誰かの推しを殺す話   作:no name

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第6話

「でぇ?”種”のガキは反応なしか?」

 

【挿絵表示】

 

足元で傷付き倒れ伏している2人の少女を後ろ目に、獣人形態へと戻ったガブリエルが問う。

視線の先に居るのはもちろん、残った1人である聖川獅子音(ひじりかわ れおん)

『異能一蓮譚』の主人公である彼は、元々正義感が強く、異能を持っていないプロローグの時点でも、異能犯罪に首を突っ込もうとする程度には衝動的な行動に出る性格だ。

 

しかし、今回のそれは状況が違った。

相手の目的は間違うはずもなく自分であり、そして自分を守るために2人の女の子が体を張って助けてくれ―――だが相手が悪く見事に敗北、自分が正義感に駆られ、戦闘に介入する暇もなく、その身には恐怖が刻まれてしまった。

 

ここで素直に怯えて降参するのなら、彼はこの物語の主人公を名乗れはしなかっただろう。

勇気とは、恐怖を克服する事や、正義感から衝動的に行動する事を言うのではない。

恐怖を自覚し、それでも尚立ち向かう事を言うのだ。

ガタガタと震える手足を抑え、彼は異能を発動し、鎧と剣を展開する。

 

その姿はまるで、絵物語に登場する勇者のようで、これからの希望を見出させてくれる。

 

このシーンは原作でも名シーンと名高いところで、第一作目は低予算で作られたものだったが、その予算の約9割をつぎ込んでフルアニメーションムービーとしてゲーム内で再生されるところだ。

この場面は中ボスであるガブリエル・ファルコスという、初めての幹部クラスとの戦闘であると同時に、主人公の覚醒を見せる場面でもあるわけだ。

 

戦闘技術もまだ拙いであろう獅子音君は剣を上段に構えて突撃する。

ガブリエルの率いる群れを蹴散らし、倒れ伏している2人の少女へと駆け付けた。

 

 

 

 


 

 

 

 

「で、ここからレオン君は二人の女の子を回復させて、なんやかんやでスゴイツヨイパワーであのガブリエル君を倒すわけだ。ここまでは分かるかい?プラス、マイナス」

「凄いのはどう考えてもお父様なのだ!なんで分かるのだ!?」

「豆粒みたいなのに……なんで見えてるのです?そういう異能なのです?」

 

―――のを、現場から遠く離れたビルの屋上から見物している者達がいた。

はい、私です。

正確には私とプラスマイナス姉妹の三人だな。

完全に見物客のそれだが、私だって原作のシーン見たいし。

とはいえ現場近くで見て認知されたり巻き込まれたら困るわけで……。

だからこそ、こうして長距離で見物しているのだ。

 

今は完全に陽が落ち切っていない夕暮れ時、双眼鏡を用いればギリギリこの距離からなら現場が見える。

なんせガブリエル率いる銀色狼男の集団はキラキラと光を反射してくれているし、そのおかげで素早い戦闘でも見失わずに済む。

そうこう話しているうちに、何やら主人公の纏っている鎧と剣が赤熱し始めた。

あれは間違いないな、例えこの場が現実であろうとも発動したとみていいだろう。

 

「異能じゃなくて双眼鏡ね、人数分あるから二人も覗きな、いまいいところだから」

「なにか、おにーちゃんの服が光ってるのだ!」

「プラスの髪みたいに真っ赤になっているのです」

「あれは一蓮技(いちれんぎ)と呼ばれる技―――というか現象(?)でね、【異能の種】を取り込み、異能に覚醒したレオン君のみが持つ特殊能力さ。自身は周囲にいる異能力者の異能と同等の能力を一時的に獲得し、そしてそのコピー元となった異能力者の異能出力を、一時的に爆発的に上昇させることができる」

「「……つまり、どういう事なのだ(なのです)?」」

 

「”ガブリエル君は負ける”って事」

 

今のタイミングは中ボスの登場と共に【一蓮技】のチュートリアルだ。

現在のコピー元は【大絶滅(ボルケーノ)】であり、その耐熱性、そして発火能力をレオン君は一時的に獲得している。

つまり、味方を気にして上限を設定していた【大絶滅】の火力を、本来のものに戻すことが出来るというわけだ。

これによって、銀タングステンの融点3400度を超える火力を、味方の被害を気にせずに出すことが出来るようになり、ガブリエル君はその火力の前に大やけどを―――と、そうだった。

 

「プラス、マイナス。そろそろ出番だ、ガブリエル君が撤退するタイミングで登場するんだよ、ほら行った行った」

「「はーいなのだ(なのです)」」

 

プラスは手元に黒曜石のように輝くナイフを出現させてマイナスに手渡し、マイナスも同じくナイフを出現させると、その上に乗りつつビルを飛び降りた。

双眼鏡を下ろして二人の様子をみると、マイナスは空中を―――どんな原理かナイフを足場に徐々に下降していき、プラスはマイナスの背中に引っ付くように自分の背中を合わせている。

 

「行ってきますなのだ~!」

「成果を持って帰るのです!」

「はーい、頑張ってね二人とも」

 

……まぁ、君たちはあそこで死ぬんだけどね。

もちろん甘ちゃんチョコラテ・イングレスな主人公(レオン)君があんな美少女たちを殺すなんてことはしないだろう、劇中でも怪人相手でさえ殺害をしない程度には、主人公君は甘々ちゃんちゃんだ。

そういう訳だから、あの子達にトドメを刺すのは私の役目になる。

 

「自分で産んだ命には、自分が責任を負わなきゃね」

 

私の手元にはスイッチがある。

……任〇堂じゃないよ?ボタンの事ね。

このボタンを押すことで、事前にあの子達の体内に仕込んである微生物に信号が送られ、心肺停止状態になる。

とはいえ、簡単にフッと意識を失うように死ぬわけじゃなくて、文字通り心肺停止、心臓と肺が麻痺するが故に、本当に死ぬような気分を味わう事になる。

まぁ死ぬんだけど。

 

つまり苦しんで死ぬって事。

 

ガブリエル君は余裕でホッキョクグマよりも強い。

そんで、そんなガブリエル君に主人公君達は勝った。

そんな彼らに、生まれたばかりのプラスマイナス姉妹が勝てると思うか?

私は思わないね、だからこそ死地に送り込むんだ。

 

「とはいえ、このゲームをプレイしている諸君のためにも、見せ場は見せてくれないと困る。二人とも、頑張ってね」

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