束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた   作:夢現図書館

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地獄で私達は生きていくんです

 

 

 

 

 若菜と別れて合流地点へと向けて一足先に向かうシノア達、8組の面々。

 

「……改めて体感しますと、末恐ろしい限りですね」

 

「ああ。普通ならば気付く筈(・・・・)なのにな……覚えるに値する」

 

 第1アリーナを出て其の儘、真っ直ぐ目的地の海岸線へと向けて移動している。

 

 悲鳴が聞こえる。

 嗚咽が聞こえる。

 咆哮も聞こえた。

 怒号も聞こえた。

 死体が囁いている。

 破壊音が響き渡る。

 倒壊する音が轟く。

 煙が立ち込めて行く。

 炎が舞い上がって行く。

 

 IS学園は今、未来も現在も(なげう)った無敵の人間達が襲来し右も左も地獄絵図と化していた。彼らは自分以外の者を感知すれば形振り構わず襲い掛かり殺害して回っている。

 

 例え返り討ちに遭おうと構わない。何故なら、彼らは未来すら焼き尽くされた……どの様な末路を辿ろうと考慮しないのだ。正に『敵』となる者を無くした者達。己の命すらも勘定に求めない者達ほど恐ろしい存在は居ない。

 指揮権を委ねられたシノアは

 

『戦闘を極力回避‼︎ 克己した数の暴力の前では、幾ら何でも無謀です‼︎』

 

 と、即断した。クラス代表の久里も参謀役の若菜も不在の今、指揮権を持つのはシノアの判断に異論は無かった。

 本来であれば『定期試験』の『試験内容』として8組に襲い掛かってくる想定であった。躊躇や迷いを『赫絲』により強引に克己された正真正銘の『無敵の人』が大挙として襲い掛かる。

 

『強いからと言って勝つわけでも、弱いからと言って負けるわけでもない』

 

 若菜は実技訓練時に8組の面々にそうレクチャーした事がある。現実の戦いでは単に戦闘力の数値で決まるとは限らない。圧倒的弱者が強者に牙を剥き討ち破る事は古今東西、幾らでも起こってきた。

 射撃訓練や実技訓練を受けて思い上がった8組の面々に対する強烈なカウンターであった。

 『出来る』と慢心した瞬間、死ぬのは己である。

 

 流石、伽羅。やる事が凄まじくエゲツない。 思い上がっているであろう8組に対して容赦ない無謀な試験である。

 

 

 道すがら運悪く遭遇して無惨な骸へと転生を果たした死体を幾つも見かけた。

 損壊具合は著しく、誰が誰だか識別不能なレベルだった。女尊男卑と言うモノがどれ程までに恨まれていたのか、推し量るのが面倒に思えた。

 

 そんな現実に創り出された地獄の中をメイド服と言う場違い感かつ巫山戯た格好で悪目立ちする事この上ない集団が一斉に移動している。

 だが、メイド服と言う重装備の服装であるにも関わらず誰1人として移動する際の()が鳴らない。風すらも起こっていない。音も風も起こらないと言う事は気配(・・)も感じ取る事が出来ない事を意味していた。

 

「アレ程狂っとったら、注意力は散漫とならぁな。気配を消しとったら、気付からへんわ」

 

 理由はただ1つ。この歩行術を体得していた名刀 淡姫が8組の面々に伝授したに他ならない。

 生き残る為、強くなる為にその技術、教養、能力の獲得には貪欲であらねばならない。

 出来ない者から詰んだ末に死に絶える。それが8組と言う狂室である。

 現実にリセットも無ければロードも存在しないのだ。

 

 出来ない者は死んだ。現にその場で体得する事が出来なかった3人が道中で多数の無敵人間に感知され其の儘、戦闘に突入。最終的に数の暴力に押されて死亡した。恐らくその死体は識別不能なレベルにまで破壊され尽くされた事だろう。

 

 幾ら『特別試験』を、授業や実技訓練を潜り抜けようとも死ぬ時は死ぬのである。

 

『現場の途中で誰かが死んだとしても悼むのは止めなさい。必ずその行為が自身に牙を剥く事になるわ』

 

 8組の面々は伽羅からの薫陶(ぼうげん)を受けている為に、誰が死のうとも意識しない。それが若菜や久里が死んだとしても考慮(・・)しない。単純に死んだ事実だけ覚えておく。

 自分達はそう言う『世界』を生きているのだ。

 

「……水流さんは⁉︎ まだ整備室ですか⁉︎」

 

 音を立てずに先頭を行くシノアがそう言う。この場に居るのが全員では無い。あ、3人脱落したのだった。

 

