束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた 作:夢現図書館
IS学園島。今や生きる事を諦めた者達の楽園と化したこの島。跋扈するのは無敵化し目的を見失った人間の成れの果てと、骸と化した死骸が積み重なる地上の赫い地獄が広がっている。
その片隅に位置している学生寮付近は季節外れの氷河期が訪れていた。
「……暗部は暗部らしく表舞台に出なければ良かったのにね」
■■■は眼前に見える全身が氷塊に覆われて凍り付き物言わぬ氷像と化した更識 楯無を見つつ手に持っていた扇を閉じた。
『守護』する者は評判も名誉も栄光も評価される事は無いのだ。彼女はその事実を痛い程に知っていた。目の前の楯無の姿を見てふと物思いに耽る。
自分が目の前の
その答えは見つかる事は無い。何かを得るには何かを犠牲にしなければならないのだ。
自分は間違い続けたのだろうか? かつて閣下にそう質問をした時がある。
『人生には無数の選択肢がある。しかし、真の正解と呼ばれる存在は見つかる事は無い』
『なら、全てが間違いだと?』
『選択した後に自分が信じる正解にしていくのさ。例えそれが……地獄絵図を齎す事であろうとも。
選択すれば敵も味方も生まれる。それが出来ない者は歩く事さえ出来なくなる。立ち止まり続け……軈て、何も出来ず朽ちるのだ。
歩き続けたまえ、人として扱われたいのならば、道半ばとなろうとその身が朽ちるまで』
間違い続けた。しかし用意された正解など、この世を何処を探しても見つかりはしない。
誰も彼もが目に見えて分かる『正解』を求めたがる。それはまるでテストの答案用紙の定められた解答へ向けて歩いているだけだ。
「……」
感傷に思わず耽ていた時、視線を感じた。後ろを振り返ると凍り付いた学生寮の正面玄関の扉の陰に隠れて外の様子を窺っている見覚えのある顔の少女、更識 簪が其処にいた。
彼女の視界には自分と氷塊に閉ざされた自身の姉の姿が映っている事だろう。
簪の吐く息が白い。眦には涙の痕が見える。仕方のない事だ、酷い内容を突き付けたのだ。彼女の様な内気な性格な者であれば耐え切れないのは重々承知である。
「…………貴方が……したの?」
「ええ。そうよ」
■■■は肯定する。疑いのようの無い現実だ。彼女がこの場に現れるのは予想の範囲内だった。
「……死んではいないわ。ゆっくり解凍すれば息を吹き返すでしょう」
「…………。貴方は……何者なんですか? 何故、こんな事をするのですか?」
簪は扉から離れそう質問をした。何者……か。■■■は心に思った事を言う事にした。それでも彼女の顔を見ながら言うには憚れ、顔を逸らしつつ答えた。
初対面の時は毅然としていたのに、今は何かを恐れているような態度であった。
「……強いて言えば、
「……八つ当たり……?」
「ええ。貴方の姉は
自己嫌悪、言葉にするならばそうなるかも知れない。当事者からすれば堪ったものでは無かろうが。
「…………理解出来ない」
「そうでしょうね。私のエゴみたいなモノだから……。私を怨むかしら?」
■■■は扇を開いて簪に見せる。其処には『仇討ち』の文字が達筆な字で書かれていた。
「………………。ううん、もうどうでも良いから。私は……無能だから」
姉と比べられ、代表候補生としての価値も存在しない。IS学園の授業も殆ど出ていない。
今の自分は伽藍堂だ。何もかも失っている……更識家としても専用機の無い代表候補生としての価値は無い。姉が存在するのならば自分など不要だ。
「総じて全ては無価値である。故に価値がある」
「え?」
■■■は簪にその言葉を送った。
それは閣下からの受け売りに過ぎないが、成程と思わせる言葉でもあった。『価値』と言うのは相対的な評価に過ぎない言葉だからだ。叡智を得た事で価値の概念を見出した……しかしながら、元来の全てに価値など存在しなかった。
確かに■■■は『更識 簪』は無能だと評価した。それはあくまで『IS操縦者、日本代表候補生の更識 簪』としての評価である。
「……貴方……コレからどうするつもり?」
「え……?」
■■■に問われ簪は顔をあげる。対する■■■も逸らしていた顔を向き直っていた。扇は相変わらず開いたままで口元を隠しているが。
「……IS学園は授業に出席しない者を在籍させる程、寛容では無い筈よ。此の儘、放逐されるでしょう。実家に戻っても居心地が悪いのでは?
