束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた   作:夢現図書館

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 此処まで長くなるとは思わなかった。


絶対天敵……‼︎

 

 

 

 IS学園。東側海岸付近。

 

「……さて、そろそろ生存した娘達が来る頃合いかな?」

 

 IS学園島への出入りは基本的に東京都と繋ぐモノレール線1本のみ。海岸線とは言うがコンクリートで舗装されてはいるが、寄港する港も存在しないで埠頭とは言い難い。

 その海岸線の一角にて、天瓦 伽羅が8組の面々の到着を待っていた。その後ろには近未来的なフィルムを持つ航宙艦『上泉』が海上に浮かんでいた。

 コレはいざと言う時に束がIS学園の付近の海底に潜水させていたのである。見た目はカクカクした潜水艦に見えなくも無い。

 

「……全く、織斑は余計な真似をしてくれたわね。これじゃあ、折角組み立てた『定期考査』が台無しじゃない」

 

 伽羅の基準で参加資格の剥奪ならば兎も角、全く想定外の理由で不参加者は出したくは無かった。故に長い期間を擁して企画した『定期考査』を破棄せざるを得なかった。……その代わり『八つ当たり』としてIS学園の関係者全員にぶつける大人気ない真似を敢行した訳なのだが。

 

「……来たわね」

 

 物音が聞こえた。視界を其方の方へと向けると身に纏っているメイド服を翻して此方へ向かってくる光景が見えた。

 

「あ、伽羅先生‼︎」

 

「皆、お疲れ様。……予定していた『定期考査』にならずごめんなさいね」

 

 無事に目的地に到達した8組の生徒達を見渡しながら労わる伽羅。

 

「いえ……充分、その威圧は感じましたので」

 

「そう? 折角用意したのに、十全に発揮出来なかったのは残念で仕方ないわ。また別の機会に試験の機会を設けましょうか……。ちゃんと、貴方達の成績を付けなきゃ行けないのだから」

 

「……あのセレスティェリアさん?アレは……?」

 

 燐芽が伽羅の背後に接岸している物体を見てフィウにそう訊ねる。

 

「束博士が建造した潜水可能な艦です。広義的に言えば潜水艦と考えて問題ありません。

 陸路が封鎖された状況では海上で脱出する他にありません」

 

 フィウは簡潔にそう説明した。コレがフィウが出した脱出案であった。いざと言う時に脱出手段を用意しておくのは当然であるからだ。

 

「此処に到達するまで隠していたのかしら? 流石ね、フィウ」

 

 フィウは情報漏洩のリスクを考慮して開示せずに誘導したようだ。その所作に伽羅は感心した。だが『赫絲』まで使ったのに本来の予定が履行されなかった事実に伽羅は残念でならなかった。

 そう嘆息した瞬間、伽羅の視界の死角にて海岸線近くの林地帯に生えていた木が豪快に圧し折られる形で吹っ飛ばされる光景が生徒達の面々の視界に映り込んで来た。

 

「おー、タイミングバッチリだったようだな‼︎」

 

「し、篠崎さん。色んな意味で無茶苦茶っスよ……‼︎」

 

 進路上に生えていた木を蹴り飛ばして強引に踏破した若菜と若菜に抱えられていた久里が、合流地点に到着した。

 

「……若菜。貴方達で最後ね?」

 

 それは暗に逸れた者は生存していないと言う判断に基づく発言であった。実際に現在のIS学園は地獄と言って差し支えない環境と化している。

 孤立してしまえば8組の生徒と言えど生存は絶望的である。伽羅から見れば訓練を積んでいるとは言え、まだまだ『ほんの少し』しか見込みが無いのだから。

 

「ええ、シノア達と同道していないのであれば……既に屍になっているかと」

 

 伽羅の発言に若菜はそう返した。それ以外の可能性は万が一にもあり得ない。あり得たのならば……きっと、必要(・・)無い人間である。

 

「ダァァァイブ‼︎」

 

 その時、甲高い叫び声と共に上空から何かが落下して来た。勢いを殺し切れずアスファルトの地面にぶつかり其の儘、2、3回跳ねてから漸く止まった。最初に地面にぶつかった衝撃で何かしらの機械のパーツが派手に吹き飛び、次で細かい部品が飛び散り3回目で殆どが残骸となって周囲に散乱した。

 

「……あー痛たたた……。やっぱ試験運用抜きでやるのは失敗ったなぁ〜。でもでも、バッチリ到着したから万事オッケー♡」

 