「一報は入れましたっ‼︎ 返信があり、指定座標へ向かうとの事ですッ‼︎」

 

 この場に居ない者は若菜と久里、そして水流 蜜羽の3人である。若菜は恐らく無敵人間と遭遇してもぶった斬って進むだろうし、蜜羽は『歩行術』の事は知らないだろうが、恐らく大丈夫だろう。……死んだら死んだで仕方ないが。

 

「……なら、私達も指定ポイントへ向かいましょう。若菜君も黒糖さんを連れて向かっている筈です」

 

「で、でも……其処からどうするのぉ……?」

 

「問題ありません。既に手を打っておきましたので」

 

「確か篠崎さん達は自宅から漁船通学との事でしたが……」

 

 蕨の質問にフィウが即答した。反対側、千葉県側の海岸線。其処には若菜達、伽羅が自宅からの通学手段として漁船が停泊している。しかし、燐芽が一抹の不安要素を抱く。

 

「俺ら全員が乗れるのか?漁船と言っても其処まで大型じゃないだろ?」

 

 総勢20人+1人。流石に漁船に乗り込むにしても定員オーバー気味と言える。

 

「あ、成程。でも……良いのかな?」

 

 フィウの『一手』にシノアは心当たりが付いた。しかし、それは見せて良いのか疑問に思うがお母様こと束が判断したのならば良いのかも知れない。深くは突っ込まない事にした。

 

「……あ! 若菜君から連絡だ‼︎」

 

「……おい、露骨に喜んでるぞ」

 

「目が完全に恋する乙女ですね……」

 

 メッセージの着信に気付いたシノアが速やかにウィンドウを開いた。その後ろで8組の面々はやや呆れた目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェルメリオ

 『シノア、今何処だ?』

 

アリス

 『今現在、第4アリーナ近くだよ。若菜君の状況は?』

 

ヴェルメリオ

 『黒糖の救助に成功した。で、例の『試験内容』の無敵人間をシバきつつ強行突破を敢行中』

 

アリス

 『若菜君の中じゃ、それは殺処分って意味だよね。それで?』

 

ヴェルメリオ

 『黒糖がシグルドリーヴァ殿にボコボコにされた影響で負傷している。幸い命に別状は無いが……落ち着いた後で診てやってくれ』

 

アリス

 『経緯が分からないなぁ。取り敢えず、航宙艦で診てあげます』

 

ヴェルメリオ

 『ああ、流石に目の前で死なれるのは困るからな』

 

アリス

 『……こっちは3人、死亡したよ。残念だけど、力及ばなかった』

 

ヴェルメリオ

 『…………。そうか。黒糖にも伝えておく』

 

アリス

 『それで、合流出来そう?』

 

ヴェルメリオ

 『問題ない。シノア達は其の儘、合流地点へ向かってくれ。直に俺達も合流出来る』

 

アリス

 『分かりました。あ、また腕とか脚とか折らないでよ? 幾ら防腐処理があるとは言えど無茶は厳禁だよ?』

 

ヴェルメリオ

 『其処まで無茶する様な相手じゃないな。この『試験内容』は』

 

アリス

 『若菜君にとってはね? 黒糖さん達基準だと戦い続けたらほぼ確実に死亡する相手なんだよ? ソレを雑魚扱い出来るのは君くらいです』

 

ヴェルメリオ

 『それくらいは分かっているさ。……推測の域は出ないが……大方、アホみたいに集めたんだろうなぁ。最低でも10,000人くらいか?』

 

アリス

 『……逆にそんなに『無敵の人』が居たら日本と言う国はもう末期だと思うよ』

 

ヴェルメリオ

 『それで見て見ぬフリして、経済が回るんだから余程、効率的な政策だろーよ』

 

アリス

 『あ、今は渦中だった。若菜君、また後で‼︎』

 

ヴェルメリオ

 『ああ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「若菜君が、黒糖さんを連れて合流地点へ向かっているみたい。私達も急ぎ行きましょう‼︎」

 

 若菜が久里を回収して向かっている旨を皆に簡単に説明する。単独行動中の蜜羽も移動中。待っている必要は無い。

 

「『試験内容』は第1アリーナの方へ向かっているようです。反対側に向かえば自ずと遭遇率は低下するでしょう」

 

「しかし、それでも油断は出来ません」

 

「せやなぁ。ウチの歩行術でも眼前やと無意味やからな……」

 

「駄弁る時間は終わりだ。菟篠、早く行こうぜ」

 

 紫苑にそう言われて移動速度を上げて合流地点に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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