束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた 作:夢現図書館
赫い光が一際強く煌めき、収束されその全容が露わになろうとしたその瞬間と、一夏が零落白夜の皓き煌めきを纏った雪片弐型を振り下ろすのは同刻であった。
「……なっ⁉︎」
鋼を打つ音が響き渡る。一夏は眼前に現れたソレを見て目を見開いた。
「なんだ、コレ……⁉︎」
女性の顔を模した金属質の頭部に鋼鉄の籠。
それはかの有名な『鉄の処女』と呼ばれる拷問処刑器具であった。先程の金属質の高音は、その鉄の処女に雪片弐型を打ち付けた際に生じた音であった。
黒糖の纏っていた『打鉄』がその鉄の処女に変貌を遂げている。その異様な変化に眼前の一夏のみならず管制塔の千冬や生存している来賓も訝しむ。
『コレがあの打鉄の二次移行の姿なのか?』
と。機体の変容としては明らかに異質過ぎる。アリーナの空中で静かに佇む鉄の処女。
常識的に考えればその鋼鉄の籠の中に久里が収まっていると考えられる。だが、鉄の処女は実在が疑われているとは言え処刑を前提とした拷問器具。内側には無数の棘があり生存は絶望的である。
「流石に……効いていないよな……?」
一夏も流石に金属の塊相手に雪片弐型を振るう気は無く久里の動向を窺いつつ一旦、距離を取った。
『…ッ゛‼︎』
その時、鉄の処女がガタガタと震え出す。その外殻に亀裂が走り鉄の処女の砕け散り、真の威容が露わとなった。
鉄の処女の外殻の一部が砕け、左右の扉部分は翼状へと歪な音を立てながら変形して行き、後ろ側の部分はアーマースカート状へと変貌を遂げて行く。
その姿はまるで鉄の処女を無理矢理、装甲や機体として身に纏っているような姿であった。
鉄の処女の頭部も砕け散りその裏側にあった久里の顔も露わとなるも、先程までに見た彼女とは思えない表情を浮かべていた。もはや別人かと思われる程に。その目も血走ってるのか赫く染まっており、とても正気には見えない。
そして、その手には量子変換にて顕現した巨大な二重構造の大鎌が現れてその棘だらけの柄を出血を厭わずに掴む。
「苦゛じみの底゛に沈むが良゛いですよ……‼︎」
いがらじみた声で久里は大鎌を片手で振るい構え直して一夏に宣告する。
「……ッッ‼︎⁉︎」
一夏は彼女からとてつもない
声もそうだがその身に纏う雰囲気が先程の彼女とは似ても似つかない程に別人と化している。まるで何かに乗っ取られたかの様な変貌振りである。
「楽゛に死゛ねると、思゛わな゛い事゛だッ゛よ……‼︎」
先制したのは久里であった。久里の纏う機体もそうだが口調の変貌振りに緊張して初動が遅れた。
「ッ‼︎⁉︎」
振るわれる大鎌。一切の躊躇いを見せない鋭利な刃を彼女は何の躊躇も無く一夏の首筋目掛けて斬撃を見舞う。一夏は間一髪の所で躱す。
完全に
「何だ何だ⁉︎ 雰囲気変わり過ぎだろ⁉︎」
一夏は振るわれる大鎌を大きく躱しながら何とか攻撃のチャンスを窺う。大振りではあるのだが振るう速度が早過ぎる。同じ剣ならば兎も角、大鎌と斬り結べれる気がしなかった。
「ッ‼︎」
大鎌が震え蠕くかの様に振動する。その刃が徐々に赤熱化し赫く染まって行く。触れたモノを溶断するが如き赫く嗤う。
超振動の刃、それは触れるモノを刻み抉り斬る。余り知られていない事実だがISのシールドバリアはドリルやチェーンソーと言った、高速で削る行為には弱いと言う弱点がある。単発の衝撃と比較すると猛烈な勢いでシールドバリアは削れてしまう。
「正気゛にも゛どしてや゛り゛ますよ゛ッ……‼︎」
久里は一旦、距離を取ったかと思えば錐揉み回転しながら大鎌を振るい真っ赤なエネルギーで形成された巨大な斬撃波を放つ。
「くっ‼︎」
迫り来る斬撃波に対して一夏は零落白夜で斬り裂いた。零落白夜はエネルギーを中和し消滅させる。それがエネルギー性質であれば零落白夜に斬れぬモノは存在しない。
