誰かの推しを殺す話   作:no name

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第5話

あの後、私自身はしばらく無視されていたものの、とはいえ原作にあるようで描写されていなかったシーンを目撃できただけでも満足だ。

 

強朗氏は事の経緯を氷室織姫へと伝えるらしく、現場から離れてガラケーを取り出しながら歩いて行った。

私はというと、仮にも異能研究の第一人者としての身分であるため、強朗氏の推測を含めた襲撃者(わたし)の目的や懸念点などを現場の責任者などと話し合ったあと、プラスマイナスの様子を見に行くことにした。

 

「おぉ~、お父様ぁ、おかえりなさ~いぃ」

「ほかえいあはい!」

「もぐもぐ」

 

結果だけを話せば、彼女らは難なく私の用意した課題(ホッキョクグマの抹殺)をこなし、リスのように菓子を頬張っていた。ジーニアスによれば異能出力も問題なく、むしろ”生物の殺害”という経験を経た事により自身の異能の弱点や反省点などを導き出し、それらを改善する姿勢まであるようだ。

 

「正直に言えばぁ、サンプルの採取のためにもぉ、もう少しここにいて欲しいくらいなのですがぁ、しかしながらぁ、既に実戦投入に足る実力を有しているのも確かですよぉ」

「サンプルというのは異能因子や可逆的な身体細胞の事だよな?」

「流石に不可逆な細胞を取るのはお父様に申し訳ないですのでねぇ、血液、脊髄液、唾液、膣分泌液、それと毛根と骨の一部、爪と異能によって生成される物質、汗と糞尿も少し程度でしょうかぁ」

 

……思ったより結構摂ってるな?

 

「不可逆でないものは大体摂りましたよぉ、折角いい被検体ぃ……じゃなかった、可愛い妹の体調を詳細に知るためにも必要な事なんですよぉ」

 

この子はプラスマイナスと違い、社会的な立場にいる関係上、倫理観は正常なものを持っているのだが、如何せん研究熱心過ぎる(マッドサイエンティストな)ので、倫理観を超越した所に研究やその成果を持ってくるが故に、意図的に倫理を無視することがよくある。

今のセリフもそうなのだが、プラスマイナスの二人の事を”可愛い妹”として正常に認識すると同時に、廃棄可能な戦闘用被検体としても扱うため、姉妹としての情よりも被検体としての研究物としての扱いを優先する事がある。

というか大半の場合仕事モードなので、普通の姉として接する機会の方が少ないかもしれない。

 

「そろそろ彼女らを実戦投入する、専用の戦闘服を見繕っておいてくれ」

「了解しましたぁ、お父様ぁ」

 

そう、物語に介入できる機会がもうすぐ訪れる。

私が狙っているのは、第三勢力が判明しても違和感のないタイミング、つまり一つの戦闘直後だ。そしてその目的の戦闘というのが、先ほど襲撃の予告をしたガブリエル・ファルコスと主人公陣営との初戦となる。

もちろんその結果はガブリエルの敗走という形で幕を閉じるのだが、その撤退を手伝う形での介入が望ましいだろう。

本来の物語、本筋のストーリーにはないはずの謎の襲撃者……くぅ~!本当は自分が出たいところだが、そこは鋼の心臓で我慢。娘たちの晴れ晴れしいデビューを見ようじゃないか。

 


 

少し時は進み、時刻は日暮れ時の5時。

健全な学生諸君である主人公の聖川獅子音(ひじりかわ れおん)を含む、焔ノ園恵(ひのその あい)氷室織姫(ひむろ おりひめ)の三人が下校していると、向かいの道を通せんぼするように黒いコートの一団がワラワラと集まっていく。

明らかな不審者の集団に対しレオンは足を止め、臨戦態勢に入る。

事前に話を聞いていた織姫はすぐに察知したのか、既に周囲の温度を下げ始めており、恵に関しては常に臨戦態勢のようなものなので、むしろふんぞり返って眉をひそめているだけだ。

 

「お前たちは誰だ!」

「レオン君、彼らはきっと昼間に話した……」

「ンなことどうでもいいぜ、どちらにせよ、駄々洩れの殺気垂れ流して道塞ぎやがって、手前に無関係です~ッてのは流石に無理があるだろ」

 

集団の中央が割れ、一人の長身の男性が出てくる。

男は自身を覆うコートを脱ぎ捨てると、攻撃的な犬歯を見せつつ笑う。

 

「流石にあの爺さんから話は通ってるみてェだな?なら話は早ェ、そのガキをこっちに渡せ。そうすりゃお前等には今後危害は加えないし、これ以上爺さん達に干渉することもしないと誓うぜ?」

