束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた   作:夢現図書館

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貴方は誰も守れないし救えない

 

 

『更識、聞こえるか⁉︎ 現在の状況は』

 

「……言われずとも分かっています、織斑先生」

 

 炎と血潮の臭いが立ち込める中、叫喚が歌う地獄絵図と化したIS学園の敷地内を楯無は歩きながら千冬からの無線に応答する。

 破壊された構造物に傍には犠牲となった生徒や教員の残骸が無造作に転がっている。

 虐殺が終わった後に広がる静けさだけがこの場を支配していた。

 

 単純に殺すのでは無くバラバラに解体してバラまくと言う常軌を逸したかの様な光景を目の当たりにして嗚咽を催しかける。

 

「ただ……第1アリーナの外は地獄が広がっています」

 

 白い断片。IS学園の生徒達が身に纏う制服の断片が散らばっている。その何も多数の血痕が付着しており、持ち主の現実を訴えていた。

 血と臓物が遊歩道全体に無造作に散らばっており、宛ら血と肉の通路と化しており、赤く無い場所が見当たらない。

 

「……初日は1年生のトーナメント戦。故に2年生、3年生は必ずしもアリーナに居るとは限らない」

 

 楯無の視界に映る地獄での犠牲者はその殆どが2年生と3年生だと思われる。散らばったリボンの残骸の辛うじて識別出来た色で判明したからだ。

 

『…………。生存者は?』

 

「……確認した限り、0です。そもそも、両手両足は愚か内蔵すらも抉り出されており、頭部も眼球をくり抜かれ頭蓋骨も砕かれて内部がばら撒かれています。……襲撃者に襲われての生存は絶望的、です」

 

『一体、何が彼らを突き動かしているんだ……‼︎ 並のテロリストとは常軌を逸する程の異常性だ』

 

 1年生は過去に類を見ない程の専用機持ちが多い学年だ。しかし、2年生や3年生は1人居るか居ないかの人数しか居ない。

 幾らIS学園に1年以上、在籍していたとしても今回の異常性極まるテロは経験した事は無い。対応しろと叫ぶのは無理があった。

 

「……テロリストに常識を問い掛ける事はナンセンスでしょう」

 

『……頼みの綱は専用機持ちと8組の連中。ただ、8組の連中とは連絡が付かない。1回戦が終わった後には第1アリーナの観客席から姿を消して居た』

 

 楯無は千冬との通信を聴きながら血溜まりの沼の上を歩く。つまり、第1アリーナには退場をした事を意味している。そのタイミングで今回のテロが重なった。

 

『何処かで遭遇して戦闘を行っているのかも知れん。血の気が多い奴ばかりに見えたからな』

 

「……それでも心配ですね。他のクラスとちょっと違うと言っても、今回のケースに慣れているとは思えません。

 織斑先生、私は此の儘学生寮へと向かいます。今回の襲撃者が学生寮へと向かわないとは限りません」

 

『……分かった。学生寮にも生徒が残っているかも知れん。生徒達の安全を頼む。

 出来ればで構わん、8組の連中に遭遇したら防衛に手を貸せと伝えてくれ。特に篠崎や菟篠は絶対に参加させろ』

 

 第1アリーナの方は1年生の代表候補生や専用機持ちに防衛に当たらせた。シールドバリアや絶対防御故に本人は大丈夫だと思われるが防衛戦を突破されると自衛能力を持たない生徒達が詰め掛けている観客席で殺戮劇が巻き起こる事は必至と言える。

 

「分かりました。もしかしたら8組の生徒達も学生寮に向かっているのかも知れませんからね」

 

 千冬との通信を切って楯無は学生寮前へと辿り着いた時。異様な光景を目の当たりにする。

 

「こ、コレは……⁉︎」

 

 IS学園学生寮前では時期外れの()が訪れて居た。いいや、冬と言う言葉は生温い……永久凍土が眼前に広がって居た。路面は凍結しており、学生寮周辺に植えられた観葉としての高木は枝葉に至るまで霜が纏わりつく凍り付いている。

 

「……何なのよ、コレは……⁉︎」

 

 体感温度が、いいやこの周辺一帯の気温が急速に下がっていくのを感じた。急激に気温が下がった事によりチラホラと雪が降って来ており白く地面や遊歩道脇に設けられたベンチにも積もって行く光景が楯無の目の前に広がって居た。

 

 季節は5月の終盤。月末間近。だと言うのに雪が降ると言う異常光景は流石に目を疑った。

 

「それにコレは……」

 

 永久凍土の雪景色。常軌を逸する光景はそれだけに留まらない。人型の様な氷像が彼方此方に建っている……いいや、違う。それは襲撃者の成れの果てであった。まるで逃げ惑うような姿勢の状態で瞬間冷凍されたかの様に凍り付き、凍死していた。その時、一陣の凍て刺すような風が吹き荒れたかと思うと凍死した氷像がボロボロとなりそして、バラバラとなって崩れて落ちて行った。

