エロゲーオブザデッド (仮) 作:にーと戦士
「昨日地震ヤバかったよな」
「それな。ウチ、緊急速報で目が覚めたし」
次の日。
俺は我が友人であるギャル女こと井上遥香。
通称八股の遥香(先日一人と別れて現在七股中)と一緒に登校していた。
昨日の催眠本?
母さんの事務所にシュレッダーがあるので、そこで処分して貰えることになった。
普通に捨てるだけだと誰かが拾ったりするかもしれないしな。
流石に細切れにされたら復元も出来まい。
焼却することも考えたが、ゴミ焼却所って地味に遠いし諦めた。
しかし、本の裁断作業で睡眠時間が削られたから眠いな。
ふわぁ、とあくびをして、口元に手を当てる。
すると、急に遥香は足を止めた。
「ーー何かエッチい気配がする」
何言ってんだボケ。
寝言は寝て言え。
……と、何も知らない昔の俺だったら言っていただろう。
実の所、遥香には特別な直感を持っている。
その名もエッチ・センサー。
彼女はエッチになりそうな雰囲気を全て察知出来てしまうのだ。
何馬鹿なことを大真面目に抜かしてるんだと思うだろう。
俺もそう思う。
世間一般には女の勘、という言葉がある。
日常の些細な変化から嘘や違和感を察知する鋭い直感力の事だ。
元々、高い共感力と感情察知力を持つ遥香。
それは数々の男達を相手取ることで磨きに磨かれてしまい。エッチな雰囲気・及びシチュエーションがあると即座に反応してしまうようになった。
アホかな? アホだわ(確信)
その的中率は脅威の100パーセント。
今迄に数々の露出・青姦・痴漢現場等を発見して来た。
まさに現代の異能と呼ぶべき能力。
こんな出歯亀みたいな能力持ってて恥ずかしくないの? ボケがよ。
発見しなくても良いパンドラの匣を開けようとすな。
ちなみに、この能力は俺のステータスの異能でも習得可能だったりする。
ただし、必要なポイントが花村の時間停止能力の約二倍ほどかかる。
取らせる気ある?
それだけのポイント使ってエッチなことが分かるだけって地雷も良いとこだよ。
だが、こんなエロゲーみたいな世界になった現状、若干欲しいと思ってしまうのが屈辱だ。
「ちょっと様子見していかない? ……なーんて」
「……行くぞ」
遥香の断られる前提のお誘い。
俺は盛大に顔を顰めて同行の意を示す。
「え、どしたん。今日ノリ良いじゃーん。何時もだったら『やめろ馬鹿』とか『ほっとけ』で済ますのに」
「まあ、たまにはな」
さっさと道案内しろ、と急かして有耶無耶にする。
先に言っておくが俺に出歯亀趣味なんてない。
むしろ遥香が興味本位でホイホイ行こうとしたら静止する方である。
では、何故えっちいものを態々見に行こうとするのか。
ーーもしかすると超能力関係かもしれない。
その疑念が、俺を着き動かしている。
ここ最近の間で、俺は催眠術と時間停止というエロゲーにありがちな超常要素に出くわしている。
ひょっとしたら、遥香が感じ取った案件もまた同様に、超常現象を引き起こす類であることを否定できない。
まー可能性は薄いと思うが見に行く価値はある。
「で、どこら辺で感じるんだ?」
「んー……あっちの路地裏の方、かな」
横方向にあった路地裏を指さした。
通路幅は狭く、人が横に二、三人並べるかどうかくらい。
人目の付かない薄暗い場所。
そこは絶好のエッチスポットである。
故に、これから先。
少年誌に見せられるような健全なイチャラブではなく。青年誌に載るようなR18展開が待っている可能性が大なのであった。
……やっぱりなんか行きたくないなあ。
「ほら、早くいこ」
「わ、分かってる!」
しかし吐いた唾は飲めない。
遥香に行くと言った手前、今更芋は引けない。
というわけで。
意を決して路地裏の方を覗き込んでみると。
ーー壁から女のケツが突き出ていた。
「壁尻だな」
「壁尻だね」
そう、見事なまでに女の壁尻があった。
昨日の地震の影響か。
それとも元からなのか。
ひび割れた壁の中にポツンと下半身が突き出ている。
いや、なんでさ。
壁からなんとか抜け出そうとしているらしく。
スカートから伸びる生っちろい白足をバタバタ、肉付きの良い尻をフリフリ動かしており、必死でもがく様を一望できる。
「あれ、ウチらの制服じゃん」
本当だ。
つまるところ、俺らの学校の生徒か。
壁尻とか現実に有り得なさ過ぎて、一瞬、うっかりAVの撮影現場に入り込んでしまったと思った。
じゃあ、ヤラセじゃなくてガチの壁尻か……。
いや、壁にハマってる訳だから壁尻にガチもヤラセもないが。
……なんで壁尻やってんだ?