 地面に転がった後、何事もなく起き上がった明るい茶髪を靡かせた少女。言うまでも無く彼女もメイド服をその身に包んでおり、彼女の場合は黒い箇所が多めでありフリルの箇所が申し訳なさ程度に白色と言う配色であり、スカートの前側が短く後側が長いと言う構造になっていた。

 

「失礼。水流 蜜羽(かのじょ)が最後のようです」

 

「え?何々? 私が最後に到着したのぉ⁉︎ ビリじゃん‼︎」

 

「……別に競争していた訳じゃないですよ?」

 

「えーーー?どうせなら、1番が良かったぁ‼︎」

 

 若菜がジト目を向けながらその空から落下して来た少女、水流 蜜羽。彼女の到着を持って生存している8組が全員、この場に出揃った。

 伽羅は改めて生存している8組の面々を見渡す。総勢20名。他のクラスと比較して大きく数を減らした。だが、他のクラスよりも生存本能及び覚悟は雲泥の差と言えるだろう。

 

「……良いわ。想定の『定期考査』とは大きく逸脱……いいえ、10分の1にも満たない考査擬きに過ぎない『状況』だったけど、無事に生き残った貴方達は合格と見做すわ」

 

 伽羅本人としては不満でしかないメチャクチャな試験環境であったのだが最低限(・・・)の結果は出た。現に3人の死者が出た事も確認済み。今回の状況はある意味では自身の落ち度でもある為に生存した者達に合格を言い渡した。

 

「束博士、乗艦の許可を」

 

『はいはーい。これ以上、IS学園に留まると此処もアブナイからね〜。ささ、皆カモ〜ン』

 

 上泉の外部装甲壁の一部が凹み競り上がり搭乗口が現れてスロープが迫り出されて舗装されたアスファルトの上に掛けられる。

 

「さぁ、皆。乗り込みなさい。此処は間も無く安全では無くなるわ。話はそれからにしましょうか。その前に……黒糖さんが管轄外(・・・)で負傷しているから、医務室で行いましょう」

 

 伽羅が先導する形でスロープを渡り、その後に8組の面々がスロープを伝い『上泉』へと乗艦する。全員が乗艦した事を確認した後、搭乗口が閉じられて『上泉』が潜水を開始した。

 

 

 

 

 

 『上泉』はIS学園に通う若菜達や自分達の状況が悪化した場合、束及びその子供達、伽羅達を乗せて速やかに地球及び太陽系外へと脱出する為に用意した航宙艦。

 他にも地球上では公表出来ない技術や資源、設備も搭載されており、他にも航宙艦内でも生活出来る設備も一通り備わっている。

 

「今回の『定期考査』で確認したかったのは貴方達の『生存本能』。恐怖、狂気、狂乱の中で自分達の意志を強く保ち冷静に戦況を『観察』して判断出来るか」

 

 『上泉』艦内にある医務室。

 医務室と呼ぶには少々、広めの空間であり病床も多めに設けられている。その内の1つの医務ベッドに病衣に着替えさせた久里が寝かせられて包帯やガーゼで治療して寝かせられていた。

 久里は安静にする必要がある為、全員を医務室に集めて其処で『定期考査』でチェックする内容を改めて説明する事にした。

 

「確かに貴方達に戦闘技術を教えた。でも、常に戦い続けろとは言わない。時には退き、逃げる事も選択肢として選択する機会は訪れるでしょう。

 でも調子に乗って粋がった者から死んでいく事になるでしょう」

 

 8組の場合は、紫苑や永世が特にその傾向が強いと言える。この2人は戦闘意欲、好戦的な性格と言える。

 正直に言えば本来の想定ではこの2人は死亡していただろう。

 

「当然、進退に窮した場合は活路を開く目的で無謀な戦いに挑む必要もある。

 けど……目の前(・・・)の敵を倒して終わりとは限らない。

 継戦、連戦になる場合もある。携行品の残数、貴方達自身の体力、精神力も考慮しなければならはい。状況を把握して何処で戦い、何処で回避するか……最善の『答え』を選択しなければならないわ」

 

 自分達に求められるのは『試合』では無い。宇宙空間と言う未知が蔓延る環境での『活動』である。故に重要なのは——。

 

「『観察眼』。貴方達が養うべき教養の1つよ。武器を振り回すだけならば1組の生徒でも出来るわ」

 