「何を言おうと無駄です、彼は渡さないし、貴方方にはここで倒れてもらいます。何故彼を狙うのか、詳細は後日尋問で聞き出します」

「そうかい、まァいいや」

 

これ以上の問答は無駄と判断したのか、男の体がバキバキと音を立てながら隆起していく。

骨格構造が変わり、筋肉の配置が換わり、顎の形が、瞳孔の開き方が、耳の位置が変わり、数秒後には男は巨大な二足歩行の銀色の狼のような獣人へと姿を変えていた。

そして、それを皮切りに彼の後ろに控えていた多くの者達がコートを脱ぎ捨て、その正体である狼男の姿をあらわにする。

 

「抵抗するっていうならよ、力ずくに奪い去るしかねェよなァ!」

「やってみなさい!彼を渡しはしない!」

 

氷室織姫が胸の前で、神に祈るように手を組むと、周囲の温度が急激に下がる。

既に日が落ち、辺りが暗く気温が下がっている事もあるだろうが、明らかに彼女の周囲だけが氷点下にまで達する急激な温度変化を起こす。

室外なのにも関わらず、空気中の水分が急激に霜へと変化し、その霜が地面に触れると同時に剣山のように凍り付いていく。

 

「はぁ」と一息をつくと同時、地面にヒビのように走る氷の軌跡が彼女の体を這うように上っていき、それが頭の頂点に達すると肌の色まで血色を失い、髪は絹のような真っ白に染まり、生きた氷像のようになる。

神秘的な氷像の少女は薄いヴェールのような和服にも似た服を身に纏い、その鋭い双眸を狼男たちへと向ける。

 

大滅尽(ブリザード)

 

全ての時を止める滅尽の権化。

これが氷室織姫の持つ氷雪系最強の異能【大滅尽】だ。

彼女は祈る手を解き、宙に手を広げると、空気中の水分が掌の上で急激に氷結していき、1秒も経たないうちにその氷は透明な日本刀のような形となった。

 

「ひゅ~、これがあの有名な異能、氷雪系最上位の【大滅尽(ブリザード)】ってやつかい」

「そう……低体温を超えて氷像に成り果てたくなければ、降参を推奨するわ」

「ハハッ!するわけねぇだろ!」

 

言うが早いか、銀色の体毛を靡かせながら近付き爪を振るうと、その動きに合わせるようにして織姫は刀を振るいその攻撃をいなす。

 

「―――ラァ!!」

「ふっ―――」

 

そしていなしざまにガブリエルの胴体を斬りつけた。

戦闘に関しては慣れているようで、その姿は氷のようでいながら動きは流水が如く。

何かしらの剣術を習っているようだった。

 

「っ!?」

 

しかしガブリエルを斬りつけた時の感触は想像していたものとは違い、まるで金蔵同士が擦れるような「カキンッ」という音が鳴り響いた。

相対するガブリエルの胴には傷一つついておらず、振り返ると同時に、狼らしく頬の無い口でニヤリと笑う。

 

「どぉしたぁ?絶対零度の刃で傷つきもしないのは予想外かぁ?顔に書いてあるぜ?」

「くっ……」

 

ふら――っと織姫が体のバランスを崩す。

妙に熱い感覚を覚えて足元を見やると、脛が若干切りつけられていた。

先ほどの1合では確実に爪による攻撃をいなしたにも関わらずだ。

 

「傷つくどころか、自分が傷ついてる事に驚いてるみてぇだがぁ……まだまだこんなもんじゃねぇぞ、俺達の”狩り”はよ」

「ならアタシも混ぜやがれ!!!」

「あぁ―――もちろんだ!」

 

氷点下の織姫とは逆に、超高熱の恵が殺到し、超高温のパンチをガブリエルに繰り出すも、その動きも読んでいたガブリエルは真正面から拳を受け止める。

 

「そのままァ―――燃え尽きやがれェェェェ!!!」

 

身体から発せられている熱を急激に温度上昇させ、大きな火柱を上げる。

恵のいわゆる必殺技だ。

彼女は普段、周囲への影響を考慮し、身体の温度をさほど上げずに能力を発動しているのだが、肉弾戦によって敵対者に接近したその一瞬だけ温度を急上昇させることで、空気が味方へと熱を伝導させる直前の一瞬だけで即死級の攻撃を終了する。

一瞬にして最大火力の攻撃、それを至近距離で受けた敵対者はもれなく一瞬で灰に―――「なるとでも?」

 

火柱の中から赤熱した巨大な腕が伸び、恵の首を掴んで持ちあげた。

 

「がッ!!」

「知ってるぜぇ焔ノ園恵(ひのその あい)、安倍警護の火の玉娘(・・・・)。お前は周囲への影響を考慮しぃ、味方がいる状態での戦闘では、最大温度を摂氏2300度を上限に設定してる」