かと言って他の学校に通うとしても、納付金の有無に加えてIS学園出身、代表候補生の肩書が重い足枷となるでしょうね」
「…………」
■■■に淡々と選択肢を潰される。実際問題、言葉の通りであり簪は言い返す事が出来ない。
八方塞がりとは正にこの事である。
しかしながら■■■は此の儘、見捨てるつもりは無かった。いいや、憚れた。彼女の現状はあくまで結果的にそうなったのだが、かなり弱いが間接的に無関係とは言い難い。少しは責任を感じている。
だが、強制するつもりも無い。あくまで彼女の『選択』に委ねる提案を出した。
「もし……仮にも自分の記憶と名前を抹消して、新たな人生を始める事が出来ると言われたら……如何する?」
「……新たな人生? 生まれ変わると言う意味……?」
「広義的に言えばその認識で良いわ。記憶の大部分を抹消して全くの別人へと生まれ変わる。
貴方の姉の影に怯える事も無くなるわ。貴方の人生に『更識 楯無』と言う配役は必要ないのだから」
「…………。本当に可能なんですか?」
その言葉に簪は興味を持った。……本当にそれが可能ならば……この鬱屈した自分が、喪われるのならば……過去の自分を『犠牲』に出来るのならば……‼︎
「ええ。貴方の現状を作った要因……理由としてはかなり弱くなるのだけど、間接的に作ってしまった。アフターフォローは必要だと判断したのよ」
本当は、自分を慰めたいだけだ。何とも醜いエゴだろうか‼︎
自分の目に写した
「貴方の要望に可能な限り応えるわ。貴方がある程度の自立出来る状態になるまで衣食住の保証もする事を約束するわ。費用に関しては心配は不要よ。私のポケットマネーから捻出するから」
どうせ、殆ど使っていない。我ながら欲が少ないのだと思う。
「……何故、其処までしてくれるんですか?」
今日会ったばかりの相手に其処までする理由は無い。この世には冷たい現実と優しいウソしか存在しない。優しい現実は幻想に過ぎない。
「私のエゴよ……。見るも堪えない無惨で醜いエゴよ」
■■■はそう自嘲する。
「勿論、コレは貴方の人生を左右する重大な『選択』。私は強制はしないし、貴方の判断に委ねるわ。貴方自身の人生……どんな選択を選んだとしてもそれは尊重されて然るべき」
「やります」
■■■の言葉を遮って簪は即断した。少しは悩むかと考えたがそうはならなかったらしい。
「……分かったわ。貴方の選択を尊重しましょう……。ただ……きっと貴方の想像を絶する光景を目の当たりにする事になるわ」
「想像を超える……?」
「単純明快に説明すると、私は異星人。今はそう受け止めてちょうだい。厳密にはもう少し複雑だけどね」
「…………」
そう言われて簪はボンヤリと聞き流した。記憶が消えるのだから、その後の事はきっと『常識』や『日常』になると考えて特に驚きはしなかった。
「後、無能だの惨めだの言ってごめんなさいね。許して欲しいとは言わない」
「いえ……事実だったので」
■■■は形なりにも簪に謝罪した。酷い暴言を次々と投げ付けたのも事実。簪も現状、そう受け止められても仕方ないと暗い納得をしていた。
「…………。自己紹介がかなり遅れたわね。貴方にとって聞きたくないでしょうけど……改めて名乗らせて貰うわ」
「カタナ。カタナ・サラシキ」