束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた   作:夢現図書館

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自分語りは他所でやってくれ

 

 

 

『アリーナ内放送です。先程の特別試合にて織斑 一夏君の専用機の機体のエネルギー充填及び整備の為、トーナメント戦の予定を一部変更して開始致します』

 

 第1アリーナの廊下を歩く最中、アリーナの館内放送にてその様な放送が告知される。その後、第1回戦の予定の内容が放送で告げられた。

 具体的に言えば1回戦1試合目の1組VS8組の試合を最後に回して2試合目を1番目に回して順番に行う様である。

 

『そんな面倒な手間をするのならば初めから特別試合など捩じ込まねば良かろうに』

 

 大方、くだらん思惑が絡んでいたのだろうよ。考えても仕方あるまい。政府や委員会にはその立場で考えねばならない事があるモノだ。

 

 廊下を歩きながら8組の生徒達が集まる観客席を目指す。その道すがら前方から1人の男性が歩いて来るのが見えた。高級そうな背広。如何にも政府の人間だと分かる容姿であった。

 

「……。先程の試合、見させてもらった。実に見事であった」

 

 その人間は開口一番、そう告げる。能面を貼り付けた様な顔。若菜が見た事がある政府やその手の人間共が浮かべる様な気色悪い顔では無かった。

 

 何だ?コイツは。

 

 若菜がその人間を見た最初の感想がソレであった。閣下も人前に姿こそ現さないがユーモラスの富んだ人物である為に為人は分かる。だが、目の前の人間は『何も分からない』。

 

「流石は人類最高(レニユリオン)の息子。()の倅ではまるで相手にならないな」

 

「…………。織斑の父親か?」

 

 まるで似ていない。冗談にしては拙過ぎる。

 

「……形式上ではその1人だ。君と君の母君の存在により、計画は水泡に消えたがね」

 

『プロジェクト・モザイカ。究極の人類を人工的に創り出そうとした、人類進化計画……だが、我が母の誕生により頓挫した』

 

「……つまり? 俺に挨拶(・・)? 或いは喧嘩状?」

 

 剣呑な空気が漂う。だが、その人間は肩を竦める。その意図は無いと示すかの様に。

 

「とんでもない。私如きが君に敵うとでも? それこそ一瞬で細切れにされてしまうだろう。それについ先程、篠ノ之 束の隠し子……君の末妹によって、干渉しようとした者達は皆々、愉快な骸に変わった」

 

 何の話だ? ガイア、何か知らないか?

 

『……貴賓席は2つあるのだが、我が母と一緒にいたウィキッドに不埒な真似をして逆鱗に触れた結果……後は察しろ』

 

 虐殺された、と。あのおチビ姫の機嫌を損ねたか……見え見えの罠に引っ掛かるとか馬鹿じゃねえのか?

 兎も角、地球人から見ておチビ姫は母上の隠し子扱いで、俺達の1番下の妹に見えるらしい。

 まぁ、全員バラバラの養子だから似てねぇし……かく言う母上もおチビ姫を可愛がってるしそう見えても仕方ないか。

 

「ふん。アンタの織斑 一夏(ガキ)をボコってさぞ気分が悪いか?」

 

「いや、全く。篠ノ之 束の息子ならばご存知かも知れないが、我々は確かに究極の人類を求めた。そして今も目指している。当初は織斑 一夏(1001番)織斑 千冬(1000番)が理想の成功体と見做していた」

 

 その人間は語る。

 

「だが……1000番は肉体面では優秀でも頭脳面では想定の平均以下の知能を持たなかった。1001番は男性系での唯一の成功体だった。だが」

 

「そんな話、俺は全く興味は無いがね?急に現れて自分の理想語りされても意味不明だ。

 究極の人類? ハッ、何を持ってそう定義する? 何処の誰が究極と定義する?

