束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた 作:夢現図書館
某刻、某所。
この会議室には華美な装飾なぞ一切、必要無い。権力者や凝り固まり肥大化した自尊心が好む様な調度品や絵画、美術品。他にも凝った装飾品も須く不要。あるのは『事実』のみ。
ただ、白い壁、白い床。そして長机と椅子のみが存在する会議室。照明の類も不要と言う異様さからこの会議室に立ち入る者に対して不気味な印象を突き付ける事になるだろう。
「……それでは、始めよう」
落ち着いた声音が場を支配する。その声に惹き付けられる様に着席した者達……とは言え殆どが空間投影ウィンドウによる通信映像越しの参加ではあるが……一斉にその声の主へと意識を、視線を向ける。
声の主の全貌は窺い知る術は無い。照明が存在せず空間投影ウィンドウの淡い光だけではかの者の姿を照らすには及ばないが故に。
「先ずは……この映像を拝見して頂こう」
支配の声の一言と同時に壁際に大型の空間投影ウィンドウが展開される。そして再生された映像を一同が目の当たりにする。
映し出された映像。IS学園の上空で巨影と対峙する既存の認識とは異なる異形のISを纏った少年との戦闘ログであった。巨影を素手で掴み投げ捨て、または投げ捨てられ、致命傷を負ったにも関わらず斃れず果敢に立ち向かう姿が映し出されていた。
1番大きなインパクトと言えばやはりランドマークタワーを掴んで振り回すと言う常識外れの行動であろうか。普通の人間はそんな真似はしようと思っても出来やしない。
そして、映像は終了する。俯瞰的に考えれば色々な意味で異常極まりない光景と言えるだろうか。
『コレが
『いや、情報によれば彼は養子だ。実の息子ではない』
『ならば篠ノ之 束以外にも存在していたのか。天然の規格外と言うモノが……』
『審美眼に至る迄、規格外と言う事か』
『何処に眠っていたと言うのか』
『道化だな。我々の行為は』
『成功例が失敗例であった事の上乗りと言えよう』
次々と声が上がるが重なる事は無い。誰かの声が終わると同時に別の声が繋げられる。
途切れず間を置かずに繋がれる声はまるで詩を紡いでいるかの様であった。
『彼の機体は映像を見る限り既存のコンセプトと逸脱している』
『いや、それ以前に人体に掛かる圧力負荷が全く考慮されていない』
『映像を見た限りISスーツは愚か対Gスーツすらも着用していない』
『その条件下であの速度は人体の構造上、到底耐えられない』
『如何にISのシールドバリアや絶対防御、生体保護維持機能を持ってしても生存は不可能だ』
『音速を遥かに上回る加速により断熱圧縮で赤熱化の影響が見られる。至近距離であれば影響は無視出来まい』
考察が続いて行く。興味と呼ぶよりも驚嘆に近いだろうか。そして、『あり得ない』と言う認識に至る。
『パワーアシストを込みでもIS学園のランドマークタワーを持ち上げ剰え武器として振り回すなど……』
『不可能だ。どれほどの重量があると考えている?1tと言う次元では無い』
『他にも折れていると思われる腕を無理やり動かすなど……常軌を逸している』
『機体の特殊機能か?或いは』
其処である声が求める理想を口にする。
『天然の規格外の影響で、1世代の内に進化し発現した究極の人類なのやも知れぬ』
その言葉に声達は一瞬、
『かの篠ノ之 束は確かに天然の規格外たる存在。だが、対人能力に問題が生じている』
『いや、彼女が養子を迎えてから随分と丸くなったそうだ。……養子の子供に対してのみだが』
『1世代の内に進化したとでも言うのか……?』
『規格外の環境に身を置いた結果だとするならば、現実的に考えられる』
『いや、論理的にあり得ないだろう。どれほどの奇跡を重ねなければならぬか。それこそ、無茶と言うモノではないか?』
『あの機体のコンセプトに耐えられる様に遺伝子単位で破壊と再生が繰り返され、進化し続けた……‼︎ その速度は常軌を逸しているとでも言うのか……』
『だとするならばあの機体を扱えるのは恐らく彼のみだろう。他の者ではとても御し切れまい。全身の関節が引き千切られ無様な骸を晒そう』
収斂が繰り返される。自問自答、他問自答、自問他答を繰り返して情報を整理して行く。
『今からでも篠ノ之 束にコンタクトを取るのは如何だろうか?』
『期待は薄い。かの天才は子煩悩と化しており自分の子供に対して酷く溺愛している。話し合いの席に着くかどうか怪しい』
『そもそもかの篠ノ之 束が選んだ人間だ。話が通じる相手であると言う保証も無い』
『好戦的な印象もあるな』
『既存の常識が異なる相手となると、会話が成立し辛いと言う論文が存在する。……彼も充分、我々の常識から逸脱する存在だ。果たして会話が成り立つか』
『そもそもIS学園における彼のクラスの担任教師も非情な人間だと聞く。言動からして常に正気の沙汰では無いそうだ』
『しかも篠ノ之 束はその狂人を自らの子供の家庭教師に指名していると来た……。規格外の存在が考える事は常々、理解の範疇を超えている』
『常識的な範疇で相対するのは危険か』
『下手に篠ノ之 束を刺激するのも不味い。先の国際IS会議では愚か者共が篠ノ之 束の怒りを買っていた』
『今やISは世界の基盤となっている。屋台骨を抜かれた建物が如何なるかは火を見るよりも明らかと言えよう』
『経済にも大きな打撃を与える事になる。そうなれば我々にも多かれ少なかれ影響を及ぼす』
『篠ノ之 束からの声明を待つか?』
『今や彼女に世界に対して興味は持っていない』
『IS学園に子供を入学させたのも気紛れか或いは何かしらの目的が?』
『いや、その意図は無い筈だ。あるのならば既に行っている筈だ』
接触を提案する声。しかし、慎重な対応を提案する声が多数を示す中、会話と言う名の自問自答の車輪が回り続け——。
「……では、今回の会議は以上としよう」
最終的にその言葉と共に会議は終了となった。
「クラス別対抗トーナメントの延期……。ふむ、娘はちゃんとタスクを達成出来ているであろうか……彼の存在を目の当たりにしてから肉体面は成功であると考えていたが、肉体面でも劣るとなればもはや、精錬し直した方が良いかも知れないな」
その最後、空間投影ウィンドウの光が消えた中、会議室に残っていた声の主の言葉が暗闇の中で溶けて行った。
「ぶわっくしょんッ‼︎」
「若菜、風邪? アンタみたいな馬鹿でも風邪引くのね」
「そりゃ、如何言う意味だよ……。俺は馬鹿だと思われてんのか?」
「馬鹿でしょ。色んな意味で」
軌道エレベーター内で若菜は