束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた 作:夢現図書館
懲罰房のある区域を抜けて地下区画の通路を移動中の若菜。久里をお姫様抱っこした状態で突っ切る。近未来的な金属質の通路であり普段は余り使われて居ないのか埃や汚れの類は見受けられない無機質な清潔さが保たれている。
「地下区画は一般公開されていない上にセキリュティの観点から地上階と繋がる場所は限られている……」
『……状況的に『試験内容』とかち合う可能性が高いな』
蹴散らしても評点も何もメリットは無い……いや、あるわ。時間は有限だから……黒糖に対するレクチャーのヤラレ役となって貰おう。
『…………伽羅も大概だが、我が息子も大概、ヒデー性格をしているよな』
ガイアが脳内でジト目を浮かべている。伽羅の教え子なのだから酷い性格になるのは必然と言えただろう。
地下区画の通路を走って移動する最中、地上への最短ルートを選んで移動し曲がり角を曲がる。
曲がり角を曲がった視界の先には異様な光景が広がって居た。年齢は10代〜20代と思わしき少年から青年と思わしき男性達が殺意を持った状態で徘徊している光景だった。その服装も学生らしい制服か私服と思わしき服装だった。
ただ、その手に携えているのはバットや鉄パイプと言った簡単なモノから有刺鉄線を巻き付けただけの鉄の棒、釘を打ち付けた木刀と言った殺意が高いお手製凶器と言いより取り見取りであった。
「……篠崎さん。アレは……?少なくとも部外者、ですね」
「皆まで言うな。アレこそが本来の『試験内容』だろう」
久里の質問に若菜は簡潔にそう答える。IS学園に来襲して来た襲撃者達。身なりからしてとてもテロリストには見えないが……。皆、思い思いの得物を手にしている。
「どんな背景があるのかは知らないが……所謂『無敵の人』だと言うのは目を見れば分かる」
「『無敵の人』、ですか。死を恐れず、ただ暴力を振り撒くだけが目的の人達……。成程、私達の『命を奪う覚悟が本当にあるか』を測るには打ってつけですね」
久里も少ない情報で『定期考査』の内容を察した。恐らく本来の想定では『無敵の人』と化した者達を伽羅は何らかの形で扇動してIS学園へ嗾けて8組の面々に迎撃させる算段だったのだろう。あの人ならそれくらいの事を画策しても驚きはしなかった。
世は『女尊男卑』……ISや女性に怨みを募らせた結果『無敵化』した人間は数多く、少し『道』を用意してやれば自ずと辿り着く。
かく言う久里も身近に感じていた社会現象。彼らがどう言う目的で此処に現れたのかも察した。
『無敵の人』は物理的に沈黙させるしか手段が無い上に自分の身すら躊躇しない、正に死兵。
文字通り生きる意味も社会的地位も無い死に物狂いで襲って来る為、油断や躊躇した者から死に絶える。
この程度の死戦を潜り抜ける事が出来なければ宇宙に出ても生きられないと言うメッセージを感じた。
「理解が早くて助かる」
おチビ姫の体内で生成される『赫絲』は制御下、或いは傀儡にする。その光景は宛ら狂気に染まった人形劇かと見紛う光景だ。
その『赫絲』を欲した姫姉や
恐らく『赫絲』を加工してある程度制御可能な状態で寄生させ、思想誘導をしてIS学園に呼び寄せたって所だろうな。どうやってバラまいたのか……。
兎も角、真相はどうでも良いがそうでもなければアレだけの数の無敵人間が一同に会する事も無いだろう。
それに『無敵の人』は自分の命を考慮しないし……その境遇を考えると殺してあげた方が本人にとって幸福だろうな。
「……取り敢えず回り道している余裕は無い。此の儘、強行突破するぞ」
考察は中断して若菜はそう決断する。どの道、地上階へと向かうにはこの通路を通過しなければならない。敵意が無いと説明しても何も信ずる事が出来なくなった『無敵の人』に対して言葉は通じはしないだろう。
「……あの篠崎さん。幾ら何でも両腕で私を担いでいる状態であの数を相手するのは無茶では無いですか?」
目測だけでも20人以上。如何に若菜と言えど久里を抱き抱えたまま、あの殺意全開の無敵人間の群を無理矢理踏破するのは無謀だと言えた。
「……丁度良い機会だ。『随意展開』の応用をレクチャーしてやる。今は目で見て理解しろ」
危険な状況だからこそ、訓練よりも実戦で学ぶ方が良い。何故なら、その方が強烈かつ鮮烈に理解出来るからだ。