「て、手前ッ!!」

「調べてないとでも思ったのかぁ?氷雪系最強と炎熱系最強の異能力の特徴をよ、調べてねぇワケねぇだろうがぁ!」

 

火柱が無くなった場所にいたのは、体のかけらも炭化せず、燃えても溶けてもいない狼男。

銀色の体毛は変わらず風に靡き、熱によって若干赤熱化している。

その赤熱化した体毛を見て、思わず織姫が口を開く。

 

「―――ら、鬼人殺しの大狼(ライカンスロウプ)ッ!!」

「だぁい正解ぃ!!」

 

曰く―――獣人型怪人の最上位に位置する。

曰く―――対吸血鬼特攻の銀の体毛を持つ。

曰く―――その治癒力は不死に匹敵する。

 

狼男の頭領。

吸血鬼の天敵。

群れのリーダー。

銀色狼。

ジェヴォーダンの獣。

 

「それがこの俺、ガブリエル・ファルコスの怪人としての名さ」

 

知ってはいたけど序盤の中ボスで出ていい格じゃないよな、ガブリエル。

 

「……だけど、何故!鬼人殺しの大狼(ライカンスロウプ)なら尚の事、何故彼女の高熱の中で無事でいられたの!?銀の―――」

”銀の融点は960度”かぁ?それにもさっきと同じ言葉を返すぜ。”調べてねぇワケねぇだろうが”

「っ!」

「偉大なる大総統閣下が、怪人を改造せずにそのまま戦地に送り込むと思うかぁ?」

 

ガブリエルは、赤熱化から戻りつつある手を、恵に対し振りかぶりながら嗜虐的な笑みを浮かべる。

 

「いまの俺の体毛は銀じゃねぇ、”銀タングステン”だ」

 

非常に硬く、そして融点が金属のなかで最も高い希少金属『タングステン』を混ぜる事で、銀の融点と硬度の低さを克服した合金『銀タングステン』その融点は―――通常のタングステンと同じく摂氏3400度

2300度では惜しくも融点に届かず、耐熱性だけでなく、タングステン単体よりも耐衝撃性に優れるきわめて強力な金属である。

 

それを彼―――ガブリエルは、体毛として全身に幾重にも重ねて纏っている。強度、攻撃性、防御性は―――もはや言わずもがなというところだろう。

振りかぶった腕を、しかしそのまま下ろし、彼は恵も解放する。

 

「かはっ―――、はぁッ……はぁッ……手前ェ……なんのっ、つもりだッ!」

「狼ってのは群れで狩りをするもんだ、集団で獲物を狙い、必ず数と地形の有利を取る」

 

銀色の狼男は、余裕綽々と振り返り、語り始める。

 

「群れからはぐれた羊なんてのは狙い目の獲物でよ。陰に潜み、数で有利を取ってる中であるならば、その狩りは必ず成功する」

「なんの話をしてやがる!」

「個で狩る肉食獣なんかより、余程安定するし、群れ(かぞく)で協力するからこそ、次に繋ぐこともできる」

「だからなんの―――」

 

「お前らの相手は、”俺”じゃない」

 

アォォォォォォォォォ――――ッ

アォォォォォォォォォ――――ッ

アォォォォォォォォォ――――ッ

 

今までじっとしていた周囲の狼男たちが一斉に遠吠えをし、それと同時に彼らの体毛も銀色に変化していく。

それは死刑宣告にも等しい光景。

もし、彼らの体毛がただの銀色の毛ではないとしたら。

もし、その銀色が目の前の大狼と同じものだとしたら。

自分たちでは、きっと勝てない。

 

群れ(おれたち)だ。アンフェアなのはこの際許せよ」

 




名前:ガブリエル・ファルコス
性別:男/怪人(鬼人殺しの大狼(ライカンスロウプ))
年齢:24歳
異能:不明
異能詳細:不明
所属:ドミニオン
【詳細】
被造物階級大天使(アークエンジェルズ)第三位の地位を持つ中ボス。
異能とは関係なく後述する”怪人”としての身体能力で、異能に匹敵する回復力も持っており、手足が欠損しても数日あれば元通りに生えてくる。
基本的には間延びした口調で、一人称は俺、二人称はお前、口癖は「フェア」「アンフェア」口調自体は癖というだけであり、真面目に話すこともできる。
怪人としての種類は、吸血鬼の弱点をその身に宿した、対吸血鬼特攻の不死の狼男【鬼人殺しの大狼(ライカンスロウプ)】であり、その体毛はドミニオン内での改造により銀タングステンとなっている。
戦闘時には二足歩行の巨大な狼の姿に変身する。
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