 俺からすればそんなモノ、何処を探そうと答えは見つからないだろうがな」

 

 冷笑混じりに若菜はその人間の言葉を遮りそう告げた。究極の人類なぞ、そんなモノ幾ら定義しようが無駄な概念だ。完璧な概念が存在し得ないように究極など夢物語の枠組みを超える事は無い。

 

「……果たしてそうだろうか? 人類最高の頭脳を持つ天才。篠ノ之 束に比類する人間など存在しないだろう。かく言う君もだ」

 

「ほう?」

 

 その人間は続ける。その指摘は若菜へにも向いた。多少、興味が湧いた。自称織斑計画の関係者の評価に耳を傾ける。

 

「以前のIS学園上空での戦闘行為。確と拝見させてもらった。……あの様な戦闘行為に耐えられる人間は地球上探しても他に1人たりとも見つからないだろう。正に1世代での進化したとしか言い表しようが無い」

 

 何を語るかと思えばそんな程度の話か。いや、比較対象は目の前の人間の基準では未知の存在だ……そう評価するのも仕方ない。

 

「1世代の進化? 今度は進化論の定義か?」

 

 自分なぞ、中の上が精々だ。上には上が居るモノなのだ。寧ろこの程度では自惚れ過ぎる。

 

「言葉として定義するならばその言葉が適当だろう」

 

 カーカーカッカッ、カッカーカーカーカッ、カッカーカッカー。

 カーカーカッカッ、カッカーカーカーカッ、カッカーカッカー。

 

 その時、特徴的なリズムによる跫音(きょうおん)が聞こえて来た。若菜はそのリズムの正体を理解した。足音を使ったモールス信号。つまり『ふせろ』、だ。

 

「生憎だが、アンタの様な奴との会話は楽しくは無いようだ」

 

「ほう?……ッ‼︎」

 

 若菜のその言葉を告げた直後。

 能面の様な顔が見開かれた。その理由は若菜が突然、しゃがんだかと思えばその後方から複数の白い癇癪玉が飛来し廊下の床面に落ちた瞬間、軽快な破裂音と共に濃密な白い煙幕が放出され視界が真っ白な煙に覆われる。

 

「お迎えに参りましたっ‼︎」

 

 視界を覆い尽くす煙幕。その時、後ろに垂らしたフードを掴まれて一気に後方に引き寄せられる。

 

「悪い。寄り道したな」

 

 若菜の後ろ首を引いたのはニンジャガールこと白鳳 萌葱であった。彼女がばら撒いた煙幕を背後に若菜は振り向いて萌葱と並走する。

 

「なんの。吉祥寺殿が『おおかた、面倒な奴に絡まれる』と存じておりましたので数名、張り込んでいましたっ‼︎」

 

 廊下を走って曲がり角を曲がる。其処には燐芽が待っていた。

 

「白鳳さん、篠崎さん。此方です‼︎」

 

 彼女の立っている場所。その近くには天井からロープが垂れていた。ロープの先には通気口が見えた。どうやら通気口を通って移動して来たらしい。あと、通過し易いように身長が比較的低く小柄なメンバーで行動していた様である。

 

「金子殿‼︎ 篠崎殿、すぐに追手が来ます‼︎ お急ぎを‼︎」

 

「既に他のメンバーにも撤退を通達しました。すぐに合流出来るでしょう」

 

『……何かヘンな事を吹き込まれているんじゃ無かろうか?』

 

 淀みない動きの2人。ガイアは伽羅辺りが彼女達に変な事を吹き込んだのでは無いのかと訝しむ。

 

「ああ。ある意味、騒ぎを起こした以上は発生点に意識が向く。居合わせると面倒だから急ごう」

 

 だが、若菜は特に何も言わず2人の言動に合わせてロープを掴んで上へ登り通気口内へと入る。通気口は意外と大きくしゃがんで移動出来る程の高さと幅があった。

 その後を燐芽が登り、最後に萌葱がロープを掴んだまま上げて貰い通気口内へと入り蓋を閉じる。

 

