誰かの推しを殺す話   作:no name

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第3話

―――数日後。

 

先述した通り、異能一連譚は『主人公が悪の組織に対して抵抗する話』がベースとなっているが、それだけでは話がワンパターンになってしまう。

そのために、主人公陣営は学園生活を謳歌する傍らで、日常的に頻発する異能犯罪に首を突っ込むことを話の起点としている事が多い。

大本のストーリーは『ドミニオン』が全ての原因であり、数々の異能犯罪も元を辿れば『ドミニオン』が関わっている事も多いため、ラスボスを倒すことでこの世の中はほんの少しだけ平和になる。

まぁ、当の主人公君たちは行き当たりばったりに、目の前の手の届く範囲の人を助けているだけなんだがな。

 

しかしだ。

今の世界ではほんのすこし状況が異なっている。

原因は―――私だ。

 

本来であれば、この世界には『ドミニオン』とその傘下のいくつかの犯罪組織しかなかったところを、私が『次の世界(Re:Generation)』なんていう秘密組織を作ってしまったために、『ドミニオン』が消えても怪人の生産工場そのものは残るようになった。

 

とはいえ、自分たちがいなくなる事なんて毛ほども考えていない、裏社会の覇権を牛耳っている『ドミニオン』からすれば、自分たちと同盟関係ではありつつも、決して傘下ではなく、命令に従わない組織である『次の世界(Re:Generation)(名義は別)』は、権利や技術を独占している目の上のたんこぶでもある。

そもそも『次の世界(Re:Generation)』は、私が趣味全開で楽しむだけの為に作った組織だから、別にどこに公開する必要もないのだけど。

 

今日は、プラスとマイナスの様子を見るために、ジーニアスが管理している養育施設の中に入る。

保育園や幼稚園のように、子供用のキャラクターが窓や床に貼ってあったり、無駄にカラフルな内装をしていたり―――なんてことはなく、内装は無く、ただ真っ白な床と天井、窓のない壁と明るい照明、家具には最低限の椅子と机、そして本棚とホワイトボードなどが置いてある空間になっている。

そんな部屋に入ると、ちょうど二つ置いてある椅子から勢いよく立ち上がり、赤髪の少女と青髪の少女がこちらに勢いよく抱き着いてきた。

 

「お父様なのだーーー!!」

「お父様、おかえりなさいなのです」

 

簡素な病人用の服を着た起伏の無い体型のこの二人こそ、ついこの前生まれたばかりのプラスとマイナスだ。生後数日とは思えない程に言葉を流暢に扱うその姿は、一見して14~15歳程度の少女に見える。

ちなみに赤髪の”なのだ”がプラスで、青髪の”なのです”がマイナスだ。

個性もあって何より。

 

「プラス、マイナス、ただいま。いい子にしていたかい?ジーニアスの言う事はちゃんと聞いていたか?」

「うん!プラスはね、今日はお注射頑張ったのだ!」

「マイナスは、異能を頑張って覚えたのです、褒めて欲しいのです」

 

素直で可愛い娘たちの頭を撫でながら、カメラ越しに部屋を観察してるであろうジーニアスに話しかける。

 

「ジーニアス、どうだ?この子たちの異能の熟達具合は」

『ん~、まぁまぁ、ですかねぇ、実戦投入にはもう数週間は調整が必要かもしれませんよぉ、相手にするにしても野生のヒグマくらいですかねぇ~』

「……逆に言えば、現時点でヒグマに勝てる程度には強いってことか?」

『まぁそうなんですけどねぇ?』

 

カメラ越しに話すジーニアスは少し不満げな様子だった。

あの子は完璧主義な所がある故に、性能を最大限引き出すまでに異能を扱えるようにならないと納得できない悪癖がある。悪癖とは言うが悪いと一概に言うこともできないのがまたタチが悪い。

……試してみるか。

 

「【想起創誕(ティアマット)】」

 

異能を発動すると、前に出した両手の平に泡のようなものが出来る。

小さな泡はだんだんと大きくなり、胎児のような肉の塊になっていく。

細胞の分裂は加速度的に早まっていき、10秒も経つ頃にはバスケットボール程度の大きさにまでなっていた。

 

『お父様ぁ?何をなさっているのでぇ?』

「いやなに、現時点でヒグマに勝てるのだろう?ならちょっと試してみたくてな、実際に」

『―――創って、いるのですかぁ?ヒグマをぉ?』

「いいや?”獅子の子落とし”ということわざがあるだろう?だから、今できることの少し先の難易度を用意しようと思ってな」

 

哺乳綱食肉目クマ科クマ属、ヒグマよりも体が大きく、その体毛は寒冷地に適し透明の管状となり、寒さを遮断し、黒い地肌は太陽光を適切に吸収し熱を体内にとどめ、陸上肉食獣の中では断トツの体格、体長を誇り、その噛みつきの力は800kgにもなる。

 

両手に収まらないサイズになったその肉塊は、急速に体毛が生え、鋭い牙と爪が生えそろっていく。

体長3m、体重700㎏、その生物の名は―――。

 

「ホッキョクグマだ」

 

泡が弾け「ドシン」と音を響かせて誕生したホッキョクグマは、目の前の柔らかく美味しそうな肉に目を向ける。せっかくだから出血大サービス、ホッキョクグマは2体用意してやろう。

今にも飛び掛かりそうなホッキョクグマに「待て」と指示し、プラスとマイナスに向き直る。

 

「お父様!クマさんなのだ!なんでクマさん出したのだ?」

「可愛いのです、飼っていいのです?」

 

檻にはいってる訳でもないホッキョクグマ(肉食獣)を前に可愛い感想を抱く2人に視線を合わせるようにしゃがみ込む。

 

「これはお父さんからの小テストだよ。プラス、マイナス、このクマさんを2人の力で殺すんだ」

「殺しちゃうのだ?」

「可哀そうなのです」

 

二人はどこか悲しそうな顔になるが、ここで一つの提案をする。

 

「確かにね、可哀そうだけど、殺せたらジーニアスがお菓子をくれるってさ」

『ちょっとお父様ぁ!?なにを勝手に―――』

「わー!お菓子くれるのだ!?お姉ちゃんけちんぼだから全然くれないから嬉しいのだ!なら殺すのだ!」

「うん、マイナスも頑張る。頑張って殺す」

 

……特に道徳関係の教育もしてこなかったため、この子たちは元々死生観が緩い。

”死んだら可哀そう”という認識はあるが、それは”動かないからつまらない”などの電池の切れたおもちゃに対する反応とそう大差がないのだ。

 

「最近ジーニアスに教えてもらった異能を使って、二人で頑張って殺すんだよ?」

「おっ菓子♪おっ菓子♪な~の~だ~♪」

「ふんすふんす!」

「だめだ聞いてねぇ……まぁいいか”よし”」

 

指示を出すとけたたましい咆哮を上げながら2体のホッキョクグマは二人の少女に殺到していった。

さてと、どうなるか……結果によっては主人公君たちへのエンカウントを早めるかな。

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