束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた   作:夢現図書館

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三十六計逃げるに如かず、って奴だ

 

 

 

 

『八つ当たりよ』

 

 

 伽羅から唐突に告げられた『定期考査』の中止を伝える連絡。恐らく先程の第4試合の『判定』に不服を抱いたのだろう。

 突然の試合終了を告げられて観客席の面々も困惑している様子が見られた。

 母上も『ははぁ、ちーちゃん。余り束さんを失望させないで欲しいな?』と言い残してウィキッドを背中にしがみつかせて退場してしまった。興が削がれたのだろう。

 

「伽羅さん。ならば勝手(・・)にして良いですね?」

 

『ええ、好きにしなさい。もし遭遇したら好きにして構わないわ。どうせ使い捨てだから』

 

 伽羅は短くそう答えた後、通信が切れた。そのタイミングで燐芽を始めとした8組の面々が此方に視線を向けて居た。誰もが『臨戦』の状態であった。

 

「……『定期考査』は中止だとさ」

 

「やっぱり、何か企んでやがったか。で? それで終わるんじゃねぇんだろ?」

 

 紫苑がそう獰猛な笑みを浮かべて若菜にそう訊ねる。まぁ、感極まった連中だ。定期考査が中止……な、だけである。

 

「ああ。今から伽羅さんの八つ当たり(・・・・・)が始まるんだよ」

 

「八つ当たり、ですかぁ?」

 

「天瓦先生の八つ当たり……考えただけでゾッとしますね。具体的には何が起きるのですか?」

 

「……。それ以前に篠崎さんはその『定期考査』の内容をご存知なのでしょう?」

 

 永世がそう訊ねてくる。まぁ、伽羅と位置関係が近い為にそう推察を浮かべるのは至極、自然だろう。

 

「正確な内容は分からんが……コレまでの情報からある程度、予測は出来た。

 本来であれば『定期考査』の『試験内容』が君達に対して殺すつもり襲って来る算段だったのだろう。早い話がどっちかが絶滅するまでの殺し合いだな」

 

 若菜はあっさりと伽羅が用意した定期考査の試験(さつりくしゃ)と8組の面々を殺し合わせるつもりだったと明かす。

 姫舞とレーキュ、ケーニヒスベルクのヤバい連中に加えてウィキッドの『赫絲』が加われば軽く戦争が起こる。酷過ぎるマッチポンプによる『テロリズム』が‼︎

 

「何だ、そんな簡単な内容だったのか?」

 

「定期考査と言うからにはコレまでの訓練の実力発揮の機会……実に残念です」

 

「……何れ迫る刻……。その確認の為の考査。自分の実力を測る機会が潰れてしまったのですね」

 

「勿体ぶっておったのに内容はエライシンプルやなぁ……」

 

 殺し合えと言われて居たのに8組の面々の反応はかなり淡白だった。いや感性ぶっ壊れてんだろ、君ら。あ、元からか……。

 

「……ふむふむ。つまり天瓦先生殿の言う八つ当たりと言うのは、IS学園側に『試験内容』をぶつけると言う事ですかっ⁉︎」

 

「恐らくな。学園、教員、生徒、来賓問わず全てが攻撃対象になるだろう」

 

 IS学園の防衛力は専用機持ちに依存している。それは前回のOVTシステムの一件で露見している。伽羅及び姫舞プロデュースの『定期考査』にIS学園が何処まで耐えられるか……。

 

「……つーか、ウチらが相手する筈だった『試験内容』がアホ丸出しの連中が敵うんか?」

 

「殺す覚悟も無い連中だ。ボコボコ通り越して蹂躙されて終いじゃねぇのか?」

 

 8組の生徒達ならばのみならず、他のクラスの連中が『試験内容』に遭遇した場合、勝ち目があるのかと疑問符が浮かぶ。

 