 

「こんな沢山の凍死体……。一体、誰が……⁉︎」

 

 冷気を操るIS……少なくともIS学園の専用機持ちにそんな生徒や教員は確認されていない。ならば襲撃者の何れかか?いや、その可能性は低い。

 何故ならばいまやIS業界では悪名高い『ISライセンス制度』により、適性があろうと取得が出来ない以上、ISを機体として搭乗が出来ない状態なのだ。

 

 となれば未登録コア? いや、その可能性は最も低い。今現在、ISコアを製造出来るのは開発者本人である篠ノ之 束以外存在しない。その束本人がISコアの製造を拒否しているからだ。……今も各国政府が粘り強く量産を要求する交渉を続けているが交渉の席に着く見通しは立たない。

 

 自然現象? 断じてあり得ない。こんな事象、東京湾のど真ん中で発生して堪るものか。

 

「…………!」

 

 学生寮正面玄関前。其処には一際、巨大な氷塊が地面から生える水晶の様な形状を伴って氷壁と化して玄関前の広場の左右に聳え立って居た。その氷壁の中には襲撃者達が閉じ込められており、生存しているかどうかは怪しい。

 学生寮の建物の外壁も凍り付いてこそいるが健在な様である。ただ、異様な光景も光景の中で一際、異様な存在が其処に居たからだ。

 

 長い黒髪を靡かせ、皓と蒼の着物をその身に包んだ女性が学生寮を見上げる形で永久凍土に閉ざされた凍て付いた広場の中央に立って居たからだ。

 

 場違い、余りにも場違いな人物。

 だが、楯無はその人物がこの現象を創り出した張本人であると睨んだ。確証はまだ得られては居ないが警戒には値する。襲撃者を屠っている事から敵……では無い事を祈りたいが、第三勢力の線は捨てきれない。

 

「……其処の貴方。この状況を作ったのは貴方かしら?」

 

 背後を向けたまま立ち尽くす女性へ向けて楯無はそう訊ねる。しかし、返答は無かった。気付いていないだけだろうか?

 

「ええ、そうよ」

 

 一拍遅れて、返答があった。聞こえて居ないだけでは無かった。……だが、何故だろうか?凄く(・・)聞き覚え(・・・・)がある声質であった。彼女は其処で身を翻して背後に立って居た楯無へと向き直る。

 

「……ッ」

 

 その顔を見て楯無は思わず目を細めた。いや、考えている余裕は無い。ただ、頭の中で警鐘が鳴らされた事は事実である。

 

「……一応、聞いてあげるけど目的は何かしら? 今、IS学園は未曾有の危機状態なのだけど?」

 

「……この地を貴方が守る価値(・・・・)があるのかしらね」

 

 その女性は冬景色真っ只中だと言うのに扇を取り出し開いてその口元を隠した。

 

「……どう言う意味?」

 

「言葉通りの意味よ。……貴方は誰も守れない。誰も救えない。今も、そしてコレからも……。最強の名を戴いても、それは空論に過ぎなかった」

 

 その女性は扇を一旦閉じてそして開いた。其処には『有名無実』の文字が刻まれていた。そして2度閉じられ開かれた時には『伽藍堂』と言う文字を見せつけられる。

 

「……人を見透かしたかの様な言葉ね」

 

 その所作に腹立たしさを覚えつつ警戒心を強めて行く。目の前の女性はただの人間とは言い難い。

 

「まぁ、良いわ。少なくとも学生寮を氷漬けにしたのは貴方でしょう? 明らかに場違い感が拭えないし、当ててくれと言っているようなモノよ」

 

 学生寮の外壁は凍りついており内部まで侵食して居ないとは限らない。もし、そうだとしたら寮内にいる生徒達の身が危険である。従者の話によれば自身の妹は今も学生寮の寮部屋に引き篭もっている。

 

 楯無は自身の専用機『霧纏の淑女』を即座に展開させる。アーマースカートは水のヴェールに覆われ、循環するかの如く水流が靡いている。そして主武装であるガトリングガン搭載の螺旋槍である蒼流旋の鋒をその女性に向ける。

 

「今すぐにこの状況を解除させなさい。でなければ……少し痛い目を見る事になるわ」

 

「……暗部の長が、この為体(ていたらく)とはね」

 

 楯無の警告に和服の女性は扇を懐に仕舞い嘆息する。その対応が間違っていると言わんばかりの態度である。

 

「……なら力尽くで言う事を聞いて貰うしか無いわね‼︎」

 

 その態度が気に食わなかった楯無は蒼流旋を構えて一気呵成に攻勢に打って出る。対する女性は右手を伸ばす。すると同時に量子変換(・・・・)された冷気が収束されて行き一振りの氷の日本刀が形成された。

 その光景を見た楯無は目の前の女性がこの状況を創り出した張本人であると確信に至った。

 

 

 

 

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