誰かの推しを殺す話 作:no name
この世界はゲームの中の世界ではあるが、同時に今は現実の世界でもある。
そこをはき違えるような間違いは起こさないし、現実であることを前提としてコソコソと立ち回る事もまた重要。
私の名前はどうでもいい、この世界で重要なのは俺の作り出す光堕ち要因のキャラクター達、そして彼らを真っ当な道に導くための主人公たちだ。
私の目標や信念なんかもどうでもいい、適当にそれっぽいプロパガンダを掲げて悪のマッドサイエンティストっぽくふるまうことが出来ればそれでいいのだ。
ときに
今の私の身分は高校教師だ。
より正確に言うのなら、主人公たちの通う高校の教師で、かつ担任。
休み時間に仮眠と称して寝たふりをしながら、原作主人公君たちの会話を盗み聞きするのが最近の日課になっている。
それでは原作のストーリー進行を確認するためにも我が生徒たちの話を聞こうじゃないか。
「みんな、昨日の怪人……どう思った?」
そう話を切り出した男子生徒は
金髪にブラウンの瞳を持った実にアニメチックなイケメン君だ。
彼が異能一蓮譚の主人公で、彼の周囲にいる女子が最強ヒロイン達。
文字通り、全員の能力が各方面で最強の能力になっており、ゲームのストーリーで新たな使い方の開拓こそされるものの、自力は徹頭徹尾で変わらない。
それくらい強力な異能者達だ。
成長するのは主人公であるレオン君の異能のみ。
彼の異能は【
発動すると彼の両肩、前腕、胸部、太ももを覆う純白の鎧と、盾と剣が両手に出現する。
この異能の発動中は身体能力、自己治癒能力が上昇し、毒や酸なども無効化できるようになり、周囲の人間の傷も持続的に回復する。
主人公にしては基本性能がサポート寄りの能力になっている。
ただ、彼は”世界で二人目”の後天的な異能力者であり、まだ覚醒段階にないだけで異能が成長する可能性を秘めている。
ちなみに後天的異能力者の一例目はラスボス。
「知らねェよ、手前で倒しても手ごたえ無かったしなァ、また『ドミニオン』の仕業なんじゃねェのかァ?」
ぶっきらぼうに答えるのは赤髪金眼のヤンキー口調の少女、
椅子に体重を乗せて傾かせながら両足を机の上で組む様子は絵にかいたようなヤンキーという感じで、話しかけにくい風貌をしている。
最強ヒロイン筆頭にして、理不尽なほど強い異能を持った少女だ。
ちなみに『ドミニオン』というのは主人公勢力と敵対している悪の秘密結社さんだ。
人体改造で作り出した怪人使って世界征服とかしようとしてる、一昔のショッカーみたいなやつ。
ラスボスさんが大総統として君臨している。
そして、彼女の異能は【
発動することで、その身に”火山”を宿す。
何を言っているのかわからないと思うが、実際ゲーム内での設定や説明でもこうとしか書かれていない。
彼女の髪は燃えがる焔と同化し、歩くだけで地面が融点に達しドロドロになる。
熱量の極点の具現化、それが彼女の異能のすべてだ。
単純でありながら、それ故に恐ろしい。
成長の余地のない完成系の能力だが、応用の幅はかなりのものになるだろう。
本人がそれに気づくかは別として。
「単純ね、これだから熱血女は……冷静に状況判断もできないの?」
苦言を呈するように発言するのは黒髪碧眼の清楚そうな少女。
もう全身から委員長オーラがすごい、実際委員長だし前髪ぱっつんで眼鏡もあるぞ。
彼女は
如何にも文学少女という感じの外見をしており、流し目の碧眼は多くのオタクのハートを射止めてきた。
もちろんこの世界のモブ男子たちのハートもな。
告白した者は漏れなく撃沈しているのは言わずもがな。
「まぁまぁ、そう荒立てずに。レオンが困っているじゃないか」
苦笑いしつつ仲裁に入るのは
毛先になるにつれて黄緑色になる黒髪の男子生徒だ。
人の良さそうな笑みを浮かべる彼はこの学校でも随一の人気を誇る、いわゆる王子様ポジションのイケメンであり、おいそれと女子生徒に唾を付ける事こそしないものの、レオン君と共に行動し、そして距離がとても近い。
まぁ、それもそのはず、彼は恋する乙女、正体は男装した女性であり、本当は彼女なのだ。
学校には家庭の事情で男子生徒として通しており、これを知っているのは今のところ彼女の実家と……ラッキースケベで着替えを覗いてしまったレオン君だけだ。
ちなみに本名は
……あ、時系列的にまだレオン君は彼女の性別を知っていないかもしれない。
まぁいずれ知ることになるだろう、態度が違ってきたら真実を知っている元プレイヤーからしたらまるわかりになるだろうし、その時になったら係の仕事とかで一緒に行動させてやろう。
まさに愉悦。
他にも物語の途中で仲間となる悪の秘密組織からの光堕ちキャラクターで電気を操る娘がいるが、まだいないために説明は割愛するとしよう。
「と、とにかく!なんだか違和感があったんだ、そりゃぁ、三つの異能を持ってるって事も相当だけど……なにか、ドミニオンの物とは違う感じがして……」
レオン君はヒロインの気持ちに鈍感な分、主人公としてのサガなのか、こういった直感じみたものは正確に働いているようだな。
あの時の怪人【
もちろん私だ。
「そもそもォ、あれは三つの異能だったのかァ?それにしちゃァ火力が弱く感じたぜ?」
「あら、それはどういう意味かしら?」
「……どういう意味も何も、そのままの意味だ。あれは三つの異能を持っていたわけじゃなく、元々一つの異能に三つの能力があるってカンジなんじゃねェのかって意味だ。実際相手にしたのは手前なわけだしな、それくらいの感想は持ってもいいだろ」
随分と本質を突いた分析をするものだ、不良娘だが、キャラの設定資料集曰く地頭はいいらしいし、侮りがたいな。次の作戦では慎重に動いていくとしようか。
「おや、それは奇妙な話だね、根拠はあるのかい?」
「キザったらしい話し方やめろ廻、鳥肌が立つ。まァ、アタシの異能が強ェってのもあるが、明らかになんだ、まるで使い捨てみてェに単純な使い方しかしねぇし、そうなんじゃねェかって思っただけだ」
アイ君の推論は当たらずも遠からず……と言った所か。
【
大袈裟な名前の割に、能力を複数個搭載しようとした弊害として、三つの命の結合性双生児から身体を構成し、一つの命に一つの異能を宿し、それを一つの体で制御させようとした結果、脳のリソースが足りず知能も低く、野性的かつ破壊衝動を抑えられない……完全にカタログスペックが良いだけの雑魚だ。
雑魚ではあるが、まさに怪人という外見をしていて結構気に入っている。
後に作り出した異能生物のモデルにもなったしな。
―――キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
おっとチャイムが鳴った。
まったく……早く仕事が終わらないものか。
今日はようやく待ちに待った日―――つまり、本格的に横やりを入れるための、その準備ができる日だというのに。