「……あ、遅れながら先程の試合。お疲れ様でした」

 

「そう言うのは観客席に戻ってからな」

 

 通気口内を移動して行き、観客席の天井に位置する通気口の蓋を蹴り破って観客席内へと飛び降りて帰還した。その後に続く様に燐芽と萌葱の2人も飛び降りて華麗に着地し、身に纏っているメイド服についた埃を払う。

 

「よう。随分と派手にやって来たじゃねぇか?」

 

「随分と大人気ないやり方でしたね」

 

 紫苑と永世の2人が出迎えてくれた。

 通気口内を通過していた為に通気口から出て来る事は予想出来た為に驚きはしなかった。

 

「喧嘩を売られたから、アイツのやり方で黙らせただけさ」

 

 通気口内で着いた埃を払いつつ若菜は空いていた席へと座る。やはり前後左右にはメイド服を身に包んだ8組の生徒達で埋まっており付け入る隙は無い。

 

「……まさか若菜君に『零落白夜』を使われるなんて、思わなかっただろうね」

 

「青天の霹靂……。流石に面食らった事でしょう」

 

 隣に座っていたシノアがそう告げる。その時、一夏からすれば悪夢以外何物では無かったであろう。若菜達から見れば『零落白夜』は『零落白夜』。しかし、一夏からすれば『零落白夜』は神聖視している概念だった。

 

「つーか、奴のメンタル持つのか?」

 

 『零落白夜』で豪快にぶった斬られたのだ。本来、自分が、自分だけが使える()の単一仕様能力『零落白夜』が、まさか対戦相手の若菜に扱われて一刀両断で叩き込まれて敗北した。

 自分の能力で負かされたのだ、普通ならば精神を病んでいても不思議では無い。

 この観客席でも一夏の狼狽、そして咆哮が見えた。この後に黒糖との試合も控えている。

 

「さぁな? 心が圧し折れたかも知れないな」

 

「……あの鬼畜教師の織斑先生がそんな軟弱な態度を認めるとは思えないけれどね? あの程度で心が折れるようでは、ね」

 

 その時、伽羅が観客席へと戻って来た。そのタイミングでトーナメント戦の1回戦第1試合をお知らせするアリーナ内放送が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠くで放送の余韻の音が聞こえて来る。ただ、この寮棟には閑散としている。何故なら皆が皆、第1アリーナの方へと行っているからだ。

 

「…………」

 

 その寮部屋はカーテンが締め切られており時間帯は昼間だと言うのに室内は暗かった。その片隅に置かれたベッドの上で1人の少女が布団を被って俯いて座っていた。

 

 存在を否定された。

 必死になって追いかけた。

 現実を突き付けられた。

 生きる理由を奪われた。

 故に、夢が破れた。

 

 コレが彼女、更識 簪の半生を語る上で最も的確な表現だろう。

 

 

 

 

 

 

「惨めな姿ね」

 

 

 

 

 

「……ッ‼︎」

 

 唐突にその言葉を突きつけられ簪は顔を上げた。聞き馴染んだ声。今は自分以外に誰も居ない筈の寮部屋。視界の先に見知らぬ人物が立っていた。長い黒髪を靡かせており、特徴的な着物を羽織った女性だ。だが、声は聞き馴染んだ声だった。

 

「幻、覚……?」

 

「無能で良かった」

 

「ッッ‼︎⁉︎」

 

 その言葉は簪にとって地雷に等しい言葉であった。心理的なストレスにより知覚出来るレベルとなって現れた目の前の女性の幻覚は幻聴を伴っている。簪はそう認識した。

 

「あの織斑一夏には感謝しなきゃ行けないわ。無能が力を得たが最後、その末路は悲惨だから」

 

「〜〜ッ‼︎」

 

 女性は告げる。傷心の心に対して一切の容赦が無い言葉を。

 

 

 

 

 

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