「楽゛にざぜる゛もの゛がァ゛ア゛‼︎‼︎」
雪片弐型を振り切った瞬間、血走った目の久里が振るう大鎌が一夏の首を刈り取ろうとその刃が眼前に迫っていた。その刃が一夏の眼球に突き刺さろうとした直前。喧しいまでのブザー音がアリーナ全体にまで響き渡った。
『試合終了‼︎ 8組の反則行為により1組の勝利‼︎ 両者共にピットへ戻るように‼︎』
「「…………」」
唐突に響き渡る放送。一夏の盲点にまで迫った大鎌の鋒は其処で停止していた。その放送が終わると同時に久里は大鎌を下げる。
「……興醒めですね」
大鎌を下げると同時に久里の纏う鉄の処女を模した機体は光の量子と化して元の打鉄の姿へと戻る。その姿に戻ると同時に先程まで感じていた圧力も霧散し、口調も戻っていた。
「……皆を守ると言いながら、貴方は守られていますね。
久里は一夏に対してそう言い残してピットへと戻って行った。
久里がピットに戻るなり待ち伏せていた千冬に胸倉を掴まれて近くの壁に叩き付けられた。
「貴様……‼︎ どう言うつもりだ……‼︎」
「……何の話です?」
千冬の顔は憤怒の形相を浮かべている。まぁ、心当たりが無い訳では無いのだが敢えて惚けてみる。
「惚けるな……‼︎ 三度に渡る頭部への攻撃……‼︎ 然もアレは確実に殺すつもりだっただろうが⁉︎」
最初は横顎に向けての瞬時加速を乗せた回し蹴り。恐らく歯茎が損傷して歯が折れている。2回目は首を刈り取るつもりで大鎌を振るい、3回目は相手が失明させ其の儘、脳を貫く勢いで振るわれた。
誰がどう見ても殺害するつもりの攻撃と受け止められても可笑しくは無かった。
「……シールドバリアと絶対防御があるから無問題では?」
シールドバリアと絶対防御の恩恵によりISは絶対無敵にして最強の名を欲しいままにして来た。『ISを身に纏っている限り無敗である』、女性権利団体やISを信奉する連中は常々、そう高らかにそう謳う。
「操縦者保護機能も万能では無い……。だが、先程の行為の数々は看過出来ん‼︎ 万が一の事が起きたら如何するつもりだ⁉︎」
久里の胸倉を掴みながら凄む千冬。
並の人間が相対すれば怯み、畏縮してしまう所なのだが、だが、久里は動じない。痛痒すら感じなかった。
コレが天瓦 伽羅であればどうだろう?
あの人はこんな分かり易い凄みなぞ見せない。何時もの微笑みを浮かべているだけだろう。
寧ろ、其方の方が何倍も恐ろしく感じてしまう。度重なる授業や訓練の賜物か? いやいや、それは関係ないだろう。
ただ、微笑みを浮かべている。それだけで場を制圧してしまう、柔らかな凄みがあの人にはあった。
「……ISを纏うと言う事は
そんな思いを胸の内に仕舞いながら久里はそう答えた。
後悔しない選択を選ばなければならない。躊躇った場合、後悔するのは自分である。相手を殺さなければならない時が必ず訪れる。
「……。それを、試合で行おうとするな、馬鹿者めが‼︎」
その返答が気に入らなかったのか千冬は吠える。試合だと言うのに久里は『殺し合う』つもりで得物を振るっていた。思えば試合中、一夏の急所ばかり狙っており実戦であれば其の儘、殺害して居ても可笑しくは無かった。
「貴様の様な奴にISを乗せるだなんて危険過ぎる……‼︎」
千冬は8組代表の黒糖 久里は危険過ぎると判断した。理由は3度に渡る対戦相手(一夏)に対する致命傷に該当する攻撃を行なった事。
故に彼女を即日から懲罰房送りにする事を決めたのだった。
今後もイベント等の試合が行われる。彼女の様な人間がISに乗っては他の生徒達に実害が及ぶ……そう判断したのだ。
久里が搭乗していた機体も調査に回すとの事。若菜の時も機体が二次移行した事を加味して徹底的に調査が必要であると判断したのだった。
「……興醒め甚だしいわね。若菜、皆に伝えてちょうだい。予定変更、『定期考査』は中止。コレから……行うのはただの——」
「八つ当たりよ」