現実に対応する取扱説明書なぞ存在しない。……何?あのイカれ少女達の取扱説明書が欲しい?そんなモノが存在するのならば俺が1番欲しいわ‼︎
「例え腕が捥げようが脚が砕けようが、戦いと言うのは終わらない。終わってはくれない」
相手を殲滅するか、自分達が全滅するまで終わらないのが戦闘である。それが生命に課せられた『生きる』事に対して支払う対価である。
「女の癖に、守られてんじゃねぇよ……都合が悪くなりゃ寄生するってか……?」
「イヒヒ、女、女……‼︎ 許すモノか……‼︎ 僕を貶めた罪は重いぞ……‼︎」
「……ああ、夢にまで見た。俺はこの時を待って居た……‼︎ あの女の頭を砕けば……俺は救われる……‼︎」
「神よ……‼︎ 醜悪な女共を捧げます……だから、俺を救えよ……‼︎ 救ってくれよ‼︎」
「何故だ……何故、お前は……正気で居られる⁉︎ 狂ってる、狂っているぞ⁉︎ 何がそうさせた⁉︎」
「ああ、そうか。そうなんだよな……。可哀想に……今、正気に戻してやるからなァ……‼︎」
「良いよな。お前は人生楽しそうで……俺の事なんか路傍の石ころだと思ってんだろ⁉︎ なぁ⁉︎」
「……何故だ。何故……何がダメだった?俺が男だったからか? いいや、間違っているのはこの世界だ……‼︎」
若菜と久里の姿を認めた無敵人間達。
その誰もが
もはやホラー映画のワンシーンを彷彿させる光景だ。誰も彼もが正気とは思えず会話が成立するとは思えない。
『我が息子よ……終わりのない悪夢を見続けているようだ。この現実が悪夢を育んだ……流石のボクも見ていられないぞ……‼︎』
ああ、分かっている。夢は必ず醒めるモノだ。永遠に続く悪夢など存在しない。
「黒糖。見ていろよ?」
「はい、見ておきます」
若菜はそう告げると同時に随意展開でハニカム状のシールドバリアの『壁』を展開する。だが、従来で展開される形状とは異なっていた。
まず形状が細く、そして薄い。さながら剣を模している様だ。
それらが、複数本。顕現されて若菜の傍に宙に浮く形で控える。まるで剣を持つ不可視の従者が王の傍に控えている光景を彷彿させた。
「……攻撃は最大の防御と言う。ならば防御は最大の攻撃にもなり得る。矛盾ではあるがな」
随意展開は任意の空間座標に量子変換して展開させる事が出来る。だが、それは固定された位置に展開させるとは限らない。空間把握能力、及び常に計算し続ける並列思考が求められるが、随意展開させたシールドバリアを
簡単に言えば……シールドバリアを武装の様に振り回す事も不可能では無いと言う事だ。
『来るぞ、我が息子‼︎』
最初はゆっくりとした足取りではあったが、徐々に歩きから駆け足、そして殴り掛かるかの様な足取りで迫ってきた。
バットを持った少年がいの一番にバットを振り上げるが、振り下ろされる前に一振り目の『剣』が袈裟斬りに振るわれ、その胴体が斜めに切断される。
人間の皮膚と言うのは例え紙であっても切り裂かれる。薄い面として展開されたシールドバリアの端でも理論上、人間を斬り裂く事は可能である。
一拍遅れ上半身がズレて滑落した。残された下半身の断面図から大量の血飛沫が噴き上がるも、無敵化した人間達は怯みはしなかった。失うモノを喪った彼らは自らの命すらも顧みる事は無い。
「……死にたい奴から掛かって来るが良い。生命とは常々、不平等であり不公平だ。なればこそ、俺が等しく……終焉を手向けてやる」
2振り目の『剣』が振るわれる。その一閃に2、3人の無敵人間の首が刎ねられたのだった。何の感慨も無く、ただただ首を断ち切られ死んだ。
「それが、それだけが……俺が君らにしてやれる最大の賛辞だ。本当に此処までよく生きたな。……掛かって来い。1人残らず、引導を渡してやる」
殺してやる事もまた情けである。それが若菜の持論であった。
伽羅の悪巧みに巻き添えを受けたとは言え……此処まで来た。仮に巻き添えを喰らわずとも悲惨な末路を辿っていたかも知れないし、そんな未来は考察、推察の域を出ない。
終わりなき悪夢の中、死にたくとも死にきれないのならば、此処で終の刃を振るおう。
無理矢理、生かして偽りの希望を与える事はより残酷な行為だ。なればこそ……安息を与えよう。
「見ろ、聞け、感じろ。生きると言う事は死した者達の灰を拭い進む事だ。そして、それが俺達が進む道でありその末路だ」
若菜は久里にそう告げると同時に3振り目と4振り目の『剣』を振るい後続して来た無敵人間の胴体を縦に割断した。