「俺達が知るか、そんな事。と言う訳でさっさと第1アリーナから逃げるとしようか。

 此処に居たら、あの横暴大好きシグルドリーヴァ殿から無茶振りを振ってくるぜ? 何の見返りも寄越さない癖に義務は果たせとか吐かしてな」

 

 若菜のその言葉に面々は同意した。『定期考査』が中止になり『評価』が生まれない以上、留まる必要は無いし、付き合う義理も無い。

 若菜達は第1アリーナの観客席から外周の廊下へと一斉に出た。代表者が反則と言う名目で負けになった以上、此の儘見ても仕方ないと言う大義名分による自主退場する。

 メイド服を身に包んだ少女達が一斉に移動する光景はかなり異様に見える。

 

「それよりも黒糖さんは?」

 

「伽羅さんによるとシグルドリーヴァ殿にボコられた挙句に懲罰房にぶち込まれたとの事だ。余程、試合運びが気に入らなかったらしい」

 

 対戦相手は織斑 千冬の実弟。『皆を守る』とか吐かしておきながら随分とフォローされているな。『零落白夜』を纏っている雪片弐型も日本刀でありシールドバリアを消滅させて斬った場合、当り所が悪くなくとも大怪我を負わす事が出来る。それは許されて良いのか?

 

「え、依怙贔屓が過ぎるよぉ……」

 

「天瓦先生の八つ当たり中、懲罰房も無事で済む保証は無いのでは⁉︎」

 

「……無いだろうな。黒糖は俺が引っ張りだして来るさ。シノア、万が一の場合の皆の指揮を任せて良いだろうか?」

 

 若菜は懲罰房送りとなった黒糖を引っ張り出す役を引き受けた。その最中、伽羅の『八つ当たり』が開始され巻き添えを喰らう可能性も否定出来ない為、状況の指揮をシノアに頼む。

 

「うん、分かりました。若菜君、そっちも気を付けて」

 

「ああ。何処で落ち合う?」

 

「……IS学園のモノレール駅の反対側の海岸線で如何でしょう?」

 

 フィウが合流する場所としてその地点を提案する。普通に考えればその地点では()以外の脱出経路は無い。

 伽羅が企てた『試験内容』からして、正直に言えば悪手にも思える。だが——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ。気を、失っていた見たいっスね」

 

 黒糖 久里は痛覚が蘇ると同時に目を覚ました。

 

「痛ッ……。あの教師、割と本気で殴って来ましたね……。よっぽどな琴線に触れた見たいだ」

 

 久里は織斑 千冬に試合中『織斑 一夏の殺害未遂』を咎められ、試合中止の上に反則負けを通告された挙句、制裁と言う名の暴行を受けた。

 胴体の方は若菜謹製のボディースーツ型のISスーツのお陰で多少の衝撃は何とも無かったが問題は顔だった。思いっきり殴られ視界も多少、滲んでいるし口の中も血の味がした。

 その後、殴られまくって気を失っている間に後ろ手に手錠で拘束された状態で懲罰房に放り込まれ今に至っていた。

 伽羅の方が対応はマシだと思うのは気の所為じゃないだろう。

 

「……うーん、後ろ手に拘束されてちゃどうしようも無いっスね。今度、天瓦さんに捕虜にされた時や拘束された時の縄抜けの講義を検討して貰うように言った方が良いっスね……」

 

 久里は呑気にそう考えてしまった。教師に暴行された挙句、拘束されて何も無い懲罰房にぶち込まれると言う境遇だと言うのに……。

 一先ず、今後もこの様な状況に陥る可能性も否定出来ない為に伽羅にそう進言してみようと頭の片隅に入れておいた。

 

「幸い、足は自由なのは良いんスけど……手が使えない以上は、状況は変わらないっスね」

 

 手首に嵌った金属の冷たさは指先まで覆うISスーツに阻まれて僅かにしか感じないが、それでも質量と重みは感じ取れた。

 試しに引っ張ってみて引き千切ろうと試みるも連結部の鎖は自らの膂力で破断出来る程、柔な造りでは無かった。ただカシャンカシャンと言う虚しい音が響くだけであった。

 