 宇宙での活動する為のIS操縦技術、緊急時に対応する為の戦闘技能、狂気や恐怖に抗える自制心。そして様々な状況を洞察し観察する力。

 その4番目の能力を測るのが今回の『定期考査』の目的だった。

 

「……伽羅さん。実際、何人程嗾けるつもりだったのですか?」

 

 伽羅の話が終わった事を区切りにシノアがそう質問する。若菜の推察では10,000人程と仮定していた。この時点でかなり多い。

 

「そうね……。計算した所、66,600人くらいかしら?」

 

「……流石に捌き切れる数じゃねぇな。確実に俺らの方が先にスタミナ切れになる」

 

 伽羅が『赫絲』で仕組んだ『試験内容』の人数は常軌を逸していた。もはや本気の『戦争』と言う言葉以外、口に出来ない。

 少人数で大軍を去なす場合は『精神』を振るわせる事が出来なければ勝ち目は無い。

 そして『精神』を破壊され克己した相手にはその行為すら無意味と化し、絶望的な戦いを強いられる事になる。

 

「……確かに私達だけじゃ相手し切れる数ではありませんね。逃げるのが正解でしょう」

 

 流石の紫苑も永世も『無謀である』と判断したようだ。

 

「……ふふ。理解する事は成長の証よ。それを実際に分からせる事が出来なかったのは残念ね」

 

 衝撃と苦痛が伴うからこそ、より深く理解出来る。ただ、理解した事自体に変わりは無かった。

 

「…………」

 

『……おい我が息子』

 

 ええ。伽羅さんがこの程度(・・・・)で終わらせる筈が無いだろうが、口には出すまい。

 

『そうだな。ならば、あのおチビ姫を同伴させた理由が無いからな。大方、去年の冬休みの工作を襲撃させる算段だったのかもな』

 

 そんな多少、和んだ空気を引き裂く様に医務室……いや、『上泉』全体を震わせる振動が発生した。

 

「「「⁉︎」」」

 

「母上、何事です⁉︎ 降下し過ぎて海底に激突したとか、しょーもないポカは無しですよ⁉︎」

 

 衝撃が伝わった所で、若菜はすぐに艦橋に居る束へと公開通信を試みる。公開通信なので医務室に居る全員に伝わる形式である。

 

『この束さんが自分からそんなアホな真似はしないよ‼︎ 『上泉』の甲板に絶対天敵(・・・・)が接着したんだよ‼︎ この束さんも把握していないしかも新種だ‼︎』

 

「何ですと⁉︎」

 

「本当ですかっ⁉︎」

 

「新種、ですか……‼︎」

 

「…………チッ。相変わらずご都合主義な連中ね」

 

 絶対天敵の意味を知っている、若菜とシノア、フィウ、伽羅が其々、反応を示す。

 

『『上泉』はコレより緊急浮上‼︎ 悪いけど、『上泉』に乗り込んできた絶対天敵を排除して‼︎』

 

 束からその通信が告げられる。放置する訳には行かない。かと言って水中での戦闘は二次被害が発生する恐れがある(航宙艦なので、海中でも出撃は可能だが、必然的に若菜達は完全展開。そして、若菜達の機体は広域殲滅思考なので『上泉』も無事では済まない)。

 

「おい、天瓦先生。何が起きたって言うんだ? その絶対天敵ってのは何だ?」

 

「……以前、貴方達に若菜が宇宙での敵対勢力との遭遇の話をしたと思うけど、その一端(・・)であり、私達と最も衝突が多い敵対勢力。

 そして、貴方達が宇宙へと繰り出せば何れは戦闘を繰り広げるであろう存在よ」

 

 伽羅は簡潔にそう説明した。若菜達を除く8組の生徒達はいずれは宇宙へと旅立つ事になる。そして、敵対するであろう『絶対天敵』と遭遇する事になるだろう。

 

「ただ、私達の状況(・・)を説明するにはまだ早過ぎるから伏せていたんだけど……」

 

 何れは目の前に現れる。『絶対天敵』の存在が8組の前に現れた以上、隠すのも野暮だろうか。

 

「……『絶対天敵』。それが何れ私達が対峙しなければならない存在なんですね?」

 

「正確には『絶対天敵』だけとは限らない。それ以外にも敵対勢力が現れるでしょうね。予期せぬ形ではあるけれど、この状況が解決したら改めて私達の立場を説明しましょう」

 

