「つまり襲ってくるなら、ある程度道幅があり、両側を森で囲まれた所ってことになる。そこなら奴は自由自在に動き回れ、糸で拘束すれば、俺たちはネギ背負った鴨だ」

ライオス「だから奴の裏を掻きたい」

マルシル「それなんだけど、考えたことがあって…」

 

***

 

深い森の中をひそやかに動く巨大な影。

土蜘蛛「ふ〜〜〜…ふ〜〜〜〜…」

紅い眼を光らせ、森の切れ間からライオスたちを監視している。

 

***

 

ライオス「…なるほど。マルシルの言うとおりなら可能性はある」

チルチャック「本当に効き目があればだがな」

マルシル「試す価値はあると思うの」

イヅツミ「誰が生け贄になるんだ?私は嫌だぞ」

センシ「その役目、わしが引き受けた」

チルチャック「いいのか?身軽な方が助かる確率は高いぞ」

センシ「その反対じゃ。鈍重な者ほどうってつけだろう。わしは足が遅い。動き回るより、その方がよい」

ライオス「うむ…誰が餌でも危険なことに変わりはない、か。センシの頑丈さに賭けよう。その作戦でいく」

 

歩き出す一行。

 

***

 

追う土蜘蛛。

 

***

 

山道を登ってゆく一行。

崖沿いの道を歩いている。

下に森があり、眼下が一望できる。

 

遠くに平野。

ほんの微かに線路の細い線が引かれているのが見える。

 

指を差して話し合う一行。

 

***

 

土蜘蛛は崖下の森にひそんでいる。

ライオスたちは、ここからではよく見えない。

土蜘蛛、イラッとした顔。

 

***

 

再び森の道。

 

ライオス「ここを抜ければ山頂までは森がない。丸見えだ」

マルシル「いよいよだね…」

 

「くくくく………」

 

頭上から妖しい声が降ってくる。

見上げると、6本の長大な腕を持った巨大な人間蜘蛛が樹冠の上に覆い被さって、影を投げ掛けている。

 

土蜘蛛「うまそうじゃのう、汝ら…どれから喰ってやろうか。そこの子供がいいか」

 

チルチャック「はあ!?俺は子供じゃねえ!妻もいるし、娘だって3人いる!」

土蜘蛛「…なに?」

チルチャック「だからぁ、俺は大人なんだって。ったく、どいつもこいつも子供扱いしやがって…外見でしか判断できないのか、マヌケ!」

土蜘蛛「なにぃ!?」

 

カッとなった土蜘蛛、2本の腕を振り上げると、同時に糸を指の先から吐く。

ビユッビュッ!!

あらかじめ予期していた一行、素早く避けて散る。

土蜘蛛「こしゃくな!」

 

センシ「た、助けてくれぇぇ」

ライオス「センシッ!?」

 

恐怖のあまり元来た道を駆け下りるセンシ。

 

ライオス「やめろセンシ、みんなから離れるな!」

 

センシ「嫌じゃあ、もう嫌じゃあああ!死にたくないぃぃ」

必死に走るも、それほど速くはない。

 

チルチャック「センシーっ」

みんなも後を追う。

 

土蜘蛛、すぐに体を翻し、トロそうな獲物に狙いを定める。

土蜘蛛「太った豚め」

ビュッ!ーーーーー

 

チリィィィィンンンン…!

 

伸びた糸がセンシに触れる直前、響いた鈴の音が糸をバラバラに散らす。

 

土蜘蛛「なっ!!?」

驚いた土蜘蛛、2弾、3弾と撃つが、ことごとく鈴の音に邪魔される。

土蜘蛛「怪しげな…!なんの術か」

言いながら、センシを追うのはやめない。

 

***

 

センシ「はぁ、はぁ、はぁ……!」

 

先の崖道まで逃げてくるセンシ。

 

土蜘蛛「待ちやぁあああ」

 

樹冠から飛び跳ねた土蜘蛛、山肌に取りつき凄い勢いで走る。そして先回りし、センシのすぐ目の前でズシン!と降りる。

 

センシ「ぐ…!(固まる)」

土蜘蛛「(蛇のように睨み)逃しはせぬぞ…」

再び腕を振るって糸を吐き出すも、チリィンという音に粉砕される。

怒りの雄叫びを上げる土蜘蛛、身構える。

センシ「マルシル!!」

 

マルシル「ーーーー油の海に沈めっっっ!!!」

 

ベチョッ!!

突如地面からオイルが湧き出、土蜘蛛の手を濡らす。

土蜘蛛「!?」

ヌルッと手が滑り、バチャ!と無様に転ぶ。

土蜘蛛「な、なんだぁ?」

よく見ると、土蜘蛛の周りに魔法陣が描かれていた。オイルはそこから溢れ出てくる。

土蜘蛛「ふざけおって(バチャッ!)、舐めるなっ(ベチャッ!)」

センシ「(冷静)踏ん張れぬか。哀れよのう」

土蜘蛛「我を笑うなああああ」

センシ「今まではお主が笑っておったのだろう」

土蜘蛛「このっ!」

 

ビュルルッ!