「そもそも期間が分からないのは不便スね。……まさか無期限って訳じゃあ無いですよね?」

 

 そう考えると退学処分よりも性質が悪いかも知れないとつい考えてしまう。いや、あの暴力教師だと充分、考えられる。オマケにブラコン見たいだし……。

 

 その時、懲罰房の扉がくの字状に圧し折れて蝶番が破砕され眼前を横切る形で吹き飛び懲罰房内の壁に激突し、壁に減り込む形で突き刺さった。

 

「……ッ⁉︎」

 

 余りにも突然過ぎる光景に久里は思わず驚き硬直した。視界の先に見えたのは今、正に頑丈な懲罰房の扉を力尽くで蹴り飛ばした若菜の姿であった。

 

「よう。黒糖。迎えに来たぞ」

 

「し、篠崎さん⁉︎ 如何して分かったんですか?」

 

「その辺の話は後だ。何つーか……ウ=ス異本みたいな展開にしか見えねーな」

 

 若菜は久里の今の姿を見て冗談っぽくそう言い放つ。血を流した上で密封されたボディスーツ姿の上に後ろ手で拘束され、独房に放り込まれていてはそう見えても可笑しくは無かった。

 

「……襲うなら今がチャンスですよ?」

 

 冗談を言われた為に冗談で返した。若菜は取り合わなかったが、視線を逸らした為に若干意識はしている様だ。

 何と言うかこう言う反応を示す人じゃないと考えていたがそれは間違いの様だ。天才の息子だと言うが彼も人の子だった。

 

「取り敢えず、先に行かせたシノア達と合流するぞ。立てそうか?」

 

「……そう、見えますかね? 言っちゃあアレですが……無抵抗状態で結構、ボコボコに殴られちゃいましてね」

 

 顔もかなり殴られており痣が残っている。腕も使えない上に歩くのは愚か立ち上がるのも億劫な程に疲弊している。

 

「……………。応急処置の道具は持ち合わせていなくてな。後でシノアに診てもらおう。それから変な所触ったら悪い、先に謝っておく」

 

 久里のその返答に若菜は一言謝ってから、両足の膝と腰付近に腕を伸ばして俗に言うお姫様抱っこで久里を担ぎ上げる。

 

「あ、あはは。俗に言うお姫様抱っこって奴ですかね……。よもや体験する日が来ようとは……」

 

 今の久里はボディスーツ型のISスーツ姿なのでスーツ越しではあるが密着している構図となる。

 

「今はコレが最善だ。不快かも知れんが我慢してくれ」

 

「嫌とは言ってはいませんよ? ただ、何と言うか昔に見た漫画の紙切れに描かれていた囚われのお姫様を助けに来た勇者ってワンシーンを思い出しますよ」

 

「勇者とか正義の味方ってガラじゃねぇーんだけどな」

 

 若菜は正義の味方(ヒーロー)と言う存在はガラじゃないと考えている。

 

「どっちかと言えば黒幕とか魔王様って雰囲気ですね、篠崎さんは」

 

 久里は悪戯っぽく若菜に対してそう評価する。確かに8組では参謀役でクラス代表の久里の裏で画策する黒幕と言う立場だ。

 

「……勝手に言ってろ。で、お喋りは此処までだ。さっさと脱出するぞ」

 

「脱出? 私が気を失っている間に何が起こったと言うんです?」

 

 懲罰房が並ぶ廊下を歩き始め、そして走り出した若菜に対して抱き抱えられた久里がそう訊ねる。脱出と言う言葉は学園内では穏やかとは言えない。

 

「簡潔に言えばこの世界が養成した最強のテロリストの群勢がIS学園に強襲して来たって話だよ」

 

 眼前の扉を蹴り飛ばして強引に突破して地下区画を踏破し先行させたシノア達と合流するべく若菜は移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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