「……立場、なぁ。天瓦先生もそうやけど、篠崎はんも結構、隠しとるでなぁ」

 

『間も無く海面に浮上するよ‼︎ わーくん、戦闘準備は出来てる⁉︎』

 

「……部分展開に留めるしか無いですね。完全展開すると甲板ぶち抜いて轟沈させちまうな」

 

『わーくんって本当に極所戦闘に向いてないよね⁉︎』

 

 まもなく海面に浮上する。浮上した瞬間に戦闘開始となる想定だ。

 

「篠崎さん、私達も同行します。『絶対天敵』……何れは私達も戦わねばならぬ相手……。微力ながら力添えします。非力との判断であれば切り捨てて構いません」

 

「なら、予行と言うにゃアレだが……少しは予習は必要だよな?」

 

「にっしし。『絶対天敵』だか何だか分からないけど、事前『観察』は必要っしょ? それに試作品を試すには丁度良い的じゃん」

 

「時には逃げる時が必要と言いますが……逃げてばかりでは居られないでしょう」

 

 永世、紫苑、蜜羽、燐芽の4名がいの一番に同行を申し出た。怖いもの見たさでは無い……『未来』と対峙する覚悟を伴っている眸であった。

 

「良いでしょう。若菜を含む5名に『絶対天敵』の対処を命令するわ。貴方達のコレまでの訓練成果、見せて貰うわ」

 

 4名の名乗りに伽羅は止めずに背中を押した。若菜の『兇星』から生き残り、今回の件も生き残った。時期尚早な気もするが……次のステップへ移っても良いだろう。

 

「そして、負傷や継続困難と判断したら速やかに撤退、離脱しなさい。もし、判断に困ったら自分を優先する事、良いわね?」

 

『大丈夫っ‼︎ 本当に危なくなったら、随意召喚で強制撤退させるから♪ あ、シノアちゃんはお姉ちゃんを手伝って欲しいかな♪』

 

『しゃあねぇ。活きの良いモルモットを一山幾らの肉団子にされちゃあ損だ。私も手伝ってやるよ。フィウ、手伝ってくれや』

 

 その時、割り込み回線で姫舞や何故かDr.レーキュが通信に参加してきた。2人も乗艦していたらしい。恐らくケーニヒスベルクも居るだろう。この2人のバックアップが受けられるのならば生身の8組の面々でもやりようはあるだろう。

 

「……若菜は兎も角、貴方達が今、装備している銃火器の弾種は通常の弾だった筈」

 

 OVTシステムの時は『特殊な弾』を支給した……が、アレは特殊である為、平時では使用されない上に高価な弾である。

 

『安心しろ。其処の点は私らに任せろや』

 

「……良し。4人とも、準備は良いな?」

 

「はい」「おう」「うん」「はい」

 

「シノアとフィウは姫舞とレーキュの援護しなさい」

 

「「はい」」

 

「他の者は負傷している黒糖さんの補助をお願いするわ。大人数で挑んでも若菜の邪魔になるし巻き込まれるから4人が最大数よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『上泉』が海面付近へ水飛沫を上げながら浮上する。そのタイミングで上部出入り口から若菜達が甲板に乗り上げた『絶対天敵』を排除するべく出撃した。

 

「……アレが、絶対天敵……‼︎」

 

「何と言うか不気味ですね……‼︎」

 

 それは魚類の様にも見えた。それ(・・)の頭があるべき場所は綺麗な断面図を伴って失われていた。断面図から小さな血煙が噴き出しているのが見える。

 首が存在しないにも関わらずまるで支障を感じさせないかのように動いていた。巨大な手を有した魚の様な背鰭と尾を持った姿をしている。

 そして胸元から腹部に掛けて真っ赤な液体を溜め込んだ嚢胞(のうほう)らしき部位が確認出来た。

 

「差し詰め断首された魚。断首魚だな」

 

『ネーミングセンスが安直過ぎないか?』

 

 やかましい。と言うか……新種と言うからには初めて見るタイプの絶対天敵だな。……個人的にはあの嚢胞が気になるな……。動きに支障がありそうな部位を構築する必要があったのか……?

 

「総員、絶対天敵(ヤツ)の動きに注意しろよ」

 

 若菜は『断首魚』と命名した絶対天敵に対して『宵咲』を抜き、4人にそう指示を出し、自身が先制攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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