糸がセンシの胸元に付着する。

 

土蜘蛛「喰ってやるぅうう…」

 

ズルズルと引き寄せられるセンシ。が、少しも慌てず、

センシ「なるほど。だが、その前に…」

ポケットから火打ち石を取り出し、

 

ーーーーカチッ。

 

小さな火花がオイルまみれの糸でたちまち燃え上がり、その先まで走ってゆく。

目を裂けるように見開く土蜘蛛。

ゴゥ…!と強烈な火柱が上がり、象ほどもある巨体が松明と化す。

凄まじい悲鳴を上げ、のたうつ土蜘蛛。

 

ライオス「センシーーーっ」

駆けてくるみんな。

チルチャック「うまくいったぞ!ざまあだぜ!」

マルシル「もしかしたら引っ掛かるかもって思ったけど…」

イヅツミ「!気をつけろ、センシ!」

 

センシ「?」

みんなの方を振り向いていたセンシ、土蜘蛛の方を見た瞬間、

ーーーードゴォ!!!

センシ「ぐはっ」

黒い塊に体当たりされ、吹っ飛ばされる。

 

土蜘蛛「ぜぇ…ぜぇ…よくもぉぉ〜〜〜」

黒焦げになった土蜘蛛。その手は全て歪み、皮膚は爛れ、髪は短く燃え尽きている。煤だらけの黒い顔で睨みつける。

土蜘蛛「ぐぉおおっ」

大きく跳躍し、ライオスに体当たり。

ライオス「うぐっ!」

チルチャック「全然弱ってねえ!」

マルシル「でも動きは鈍ってる!…フリーズ!」

氷魔法を詠唱すると、杖の先から白い吹雪が飛び、土蜘蛛の腕を凍らせる。

が、固まった腕を砕いて、マルシルへ襲い掛かる。

土蜘蛛「貴様の入れ知恵かあああっ」

イヅツミ「ちいっ!」

手が閃き、放たれたクナイが土蜘蛛の右目に深々と刺さる。悲鳴を上げる土蜘蛛、ギリギリのところでマルシルを掠める。

マルシル「きゃあっ」

それでも地面をゴロゴロ転がるマルシル。

イヅツミ「くたばれ!」

跳躍し、土蜘蛛の顔を狙う。

土蜘蛛「!」

とっさに一番前の腕で庇い、クナイに刺される。が、見えない角度から別の腕が拳を振るう。

ドゴッ!!

腹を殴られたイヅツミ、ブッと血泡を吹き出し、転がり落ちる。

 

チルチャック「もうやめろぉ!」

弓を構えるが、そこへ糸が絡みつく。

チルチャック「…なに?」

土蜘蛛「はあ、はあ、糸が吐けぬとでも、思うたか…」

一本だけ無事な腕があった。

ブウンと振り回すと、手ごと絡まれたチルチャック、軽々と宙へ飛ばされ、地面へ叩きつける寸前、糸が耐えきれずブツ切れしたため、軽くバウンドして気絶する。

 

この場から逃げ出そうと這いずるライオス。

ライオス「くそっ…ここで死ぬわけには…」

その頭上に巨大な影が覆い被さる。

ライオス「…!」

土蜘蛛「逃げられると思うな」

焼け焦げた怪物がニタニタ笑って見下ろしている…

土蜘蛛「まず貴様から裂いて喰ってやろうぞ」

カッと口を開き、牙を覗かせる。

立てないライオス、蒼白になっている。

土蜘蛛「かああっ」

かぶりつく瞬間、ライオスが転がって仰向けになり、隠していた長剣を真っ直ぐ上に向ける。

 

グサッ!!!ーーーーーー

 

土蜘蛛「…がっ…!!!…ぉ……ぎぃ………!」

喉を貫かれ、土蜘蛛が目を見開く。

ライオス「悪いな。仲間を見捨てて逃げるように見えて。あんたも食う者ならわかるよな…俺たちが食い合う存在だってことを…!!」

さらに剣を突き立て、首の後ろまで刺す。

グルン、と目玉が裏返る土蜘蛛。

土蜘蛛「ひひ……くひひ…ぬしもバケモノか……」

ライオス、いったん剣を抜くと、よろめきながら立ち上がり、剣を振りかざして一太刀で土蜘蛛の首を斬り落とす。

ゴロン…と転がる巨大な頭部。

 

ライオス「…はっ、はっ、はっ……やっぱり…楽にはいかないもんだな…!」

センシ「うぅ…」

マルシル「い、痛ぃ…」

イヅツミ「ぐぅぅ…!」

チルチャック「…ってて…殺ったのか、ライオス…?」

ライオス「ああ…どうにか」

 