尚、その間も暴れ続けている壁尻︎︎(♀)ちゃん。
がに股状態で壁に足をつけ、脚力で抜け出そうと奮闘している最中である。
「しゃーなし、助けちゃるか」
余りにもその様子が憐れに感じたのか。
遥香が腕捲りして近寄ろうとする。
「ちょっと待て」
遥香を腕で静止して呼び止める。
「なによ。困ってる人を見捨てる気?」
「……お前、鞄から何を取り出そうとしてる?」
遥香はニカッと、人好きがするような笑みを浮かべて言い放った。
「ローション」
鞄から取り出したるはラブローション。
言うなれば、男女でチョメチョメする際に塗りたくる愛液。
容器に折り目が付き、一目で使用済みと分かる劇物が彼女の手によってまろびだされた。
馬鹿!
なんてもん使おうとしてたんだ!
確かに潤滑油としては最適だろうけども!
「最近彼ピと使う機会があってね。また使うかと思って入れっぱなしにしてた。えーと、転ばぬ先の杖って奴? ウチってデキる女?」
わはは、と朗らかに笑い。
褒めて褒めて、とばかりにローションを見せびらかしてくる馬鹿女に対し呆れ返っていると。
「じゃ、はいこれ」
ポイッとローションを投げ渡された。
「これをどうしろと??」
「塗ってきな!」
グッと親指を立てられた。誰が塗るか。
その指へし折ってやろうか。
そんな風に戯れていると、新たな人影が現れた。
今の状態の俺達としては裏路地に入る直前の曲がり角。
そこら辺で会話していた。
新たな人影は俺達とは逆。つまり奥の方から現れた。
ローションを手に持った俺達。
壁尻状態の女性が一人。
この組み合わせは見られたら間違いなく誤解を招く。
遥香もそう思ったのか、さっと壁際に身を隠した。
いや身を隠す必要はねえんだよ。
ローションを仕舞えば問題ないだろ。
(おい、遥香。さっさとお前の鞄に仕舞え)
そう小声と共に容器を差し出すが。
彼女はニンマリと意地の悪そうな顔をして。
両手でバッテンマークを作った。
はーー??
元はと言えばお前の所有物だろうが!
ふざけんなよ。無理矢理鞄に入れてやる。
だがこんな時に限って悪戯心が働くのも、また遥香という女である。
鞄にローションを入れさせまいと身体全体を使ってガードする。
クソがー! 大人しくしろッ。
ああもう。抵抗するなって!
チッ。隠す時間がなくなる、だって?
どの口が言うか。……後で覚えてろよ。
不毛な争いを一時中断し、俺はこの場を引くことにした。
ポイ捨てするのもなんだし、緊急避難としてとりあえず俺の鞄に入れておくか……。
鞄のジッパーを開き、いざ中に放り込もうとして。ふと思いとどまる。
このローション、使用済みなんだよな。
ローションを使ってことは、当然性行為をするということで……。
つまり、これを使った際、遥香と男のチョメチョメした飛沫が付着しててもおかしくないワケで……。
そんな代物を、俺の鞄に入れ込む、と。
まじまじと折り目が入った容器を睨む。
俺の鞄にこんな物を入れたくない。
……俺も同様にさっと壁際に身を隠した。
お互いじっと壁際に身を寄せていると。
「うおっなんだこれ!」
男性の声が周囲に響いた。
心底ビビった様で、思わず言葉に出してしまった様だ。
そりゃあビビるよな。
生で壁尻とか俺も初めて見たもん。
人生で壁尻を見た人なんて殆どいないだろう。
というより居たら怖い。
そうこうして。
少しの時間待ってみても、先程の声の主は裏路地から出て来ず、数分が経過した。
遅いな……。救助活動でもしてるのか……?
……いや、違う。
この世界がエロゲーみたいになった状態で、男が壁尻なんて発見すればやることは一つだろ……!