額をさすりながら立ち上がるチルチャック、辺りを見回す。

チルチャック「(ため息)満身創痍ってやつだな…」

ライオス「生き延びられただけでも拾い物だ。…マルシル、大丈夫か」

マルシル「(頭に手を当てて)うん…ちょっと頭打っちゃって。もう少ししたら回復魔法掛けるから…」

ライオス「無理をするな。応急手当なら俺とチルチャックでやるから」

マルシル「ごめん。もうちょっと待って…」

 

地面に座り、背中合わせで休憩を摂る一行。全員、怪我をした箇所に包帯を巻いている。

ライオス「危うく全滅するところだった…」

チルチャック「さすがに山の主が頼むだけのことはあるってか」

イヅツミ「もうバケモノ退治はごめんだぞ」

 

***

 

杖をつきながら歩く一行。

 

***

 

足を引きずりながら山頂近くへ登ってくる一行。

 

森から出ると視界が急に開け、岩だらけの山肌が広がっている。

 

ライオス「…………あった」

 

山頂へ続く道の途中に、真っ赤な鳥居と、その向こうに小さな建物へ石畳の道が続いている。

 

マルシル「あれが…ジンジャ?」

イヅツミ「ああ。間違いない」

 

鳥居をくぐり、石畳を歩き、本殿へ近づく。

典型的な神社の本殿。

…と、正面の扉が、ひとりでにギィ〜〜〜…と開く。

中はガランとした空き部屋だ。

一番奥に榊を挿した白い陶器の花瓶が置いてあるだけ。

 

顔を見合わせる一行。

決心したライオス、先に立って中へ入る。

後に続くみんな。

 

ブオン ……………………………………………………

 

***

 

地下の構内にいるライオスたち。

蛍光灯の光が降り注ぎ、白々しい明るさに満ちている。

ホームの向こうは剥き出しのコンクリートの壁。

両側に線路が走っている。

典型的な日本の地下鉄。

 

ライオス「 ……………………………………………………あれっ?」

 

『次はぁ〜〜、1番線、迷宮行きぃ、迷宮行きぃ〜〜〜。危険ですのでぇ、黄色い線までぇ、下がってぇ、お待ちぃ下さぃ〜〜〜』

 

プァ〜ン ……………………………………………………

 

呆然とする一行の前に、銀色の車列が滑り込み、停止すると一斉にドアを開ける。

無言で乗り込む一行。

細長い車内は向こうまで見通せるが、誰もいない。

長い座席に一列に座ると自動ドアが閉じ、静かに動き出す。

 

まだボ〜ッとした顔の一行。

 

チルチャック「…なあ。これって…現実だよな?」

マルシル「……さぁ……」

 

ガタンゴトン揺れる車内。

 

「お姉ちゃんたち、迷ったの?」

ふと見ると、いつのまにか向かいの席に少年が座っている。

現代の服装をした、ごく普通の少年だ。

マルシル「え…迷う…?」

「ここは迷子が乗る電車だよ」

マルシル「あなたも迷子なの」

「ううん。ぼくは行き先が決まってるから」

少年は小首を傾げ、

「…そうなんだね。あっちに呼ばれていたんだ。危なかったね」

イヅツミ「おい、ガキ。どういう意味だ」

「でも大丈夫。すぐに降りられるから」

 

シュ〜〜〜〜ッ…と電車が停止する。

ドアが開くと立ち上がり、

「…あ、そうだ。ライオンに気をつけてね」

ライオス「ライオン?」

「うん。喰われちゃダメだよ」

ニヤッと笑うと、ホームへ出る。

再びドアが閉まり、電車が走り出すが、少年はニヤニヤ笑いながら見送っている。

 

チルチャック「…なんだあいつ。気味悪いガキだな」

ライオス「気にするな。少し寝よう。色々疲れた」

チルチャック「だな。この妙ちきりんな箱がなんだろうと、正直どうでもいい」

マルシル「じゃ…おやすみ」

センシ「ぐぅ…」

イヅツミ「すぅ…」

 

寝落ちする一行。

 

***

 

マルシル「…はっ?」

 

ふと目覚めるマルシル。

太腿を枕に眠りこけているイヅツミがいる。

 

ガタン…ゴトン…

 

トロッコは地下へと降っている。

 

車内を見回すと、みんなうたた寝をしている。

 

マルシル(なんだっけ。何か言われたような気がするけど…まあいいや)

再び眠りに入るマルシル。

その首に鈴のネックレスが光る。

 

トロッコは走り続けるのであった………

 

 

 

 

<おわり>

 




きさらぎ駅という、わりと親和性の高い舞台で、好きなアニメのキャラクターを投入するというifのシリーズ物です。

料理は全然なので作中の描写は怪しいものですが、こんな感じかなと思っていただければ。
こうしてみるとライオスたちって違う環境への適応力が高いなと感じました。

*誤字報告ありがとうございます!修正しました。
何度も見返してるんですが、なぜ気づかない…(汗

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