裏路地を再び覗いてみると、そこには両手で尻を撫で回している脂ぎったオッサンの姿があった。
なんで俺は気付かなかったんだ。
こんなのエロ同人で良くある展開じゃないか。
ちょっとアクシデントがあったせいで、頭が回っていなかった。そんなのは言い訳だ。
自己保身に回ってしまった自分が情けない。
遥香はその様子を即座に録画していた様で、スマホのカメラを向けていた。
「おい、そこのオッサン」
俺は声をかけ、早朝堂々と性犯罪を犯している男性を呼び止めた。
オッサンはビクリと身体を震わせ、顔を両手で隠し逃げようとする。
「逃げてもいいけど、動画撮っちゃってるよぉ?」
遥香がスマホを向けて、脅しに入る。
男性の頭には一瞬で様々な考えが過ぎった事だろう。
逃げるか、観念するか。
はたまた暴力で黙らせるか。
女二人なら、自分でもイケるんじゃあないかと勘違いする奴がいても可笑しくないからな。
だがこちらにはステータスという異能がある。
鍛えたスキルの力により、一対一なら俺の方が質は上だ。
ファイティングポーズを取り、何時襲いかかれられても良いように身構える。
果たして彼が選んだ行動は。
彼は逃走することを諦め、地に額を伏せる事だった。
「す、すまん! 見逃してくれ!」
プルプルと肥満体の身体を震わせ、縮こまっている。
今逃げても、動画が広まれば自分なんていずれ特定されるとでも思ったのだろう。
家族、友人、職場。
それらを犠牲にしてまでして痴漢をしてしまった。
その代償は高く付いたな。
「わ、私に出来ることなら何でもする。だからどうか……!」
「うーん、今なんでもって言った?」
「あ、ああ。何でもする! ……だ、だけどお金なら、少々持ち合わせが……」
がばっと顔を上げ、怯えた表情で媚びを売るオッサン。
じゃあこうしよう。
「『壁尻女にしようとした事全て正直に言え』」
こっそりオッサンに素直になる催眠術を掛けた。
このシチュエーションならば、遥香も不自然に思うこともあるまい。
オッサンが壁尻(♀)ちゃんに少々のセクハラだけをするつもりだけだったなら……、まあ。学校の始業時間も迫っているし、見逃してやらんことも無い。
警察の取り調べも面倒臭いし。
だが、彼女が動けない事を良いことに最後の最後。
本番行為までシようとしていたならば、それは流石に見過ごせない。
大人しくお縄に付いて貰おう。
さあ、折角とっておきの催眠術まで掛けたんだ。
お前の薄汚い本性をさらけ出して貰おうか。
「彼女が困ってるようなので助けたかったんだ……」
地面に座り込みながら、訥々と胸の内を語り出す。
語り出した内容は俺が想像してた内容の真反対。
真摯に彼女を救助したいという気持ちに溢れていた。
「何故か壁にハマってる状態だったから、掴める部位が……その、臀部になってしまったのは申し訳なく思う」
裁きを待つ罪人のように、沈鬱な表情を浮かべる。
ああ、なんでこんな事に……と。
我が身の不運を呪うかのように陰気に満ち溢れ、落ち込む様子が見て取れる。
うん。
思っていたのと百八十度違ったんだが。
催眠術に掛かっている以上、どう足掻いてもこの男が喋っているのは真実でしかない。
つまり俺らが勘違いしてただけ……ってこと?
「じゃあなんで逃げようとしたんだ」
「最近、痴漢冤罪が流行ってると聞くし……いくら助ける為とはいえ、臀部を触ったのは事実だし……。スマホも向けられていたので、これをネタにカツアゲされるかと思ったんだ」
だから、お金の持ち合わせが無いと金銭事情を話しちゃって、と。オッサンは頭をかいて苦笑いをした。
まーうん。
確かに急に“オッサン”だなんて強めの言葉で呼び止められて。更には片方にバチバチのギャルなんていたら、そう思ってしまうのも無理はない。
はーなるほどなるほど。なるほどね?
「大変失礼致しました!」
頭を下げて謝罪する。
とどのつまり。俺が尻を撫で回しているように見えたのは視野が狭くなっていたからで。
この人は痴漢でもセクハラでもなんでもなく。
普通に尻を引っこ抜こうとしていた様だったと。
先入観って怖いね!
絵面だけで判断して本当に申し訳ありませんでした。
「いや、分かってくれれば良いんだ。大人しくレスキューを呼ばなかった私にも非がある」
おじさん……! 優しいおじさん……!
ペコペコと謙る俺に対し、彼は優しく気遣ってくれた。
いやあ。こんな状況じゃあ頭からレスキューの存在が抜けても仕方ないでしょ。
実際、ローションで助けようとしていた馬鹿もいる事だし。
チラリ、と遥香を流し見た。
「ギュン♡」
彼女は目がハートになっていた。
いやまてよ。
「ねえおじさん……この後暇? てかどこ住み? インスタやってる?」
「い、いや私はこの後仕事が……」
「そんな事言っていいのかなー」
完全におじさんに惚れ込んだ様で猛アタックを開始する遥香。
彼が断りを入れる素振りをした瞬間。
スマホをチラつかせ、オッサンが壁尻状態の女の尻を掴む動画を再生する。
「……暇です」
「じゃあ連絡先交換しよっか。先日、ウチ彼ピと別れちゃってフリーなの。慰めてくれる?」
そう言って、この場を去っていこうとする二人。
いや、お前は一人と別れても七股中だろ。
全然フリーじゃねえよ。
止めるタイミングを逃し、立ち尽くす俺。
そして、現場に残されたのはジタバタと未だに藻掻いている壁尻(♀)ちゃんと。
ローションを押し付けられたまま逃げられた俺だけだった。
井上遥香。本日八股目再突入。